本部

クリスマス・スイーツ・マーケット

真名木風由

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2015/12/14 05:27

掲示板

オープニング

「こうして見ると、色々あるのですね」
 剣崎高音(az0014)が、パンフを見て感嘆の息を漏らす。
 ここは都内にある公園。
 今日からクリスマスまでの間、クリスマス・スイーツ・マーケットというイベントが催され、人の多さより一応ヴィランの犯罪を警戒した主催者よりパトロールの依頼が来たのだ。
 クリスマスと言うと、ケーキを思い浮かべる者も多いだろう。
 が、ここではヨーロッパにあるクリスマスによく食べるお菓子が勢揃いするらしい。
 クリスマス定番以外にも温かい飲み物を販売しているブースもあり、初日、週末、クリスマス近くは多くの人で賑わうのだとか。
 それならばヴィランがこっそり小遣い稼ぎしても不思議はないが、あまりパトロールと物々しくされても他の来場者が身構えてしまうことより、少人数でごく普通に楽しみながら閉場時間まで会場内を巡っていて欲しいとのこと。
 有事が発生すればその限りではないだろうが、予測で動く部分の任務だ、気を抜き過ぎさえしなければ任務としては問題ないだろう。
「知らないお菓子……沢山、あるのね……」
 夜神十架(az0014hero001)もちょっとそわそわしている。
 生真面目な高音も主催者側の意向もあって任務を前に押し出すつもりはないのか、十架を嗜めることもなく、パンフを一緒に眺めているので、特に心配はないだろう。
 さて、『あなた』達はどうしようか。

解説

●目的
・パトロールをしつつクリスマス・スイーツ・マーケットを楽しむ

大規模なイベントの為ヴィランの犯罪も警戒されていますが、ヴィランは登場しません(PL情報)
ただし、一般人のスリや置き引きがたまに発生することもありますので油断し過ぎに注意。

●場所
・都内の公園

時間帯は夜まで(特に詳細な描写はしません)

●クリスマス・スイーツ・マーケット
ヨーロッパのクリスマス定番スイーツが販売されている。
広場奥にはクリスマスツリーもあり、夜はライトアップ。

ブース一例
エーブレスキーバ
デンマーク。たこ焼きより少し大きめの形状。ミックスベリージャムと粉砂糖をかけて食べる。
実演販売しており、美味しそう。

ポルボロン
スペイン。クリスマスだけでなく、新年、お祝いの席にも登場。とても崩れ易いクッキー。
口に入れ、溶ける前に「ポルボロン」と3回唱えられると、幸せが訪れるとか。

トゥロン
スペイン。かりっとしたヌガー。蜂蜜とアーモンド主体とのこと。

ベイグリ
ハンガリー。復活祭にも食べるロールケーキ。ただしクリームはなく、ドライフルーツやナッツを練りこんだ餡のようなものを挟んでいるらしい。

ヨウルトルットゥ
フィンランド。星型のパイ。真ん中にはプラムジャムが入っている。

他にも定番色々ある模様。

飲み物はホットワイン各種やレモネード、キンダープンシュ(ノンアルコールのホットドリンク。シナモンなど香辛料が入っている)などがあります。

●NPC情報
・剣崎高音、夜神十架
PCから指定あれば共に行動します。なければ、会場内を巡っています(必要最低限描写のみとなります)

●注意・補足事項
・時間内の買い物は全て経費扱いとなりますが、食べ過ぎ飲み過ぎにはご注意ください。
・飲酒も問題ないですが、一応任務ですので、酒に酔って誰かに絡む等々迷惑を掛ける行為はご遠慮ください。
・酔っ払う以外であっても任務中です。人に迷惑を掛けず、また、気を抜き過ぎないように。

