本部

噂の集合体

真名木風由

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2015/12/10 03:45

掲示板

オープニング

 『あなた』達は公園の入り口に立っていた。
「色々な噂があるようですから、きちんと調べた方がいいみたいですね」
 剣崎高音(az0014)は、夜神十架(az0014hero001)にも園内マップを渡しながらそう話す。
 ここは香港にある大きめの公園。
 今度、TV局主催でイベントを開催したいそうなのだが、何やら色々噂があるそうで。
 曰く、黒いコートにすっぽり身を隠した男女が歩き回っているとか、曰く、やけにでかい猫がいる、従魔なんじゃないのか、とか、曰く、怨嗟の声が聞こえてくるとか、曰く、妙なネズミの大群に襲われそうになったとか。
 そうした理由で、一応調査した方がいいという話になり、H.O.P.E.へ依頼が来たのだそうだ。
 人的被害がある事件の匂いもないことや調査主体であることもあり、たまたま研修でこの支部を訪れていた『あなた』達が研修の終わりに、軽い用事を頼むノリでお願いされたのである。
 勿論、少ないながらも報酬はあるし、これが終わったら、支部では美味しい中華料理(デリバリーのものらしいが美味らしい)が待っているそうなので、頑張るしかない。
 公園は広い……幾つかに分かれる必要はあるが、あまり細かく分け過ぎても有事の際に対応し切れないこともある。
 どの程度に分けて調査しよう。
 二手か三手かそれとも……。
 どうするかは『あなた』達次第だ。

解説

●目的
・公園にある色々な噂を突き止める

●場所、時間帯
・香港にある大きめの公園、夜

インフォメーションオフィスがある程度には大きいです。
園内マップ入手済。
園内にはサイン・ポストもあるので迷うことはないですが、噂全て確認するには分担する必要があります。

●噂各種
・黒いコートにすっぽり身を隠した男女が歩き回っている
季節の花々が植えられている広場に出没している模様。
PL情報:ただの変質者です。コートの中は推して知るべし。

・従魔と思われるやけにでかい猫
子供達が遊べる遊具付近に出没している模様。
PL情報:目撃時妊娠していた猫。子猫が生まれ、のんびり過ごしている。OL達がこっそり餌をやっているらしい。

・怨嗟の声が聞こえる
池付近の茂みから聞こえてくる模様。
PL情報:パワハラ受けてるサラリーマンが終業後上司の愚痴を言っているだけ。

・妙なネズミの大群に襲われそうになった
無料の温室付近で確認された模様。
PL情報:ミーレス級従魔です。数は30。回避も高いですが小柄故に攻撃が当て難い(通常でも部位攻撃相当の補正が掛かります)以外は数に物を言わせるだけで弱い。識別名『シュ』。

●NPC情報
・剣崎高音、夜神十架
指示があればPCと共に行動。ない場合はインフォメーションオフィス前で情報整理等の雑用担当。

●注意・補足事項
・夜間だけあり人通りは少ないです。が、一般人を相手にすることもありますので、噂の正体をよく確かめてから対応されるのをお勧めします。
・変質者は本当に変質者ですが、ただの一般人(強くもありません)、しかも見せて自分の色々を満足させているだけなので、重犯罪者に該当しません。この点を考慮した上で対応することをお勧めします。
・噂を確かめた際の対応は戦闘以外は皆様次第となります。

