本部

深夜の廃病院に啜り泣く声

mister

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/09/30 14:01

掲示板

オープニング

●度胸試し

 夏も終わりに差し掛かろうとする中、肝試しをしようと若者が、人里離れた廃病院を訪れていた。
「ここが巷で有名な心霊スポットか。」
「……ヤダ、ホントに何か出そう。」
言いながらも、興味、好奇心には逆らえず、やってきた六人の男女の若者達は、二人一組の三つのペアを作り、その病院の2〜4階(1階は受付フロアの為病室のある階層)に配置し、同時に歩き出した。
「用意はいいな!走ったりせず、普通に歩けよ!怖くてゆっくり歩くならいいぞ!後でたっぷりいじってやるからな!」
 リーダー的な若者は、真ん中の三階に配置し、各階に届くように大声で話した。その声に応答した事を確認すると、六人は静かに歩き始めた。
 当然、驚かす役も用意出来ず、六人はただただその雰囲気を楽しんでいた。自分達の驚きの声や笑う声、泣く声に大いにはしゃぎながら、若者らは長い廊下を渡り終えると、一階へと戻っていった。
「どうした、どうした?言い出しっぺがゆっくりと歩いて二番手か?」
「ちっげえよ、バカ。俺らは三階なんだから、一階分距離あるだろ?同時に着いても、一階に行くまでに時間は掛かんだろ。」
 先に着いた二階組は、三階組が来ると遅いと冷やかして楽しんでいた。しかし、幾ら待てども四階へ上がったペアが戻る事はなかった。
「……ねぇ、幾らなんでも遅すぎない?」
 心配になってきた女の子が、四階に上がった友人の携帯に連絡をしていたが、コール音が鳴るばかりで繋がる事はなかった。
「もしかして、自分らが最後になる事に気付いて、敢えて戻らないようにして俺らを誘きだそうとしてるんじゃないか?」
 どうせ、痺れを切らして四階へ上がる自分達を驚かそうと企んでいるに違いないと、そう踏んだ四人は逆に驚かしてやろうと、ゴール地点側から静かに四階へ上がっていった。

●四階へ

「いいか、ここからは一切喋るなよ?声出した奴は後で飯奢らせっからな。」
三階と四階を繋ぐ階段の踊り場で四人は口を紡ぎ、歩き出した。いつ驚かされるかの緊張、不安からか、彼らは異質な空間と思えるような四階に言葉なく、足を踏み入れた。
 しかし、見通しのいい廊下に人影はなく、何ヵ所か扉の壊れている各部屋を男二人が覗きながら進んでいた。女二人は、その後ろをスマホの明かり頼りに着いてきたが、恐怖からか、スマホの画面をタップして文字で話し出した。
「(一応、また電話掛けてみる?)」
「(そうだね!音が鳴れば驚かされる前に居場所が解るし!)」
 ナイスアイデアと言わんばかりに再び電話を掛けるが、その直後、何処からともなく子供の、小さな啜り泣くような声が四階に響いた。それを聞いた四人は、各々顔を引き攣らせながら見合わせていた。
「(何々?!何か居るの?!)」
「(お前ら頭いいな!声出さず会話かよ!ってこの声あいつらじゃないよな?)」
 次いで男達もスマホを持って会話に参加するが、話し合いは互いが牽制し合い、進まず、退かずと埒が明かないままでいると、泣き声はピタリと止んだ。心臓をバクバク言わせながら、四人が引き返そうかとしていると、行きは居なかったと思われる、彼らの背後数メートル先の窓際の床に、横向きでしゃがんでいる子供のようなモノを見た瞬間、彼らは来た方向の逆へと駆け出していた。
『でっ、出たあぁーっ!』
 声を上げた事にも気付かず、四人は泣き叫びながら必死に走った。しかし、途中で盛大に転び、最後尾になった男は、手元に転がっていたスマホを見付けた。
「いでっ!お、お前ら、待てって……ん?着信有りってこれ四階に上がった奴のスマホじゃねえか?」
 後ろを振り向くと、先程見た子供だと思ったモノは、瓦礫に挟まったカーテンのような布が風に靡いていただけだった事に気付いた。安心した青年は拾ったスマホを眺めながら自身の携帯からかけてみると、そのスマホから子供の泣き声のような着信音が鳴り響いて顔を引き攣らせていた。スマホを鳴らしながら、周りを見ていると、近くの部屋に居る二人を見付けた。
「あいつら、やってくれたな……ひっ!な、何だありゃ?」
 立ち上がり、部屋へ近付いて中の様子を眺めていたが、そこは異空間のように歪んでいた。中の二人もぐったりとした様子で、二人が寄り合っているように支えあって意識を失っているように見えた。
「……こ、これは、ドッキリじゃないよな?」
 中に入るのに躊躇っていたが、そこには、肌質が黒く、筋骨隆々とした人ではない人の形をした、見ただけで化物とも怪物とも取れる不可思議な物体が居り、それは一度こちらを振り向き、紅く大きな瞳を見開き、耳まで届きそうな口を目一杯開いた覗かせた牙の隙間から声にならない呻きを零した。
「ぎ、ぎゃあぁーっ!」
 こちらへ歩み寄る怪物から逃れるように男は階段を転げながら一階へと降りていった。

