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英雄達の嘆き
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【相談?卓】英雄控え会議室
最終発言2015/11/30 21:28:03 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/11/27 17:32:27
オープニング
それは、研修の休憩時間のことだった。
「なぁ、この世界に来てどの位経つ?」
能力者達がH.O.P.E.の職員に呼ばれて全員席を立った為、英雄の1人が皆へそう尋ねてきた。
『あなた』は、どの位だったかとこの世界に来てから今日までの日を思い浮かべる。
この世界に来た時期は英雄によってまちまちだろう。
が、誓約してから今日まで、能力者と多くの時間を過ごしているだろうことは間違いない。
でも、何故そんなことを聞くのだろう。
そんな疑問が英雄達の間に走ると、その英雄(今日は街を歩いていてもおかしくない服装をしているが、この世界で言う中華ファンタジーな世界から来たとのこと)は、ふっと遠い目をした。
「俺、扱いの悪さを感じていてさ」
彼の能力者は、20代半ばの女性らしい。
同年代の女性だと彼は非常に気を遣っているそうだが、彼女は所謂『干物女』らしく、彼が言うには色々アカンらしい。仕方なく世話を焼いているが、彼女は同年代の男とも思っていないらしく、目のやり場に困る格好で家をうろつくことも珍しくないのだとか。
「この世界では英雄かもしれないけど、俺も人並みには年頃の男なのに、こう、もうちょっと、生活態度を改めてほしいというか、俺の扱いをマシにしてほしいというか」
何だか苦労している英雄のようだ。
『あなた』達は、部屋を出る時の彼の能力者を思い浮かべる。
キャリアウーマンみたいな颯爽としていた女性だったが、家では違うのかそうなのか。
甘えなのか空気扱いなのか、はたまた開き直ってるのかは判らないが、この英雄(王 夏狼というネームプレートが見えた。彼の名前らしい)の苦労は察して余りある。
「今能力者も誰もいないし、皆はどうなのかと思った訳だ。今日までの日、能力者で苦労したこと、ないか?」
その問いに『あなた』は──
能力者のいない間、英雄達は自分の能力者のことをぶっちゃけ始めた。
気をつけるとすれば、話に夢中になり過ぎて能力者達が戻ってくるのを失念しないことかな!!
解説
※このシナリオは英雄主体のシナリオとなります。
能力者のみの参加の場合の描写は後述しますが、旨味はだいぶ減りますので参加の際はご注意ください。
●場所
・H.O.P.E.東京海上支部会議室内
※能力者と一緒に研修を受け、その一時休憩時間中。
●出来ること
・英雄が、『誓約してから今日までの間、能力者で苦労したこと』を座談会的に語る
苦労の内容が、周囲から見て苦労というものではない(所謂惚気)ものでもOKです。
苦労例1:沢山食べるので、うちの食費が上がりました(白目)
苦労例2:私のこと守ってくれるのはいいんだけど、人前でお姫様扱いは恥ずかしい。嫌はないんだけど恥ずかしいことは理解してほしい(赤面)
※能力者は職員から『英雄と別行動している際の緊急事態発生時の各種対応』を纏めた冊子を取りに行っている為、この場にはいません。会議室内には英雄しかいません。
能力者は、リプレイのラストで登場しますが、英雄達の話は『聞いていない』ものとします。
●NPC情報
・王 夏狼(ワン シアラン)
外見20代半ばの青年。
中華ファンタジーな世界から来た英雄。
能力者は、相模 立花という同年代女性。外ではキャリアウーマン、家では干物女。
不憫な扱いを受けている模様。
プレイングで触れられなければ、最低限描写となります。
●注意・補足事項
・公認されていない基礎設定を基にしたプレイングは暈される可能性があります。(誓約関連や変更が利かない過去は公認されていない場合、ほぼ確実に暈します。考えや日頃の行いは本人次第で変わりゆくものである為、『何も問題がなければ』そのまま描写します)
