本部

とある孤児院の日常

アトリエL

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~15人
英雄
7人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/18 18:37

掲示板

オープニング

●説教
 始めに誰が教会を建てるのか? そうです。主は言われました、主ご自身であると。
 主はどう言う方でしょうか? 父・御子・聖霊、三位一体の子なる神です。ですから主が教会を建てると言われるなら、必ず建つのです。それは確実に建てられるのです。どんなに世が神様に叛き、教会を迫害したとしても、世は教会を滅ぼしてしまうことは出来ません。
 言い換えると、主以外の誰も教会を建てることは出来ないと言う事です。
 ともすると私達は人間が建てるかのように思いがちです。特別なリーダーや力ある人が建てるかのように思いがちです。確かにそう言う人は必要です。主はその人達を用いられます。しかし、そう言う人達が教会を建てるのではありません。

●とある孤児院
「というわけで、主の御心によって私達はこうして導かれ、出会ったとも言えます。皆さん、主に感謝の祈りを……」
 ミカエル(az0012hero001)の言葉に従って、説教を聴いていた人々が頭を垂れる。
「……いつも思うんだけど、なんでゴシップ雑誌しか持ってないのにすらすらとお説教できるのかな?」
 そんな姿を横目に文屋七生 (az0012)は誰に言うでもなく呟いた。確かミカエルが持ってる雑誌に載ってた記事は大物演歌歌手の隠し子の話だったような気がする。それからどこをどう膨らませたらあんな話になるのか、いっそミカエルを記者に育て上げた方が面白い記事が書けるんじゃないかと思いながら七生は周囲を見回す。
 ここは小さな孤児院だ。教会に隣接することもあって、ミカエルと共に何度か訪れたことがある。七生がここにくる理由は実は特にない。
 教会の信者でもないし、孤児でもない七生には本来無縁の場所だ。しかし、それでも一度来てからは二度目に来る理由には困っていなかった。
「あ、お姉ちゃんだ。今日も面白い話聞かせてよ~」
 気まぐれに語った記事にするには色々と足りないところがあったネタを子供達に話したところ、何故か好評で以来そうした話をするために七生はここにきていた。
「どんな話がいいのかな?」
「えっとね。従魔とか愚神のお話とかがいいな。お姉ちゃん達がお父さん達の敵を討ってくれてるんだよね?」
 そう語る子供達の大半は従魔や愚神の被害によって親とはぐれたり、目の前で殺されるなどして心に傷を負っている。
 ここはHOPEの関連施設でもあり、そうした被害にあった孤児達を養っている施設でもあった。

解説

 とある孤児院での日常風景です。
 リンカー達の様々な経験は子供達にとっては憧れのヒーロー達の物語や御伽噺のようなもののようです。
 皆さんのこれまでの経験を語ったり、自分達の凄さを誇張したアピールをしたりして子供達の相手をしてください。
 子供達の憧れであることが子供達の心の傷を癒す手伝いになります。
 子供達の中にはトラウマが拭いきれていない子達もいます。そうした子供達のフォローもしてあげるとよいでしょう。

