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便利な従魔
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相談卓
最終発言2015/09/25 05:13:15 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/09/23 13:29:28
オープニング
●黒い労働
とある場所で行われるイベントの設営作業。
作業員は、指示に従いひたすら動く。ほとんどがこの日限りの短期雇用だ。
暑さと作業の中、疲労が蓄積し、息が荒い。
「立ってんじゃねーよ!」
チーフの肩書を持つ社員からの叱責が飛ぶ。
謝罪し、重い発電機を両手で抱えて運ぶが一瞬意識が寸断。
「見てんじゃねーよ!」
これは熱中症の前兆では。水分補給をしようと動くが、チーフが阻止。
「勝手に動くんじゃねーよ!」
喚くチーフの声が聞こえづらい。
「ちんたらしてんじゃねーよ!」
既に声は遠く、意識は霞み、体は勝手に震えてきた。
「何ガタついてんだよ!」
チーフに胸ぐらを掴まれたところで、作業員は意識を手放した。
「大変だ! 救急車を!」
別の作業員達が慌てだす。チーフが周囲を見渡すと、他にも数名倒れていた。
チーフは舌打ちすると作業員から手を離し、会社に連絡を入れる。
「また数名倒れました。代わりを至急よこして下さい」
『体調管理は自己責任。倒れた連中の名前を報告しろ。解雇だ』
チーフの持つ機器から会社からの非情な指示が他の作業員達にもはっきりと聞こえ、震え上がる作業員達を尻目にチーフは淡々と倒れた者達の名を報告。
『倒れた連中は放り出せ。代わりに奴らを使う』
会社から続く話にチーフは耳を疑った。
「飼いならした従魔?」
●便利な従魔
解雇した者達を放逐し、会社から4体の『それ』が搬送され数時間後。チーフは上機嫌だった。
「なるほど。これは便利だ」
数人がかりで運ぶ資材も、1体で軽々と運び、口うるさく指示を飛ばしても文句ひとつ言わず淡々とこなしていく。
他の作業員達は内心の恐怖を押し殺し、それらから距離を置き働いていた。
率先して重い機材や大きな資材を運んでくれるのはありがたかった。……連中の頭に角が生えてなければ。
ファンタジーの世界に通じる人がいれば、ゴブリンと呼ばれる存在に近い姿だとわかるだろう。
会社の話では売り込みに来た男がいたらしい。
『捕えて飼いならす事に成功した従魔です。便利ですよ』
会社も半信半疑だったが、自分達の指示に従い、危害を加えようとしない状態が続いたので購入。
そしてチーフもその仕事ぶりに、話が本当だと確信する。
やがて全ての作業が締切よりも早く終わり、チーフは満足し、会社へ報告を入れた。
「従魔を飼いならせる筈がありません。大参事になる前に、イベントを中止して、退治の依頼を……」
意を決した作業員がそう進言するが、チーフは取り合わない。
「馬鹿を言え。中止したら大損だぞ。誰も気づいちゃいない。このまま黙ってろ。喋ったら……今あの連中を動かしているのは誰か、わかるよな?」
口止めの脅しだったが作業員達には逆効果だった。
もう限界だ。
「おい、何職場放棄してやがる! てめえら全員クビだ!」
イベント会場から逃げ出していく作業員達にチーフは怒鳴り声を上げるが、その声は背後の破壊音と悲鳴で掻き消された。
●便利の報い
「警察から緊急の依頼が入りました。あるイベント会場で暴れている従魔退治です」
担当官の説明と共に、目の前に現場となる場所の地図が映し出された。
「場所はこの地域にある公民館の大型駐車場。この地域では毎年特定の時期にイベントを催すとの事で、今回のイベントもその一つです。従魔が暴れたのは、そのイベントの最中でした。その従魔達ですが、全部で4体。寄せられた情報を調べた限りでは、恐らく全てミーレス級。見た目はゴブリン、と言えばわかるでしょうか。異論がなければこのままゴブリンで通します」
目の前の地図が現場となる大型駐車場の見取り図に切り替わる。
