本部

強さの理由

ゆあー

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2015/12/12 12:02

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姫桜りりか

掲示板

オープニング

●調査活動の報せ
「あぁ? なんだよこりゃ」
「H.O.P.E.エージェントに向けたインタビューとかアンケートみたいなモンでな。急用で担当官が出払っちまってて、人手が足りねぇんだ。お前さんなら気兼ねなく聞けるだろ? 報酬も出るぜ」
 中年事務員から手渡された資料を訝しげに見遣りながら、メメント・モリ(az0008)はボリボリと頭を掻く。
 資料の見出しにはゴシック体で『エージェント意識調査』の文字が躍る。
 意識調査……過去数度に渡って行われたその内容は英雄との関係性であったりとか、誓約に至るまでの経緯であったりとかだ。
 詰まる所、H.O.P.E.内における能力者と英雄のデータ収集、その一環である。
「インタビューなんざ興味ねーよ。大体、どういう奴に聞けば良いのかピンとこねーしな……」
「へぇ、そうか。今回の調査内容は『あなたの強さについて教えて下さい』――って云うんだが、そうか。興味無いなら仕方ないな」
 いそいそと資料を引っ込める中年事務員の呟き。そこで、メメントの耳がピクリと動いた。
「今なんつった?」

●強い奴に会いに行く
 日常と非日常の合間、クリスマスシーズンが近付く昼下がり。
「アンジェロ、お前はどうやって強くなったんだ?」
「は?」
 唐突なメメントの問いかけに、アンジェロ・ダッダーリオ(az0008hero001)は胡乱げな声と視線を返した。
 また暇潰しに喧嘩を売りたいのかと眉根を寄せたアンジェロであったが、メメントから事情を説明されると少しだけ考える素振りを見せ。
「さあね。……強いて言うなら、英雄だからでない」
「つまらねーな。そんな答えが聞きたいんじゃねーんだよ」
 どこか投げやりなアンジェロの言葉に、メメントは首を横に振りながら調査用紙を握り締めた。
「ここ数か月で強ぇ奴らが――もっと強くなりそうな奴らが、どんどん増えてるのは分かってんだろ?」
 強い奴。強くなりそうな奴。そして、これから強くなろうとしている奴。
 彼らを平和な日常から、非日常の戦いへと駆り立てるものはなんだ?
「尋ねに行こうじゃねぇか。強さの理由ってやつをよ」
 いかにも愉しげに歯を剥いて笑い、メメントは大股で歩き出す。
「……モリくんだけだと、心配だよな」
 首筋へと手を当てた後、アンジェロは大きなため息をつきながらその後ろに続いた。

解説

●メメント&アンジェロ……今回の調査活動におけるインタビュアー。
 昼下がりのH.O.P.E.本部内にて、あなた方を見つけた彼らによって突然のインタビューが始まります。
 メメントはこの答えに対してとても興味を持っており、自分の強さに繋がるものを吸収したいと考えています。
 アンジェロは興味がないフリをしていますが、戦いに身を置く英雄達の話を聞きたいと思っています。

●調査内容……『あなたの強さについて教えて下さい』
 強くなるために行っている事や、その強さで何をしようとしているのか。そもそも強さってなんなのか。あなたが思う強さとは?
 メメント達に答えてあげたりあげなかったり、質問したりされたりして下さい。
 調査内容が充実したものであればH.O.P.E.からより多くの報酬が期待できます。

リプレイ


 意気揚々とH.O.P.E.本部へ繰り出したメメント・モリ(az0008)とアンジェロ・ダッダーリオ(az0008hero001)
 程無くして、割と目立つその姿を見止めて声を掛ける者が現れた。
「よォ、久しぶりだな!」
「レヴィンか。丁度良いとこに居るじゃねーか」
 所用にて、相棒のマリナ・ユースティス(aa0049hero001)と共に本部を訪れていたレヴィン(aa0049)その人だ。
 愚神討伐任務にて同行した折から、なんとなく波長が合うらしいこの二人の間には交友がある。
「お二人ともお元気そうで何よりです。……丁度良い、ですか?」
「いや、アンケートみたいなものなんだけどね」
 挨拶もそこそこに、小首を傾げたマリナへとアンジェロが調査用紙を渡して見せる。