リプレイ

●噂の分担
「あの、どちらへ?」
 剣崎高音(az0014)は、噂の分担を話し合おうとするエージェントとは別に動こうとした、中城 凱(aa0406)と礼野 智美(aa0406hero001)、離戸 薫(aa0416)と美森 あやか(aa0416hero001)へ声を掛けた。
「あ、凱がネズミを見に行くというので、僕とあやかさんは猫の噂を確かめに」
「ネズミが人を襲いそうになったというのが気に掛かりまして」
「そういうことではなくて」
 薫と凱の回答に、高音が首を振る。
「噂の真相が分からない以上、そして複数ある以上、皆で話し合って分担を決めるのが筋ですよね? 少なくとも、皆が興味あるものだけ見た場合、確認出来ない噂もあるやもしれません。連絡手段のこともありますし、全く話し合わないでいいということはないと思いますよ?」
 まして、彼らの外見は人気のない夜の公園に彼らだけで歩き回るのに不向きでもある。
 能力者と英雄が見た目通りではないにせよ、最初不審だと声を掛ける基準は、見た目であるのだ。
 しかも、H.O.P.E.からのお願い事として請けてきた(少ないながら報酬も発生している)以上、個人で好きなように動いていい問題ではない。
「それは……すみませんでした」
 あやかが高音の主張は尤もだと頭を下げる。
「一理あるが、噂を早急に追い詰めなければ被害が出るかもしれないぞ」
「急いては事を仕損ずるとも申します。この中に愚神や従魔がいた場合、分担や連絡手段の不備で対応が遅れたら元も子もありません」
 智美が暢気に決めている場合ではないのではと言うが、高音は慎重な姿勢を見せた。
「まぁ、サクッと希望聞いて、偏りそうなら調整軽くして、連絡方法聞くだけでいいと思うけれどね」
 夜神十架(az0014hero001)を後ろから抱っこしている風深 櫻子(aa1704)が、そこまで深刻な話し合いにならないだろうと笑う。
(気遣ったのか?)
 シンシア リリエンソール(aa1704hero001)が心の中で呟くも、櫻子は、
「ああ、十架ちゃん可愛いわぁ……。お姉さま、海の向こうでも頑張っちゃう!!」
 と、高音への気遣いにお礼を言う十架へ頬擦りしてたから、シンシアの評価は初期位置へ戻った。
「唯一襲撃されたという情報があるので、正体は不明でも危険度が高いネズミの大群は単独ではない方がいいでしょうし、わたしが行きます。出来れば、高音さん達にも同行いただければと」
 軽く手を上げてそう言ったのは、晴海 嘉久也(aa0780)だ。
「ドレッドノートが複数人になら、有事は怒涛乱舞などで効率良くダメージを与えて時間を稼ぐことも出来ますから」
「分かりました。……十架ちゃん、いい?」
「高音と……一緒なら……」
 エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)の意見に頷いた高音の確認にそう答える十架に櫻子は悶絶しながらも、自分の希望を口にする。
「あたしも猫の噂にするわね。有事の際、ブレイブナイトの時間稼ぎがあった方がいいと思うし」
「治安維持は重要だからな」
 外見判定で高音には普通対応の櫻子は、十架と一緒ではないのが残念と言いながらも、異なる希望を出した。
 通信手段について提案は忘れず、何かあったらすぐに駆けつけると十架に笑うのもセットで行われたが。
「オチが読める気もするが、愚神や従魔の可能性もない訳ではない。俺は人型の黒コートの男女を確かめよう」
 たかが噂、されど噂という天原 一真(aa0188)は、まだ希望が出ていない黒いコートの男女へ志願する。
 ミアキス エヴォルツィオン(aa0188hero001)が「オチ……? 何かコントしてるのかな~」と言っているが、一真の言葉で黒いコートの男女が平和だった場合の『可能性』に複数のエージェントが反応した。
「タイーホなコトするコは捕マエるヨロシね!」
 李 静蕾(aa1530hero001)はそう言って、守矢 亮太(aa1530)を見た。
 亮太は一応携帯している三鎖鞭を弄びながら、「何をしてるか確認が先でいい?」と確認を取る。亮太はやろうと言われればやるが、興味あること以外では割と面倒くさがりらしく。
「愚神や人型の従魔の可能性もありますし、僕も黒コートへ行こうと思います。……そっち系の人かもしれない、ですけど……」
「そっち系、あっち系、どっち系~?」
 狼谷・優牙(aa0131)が希望を出すと、分かっていないプレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)が首を傾げる。
 が、優牙もはっきりとした答えを返せない。……変質者だったら、どうしよう、なんて。
「では、希望がない怨嗟の声は、私がピトと確認してきましょう」
 サラ・カミヤ(aa0527)が、最後に希望を出した。
 声が聞こえるだけ、目撃情報がないとあり、優先順位は噂の中でも高くない方だろう。
 が、小さなことからコツコツと……後に重大な事件になる予兆の可能性もある、イベント開催が控えているなら確認は必要だとサラ。
「あたしはコツコツめんどーです……」
「支部の方が頼んでくださる中華デリバリー、美味しいお店らしいですよ」
「え? 本当!? ……頑張ります」
 サラにより、アリア・ピト(aa0527hero001)の調整も問題なく。
 エージェント達は有事の際の対応を改めて確認し合い、それぞれ噂の発生場所へ散っていく。