●廃病院から脱出

 廃病院から脱した四人は、何処に連絡すればいいかも解らないまま、怪物が居たかも知れない事からH.O.P.E.へと事の全容と、二人の仲間の救出を伝えた。

●情報整理

 怪物は、人型をしており、体躯は人と比べて一回り全体的に大きい。目撃した青年は、居るとすれば鬼という表現が近しいと証言している。
 四階の一室が異質な空間になっていたとも言っている事から、怪物はゾーンルーラーとしての力を得た愚神の可能性が高い。しかも、二人の若者が捕まっている非常に危険な状態の為、深夜の暗い中だが、火急的速やかに任務に当たってもらう。

解説

●目標
 怪物(愚神)の討伐、若者の救出

●登場
ケントゥリオ級と思われる廃病院に住まう怪物
 人型の2~3メートル程の巨体だが、詳しくはまだ解らない。現状言える事は力自体は強そうだ。
 ドロップゾーンが生まれている事から、レベル3まで成長しているであろうから持久戦に持ち込まれると厄介な相手。

●状況
 数年前に閉鎖された四階からなる病院。
 もちろん電気等は通じていない事から、照明やエレベーターは使えない。
 廃材やガラスの破片等は転がっているが、足場自体はしっかりしている。
 近い住家も車で数十分かかるので人は来る事はあまりない。
 時間帯は0時を回った深夜。天気は月明かりが十分ある程の晴れ。

リプレイ

「あいつら助けてください!頼みます!」
 件の病院が見えるくらいの、少し離れた位置に退避していた若者四人から事情を聞いた一行は、情報を各自メモを取り、反芻していた。
「ドロップゾーンか……少なくとも、雑魚ではない、と」
 添月 織也(aa0141)の言葉に反応するように填島 真次(aa0047)も口を開いた。
「初めての仕事でケントゥリオ級とは、中々の重労働になりそうですね」
 緊張からか、一同が無言で頷くと、思い出したかのように桜木 黒絵(aa0722)は缶コーヒーを取り出し、皆に配った。
「はい、これ。急な召集だったし、皆眠気を吹き飛ばす為にね! あ、君達もどうぞ」
 優しく微笑みながら、若者達にも差し出すと、彼らの緊張、不安も和らいだのか、少し笑みが零れた。
「馳走になったな、黒絵。美味かった」
 そう言いながら、ヴァイオレット ケンドリック(aa0584)は手に余った缶コーヒーを見つめていた。
「あ、ポイ捨てはダメだからね! 君達、ちょっと持っといて。帰りにお友達の二人と交換ね」
 桜木の人当たりの良さが場を和まし、若者達は大きく手を振って一行を見送った。


 病院まで徒歩で進んでいると、三坂 忍(aa0320)は歩きながら口を開いた。
「皆、少し聞いてもらってもいいですか? 今回の愚神を討伐出来たら、その遺体を回収して調べたいんですけど、いいでしょうか?」
 意外な話だったのか、一同は一瞬言葉を失くしたが、朽木 篝(aa0272)が返した。
「私は構わないよ。ただ、戦う前から勝った後の話もどうかな?」
「急な召集とはいえ、ここに居るのは最高の仲間ですよね? 負けるワケがありません」
 三坂は、両手を胸の前でグッと握り、ガッツポーズのように構えた。
「忍の言う通り、違いないな」
 ケンドリックの声に反応するように、他の四人も頷き返した。程無くして、病院入り口に辿り着くと、桜木は病院を見上げた。
「うわぁ、雰囲気あるね」
 目線を合わせ、添月も空を見上げながら話に乗った。
「この場の雰囲気、更にはたまに陰る月明かり……確かに肝試し日和って感じだしな」
 しかし、桜木の表情からは、恐怖等の感情ではなく、滅多に出くわさない場面に興味を抱いているように見えた。
「黒絵はこういうの大丈夫なんだ?」
 三坂の言葉に、桜木はあっけらかんと返した。
「だって、幽霊とか言っても英雄達と似たものでしょ?」
 きょとんとした様子の桜木に皆苦笑いをしていた。そこで、咳払いに、手を二回叩いて、填島も口を開いた。
「さて、お喋りはそれくらいにして、お仕事を始めましょうか」
 そして、病院の一階ロビーへと踏み込んだ一行は、英雄と同化し、臨戦態勢に入った。
「エージェントになって初めての斬り合いだ。さぁ、楽しもうじゃないか、義元」
 口にする事で気を引き締めた朽木に続くように、各自英雄とのシンクロ率を確認しながら、病院の散策に移った。