「強さについて知りてぇだと? だったらまずは俺に聞くのが筋ってもんだろ!」
 レヴィンが見せたその反応は、メメントの予想と期待を裏切らないものであった。
「強さの理由なんか簡単だぜ。それは俺が『俺』だからだ!」
「……それ、理由になってんのか?」
 満を持しての答えも、やはり予想を裏切らない。
 思わず半目になるメメントだが、レヴィンは全く気にせず言葉を続ける。
「俺が強ぇのは当たり前なんだよ。なにしろ俺自身が強さを象徴してるようなもんだからな……」
 浮かべるのは、欠片ほどの揺らぎもない不敵な笑み。
「――この世で一番強くてカッコいいのは俺だ!!」
 己の力と可能性を信じて疑わない強烈なエゴ。
 ある意味で英雄的なこのメンタリティこそが、レヴィンが備えた最強の資質なのかもしれない。
 ここまで突き抜けているといっそ清々しいものがあると、メメントは肩を竦めて笑うのだった。

「強さについて、ですか。簡単そうに見えて奥が深い質問ですね」
 そんな能力者達をさておいて、レヴィンの英雄マリナは思案顔を作って言葉を選ぶ。
 彼女が『正義』を示すために、強さは必要不可欠なものだ。ならば、その強さを支えるものとは。
「強さとは……『力』と『心』、両方を兼ね備えていることだと私は思います」
 どちらが欠けても、どちらかに傾きすぎても、強さはきっと遠ざかるだろう。
 揺れる天秤にも似た危ういバランスの上でこそ、彼女の定める強さ――即ち、正義が成立するのだ。
 一旦言葉を切ると、マリナはちらりとレヴィンへと視線を遣る。
「レヴィンは……自信過剰で短絡的でお馬鹿ではありますが、確かな強さを持っています」
 マリナのやや辛辣な言葉に、納得した様子でアンジェロが頷く。
 揺るがぬ自己を確立しているレヴィンならば、力と心の均衡を誤る事は無いだろう。
 ――そこで、マリナが抱える不安を表すかのように三つ編みが揺れた。
「でも、私は……どうなんでしょうね」
「……なにか悩みかな? 聞いて良い内容なら、聞いておきたいのだけども」
 今度はインタビュアーであるアンジェロが言葉を選ぶ番だった。
 かつて彼女を“物騒な一角兎”と評した愚神と、その愚神が残した呪いめいた歌。
「なるほど。考えた事も無かったな」
 ――愚神がこの世界を蝕む事と同じように、英雄もまた能力者を蝕むのではないか?
 マリナが危惧するその内容を断片的に書き留めながら、アンジェロは少しだけ考える素振りを見せ。
「まぁ……レヴィンくんと一緒なら、心配無いんじゃない?」
 彼女と誓約を交わした唯一人の存在。英雄にあって愚神に無いもの。
「なんだよ、俺の話か!?」
「……えぇ。レヴィンの話ですよ」
 レヴィンの内に、確かな正義がある事をマリナは知っている。
 注目に気付いたレヴィンが嬉々として応えるのを見て、マリナは小さく微笑んだ。