●声の正体
「敵や実体のない英雄の声という可能性もなくはないですが……」
 サラはそう言いながら、資料をもう一度読み返す。
「……これ、そうじゃない?」
 アリアが声に気づいた。
 すすり泣きに混じり、紡がれるのは怨嗟の声。
 サラも警戒を強め、アリアと共鳴、ライトアイを発動させた。
 すると……
「誰」
 茂みの向こうには、まだ若い青年がいた。
「噂になってますよ」
 サラが事情を説明すると、青年は肩を落とした。
「……僕が吐き出せる場所はもうないかも」
「愚痴を言う暇があるなら見返す努力をしろといいますか、愚痴を言っても始まらないといいますか……誰かに聞いて貰うならともかく、独り言が何の解決になるのか、ならないのは理解してますね?」
「誰にも言えないんだ」
 正論を言われたい訳ではないだろうと思いながらもサラが言うと、青年がそう言った。
「僕の上司、妻の兄、僕の義兄なんだ。それから、人事権握ってるから……」
 つまり、この青年に同情したら、どういうことになるか分かっている為、誰も助けない。
 青年も妻の実兄である為、妻に話せない。
 逃げ場がないのを見越して、皆の前で罵倒、重要な連絡を彼にだけしない、孤立させるといった行為に及んでいるらしい。今日は全員の前で土下座も命令としてさせたそうだ。
(パワハラ、ですか)
 妻に話せない、ということは、兄妹の仲が極めて良好である可能性が高い。
 どのような経緯であってもパワハラは基本的に逃げられないものに対して行われる。行っている者は本人に社会を教えてやっていると思っていること方が多い。
(この方には恐怖を感じたらどうか、ということは言えませんね)
 映画を見せるより、従魔の群れの前に放り出すより。
 ……医療機関の受診と弁護士へ相談するよう促した方がいい。
「あなたが置かれている状態は、正常ではありません。頑張る必要はありませんよ」
 サラは帰宅を促し、男性は出口へ歩いていった。

●落ち着くこと大事
「オーストラリアのようなこともありえますし、些細なものであっても調べておいた方がいいですよね」
「中国とオーストラリアだとお国柄が違う気もするけど……重要なことは見落としたくないわよね」
 遊具置き場付近が暗いことも考慮し、継続性の観点から懐中電灯も準備した薫が周囲を照らすと、櫻子がそう答える。
「お国柄、ですか」
「そりゃ住んでる場所で人の考えは結構違うわよ? 日本とスイス然り」
 あやかが反芻すると、父方の祖父がスイス人というクォーターの櫻子は、そうした例を出す。
 同じ国でも地方によって考えが異なる場合もある、というのは、日本人の薫も分かることである。そうでなければ、料理の味つけなどで論争も起きないだろう。
「そういえば、シンシア、どこに行ったのかしら」
「……何か、声が複数聞こえませんか?」
 櫻子が会話中にふらっと姿を消したシンシアに気づき周囲を見回すと、あやかが首を傾げる。
「……よーしよし、いい子でしゅねー。ちょっとこっちにくるにゃん♪」
 シンシアの声だ。
 そのシンシアに応じる声は──
「……子猫、ですか?」
 薫がそう言った時には、櫻子はシンシアの声の方向へ歩いていった。
 薫とあやかも後を追うと、シンシアが子猫に囲まれて、猫言葉を話しながらもふもふしているのが見える。
 櫻子の時が、停まっているように見えた。