能力者・英雄共に過去や誓約に拘りがあり、描写を希望される方は、公認されることをお勧めします。
・能力者のみの参加の場合、英雄がそういう不安を漏らしていたという形で最後に英雄達を見て想いを馳せる描写となります。
・私担当以外のシナリオは参照記載あっても参照しません。
リプレイ
●座談会の始まり
「英雄同士の語り合いである! こういった交流を深めるのも、帝王には必要なことなのである!」
うむ、と語るのは、Domino(aa0033)の英雄Masquerade(aa0033hero001)様。
自らを至高の帝王と信じて疑わない、剛毛心臓をお持ちのペンギン様である。
ただし──
「お砂糖ノ塊だかラ、たブん、だイジぶ……」
「余にならば、献上するが良い!」
佐倉 樹(aa0340)の英雄、シルミルテ(aa0340hero001)が手渡す金平糖を受け取る帝王は、子供にも言い包められるレベルの脳味噌である。
シルミルテが配るお菓子の数々の中には、彩り鮮やかなチョコやドロップもあり、馴染みがない英雄は興味深そうに手に取って見ている。
「異性ペアだとそういう苦労もあるのね。私の所は同性だし、ちゃんとした子だからその辺は問題ないかな」
オリヴィア アップルガース(aa0649)の英雄袴田 雪絵(aa0649hero001)は、なるほどと納得。
「食べないんです?」
「ピリカと一緒に食べる」
リオ・メイフィールド(aa0442hero001)が、ポプケ チロノフ(aa1126hero001)を見ると、チロノフは首を横に振った。
チロノフの能力者は、ポプケ エトゥピリカ(aa1126)。
その辺りは、リオの能力者であるレヴィ・クロフォード(aa0442)とは大きく違うかもしれない。
「H.O.P.E.所属になったのは先月からですけど、クレアちゃんが軍にいた頃だから、こちらに来て結構長いですね」
自身の紅茶クッキーもお裾分けするリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)は、クレア・マクミラン(aa1631)との付き合いの長さを語る。
(私も話すのか……?)
「ちょっとした息抜きの愚痴大会だ、気楽にな」
リーヴスラシル(aa0873hero001)の表情を察したレティシア ブランシェ(aa0626hero001)が、そう声を掛けてくる。
月鏡 由利菜(aa0873)へ英雄と別行動している際の緊急事態発生時の各種対応を熟読してほしいと勧めるリーヴスラシルも、ゼノビア オルコット(aa0626)がその冊子をぶちまけていないか心配のレティシアも、彼らとの仲は良好だ。
いや、話を持ちかけてきた王 夏狼も険悪というものには見えないが。
誰から始めようか。
そんな話題から、1人の英雄が手を上げた。
●実はいいコンビ
「レヴィは優しくしてくれますし、扱いは良い方だと思います」
切り出したリオが、レヴィをそう語り始めた。
「甘やかされていると感じることもありますが、それ自体は嫌いな訳じゃないんですよね」
尚、同時刻、研修は仕方ないが少し面倒だと思っていたレヴィはリオを置いて別行動している信頼を口にしつつ、「要らない心配かもだけど、変なこと吹き込まれたりしないといいんだけどね」と漏らしていたりする。
「1番の不満は、レヴィにも常々言ってはいるんです」
そう、レヴィの生活態度はだらしない。
遅寝遅起きが常で、仕事がない時は飲み歩いている。
リオが起こさなければ……少し揺すった位じゃ全然起きなくて苦労するけど……レヴィはいつまでも寝ている。
仕事の日もそんな感じなんです、とリオが溜息。
「本人には?」
「のらりくらりとかわして、改善の兆しが見えません……」
由利菜へ不満や要望があれば本人に言うスタイルのリーヴスラシルが聞いてみるが、リオは深く溜息を吐く。
「レヴィは煙草も一杯吸いますし、お酒も沢山呑むんですよね……。禁酒禁煙とは言わないですが、もう少し控えてくれたらって」
「それは分かりますねぇ。クレアちゃんも煙草は……ね」