 協力を申し出てくれたレヴィン達を加え、メメントが次に向かったのは本部内にある資料室だった。
「アンゼルムを倒すには……さて、どうしましょうか。向こうもそろそろ本気みたいですけど」
「過去の戦闘記録は当てになりそうにない、が……」
 アンゼルムとの交戦記録を改めるメグル(aa0657hero001)に、同じく報告書を確かめていたヴィント・ロストハート(aa0473)が思案と共に言葉を返す。
 メグルとヴィントが共有する目下の関心事は生駒山を巡るアンゼルムとの戦だったが。
「「あっ」」
 レヴィンとマリナによってその存在を補足された事で、ヴィント達の会話は一時中断される運びとなった。
「お久しぶりです。今日はミシロさんと一緒では無いのですね」
「……えぇ、まぁ。つくしは、食べ歩きとか言ってましたね」
 マリナの挨拶にメグルが僅かに表情を曇らせた。メグルの脳裏に、生クリームの盾にされた苦い……甘い記憶が蘇る。
「知り合いか。話が早くて助かるぜ」
「なんの話だ?」
 今一つ状況が読み込めず疑問符を浮かべるヴィント達へと調査用紙を手渡される。インタビューの始まりだ。

「――決まってるだろ。愚神共を狩り、一つ余さず奪い尽くす。それが『理由』だ」
 調査用紙を手渡されたヴィントは、迷う事無くその理由を口にした。
 この力で何を為そうとするのか? 彼にとってそれは、考えるまでも無い事だ。
 誓約の代償として課せられた、身を焦がすようなヴィントの破壊衝動。それを満たせるのは愚神との戦いだけなのだから。
「ギラギラしてて良いじゃねーか。そうして愚神を狩り尽くすのが目的か?」
「それは理由であって目的じゃないな。俺の目的は――」
 しかし彼には、その破壊衝動を満たす事よりもずっと大切な事がある。
 紅い布で覆われた左腕に無意識の力を篭めながら、ヴィントは己の掲げる最大の目的を語った。
「この力を完全に自分のものにし、アイツを呪いから開放してやる事。俺が強くなって力を支配出来れば、アイツが呪いに苦しむ事も無くなる」
 彼と誓約を交わした呪われし英雄の存在。
 愚神を狩り続けて強くなれば、その身に抱えた呪いから解放してやる事が出来る筈だ。
「つまり、英雄のためって事か?」
「そうだ。アイツは……俺の大事なパートナーであり、たった一人の『家族』だしな……強さを求める目的なんて、それで十分だ」
 ヴィントの表情は常と変わらないものの、その口調は幾分穏やかなものだ。
 感情の起伏に乏しい彼だが、いかに英雄の事を大切に想っているかがよく分かる。
「この身は奪うだけの凶刃、だが……それでも救えるものがあるのなら、俺はこの魂を狂気に陥れる事も厭わない。それがアイツと交わした誓約だ」
 その決意は自身と、自身の名を分け与えた英雄のため。
「……こんなところだ。満足したか?」
「あぁ、大満足だ。そこまで言わせる英雄にも、興味が湧いてきたぜ」
 これで強くならないワケが無いと、メメントは満足げに頷いた。

「強さの理由……ですか」
 一方。即答したヴィントとは対照的に、メグルは考え込む。
 突然の転移。なし崩しの誓約。ワケありの能力者。
 忙しい日々の連続で強さについて考える機会など、とんと無かったというのが正直な所だったが。
「――強いて挙げるのなら、死なせたくない相手がいるからこそ強くなる。強くあらねばならない……でしょうか」
 かつての世界で味わった死の感覚を、メグルは知っている。
 そして理不尽な死から大切な者を守れない事は、きっと自身の死よりも辛い筈だという事も。
「だからどれだけ強大な相手でも立ち向かいますし、立ち向かえるように強くなりたいと思います」
「なるほど。……ところで、君の死なせたくない相手っていうのは?」 
 アンジェロの質問に、メグルは僅かに眉根を寄せた。
「それは置いておきましょう。とにかく……どんな強さであれ、そこには自らの『想い』や『願い』が絡んでいると僕は思いますよ」
 結局その答えをはぐらかしてから、メグルはそう言って話を締める。
 ……尋ねられた時、真っ先に思い浮かんだのは色々な意味で世話の焼ける能力者のお気楽な笑顔。
 今頃どこで食べ歩いているのやら。帰ってきたらまたお小言を言わねばならないかもしれない。
 仏頂面のまま、小さくため息をつくメグルであった。


