本部

私に相応しいかまくらを作るのです!

師走さるる

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/15 19:46

掲示板

オープニング

 十一月も終わりを迎え、師走に入る。今年は一気に降った雪が一夜で積もり、歩く度にみしみしと軋むような音を出す。そんなでっかいどう、某所。
 ドでかい屋敷を前に、大きなリボンをつけた少女が偉そうに腰に手を当て、仁王立ちしていた。
「皆の者! 私に相応しいかまくらを作るのです!」
 びっ! と人差し指を前に突き出し、広大な土地を示す。
 その高らかな声は響き渡り、ただ空へと吸い込まれていく。
「申し訳ございませんお嬢様。使用人達は皆、屋根の雪下ろし周辺の雪掻き、それから通常業務に追われております」
 少女の後ろには世話係である一人のメイドしかいなかった。ドでかい屋敷はその分屋根と周辺の雪掻きが大変なのだ。いつもは数人は構ってくれる使用人達も、今日は頬や耳を真っ赤にして重労働している。
 雪掻きに夜の布団の冷たさ、凍りつくドア、嵩む暖房費……おお、冬の猛威よ。
 しかしそんな事、幼き我儘少女が知った事ではなかった。
「もーうー! かまくらー! 私の素敵なかまくら作りたいー!」
 ごろんごろん。転がって跡がついても、どうせ明日にはまた真っ白に積もっている。メイドは困った顔でただ頬に手を当てた。
 そのまま数秒経って、唐突に少女がばっと起き上がる。ぽろぽろと服に付いた雪を零しながら、きらきらと輝く目がメイドに向いた。
「そうだわ! リンカーって言うのは、寒さにも耐えられるのよね!?」
 名案とばかりに弾んだ声。対してメイドは冷静な声で頷いた。
「さようで御座います、お嬢様」
「私ってば天才! よーし。私のかまくらを作るため、アルバイトを募集するのよ!」
「畏まりました」
 二人は屋敷までの少しの距離、雪をみしみしと踏みしめて行く。
「って、あら。こんな所にゴミが。もう、ちゃんとゴミ箱に投げなきゃ駄目じゃない」
「投げ……?」
 首を傾げるメイドは数カ月前に勤め始めたばかりの都会っ子であった。
「ごほん! す、捨てなきゃ駄目じゃない! もう、細かい事はいいからさっさと募集してくるのよ!」

解説

降り積もった雪を使って、皆でかまくらを作りましょう。
土地は広大(目に入る端から端までお嬢様の家の私有地)なので自分が好きなように作ったり遊べるスペースもあります。
ただし、今回あなたはお嬢様に相応しいかまくらを作る要員としてアルバイトに来ています。
仕事内容を蔑ろにするとお嬢様が不貞腐れ、メイドさんにも怒られますのでご注意を。

共鳴すれば寒さを感じませんので、デザインに凝った大きなかまくらを作るには共鳴すると良いでしょう。
逆に、こじんまりとしたかまくら程度であれば、共鳴せずとも地道に作る事が出来るでしょう。

作った後はかまくらの中で温かいお茶と焼いた餅が振る舞われます。
味付け用に何か欲しければ、メイドに申しつけてください。
大概のものは屋敷にありますので、事前に購入や家から持ってくる必要はありません。
かまくら作りようのスコップなども同様です。

