本部

いざ往けやジビエが為に

白鼓

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/09 20:04

掲示板

オープニング

●混じる異臭と食欲の冬
 その昔に陸の孤島と揶揄された山深い農村部。高気圧に覆われ時期外れの暑さと共に連日晴れマークの続くその地域では、ここ一週間ほど謎の臭いに悩まされていた。
 どこから臭うのか分からないほどに微量の、そのくせそれは世間一般で臭いとされる『くさや』すら超える酷い強烈さを持って周辺に漂っているそうだ。 
 おかしい。地域一帯の人々はみな口を揃えてそう言っては、疑問と悪臭による体調不良に頭を悩ませていたという。

 そんな中、『何故こんな悪臭がするのか』――その疑問を解消する糸口を見つけたのは、一人の猟師だった。猟に影響が出てしまい苛立ち紛れに原因を探してやろうと山に入った際、培ってきた経験と勘も冴え渡ってか臭いの出所を見つけ、そのあまりの光景に慌てて山を下りたのだ、と。
 それまでの来た道とはまるで違う雰囲気と酷くなっていく悪臭漂うその場には、本来の大きさとは変わっていたが下半身は元となっただろう鳥のまま、両腕は翼であるものの、上半身が人らしくなった半人半鳥の従魔――まるで『ハルピュイア』と呼ばれた伝説上の生き物に似た姿がそこにはあったのだと彼は言う。
 近くには被害を受けた動植物の死骸が散乱しており、それが今回の悪臭騒動の原因だろう、というのが目撃証言等から導いたHOPEの結論だった。

「………ということでして、今以上の被害を抑えるためにも、皆さんには従魔の討伐をお願いします」
 その言葉で現場を映していたホログラムが消え、真剣に聞いていた場の雰囲気も少しゆるいものとなる。今から殺気立っていてもしょうがないので、というのが主な理由だが、依頼内容の隅に書かれていた一言に反応していることも理由の一つだった。
 曰く――『早期解決になればなる程良いジビエでの料理をご馳走する』。
 ジビエとは食材として狩猟したシカやイノシシ、キジやカモ等の野生動物の食肉であり、栄養価の高さから注目されている食材である。
 そして今回は、ソヴァージュと呼ばれる半野生などでない本当の意味での野生動物のジビエを頂けるらしい。入手難度や供給が不安定になる等の理由で高価になりがちであるそれを、依頼者である猟師の方の厚意で無償提供されるとのことで、その味に期待する雰囲気が『ゆるい』と形容できる空気になったのだろう。
 ……ちなみに、よく聞こえてくる独特の臭みというのもきちんと処理すればある程度まで抑えられるそうで、件の依頼者が提供するジビエは料理共々おいしいと評判だそうだ。

「悪臭で猟犬も使えず、そもそも臭いで獲物に気づかれて逃げられてしまうそうですし、やはり野生動物相手の職業は大変ですよねぇ」
 ぽつりと呟いて、HOPE職員は次の仕事へと足早に向かった。

解説

●目標
 ミーレス級従魔(ハルピュイア似)の討伐。

●状況
 悪臭に見舞われた町からスタートします。
 今回討伐すべき従魔の放つ悪臭はふもとの町にまで届くほどですので、近づけばさらに辛く苦しいものになります。
 そして、今回の従魔は半人半鳥と言うこともあり飛ぶことが予想されますので、今回はそれらへの対策が必須でしょう。

 場所は山の中腹。
 山深い、と書いた通り太く育った木が生い茂っているため視界が狭く、整地されていない地面で足場が悪い、思う立ち回りをするには何らかの工夫が必要となりそうです。

 猛禽類を思わせる足の鉤爪は一撃が重く鋭く、山中とはいえ飛ぶことにより動きが空間的になるため除けるのは容易ではないでしょう。
 ただ、攻撃方法が上記のみと限られているので、落ち着いて対処すればまず負ける事はない従魔です。

リプレイ

●件の町へ
 それは確かに悪臭だった。町を覆うようなその臭いに、本当ならガスマスクでもあれば良かったのだが、流石に売れ行きを見込めない商品は取り扱っていないようで、代わりにと勧められた活性炭素マスク、鼻栓などを使用し対処した。
 マスクや鼻栓を付けたお陰でだいぶマシになったはずだが、その強烈さは未だ鼻にこびりついているかのように違和感を与えてくる。