リプレイ

●目的は?
「ここは非公認ゆるキャラの白虎ちゃん本領発揮だぜー!!」
「俺はゆるキャラでは……いや今回に限りは……うぬぬ……」
 そう公言する虎噛 千颯(aa0123)に白虎丸(aa0123hero001)は抗うべきか苦悶していた。その手には大量の駄菓子。ゆるキャラ白虎丸の宣伝費のようなものだ。これで子供達の胃袋と心をゲットして計画はより高みへと至るのであろう。
「いいか、将来ある子供達に、将来に向けて歩んでもらうのが目的だぜ」
「わかってるのじゃ。いいとこ見せればいいんじゃぞ」
 カトレヤ シェーン(aa0218)に王 紅花(aa0218hero001)はそう答える。内心で抱く目的は別だったが。
「必要なものは……。割り箸と輪ゴム……だったか……。後は厚紙、か」
「話してる時に摘まめるお菓子とか飲み物とかあったらいいなぁ」
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が子供達のために、身近なもので手作りおもちゃを用意する横で木霊・C・リュカ(aa0068)は厚紙の皿やコップなどに乗せたり入れたりするものを確認する。
「リュカが食べてどうすんだよ。子供達のために持っていくんだろうが」
「子供……?? あー、いや、なんでもないよ!! みんなとも会えるし、楽しみだねー!!」
「……この野郎。何が言いたいか察しがついたけど、黙っておいてやるよ」
 オリヴィエは本気で首を傾げたリュカを可哀想な子を見る視線で貫きながら呟いた。
「お前さんは最近あんまり同世代と遊ぶ機会がなかったんじゃねぇか? 良い機会だ、頑張ってこいよ」
「……もちろんなのです! これだってちゃんとお仕事なのですから!」
 ガルー・A・A(aa0076hero001)にそう答える紫 征四郎(aa0076)は遠足前の小学生のようにわくわくと目を輝かせていた。
(……仕事か。征四郎も本当なら学校に通って友人と遊んでる年だよな)
(兄様達、元気でやってるかな? 征四郎は大丈夫ですよ)
 ガルーと征四郎は各々そんなことを考え、沈黙。
「っと! しんみりしててもしょうがねぇな!! 準備しねぇと」
「そうですね!! そろそろ時間ですよ!! 出発しましょう!!」
 我に返ったガルーの声に征四郎が反応し、2人の時間は動き出した。
「チェコにいた時はこの季節になると教会へ奉仕活動に行ったものです」
「そうなの? 楽しそうね」
 過去を語るエステル バルヴィノヴァ(aa1165)に泥眼(aa1165hero001)はそう答える。
「付属の孤児院に慰問に行った事もあります。あの時は日本の折り紙を勉強して教えました。大人気でしたよ」
「折り紙……ああ、色紙で色々な形を作る遊びね」
「そうね。あの時習った折り紙を子供たちに教えましょう。それにちょっと手を加えて……」
「私は細かいことは苦手だからなぁ……うーん……私はどうしようかしら」
 創作折り紙を作り始めたエステルを横目に泥眼は何をするかを思案する。
「如何して孤児院など訪問する気になったのだ?」
「子供たちに怪しげな話を吹き込む愚神が……」
「そんな話では無いな」
「……違いましたか? ……確かに。なぜ俺はこんな間違いを……」
 テミス(aa0866hero001)はそんな勘違いをする石井 菊次郎(aa0866)に突っ込みを入れる。
「人任にするからであろう。何やら数日部屋に籠って怪しげな匂いをさせていた様だが」
「う……仕方有りません。子供達と特製のアップルパイを作りながらお話でもしましょう」
「真逆それにアレを使う気では無かろうな?」
「アレは貴重品です。隠し味に使う程度です。そもそもシナモンが有りません。然し少量でもぐっと味と香りに深みを付けるでしょう」
「やはり使うのか……」
「食育は重要です。小さなうちから本物の味を味わう事によって栄養の偏りを防ぎ健康を保つ食習慣を身に付けるのです」
「言っている事は最もらしいがアレが本物の味なので有ろうか?」
 テミスはそう言って菊次郎からアレを奪い取る。これは子供達に食べさせて問題がないかどうかわからない代物だ。こっそり入れ替えておくくらいのことはしておいた方がいいかも知れない。
「……あら、お菓子を焼くのね。手伝いましょう」
 そんな二人の荷物を見て、泥眼は自分のやることを決めた。
「この依頼を聞いたとき、ほおっておけない。なんだかそう感じたのです」
(……セレティアも孤児だからな。自分と同じ境遇の子供をほおってはおけない……か)
 そう語るセレティア・ピグマリオン(aa1695)をバルトロメイ(aa1695hero001)はそんな心境で見守っていた。
「現実を直視しては心が壊れてしまう子もいるはず。わたしがそうなのですから」
「もう起こった事は変えられねぇ。大事なのは繰り返さない事と、同じ事が起こった時少しでもマシな結果を得られるために動く事だ」
「わたしは子供達の心の支えになれるかわかりませんが……少しぐらいなら傷を癒せるかもしれません」
「小さな子供には残酷かもしれないが、今のうちに現実を伝えておくのも重要なのかもな……」
 能力者と英雄の抱える闇は深い。セレティアとバルトロメイはそれが少しでも子供達の力になれればと願っていた。
「といっても具体的には何をすればいいんじゃろか?」
「そうだなぁ。今までの俺たちの活躍の話をしてやれば英雄になりたい!! って思ってくれるんじゃないか?」
「なるほどのぅ。それじゃあ我らの活躍を話してやるとしようぞ」
「まぁ物語には多少尾ひれはつくもんだ。好きに話してもらって構わないぜ」
「とはいっても我らが苦戦したことなんてなかったはずよのぅ? 子供たちも大喜びのはずじゃ!」
 かなり盛って、という紅花の籠めた意図に気付き、カトレヤはゴーサインを出す。箍の外れた英雄は自信満々に孤児院へと歩き出した。
「えっと、確かこの辺で良かったと思うんだけど……あれれ? 道に迷ったみたいだぞ?」
 一行が通り過ぎた後、ティナ(aa1928)は右往左往していた。
「おーい!! そこの男の子!! この辺に孤児院があるらしいんだけど、知らないか!?」
 運良く、それは孤児院に住んでいる男の子だった。しかし、孤児院の場所を聞く自分と同世代の子供のことを彼は孤児院に住むことになる自分の後輩だと勘違いしていた。
「遊びにきたんじゃないんだ!! ティナはここに仕事にきたんだぞ!!」
 ともあれ、こうして全員が孤児院に向かったのであった。

