本部

戦闘

澄んだ鏡の向こう側

影絵 企我

形態
ショートEX
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/05/02 19:00
完成予定
2017/05/16 19:00

このシナリオは5日間納期が延長されています。

掲示板

オープニング

●とある先生の物語
「おのれ……貴様!」
 山羊頭の愚神は、槍を支えにやっと立つような有様で吼える。全身にはライヴスで作られた刃がいくつも突き刺さり、脈々と血が溢れている。その正面に立つのは、白い法衣の上から聖銀の鎧を纏う一人の青年。鎧はあちこちに穴が空き、法衣もぼろぼろだ。こちらも杖を支えにようやく立つような有様である。
「貴方を……この先へと通すわけにはいかないのです。この先には大切な子等がいるのですから」
「こちらにも使命がある。はいそうですかと、引き下がれるか!」
 槍を地面から引き抜くと、倒れ込むように槍を突き出す。青年は避ける事もままならず、その槍に貫かれる。口から血を溢れさせ、青年はその身をくの字に折り曲げる。しかしその目に宿る必死の炎は消えない。既にリンクバーストも行い、身も魂も限界まで酷使している。だが、この青年は死んでもくたばらない生命力でこの世にしがみつき、教会で暮らす小さなみなしごを守るために愚神の前に立ち続けた。いくら手練れでも、ケントゥリオ級の愚神と一人で相対するなど無謀だというのに。
「いい加減に、死ねぇッ!」
 焦れた愚神は、ついに槍を高々と振り上げ青年を真っ二つにしようとする。血を溢れさせて俯く青年がそれを防ぐ術は、最早ないかと思われた。――しかし。
「その言葉、そっくりそのままお返しします……!」
 青年は振り下ろされた槍に向かって手を掲げる。その手に集まった光は鏡となる。ライヴスミラーだ。
「そんな、ものォッ!」
 しかし、愚神は強引に槍を振り下ろす。鏡に剛力が叩きつけられ、見る見るうちに鏡はひび割れていく。青年は歯を食いしばり、唸る。
「させない……させない!」
 刹那、鏡は紫色の輝きを帯びる。同時に鏡からは黒々とした影が飛び出し、巨大な槍を振り上げ愚神の心臓へと突き立てた。
「……! ば、馬鹿な。貴様、一体、何を……!」
「神の敵は、滅びる運命……」
 愚神は断末魔の叫びを上げ、弾け飛んだ。どす黒い血が、聖職者の青年に降り掛かる。そしてまた、彼も限界を迎えた。ゆらりと傾ぎ、倒れる。
「……良かった。これで、彼らは守られた……」
 青年は静かに目を閉じる。このまま共鳴は解け、能力者たる青年は、英雄たる青年は、満足の内に死出の旅へと赴く。その筈だった――

●鏡を見よ
 夜、ようやく教会の扉は開いた。愚神が出ると聞き、隠れながら震えていた子供達はそろそろと姿を現す。様々な子達がいたが、脚を引きずる子もいれば、顔に大きな火傷の跡が刻まれた子もいた。皆、ひどい虐待を受けて逃げた子達であった。そんな彼らが唯一頼りにしていたのが、この教会で孤児院を営む美佐和彦だったのである。
「……ミサ先生?」
 ぼろぼろのローブを纏い歩くその姿は、一瞬先生のように見えた。しかし直ぐにそうであり――そうではなかったと気付く。
「あ、ああああっ!」
 少年少女は悲鳴を上げる。そこに立っているのは紛れも無く愚神だった。闇で出来た身体を持ち、紫色の光で出来た目が彼らを真っ直ぐに捉えている。彼らは悲鳴を上げ、不自由な身体でどうにかその場を逃れようとする。そんな彼らを、愚神は不思議そうに見渡した。
「……どうしたのですか? もう愚神はおりませんよ。怯えることはありません」
「ば、ばば、ばけ――」
「酷い顔ですよ。落ち着きなさい。……ほら、この鏡を見てみなさい――」



「馬鹿な。馬鹿な、馬鹿な!」
 膝をつき、ムラサキカガミは絶叫した。鏡を通して見た己の所業に絶望して吼えた。鏡から現れた影は、あろうことか子供達を捉え、喰らったのである。彼らの中にある根源的な恐怖を取り除くために。そして彼は己が為そうとしている”救い”の意味に気が付いた。所詮は愚神の食欲に任せ、目についたもののライヴスを喰らおうとしていただけなのである。己の意志に関わらずに。
「違う! 私は、私はあの子達を守りたいだけだったのに! 目の前にて苦しむ人々を救いたいだけだったのに! どうして。何故! 私は誰をも救う事が出来ない!」

「それは、貴方が愚神となってしまったからなのですよ」

 ムラサキカガミは息を呑む。顔を上げると、そこには影が立っていた。黒い衣を身に纏い、黒い杖を携えた。かつての己の影。ムラサキカガミが、まだ美佐和彦だった頃の残滓。懺悔を聞き遂げる司祭のように、牧師のように、彼は祭壇の前に立って彼を見下ろしていた。

「貴方はもう愚神だ。この世界に仇為すものだ。いくら貴方が人を救おうと願っても、もたらすのは混沌と破滅。貴方が最も憂い、忌み、嫌ってきたものです」
「……やめてください」
「いい加減に認めなさい。己を。己自身のある意味を。人を助ける真似事に何の意味があるのです。愚神なら大人しく世界を破滅へと導きなさい。それが貴方が今この世にあるべき意味です」
「やめてください!」