「臭いの根源に敵か……わかりやすくはあるが、キツイな」
『……あぅ、臭ーい』
「だろうな、まぁ今回は大人しくしとけ」
 尻尾を垂らすユフォアリーヤ(aa0452hero001 )を慰めるジャージ姿の麻生 遊夜(aa0452)の横で、料理人の出で立ちをした鶏冠井 玉子(aa0798)は、無口ながらも表情豊かに不快感をあらわにしていたオーロックス(aa0798hero001 )と同様に、顔をしかめ耐えていた。
「全く。料理人にとって舌と同様重要な鼻に、こうも衝撃を与えるとは許されるべきではないぞ従魔」
 ぽつり、と静かに闘志を燃やす玉子の後ろ、体に臭いを付けたくないとこの町へ来て今までリンク状態を維持し続けている流 雲(aa1555)とフローラ メイフィールド(aa1555hero001 )が、フローラの髪色である粒子を纏い佇んでいた。
「『こんな臭いの中で生活していくってのは流石に』」
(『最大の敵は臭いな気がするわ』)
 目を細めながら何とも言えない不快感に思わず呟く。鬱憤の篭もったその声とは裏腹に、ほど近くから元気いっぱいな声が聞こえてきた。
「ジビエって、俺、食べたことないからちょっと緊張するっていうか……でも、すごい楽しみ!」
『悠登、気が早いぞ』
「分かってる。その前に従魔をどうにかしないといけないんだよね」
 楠葉 悠登(aa1592)とナイン(aa1592hero001 )の二人だ。嬉しそうにジビエに思いを馳せる悠登に、淡々と答えるナインもどこか楽しそうな印象を受けた。
「……腐敗臭は嗅ぎ慣れていても、臭いものは臭いですわね」
 彼らより前方、艶やかな黒髪を風に遊ばせ、紅鬼 姫乃(aa1678)は悪臭の中平然とそう呟いた。
 ややつり気味な紫瞳をやんわりと細めた姿は、これからの戦いとジビエという食事に心躍らせているに違いなく、優しそうな雰囲気に混ざる鋭く熱い気配が言外に姫乃を語っている。
「さーて、ちゃっちゃと済ませて美味いもん食おうぜ、リアちゃん」
『……デザート出る?』
「はいはい、頑張ったらエクレア買ったげるって」
『ん……! 頑張る』
 気楽と言える雰囲気を纏う古賀 佐助(aa2087)の言葉に、リア サイレンス(aa2087hero001)は無表情と裏腹な頭頂部のクセ毛を感情豊かに揺らし、嬉しさを知らせていた。

 全員が集まったのを確認し、早速山へ――と行きたいところであったが、情報が心許ないので万全を期す為に町での聞き込み組と猟師への詳細な確認組とに分かれ行動を開始した。
 とはいえジビエの件もあり手早く終わらせてしまおうとのことで、猟師に詳しい話を聞き終えた段階で町の聞き込みを止め集まろうという手筈となっており、合流地点へ先に到着したのは聞き込み組だった。
 各々持ち帰った情報を整理している間にもう一方もまた合流して、そうして今度こそ山へと向かいがてら、確認を兼ねた作戦会議を始める。

●見える形
「――従魔らしいでかい影を見たって人は何人かいたけど、やっぱり一度に一体以上の影は見なかったってのが大半だったっすね」
『……足にたぶん、動物を掴んでたそうです』
 佐助とリアの言葉に、同じく聞き込み組だった雲と悠登の両名も同意するように頷く。
「『臭いだしてすぐの頃は頻繁に見たらしいが、今は見ないとも言っていたな』」
「害獣が近隣の畑に出る頻度も以前より高くなってるみたいだよ。それも作物には一切被害がなくて足跡だけ残すんだ、って」
「まるで、何かから逃げてるようだったそうだ」
 悠登の言葉に追加するようにナインが言う。
 聞いたそれは恐らく間違っておらず、その足跡の主は従魔から逃げようと畑に現れただけなのだろう。前触れや異変を察知して逃げ出す等、世界蝕以前にもよく聞いた話だ。
 別方向に分かれ聞いた為に証言の重複はまずないはずなので、今回の従魔はおそらく一体のみで、かつ腹を空かせている可能性が強まった訳だ。