●それぞれの扱い
「エージェント? こんなおチビちゃんが? お前、女なのにそう言うごっこ遊びが好きなのか? 判った! そっちの仲間に入れてやるよ」
「征四郎はチビじゃないのですよ! 小さいけどれでぃーで、ちゃんとエージェントなのです。従魔や愚神と前線で戦っているのです!」
 幼年組を纏めている小学4年の男の子が征四郎の頭を撫でた。その横には連れてこられたティナの姿もある。
「えーと。もしかして、帰国子女とか? 実は高校生で生徒役員。英語・イタリア語・スペイン語・フランス語を話せて、10桁の暗算は朝飯前って奴か?」
「何のことだか判らないです! それより勝手に人の髪型ツインテールにしようとしないで欲しいのです!」
 何か別の誰かと勘違いしているような扱いに征四郎は声を荒げた。
「う~! うぅ~! その顔……。信じてないのですね!? ガルー! ガルー!! こっち来て」
「そんなとこでなにやってんだ? お前さんもこっちでお話ししようぜ?」
 年上の子供達に弄られる征四郎。孤軍奮闘の彼女は、周りからの文字通り上から目線に耐えかねて、ガルーを呼んだ。
「至急共鳴おねがいするのです!」
「お、おい!! いきなり何すんだよ!! 共鳴って……。うぉぉ!!」
「おおぅ~!」
 形振り構わない征四郎にガルーは心の準備も出来ぬまま半ば強制的に共鳴すれば、子供達から嘆息の声がもれる。
「ほーらごらんなさい! 征四郎はチビじゃないのです!」
「共鳴の無駄遣いするんじゃねえよ!! さっさと戻るぞ!!」
 胸を張って見下ろす立場に変わった征四郎にガルーは呆れて共鳴解除した。
「いろんな敵と戦ったけど……。怖くはないですよ。届かないことは多いですけど。少しでも沢山の人の、明日を守りたいから」
 征四郎の歯がキランと光った。どうやら最低限のプライドは守られたらしい。その後付けられた呼び名はともかくとして。
「急に真面目な顔になってまぁ……。オリヴィエ。頼まれてたモノ、出来たぞ。これでいいか?」
「リュカちゃんもガルーちゃんも来たんだー! 一緒に子供達楽しませようぜー!」
「あっちーちゃんおっひさー、ふふ、楽しんでもらえたら嬉しいね! ガルーちゃんもそうしてると何だか本当にお父さんみたいだねぇ。ふふ」
 そんなガルーと千颯にリュカはにっこりと笑顔で応じる。
「オリヴィエ殿と紫殿は駄菓子を食べるでござるか? 皆で食べようと持ってきたでござるよ」
 駄菓子の箱を抱えた白虎丸の登場。すでにその身体にはクリスマスツリーよろしく子供達がもふもふを堪能すべく張り付いていた。
「……いや、すまない。俺は遠慮する、ありがとう白虎丸。その分他の奴に大目に分けてくれ」
 オリヴィエが遠慮すると張り付いていた子供達が我先にと駄菓子に殺到する。
「そうだね。僕は君たちに今まで相手した従魔達のお話をしてあげるよ。怖い話もあるから、今のうちトイレに行っておいてねー」
 リュカは憧れの目で見る子供達に呼び掛ける。紙芝居のお兄さんのようだ。
「お、さっそく子供達の視線が白虎ちゃんに集まってきたぞ!! 今日はゆるキャラの白虎ちゃんが来てくれたんだぜー! テレビとかにも出たことあるけどみんな知ってるかなー? みんな今日は存分に白虎ちゃんをモフモフしていいからね!」
「が……ガオー……白虎丸でござる…… 千颯はずるいでござるな……こういう事をされては俺が断れないのを知っているのだろう」
 千颯と白虎丸の周りにも子供達。
 それぞれの催しに分かれて子供達の輪が作られ始めていた。

