本部

お願い! キューピットさん

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/05 23:41

掲示板

オープニング

●叶えて! キューピットさん
「キューピットさん、キューピットさん。私達の恋を叶えてください」
 薄闇に包まれた教室で、数人の女子生徒が円になって手をつないでいた。円の中心にはいくつかの図形が描かれた紙が一枚置いてある。
「ねぇ、もうやめようよ。何も起こらないし……」
「しっ。静かにしてないと来ないじゃない」
 小さなざわめきはやがて納まり、静寂が空間を支配した。
 ぽぅ――、ぽぅ――。
 淡いピンクの光が紙から飛び出す。まるで蛍が宙を舞っているようだ。
 一際大きな光が弾け、羽の生えた小さな妖精のような者が現れた。顔は人形と見紛うほどに整い、花びらを集めたような衣服を纏っている。
「わたしを呼んだのは、だぁれ?」
 鼻にかかる舌ったらずな声は生徒達の耳を甘く侵す。
「わ、私達です……! どうか、皆の恋を叶えてください!」
「じゃあ、その代わりに貴女達の大切なものを頂戴ね?」
 生徒達は顔を見合わせる。
 ――“大切なもの”って何だろう?
 彼女達がまごついている間に、異形の者は勝手に約束を取りまとめてしまう。
「決まりっ。さぁ、もっと近くに来て」
 その声に操られるかのように1人、また1人と輪を縮めていく。
「なぁんにも怖くないわ。早速頂くわね、貴女達の――――」
 直後、教室は眩い光に包まれる。後に残されたのは、気絶した生徒達だけだった。


●教えて! オペレーターさん
「近頃、ある女子校で『キューピットさん』と呼ばれるものを呼び出し、何人もの生徒が錯乱状態に陥っています。その正体は不明ですが、従魔や愚神の仕業である可能性も十分考えらるでしょう。皆さんは現地に赴き、生徒達に過剰な刺激を与えないよう注意して捜査を行ってください」
 H.O.P.Eロンドン支部のミーティングルームに集められたエージェント達は行動を開始しようと席を立った。

解説

●目標
 「キューピットさん」事件の解決

●状況
 舞台はイギリスの女子校です。中世のお城のような外見をしており、中庭があります。
 学校では『キューピットさん』と呼ばれるコックリさんのような降霊術が流行し、錯乱状態の生徒が続出しています。面白半分で手を出す生徒が後を絶たず、危険な状態です。
 『キューピットさん』は主に数人の生徒が教室で行っています。生徒に聞込みをすれば、詳しい情報を得ることができるでしょう。錯乱した生徒は自宅療養、または病院で治療を受けているため、彼女達に話を聞くことは困難です。
 『キューピットさん』が行われている時以外、不審な出来事は起こっていません。
 もしも、『キューピットさん』が愚神の類であった場合は討伐をよろしくお願いいたします。
※女子校なので男性が学校に潜入する場合は一工夫が必要です。

リプレイ

●探して! キューピットさん
 青い芝生が太陽を受けて煌めく中に、中世の城を思わせる瀟洒な校舎がどっしりと構えている。
 生徒達は教室ではあくびを教科書で隠しながら授業を受けたり、校舎に隣接したグラウンドで汗を流したりしていた。
 時計塔の先端についた鐘が鳴り響き、授業の終わりを告げる。それは同時に女子生徒達の楽しみである昼食の始まりでもあった。