「イベント開催中、駐車場中央にステージが置かれ、それを囲むように屋台が設営され、人々で賑わっていました。ゴブリン達は逃げ惑う人々の中から1人の男だけを捕まえ、ステージ上に連行した後、交代で男の監視と周囲の設営物の破壊に動いているとの事です。その為負傷者こそ出ましたが、今のところ死者は出ておりません」
現場に駆け付けた警察によると、ゴブリン達は捕まえた1名を除き、人々には見向きもせずイベント会社の資材の破壊に専念していた為、避難誘導は容易だったらしい。
「その捕まった1名ですが、このイベントの設営や運営、撤去を請け負った会社の社員との事で、現場では『チーフ』と呼ばれていたようです」
画面が捕まっている男の写真に変わる。警察が現場で撮影したらしく、男の両脇には、先程ゴブリンと形容した姿そのままの従魔2体が写っている。
「警察が会場の現場作業員達から話を聞いた結果、この従魔達も同じ作業に従事していました」
騒動が起きる前に逃げ出し、無事だった作業員達の証言によると、チーフが作業中に倒れた人を放逐後、会社からあの従魔達が搬送され、そしてチーフは従魔達を『便利な労働力』として作業に従事させた。
たまたま自衛の為、懐に録音装置を忍ばせていた作業員が提出したその装置からも、一連のやり取りが確認できた。
「明らかにこのチーフは事情を知っています。今はゴブリン達も破壊活動だけに留まっていますが、このまま被害が会場だけに留まり、チーフが無事である保証はありません。これ以上の被害拡大防止もありますが、詳細を明らかにする為にも、チーフの身柄を確保し、ゴブリン達の退治をお願いします」
担当官は頭を下げた。
解説
●目標
従魔達の被害を減らし、チーフを確保。
●登場
ミーレス級従魔『ゴブリン』(略称:小鬼)4体
2m弱ほどの屈強な肉体と醜悪な顔つき、角を持つ外見をした従魔。設営作業に従事していたことから、命令を聞き分ける程度の知能はある模様。武器はなく、殴る、噛む、破壊した資材を振り回す、投げつける、などの攻撃を行う。
現在4体は交代でステージ上にいる男の逃走阻止と会場の破壊を行っている。
チーフ
イベント会社社員。現在ステージ上で助けを求めている。これまでの証言などから従魔達が現れた『事情』を知っている模様。
イベント会社
チーフの所属先。警察の追及に対し『チーフの独断』と主張し懲戒解雇したと説明。できるだけ資材を傷つけないよう訴えている。なお警察はチーフの身柄を確保し自供が得られれば、会社を検挙する予定。
●状況
とある地方公民館前の大型駐車場。幅70m、奥行き50mの平面。イベントの為、中央にステージが設置され、ステージ前の観客席を囲む形で、テントや出店が立ち並んでいた。警察からは公民館への被害がなければ問題ないとの事。
警察により、周辺道路の封鎖と参加者達の避難はチーフ以外は完了済み。
(PL情報:現場到着時には、ステージを除く設営物は全て破壊されており、障害物はありません)
リプレイ
●
能力者達が警官達に案内された現場に到着した時、一際大きな音が響いた。
何かが強烈な力で派手に壊れたような音。
音を辿るまでもない。ステージを残してほぼ更地と化した目の前だ。
「でか!? ゲームじゃ小人キャラだよね?」
都呂々 俊介(aa1364)が眼前で暴れているゴブリン(以下小鬼と略)と呼ばれる従魔達を見て、目を見張る。
俊介は身長2mの従魔を小鬼と呼称した人物にツッコミを入れたい気分に襲われた。
「小人キャラでなくても、退治する事に変わりはありません。お仕事の時間と行きますか」
横では髪と瞳の色以外は英雄の姿へ変じた填島 真次(aa0047)が周囲の残骸を積み上げ、即席のバリケードを作成していた。
彼以外も、既に全員共鳴化を終えている。そこへステージから問題のチーフがこちらの姿を確認したのか、助けを求める声が飛んできた。
「た、助けてくれ! こいつらを何とかしてくれぇ!」
その声に釣られたのか、ステージ上でチーフを見張ったり、会場で暴れまわる小鬼達の視線が、俊介、真次、そして今まさに啖呵を切ろうとしたカトレヤ シェーン(aa0218)や、大声で注意を引こうとした金鞍 馬頭鬼(aa0309)に向けられた。