 聞き込み組の話を聞き終わると同時に山のふもとまで到着した一行は、広げた地図を囲むようにして立ち止まる。
「猟師様に発見した場所の詳細と、それから戦い易そうな開けた場所も教えて頂けましたわ」
 猟師によれば、従魔の目撃地点までは『罠猟』が幾つか放置されたままで起伏も激しく、何より迷いやすいそうだ。なので車二台も通れる舗装された道を途中まで進みそこから獣道を辿った方が良いらしく、戦闘に適した地も伐採によって空いた所が目撃地点から少し下った所、前述の舗装された道の先にあるのだという。
 地図を指差しながら現在地からの順路を説明をしていく姫乃に、遊夜も続けて、
「道案内も頼んでみたが、この悪臭で寝不足だから足手まといにしかならないって断られた。が……まぁ、この臭いじゃしょうがないよな」
 マスクで相当マシにはなっている自分たちですら数十分で辟易しているというのに、この悪臭の中、一週間も生活すれば――とは、考えたくもない話だ。
『……でも、代わりに美味しいのを用意してるって』
「さっさと終わらせない手はない、そうだろう?」
 続くリーヤと遊夜の言葉に俄然やる気になった一行は、ではどうしようか、と作戦を練り始める。

「『一体だけならば罠は必要なさそうだな』」
 これまでの情報を元とした雲の言葉に玉子が頷く。
「この臭いに餌として使う食材の匂いが負けることも加味して、囮役は舗装された道を歩いておびき寄せるというのはどうでしょうか?」
 ここならば見つかり易いだろうと続ける玉子に姫乃や佐助も同意を返す。
「そうですわね。ここならば視界も開けていますし、こちらも山に入るよりは戦い易いかと思いますわ」
「こんな悪臭出せるほど獲物狩れるんなら、相手の得意な地形で戦うよりは無難っすね」
 飛べる従魔と違い、落ち葉や低木、木々が邪魔となる山中よりは、整地された地面のほうが奇襲等の不測の事態に対処し易いだろう。どこから従魔が現れるか分からないのはどちらも同じなのだから、回避が容易になる方を選んだほうがマシというものだ。
「とりあえず、逃げられないように翼を撃ち抜く狙撃役も必要だな。逃げられるのだけは避けたい」
「じゃあ、囮役が伐採されたところまで誘導して待ち伏せた狙撃役が翼をズドン! って作戦でいいかな?」
 遊夜の言葉に悠登も続けて問う。現状ではこの作戦が一番有効そうだ。速さばかりを重視して任務失敗となるよりは、少しばかり時間をかけてでも確実に成功を掴んでおきたい。

 全員の合意を待って、地図を畳む。
 いい加減、この悪臭と元凶には退場願おう。近隣の人々の為、そして美味しいらしきジビエの為にも、これ以上の勝手は許せない。
「――では、そろそろ行きましょうか」
 地図を仕舞い終えた姫乃の言葉に皆同意して、狙撃役と囮役とで二手に分かれて走り出した。

●囮はつらいよ
 遊夜とリーヤ、佐助とリアが狙撃役として山に潜みながら道なりに進み始めて、少し後。狙撃役の『準備』が整うまでの何分間かを囮役として従魔の好みそうな生肉などを背負って進むこととなっている一行は、揺れる木々の間を抜くように舗装された道の上、木漏れ日の揺れる中を歩いていた。

「『……ん?』」
 ふと、違和感を感じた雲が注意深く地面を見つめる。その声で周りも警戒を深め、辺りの様子を窺う。
 幾つもに重なる木漏れ日に混ざるようにして落ちた、変に密度の高い一塊の影。それを見とめた瞬間、ふと、風にざわめく木々に混ざる大振りな異音を――羽音に気がついた。
「『――、上だ!』」
 鋭く声を上げた雲から数秒の差で風を切り裂く音と共に急降下してきた従魔を、雲の警告のお陰で避けることの出来た面々は、思いのほか早かった奇襲で崩れた体勢を立て直しながらも、瞬時にリンクドライブし各々の武器を構えた。
 ドン、とその隙を突くように重たい音が響く。地面を蹴るようにして瞬時に飛び立った従魔は、ゆっくりと旋回しながらこちらを窺っているようだ。
「『やっぱり、飛ばれるのは厄介だね』」
 銀髪を翻し立ち止まる事無く動き続けながら、青年の姿へと成長した悠登が言う。
「『このまま留まるのは危険か。回避優先で適時攻撃しつつ誘導、それで持ち堪えましょう』」
「『狙撃組から連絡が来るまでの辛抱ですわね』」
 ブラッディランスを逆手に持ち換え走る玉子の言葉に姫乃は頷くと、耳と尻尾で舵を取るようにして這うように走り出した。
 いつまた攻撃されるか分からないながらも連携して動き出す一行を正しく高みの見物という形で空を舞いながら窺っていた従魔は、羽ばたきを強め、攻撃を再度繰り出そうとしたようだった。
 一瞬の静寂の後、再び風を切り裂く音が聞こえる。どうやら姫乃を狙ったようだ。
 先ほどの奇襲とは違い準備の整っていた面々には当然ながらまるで当たらず、どころか着地に合わせるように踏み込んだ姫乃と悠登が振るったフラメアとアロンダイトを避けきれずに羽を数枚散らし、慌てるように空へと飛び去る。
 先ほどよりも高度を下げた従魔は、不恰好に羽ばたながらも懲りずに攻撃を仕掛けようとしていた。
「『――浅い、ですわね』」
「『でも、怒ってくれたみたいだね』」
 悔しそうな従魔の鳴き声と被った姫乃の呟きに、悠登もまた呟く。
「『獲物に牙を向けられたことがなかったのでしょうね』」
 つまらなそうに玉子が言う。所詮は、調理技法でいくらでも美味くなる素材を悪臭振りまくように食い散らかす哀れな存在か。自身より弱いものしか獲らなかったのだ。