 やば、これは……。
 落ち着け私。私とあろうものが20歳の年増に萌えそうになるなんて。
 気をしっかり持つのよ、櫻子。

 ※思考は能力者らしく高速処理されました。

 20歳の年増とシンシアを評している櫻子、ご自身の年齢について考えた方がいいと思うが、それはさておき。
「……!? おい待てサクラ、み、見ていたのか!?」
 シンシアが人の気配に気づいて、振り返った。
「何にも見てないにゃん♪」
「このロリコンが……くっ、殺せ!!」
 噂の正体にいち早く気づいて、猫が従魔ではないと気づいて可愛がってたなんてこの女に知られるなんて!
 シンシア、羞恥で震える。
「猫って、夜行動しますし、子沢山みたいですから、お腹も大きかったと思いますし、夜に見て驚いた人の勘違いかもしれませんね」
 猫に馴染みがない人なら、妊娠中や単純な肥満の猫でも、自分の知識ではない大きさのものに驚くかもしれない。
「子沢山だからねぇ。でも、NPOに連絡かな」
 公園の管理事務所へ通報したら、捕獲されて殺されるのではと薫が顔を曇らせていると、櫻子が薫の話を聞いて不安そうなシンシアを見ながらそう言った。
「香港にはないし、国内では通常食されないって法律にもなってるけど、猫食……あるのよね」
 スイスでも農村部で食される為、櫻子は知識としてそれを知っていた。
 自分達が飼う飼わないはここで即断出来るような問題でもない為、「さーて、モノホンはいるのか」と言いながらも櫻子はNPOへ即連絡し、引き取る算段を整えた。
 櫻子の手配に安堵し、薫とあやかは顔を見合わせ、胸を撫で下ろす。
「……礼を言う」
「何が?」
「知らんっ!」
 そらっとぼけた櫻子に、シンシアは折角礼を言ってやったのにと、顔をぷいっと背けた。

●お、おお……
 エージェント達はすぐに共鳴出来るよう、また、互いに連携出来るよう体制を整えていた。
「実はただの寒がりさんだったりして?」
「でも、怪しいのには違いないですからっ」
「日中に何事もなく来れば楽しみがあるんだろうが、夜間に不穏な状況で来た場合は緊張感の方が増す場所だな」
 プレシアの言葉に優牙が油断しないようにと拳を固めると、一真が種類違えど不穏には違いないと人影を探すべく首を巡らせている。広場での出現で、遮蔽物もないならと見る範囲を重複しないようにしている形なのだ。
「あれ、そうかな?」
 別方向から女性が歩いてくる。
 また、別の方向からも男性が歩いてくる。
 両者、黒いコートをすっぽり被っていて……

 ばっ!

 皆から懐中電灯を向けられてるのに、男女は黒いコートをガバッと広げた。
 女王様な服装に身を包んだ両者、ご自身の身体に縄遊びをされてました。(穏便な表現)

「はァ~」
 一真の盛大な溜め息が広場に響く。
 これは、自分が考えた可能性の斜め上だ。
「こ、この人達はもしかしなくてもただの変質者じゃ……」
「あやや? 大きな象さんがいる? 優牙より……」
「プレシア何をいってるんですかー!?」
 縄遊び(穏便な表現)の男性をじろじろと見たプレシアはあることに気づくが、優牙、慌ててプレシアの口を塞ぐ。
「あの、こちらで何を?」
 亮太が白けた目で彼らを見るも、全く動じた様子もない男女はうむ、と話し出す。
「実は、我々職場で切磋琢磨する間柄でして」
「趣味と実益を兼ね、定期的に自分達の技巧の上達具合を競い合っています」
「こんな夜中は危ナイよ! 噂だと従魔イル言うシ帰ったホがヨロシね!」
 静蕾が、互いの技巧具合を評価し出した男女へそう声を掛ける。
 従魔が実際にいるかどうかはまだ確かめられていないが、本当にそうだった場合が怖い。
「え!? そうなんです!? ここ、人がいないから、技巧の上達具合を確認するのにいい場所なのに」
「カフェなどで見せ合う訳にもいかないのに」
「お、普通の人っぽい?」
「その技巧は普通じゃない」
 男女の反応にプレシアが話通じるのかなと言うが、一真は外見でアウト判定を下す。
 地味に法律的には問題ない変質者というのが、色々対応に困る。
 コートで全身を見せないようにしているなら、中身は見せられないものである、推して知るべし……全裸も困るが、女王様服に縄遊びされているのも困る。っていうか、技巧って何だよ。
「こういう人種の出没は雪解けになったらだと思っていたんだが……。まさか雪が降る前のこの季節にも現れるとは……」
「修行に季節関係ないですよね?」
「なるほど~、季節を問わず修行しているんだ~」
「納得しないでいい」
 一真のぼやきに男女声を揃え、ミアキスの納得を得るが、一真はすかさずツッコミした。
 全裸で感想を求められるなら、自分とミアキス基準で忌憚ない意見を述べ、そして速やかに確保して警察に突き出すのだが。
「修行なら、そっとしておこう」
「多分それが一番手取りバヤいアル」
 早々に匙を廃棄処分した亮太の提案に静蕾もこくりと頷いた。
「とりあえず、コートを着てください。それからですね、お姿が噂になっていてですね……」
 優牙が深く溜め息を吐き、修行場所にされても困ると説く。
 考えてみれば、黒いコートの男女というだけでそのものを周囲に見せていない(中身の目撃情報がない)し、話を聞く範囲、切磋琢磨している技巧は一般的ではないという自覚はある(じゃなかったら、そこらで見せて感想を聞いているだろう)……ならば、聞いて貰えるかもしれない。
「素人に噂となるのはいいことではないですね」
「職場に迷惑掛かってしまいますね」
 男女、説得通じたか?
「これからは、職場の休憩室にしますか」
「そうですね」
 男女は何か相談して帰っていった。
 プレシアやミアキスはよく分からず首を傾げていたが、大体察した優牙と一真は盛大な溜め息を吐く。
「そっとしておいた方がいいよ」
「そうアルネ」
 仕事への情熱を持った(ということにしておく)変質者ということも判明し、エージェント達は他の噂の状況を確認することにした。