リプレイ

●かまくら作りアルバイト
「恭也~、雪だよ雪~」
「二度目の雪関連の依頼なのに元気だな……」
 元気な伊邪那美(aa0127hero001)の言葉にやれやれと軽く白い息を吐く御神 恭也(aa0127)。彼が雪山に大学生を救出に行った事は記憶に久しい。
「あれ、恭也さん? 恭也さんだよな!」
 それは、丁度別方向からやって来た東海林聖(aa0203)も同じであった。あの時はLe..(aa0203hero001)と共鳴して恭也達と共に戦い、倒したキャノンボアで作った鍋をつつき合ったのだ。思い出を語りつつ、彼らは依頼主の屋敷へと辿り着く。
 出迎えたメイドに案内された応接室には、既に数組のリンカー達が集まっていた。
「これで全員……でしょうか。それでは、お嬢様をお呼び致しますので少々お待ちくださいませ」
 そう言ってメイドは静かに部屋を去っていく。パタン、という音の余韻も消えたところで、先に待っていたリンカーの一人、七瀬・竜(aa0102)が恭也にすっと手を差し伸べ挨拶をした。
「俺は竜だ。よろしく」
 彼の英雄であるシオン(aa0102hero001)もその横からひょこっと明るい顔を覗かせて「よろしくね!」と続く。
 次に竜が聖へと手を向けると、彼が以前依頼を共にした仲間である事に気付いた。聖にとってもそれが初めての依頼で、恭也との会話に引き続きぱっと話に花が咲く。
「宇津木明珠です。お好きな様にお呼び下さい」
 対して別のリンカー、宇津木 明珠(aa0086)は控えめなテンションで名乗った。
「俺は金獅。よろしくな」
 この依頼は金獅(aa0086hero001)が勝手に取って来たものであり、明珠としてはさっさと終わらせて帰りたいのだ。不機嫌そうな表情は見せないが、金獅の普段着に比べてがっちりと着こんだ姿からも察せる。
 他の仲間もそれぞれに挨拶を済ませたところで、コンコンと扉が叩かれ、メイドと依頼主の少女が現れた。
「あなた達がリンカーで、私のかまくらを作ってくれるアルバイトね!」
「えーと。キミお名前は? あ、俺は竜。こっちはシオンだ。よろしくね」
「花音よ。さあ、リンカーの皆さんに説明してあげて頂戴」
「畏まりました」
 と言っても説明は簡単だ。募集の通りお嬢様に相応しいかまくらを作ってほしい。道具はこちらで貸与する。それだけであった。
 世の中お金はあるところにはあるものだよなあ、と竜がしみじみ説明を聞いていると、横から可愛らしい声が響く。
「かまくら、本やテレビで見た事はあるけど、私も作るのは初めて! すごく、楽しみなの♪」
 温かなロングニットのセーターにショートパンツとタイツ。淡い紫の髪にふんわりとろけるキャンディのような微笑みの少女、ルーシャン(aa0784)の声だった。今は掛けられているファー付きのダッフルコートやマフラーなども彼女の物だとすぐにわかる。全ては英雄アルセイド(aa0784hero001)が用意してくれた物であった。
「……って、あれ。一人足りない……?」
 ふと花音が眉を吊り上げる。花音と同い年ほどの黄色いぬいぐるみを抱えた少女だけが、相方らしき者を連れていなかった。
「……貴方、まさかもう共鳴状態なの?」
 ずい、と同じ高さにある顔が迫って来て、獅子ヶ谷 七海(aa1568)はばっと後退りする。
「ひっ……! あの、その、英雄は……す、すみません……」
 勿論これは共鳴状態ではない。七海の英雄、五々六(aa1568hero001)は朝一で別の戦場へと旅立ったのだ。

「――お前、この依頼一人で行ってこい」
「えっ」
「獅子は我が子が可愛いければこそ、千尋の谷へと突き落とすんだ。俺抜きで他人と触れ合うことにも、ちったぁ馴れとけ」
「あの、でもっ」
「俺にも……俺の戦いがある」
 ザッと地を踏み締めた足音。低く真剣な声に、大きな背中。歴戦の戦士の風格。
 そんな彼の片手には競馬新聞。ああ、彼は彼の戦場に向かっていくのだ。競馬場という名の戦場に。
「……しねばいいのに。ね、トラ」

