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悪魔のドリル
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最終発言2015/09/24 23:02:37 -
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最終発言2015/09/23 23:39:42
オープニング
●音の痛み
ドリルが迫る。
ギュインギュインと音を立て、螺旋の先端がやって来る。
ドリルが迫る。
目と目の間。丁度眉間に狙いを定め、回転する螺旋がやって来る。
ドリルが迫る。
痛みはない。今はまだ。
しかし、この音。
高速で回転するこの音に、本能的な恐怖が湧き上がり、背筋に冷たいものが走る。
ドリル。
その大きさは、丁度大人の男性の拳くらい。決して大きなものではない。だけどそれがうなりを上げながら、眉間目掛けて寄ってくる。
怖い。
おそろしい。
逃げ出したいのに逃げられない。音の呪縛か、それとも何か別の力か、身体が痺れて動かない。
じわり、じわりとドリルは近付く。やめてくれと叫び声を上げたい。けれど、喉さえ何かを押しつけられたように、口から喉が動かない。
言葉が出ない。叫びも出ない。
そしてまた、ドリルが迫る。
●幸運
そんな場面に、あなたたちは遭遇した。
こんな夜中に、何故あなたたちがこの場所を歩いていたのか、その理由はあなたたちにしか分からない。
偶然か、それとも必然か、あなたたちがこの場に居合わせたことは、しかし結果として一人の少女の命を救ったことになる。
「能力者か――」
ドリルを持った『それ』は、短くつぶやくと凍ったように固まっている少女から目を逸らした。
その瞬間、
「きゃああああああああああ!!」
少女の口から悲鳴がほとばしる。そしてあたかも水に何かがほぐれていくように、少女が不器用ながらも手足を動かし、ドリルを持った『それ』から離れようともがく。
「面白い」
だがしかし、『それ』はもはや少女の方など見向きもせず、あなたたちを見て不敵な笑みを浮かべた。
「普通の人間のライヴスにも飽きてきたところだ。そろそろ、能力者のライヴスを味わってもいい頃だろう」
『それ』はあなたたちにドリルを向けた。
耳障りな回転音と共に、高速で回転する螺旋の固まり。
その瞬間、あなたたちは悟った。
このドリルはただの道具ではない。このドリルを操っている『それ』は、ただの人間ではない。
「ほう、さすがは能力者。我がドリルの音を聞いても動けるか。……ならば、回転を速めるのみ!」
その言葉と共に、ドリルの回転音がさらに甲高くなる。たとえるなら、歯医者で聞くあの回転音。脳髄に直接突き刺さるような、高速回転の音のメス。
「能力者ども! 愚神ガゼッドの糧となれ!」
そして今度はあなたたちに――ドリルが迫る。
解説
●シナリオの目的:
襲いかかってくる愚神ガゼッドを撃破せよ。
●愚神情報:
『ガゼッド』:
デクリオ級愚神。デクリオ級としては充分成長しており、もうじきケントゥリオ級に達しようかという頃である。
武器は手に持ったドリル。高い貫通力を持つだけでなく、そこから発せられる回転音は聞くものに『拘束』の効果をもたらす。一般人では、抵抗すら出来ずに身動きが取れなくなるだろう。
ただし、能力者はその音に対して抵抗が出来る。それも、高い確率で。しかし、音の発信源(つまりドリル)に近付けば、抵抗もだんだんと難しくなる。
確実に抵抗したければ、両手で耳をふさぐのもありだ。それで攻撃が出来るならば。
この愚神と戦う際にひとつアドバイスがあるとすれば、恐怖に支配されないことだ。ガゼッドは恐怖に捕われたままのライヴスには極上の味があると信じており、なるべく相手を『拘束』して、じわりじわりとなぶるようにしてからライヴスを吸い取る。
そうならないためにも、そして、これ以上被害者を出さないためにも、この愚神を撃破してほしい。
健闘を祈る。
リプレイ
●戦いの幕
ドリルが叫ぶ。
キシィィィィンと、神経に障る音を立てながら。
それを持つものは愚神ガゼット。
対するは、八人のリンカーたち。
彼らがここに集まったのは、偶然か必然か。
愚神ガゼットが迫る。
肌に感じる、ぴりぴりとした感覚。
これ以上近付かれたら、音による『影響』を受けてしまう。
ならば!