「手間が省けたのは確かだな」
「月影の言ってた『チーフに見つかると面倒だ』って話、正解だったな。見つかる前に手分けしておいてよかった」
肩を竦めつつカトレヤはオーディオを取り出し、予想通り過ぎるチーフの行動に内心呆れながらも馬頭鬼は同意し、武器を顕現する。
自分達は敵の注意をひきつけ、チーフ確保を支援する【囮班】だ。
できるだけ注意をひく行動をする事で、ステージ上の従魔へと忍び寄って襲い、チーフを確保する【襲撃班】の仲間達の援護となる。
馬頭鬼の話に合った月影こと、月影 飛翔(aa0224)は【襲撃班】として、九字原 昂(aa0919)、カペラ(aa0157)、メリッサ(aa1401) と共に別ルートを進んでいる。
予め周囲を固める警察に、チーフや小鬼達に気取られずにステージに近づくルートがないか確認したところ、公民館がある方角には小鬼達もチーフも注意を向けていないと回答があり、今は警察の案内と共に向かってる最中だ。
カペラやメリッサは迅速にステージに向かう予定だったが、チーフを確保した後、近くに警察がいた方が迅速に身柄引き渡しがやりやすくなると考慮し、昂も近くに警察がいる事の有効性に賛意を示し、結果全員が歩調を合わせている。
「待たせたな!カトレヤだ!相手しに来てやったぜ!」
改めてカトレヤは小鬼達に啖呵を切ると、手持ちの機器で音楽を響かせる。
音楽は破壊音とチーフの声をかき消し、カトレヤ、馬頭鬼、俊介は地を蹴ると、残骸の間を器用にすり抜け、小鬼達に向けて疾駆する。
後方ではバリケードを遮蔽物にした真次が、自分の身長分もある長さの狙撃銃を顕現。小鬼に狙いを定め、引き金を引いた。
銃声が吹きあがり、放たれた弾丸は、3人を迎撃しようと駆け寄ってきた小鬼2体の片方を穿ち、撃たれた小鬼はがくりと速度を落とす。
そこへ馬頭鬼が大鎌を旋回させて襲いかかる。
「てめえら位の大きさなら何体も相手にしてきたぜ、かかってこいやぁああ!」
小鬼も丸太といって差し支えない腕と爪刃を振るって応戦するが、横から俊介の握る、水のようなライヴスを纏う三叉槍が繰り出され、大鎌の斬撃と三叉槍の刺突を相手に苦戦する。
一方、狙撃を免れた小鬼にも、カトレアが躍りかかる。右目と髪の一部を赤色に変え、振るう扇子を輝かせ、音楽のリズムに乗って、小鬼を強かに打ち据える。
「来いよ、遊んでやる」
カトレアの挑発に小鬼はいきり立ち、猛然と反撃した。
小鬼達は気づかない。彼らが巧みにステージから自分達を引き離している事を。
●
一方ステージ上の小鬼達も、目の前の戦闘に気を取られている。戦いにつられ、2体ともチーフから離れた時だった。
「輝きよ、爆ぜよ」
思わぬ方角から聞こえた声に小鬼達が振り向いた次の瞬間、見開いた目に、飛んでくる銀の光がみるみる大きく膨れ上がり、衝撃と共に跳ね飛ばされる。メリッサの銀の魔弾だ。
別の小鬼の目にも髪の一部に黒さが残るカペラの疾駆が飛び込んできたが、迎撃しようと構えた瞬間、カペラの姿が二つに割れ、小鬼が目を剥いた。
ともに同じ姿。1人が2人になった状況に狼狽する中、目の前まで距離を詰めた2人のカペラが盾を水平にして小鬼を殴り倒す。
さらに駆けつけた飛翔の大剣を伴う体当たりを受け、メリッサの攻撃を受けた小鬼も、飛び込んだ昴のパイルバンカーを受け、それぞれ勢いよくステージから残骸の転がる地面へと吹き飛ばされた。
チーフは唖然とした表情で、唐突に乱入してきた3人を見つめていた。メリッサは術の間合を保つ為、やや後方に残ったままだ。
やがて自分に救いの手が来たと実感したチーフは、たまたま近くにいた昴の体にしがみついて懇願する。
「た、頼む! こいつらから俺を守ってくれ!助けに来てくれたんだろ!?」
しかし昴は迷惑そうに体にしがむつくチーフを引きはがして、後方にいたカペラに放り投げる。
「そいつを頼みます」
昴はそう言い残すと、ステージから下りて小鬼のもとへ向かう。
ステージから落ちた小鬼と対峙する飛翔も冷ややかな一瞥を送るのみで、肯定の返事はない。
「生憎、あんたを助けに来た訳じゃないの。確保にきた。それだけよ」
「いでででででっ!」