 なんて事を人見知りの七海が説明できるはずもなく、「競馬場に行きました」と震える声で伝えると、依頼人達は勿論の事、同じアルバイトを請け負った仲間も目を見開いて驚いた。
「す、凄い英雄だな」
「恭也はボクを置いていったりしないよね……!?」
「……置いていかれるの、寂しいの。今日は私達と一緒に楽しむの」
「えっと……あの……」
「なんかよくわかんねーけど早くまかくらつくろーぜ」
 窓の外の雪を見てうずうずとしていた金獅が声をあげる。それで他のリンカー達も、話が進んでいない事にはっと気付いた。
 ちなみにまかくら、というのは金獅が間違えているだけで方言でも何でもない。だが聖は面白そうに「金獅の所じゃまかくらって言うのか!」と笑っていた。
「なーまかくらってどういうの作るんだ?」
「花音さんのご要望を伺った方がよろしいのではないでしょうか」
「折角だから、好きなものとか好きな色とかでもいいの」
 仲間達が花音に要望を聞く中、彼女を一緒に巻き込みたいと思っていたLe..も精一杯に話し掛ける。
「……ん、好きなかまくら作ってあげる……よ」
(……ルゥのヤツが説得……アイツ、普段口下手っぽいのに、大丈夫なのか?)
 その姿を聖がそっと見つめていた。取りあえず任せる事にはしているが、Le..の気質からして少し心配である。
 リンカー達から問われた花音はうーんと軽く考えると、腰に手を当ててはっきりと言った。
「そうね。とにかく凄いヤツ」
「……凄い、ヤツ」
「そう、何か凄いヤツ! あ、可愛いものも好きだけど」
 曖昧過ぎて全く参考にならない。どうやらこのお嬢様、具体的なイメージは何もないようだ。
「……じゃぁ、君のセンスが今回、ルゥ達がリクエストに応えるのに必要不可欠だから、一緒にやろ」
「よくわかんねーからみんなで一緒につくろーぜ。花音の好みも一緒に作りながら教えてくれよ」
 二人の誘いに花音はえーっと頬を膨らませて断る。
「何の為にアルバイトを雇ったと思ってるの。寒くて痛い思いなんてしたくないわ」
「じゃあ近くで見ててこうした方がいいとか教えてくれよ、な。それならいいだろ? せっかくなら気に入って欲しいからさ」
「……まあ、様子を見るついでなら、少しは」
 結局どんなかまくらを作るかはリンカー達の手に委ねられた。
 どんな凄い物にするべきかリンカー達が考え合う中、七海の頭には西洋風のお城が浮かぶ。口に出す勇気が出ない数秒、ぎゅうっとぬいぐるみのトラを抱きしめて、ようやく七海は蚊の鳴くような声を出した。
「あのっ、お城とか、どうかなって。……や、やっぱりむり、ですよね。ごめんなさい……」
「城? ……こういうのか?」
 そう言って金獅は万里の長城らしき絵を描いて見せる。確かに『城』は付くが、城壁では肝心の中に入る空間がない。とりあえず城と言う方向性には皆賛同したようなので、竜がそれぞれの意見を元にスケッチブックに描き起こしていく。
「ここはもっと可愛くしたいの。こうしたらどうかな?」
「お。なかなか本格的だね。じゃあ沿える様に手伝うよ」
 こうしてかまくらの完成予想図が出来上がった。