 従魔の目を釘付けにするように緩急入り混じらせながらゆっくりと前進する中、タタンッと二度の発砲音が聞こえてきた。
 今、この山で猟をしている者などいない。つまり『合図』だ。
 足を速める一行に追い縋ろうと従魔は力強く羽ばたいた。逃がすまいとするその行為が自身の終わりを招くことだと知らずに。

●幕切れ
 ところ変わって、銃声が響くその少し前。
 道なりに山の斜面を走って予定通り伐採地に着いた四人は、狙撃に適した場所を各々探して準備を始めていた。

「ふむ、この辺なら良さそうだな」
『……ん、他よりはマシ』
 遊夜とリーヤが選んだのは道を斜めに見下ろすことの出来る樹上だった。ここならば従魔がこちらに来るのを見止める事も出来る。
 リンク状態となることで生える尻尾で絶妙なバランスを維持し自身を支えられる限界まで上がると、周りの細かい枝をたぐり寄せ従魔到着を待った。
 一方、佐助とリアもまた潜伏地を選び終わっていた。
 道に程近くの、藪の生い茂る辺り。遊夜同様にリンク状態となり、まるでリアを成長させたような長身の美女となった佐助は、木の保護色をした全身を覆えるローブを着込み、物陰にて待つこととした。
〈……ここなら距離もあって弓も引きやすいし、大丈夫そうだね。ここで確実に仕留めさせてもらおうかな〉
 ぽつりと、誰に聞かせるでもない独り言が響いた。辺りを窺い、樹上に登った遊夜を探す。見つけたあちらも、どうやら準備が整いこちらを探していたらしい。手でOKサインを作り見せると、頷きを返された。
 遊夜が指を三本立てた手を見せ、カウントを取り始める。3、2、と順々に指を折っていき、そして――0になった瞬間、遊夜のオートマチックがタタンッと軽快に発砲音を響かせた。
 この音を囮役への合図としたらしい。すぐ後に、遠くから聞こえていた戦闘音が近づいてくるのに気づく。
 さあ、いよいよ大詰めだ。
 音が近づいてくる。気持ちは穏やかに、気取られぬよう息を殺し続ける。
 音がさらに近づく。近づいて、近づいて――
「『そっちへ行くよ!』」
 届いた悠登の声に遅れること、数瞬。各々の射程へと入った従魔の翼へと、フェイルノートの無駄のない矢筋と、雷光を纏うユルルングルの矢がまるで吸い込まれるようにして、当たった。
「『すまんがテメェも地べた這ってくれや』」
〈まずは一撃……さて、それじゃフォローはするんで後は任せるよ〉
 ぱすん、と呆気ない音とは裏腹に従魔の叫びが山に響く。バランスを崩した従魔に会心を持って呟いた狙撃手両名に呼応するかのように、囮役だった面々の動きが変わる。
「『ふふふ、飛べない鳥はただの雑魚ですわよ♪』」
 翼を打ち抜かれて尚も飛ぼうともがく従魔に姫乃が縫止を発動し、
「『美味しい料理が待ってるんでね、ご退場願おうか!』」
「『いい加減に諦めろ!』」
「『――はあっ!』」
 駄目押しで従魔の翼を悠登と雲のアロンダイトが斬り捨て、彼らに合わせるようにブラッディランスを構えた玉子が一瞬の間をとり必殺の一撃を見舞わせる。
 こうして、傍迷惑な従魔は倒された。