リプレイ

●人込みに紛れる前に
(ちゃんとした依頼って初めて……)
 柚木 響子(aa0937)は少し緊張しつつ、自己紹介。
「よろしく」
 エレオノーラ(aa2298hero001)の隣にいた光流(aa2298)が短く挨拶。
 と、見た目年長のマルコ・マカーリオ(aa0121hero001)が皆を見ていることに気づいた。
「マルコさんは放って置いていいよ。皆、連絡先交換しよう。何かあった時動き易いと思うし」
 アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)が素早く、遠慮のない物言い。
「放置とはどういう……」
「どうせナンパに使うんでしょ? だから交換しても見せないよ」
 アンジェリカの指摘に、マルコは膝から崩れ落ちた。
「打ち合わせは、場所が偏らないよう調整程度でいいよねー」
 鴉守 暁(aa0306)の手にはパンフがあり、大体どの辺りから回ろうか、と皆を見る。
 反対意見もなく、話を進めようとしていると─計s年
「色々あるネー。見たことアリマセーン」
「イタリアではパネットーネは伝統だよ?」
 キャス・ライジングサン(aa0306hero001)へアンジェリカが出身のイタリア伝統のクリスマス菓子を販売するブースを指し示す。
「あ、でも、パンドーロも売ってる。……戦争になったなー」
 アンジェリカが言うには、パネットーネもパンドーロも定番のクリスマス菓子だそうだ。
「聞いているだけで素敵だね。何て素敵な催し……犯罪は未然に防がないとね!! クレアにも良い友人が出来るかもしれないし!!」
 アルフレッド=K=リデルハート(aa0380hero001)が頑張ってスマートフォンに皆の連絡先を登録すると、クレア=エンフィールド(aa0380)の辟易とした顔を他所に言葉を弾ませた。
(単に食い意地張ってるだけだろ)
 クレアの顔には何匹の苦虫がいるのかちょっと測定不可能。
「クレアも機嫌の悪そうな顔をしているけれど、これは照れ隠しなんだ。素直じゃない子だけれど、良ければどうぞ仲良くしてあげて欲しい」
「こんのクソ犬、ふざっけんじゃねー!!!」
 噴煙上げるクレアは本気で嫌がっているが、澄んだ湖の瞳を持つアルフレッド、その心は瞳の色同様に澄んでいたので、クレアにも友人をと意に介してくれなかった。
「まぁ、依頼はちゃんとやるとして」
 餅 望月(aa0843)、さらっと任務へ話を戻す。
「甘いもの食べ放題だしねー」
「食べ放題とはちょっと違うからね」
 百薬(aa0843hero001)のテンションの高さは予想通り、と望月は百薬に言い含めるのを忘れない。
 とは言え、望月も楽しみだったりしている。
 だって、そういうものが食べられそうなデパートは皆お洒落で、行こうとは思わないから。ジャージやジーパンでも気軽に回れるこの催し物は魅力的だ。
「でも、素敵なお菓子が一杯で……っ。経費って聞いて、すごく嬉しくて」
 響子が自分ご褒美の任務と百薬に同調する。
 マーケットって響きもお洒落だし、そこで売られているものもお洒落、しかも最近は和菓子が多くて、全部行きたい……と声は弾んでいたり。
「張り切るのは良いですけれど、転ばないように気を付けてね 響ちゃん」
 フェルシェ(aa0937hero001)などはそう笑って響子を見ているが、素敵なお菓子には大いに賛同したいアルフレッドも加わり、どれが興味あるかなんて意見交換している。
「クリスマス付近は家の事情でパーティーが立て込みますから、こう気楽に楽しめるのも良いですわね」
「それでなくとも年末は忙しいですからね」
 散夏財閥のひとり娘である散夏 日和(aa1453)は自身が最初に回るブースの案内に目を落とすと、剣崎高音(az0014)が師走の多忙さに苦笑する。
「稼ぎ時でもあるんですよね」
 その会話に加わるのは、鋼野 明斗(aa0553)だ。
 主に飲食業のスポット(所謂単発バイト)中心に精を出す彼としては、スポットの数が豊富なこと自体はありがたいことなのかもしれない。
 だって、彼には──
『お土産!!』
 ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)が熱く主張していた。
『ケーキ!!』
(それでこの依頼……)
 明斗は押し付けられるスケッチブックで色々察した。
 先日、任務で深い傷を負った明斗、その慣らしには軽い任務がいいと思っていたのだが、無口なドロシーが任務を請けてきた為、その心を汲んでここへ来た。が、その実態、彼の苦労も増やすドロシーは安いプリンではなく、美味しいお菓子が食べたいという実力行使であったようだ。
「ドロシーさんのお気持ちも分かりますよ。クリスマスはお菓子で溢れ返ってますから、十架ちゃんも立ち止まることが多くて」
「……なるほど」
「ほら、ライン、楽しむことも大事ですわよ?」
 高音がドロシーと一緒にパンフレットをまじまじと見ている夜神十架(az0014hero001)を見、そう言うと、明斗も納得する。
 それを聞いた日和がライン・ブルーローゼン(aa1453hero001)へもう少し肩の力を抜くように言った。
「楽しみながらと言われてもな……」
 けれど、光流以外和やかな空気で、ラインはちょっと戸惑った。
 そろそろ、開場なのでお願いしますとスタッフが呼びに来て、任務は始まる。