 一階ロビー、二階、三階と、注意深く見回ったが、若者達から聞いたように、今に至る現段階でも従魔や、他の人との遭遇もなく、特に問題は無かった。そして、四階へ向かった一行は、当初の予定通り、救護班の填島、三坂、ケンドリックと誘引班の添月、朽木、桜木に分かれて、両端の階段に身を隠していた。僅かに漏れるパソコンとスマホの明かりを頼りに廊下を見つめるが、廊下の両端から各病室が見えるワケもなく、そこで、ケンドリックは用意していた小型偵察機を出した。長い廊下、部屋の反対側は病院の入り口が見下ろせる窓となっている。下の階を見た際、部屋数は12、中は患者用のベッドを6つ程置いておけるスペースの広さだったが、ここ四階も同じ間取りで間違い無さそうだった。
「ドロップゾーンなら、中は異界化しているだろう。部屋の入り口からでも解るハズだ」
 言いながら、ドロップゾーンでない部屋は内部まで確認しながら、偵察機が進んでいくと、救護班側から四つ目の部屋の中が、赤紫掛かった異様な空間となっているのを発見した。
「ビンゴだ。だが、入り口から愚神が見えない以上、他も念の為調べておくか」
 スマホで反対側の誘引班にも部屋の場所を伝えたが、まだ他の部屋の確認も終えていない。ドロップゾーンの部屋の中の様子を調べたいところだが、ケントゥリオ級の愚神相手だと、用心になり過ぎて丁度いいくらいだと、皆が自分に言い聞かせ、ケンドリックの偵察機を待った。
「……よし、その他部屋に怪しいモノは無い。誘引班に報せてくれ。作戦開始とな」
 作戦はこうだ。若者二人が捕まった要因として、愚神は、スマホの光か音に反応した可能性がある事から、目標の部屋付近にスマホを置き、ドロップゾーンから愚神を誘き出し、誘引班が愚神を部屋から遠ざけ足止め、救護班が中の二人を助け出し、その後、全員で愚神討伐に移るという、簡素にして完結な作戦だ。だが、不測の事態が起こるのも加味し、第一目標は若者の保護。それを念頭に、誘引班は、ケンドリックの元へ戻る偵察機の後に続いた。
「他に何もいないなら、ドロップゾーンの中に偵察機を入れてみてもいいんじゃないかな?」
 スマホから流れた桜木の提案に、ケンドリックも頷いていた。
「元々、H.O.P.E.から借りてきた物だ。何かあってもそっち持ちに……なっ?!」
 ケンドリックが短い悲鳴のようなものを上げると、入り口傍に身を潜めていた愚神が一瞬カメラに映った。その直後、激しく動いたカメラは地面を映していた。
「まだ近付いてはいけない! 愚神に気付かれているかも知れません!」
 誘引班を制止させようと、焦りを隠せない填島も叫んでいた。中の偵察機の映像は続いており、プロペラ部と切り離されたカメラがカラカラと回るプロペラを映していたのだが、それに反応するように、愚神はプロペラ目掛けて数発、拳を振り下ろした。
「……今、四発目だけ当たったわよね?」
 ケンドリックのスマホを覗きながら、三坂はふと漏らしていた。
「この愚神、目は良くないのかも?如何に小さいとはいえ、あんなに外すのはおかしいでしょ?」
 つまり、音に反応する可能性が濃厚なのだと、一同もその意見に納得した。そして、ケンドリックがカメラ越しに愚神を見張る中、誘引班はスマホをセットし、音を鳴らした。その直後、カメラに映る愚神も音に誘われ、廊下へと歩き出した。
「釣れた。さぁ、頼んだぞ」
 ぬぅっと部屋から抜け出るように現れた愚神は、胴体が異様に発達した巨体の、全身が筋肉の鎧に覆われた、角こそ無いものの、鬼と呼ぶに相応しい姿の愚神だった。足は胴体に比べ短めだが、それも堅そうな筋肉をしていた。そこに空かさず攻撃を仕掛けに朽木が駆け出した。
「喰らえ、ヘヴィアタック!」
 ズガンと、膝目掛けて放たれた一撃に愚神は蹌踉めいたが、直ぐ様態勢を立て直し、朽木への反撃とその豪腕を振り払った。
「グギャーーッ!」
 咆哮とともに、部屋側の壁から通路を挟み、反対側の窓へと大きく横凪ぎに払ったその攻撃を、すんでのところで回避した朽木だが、コンクリートの壁をいとも簡単に削ったその破壊力に皆息を飲んでいた。
「時間稼ぎなんてつまらない事はしたくないが、やらなければならない事もあるからな。少しの間付き合ってもらうよ」
 その言葉を合図に、添月と桜木も駆け付けた。そのまま音を大きく立てながら、攻撃を繰り返し、愚神を部屋から徐々に引き離しながら誘導する事に成功した。部屋を三つ分程誘導したのを確認してから、救護班は、物音を立てないように素早く移動し、ドロップゾーンへと侵入した。それを確認した添月は、愚神を掻い潜り、愚神を戻らせないように、挟撃へと持ち込んだ。
「無理は禁物。痛いのは嫌だし……早くしてほしいものだな」
 愚神をドロップゾーンへ戻さない為の配置とはいえ、危険な役回りを買って出た添月は、一瞬、背後に目を配って呟いていた。