 ムラサキカガミは悲痛な声で叫ぶ。その瞬間、背後から足音が響き渡る。やってきたのだ。彼に引導を渡すべく、エージェント達が。

「さもなくば、倒されなさい。彼らに」
「……神よ。貴方は私をお見捨てになられたのですね」

 ムラサキカガミは己を理解した。この世の、敵であると。

●堕天せし者も救い手とならん事を望む
「何故なのですか」
 目の前に立つ己の影と向き合いながら、ムラサキカガミは静かに声を絞り出す。
「私はこの苦難溢れる世の中で、心の闇に囚われ光を見失った方々を救いたかった」
 その言葉に嘘偽りは感じられなかった。エージェント達には、誠心誠意の訴えと聞こえた。
「それなのに、何故私の手は誰も救う事が出来ないのでしょうか。何故誰もが、私の手にかかれば、闇に囚われそれっきりになってしまうのでしょうか。それは皆の心が弱いからなのでしょうか」
 こちらには振り向かぬまま、肩を怒らせムラサキカガミは声を絞り出す。その姿は、まるで懺悔する罪人のようだ。
「……違うでしょうね。私は愚神であるからなのでしょう。私がもうこの世ならざる者であるから、私は誰も救えない……」
 不意にムラサキカガミは振り返る。兜の隙から、紫色の涙が溢れている。

「何故なのですか!」

「何故私は手を差し伸べて人を破滅させる」
 紅色の盾を構え、ムラサキカガミは苦しげに唸る。
「何故あなた方は手を差し伸べて人を救える」
 蒼色の杖を掲げ、ムラサキカガミはエージェントを睨みつける。
「私も、あなた方も、苦しむ者を救いたいというこころは同じはずなのに!」
 紫色のストラを振り乱し、ムラサキカガミは声を荒げた。それはムラサキカガミとしての叫びなのか、“ではなかった”者としての叫びなのか。
「教えていただけませんか……」
 ムラサキカガミは呻くように声を絞り出し、よろよろと前へと進み出る。その隣には彼が彼であった頃の残滓が黙して立つ。愚神は杖を掲げると、絶叫した。

「あなた方が希望の名を冠するに相応しき者たれる理由を!」

解説

メイン ムラサキカガミの討伐
失敗条件 戦闘区域から全員が撤退する

エネミー
ムラサキカガミ【飢我】
己自身を鏡に映したことで絶望した愚神。自暴自棄となってエージェントに立ち向かう。
ステータス
攻守F、生命S、命中A、回避D、その他B-C
スキル
紅の破魔鏡
最終ダメージを90%軽減する。【紅or紫の因縁】を持つPCの攻撃は60%軽減する。
蒼の天来光
交戦中のPC4体まで対象。目標の物攻or魔攻を加算してダメージを与える。【蒼or紫の因縁】を持つPCには加算が無効。
紫の聖職衣
【『無情』の因縁】を持つPC以外のBS付与を無効にする。
Tips
蒼の天来光によるターゲットは完全にランダム。
今回は逃走する気は無い。死ぬまで戦い続ける。
己の自我を認めたため、固有の攻守ステータスが発生している。

Speculum
ムラサキカガミの心の闇。『彼ら』がリンカーだった頃の残骸。ムラサキカガミと共に戦う。
ステータス 邪英化生命メディック(65/30)相当
スキル
聖槍×4
ブラッドオペレートの強化版。減退(1)→(2)
復活×4
リジェネーションの変異版。リンクレート分→10
殉教
絶たせぬ術の強化版。100%上昇→150%上昇
審判
プリベントデクラインの強化版。【減退】【封印】→全BS
Tips
スペクルムが倒れた場合、ムラサキカガミの生命力が半減する。
ムラサキカガミが倒れた場合、スぺクルムは消滅する。

フィールド
廃墟の教会。
椅子や祭壇の残骸が転がっており、脚を取られてしまう場合がある。
広さは15sq×20sq。
壁は攻撃すると崩れる。崩落の危険があるため注意。

Hint
・エピローグ
 戦闘終了後に挿入。関連依頼に登場したNPCに会って話を聞く事も可能。

マスターより

影絵企我です。
ムラサキカガミとの因縁もここで終焉です。全力でぶつかってください。実質シリーズの最後という事で、相応のギミックを用意させていただきました。描写としては『我を通す』という形でスキルを無効化する事になるので、格好いいプレイングを期待しております。スキルなど変わっていますが、情報の落とし込みなどは必要なしです。
軽く調査を行う事で、OPでのムラサキカガミの回想を推測程度ですがPC情報に落とし込むことが出来ます。エピローグを入れる予定なので、そのあたりで生かして頂ければ嬉しいです。

格好良く葬ってくださることを期待しております。

ではでは。

リプレイ公開中 納品日時 2017/05/08 16:46

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • エージェント
    アシュラaa0535hero002
    英雄|14才|女性|ドレ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃
  • ボランティア亡霊
    ヒルフェaa4205hero001
    英雄|14才|?|ドレ
  • Iris
    伴 日々輝aa4591
    人間|19才|男性|生命
  • Sun flower
    グワルウェンaa4591hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ

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