●唯一の噂
「従魔だった場合、確実に退治することを考えれば、奇襲を受けるといったことがない限りは慎重に動いた方がいいでしょうね」
 嘉久也は、場合によっては数の不利で退治し切れず逃すことなどあってはならない為、全員揃ってからの対応が必要と皆を見る。
 勿論、相手がこちらに先に気づき、事を起こす場合もあるので、その辺りは臨機応変といった所か。
「付近という情報ではあるから、温室という断定は危険だろう。人気が少ないとはいえ、一般人が皆無ではない。見極めは必要だろうな」
 智美が別の場所に出現する可能性もある、と断定は禁物と口にする。
(噂になるということは、それだけ目撃されてるってことだものな)
 凱はなるほどと納得。
 嘉久也の言う通り、襲われそうになったという実際の危険が発生しているのはネズミの大群だけだ。従魔や愚神であるとしたら、ここが可能性として1番高いだろう。
「とは言え、あまり大声で話していては、向こうに気づかれやすいですね」
「わたしもそう思っていました」
 高音がそう言うと、嘉久也は温室付近では静かに、それから慎重に振舞おうと提案する。
「声は、どうやら問題なかったようですね」
 サラがボイスチャットも出来るアプリのグループチャットへ文字で状況報告したらしく、定期的に確認していたエスティアが怨嗟の声の正体はパワハラを受けていた青年の怨嗟であったと皆へ報告する。
「……猫さん……」
 遅れ、十架がほわっと顔を綻ばせた。
 櫻子が噂の正体の画像をチャットに上げてくれたらしい。
 どちらのチームも合流の為動くらしく、両方共襲われたという噂であったことより、こちらへ来るそうだ。黒コートチームの報告がまだだが、万が一の時はそちらへ合流出来るよう立ち回るともある。
「ネズミなら、餌で誘き出してはどうだろうか」
「クッキーありますが……」
「止めておいた方がいいでしょう」
 智美の提案を受け、凱が申し出るが、嘉久也は首を振った。
 通常のネズミなら、餌で誘引、殺鼠剤で駆除が最も早く確実。
 それは智美の見解通りだ。
 だが、嘉久也は、その可能性に気づいていた。
「従魔の可能性が高いのはご承知の通りです。彼らはまず餌に誘引されないでしょう。それ所か、本当のネズミが誘引されてしまい、彼らに食事を提供することになります」
「噂が従魔で、かつ、餌で本物が誘引された場合、両者の判別は餌にされているかされていないかになってしまいますからね」
 エスティアが見た目に絶対よろしくない光景が展開されると苦笑する。
 大きさを考えれば、誘引された本物のネズミを除外して従魔だけ倒すことは出来ない。
 本物も病原菌を齎す害獣である為、苦情が出ることはないだろうが、合流を基本とするなら、彼らの全滅を見る形になり、一瞬で全滅が行われないことを考えれば、どういうことになるかは想像に難くないだろう。
 嘉久也の見解、エスティアの補足も尤もだと凱と智美も納得し、目撃情報があった温室付近に痕跡はないか調査しようという話になった。
「痕跡は正体及び行動について判明する手がかりですからね」
 周囲は暗く、視界はいいとは言えない。
 嘉久也は皆に警戒を促し、無防備にならないよう、出来れば物陰から調べるべきと慎重な姿勢を見せた。
 彼がそうしているように、皆で丁寧に調べていくと、小さな足跡がうっすらと見える。
 が、乱雑で法則性もない為に始点と終点が不明だ。
 ただ、数が少なくないというのは分かる。
「……コートは、お仕事熱心……な人達、だった……みたい」
 確認していた十架がぽつぽつと報告し、彼らもこちらへ向かう旨が記されている。
 それなら、遭遇があっても合流は思ったより手間取らないかもしれない。
 エージェントがそう思った瞬間だ。
「……何か、聞こえませんか?」
 エスティアが顔を上げた。
 遠くから小さな足音が響いている。
「どこからか分かりますか?」
 察した嘉久也が安全圏まで一旦後退するにしても音の方向が分からなければ危険とエスティアに尋ねている間に高音がチャットへ皆に異常を連絡し、急行を依頼する。
 その間にも音は近づき、他のエージェントの耳にも捉えられるようになった。
「水音……?」
「……排水溝かもしれません。急いで離れてください」
 智美が漏らした言葉に気づいたエスティアが見回し、一刻の猶予もないと判断して嘉久也と共鳴した。
「合流して戦闘が理想ではありましたが」
「逃さないよう、立ち回る必要がありますね」
「それと、こちらが不利にならないよう立ち回る必要もありそうですね」
 嘉久也へ十架と共鳴した高音と智美と共鳴した凱が応じた瞬間、排水溝から這い出すようにして小さなネズミの群れが姿を現す。
 が、不気味に目を輝かせる姿を見れば、従魔であるというのは一目瞭然。
 後に識別名『シュ』と知る従魔は、逃げないエージェント達に襲い掛かってきた。