 順調に運んでいたかに見えた調査活動だが、ここに来てインタビュアー達は大きな壁にぶつかっていた。
「あー……。いや、別に取って食おうってワケじゃねーんだけどよ」
 本部に寄せられる依頼を確かめていた木陰 黎夜(aa0061)を前にして、メメントが困ったように頭を掻く。
「……」
 エージェントだろうと当て込んで声を掛けた――までは良かったものの。
 ぬいぐるみを抱き締めて固まってしまった黎夜の表情は、控え目に表現して恐慌のそれである。
「いきなりでアレなんだけどさ。怪しい者じゃなくて」
「ち、近寄らねーでくれ……!」
 フォローのために進み出ようとしたアンジェロだったが、やはり取りつく島も無く。
「……オレって怖いのかな」
「なにやってんだよ。俺が替わってやろうか?」
「駄目ですよレヴィン、ここは私が」
 微妙にショックを受けたらしいアンジェロに、どうしたものか対応に窮するメメント。
 見るに見かねたマリナとレヴィンが助け舟を出そうとしたその時だ。
「――もう、駄目じゃないですか。一人で先に行くなんて」
 一人の少女が、子供を落ち着かせるように背後から黎夜を抱きしめた。
 つい先程インタビューを終えたヴィントのパートナー、ナハト・ロストハート(aa0473hero001)である。

「え? 強さとは……ですか?」
 少しの時間が経過した後。黎夜が落ち着くのを待ってから向けられた質問に、ナハトが応えた。
「――私にとっての強さとは、大切な人を守る為の力だと思ってます」
 その答えは、他者を傷つける呪いを背負う彼女だからこそか。
「それに、強くなる事よりも何の為に強くなるのか……それが重要だと思いますよ」
 更に、ナハトは『ですが』と付け加え。
「強大な強さは、同時に孤独をもたらします。望む望まぬ関係なく……」
「孤独?」
「はい。――だから、独りで強くなろうとは考えないで下さい。でないと、私達みたいになってしまいますから……」
 ナハトが発した忠告めいた言葉の意味は、メメントには理解出来ないものだったが。
 強さによって多くのものを失った彼女の言葉には、確かな重さがある事が分かる。
 ……そうしてナハトが答えを終えた後、その遣り取りを見ていた黎夜がおずおずと口を開く。
「強さは……怖いものや、苦手なものを克服すること、だと思う……」
「おっ、ようやく喋る気になったか!」
 勢い良く喰い付いたメメントから逃げるようにナハトの背に隠れ、モフモフのぬいぐるみで心を落ち着かせながら黎夜は言葉を続ける。
「……うちは、男の人が怖い」
「あぁ……そう言う事か。ワリぃ、無理させちまったんだな」
 知らなかったとはいえ、無神経が過ぎたかもしれない。
 ばつが悪そうに謝罪するメメントだったが、しかし黎夜は首を横に振った。
「ううん……今も男の人がいる場所に慣れる、訓練……だったから」
 メメント達だけではない。このままの状態では依頼を共にするエージェント達にも迷惑がかかる事を黎夜は自覚している。
 だからこそ、恐怖を押し殺してこのインタビューに答えているのだ。
「――誓約で、今一番克服したいことだから、強く、なりたい」
 英雄との誓いを確かめるように。自分自身に言い聞かせるように。黎夜はゆっくりと、確かに宣言した。
「……おう、強くなってくれよ? 楽しみにしてるぜ」
 相変わらずナハトの背に隠れたままの黎夜へと、メメントは不器用な激励の言葉を投げた。