昴に放り投げられた先で、チーフはカペラに襟首を掴まれ、逃げない様しっかり関節を決められる。
悲鳴を上げるチーフをカペラは警察のもとへと引きずっていく。
途中、すれ違ったメリッサからチーフは奇妙な言葉を告げられ、困惑した。
『良い、貌ね』
しかし意味を知る間もなく、チーフはカペラの手で待機していた警察官達に引き渡された。それを確認するとカペラは戦場へと駆け戻る。
カペラよりチーフ確保の連絡を受けた飛翔は『囮班』の仲間に大声で報せた。
「チーフ確保! 邪魔者は消えたぞ!」
「これもお仕事ですからね。邪魔者なのは同意しますが」
飛翔の物言いに昴は苦笑を漏らすと、肩を回し腕のパイルバンカーを構え、小鬼に突貫する。
ここからが本番だ。
●
報せを受けた『囮班』の4人は、これまで誘引目的だった戦闘を攻勢に切り替えた。
「It's a show time !」
それまでのリズムに乗った退避の歩みから一転して攻めのリズムに変わり、カトレヤは小鬼を翻弄する動きで輝く扇子を振りかざし、小鬼の体にダメージを積み重ねていく。
なおも振り下ろされる小鬼の剛腕をカトレアは横に飛びのいて躱すと、入れ替わるように、後方より飛来した弾丸が、小鬼の肩を貫いた。
「余所見など、している暇はありませんよ」
真次の鋭い一射に小鬼の意識が逸れた瞬間、カトレヤが小鬼の懐まで踏み込んだ。
「遅い!」
魔法の光を置き去りにして、クリスタルファンが小鬼の鳩尾に重い一撃として叩き込まれ、小鬼の腹が大きく陥没した。
苦痛に顔を歪める小鬼が地面に両膝を突き、カトレヤが再び横に逸れる。
次の瞬間、小鬼の頭がストライクを帯びた一撃で貫かれ、吹き飛んだ。
「従魔を労働力として使おうとか、その時点で既にダメですね。だからブラックって言われるんですよ」
塵となって消滅する小鬼を仕留めた真次はそう呟いた。
もう一方の小鬼の周りでは、一騎打ちもしくは1対2の戦いが交互に繰り広げられてた。
「しっかりしろ、都呂々。こいつの命中と回避はそれほどでもねえ」
「本当ですか?」
馬頭鬼にそう言われ、俊介も小鬼からの爪撃を、武器で受けるのではなく飛びのいてみると、小鬼の爪は虚しく宙を斬った。
小鬼の動きをずっと観察していた馬頭鬼の眼は、小鬼の特性を見抜いていた。
「わかりました。これ以降は一撃離脱でダメージを重ねていきます」
馬頭鬼と俊介は、機動力と連環を意識した戦いに切り替えると、やがて大鎌と槍の刃の光が小鬼の周囲に吹き荒れていく。
俊介の攻撃を小鬼が受ける間に、馬頭鬼は小鬼の背後に回り込み、リーチを活かした脚への斬撃を集中させ、小鬼が馬頭鬼の方角に体を向けたら、今度は俊介が背後からの攻撃役となり、上半身に攻撃を繰り出し、再び自分に小鬼の注意を向けさせ、馬頭鬼の攻撃を支援する。
小鬼が前後、脚と上半身いずれにも防御を集中させぬよう、うまく攻撃を分散させ、切り刻んでいく。
やがて遂に小鬼の足が止まり、隙が生じた。
2人の攻撃は同時だった。
俊介のトリアイナが小鬼の胸にまっしぐらに襲いかかる。
三叉の穂先はそれまで二人の攻撃から身を庇ってきた腕を弾き、背中まで貫通する。
眼を見開いた小鬼の首を、馬頭鬼のグリムリーパーが残光の残る速度で一閃し、宙に飛ばしていた。
「ゴブリンっていうより、オーガみたいなデカさとしぶとさだったじゃねえか…ま、倒した事には変わりねえが」
ため息をついて座り込む俊介の横で、馬頭鬼は塵と化す小鬼を見送った。
●
魔力を収束し、活性化し、銀の弾丸へと鋭化する。
「装填。銀の魔弾」
メリッサから放たれた銀の戦意が、正確に小鬼の体を穿つ。
衝撃で飛ばされ、残骸を巻き添えにして小鬼が転がる先に飛翔が追いつき、地を擦るような下からの大剣の斬撃を浴びせ、小鬼を宙に跳ねあげる。
「使えそうな資材も守らねえとな。会社の言い分を聞くのは癪だが」
なおも落下先へ駆ける飛翔。戦闘中に見つけた、少し手を加えれば使えなくもない資材が背後に残存する。少しでも残す為、飛翔と昴は小鬼が吹き飛ぶ先も攻撃で調整していた。
そして再び跳ね飛ばされた先に、昴が待ち構えており、飛んできた小鬼に杭打ち機を叩き込む。
「震えろ」