●レッツかまくら作り!
「と、いうことでシオン。よろしく頼むよ」
「これ可能なの?」
「どうかな。全員が精一杯頑張れば無理じゃないかもしれないけど……とにかくやってみるよ」
「まったく……竜はほんとうに女の子に甘いよね」
 溜め息を吐いて何だかんだ言いながらも、結局は共鳴してくれるシオンは流石の相棒様だ。
「まずは、共鳴してかまくら作り、ね」
「君のお望みのままに。我が女王」
 ルーシャンもうさぎの耳あてを着けてロングブーツと手袋を履くと、アルセイドと共鳴して外へ出る。
「……ヒジリー、共鳴必要なの?」
 しかしLe..は共鳴せず一人ずつで動く気らしい。動いていれば温かくなるだろう。そう思っているLe..の呟きに、メイドが不安そうに忠告する。
「普通の物でも一時間や二時間掛かると思われます。あのような大掛かりな物ですと随分と長い間雪に触れる事になりますが……」
「へーきへーき!」
 だが聖もLe..と同じ考えらしく、笑って外へと飛び出した。金獅も共鳴しないようで仲間達の集まる雪の平野へと元気に向かっていく。明珠が貼ってあげたカイロや防水スプレーで、今は温かさを保っているのだろう。
 残った一人、七海は勿論英雄に頼る事が出来ないので、そのまま彼らの後を付いて行くしかない。けれどトラは抱えているし、何をしたら良いかわからずにただ皆の様子を窺っていた。
「さて! それじゃいっちょ頑張ろうか!」
 ぱん! と手を打ち付けて竜が一度気合いを入れる。
「っしゃ! とりあえず作る為には雪を集めねェとなッ!」
 聖もその気合いに負けず劣らず叫ぶと、少し離れた場所まで駆けて行き雪玉を作り始めた。これを転がして皆の場所まで持っていく算段だ。竜も力仕事は男の仕事、と言う頼もしい考えで聖と共に雪を集める役目を買って出る。
「お城ならブロックを作って積み重ねるとかした方がいいのかな?」
「そうだな。では俺達はブロックを作るとしよう」
 一方のルーシャンと恭也はそう考えて、かまくらの建設予定地の近くにある雪でブロックを作り始めた。この辺りの雪では足りなくなる頃には聖と竜が運んで来るだろう。一個一個着実に。土台はしっかりさせる為に、ルーシャンは少しずつ水を掛けながらしっかりとブロックを固めていく。
「とりあえずこれをあの図みたいにすりゃいーんだろ?」
 その横で金獅が乱雑に雪を積み重ねていた。計画的に積まれたブロックの雪ではない。固めるのに使ったのも、スコップや共鳴した強い力ではなくただの手であった。時間が掛からない分雪山が大きくなるのは早かったが、その形を整える為に物理攻撃で一発。ガスッ! とぶち込めば、当然の如く雪山は割れて崩れてしまう。
「……勿体無いな。金獅さんも同じようにブロックで作らないか?」
「ブロック? このぶっ壊れた雪山を切り出せばいーのか?」
「切り出すのは良いがもう少し固めてから――」
 ガスッ!
 再び物理攻撃を喰らった雪山は粉砕されて、恭也達の作る綺麗な長方形とは似ても似つかない物となった。
「……」
「ガキ~まかくら上手くつくれねーんだけど」
 この惨状を見れば既に誰かは察したかもしれない。あれだけ楽しみにしていた金獅だが、実を言えばかまくらの作り方を知らなかった。それどころか雪を見るのさえ初めてだ。見かねた明珠は一人でしていた作業の手を止め、ルーシャンと恭也にメイドから分けて貰った塩と借りた容器の幾つかを渡す。
「金獅がご迷惑をかけて申し訳ありません。これを混ぜて固めればいかがでしょうか」
「わあ、そっか。お塩も入れるといいかもしれないの! 有難うなの、明珠おねえちゃん」
「おー。これの中に入れて固めりゃいいんだな」
 明珠に手本を見せてもらい、同じように容器に雪と塩を混ぜていく。これならば自分にも出来そうだ、と雪を掬いあげた時、金獅の目に一人ぽつんと立ち尽くし、ずっと見ているだけだった七海が映った。七海は目が合ったと悟るとびくりとして縫いぐるみのトラで顔を隠してしまう。
「おーい、獅子ヶ谷もやろうぜ。遊びたくてこの依頼受けたんだろ? 俺も同じだからわかるぜ。まかくらの作り方はよくわかってねーけど」
「ひっ! わ、私はっ、その……」
「七海おねえちゃんも一緒に作ろうなの」
「う……」
 彼女は自分からは動けないが、言われた分だけは働く性分であった。おどおどと仲間達の集まる場所へ近付くと、か細い声で自分の役割を訊ねる。
「あ……えっと……何を、すれば……」
「このブロックをいっぱい作って、積み上げていくの。皆でやると楽しいの♪」
「わ、わかりました……」