 ブレザーを着こなす生徒達の中に、セーラー服を纏った生徒が紛れていた。襟は深海の色に染まり、赤いタイとのコントラストが鮮やかだ。紺のソックスを履いた引き締まった脚は眩しく輝いている。
 日本からの1日交換留学生として学校に潜入した会津 灯影(aa0273)は、多くの生徒が集まる食堂に足を運んだ。持ち前の社交性を活かし、昼食をとる生徒達から『キューピットさん』に関する情報を集めていく。
 どうやら、灯影自身が中学生の頃に流校したコックリさんとは少々毛色が異なるようだ。
「足すーすーすんだけど。早く終わらせて帰ろ……」
 灯影は調査の合間に溜め息を漏らす。女子校だと喜んでいた自分を埋めてしまいたい衝動に駆られた。
 ふと、己のパートナーがいないことに気付き辺りを窺うと、少し離れたとろにセーラー服姿の楓(aa0273hero001)を見つけた。楓の脚は黒いタイツに包み込まれている。
「御機嫌よう。少しよろしくて?」
「御機……!? 誰あれ」
 まるで深窓の令嬢のように振舞う楓に、灯影は戸惑いの表情を隠せない。そういえば、彼は女装に抵抗がないのだった。
 楓は数人の女子生徒と会話を終え、主の元へ舞い戻った。
「我が話を聞いた中には『きゅーぴっとさん』の存在を知ってはいるが、呼び出し方を知っている者はおらなんだ」
 そちらはどうだった、と楓は灯影に進展を尋ねる。
「呼び出すと恋が叶う、っていう噂話がかなり広まってる。やった子達がどうなったかはわからなかったけど、こっくりさんとは違ってコインを使わないみたいだ」
「あれに降りるのは下等も下等、暇潰しに遊ばれているというに人間は仕方無い生き物よ」
 楓の愉快そうな笑みは深まり、妖しげな表情となる。
「……早々に呼び出し面を拝んでやろうぞ」

 ロンドンの空気は冬の気配を忍ばせており、ちくりちくりと寒さが皮膚を刺す。昼食を終えた生徒達は、暖房器具によって暖められた屋内で談笑に花を咲かせていた。
 廊下の壁に背中を預け、生徒達の話に聞き耳を立てているのはシールス ブリザード(aa0199)だ。少女のような顔立ちと華奢な身体のため、彼を怪しむ生徒はいない。顔に薄く施された化粧も効を奏しているのだろう。
『ふむ、女子高はこうなっているのか。興味深いな』
 シールスは素早く口元を手で隠し、共鳴状態にある99(aa0199hero001)を小声で注意する。
「喋らないでよ、僕がおかしい人みたいじゃない」
 99は一言謝って、沈黙した。
 その時、ある女生徒のグループが『キューピットさん』の噂を始める。シールスはそれに気付き、集団に近づいた。
「――それでね、妖精みたいですごく可愛いんだって」
「ねえ、それって『キューピットさん』のこと? 良かったらぼく……ゴホッ! 私にも詳しい話を教えてよ。怪談話とか好きなんだよね!」
「あらっ、そうなの!」
 輪に加わったシールスに女子生徒は微笑みを向けた。
「でも、『キューピットさん』を呼んで倒れちゃった子もいるでしょ? 怖いわねぇ」
『倒れた生徒はどうなった?』
「……ゴホン! どうなっちゃったのかな?」
 シールスは心の中で99を毒づいた。しかし、好奇心の強い相棒をよく理解しているため、仕方がないと小言を胸の内にしまう。
「学校に戻った人はいないから詳しいことはわからないけれど、みんなおかしくなっちゃうんですって」
「ふぅん……。ねぇ、オカルト話とか好きな子を知っていたら教えてくれない?」
 生徒達は顔を見合わせ思案するが、どうやら該当する人物はいなかったようだ。
「いろいろ教えてくれてありがとう! 私、もう行かなきゃ」
 その場を後にするシールスを生徒達はにこやかに見送った。