●お楽しみの前に
 一行は、やり残したことがあるという雲を残し下山した。
 猟師の元へ行くと庭に案内され、そこにはバーベキューで使う網を張ったコンロが三台並べられており、後はもう炭に火を入れれば良いという出で立ちでもって迎えられた。どうやら、出される料理は焼肉らしい。
 猟師曰く、
「大人数で食べ盛りな子が多いだろう? だから下手に格式ばった細々とした料理よりは、焼肉みたいに好きなだけ食べれる料理のほうが良いかって思ってよ」
 だそうで、とはいえ肉の下処理や臭み取りなどは万全であり、あまり馴染み無いだろう狩猟鳥獣は止め、オーソドックスに鹿や猪など、ジビエとしてでなくとも聞いたことのある食材を厳選したのだという。
 焼肉ならば立ち昇る肉の香ばしさで未だ漂う悪臭も気にならないのではないか、との配慮もあってのことだそうだ。……まあ、悪臭沸き立つ目撃地近くでの戦闘により嗅覚が麻痺したのか、下山する頃には町での悪臭など気にならなくなっていたのだが。
 焼肉のメインたる生肉は衛生面から冷蔵庫に寝かせているようだが、食材の置かれた机には猟師以外にも悪臭に悩まされていた地域の皆様から頂いた野菜なども置かれていた。……それだけ、あの従魔によってもたらされた悪臭が悩みの種だったのだろう。
 そんなこともあってか近くの銭湯までお貸しいただけるとのことで、有難いにもほどのあるその申し出を受け、体に染み付いた臭いを少しでもとって食事にしよう、となった一行は、一路銭湯へと足を進めた。

●雲とフローラ
 その頃。山に一人残った雲は、伐採場の邪魔にならない隅にライヴスブローを放ち穴を掘っていた。
 深さを確認し、もう一回穴を撃つ。そうして囮として背負っていた袋からスコップを取り出し、餌として使った物を半分穴に落としてから、山を登り悪臭を放つ死骸を少しずつ運んで開けた穴へと入れていく。
 そうして降り積もった死骸の上にもう半分の餌をばら撒いたかと思うと、スコップ同様背負っていた袋から油を取り出し満遍なく振りかけた。
「『こんな形ですまないが、せめてもの供養だ……』」
 手を合わせてからマッチで着火させ、死骸が燃えていくのをそっと見守る。そんな雲の姿に、フローラは自身の心を振るわせる。
(『本当に……雲は優しすぎるよ』)
 火が消えたら、次は穴を埋め直す作業が始まる。枝で十字を作り墓として、近くに咲いた花でも添えようか。
 火が柔らかく照らすその場所に、雲は静かに佇んでいた。

●遊夜とリーヤ
 風呂に入れたのは行幸だった。遊夜はリーヤと道を戻りながらそう思った。
「流石に、あの臭いのままじゃせっかくの料理が台無しだしな」
『……ん、冒涜』
 思わず呟いた言葉に至極真面目な顔で頷くリーヤに笑いかけて、これからの食事を思う。
「鹿や猪って言ってたか? どんな味なのか楽しみだな」
『……ん、肉!』
 どんな味かは関係ないのだろうか、尻尾をブンブンと揺らし嬉しさを伝えてくる相方を横で宥めながら、孤児院に残してきた家族のことも考える。
 運営するに当たり、どんなに切り詰めやりくりしても食費だけはどうしようもない。だから無理強いは出来ないにせよ、猟師さんには仕留め方や解体のコツ、調理の仕方を教授頂きたい所だ。
「いずれガキ共に食わせてやらんと……」
 美味しいものは大切な家族にも味合わせてやりたい。それはきっと誰もが思うことだ。使命感に駆られながらも、二人は穏やかに歩いていく。

●玉子とオーロックス
 一足先に猟師の下へと帰っていた二人は、皆が来るまで食べずに待つことにした。オーロックスは湯上りとあってかリラックスした表情でのんびりと待ち、玉子はというと、山盛りの食材を見て唸っていた。
「近場で取ってきたのだろうか、どの野菜も鮮度が良いな。色艶も申し分ない」
 見事だ、と笑う玉子は、美食家であり調理師としてそれなりを見てきたものだが、身近な食材だろうとも素晴らしければ敬意を表さずにはいられない。
 味を知りたい。眺めていると、猟師が肉とミンサーを手にやってきた。
「ミンチを作るんですか?」
「おうさ、でかいメス猪の脂身が邪魔だでな、鹿と合い挽きにしてつくねにでもしようかってな」
 猪の脂身は時に食べるのに適さない大きさとなる。それを淡白な鹿肉と合わせることで旨みを増し美味しいものに変えようと言うのだ。味わいたい。一層増したその感情に揺れる玉子に、オーロックスはのんびりと見守っていた。