リンカーたちはすぐに共鳴を開始した。
そして、戦いの幕は切って落とされたのである!
●リンカーたち
(うわぁ…完全にトラウマレベルのドリルの音じゃないか…)
そう心の中でつぶやいたのは、倉内 瑠璃(aa0110)。いや、今はラピスラズリ・クラインと呼んだ方がいいだろうか。
マビノギオンを構えたラピスは、今の場所から一歩下がると少し離れた場所にいる、棒榛 月姫(aa0439)をちらりと見た。
そのアイコンタクトは、月姫にも通じたようで、彼女もこくりとうなずき返す。そしてポケットの中からティッシュを取り出すと、耳に詰めた。
(なるほど、耳栓か)
感心するラピス。よく見れば、他の者たちもティッシュを唾液で濡らしたり、イヤホンをしている者もいるではないか。
(確かに効果はあるかもね。よし、ラピスも……)
そう思ってポケットに手をやったとき、ラピスは信じられないものを見た。
(あの人、何!? 愚神に向かって歩いてる……!)
その名は石井 菊次郎(aa0866)。
「なるほど…強く願っているとこういう事もあるんですねえ」
ドリルがギャンギャン鳴り響く中、菊次郎のつぶやきは、他の誰にも聞こえない。しかし、菊次郎はそんな事を気にしたふうもなく、ガゼットの下へと歩みを進める。
「あいつ、何考えてやがるんだ!」
そんな菊次郎を見て、叫んだのは弥刀 亮(aa0822)。スマホからは大音量で音が聞こえているが、それでも神経に障るドリルの音は届いている。彼は、傍らにいる水瀬 雨月(aa0801)に向かってうなずくと、愚神に向かって足を踏み出した。
「おい、三下。そこの女に代わって遊んでやるから来いよ」
その様子を見ながら、こちらもうなずく水瀬。
(弥刀さんが注意を引こうとしてくれている。その間隙を突きましょう)
銀の魔弾をいつでも撃ち出せるよう、構える水瀬。
一方、ミク・ノイズ(aa0192)の動きは変則的だった。
「ようやく見つけたよ、愚神さん」
彼女だけは、この場所にいる必然性があった。誰からの指示でもないが、ここ最近の被害状況から、この件を愚神またヴィランの仕業であると特定。近隣に的を絞って捜索していたのだ。目的はもちろん、対象の殲滅。
「……ふぅ……狩人気取りか、笑わせる。獲物は、お前だよ」
味方の動き(菊次郎の不可解な動きも含めて)を確認すると、彼女は音の範囲からやや回り込むように走り始めた。それはもちろん、目的があるからで――
そんな他の者たちと動きを合わせながらも、一方でまったく別のことを考えているものもいる。その名は、蝶埜 月世(aa1384)。
「ドリル×虫歯……ドリル×ねじ穴……ドリル×巨大ロボ! やっぱ天才だわ!! 攻めも良いけど……ふふ……今日のお題はドリル受けかあ」
小さくつぶやく月世。幸いなことに、この騒音の中ではその声が他の者たちに届くことはない。
警視庁への報告文書を書くために寝不足が続き、思考がちょっと暴走しがちな月世であった。
一方で、真壁 一輝(aa0757)の手には、巨大な鎌――グリムリーパーが握られていた。ドリルを向けてこちらに迫ってくる愚神をしかと見据え、不敵に笑う真壁。
「俺を殺すのか……身の程を知れ」
そして最後に、月姫が戦闘準備を整えた。
「グランツサーベル! シルバーシールド!」
ビキニアーマーに身を包んだ月姫は、自ら名付けたもうひとつの名を、高らかに叫んだ!
「ヴォーパル・アリー、行くよ!」
●接敵……戦闘開始!