●鬼ごっこ
「オリヴィエ! 鬼ごっこでしょーぶなのです! 逃げ足には自信があるのですよ!!」
「いいぜ、鬼ごっこといってもただの遊びじゃないぞ。これは逃げ足を強化する訓練でもあるんだ」
 子供達の中から進み出た征四郎が、人差し指を立てる。その指に集まる子供達を前にオリヴィエは真剣な目付きで応じた。
「全員捕まえるまでオリヴィエが鬼。多少本気で追いかけさせて貰うけど、泣かないように気をつけてねー」
「征四郎も本気で逃げろよ。手加減するつもりは一切ないからな」
「なんだか大人気ない気もするけど……。楽しんでくれてるからいいかな」
 リュカは不敵に笑うオリヴィエを複雑な気持ちで見守る。見えてはないけど。
「お、居た居た……っと、捕まえたぞ」
 そして5分程経過すると征四郎を含め殆どの子が捕まった。
 残るはあと一人、エージェントのティナだけだ。共鳴し、全力で逃げ続けているティナの動きは真似できないようなもので先ほどから子供達の感嘆の声が続いていた。
 オリヴィエは手頃な小石を拾って、思いっきり投げつける。コーンと澄んだ音がして、どさっとティナが落ちてきたところを即座に確保。
「いてて……。捕まった……。次は負けないからな!!」
「子供が真似するだろ。常識で考えろ」
「絶対、俺達エージェントの真似しちゃ駄目だぞ。危ないから」
 オリヴィエはティナをそう言って叱りつけ、子供達に念を押す。元気に遊ぶのはいいが、怪我をしては元も子もない。
「うんうん。なんだかんだでいいお兄さん役ができてるみたいだね。よかったよかった」
 リュカはそっと目を細めた。