最早不満ではなく心配の域に達しているリオへ、クレアの喫煙に思うことがあるリリアンもうんうん頷く。
「あと、せめて呑んだ後の片づけはして欲しいです。起きたら、呑み終わったままですし」
「そこも改善の兆しは?」
「ないです」
早寝のリオは先に寝てしまう為、起きたら惨状となっているようだ。
リーヴスラシルの問いに答えた通り、そちらも言っているようだが、やるやる詐欺、結局リオが片づけているとか。
「俺もそうだな」
「先に折れてしまうのが甘いんでしょうか」
夏狼に同調するリオ。
だが、放置も出来ないのが共通見解。
「お酒や煙草を別にすれば、夏狼さんの能力者さんと何か似ている気がしますね」
「かもな」
「でも、素のままでいられる相手……ということかもしれません。着飾らなくて済むというか」
扱いは悪いかもしれない、というのが、自分とは違うのだろうけど。
「あと、レヴィは料理だけはちゃんとやってくれます。それ以外はやらないので、一応、ですが」
レヴィの料理は美味しいんですよ、と微笑むリオは、不満や心配はあれど、レヴィと共にあるのは楽しく、満足しているのだろう。
「本人に話して改善されないというのは私にはないケースだな」
リーヴスラシルがそんな言葉と共に語り始めた。
●無自覚惚気
「ユリナは、私の名誉を侮辱すると思う相手が現れると、怒りを全面に出した考えや行動に出てしまうことがある」
本人にも話すとした上で話すリーヴスラシルの切り出しはそうしたものだった。
例えば、愚神アンゼルム。
白銀の騎士とも称されるアンゼルムに対し、リーヴスラシルがかつての世界で賜った『白銀騎士』の名とほぼ同じであることに、騎士の資格なき者が同じ名を名乗るなどと激昂した。
「ユリナが激しい感情の赴くままに『アンゼルムを倒す』と言ってきた時は、流石に肝が冷えたぞ……」
「それは冷えそうだな」
その時を語るリーヴスラシルへ、任務を通じて既知であるチロノフはエトゥピリカとは異なる方向の苦労を察する。
「経験の乏しさを考え、反対したが……譲らなくてな。私もアンゼルムの所業は許しておけるものではない。ユリナの意志に全て託そうと覚悟を決めた」
「フラグ、イクナイ」
リーヴスラシルへ、やはり彼女とは既知のシルミルテが研修前にどこからか持って来た英雄すら駄目にするという触れ込みのソファにーに身を沈ませながらも声を掛けてくる。
「そうだな。言葉にて呼び込むこともある。気をつけよう」
そう言いながら、シルミルテから貰ったカラフルなチョコを食べるリーヴスラシル。
「あと、2人で外出すると、ユリナはお弁当を作ってくれる。勿論、買ったり、店に入ったりすることもあるが……あーん、は、その、少々恥ずかしい」
由利菜も外出中の開放感からか、人前でもお構いなしらしい。
「私はオリヴィアにされるの好きだけど、苦手?」
「いや。ユリナが私を信じてくれているのが伝わってくるから、嫌とか苦手とかでは断じてない」
「時と場所次第ってこと?」
「選んでくれれば、寧ろ嬉しい」
雪絵の問いにリーヴスラシルはそう答えてから、周囲の視線に気づいた。
「……ユリナの純真な好意を断れると思うか?」
「断らなくていいと思うけど……ご馳走様」
雪絵の言葉で、リーヴスラシルが由利菜との惚気と受け取られていることに気づき、首を傾げる。
「好意……チョット言い出しニクいこト、あルなァ」
と、シルミルテがリーヴスラシルの言葉を反芻し、話し始めた。
●ちょっと言い出し難いこと
シルミルテと樹の出会いは結構前の話らしく、シルミルテは指折り数え、「結構経つなァ」と小さく呟いた。
「ワタシね、こウイうサイズだカラ、身ノ回りの物トか、普通に売っテル大人のサイズじャ大きイノネ」
シルミルテにとって丁度いい服のサイズは、子供向けである。
「ここガ問題? ……なノ。樹はネー、ワタシのこトヲお子様ッテ扱わナイの」
「俺とは違うんですね」
シルミルテの言葉に、リオが目を瞬かせる。
すると、シルミルテは子供扱いしない樹の行動について続けた。