武器も持たずにふらりと接近してきた菊次郎に、さすがの愚神も眉をひそめたようだった。
「何奴……?」
「なあに、ちょっと確認したいことがあるだけですよ」
さらりと言ってのける菊次郎。しかし、愚神に最接近している今、ドリルの音が大音量で無防備な耳を打つ。
(これは長いことは留まれませんねえ)
しかし、あくまで表情は変えない。サングラスをずらし、愚神の前に瞳をさらす。
「ガゼットさん。あなた、この瞳に見覚えは?」
「……知らぬ」
「……」
ギュインギュインと、ドリルが鳴る。
「煩いな……確かに彼女はこれほど下種な存在ではありませんでしたね」
そうつぶやいた瞬間、菊次郎の手にマビノギオンが現れる。
「ああ、ガゼットさん、取引をしませんか? あなたはこの瞳と同じ目をした愚神の居所を教える。俺はあなたのスペインの処刑場への就職を助ける。いい話でしょう?」
「不遜なり」
驚くべき速さで菊次郎に向けられるドリル。しかし、菊次郎もさっと身をかわす。
「言葉を解してもお頭の程度は可愛そうなレベルか」
その瞬間、真壁の声と共に、振り下ろされる大鎌。
普通の人間が使えば、大鎌などまともな武器としては機能しない。しかし、リンカーの超身体能力を持ってすれば、文字通り死の鎌となって相手に襲いかかるのである。
「ぬうっ」
まともには当たらなかったが、腕をかすめた。
その瞬間、真壁が鎌を払い上げる!
「ぐぬ……!? おのれ、ただの武器ではないな」
「まだバランスが崩れないか。一応、愚神と言うだけのことはあるようだな」
大鎌の射程ギリギリまで距離を取り、真壁が構えをとる。寄らば斬る。そして、突く。カウンターの構えだ。
しかし、そんな戦場にもう一人。
「魔剣×ドリル! まあまあね」
シルフィードがうなりを上げて突き上げられる。それをドリルを使って、防ぐガゼット。
「あら、絡まっちゃった。素敵」
「意味が分からぬ」
「今に分かるわよ。思い知らせてあ・げ・る」
一方、戦いの場を横目に見ながら、ノイズは別の動きをしていた。
(愚神の撃破には他のメンバーが向かっている。なら、私がやる最善手は……!)
彼女の瞳の先には、じたばたともがくように動いている少女の姿があった。戦場を回り込むように駆け抜け、少女の傍までたどり着いたノイズは、そのまま少女を抱え上げた。
「まったく、運が良いんだか、悪いんだか」
「あ、あ……」
腕の中の少女が何かをしゃべろうとする。
「あ?」
「ありがとう、……ございます……」
「……!」
しかし、ノイズは立ち止まることなく戦場から離れる方向へ走り出した。
「……今はとにかく、安全な場所まで連れて行ってやる。……邪魔だからとっとと逃げろ」
あの愚神め、戻ったらスナイパーライフルで撃ち抜いてやる。
そう心に誓う、ノイズであった。
そして再び舞台は戦場へと移る。
「いい加減にそのうるせぇドリルを手放しやがれ、深夜に近所迷惑も甚だしいんだよ!」
叫びながら亮が振り下ろすのは竜牙刀【轟天】。そして、狙っているのは愚神本体ではなく、そのドリル!
(このやかましいドリルか腕を切り落としてやるぜ!)
しかし、愚神ガゼットもその狙いにいち早く気付く。
「させぬ」
尋常ではない速度でドリルを振り回すガゼット。
(ちぃ、そう来たか。なら出番だぜ……水瀬!)