●大芝居
「H.O.P.E.所属のカトレヤ・シェーンだ。七生、ミカエルのお仲間だぜ。よろしくな」
「同じくお仲間の王紅花じゃ。皆と遊びに来たのじゃ。今日は我らの活躍について話に来たぞ」
 カトレヤと紅花は周りに集まる子供達の位置取りを確かめると、お話を始めた。
「ある昼下がりの公園でのう、突然、愚神が現れてのう公園を占拠しようとしたんじゃ。我は颯爽と現れて、愚神に飛び蹴りをかまして、こう言ってやったのじゃ」
 紅花はナレーションを入れつつ派手なアクション。熱演に力をこめ、
「『ここは、お主らの居場所じゃないのじゃ、とっとと帰るのじゃ』……と」
「え? ティナが悪者か?」
 ビシッと指差されたティナは思わず首を傾げる。ぶんぶんとカトレヤは顔の前で手を振ったが、それに気付いたかどうか。
「そしたら、愚神の奴め、卑怯にも従魔を召喚しよってのう」
 胸の前で握る拳。そんな紅花の熱演に子供達は引き込まれ、視線はそちらに集中する。
「だが、そんなことで怯む我じゃないのじゃ! ……げほっげほっ」
 胸をドンと強く叩き過ぎて紅花は咳き込む。その演技に子供達の笑い声。
「こほん。さては取り出したるこの槍で従魔共をバッサ、バッサと切伏せてやったのじゃ」
 その槍の前で敵役のティナがそれを避け続ける。演技に夢中になっている紅花にそれが見えているかどうか……雄叫び上げて所狭しの立ち回り。
「そしたら、愚神の奴め、我にビビッて逃げ出そうとしおってのう。我は『天罰じゃ』っと退治してやったわ。ハッハッハッハ」
 自分を指差した紅花は豪傑笑いで胸を張ると、それを合図に拍手が巻き起こる。
 役目が終わったティナは拍手を受けながら子供達の輪の中に戻っていた。
 続いてカトレヤは再現フィルムのような芝居を始める。
「ん? どうした? そんなところで1人で……。みんなの所にいかないのか?」
 友達から、教室から、学校から、社会から。スポイルされた一人の子供の物語。
 その子は愚神や従魔に運命を踏みにじられ、心に傷を負った子供だった。心の傷故に新しい学校やクラスメイトとも馴染めない、独りぼっちの男の子。日暮れの丘で泣いている。
 遠くの窓に灯が点る。けれど、男の子の明かりは夜空に光る一番星。
 風の寒さとひもじさと、今は居ない友達の声。
「なあ。人ってのはな、他人の意思を継げる生物なんだ。こんなの出来るのは人だけだぜ。おまえの中にも多くの意思が生きてるんだぜ。その意思をおまえが死なせてしまっては駄目だぜ」
 カトレアは見えない少年の隣に座る。そして耳を傾け何度も頷き、
「そうか。そうだよな。おまえは何も悪くない。おまえは何も間違ってない。だがな」
 カトレアは立ち上がる。
「まず、おまえが動かなきゃな、なにも生きないぜ。ほら、一緒に行こうぜ」
 手を取ろうと右手を差し出した。
 パシャっとカトレアの後ろから眩いばかりの閃光が走る。
「やっと切り離せたのです! ガルー! 本体に止めを刺すんです!」
 子供達のカメラのフラッシュをまともに浴びたような目が視界を取り戻すと役者交代。征四郎とガルーが続きを演じる。地面には少年が倒れていた。
「しっかりするのです! 征四郎が付いているのです」
 良く見ると倒れていたのはオリヴィエだ。
「ん? ちびっこ?」
 朦朧とする声でオリヴィエは問う。
「ちびっこじゃないです。征四郎です! これでもれでぃでエージェントです!」
「ん? ああ。そうか、判った。ちびっこは手を出すな。こいつは俺が決着をつける」
 大見得を切るオリヴィエの姿に拍手が起こった。
「うーん、自動車に成りたいのですか? ではこうして……そう、この従魔はこんな形……グローブみたい? そう、変ですよね」
 そんな芝居の脇でエステルは創作折り紙で子供達と遊んでいた。
 次々要求される要求に器用に答えながらエステルは隣の演劇の一コマを切り取ったかのようなジオラマを折り紙で作り続ける。
「でも、従魔の癖に良い匂いがするんですよ……そうこんな匂い……んん?」
 嗅覚を刺激する匂いにエステルが振り返れば、そちらでは子供達と一緒にお菓子作りが行われていた。