 所変わって、こちらは2年生の教室。
 石井 菊次郎(aa0866)はインターンの授業を終え、そのまま教室で昼食をとっている。パートナーのテミス(aa0866hero001)も学生に扮し、同じ教室に潜入した。
 生徒達は日本からやって来た珍しい教師に様々な質問を浴びせるが、菊次郎は当り障りのない答えで流していく。
 一段落したところで菊次郎は生徒達に訊ねた。
「そういえば、こちらの学校では『キューピットさん』というものが流行っているそうですね。やり方を知っている人はいますか?」
 数人の生徒が言うことをまとめると、『キューピットさん』を呼び出すためには手をつないで円になり、その中心に魔方陣の描かれた紙を置いて呪文を唱えるらしい。呼び出し方の出所は不明だったが、『キューピットさん』の容姿に関する情報を得た。
 テミスは近くの席で本を読んでいた生徒に声をかける。
「あー、そこの少女、少し話が聞きたいのだが、此方へ来ぬか?」
 生徒は口ごもりながら席を立ち、徐々に離れていく。おそらく、テミスのただならぬ雰囲気に気圧されたのだろう。
「どうした? 怯える事は無いぞ。我とて同じここの生徒……」
 女生徒はこれからどう甚振られるのかを想像し、顔が青ざめた。その様は、正しく蛇に睨まれた蛙。どういうわけか、近くにいた生徒達も固まって震えている。
 意図せずに少女達を怖がらせてしまったテミスは思わず額に手を当てた。
 菊次郎はパートナーの姿を見て思わず苦笑し、授業で頻繁に挙手していた生徒に、
「キューピットが妖精じみた姿で現れるとは興味深いですね。土俗信仰との関わりでレポートが書けそうです。やってみますか?」
 その言葉は勉強熱心な生徒のやる気を喚起する。
「はい、先生っ」
 彼女は資料を集めるべく、教室を飛び出した。

 3年生の教室では加々美 鏡子(aa1594hero001)が転入生として調査を行っていた。淑女然とした見た目とは反比例して活発な彼女は、そのギャップからクラスにすっかり馴染んでいた。
「こちらの学校では今何が流行っているのですか?」
 早速、仲良くなった生徒に『キューピットさん』の調査を開始する。やはり、その認知度は高く、恋に悩む女生徒が多いようだ。
 やにわに鏡子は懐から折り紙を取り出した。
「日本では折り紙がリバイバル流行中です!」
 そう言いながら、素早い手つきで次々と鶴や紙風船、薔薇などを作り出す。
「ここに文章を書いて、それを折って隠して、折り紙にして相手に渡す……これぞジャパニーズ・折り紙メールです!」
 鏡子の折ったハートを生徒達は輝いた瞳で見つめる。それを見た生徒達は折り方を教えて欲しい、と鏡子の元に集まる。鏡子の折り紙メールはロンドンガールのハートをがっちりと掴んだようだ。

 ニーナ・トイフェル(aa1594)は職員室で教師達と食後のティータイムを過ごしていた。昼下がりの時間は穏やかに流れていたが、教師達は『キューピットさん』の被害者が出続けることを嘆いてばかりだった。
「――それで、その『キューピットさん』はいつ頃流行りだしたの?」
 初老の男性教師が答えた。
「最初に被害が出たのは3ヶ月前でした。それからしばらくして流行りだしたんですよ、トイフェル先生。倒れた生徒を見つけたのは教室の見回りをしていた先生でした」
 被害にあった生徒は近くの病院に搬送されたようだ。
 ニーナは礼を述べ、カップをソーサーに戻した。職員室を出て、人気のない廊下から携帯で病院に連絡を取る。
「もしもし、ちょっと伺いたんだけど……」
 どうやら『キューピットさん』の被害にあった生徒はライヴスが不足している状態にあり、幻の恋人と会話をしているようだ。
「恋の病とは困ったものだわ……」