「だカラ身ノ回りの物トか揃エル時も買イ替えル時も、子供向ケじゃナいデザインのもノを探しテクれてルのヨー。そレハとッテも嬉しイコとなんダけれドネ……」
「見つけるの、大変そうですね」
リオが漏らすと、シルミルテは大いに頷いた。
「やっパりサイズがサイズだカラ大人向ケのデザインジャ見つカリにくくテネー……。樹が樹ナリに一生懸命探しテくレていルノがわかルだケに、お子様向ケノデザインでモ大丈夫だヨ、好きダヨって言い出しニクくっテ……」
「余の従者にも聞かせたい位の配慮であるな!」
帝王Masquerade、樹の配慮に感嘆される。
今まで、元は民草の英雄の声を直接聞くことは、帝王たる自分の仕事であり、今後の糧になるべきものとそうあるものではない機会として黙って耳を傾けていたのだ。
「余の従者とは異なる故、余には分からぬが、貴公の願いが届くことを祈っておる。ハッハッハッ!」
「えト、あリガとウ」
シルミルテは帝王らしい笑いを見ながら、お礼を言う。
そこで、もうひとつの願いに気づいた。
「あトは……最近、優シく笑ウこト少シ増えタカら、コのママ増やシテくれルトイいなァ」
「そうなのか。立花は家と外の笑い方は違うが、普通に笑うから、気にしたことがなかった」
夏狼が口を挟むと、そのことを聞いてみたかったシルミルテは樹のことをこう話した。
「樹はネ、ワタシの前デモそーんナニ油断しキッた姿見せナイんだヨネ。ちょっトだケネ、うラヤましイカモ」
シルミルテは、それがちょっとだけ羨ましかった。
●嘆くものではないけれど
「……方向性は違うけど、私も服は困っているかな」
シルミルテに同調するように雪絵が口を開いた。
普段は、ごく普通の女の子が着ている服……彼女の義肢が見えないような服装(サイハイソックスや薄手の手袋着用の時もあるようだ)を好んでしている、と前置いた上で雪絵はその悩みを口にした。
「エージェントとして活動する時は、いつも、今日している格好なの。名前と見た目から私が能力者と思われることが多々あって……」
雪絵達の現在の住まいや日本メインで活動している部分もあるだろうが、そういう間違えがあるらしい。
「あの格好気に入っているみたいだから、やめてとも言えなくて」
この辺りは、由利菜の純粋な好意を断れないリーヴスラシル、一生懸命探す樹に言えないシルミルテに通じるものがある。
「どうしているんだ?」
「最近は名乗る時に、『英雄の』を付けるようにしたのよ」
それまで黙っていたレティシアが尋ねると、雪絵は対処を教える。
何故かレティシアが難しい顔をして考え出すが、雪絵は話を続けた。
「あと、私から見て戦闘が危なっかしいこと位」
訓練だけでどうにかなる問題ではない為、場数を踏んで貰うしかない。
共鳴していれば、雪絵もサポートする為、そこまで大きな問題ではないだろう。
「オリヴィアの、そういう所が放っておけないんだけど……。それに、ちょっと困っている顔も可愛いし」
ちなみに、ここまでの間、雪絵の表情に変更はない。
声の調子もそのまま。
その状態で、リーヴスラシルと同じ位自身の能力者であるオリヴィアの惚気話を展開している。
人によってはシュールと受け取るだろうが、雪絵の言葉には、オリヴィアへの優しい想いが詰まっていた。
●帝王の困りごと
「そろそろ余の苦労話もせねばなるまい」
Masqueradeは、他の者も話し易くなろうと帝王らしい寛大さをお示しになられた。
「こちらに来た当初であれば余りの暑さに辟易したものだが、それももう慣れてしまったからな」
(冬になッタからダと思ウんダけド)
シルミルテはそう思ったが、帝王の話は聞かねばなるまい。
「強いて言うならば、従者の出す食事が些か質素なのはいただけぬな。食後のデザートにプリンが出るのも週に1度しかない。それ以外は満点と言ってもいいのだが……」
「どういったお食事なんです?」
医者の立場として気になるのか、リリアンがMasqueradeへ尋ねてみた。
「こちらの言葉で言えば、『一汁三菜』のそれを白米でいただいている。味も量も申し分ないのは確かなのだが、どうにも味が薄くてな。その上献立も肉よりも魚、魚よりも野菜のラインナップ……」