身体の向きをわずかに変える。それだけで、水瀬からの射線が通る。
「弥刀さん、完璧です!」
ドリルを狙う亮。そして、本体を狙う水瀬。
「銀の魔弾(シルバー・バレット)、発射!」
撃ち出された銀色の魔力弾が、ガゼットの身体に吸い込まれるように入っていく。
「ぐぬっ!」
ここに来て、初めてガゼットの口から苦悶の声が漏れた。
「おのれ、わらわらと我にたてつく人間どもめ」
「うるせー。てめぇこそ、人間舐めんな!」
そう言って、もう一撃繰り出す亮。
ガゼットは、大きく避けた。
しかし、その方向に待っていたのは、ラピスとアリーであった。
「ドリルは男のロマンって訳? でもそんな音じゃラピス……じゃなくて俺はロマンを一切感じないけどねっ」
「さっきの襲い方、明らかに悪趣味だったよね。あんたは、やっぱり許せない!」
ラピスの銀の弾丸が、アリーのグランツサーベルが、愚神の身体をまともに捉える。
「がっはあ!」
しかし、愚神はまだ倒れない。
「おのれ、こしゃくな人間ども! 我がドリルの真の力を知れ!」
ギュキュイイイイイン!
ドリルの回転数が、さらに上がった。それはもう、悲鳴のような金切り声。剥き出しの神経を直撃するような、音の暴風とも言える。
「く……!」
この音の暴風に真っ先に捕まったのが、防音に何の準備もしていない菊次郎であった。
(身体が……これは、マズいですね)
しかし、
「菊次郎さん、がんばって! ケガしたらあたしが回復させます!」
悲鳴のような音の渦を貫いて届くアリーの声。引きつる頬で、菊次郎は微笑んだ。
(とにかく、身体が動けるように全力を振るいましょう)
「他の皆さんも! あたし、がんばりますから!」
「ラピスもいるよ! みんな、あと一息!」
(若いというのは、いいことだな)
気を抜けば引きつりそうになる筋肉を何とか抑えながら、真壁は心の中で思った。
(これは、負けられん)
「水瀬! 俺たちも行くぜ!」
亮が叫んだその言葉は、ドリルの音にかき消されたはずだった。だが、水瀬は、
「はい、弥刀さん。やりましょう!」
しっかりとうなずいたのだった。
●決着!
「魔鎌×ドリル! 中々いい?」
「相変わらず、お前の言うことはワケが分からぬ!」
「うほっ! 愚神×ドリル!」
ここに至って、ついに愚神は的をひとつに絞ることに決めたようである。
自慢のドリルに抵抗する能力者達。これが、今の愚神には耐えられなかった。言い換えれば、耐えがたい屈辱であった。
「もうよい、お前達、我が手で一人ずつ葬ってくれよう!」
「その第一候補があたしってわけね! 話が早いわ!」
ドリルを構えた愚神の身体がふわりと浮き、その先端が月世に向けられる。
月世もまた、シルフィードを構えていた。
「……×ドリル!」
「死ね」
一瞬の間。
その間に、愚神と月世の位置は入れ替わっていた。
そして、先に膝をついたのは、……月世。
「ご……!」
その脇腹からは、赤いものが溢れ出していた。
「く、くふふふふふ……」
笑う愚神。だが――
「何ッ!?」
ドリルの音が、完全に止まっていた。
「……ご馳走様……!」
傷口を押さえながら、後ろを振り返り、ニヤリと笑う月世。
「我がドリルが、我がドリルが……!」
「オシマイだね。ドリルといっしょにお前も砕けるべきだよ!」
ラピスの手から発射される銀の弾丸。
アリーのグランツサーベルが振り下ろされ、菊次郎のマビノギオンから剣が撃ち出される。亮の竜牙刀はうなりを上げ、それにリズムを合わせるかのように水瀬の銀の弾丸が発射、真壁の大鎌が刈り上げる。
そして最後は……
「ぐげえええええええっ!!?」
「……ふう、どうやら間に合ったみたいだね」
ノイズのスナイパーライフルが愚神の頭を撃ち抜いていた。
●戦い終わって
こうして、愚神ガゼットは撃破され、戦いは終わった。
ノイズの手によって安全な場所まで逃げられた少女は、後日、HOPEに感謝の連絡をすることになる。そして、出来ることならあの夜、自分を助けてくれた能力者全員にお礼がしたい、とも。
しかし、能力者達にとっては、その言葉だけで充分だっただろう。
何故なら、彼ら彼女らはじっとしてはいられないから。
次なる冒険が、皆を待っている。
能力者達に、休みはないのだ!