●午前から賑わって
「呑んでもいいけど、仕事は忘れないでよね」
 その辺は弁えているとは思うけど、とアンジェリカ。
 が、当のマルコはヴィン・ブリュレを口に運んでいる。
 香辛料がしっかりしたホットワインは、風邪の引き始めにと各家庭でも呑まれているものとはアンジェリカの言葉。
「やっぱりパネットーネは外せないよね」
 ぱっと顔を輝かせた先にあるのは、ドライフルーツが入ったパネットーネ。
 先に購入した星型のお菓子、ツィームトシュテルンを食べ終えたアンジェリカはパネットーネ購入。
「うん、これこれ。ツィームトシュテルンのしっとりしたアーモンドの風味もスイスはこうなのかーって感じで良かったんだけど、やっぱりイタリア人はこれだよね♪」
 一口食べれば、途端に笑顔。
 生地も中のドライフルーツもいい味が出ていて、中々の職人が作ったものだと分かる。
「大きさからして違うな」
「結構手間が掛かるからパン屋さんやお菓子屋さんで作った物を買う人多いけど、孤児院では教育の一環として皆で作ったんだよ」
「へぇ」
 気のない相槌だったので、アンジェリカは遠慮なくマルコの口へパネットーネを突っ込む。
「強引だな。まぁ、悪くない味だな」
 やれやれといった調子のマルコにむっとしたアンジェリカは、前方に光流がちらちらとブースを見ていることに気づいた。
「食べないの?」
「け……」
「その話はここではアウトっ」
 アンジェリカが言いかけた光流の口へツィームトシュテルンを放り込む。
 咀嚼した光流はアンジェリカは主催の意向も踏まえて警備していることに気づいた。
 真面目に警備し過ぎては逆に露見してしまうという経験則がそうさせている……というのは、経験不足の自分にも分かる。
「近くに不審物がないか確認したいし、一緒に並ぼうよ」
「そ、それなら。買わないで立っている訳にもいかないし不自然にならないように……」
 光流は興味がない素振りで言うが、目はクルームカーケに固定されている。
 尚、焼き上げたクレープを芯に巻きラッパ型に仕上げ、たっぷりクリームが入れたノルウェーのお菓子のことである。
「美味しい! そう思わない?」
「美味しい、と思う。特にクリームが口に溶ける感じが……♪ ……い、一般論として。一般論」
 アンジェリカに答えてから、光流は慌てて言い直すが、キラキラした目と一口目の勢いを考えれば、きっと甘いものが好きなのだろう。
「マルコさん甘いもの興味なさそうだね」
 一応不審者がいないか確認するマルコは、「こっちのが好みなんでな」と予想通りの言葉だ。
「これだからおっさんは。……でも、今頃、また皆で作ってるんだろうな」
 お土産に後でまたパネットーネ、それからパンドーロも買おうと呟いたアンジェリカがスマートフォンにある孤児院の皆との記念写真を見る。
「この美人の尼僧がお前の家族か? これは一度挨拶にいかんとな」
「罰当たりな事言うなこの酔っ払いエロ坊主!」
 興奮気味のマルコへアンジェリカが必殺ぐーぱんち。
 ぷっと吹き出したような声が響いて、2人がそちらへ顔を向けると、光流が「何でもない」とそっぽ向く。
 けれど、いい具合に緊張が解けたようだ。
「ほら行くよ、おっさん。またね」
 アンジェリカはマルコを引き摺り、近くのトイレの様子も見に行く。
 壮観な眺めと多くのエージェントが感想を漏らしたマーケットを見回した光流も不自然にならないよう雑踏へ消えていく。