「それじゃ、ここに雪玉置いておくよ」
「またでっかいの作って持ってくるからな!」
 大きな雪玉を置いて、また遠くから雪を掻き集める。そうして小さな雪玉を作ったらころころと転がし始める。
 これで何往復目だろうか。そろそろ何の変哲もない小さなかまくらなら出来ていてもおかしくはないのだが、目指したのはお城。まだ三分の一が出来たかと言う所だ。それも装飾などを加味しないでの話。故に竜と聖は今も雪だるまの体になりそうな程大玉を作っては、ごろごろと仲間の元へと運んでいた。
「やっぱ身体動かしてると寒くはねェな! もっと気合れてやってやんぜッ!!」
「共鳴していないのに随分とタフだね」
「だからへーきだって言ったんだよ。外で遊ぶのは楽しいモンだろ?」
 にっと笑う聖の頬は、しかし赤く染まっていた。体の中は運動とカイロで温まり背には汗を掻く程だが、冷えた風に当たる頬や布越しでも常に雪に触れ続ける足先と手先はどうしても冷え始める。
『まあ実際はまだ必要だろうから、もっと頑張らなくっちゃね』
「ここで皆の期待は裏切れない、ってね」

 それから三時間ほどが経った。大量に作られたブロックはしっかりと積み上げられ、ようやく仲間達と花音が入っても問題のない大きさのかまくらが出来た。問題が無いか確認して、飾り付けに使う分の雪も集まると、恭也は竜と聖にストップを掛ける。
「――よし。もう雪集めは大丈夫だろう」
「なんだ、もう良いのか! じゃ、作る方に回るぜッ!!」
『……これって単なる雪山じゃないの?』
 と言っても伊邪那美の感想通り、見た目はまだ雪の煉瓦で出来た真っ白い山が出来ただけだ。丁寧なブロックの積み重ねで作った為に頑丈で、元々空洞になっているので中を抉る必要もないが、完成予想図のような城にする為には細かい部分を削らなければならないし、可愛い装飾を作る気の者もいる。
「まだ、基材を作ったに過ぎんから全体像は見えて来ないぞ」
 そう言うと恭也はかまくらを完成させるべく、ナタやのこぎりで形を削り出し始めた。雪集めの一仕事を終えた聖も、力の要りそうなその作業を手伝う事にして道具を借りる。そして完成予想図と同じになるよう、刃を刺し込んだ
「えっと、ここは……こうだ、なっ!?」
……が、照準がぶれておかしな所が削れてしまった。
「あー……」
「少しくらい想像と違う事もあるだろう。気にせず進めよう」
「有難うな、恭也さん。って、うわっ!? また!」
「だからうちのメイドが言ったっしょ。こんな凍ばれる中で生身でずっと雪に触ってたら、多少の防寒したってそりゃ手も悴んでくるわよ」
 いくら自分が平気だ、と思い込んでも対策を講じねば結果として成る物は成る。約束通りに様子を見に来た花音が、呆れた目で聖を見つめていた。
 そんな相棒を余所にLe..はやって来た花音の面倒を見ようと、とことこと近付き飾り付けを勧めた。
「丁度良い……好きな飾り付け、する」
「うーん、そうね。図の通りならそのままでも好きなんだけど……リボンとか、付ける?」
「やろう、やろう」
 外が少々騒がしくなっている間、ルーシャンと竜は内装を仕上げていた。中が広く出来た為、ルーシャンはお茶会をする為の椅子やテーブルの形を作って固める。竜は自分が描いた図を思い返し、それに見合った飾り付けになるよう窓や燭台のような形を削り出した。この内装は、完成するまでの秘密だ。
「あとは、かまくらの周りに雪像を作ってみたいの」
「うーん、時間あるかな。二人の方が早く終わるだろうし、俺も手伝おうか」
「ありがとう……♪」
 ルーシャンはふわ、と微笑んでお礼を言うとかまくらを出る。そこでは既に明珠と七海が何体かの雪像を完成させていた。
「七海おねえちゃんと明珠おねえちゃんも作っていたのね」
「あら。ルーシャンさん達も何か作られるのですか?」
「雪うさぎさんとかきつねさんを……わあ、猫さんがいるの!」
 そうキラキラとした目が向けられた小さな猫の雪像前で、七海が縫いぐるみのトラを抱えて何やら喋り掛けていた。
「ほら、トラのお友だちだよ。……トラも緊張してるの?」
 くいっとトラの腕を持ち上げようとするも、何やら硬くて動きが鈍い。
 それもそうだ。長時間寒空に晒されたトラは、ガチガチに凍っていた。