「うわぁ、中はこんなになってるんですね。少し気怠く感じます」
 カメラ越しに見ていた室内は、仄暗く、また、病院とは違う作りをした建物内を想像させた。
「目標の二人が居たぞ」
 ケンドリックは、二人の容態を確認すると、安堵の溜め息を漏らした。
「命に別状は無いな。酷い外傷も負ってなさそうだ。忍、研究熱心なのは後にして一人頼む。真次、愚神の動きに注意しててくれ」
「こちらに気付いた様子もなく、誘引班がちゃんと相手をしてくれています」
 スナイパーライフルを構えながら填島は入り口付近から廊下を覗いていた。
「よいしょ、それじゃ、早く出ましょう」
 ドロップゾーンを調べたい気持ちを抑えながら、三坂はケンドリックと共に二人を連れ出した。填島が殿を務めて、撤退する中、誘引班に動きが見えた。足を狙い続けて動きを制限していたが、AGWからでも愚神に大したダメージが入らない事に苛立ち始めたのか、朽木が回避より攻撃を優先し始めたのだった。
「朽木さん、相手の一発は危険だから無理はしないでください!」
 桜木の呼び掛けに気付いていないのか、愚神の振り上げた腕には見向きもせず、朽木はひたすら足を攻撃していた。
「まずいかもしれません、援護に入ります。ストライク!」
 愚神が攻撃に入ろうとした瞬間、填島の銃が火を噴き、愚神の頭を捕らえた。蹌踉めいた愚神の攻撃は、朽木を逸れて床に穴を空けるだけに終わった。
「少し落ち着け! 要救助者の保護は直終わる! 暫く辛抱しろ!」
 命を蔑ろにするような行動に、カッとなったケンドリックは思わず叫んでいた。他の者も、彼女の言葉に背筋を伸ばし反応した。三階の階段柱付近に用意していたベッドに二人を横たわらせると、三人は駆け足で四階へ戻っていった。
「待たせた。誰も死んでいないだろうな?」
 ケンドリックのブラックジョークで場は一時的に和らいだが、愚神はお構い無く、駆け付けた足音に反応し、ダブルラリアットの要領で両側を攻撃した。
「おっと、いきなり危ないですね」
「……数も揃ったか。俺はあちら側に戻る」
 添月が再び愚神をすり抜け、三、三の挟撃の態勢を作り出した。しかし、そこで三坂はふと抱いた疑問を口にした。
「もしかして、この愚神、力は凄いけど鈍い?」
 決して添月が遅いワケではない。だが、何も反応せずに通り抜けた事に、三坂は違和感を抱いた。
「確かに防御も高く、ダメージはあまり与えられていないが、忍の言う通り、こちらの痛手は……まだないな」
 先の填島の援護のお陰もあり、言葉に詰まる朽木は、動揺からか、ペンライトを落としてしまった。
「グッガ」
 少し、愚神の目に当たるように光をばら蒔いたペンライトの明かりを遮るように、愚神は手で顔を覆った。
「朽木さん! この愚神の弱点、鈍さと光かもしれない! パソコンの明かりじゃ集中的に当てれないからペンライトで愚神の目を狙ってください!」
 ドロップゾーン内部は仄暗く明るくはなかった。そこから予測した三坂は、朽木へ攻撃が向かないよう、音を立てながら愚神に立ち向かった。その隙に、朽木は落ちたペンライトを拾い、愚神目掛けて光を放った。
「グッギ!」
 光から逃れるように後退し、窓際へ追いやると、空かさず、填島の銃が再び火を噴いた。狙い通りのヘッドショット。後ろに倒れ込みそうなところを更に、桜木が銀の魔弾を見舞った。
「グッ、ゴオォーーッ!」
 自分で砕いた窓側の壁をすり抜け、愚神は一階玄関口に仰向けの状態のまま落下していった。ドォンと、大砲でも撃ったかのような大きな音と揺れを起こし、愚神は地面に小さなクレーターを作っていた。
「好機、落下を応用すれば……貫け、ヘヴィアタック!」
 愚神の落ちた窓から飛び出した朽木は、武器に力を込め、愚神の首もとに一撃繰り出した。刃は鋼鉄の皮膚を斬り裂き、愚神は血飛沫と悲鳴を上げた。