●楽しい共通点
「アカツキーこっちネー」
「はいはい」
 逸れ知らずで雑踏を進んでいくと、響子がスマートフォンでマーケットの様子を撮影しているのを見つけ、声を掛けた。
 曰く、不審者探しを行っているそうで。
「この辺り、甘い香りが漂ってきていますね」
「あそこじゃないかな?」
 暁がフェルシェに指し示したのは、エーブレスキーバというデンマークのお菓子だ。
 ここは実演販売をしているらしく、風に流れて美味しそうな香りが漂っている。
「和菓子では、ないのですね?」
「ここにはないかな。あれ……たこ焼きの作り方に似てるだけあって、形も似てるね」
「中にタコは入ってないと思うけどね」
 熱々の蒸し饅頭の姿を探すフェルシェへ苦笑した響子がエーブレスキーバの感想を漏らすと、暁もうんうん頷く。
「でも、ちょっと見え難……」
「えーい!」
 キャスが背後から暁を抱っこしてくれた。
 人込みの中なので肩車とはいかなかったようだが、普段と違う眺めの方が実演販売がよく見えるのは言うまでもなく。
「一緒にどう?」
「仲良く並びマース!」
 響子が誘うとキャスが元気良く答えて応じ、4人は列に並ぶ。
 焼き立ての生地へミックスベリーのジャム、それから粉砂糖が掛けられていく。
「お菓子のたこ焼きみたい」
「ナッツが入ってるのかな」
 響子も暁もそうした感覚だが、キャスは形から物珍しいらしく、「お月様ー」なんて言いながら食べている。
 食べながらもフェルシェはそれとなく周辺注意。というのも、この所自分の好きなものがおやつに出ていたので、今日は響子が食べたい物をと思ったからだ。
「和菓子はしっとりしたものが多いですけど、そうではないものも多く見られますね」
 そう言うフェルシェは可愛いお菓子も多いと感心する。
「ゴミはゴミ箱見つけるまで私のバックパックに入れておくよー」
「今の所不審者情報も……」
 暁に言い掛け、響子は食べてるキャスを撮影する振りをしてそれを撮影。
 響子はメールで連絡しながらも、ほぼ確定と目配せ……男が何度もミニスカートの女性の周囲をうろついている所を──
「エネミーはっけーん取り押さえるよー」
「イエッサー! みんなーそこどくネー!」
 暁の号と共にキャスが全力疾走。
 背の高い女性が揺れる胸気にせず猛スピードで迫るのに驚かない男性ならば、相手は同業者だろう、が。
 身動き取れなかった男は一般人、ごく普通にアームロックであっさり降参の御用だった。
「んじゃいこかー」
 後任せてと暁がキャスと共に盗撮の男を連行していく。
「響ちゃんがスマートフォンで証拠押さえてますし、大丈夫ですよ」
「メール送ったしね」
 その後、引渡し完了の暁とキャスとはヨウルトルットゥの店の前で再会した響子とフェルンシェは、彼女達の手にポルボロン、ベイグリ、トゥロンと多くのお菓子があることに気づく。
「夜勤の職員さんにもお土産ってね」
「私も自宅用と職員さん用にシュトーレンいただいちゃった」
 響子は自腹で購入、と言ったが、本部より話がいっていたようで、味の感想をネットで紹介してくれればそれでいいということでいただいたのだ。
 手にする飲み物も、キンダーブンシュと同じで、共通点の多さに笑う。
「名前もかぁわいいよね。それにサックサク」
「うんうん。あ、剣崎ー、これ美味しいよー」
 高音達を見つけた暁が情報交換の声を掛ける。
 僅かな接触時間での情報交換も充実したもの。
「歩いて消費して沢山食べられるように」
「今日1日いるしねー」
 食べて飲んでいるだけに見えても、仕事はちゃんとやっている。
 ドヤ顔決める暁と改めて注意事項を確認する響子……どちらも楽しんでいるのは同じだ。
 酔う様子もなくヴァン・ショー・ブラン(白のホットワイン)を呑むキャスの隣では、そろそろ甘いものばかりでは飽きると確保済みのほうじ茶を準備するフェルシェがいる。
「依頼受けて良かったねー」
「このまま何もなければステキなパーティーデース!」
 暁とキャスの問屋は卸してくれるだろうか。

