本部
その右手に宿るは善か。それとも
- 形態
- ショートEX
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,500
- 参加人数
-
- 能力者
- 8人 / 6~8人
- 英雄
- 8人 / 0~8人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2017/07/04 09:00
- 完成予定
- 2017/07/13 09:00
掲示板
-
善悪の河岸
最終発言2017/07/04 05:11:36 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/07/03 09:33:00
オープニング
●
人間の右手には、善の力が宿っているらしい。
僕としても書物の中でしか見たことがない知識なのだが、曰く、左手に悪の力が備わっていて、それを右手が抑制するから善なのだとか。
善とか悪とか、僕にはちょっとよくわからない。
でも、善の力っていう言葉は、僕をひどく引き付けた。
善。いい響きだ。まるでどんなことでも行うことを許してくれそうな、そんな感覚がする。
だから、僕はそれを探すことにした。どんな犠牲を払ってでも。
●
都心から少ししか離れていない、郊外との境目のような場所に、場違いなぐらい高くそびえたつビルがあった。もともとオフィスビルとして建てられたものだったが、テナントがそろわず結局住居用として改装。それでも部屋にはかなりの空きがある状態だった。
その一室の中で、一人の少年が目を閉じてソファに腰掛けている。見た目だけで計ればせいぜいが二十に届かないぐらい。カーテンを閉ざし、電気もつけない中でなお輝く銀白色の短い髪が特徴的な、けれどそれだけの少年だった。
少年が瞼を持ち上げる。兎のような赤い目が部屋の内部をゆっくりと観察する。彼にとっては見慣れた内装。ほとんどは入居したそのままの状態で生活感なく放置されているものの、彼以外からは異様に映る家具がそこかしこに置かれていた。
彼はそれを見て、満足そうに目を細めた。
「……うん。やっぱり綺麗だ」
彼は立ち上がると、家具の一つに歩み寄って持ち上げる。それはどこか女神が手にするトーチのようにも見えるし、いびつな槍の穂先のようにすら見える。彼はそれの表面を優しく撫で上げる。太い部分から五つに枝分かれしたトーチの先までじっくりと感触を確かめていく。
人間の、右腕だった。
「――いいね。うん、すごくいい。何か、こう、何とも言えない……そう、胸の内側をやすりでひっかかれているような……これが善だとしたら、随分と荒々しいんだね」
まるで恋人の頬に触れるように恍惚とした表情でその日課を終えると、彼はいびつなトーチを元の場所に戻した。
トーチはここだけではない。テーブルにも、キッチンにも、ソファにも、タンスにも、トイレにも、浴室にも、寝室にも。その数は優に十を超え、ありとあらゆる場所にオベリスクのごとく配置されている。どこに行こうと常に彼がその姿を見失うことのないように。
善の在り処を、確かめるように。
だが、彼はふとその赤い瞳を鈍く光らせる。そして先ほどまで愛おしくなでていたそれを乱暴に左手で取り上げると、何の躊躇もなくそのまま握りつぶした。
ぼたぼた、とかつて若い女性のものだった肉塊が彼の指の間から零れ落ちる。それを睥睨する彼の瞳は、親の仇を見るかのようにひどく憎しみのこもったものだった。
どうして僕はこれを壊そうとした?
どうして僕は左手でこれを取り上げた?
どうして僕はこれを集めた?