 ――インタビューを終えたメメント達の背を見送ってから、黎夜がナハトへと向き直る。
「ありがと……助けてくれて」
「いえ、そんな……少しでも安心して貰えたなら、それで十分ですよ」
「……後でお礼、させてくれると嬉しい……」
 柔和な笑みを浮かべるナハトへ、黎夜は遠慮がちな感謝の言葉を告げるのだった。


 インタビュアー達は、本部でなおも調査活動を続ける。
「……う~ん、腕っ節という意味なら、わたしは実家が古流剣術を伝える家系で、小さい頃から剣術を中心に様々な事を学んでたわね」
 本部敷地内を散歩中、突然のインタビューに見舞われた雨流 明霞(aa1611)は自身の幼少期を想起しながら答えた。
「へぇ、英才教育ってやつか! そういうのもあるんだな」
 思わず感嘆の声をあげたメメントに、明霞は少し遠い目をして苦笑いを返す。
「……えぇ、まぁ、そのぉ。最近になって『何で私が学ぶ必要あったんだろう』と疑問は持ちましたけど」
 二十歳を過ぎてから浮かんだ明霞の疑問もどこへやら。
 今やOLとエージェントという二足の草鞋を立派に履きこなす明霞である。
 しかしながらその現状を悲観しているのかと言うと、決してそういうワケでも無く。
「――今では相棒の征士郎と一緒に戦えるのが……不謹慎な表現かもだけど、楽しいの」
「楽しい、か。そりゃあ良いじゃねーか」
 その言葉に同調するように笑いながら、メメントはその先を促した。
 使命、正義感、復讐心。強さの理由足り得るものは、きっとそれだけではない。
「わたしは……戦いから学べる事、自分がもっと成長できている事が実感できるのが嬉しくて戦ってるのかも」
 過去の教育と、今の戦い。どちらにも『学び』が存在する事を知り、それを楽しむ事が明霞が備えた『強さの理由』に違いない。 
「……あ、あとは依頼に成功して報酬をもらった時とかも嬉しいけど!」
「おう、ちゃんと報酬は出るぜ。……気持ち程度にな!」
 インタビューに対する報酬を期待してか瞳をキラキラと輝かせた明霞に、メメントは明後日の方向を見ながら応えた。

「強さには色々ありますよね。武器を扱えること、強力な魔法を使えること……」
 スマートフォンを弄り、黎夜宛てのメールを作成しながらアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)が言葉を紡ぐ。
 バイトからの帰り道、黎夜を迎えに行く途中で明霞ともどもメメント達に捕まった形だ。
 女性言葉に可愛らしい絵文字を散りばめたメールの送信を完了してから、アーテルは答えを返す。
「でも……俺にとっての強さは知識と、それを扱える技量です」
「知識と技量……?」
「例えば弓。 弓はどう持ってどうすれば射ることができるか……知っていても実際に使えるかって言われると、なかなかできないものですから」
「それ、わたしもちょっと分かるかも」
 今一つピンと来ないらしいメメントに、アーテルは理路整然とした説明を行う。
 色んな本を読み、人から聞いて知識を得、そして実践する。
 それは明霞の言葉にも通じる『学び』と『実践』の大切さを説くものであり。
「知って身に付くことが強さだとしたら、色々なことができるようになって日常が楽しくなりますし。役立つこともありますよ?」
 そこで、アーテルは自身が学ぶ事で身に付けた家庭スキルを例にあげる事にした。
「例えば、料理とか」
「料理、ですか」
「布についた血の落とし方とか」
「……それは少し興味を惹かれるね」
 料理にはマリナが。血の落とし方にはアンジェロがそれぞれ反応を示す。
 これもきっと、強さの理由たる貴重な学びの機会の一つだ。