●振り回しアクション
「クソ犬、いい加減に」
「クレア、あれ美味しそうだよ!」
 アルフレッドがクレアの腕を強引に引っ張っていく。
 素敵なお菓子を見ればきっと楽しくなる(断定)とクレアを引っ張るアルフレッドの姿は、飼い主と散歩にはしゃいで引き摺るゴールデンレトリバーを連想させる。
 アルフレッドは不審な人も物もないか目を配り、店の人とも世間話……さり気なく情報を集めつつ、チェックはしているが、その手の中の食べ物の入れ替わり激しい。
「世の中には食べ物に異物毒物を混入するという卑劣極まりない犯罪もあるからね。毒見役も大切なお役目だよ。……ところで、クレアは何も食べないの? どれもとても美味しそうだよ、ほら! 食べたい物を言ってご覧」
「……」
 クレアの苛立ちゲージは今光速上昇中……グリューワインを大量に呑みたいが、混雑の為に列に並ぶ必要があり、手の関係で1度に手に出来る量も限られている為、それらは煙草に集中した。
「迷子だ。放っておけないよね、クレア。ほら、煙草は終わり」
「何しやがる、クソ犬!」
 アルフレッドが強引にクレアの煙草を携帯灰皿へ収めると、クレアの怒りが火を噴く。
 ……怯むアルフレッドではないので、迷子へ歩いていく。
 と、別の角度から気づいていた日和とラインもやってきた。
「どうしましたの?」
 女性の日和の方が安心を与えられるだろうと日和が声を掛け、子供を宥めている内に見つけた親がお礼を言って子供と一緒に雑踏へ消えていき、ほっと一息。
「私とラインもグリューワインで身体を温めたんですよ。ラインが香辛料が色々入っているのが新鮮みたいで」
「冷えるから身体温めないとね」
 日和が微笑を向けると無反応のクレアに代わって、アルフレッドが微笑む。
「クレアは人見知りの照れ屋さんでごめんね」
「ラインもそういう所があるんですよ」
「すまない、僕は君程器用ではなくて……」
「このように」
 アルフレッドと日和の会話を聞いたラインが謝ろうとするが、謝り癖はよろしくないと日和に窘められる。
 ラインは謝罪しながらも人の多さには注意しており、楽しみながら任務に励む努力はするらしい。
 ただし、それでも警備比重らしく、入口から遠い場所を巡ってきたと話す彼の情報は警備観点のものが多かった。
「エーブレスキーバ付近で盗撮があったようですし、時間経過しましたから、行ってみません? 実演販売が気になっていましたし」
「いいね」
 日和とアルフレッドが歩いていく。
 ラインはアルフレッドに引っ張られるクレアを見るが、彼女が人見知りには見えなかった。

「たこ焼きと似たような器具を使っているのに味は違いますわね」
「ほっとする味だよね」
 日和とアルフレッドが腰を落ち着ける場所でエーブレスキーバを食べている。
 が、話しながらも注意も忘れない。
「僕にはどれも目新しくて分からないものばかりだ」
「気に入った物があればお土産に多く買って帰りましょう。合いそうな紅茶を取り寄せて、お茶会も悪くありません」
 一通り購入するつもりの日和に、着いて回るだけで面白いと思うラインは紅茶とお土産のお茶会にそわりとした様子を見せた。
「ベイグリ、というお菓子は木の実の素朴な味がした」
「どこのお店?」
「店は……」
 アルフレッドに答えようとしたラインが一点に目を留めた。
 雑踏の中でもさりげなく日和の壁になり、スリを警戒していたラインは話に夢中になっているカップルに伸びる手に気づいたのだ。
 気配を殺し、背後からスリを確保すると、周囲から歓声が上がった。
 無事に引渡しも済めば、引き続き警護へ。
「お手柄ですね、ライン」
「爺やさんにもお嬢様をよろしくとも言われているからな」
 日和に応じるラインは、ふと、クリスマスプディングを見る。
「プリン……ではないんだな」
「持ち帰り専門のようですね。当然と言えば当然ですが」
 後日、ラインはクリスマスプディングのフランペを見て目を瞬かせることになる。