どうして、どうして、どうして。
ライヴスを、集めるため――
「…………いいや」
もはや息をする生物は彼一人の、静かで広い部屋の中で彼は大きく息を吸い込んだ。大凡彼にとっては認めたくない、けれども確実に横たわっているはずのものを丸ごと飲み込んで宣言する。
「僕は、善の力を手に入れる。善と呼ばれる力を手に入れるために、この世界に生きるすべての人間の右手を刈り取る。それが、僕が愚神という在り方から抜け出して新たなステージへ至るために必要なことだから」
もう何十回と繰り返してきた言葉。もう何千回と頭の中で反芻した対話。けれど飽きることなく彼は繰り返す。そのすべてを彼は忘却しているし、どのように感情を動かされたすらももはや記憶に留め置いていなかった。
彼は背筋を伸ばし、玄関に立てかけてあった無骨な日本刀を肩にかけると、大事なピアノのコンクールに向かうように部屋を後にした。
●
「首都圏各地で起こっている、愚神による連続傷害事件。君たちも聞いたことがあるかもしれないな。若い男の形をした愚神が一般市民を襲って右腕を切断するという一連の事件のことだが、今回それに進展があった。
今まで事件があった場所をマーキングし、そこから移動が容易なエリアを割り出した後、事件時間の前に出入りが何度も目撃された人間を特定した。愚神の特徴とも一致することから、我々はこの男を事件の主犯である愚神と断定、事件の解決を担うこととなった。君たちにはこいつと交戦、撃破することを依頼したい。
ただ、一つ問題があってな。実は過去に我々はこの愚神を事件の首謀者ではないかとにらんでたびたび威力偵察に望んでいたんだが、そこで奴はことごとく生き延びた。力が強いわけじゃない、体力があるわけでもない。エージェントが複数で挑めばまず勝てる。だが、消滅しなかった。
――復活したんだよ、ゾンビみたいに。どれだけ攻撃を与えても絶対に倒れない。どころかますます力を増して襲いかかってくる。結局三回交戦して三回とも撤退を余儀なくされた。もう次はない。
奴の目的が右手の収集にあるとしたら、そこをつけば何とかなるかもしれない。もしも通常の戦闘行動で当該愚神が倒れなかった場合、その線でアプローチすることを検討してくれ。
右手……善、正義、理性の象徴、か。いや、まさかな。愚神がそんなことを考えるわけがない。なまじ考えたとして追い求める理由がない。
とにかく、十分注意して事件に当たってくれ。敵性呼称名は『コレクター』。健闘を祈る」
解説
目的:デクリオ級愚神『コレクター』の完全撃破
登場人物
『コレクター』
・デクリオ級愚神。見た目は二十歳に届かないぐらいの青年。銀白色の短髪と泣きはらしたような赤い瞳が特徴。日本刀を主武装としている。
・以下、戦闘データを記す。
ライトイービル
・右手で日本刀を振り抜く。対象一人に中ダメージ、低確率で衝撃を付与。
レフトパニッシュ
・左手で日本刀をアスファルトに突き立て、衝撃波をまき散らす。範囲内の対象に低ダメージ。
その右手、僕が奪う
・対象一人に接近し、両腕でもって日本刀を右手に振り下ろす。対象に極大ダメージと減退(1)を付与。
・首都圏を中心にした連続殺傷事件の主犯。愚神としての圧倒的な力とスピード、何よりその神出鬼没性によって長く撃破されることがなかった危険対象。
・犯行に及ぶ際眉ひとつ動かさなかったのに対し右腕を切り落とした際は蕩けた表情を浮かべていたことが確認されており、何をおいても精神の異常性が指摘されている。
・右腕に執着する目的は不明。ただ、「右腕を切り落とすために持ちうるすべての力を使う」という傾向が指摘されており、「右腕を切り落とせなくなる可能性を阻止する」復活能力もこれに由来する可能性が高い。撃破のためには、右腕に向けられている注意をそらし、『コレクター』の復活に当てられている力を分散させた状態で攻撃する必要があるだろう。
戦場
ストリート
・プリセンサーによって予測された『コレクター』の次の犯行地点。週末ということもあり多くの若者でにぎわいを見せている。車の通行を制限しているため車道となる部分にも人が流れ込み、人の流れに逆らって移動するには配慮が必要である。
・ストリートの両側は服飾店が中心。またほとんどの店は五階以上の高さとなっている。
(PL情報:『コレクター』は善とは何かという問いへの答えに飢えている。これ以外の話題で注意をそらそうと目論んでも不可能である)
マスターより
山川山名です。
今回のテーマは『追求』。この物語の中で敵が追い求めるのはいわゆる『善』になりますが、こいつはその捉え方に歪みがあります。そもそもこいつはどこで道を踏み外したのでしょうね。
そしてこの物語では能力者と英雄の『善』に対する考え方が勝敗のカギを握ります。何が良い事なのか。何が悪い事なのか。正義とはどのようなものなのか。皆様が育て上げた彼らがどう考えるか、じっくりお話してくださいませ。
リプレイ公開中 納品日時 2017/07/10 11:55
参加者
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善悪の河岸
最終発言2017/07/04 05:11:36 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/07/03 09:33:00