●上手(?)にできましたー
 作業を終えたリンカー達は出来上がったかまくらを前にして集まっていた。依頼主が見上げる様子を眺め、その沙汰を待つ。
 煉瓦模様はそのままでお洒落。リンカー達と花音が入ってもまだ余裕のありそうなどーんとした大きさ。ちょっとやそっと押したり叩いたりしても崩れない、かまくらとしては問題のない作りだ。だけど。
「……なーんか、始めに見た素敵なかまくらの図とは違う気がする……」
 それ以外の見た目は……何だか形が歪なような、物足りないような。完成予想図は花音としてもばっちりだったのだが、絵に描いた餅ではどうしようもなかった。
 かと言って空の陽は沈み始めているし、今から修正を加えるのは難しいだろう。これにて完成だ。
 外観を確認した後、リンカー達と花音はかまくらの中へと足を踏み入れる。火を焚かずとも不思議と外より温かいその空間が体を冷やした者には嬉しい。だがそれよりも目を惹かれる内装に、花音はわあと声を洩らした。
「ご満足いただけたかい? お嬢様」
「そうね。ちょっと残念な部分もあったけど、大きさは合格だし、それなりに気に入ったわ」
「お待たせ致しました、お嬢様」
 依頼主からまあまあの評価が下されたその時、メイドと彼女を手伝っていた明珠が七輪やお餅、温かいお茶を持って現れる。
 かまくらと言えばお餅。かまくらを作るのに働いてお腹も減っているだろうから、と用意されたものだった。
 お茶もお茶できゅっと飲めば、あっと言う間に体を温めてくれる。湯呑み越し伝わる温かさ、喉を通る熱、お茶の香り。すっかり皆の元気が復活して、遊び盛りの者達はわいわいと騒ぎ始めた。
「餅を焼くのは俺が手伝おう」
「では私は調味料などを持ってきますね。何かお好みは御座いますか」
「年長組は磯辺焼きで良いかな……年少組は砂糖醤油を付ければ問題は無いな」
「では、少々お待ちくださいませ」
 その言葉に遊ぶ時間があると見た伊邪那美が、ぴっと手を挙げ皆に提案する。
「じゃあお餅が準備できるまで、皆で雪合戦しようよ!」
「おー、賛成ー。お茶で体も温まったし、体力残ってるやつはもう一遊びしようぜ」
「ねえねえ、依頼主のキミも一緒に遊ばない?」
「いいわよ。でも負けたって知らないわよ!」
 子供は風の子元気の子。そうでない者もまだ遊ぶ体力だけは残っていたようだ。手伝いに回っている明珠、恭也以外の人間は全員外へと出て雪合戦をする事になった。
「皆、元気だな……」