●悠登とナイン
 人もほぼ全員集まったことでようやく食事を始めた一行の中、悠登とナインは肉を焼きながら団欒していた。
「わ~、新鮮なお肉を使ってるんだよね……! なんだか、すごく贅沢だなぁ。ありがとう、猟師さん」
 熱く熱せられた網に乗る赤みの強い肉にゆっくりと火が通っていく様を眺めながら言う悠登に、ナインもまたじっと肉を見つめていた。
 滴り落ちた肉汁が炭に落ちることで気化した旨みがふわりと香り、食欲を刺激する匂いに期待値がグングン上がっていく。ほど良く焼けた肉を箸で摘み、冷ましながら口に入れた。一口、二口。噛み締めるように肉を頂く。
「……美味い」
 目をキラキラとさせる悠登に、ナインもまたしっかりと頷いて黙々と口に入れていく。
「ばーちゃんにも食べさせてあげたいね」
「そうだな」
 思えば、笑顔が見えるようだ。お土産をいただけないか後で聞こうと思いながら、二人は再び箸を伸ばした。

●姫乃
「ふふふ、楽しみですわね」
 腰まである黒髪を乾かすのに手間取りほんの少し遅れながらも微笑みを浮かべ肉を焼いていた。
 今は鹿肉を焼いている。脂っぽさのない淡白な味でカロリーも低く、ヘルシー思考な女性に人気とのことで、どんなものか気になったのだ。ヘルシーなどと別段括ってはいなかったが、物は試しというやつである。
 先ほど猪と鹿の合い挽きつくねを頂いたばかりだったので、というのも多分にあるだろう。
 良い具合に火の通った肉を見つけて取り寄せる。味見の為だったので特に味は付けない。
「あら、美味しいですわ! 臭みがないのね」
 まるで牛肉の赤みのようで、ただ焼いただけでも美味しかった。ある程度の臭みは覚悟していたのだが、ほぼ感じない程度まで臭みを落としている。
「調理法を教えて頂きたいものです」
 きっとこの味に合う料理ならば様々な肉に応用できるだろうと、そんなことを考える姫乃は、もう一口食べ舌鼓を打った。

●佐助とリア
「よっしゃ、それじゃお楽しみだぜ!どんだけ美味いんだろうなー、楽しみ楽しみ♪」
『エクレア、エクレア……♪』
 銭湯からコンビニへと寄った帰り道に、そんな会話を繰り広げていた。大好物だと知ってはいたが、一貫してジビエよりもエクレアというその姿勢に佐助は苦笑しながら会話を続ける。
「……リアちゃん、ジビエの事もちょっとは思い出そうぜ?」
『……?』
 不思議そうに小首をかしげるリアの頭でふにゃりと垂れた癖毛がまるで『?』マークのようで、微笑ましくてつい笑ってしまう。二人の間でがさがさと揺れるビニル袋の中には、最初に約束したエクレアが二つ入っていた。
 一つは勿論リアのものだ。もう一つもリアが食べて構わないが、出来たら自分が食べたい。そう佐助は思う。
 一人で食べても美味しいものは二人で食べても美味しいのだ。なんなら、二人で食べたほうがもっと美味しく感じるかもしれない。
 それに、と苦笑する。買い食いって『自由』じゃん?
 楽しみだなー、と違うものを思い浮かべながら歩く二人に、良い香りが届き始めた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃
  • 食の守護神
    オーロックスaa0798hero001
    英雄|36才|男性|ドレ
  • 温かい手
    流 雲aa1555
    人間|19才|男性|回避
  • 雲といっしょ
    フローラ メイフィールドaa1555hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 薩摩芋を堪能する者
    楠葉 悠登aa1592
    人間|16才|男性|防御
  • もふりすたー
    ナインaa1592hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • エージェント
    紅鬼 姫乃aa1678
    機械|20才|女性|回避



  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087
    人間|17才|男性|回避
  • エルクハンター
    リア=サイレンスaa2087hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
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