ハンバーグやステーキを連日続けて食べたいと仰るMasquerade。
リリアンは、「深いお考えあってのことですよ」と微笑んだ。
「余の従者も貴公程の気遣い出来る者であれば良いのだが……」
リリアンの気遣いを嬉しく思いながらも、Masqueradeはそう嘆く。
「こちらではハンバーガーなるものが食べられるそうだが、従者はそういった所謂『ふぁあすとふーど』をいたく嫌っているようでな……」
「そうなのか?」
レティシアが、Masqueradeへ何か理由あるのかと尋ねてみた。
「『自分の料理より不味いモノにはびた一文払いたくない』とのことだ。本当に困った従者である」
「栄養バランスも考えてのことなんですよ。良い方と思いますよ」
リリアンが口添えすると、Masqueradeはこう嘆かれた。
「ならば、余に相応しきハンバーガーを献上すべきというのに……余の従者は気が回らぬ」
●願うからこそ
「皆様それぞれ悩みがございますね……。共感出来るものもありました。煙草とか」
リリアンはリオの悩みのひとつに共感したらしく、深く溜息。
「あの子は、もう習慣になっている、なんて言いますけど……、私はあの子に例え1日でも長く生きて欲しいんです。戦ってばかりの人生なんだから、平穏な日々も同じ位味わって欲しい。医者としても、彼女のパートナーとしても、そう思うんです。ですから……煙草の習慣は悩みですね」
リリアンという個人がクレアという個人に対して抱く悩みは、味わって欲しい平穏な日々に対しても寄せられる。
「良くも悪くもステレオタイプの軍人なんです、クレアちゃん。いついかなる時も理性で感情を殺して、仕事に臨む。そしてプライベートでも人の目があれば、国の誇りの為にって言って頑なにその姿勢を崩さない……」
「それだと、公務とプライベートの境目がないな」
かつての世界では傭兵集団を束ねていたレティシアがそう漏らすと、リリアンは「そうなんです」と溜息。
「軍人として、衛生兵としては理想的なのかもしれないけど、結局それであの子を知らない人からは勘違いされちゃって損をするんです。冷たい人だって」
それは自己を律する彼女の精神力が成せるもの、それを支えるのは彼女の信条と持ち得る技術に対する責任感から。
彼女を知る者は彼女へ厚い信頼を寄せるが、彼女を知る者ばかりで世界が構成されている訳ではない。
「実際はどうなのだ?」
「軍が開いていた民間のイベントなどでは、よく笑ってましたから、感情表現が不器用とか、そういう訳じゃないですよ」
自身も騎士の立場にあったリーヴスラシルも尋ねてみると、リリアンが首を振る。
「もう少し日頃の周りに対する態度を柔らかくしてほしいなぁって思うんです」
「笑う公務を課してはどうであろうか!」
Masqueradeが助言すると、リリアンは「案外効き目あるかもしれませんね」と微笑む。
「あと……あの通り、色気も何もない格好でして……」
クレアは動き難いと一蹴するらしいが、リリアンとしてはお洒落して欲しいらしい。
美人でスタイルもいい。何を着ても絶対様になる。勿体無い!
「超体育会系の男社会で生きてきたからしょうがないのかもしれませんけど、それでもあのままじゃダメです」
クレアに素敵な殿方の話がひとつもないなど……。
外の振る舞いは完璧の立花に師事して欲しいレベルだ。
「プライベートは真似しない方が」
「それは大丈夫です。もう、誰かあの子に女子力って言葉を教えてあげてください」
自分では無理。
夏狼にそう言うリリアンは心の底から嘆いていた。
●彼が言うには
「じょしりょく……じょしかいの仲間か」
「仲間、という定義かどうかは解らないですが……」
レティシアがリリアンに尋ねると、リリアンはその単語を丁寧に説明してくれた。
説明を聞いたレティシアは、「そういう意味では苦労なのかもな」とゼノビアに纏わる苦労(?)話を始める。
「うちのが世間知らずというか、言葉をあまり知らないのはちょっと困ってるな。元々日本人じゃねぇし、流行の言葉には疎いみたいで、ちょいちょい俺に聞いてくるんだが、答えられねぇことも多くてな……」