「やっぱみんなでこう言うのやるのは面白ェよな!」
 びゅん! と投げられる雪玉。しかし聖は手加減をしている為、誰の体にも当たらない。そこに伊邪那美の雪玉がぼすっと当たりそれ以上の言葉が塞き止められる。
「あははは! 顔が雪で真っ白――ぶふっ!」
 指をさして笑った傍から、自分も同じ目に遭って雪に大の字を作る伊邪那美。当てたLe..は無慈悲な程まったりと言った。
「……こうして、思いっきり投げる」
「むっ、やるわね。でも負けないわ」
 少女陣が容赦ない中、金獅もやはり手加減をしていた。作った雪玉を見せつけ、「ほら、雪玉投げるぞー」と宣言をする。そうしてゆっくりと放られた雪玉だったが、七海は上手く逃げられず慌ててトラを前に突き出した。
「ひゃっ!? ……ああ、トラ……私の身代わりになってくれたんだね……」
「皆さん、お餅が焼けましたよー」

 ぷくっと膨れたお餅に醤油の香ばしい香り。海苔がそっと加える磯の風味もぱくっと口の中に含んでみぃーっと伸ばせば、お餅の楽しい食感とほんのりお米の甘さが伝わってくる。熱くてはふはふと息を混ぜながら飲み込むと、その熱と懐かしさに胸の辺りがほっとする。砂糖醤油はそれよりちょっとお子様向けで、甘塩っぱさがよく口に馴染む。
 小さな口で可愛らしくむぐむぐとそれを食したルーシャンは、ふんわりと微笑みながら竜とアルセイドに今日のお礼を言った。
「竜おにいちゃん、お手伝いありがとね。すっごく助かったの! アリスも一緒に頑張ってくれてありがとう」
「ルゥ様の為ならばどんなお手伝いでも」
「はい、二人共お餅あげる! あーんして♪ 」
「えっ、いいのか? ……あーん、うん! 美味しいよ!」
「もうっ、竜ってば嬉しそうにしちゃって!」
 網の上にある熱々のお餅を引っ掴み、シオンはじとっとした目で竜を見つめる。そのまま丸ごとあーんと詰め込まれない事を願おう。
「……楽しかった?」
「久しぶりにあんなに本気で雪合戦したわ」
 言葉少なに花音に訊ねたLe..は、微妙な変化ながらうむり。と満足そうな表情を見せる。

 すっかり全てを愉しみ終えてリンカー達が外に出ると、空は真っ暗に染まっていた。他の建物が殆どないここからだと星と月の輝きがよく見える。だが、それよりも明るい光がかまくらや周囲を照らしていた。ひっそりとかまくらに設置されていたLEDライトの光であった。
 薄暗い白が広がる世界に、ライトアップされたかまくらが幻想的に浮かび上がる。更にその光を受けた雪像がキラキラと星のように煌めいていた。埋め込まれたビーズやオーナメントが反射しているのだ。まるで地上にも一つの空が生まれたようである。
「今の時代って凄い物が出来たよね……光を生み出すのに熱が出ないなんて信じられないよ」
 惚けたように暫く景色を堪能してから、花音がはっと一番重要な事を思い出す。
「ああ、そうだ。今日のアルバイト代を渡さなきゃね」
 そう言われると、メイドからそれぞれに報酬の入った封筒が手渡された。ただし、七海の分だけは他の者より軽い。それは五々六が来ず他の者より働けなかった分だ。自由気ままな性分もまた彼の個性であり、安易に咎められる事ではない。だが、時によりリスクが発生すると言う事だけは覚えていてほしい。
 まあ、報酬だけが人生の全てを彩るものではない。差があろうとなかろうと、体を動かし一日を精一杯に楽しんだ彼等は皆、温かい布団の中でぐっすりと眠りに就くのだ。大切な一日の思い出を、頭の中にしまい込むように。そこだけは誰も変わらない一日の終わりなのだ。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • Analyst
    宇津木 明珠aa0086
    機械|20才|女性|防御
  • ワイルドファイター
    金獅aa0086hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • エージェント
    七瀬・竜aa0102
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    シオンaa0102hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 希望の守り人
    ルーシャンaa0784
    人間|7才|女性|生命
  • 絶望を越えた絆
    アルセイドaa0784hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
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