轟音と共に、重く鋭い一撃が小鬼の体内へ叩き込まれる。
従魔なるもの。その存在諸々全て。
「躊躇なく、消し飛ばすわね」
そしてメリッサから放たれた銀の魔弾が、再び小鬼に襲いかかる。
昴のパイルバンカーを喰らった時点で風前の灯だった小鬼に、抗する術は残っていなかった。
「飛翔。あと1体だ」
メリッサの魔弾を受け、消えていく小鬼に見向きもせず、昴は飛翔にそう告げると最後の小鬼のもとへ駆ける。
現場に慣れてきたのか昴の口調が変わりつつある。
その小鬼は公民館へ向かっていたが、割り込んだカペラに行く手を阻まれる。
「資材はともかく、間違っても公民館への被害は出さないようにしないと、ね!」
振り下ろされる小鬼の爪を、透明な盾で防ぎ止めると、カペラは強引に押し戻し、小鬼はたたらを踏んだ。
再びカペラの体が二つに割れ、カペラの攻撃が小鬼に叩き込まれたが、小鬼は呆然としたままだ。そんな無防備な姿を能力者達は見逃さない。
昴のパイルバンカーが唸りを上げて小鬼を穿つ。直撃を受けた小鬼は悶絶するが、まだ倒れない。
「これで終わりにさせてもらおう」
駆けつけた飛翔の大剣が一閃し、防御の姿勢を見せた小鬼の腕を跳ね上げる。受け止めた腕が斬り飛ばされ、翻った大剣が落下して小鬼の頭を叩き潰す。
さらに飛翔は身体を半回転。回転力を上乗せした渾身の横薙ぎが、小鬼を両断し、その姿は塵になって消えていった。
●
こうして公民館に被害も出さず従魔4体を退治した能力者達だったが、まだやる事が残っていた。
警察から確保したチーフが危険手当を請求したいから、能力者達の証言が欲しいとの連絡を受けたからだ。
「ですから、全て貴方の独断という事になっているんです」
自分は被害者だ、会社の指示に従っていただけだと喚いていたチーフの口が真次の一言でぴたりと止んだ。
思わず縋るような目で能力者達を見るが、冷ややかな目、睥睨、無感情、侮蔑等々、いずれも友好的でない表情が返ってくる。
「会社はお前をすでに懲戒解雇したってさ」
飛翔の言葉に警官の一人が頷くと、会社を捜査した際に記録した音声を再生する。
聞きなれた男達の声が流れ出す。だがその内容はいずれも保身に走り、自分に全責任を押し付けるものばかりで、機械が吐き出す言葉を聞くうちに、チーフの表情が陰悪なものへと変貌した。
「そうかい。そっちがそのつもりなら、こっちだって容赦しねえぞ!」
「では、詳しいお話は署で伺いましょうか」
怒りの矛先を会社に向け罵声を吐き続けるチーフを警官達が連行していく。
「因果応報……ってなれば一番いいんだけどね」
「ええ。後はお任せ下さい」
昴の呟きに警官は頭を下げると、チーフを連行した同僚の後を追う。
後日の捜査で、能力者が確保したチーフは大いに役に立ち、自己保身で身を固めていた会社を追いつめ、検挙に至る事に成功した、との報告が警察からHOPEに寄せられた。
また公民館など、地域の被害も抑えてくれた事、加えてイベントに使う資材の保全にも尽力してくれた事に地域住民も感謝している旨が、警察からの感謝と共に添えられていた。
そしてチーフの供述の中で、熱中症で倒れた元作業員達は近くの無人駅に放り出されていた事がわかり、救急車を手配し、全員収容し、一命は取り留めたとの事だ。
なぜ病院でなく駅に放り出したか追及したところ、『駅まで運べば、後は自分のお金で病院まで行けるだろ』と会社から指示を受けての事だそうだ。
見下げ果てた連中だったが、そこまでとは……。
会社には地域住民達へ与えた被害も含めた然るべき処罰が下されるとの事だ。
なお会社に従魔を売りつけた男については引き続き警察が捜索を続けている。こちらについては手がかりが途中で切れ、時間がかかるとのことだが、辿り着いてくれることを願おう。
地域では、いずれ従魔から受けた心の傷が癒えた後、再びイベントは開催されるだろう。
能力者達が取り戻してくれた平穏と、守りぬいてくれた事への感謝と共に。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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