地球歴が短いレティシアへゼノビアが流行の言葉を聞いても、知らない単語も少なくないらしい。
「『じょしかい』の『じょし』の範囲が判らん、と言われたが、俺もそんなの知らねぇよって。教わったから、話してみるか……」
「オレも……知って良かった」
チロノフが、対等に接してくれるエージェントと友人になりたいエトゥピリカには良い場かも知れないから、と呟く。
レティシアは思わずチロノフを見る。
エトゥピリカの年齢を考えれば、その『危険性』があるのだが、チロノフは自分と違い、明らかに英雄の外見である為、その『苦労』の『危険性』はなさそうだ。
「どうかしたか……?」
「警察に捕まりそうになるのは、俺だけなのだろうか、と思って」
チロノフが首を傾げると、レティシアはそう漏らした。
「うちのチビ……実年齢よりちょっと幼く見えるらしくてな。年端も行かない子供と、成人してだいぶ年数経過していそうな男が一緒に歩いてるとこ想像してみてくれよ」
見た目10代半ばを越した少女、見た目20代後半であろう男。
兄妹にも親子にも見えない……それは解る、だって、顔が似ている訳じゃない。
その為、警察がレティシアに職務質問よろしく声を掛けてくるのだ。
普通なら、気にしてくれてありがとう。お勤めご苦労さん……なのだろう。
だが、レティシアとゼノビアは違う。
「俺が英雄だって言っても納得してくれねぇんだよな……」
「格好、普通だものね」
雪絵が察してそう言うと、レティシアは当たりだと溜息。
「大変ダね」
「どのように対応している?」
「ゼノビアは喋れねぇから適当にあしらわれてるし、ご同行願われても、警察のご厄介は遠慮したいからな、最終的に幻想蝶へ逃げてる」
シルミルテの感想に共感するチロノフが尋ねると、レティシアはまた、深く溜息。
ゼノビアに問題がある訳ではないが、レティシアは自分達周囲の見る目にはかなり切実な悩みを抱いているようだ。
●該当者は皆そう言う
チロノフはレティシアの警察話を聞いて、その耳をぺたんとさせた。
まだそういう状況になったことはないが、ありえるかもしれない。
「ピリカは……すぐ迷子になる奴なんだ……」
チロノフの相棒であるエトゥピリカは、生まれ故郷の村では姫と呼ばれ、人の上に立つ人間だった。
敬われ、大切にされていたが、能力者になるまで外に出ることは少なく、世間知らず。
当然、彼女が踏み出した外の世界には物珍しい物、心惹かれる物で溢れているのだろう。
チロノフの話を聞く英雄達は、エトゥピリカがちょっとした隙にチロノフの隣から姿を消しているのだろうと察する。
「迷子と思っていなさそうですね」
「困ったことに、その通りだ」
リリアンの苦笑をチロノフは素直に認めた。
チロノフとしては逸れてもその場から動かないで欲しいのだが、自覚がないエトゥピリカはこう言って動くそうで。
『む……またポチは迷子か……。仕方のないやつだ』
「捜しに行っちゃうのね」
チロノフは雪絵にこくりと頷く。
「で、その間にまた目新しい物を見つける」
「ますます見つかり難くなりそうですね」
リオが冷静な見解を述べる。
そんなエトゥピリカの言い分は、チロノフへの土産を見つけた、とか、迷子捜しの為に周囲の人間を頼っていた、というもの。
「……警察のオ世話じャナいッテのが」
「交番に行くことを教えてはどうだろうか」
チロノフへシルミルテとリーヴスラシルへ声を掛ける。
「辿り着くのも大変そうな気がするが」
レティシアがそう呟くと、チロノフの耳は本当にぺたんとした。
「そもそも、オレの名を説明する時が……」
チロノフが言うは、元の世界での名も憶えていないそうだ。
エトゥピリカは呼ぶ時に困るということで、チロノフへ今の名を付けたとか。
「『ポプケ』は一族の名、『チロノフ』は獣を意味する。ピリカからそう教えられ、名を貰った時は、嬉しかったものだ……」
けれど、その直後、名を与えた本人がチロノフを満面の笑みで突き落とした。
「……長いな。うむ、ポチと呼ぼうではないか、ポチ!」
居た堪れない空気が、空間に満ちる。
一生懸命考えたであろうその名が、一瞬で『ポチ』……。