 目ぼしい相手にあらかた声を掛け終え、本部の外へと足を伸ばしたインタビュアー達。
 本部から程近い公園にて、エージェント達はついに邂逅を果たした。
「あ、パイ投げのすごかったレヴィンさんだ! こんにちはー!」
「よォミシロ! パイ投げの一件以来だな」
 元気良く挨拶した御代 つくし(aa0657)にレヴィンがフレンドリーに応える。
 依頼中に言葉を交わす余裕は無かったものの、色々な意味で凄かった互いの姿は記憶に新しい。
 なにしろ人の名前をなかなか覚えられないつくしが、ハッキリとその名前を覚えているほどだ。
「おっ、レヴィンの知り合いか。丁度良いぜ、インタビューに付き合ってくれねーか?」
「インタビュー……? んー……」
 これ幸いとばかりに唐突なインタビューを開始しようとした所で、無気力な声が待ったをかけた。
「つくしー、はやく……」
 声の主は、つくしの後ろにひっそりと佇んでいたLe..(aa0203hero001)である。
「簡単なアンケートみたいなものなんだけど。駄目かな?」
「……」
 アンジェロの問いかけに、ルゥは無言で視線を返す。
 答えはNOだ。最早食べる事しか眼中に無いと、薄い銀の瞳は雄弁に語っている。
「――今の私たちには食い倒れっていう使命があるんだよ……!」
 断固たる決意を秘めた表情でそう言ったつくし達を止める事は、この場の誰にも不可能な事であった。


「あれ、財布がねぇ……?」
 トレーニングウェアの上からプロテクターに身を包んだ東海林聖(aa0203)が自販機の前で首を傾げる。
 乾いた喉を潤そうとしたのだが、聖の懐にあるべき財布が無い。
「東海林さん。お茶で良ければどうぞ」
「おっ、サンキュー征士郎!」
 そこで水筒を差し出したのは、片手に木刀を携えた火神 征士郎(aa1611hero001)だ。
 鍛錬中に征士郎の姿を見止めた聖の提案により、彼らは先刻から実戦形式での打ち合いを重ねていた。
「思ってた通り、強いね……」
「征士郎こそな!」
 英雄と能力者の戦闘能力の差こそあれ、聖の前のめりな戦い方は征士郎の見込んだ通りの――否、それ以上の強さであり。
 パートナーである明霞との稽古とは全く異なる戦いの感触を、征士郎は純粋に楽しんでいた。
「おう、面白そうな事してるじゃねーか!」
 タイミングが良いのか悪いのか。インタビュアー達が現れたのは丁度その時の事である。

「――僕自身、この世界に呼ばれるまでの記憶は余り覚えては無いけど」
 強さの理由を問われた征士郎はまずそのように前置きした。
 英雄が持つかつての世界の記憶。それは大部分が曖昧となっているのが常だが、中には忘れ得ないものも当然ある。
「僕はお国の行く末を按じ、大義をなすために力を得る事を求めました」
「大儀、か。サムライって奴かな」
 アンジェロの言葉に頷きながら、征士郎は静かに言葉を紡ぐ。
「相手からしたら僕は同胞を数多く斬り捨てた憎むべき敵。……だからこそ、僕は大義のためにもっと力を付けなければならない」
 多くの敵を斬ったからこそ、簡単に倒れるワケにはいかないのだと。
 斬り捨てた者の分だけ強くならねば散った人達も無駄死にになってしまうのだと、征士郎はそう語った。
「……ただ、明霞と一緒で僕も戦う事そのものを、どこか楽しんでしまう悪癖があるけどね」
 それとは全く別の所で、戦いにおける刹那の遣り取りを楽しむきらいがある事を彼は自覚している。
 パートナーである明霞の顔と、先刻の聖との手合せを思い起こしながら征士郎は苦笑した。