●倒した先のご褒美
 シュの体格は、普通のネズミサイズだ。
 体格が小さい故に攻撃が当て難いというのは、攻撃する前から見当がつく。
 数が多い点も考慮し、まずは凱が怒涛乱舞発動。
 怒涛乱舞自体の命中精度もあるだろうが、回避力も高い部類であるらしく、凱の攻撃を2体回避する。
 けれど、攻撃が当たった個体は深手を負っているように見られ、生命力に関しては難があるのだろう。
「逃さないようにすることが大事ですね」
 高音が回り込むように立ち回り、足止め重視の攻撃を行う。
 その間に嘉久也もオーガドライブ、怒涛乱舞でシュを効率良く攻撃していく。
 と、エージェントの声が響き、合流間近であることを彼らは察する。
「お待たせしましたっ」
 その言葉と同時にプレシアと共鳴した優牙のトリオが発動された。
 1体回避されるも、2体命中、内1体は既に攻撃を受けて弱っていた個体であった為、そのまま動かなくなる。
「こっちは担当するわよ!」
 優牙のトリオ発動の時には、シンシアと共鳴した櫻子も回り込むべく走っていた。
 優れた勘と研ぎ澄まされた感覚で、命中精度を上げている分、少しはマシだろうと櫻子はバトルサーベルを振るい、シュへの攻撃を開始。
「ただのネズミではなかったとはな」
 同じように駆けつけた一真も当然ミアキスと共鳴済み。
 振り翳すグリムリーパー には、ライヴスが纏われてある。
 高音の攻撃を避けた個体目掛けて叩き込めば、シュは動かない。
「従魔なんだから倒さなきゃ」
 亮太の言葉は、恐らく静蕾へ向けられたものだろう。
 彼もオーガドライブ、怒涛乱舞と攻撃を加え、回避した個体を優牙が撃つ。
「周辺退避完了しました」
「近くに一般人はいないです」
 アリアと共鳴したサラ、あやかと共鳴した薫が一般人退避を完了させ、合流した。
 サラと薫がライトアイを発動させ、全員の視界をフォローすると、現在の状況を確認し合う。
 そうなれば、後は個体の小ささと回避力の高さに気をつけて攻撃すればいいだけ。
 ……言うのは簡単だが、実際はそうでもなかったりしたものの、特に被害なくシュを討伐完了。
「従魔なら原因もあると思いますが……」
「香港在住のネズミの数考えたら、ちょっと現実的じゃないわよ?」
 嘉久也が痕跡から原因特定出来る可能性を考え、追加捜査をと言うが、櫻子が小物であったと感想を漏らすシンシアを他所にそう言う。
 土地勘もないことを考えると、本当の意味での原因究明は厳しいだろう。
 嘉久也もそれは納得する所であるので、排水溝付近を調べ、自身の考察を立てると、それ以上は報告書の内容で支部に原因究明を委任して貰うことにした。