「ガギャーーッ!」
 払い除けようと振った愚神の腕が、武器を引き抜けなかった朽木にまともに当たり、朽木は地面と平行に飛ばされた。
「……間に合え」
 病院の壁に激突する直前、四階から壁を駆け降りた添月が朽木を受け止めた。その後、他の四人も一階へと降り立った。
「ケアレイ。全く、呆れて言葉もない。が、活路を作ってくれた事には感謝する」
 ダメージが大きいのだろう、左肩と首の間を深く斬られた愚神は、左腕が効かないのか、ふらつきながら立ち上がった。回復した朽木は、離さなかった武器を握り締め、大きく構えた。
「次で終わりにする。傷口を狙って一斉攻撃だ!」
 駆け出す六人、右腕を大きく振り下ろそうとする愚神の攻撃に、足を止めた填島のストライク、三坂と桜木の銀の魔弾で逸らした。最初に駆け付けたケンドリックはグリムリーパーの大鎌で足を払い、体勢を崩したところで朽木と添月が突進力も利用したヘヴィアタックを放った。
『いっけぇーーっ!』
 全員の思いの乗ったその一撃は、左肩の傷口から右脇へ袈裟斬りに愚神を分断する事に成功した。断末魔の雄叫びを上げる間も無く、愚神はその紅い眼を黒くさせていった。
「……勝てたのか?」
「みたいだね。二人の技を重ね合わせた、二乗の攻撃。耐えられるワケないだろう……楽しい時間はすぐに終わってしまうな」
 残念そうに言う朽木に、皆が駆け寄り声を掛けた。
「皆が無事で何よりだ」
「愚神活動停止確認。H.O.P.E.へは私が連絡しておきます」
「すみません、愚神を回収してもいいですか?」
「凄いね、あんなに堅かった身体を真っ二つに出来たんだ」
 愚神討伐成功に皆が各々思う事を口にしていた。そして、一行は救助した若者二人を回収しに三階へ、ドロップゾーンの確認に、三坂と桜木は四階へ上がった。
「他の病室と似た感じに戻った……のかな?」
「ん~、私はドロップゾーンも見てないから何とも言えないね」
 元の病室を知らないのであくまで予測でしかないが、それでも愚神の消滅により、ドロップゾーンは消えていた。
「後で入った物は残るのか? 偵察機は一応あるな」
 若者を三人に任せたのか、ケンドリックも四階へ上がり、偵察機の残骸を拾い集め回収した。
「こいつも大いに役立った。一応、H.O.P.E.へ返しておくか。おい、愚神博士ももう行くぞ」
 そのまま、ケンドリックは二人を連れ出し、揃った六人は、病院入り口へと戻ってきた。
「……皆と一緒に仕事が出来てよかったです」
 物静かに、名残惜しそうに添月が呟いた。
「そうだね。少し迷惑も掛けはしたけど、私も安心して攻撃が出来た」
「最高の仲間ですよね、私達!」
「もっと愚神を研究してあたしも頑張ります」
「まぁ、悪くはなかったな」
「また機会があれば、御一緒したいものですね」
 填島の言葉に、皆頷いて返した。そして、一行は、彼らを待つ若者の元へ戻っていった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 魔王の救い手
    填島 真次aa0047
    人間|32才|男性|命中
  • エージェント
    添月 織也aa0141
    人間|18才|男性|回避
  • エージェント
    朽木 篝aa0272
    人間|23才|女性|攻撃
  • エージェント
    三坂 忍aa0320
    人間|17才|女性|回避
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
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