「オレの中で、本気で強いと思ってるヤツが何人か居るがよ。オレはそいつ等よりも強く成りてェって思うぜ!!」
 聖の答えは、『強く成る』という極めてシンプルな信条だ。
 自分よりも強い者との間にある差は、単純な力だけではない事を聖は知っている。
 そして、その差が決して埋められないものではない事も、だ。
 我流のまま突き進むか、それとも実家の流派に迎合するかの迷いはあるものの、きっと聖の本質は変わらない。
「まだまだ、オレは限界じゃねぇ、これからもっと強く成って見せるぜ」
「良いな、そういうの。分かりやすくて好きだぜ」
 力強い聖の宣言を受けて、メメントは楽しげに口角を引き上げる。
 ……そこで、聖は思いついたように木刀をメメントへと手渡した。
「メメントも一緒に稽古するか? なんかインタビューってのも似合ってねぇーって言うかよ……」
「やっぱ似合わねーか。エージェント連中とじっくり話す機会なんてそうそうねーし、これも結構楽しいんだけどな?」
 メメントが木刀を受け取ったその時。つくしとルゥのペアが食い倒れ行脚を終え、公園へと凱旋を果たした。


「……ヒジリー、ごちそうさま」
 満足げな表情のルゥが聖へと何かを返す。
 何か――もとい、それは先程行方不明であった聖の財布であった。
「お、俺の財布っ……」
 すっかり軽くなってしまった財布を手に、がくりと脱力する聖。
 彼へと暫し同情の視線が向けられた後、最後のインタビューが始まった。

「強さの理由かー……んー、誰かを助けたいとか、誰かを護りたいとか……そういうあれかな!」
 出来ない人のために、出来る自分が何かをする。
 自己犠牲的ともいえるつくしの強さを支えるのは、英雄と交わした『折れないこと』という誓約だ。
「誰かのためって事か?」
「うん。私は自分に出来る精一杯を頑張るんだよー!」
 感心げな声を返したメメントへと、つくしは屈託の無い笑顔で応えた。

「力に溺れる様なコトが無いように、精神面の鍛錬……した方がいいよ。ルゥみたいに、大人の余裕……」
 ようやく口を開いたルゥは、マイペースにそう語る。
 英雄の外見年齢ほどアテにならないものはない。ルゥが大人だと言うのなら、きっとそうなのだろう。
「あと、お腹が空いてたら力が出ないし……身体も育たないし、食べる事、大事」
「あ、まだ食べるんだ」
 買い物袋から食後のデザートとばかりにお菓子を取り出し、もぐもぐと咀嚼するルゥであった。

「そういえばガイルさんは? ガイルさんには強くあるための理由ってないのかなー?」
「お、俺様はガイルじゃねー、メメントだ!」
「あっ、そうだった! とにかく聞きたい聞きたい!」
 まだ覚えていなかったらしい名前を盛大に間違えながらも、つくしはメメントへと質問を投げる。

「……理由なら決まってるぜ。強ぇ奴らと、喧嘩するためだ」
 つくしに答えながら木刀を握り締めると、メメントは聖達へと向き直った。
「稽古っつったな。一丁やってやるぜ」
「おい、楽しそうじゃねぇか――俺も混ぜろよ!」
 ここぞとばかりに乱入してきたレヴィンに、望む所とばかりに征士郎が木刀を構えた。

「あー……オレは本部に報告してくるから、やり過ぎないようにね」
 一足早く踵を返しながら、アンジェロは調査用紙へと視線を向ける。
 ――能力者・英雄とも、それぞれに異なる強さの理由。果たして彼らはどこまで強くなるのだろう?
 背後に木刀を打ち合わす乾いた音を聞きながら、アンジェロは本部へと報告に向かうのだった。

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結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 世界蝕の寵児
    レヴィンaa0049
  • Run&斬
    東海林聖aa0203

重体一覧

参加者

  • 世界蝕の寵児
    レヴィンaa0049
    人間|23才|男性|攻撃
  • 物騒な一角兎
    マリナ・ユースティスaa0049hero001
    英雄|19才|女性|ドレ
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 酒豪
    雨流 明霞aa1611
    人間|20才|女性|回避
  • エージェント
    火神 征士郎aa1611hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
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