 そして……

「頑張ったからご飯食べる~!!」
「ピト、焦らず食べてくださいね」
 アリアが熱々の焼小籠包のスープを吸っているのを見、サラが零さないようにと注意を促す。
 支部に戻ったエージェント達は労いの意味を込め、中華料理をデリバリーで頼んでくれ、彼らは夕食を取っているのだ。
「外が寒かっただけに暖かい中華は嬉しいですねー」
「僕は美味しければ何でもだけどねー♪」
「食べ過ぎないでくださいね?」
 優牙はエビチリを頬張るプレシアを窘めるが、美味しいらしく、「一杯食べるのだ♪」と蟹炒飯へ手を伸ばす。
 少食の薫とあやかは控えめにニラの小籠包を食べていた。
「これなら妹達も野菜食べ易いかな……」
「お土産には出来ない分、味を覚えて帰りましょう」
「作る時は俺達にもお裾分けしろよ?」
 薫の呟きを耳に拾ったあやかが微笑めば、智美が凱をチラ見していうので、凱はそれを無視して薫へ「こっちのは海老の小籠包のようだぞ」と自身の目の前の小籠包を指し示す。
「好吃!! やぱり中華美味しいヨ!」
「豚角煮おいし~」
「ワタシも食べるヨ!!」
 静蕾とミアキスは味の情報交換をしつつ、ぱくぱく。
「見てるだけでお腹一杯になりそう」
「そうか? 早く食わないとなくなるぞ」
 呟く亮太へ、一真が海老とレタスの炒飯どーん。
「大きな公園でしたね。合流が手間取らなくて良かったです」
「わたしが知っている場所は閉鎖されてますが、市民の憩いの場はひとつではないですしね」
 エスティアに応じる嘉久也はこの後報告書を詰めるらしく、集中力の問題からか少なめに小籠包を食べている。
 その手前では小籠包を分け合う高音と十架がおり、仲睦まじい様子を見せていた。
「……馴染みがない料理ばかりだ」
 シンシアが櫻子が取ってくれた青椒肉絲、小龍包に蟹炒飯、春巻に目を瞬かせる。
「ウチじゃあまり作らないからねぇ」
 支部の建物内だけあり、紹興酒は職員からNGが出たものの(シンシアは後に匂いのきつい酒と知るが)、櫻子もシンシアと同じ料理を楽しんでいた。
「油分が多いものばかりの気がするが、一仕事の後には中々……」
 シンシアがそう言って食べた直後、その辛さに涙目になった。

 こんなひと時も、噂を確かめる為に頑張ったから。
 色々な噂はあったけれど、お疲れ様。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
  • あたしがロリ少女だ!
    風深 櫻子aa1704

重体一覧

参加者

  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 元気なモデル見習い
    プレシア・レイニーフォードaa0131hero001
    英雄|10才|男性|ジャ
  • うーまーいーぞー!!
    天原 一真aa0188
    人間|17才|男性|生命
  • エージェント
    ミアキス エヴォルツィオンaa0188hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • エージェント
    サラ・カミヤaa0527
    人間|32才|女性|生命
  • エージェント
    アリア・ピトaa0527hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • エージェント
    守矢 亮太aa1530
    機械|8才|男性|防御
  • エージェント
    李 静蕾aa1530hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • あたしがロリ少女だ!
    風深 櫻子aa1704
    人間|28才|女性|命中
  • メイド騎士
    シンシア リリエンソールaa1704hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
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