●御菓子な関係
 トン タンタン トン タンタン トン タンタン。

♪昔 む・か・し と~っても む・か・し
 世界の は・て・の そのまた は・て・に
 リンゴが 一本 さびしく 一本
 鉛色の 空の下に 立って いました♪

♪邪(よこしま)の・知・恵 偽りの・栄(は)・え
 滅びのこ・と・ば 言挙(ことあ)げる・く・に
 女王が 一人 魔女めが 一人
 リンゴの実を 力の実を 食べて 逃げます♪

♪偉大な 獅・子・の 御勅(みこと)を 受・け・て
 み国の も・と・い 平和の も・と・い
 願いを 込めた 祈りを 込めた
 アダムの息子 イヴの娘 誓う 肇国(はつくに)♪

 早めのワルツのリズムに乗って、バンブーダンスで遊ぶ子供。
「ありがとう。これで生地が出来ました」
 菊次郎が回収するバンブーダンスの足の下には、子供達の足で練られた生地があった。
 それを伸ばして折り畳み、日本刀を鍛えるように作ったパイ生地。
「後は石窯で焼くだけです」
 菊次郎の周りでは食欲旺盛な子供達が集まっていた。
「さて、特性アップルパイが出来上がりましたよ。みんなで召し上がりましょう」
 菊次郎からパイを受け取る子供達は自分も加わって焼き上げたアップルパイに笑顔になる。
「で、主よ。子供たちには何の話をするのだったかな?」
「異界のスパイスを探し求める話ですね。あれはそう、私がまだひよっこだったころ……」
「他のエージェント達も聞いておるぞ。それに食事中に気持ち悪い話はやめておいたほうが……」
 テミスは菊次郎を促しつつも、その内容に思い至り制止する。
「う……では奇妙なペガサスから街を守った話などどうでしょう?」
「それは悪く無いな。いや全く奴等が羽をもがれてのたうち回る様は見ものだったぞ」
 今度は菊次郎がテミスの言に沈黙し、顔を見合わせる二人。
「……俺の話が血生臭くなるのはテミスさんにも原因がある気が。もう少しソフトに行きましょう。カボチャの馬車からパティシエを救い出した話も良いですね」
「引き馬を同時に倒すのには苦労したぞ」
 菊次郎が子供に聞かせて大丈夫そうな話を選んだつもりだったがテミスが物騒な話に変えていた。
「あのパティシエに頼めなかったのは痛恨の極みでしたが自作すれば良かったのです……うん、良いアイデアだ」
「スパイスは程々にな。あの菓子職人はどうしたので有ろうな」
「確か料理雑誌で特集が組まれていた気が……ああ、これですね。クープデュモンドで2位……」
 菊次郎がテミスの疑問に傍に転がっていたスクラップブックの記事を示す。
「それは凄いのか?」
「くそ……やはり頼んでおけば良かった」
 それが何を意味するのかわからないテミスは地団駄踏んで悔しがる菊次郎の後悔を理解できなかった。
「あのう~」
「ん、おかわりですか? 少々お待ちを……」
「主の料理は大人気だな。普通にしてればもっと人気もあるだろうに。勿体無い存在じゃ」
 子供達に御菓子を振舞う菊次郎をテミスは生暖かい目で見守るのであった。
 特製ブレンドの粉を使ったクッキー生地。ショートニングの代わりに使うのはピーナツバター。打ち粉を振って生地を伸ばし紙のように仕上げたセレティアは、子供に良く手を洗わせてから見本を見せてこう言った。
「ほら、こうすれば簡単にいろんな形のクッキーができますよ。よろしければ手伝って頂けますか?」
「予想以上にハードな展開になってしまいました」
 セレティアが折り紙で作ったのは鶴に牡丹にヨットにキツネ。手伝いを頼まれたエステルが作るのは今まで戦った愚神の姿。作っては食べられる愚神達は製作が追いつかない。
「お、愚神の折り紙か、良くできてるな……」
「ねー。どんな奴だったの?」
 バルトロメイの言葉に女の子が尋ねる。
「こいつがどんな奴だったかって? えっとだな……」
 一つ話せばまた次を指差す子供達にリンカー達は各々に答えていく。
「変なの~。愚神ってクモみたい」
 確か天井にへばりついてる奴と話せば、女の子は口に手を当てて笑った。
「強いんだぞ。あれでも」
「今度あったら負けちゃうかも?」
「そうだな……。またこいつらが出てきてもお前らを守ってやる自信は俺にはねぇ。俺はあそこで菓子焼いてるネーチャンを守るので手一杯だ。お前らは自分で自分の身を守れ」
 流れで突っ込む女の子にバルトロメイは、実も蓋も無い事を言う。
「悲しそうな顔しないで。私たちはできる限りのことはしてあげる。でもいつも側に言われるわけじゃないの」
 セレティアはどんな時でも自分を護ることが出来るのは自分自身だと諭す。そして、バルトロメイが促した。
「さあ。お嬢ちゃん。こいつを倒すのは強い心だ。この愚神を倒す英雄を作れるか?」
「うん!」
 女の子は元気に答え作り始めた。
「これは何ですか?」
「僕が将来一緒に戦う英雄さん」
 セレティアが訊ねると、男の子は怪人のような姿のそれが何かを元気良く答える。
「素敵な折り紙ですね……。でもこちらも負けていませんよ! アイシングにアザラシのチョコです! テーブルに並べるだけで楽しい気持ちになりますよ」
 苦笑しながらセレティアは次の作品を取り出した。市販の板チョコをテンバリングして型に流し込んだだけの物だが、声を上げて喜ぶ子供達。
「あのね。トンボさんはクモの巣にいるクモだって取って食べちゃうの」
「っと、この姉ちゃんはえらく強気だな!! 折り紙従魔をあっさり退治しちまったぞ!! 今はまだ子供だから無理かもしれないけどな、強くなればいいだけの話だよ」
 愉快そうにバルトロメイが言う。クモの従魔を倒すのは巨大なトンボに乗った女の子だ。
「うん。子供だからできない事もたくさんあるかもしれないけど大きくなったら強くなれるよ!」
 セレティアは目を細めて女の子の背中をポンと叩いた。