●訪れる幸運
 ケーキとチキンでメリークリスマス。
 日本ではそれが一般的で、どこもそうだと思っていたがそうでもなかった。
「お仕事だから仕方ないのー、大事なのはペース配分」
「十架ちゃんも食べ過ぎに注意してね?」
 両方の意味で上手いことを言ったという望月の隣では、十架が百薬と一緒に スペインではこれがないとクリスマスは始まらないという人もいるらしい、トゥロンというアーモンドが香ばしいヌガーを食べているが、店を全て巡るなら、食べ過ぎは禁物だ。
「煎餅じゃなくてもこういうのあるんだね」
「全然違うよー」
 望月の感想にそう言う百薬は、ふと、何かに気づいた。
 皆、何か言って食べているのだ。
「あれはポルボロンらしいですね。十架ちゃんとも行ってみようと話してました」
 望月がセンス良さそうと思っていただけあり、高音は口に入れるとすぐに溶けるポルボロンを溶ける前に3回その名を言えたら幸せが訪れると言われている話をしてくれた。
「ほるぼろろろろ」
「ほるぽ……」
 百薬も十架も1回目から言えず、ポルボロンは口の中で溶けていった。
 おまじないだから、と笑いながら高音も試し、2回目で溶かし、望月も3回目の直前で溶かしてしまう。
「こういう情報交換はしておかないとね。あと、バラで買えない物とかも皆でシェアすれば問題ないし」
「あら、明斗さんとドロシーさんも試します?」
 高音が明斗に気づいて声を掛ける。
「試します。先程まで落とし物で困っている方の話を伺っていたので、見つかる幸運をいただきたく」
「明斗さんらしいですね」
 経費で落ちると判明した為、ドロシーの主張も過度ではなければ聞くことにした明斗、巡回中の困りごとの解決という幸せを呼び込みたいらしい。
「……」
 無口なドロシーは声を発する前に溶かしてしまい、『無念を晴らす!』とスケッチブックぐいぐい。
 一応、皆からポルボロン情報を聞いた明斗はギリギリ成功、拍手を貰った。
「折角ですし、良かったら一緒にどうですか? うちのにも買うので一緒に食べ……」
『また、ナンパ!』
 明斗が言い終える前にドロシーがスケッチブックでばしばし叩くので、明斗はヨウルトルットゥを3人の英雄の為に購入、黙らせた。
 サクサクのパイ生地にほくほく顔の3人が、美味しいと食べているのを見る。
(年齢は離れてるが……)
 英雄でもまだ子供のドロシーに友達が出来れば、と明斗は心の中で呟く。
「あんまり年が変わらないように見えるよねー」
 休憩スペースで望月がそう漏らした時には、3人はベルギーの店で買ったスペキュロスというクッキーの形を見せ合いっこしている。
「微笑ましいと思いますよ」
 紅茶を買ってきてくれた高音が望月と明斗へ配っていく。
 その間も暁推薦のお菓子をパトロールがてら買いに行こうと話す3人の能力者。
「盗撮とスリが見つかったみたいだけど、置き引きにも注意しないとね」
 場所柄万引きは難しいだろうが、それ以外はあるだろう。
 望月の言葉もあり、足元の荷物への注意が疎かな者へは人を捜す振りをした望月がわざと蹴躓くことで本人に思い出させ、忘れ物対応も考えていた明斗は望月の提案もあって隙の多そうな人へ財布が落ちそうだと声を掛けたり。
「ヴィランはいないようですが……」
 目を配る明斗は、ふと、椅子の下にコンパクトミラーが落ちていることに気づく。
 さっき、落とし物を探していた人が言っていたものに一致する……本部へ届けると、程なく、明斗が声を掛けた女性の持ち物であると判明した。
「ポルボロンの効果ですね」
「ぽるぼろん……凄い、のね……」
 高音と十架が明斗へそう言うと、
「経験談を聞かせていただきましたから。ありがとうございます」
『ナンパ!!』
「違う」
 ドロシーが教育的指導をするにはラオスで高音に可愛いと言った件もありそうだが、明斗は即答した。
 と、望月と百薬が場内アナウンスに気づく。
「そろそろ閉場するみたいだねー」
「ヴィラン、出なかったね」
 それが、案外最も幸運なことだったかもしれない。