「オレはこいつと契約して良かったのかと不安が過ぎりはしたが……嬉しそうだったので、これでいいと思っている」
そう思えるチロノフの性格は、温厚なのだろう。
と、チロノフはそういえば、と何かを思い出した。
「ピリカは、ぶるぶるが下手だ」
エトゥピリカは何故か身体や毛についた水を払う動作が改善の余地もない程下手である。
「姫であるならば、余と同じように身体を拭かれることに慣れているのだろう」
至高が自分であることに変わりはないが、姫はいるだろうと思うMasqueradeがそう言うと、チロノフはそういうものかと納得した。
と、廊下から会話と足音が近づいてくる。
能力者が戻ってきたようだ。
●人は言う
「私は契約した時から由利菜の全てを受け入れると決めていた。理想の間柄に決まった手本はなく、自分の手で確立させていくものと思う」
「……俺が言うと、確実にセクハラになるんだ……」
リーヴスラシルが夏狼へそう声を掛けると、彼は深い溜息。
レティシアが彼の言い分を改めて確認すると、夏狼より風呂から黒レースの下着姿で出てきてビール呑んでる日常話を耳打ちされた。
「それ、あんたが完全に彼女から信用されてるだけじゃねぇか? じゃなかったらそんなこと出来ねぇだろ……寧ろご褒美じゃねぇか羨ましい」
「ご、ご褒美!?」
レティシアの言葉に夏狼の声が裏返るが、耳打ちの内容はレティシアから知らない。
「褒美なら、受け取っておくべきではないか?」
「よく解りませんけど、扱い悪いのは誤解なら、良かったです」
リーヴスラシルに続き、リオが真面目にそう言ったので、真っ赤な顔の夏狼は何も言わなくなった。
(何か英雄さん達から見られているような気が……?)
会議室に入ったオリヴィアは困惑するが、由利菜も同じらしく首を傾げている。
が、思い当たる節もなく、雪絵にいない間に何かあったとかとこっそり聞いてみるが、雪絵は「雑談していただけよ?」としか言わず、オリヴィアは引き下がるもちょっと困惑顔。
(うん、やっぱり可愛い)
そう思う雪絵の心の声は、オリヴィアには聞こえない。
「クレアちゃん、これ没収ね」
「またか……」
クレアのポケットから見える煙草を鮮やかに取ったリリアンを見、リオが同じようにレヴィから煙草を取る。
「没収です」
「リオが取っても、まだ持ってるけどね」
何か影響を受けたことを察しながらも、レヴィは余裕を崩さない。
「樹おかエリー♪」
「ん、ただいま」
「研修終ワッテ、こノソファー返しタラ一緒に買イ物いコー」
「もうちょっと ね」
樹の言葉に「ハーイ」と答えるシルミルテは、もしかしたら買い物でリーヴスラシルのように伝えるかもしれない。
「談笑してたッスか。王様って言動がいちいち上から目線ッスから、こうやって打ち解けてるっつーのはちょっと意外ッスね」
「民草の声に耳を傾ける仕事に精励したのだ」
「ま、無駄に懐はでけーッスから、そう悪いコトにはならねーだろーッスけど。研修終わったら、すぐに帰るッスから、話すなら今の内ッス」
時間を無駄にしないDominoが周囲を見渡しながら言うと、Masqueradeは本日の晩餐について問われた。
「今日の夕飯ッスか? ロールキャベツッスね。食後も楽しみにしてるッスよ」
「ろーるきゃべつ……ポチ、わらわもろーるきゃべつという物が食べてみたいぞ!」
会話を拾ったエトゥピリカは無邪気な笑顔。
が、その直前に犬はチョコを食べてはならないと聞いたという論理で、チョコを全部食べてしまい(他のお菓子は半分こであるが)、チロノフの尻尾をぺったりさせていた。
「話すのと理解するのは別問題とはよく言うが……私の主がユリナで良かった」
「ラシル……ありがとう」
周囲を見ているリーヴスラシルの呟きを耳に拾い、由利菜が微笑んだ。
『何か楽しい話題をしていたんですか?』
まだ赤面の夏狼が立花にからかわれているのを見ているレティシアへ、服の袖を引っ張ったゼノビアがその文字を見せる。
レティシアは、扱い悪いのではなく、ごく当たり前の存在として受け入れられてるだけと断定して、呟いた。
「隣の芝は青いとはよく言ったものだ、という話だ」