●最後のお説教
 素晴らしい時はやがて去り行き。お別れの時間が遣って来た。小さな子供達はお腹が膨れ、遊び疲れたこともあり、気持ちよさそうに眠っている。
「どうも。子供達も喜んでます。またいつか。主がそれを望み給うならば」
 ミカエル(az0012hero001)は礼拝堂の説教壇に並ぶリンカー達に頭を下げる。
 そして起きている子供達に向かい、右手を上げて祝祷を始めた。
――
 今日、子供達の為に憧れの皆様がおいでになられました。
 世界の為に愚神と戦う忙しい時間を割いて、この方々を遣わして下さった事を感謝いたします。

 人を思いやる尊い心を何に譬えましょう。それはロウソクの火のようです。
 決して自らの影を映さず、辺りを照らします。
 そしてまた、分かち合えば分かち合うほどに、増えかつ光を増して輝くのです。

 火よ、光よ。どうか、今日ここに使わされた皆様の道をお守り下さい。
 そして、この方々から分たれた灯が、子供達の行く手を照らす光となると同時に、
 子供達自らの影を覆い尽くす光となし、世を照らす光とならんことを。
――
 リンカー達も子供達はいい話だと思った。少なくとも悪い話には思えない。
 しかし、文屋七生 (az0012)は見てしまった。
 ミカエルが持つゴシップ雑誌の開かれたページの広告を。

『お勧め。アロマ効果のある低温ロウソク』
 それは子供達が用いることはないような一品の広告であった。というか、一般人はまず用がない。
「……本当にどうしたらこの内容からあんなまともな内容を思いつくんだろ」
 頭を抱えながら、この英雄に与えるゴシップ雑誌を厳選すべきかどうか真面目に考える七生であった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
    英雄|32才|男性|ドレ
  • 野生の勘
    ティナaa1928
    人間|16才|女性|回避



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