●最後は皆で
 閉場後、エージェント達は控え室で状況を改めて報告し合った。
「深刻そうな人はいなかったねー」
「平和デシタネー」
 暁が報告書を纏めながら呟くと、キャスもその後は平和に過ごしたらしく、のほほん。
 日和達の荷物も相当だが、暁達の荷物も多い。
 これは、東京海上支部へ帰還した後、夜勤の職員へ差し入れるものだそうで。
 オーストリアのクグロフ、ポルトガルのボーロ・レイ、イギリスのミンスパイといった夜食になれそうな物を中心に、お馴染みバウムクーヘンや自分達も食べたベイグリといったものもあるらしい。
 これに響子のシュトーレンもあるので、豪華な差し入れだ。
「余ったら更に貰うつもりだけどねー」
「お裾分けのお裾分けデスヨ」
「それいい案だねー」
 暁とキャスへ百薬が採用と笑う。
 どうやら所属するコミュニティでもある与沙荘の面々へのお土産もゲットしていたようだ。
「や、百薬は抑えないとね? 皆甘い物好きなんだし」
 当然、望月はツッコミしたが。

「折角ですし、ツリーの前で記念写真を撮って帰りませんか?」
「イルミネーションも素敵でしたものね。勿論参加しますわ」
 明斗の提案に日和が真っ先に手を挙げた。
「クレア、是非参加させて貰おうよ。きっと良い記念になるよ」
「離しやがれ、このクソ犬、いや、犬以下だチックショウ!」
 意に介さないアルフレッドが、クレアを引っ張っていく。
「行きますわよ、ライン」
「……分かったから引っ張らないでくれ」
 記念写真に難を示していたラインも、腕を引っ張る日和に諦め、ツリーへ歩いていく。
「仲良し、さん……」
(片方はそうではないような気がする……)
 十架の呟きを拾った光流はそう思うが、異論は挟まない。
「こうして見ると、綺麗だよねー」
「そこで、ポルボロンです」
 響子が自分用のお土産に買っていたというポルボロンを皆で食べてから記念撮影はどうかと提案した。
「いいですね。今度は唱え終わりたいです」
「難しいんですか?」
「明斗さんが成功していましたよ」
 高音へ聞いた響子は明斗からコツ(?)を聞いてみたが、よく分からず、3回目の前に溶かしてしまった。
 他の皆もやっぱり溶けてしまい、明斗も今回は溶かすという結果。
「こういうのも運ですから」
『シャキッとしないから』
 気にしていない明斗へロザリーがスケッチブックを見せ、嘆息した。

 記念撮影を終え、フェルシェがクリスマスソングを口ずさむ。
(皆様が来る聖夜を素敵に過ごすことが出来ますように)
 その願いを込めたフェルシェの歌声は、風に乗り、店仕舞い作業をする者の為に響く音楽に綺麗に重なっていった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    柚木 響子aa0937
  • 自称・巴御前
    散夏 日和aa1453

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • エージェント
    クレア=エンフィールドaa0380
    人間|20才|女性|攻撃
  • エージェント
    アルフレッド=K=リデルハートaa0380hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • エージェント
    柚木 響子aa0937
    人間|14才|女性|防御
  • エージェント
    フェルシェaa0937hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 自称・巴御前
    散夏 日和aa1453
    人間|24才|女性|命中
  • ブルームーン
    ライン・ブルーローゼンaa1453hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
  • エージェント
    光流aa2298
    機械|15才|女性|攻撃



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