 シャンタル レスキュール(aa1493)が転入したクラスには、『キューピットさん』の被害にあった生徒の友人がいた。スケジロー(aa1493hero001)は幻想蝶に収められ、シャルタンと行動を共にしている。
 シャルタンはくだんの生徒に注意し、重点的に捜査を行っていた。その女生徒に聞いた話によると、『キューピットさん』は「キューピットさん、キューピットさん。私達の恋を叶えてください」と唱えると現れるようだ。
「シャンテそれに凄い興味ある! だれかそれやろうって思ってる子いる?」
「あっ、私やってみたい!」
「私も、私も!」
 雰囲気に流されたのか、教室にいた生徒が3人集まってきた。
 早速、シャルタンと生徒達は空き教室に向かい、『キューピットさん』を呼ぶ準備を整えた。
 呪文を唱えようとしたその時、紙の破ける音が響く。シャルタンが転んで、魔方陣を破いたのだ。
 シャルタンは生徒達に謝っていたが急に真顔になり、
「今、足の下誰かが通ったよ!」
 黒い影が足下を駆け抜け、少女達は悲鳴を上げて教室から勢いよく出て行った。
 次の休み時間、シャルタンが何者かに階段から突き落とされ保健室に運ばれる姿が生徒達に目撃された。それ以降、『キューピッドさん』をやろうとした者は悪霊に呪われるという噂が流れ始める。
 だが、これはすべてシャルタンとスケジローの芝居。スケジローを暗躍させ、悪霊に仕立て上げたのだ。
「スケジロー、大活躍だったよ! お疲れ様」
「わしなんか損な役回りやなあ……。女子高生とええ感じに成る筈やったのに、すごい感じになってもうた」
 スケジローは保健室のベッドに横たわるシャルタンにそうぼやいた。

 教師に見つからないよう、物陰に隠れながら移動する小さな人影が1つ。それはオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)だ。人通りの少ない廊下で潜入調査を行っている。
 お喋りをしながらやって来た2人の女子生徒にオリヴィエは声をかけた。
「こんな所で何してるの? 迷子?」
『……実は、姉が『キューピットさん』の被害に遭った。俺は真相を突き止めるために来たんだ』
 何か知らないか、と問いかけるオリヴィエ。
「『キューピットさん』はね、恋を叶えてくれる妖精さんなんですって。でも、誰も学校に戻ってこないからよくわからないのよ」
『それは誰が言ってたんだ?』
「噂を聞いただけで誰が言っていたかまでは……。ごめんなさいね」
『そうか。……助かった』
 生徒達は手を振りながら去っていった。
 オリヴィエはその後も通りがかる生徒に調査を行ったが、『キューピットさん』を呼び出そうとしている生徒と出会うことはできなかった。

 一方その頃、木霊・C・リュカ(aa0068)は図書館で本の修理をしつつ、オカルト系の書棚に近づく生徒を中心に『キューピットさん』の情報を集めていた。
 リュカはオカルトの本を眺める女子生徒にそっと声をかける。
「ねぇ、『キューピットさん』って知ってる? よかったら、お兄さんに呼び方を教えてほしいんだ」
 少女はびくりと肩を揺らし、本からリュカへと視線を移した。
「し、知ってるけど……。でも、な、なんで『キューピットさん』に会いたい、の?」
 リュカはその問いに自信満々の表情で答える。
「もちろん、お兄さんの恋を叶えてもらうためだよ!」
 生徒は呆気にとられながらも書架から本を抜き出し、
「これに、か、書いてあるわ。……読んでみて」
 少女はリュカに本を押し付けると、図書館を出て行ってしまった。
 その本をパラパラとめくっていたリュカは、メモ用紙が挟まっていることに気付く。そこには『キューピットさん』を呼ぶために必要な魔方陣が描かれていた。

 重苦しい鐘の音が、昼休み終了を知らせる。調査を終えたエージェント達は使われていない教室に集まった。
「『キューピットさん』を呼ぶために必要な情報は全て揃ったようですね」
 菊次郎はシールスの配布した無線から流れてきた情報を思い起こす。
 灯影はリュカからのメールを確認しながら、
「『キューピットさん』って、結構簡単に呼び出せるんだな」
「手軽なことも、広まった要因の1つかもしれないわね」
 ニーナは顎に手を当てながら言う。
「そういえば、『キューピットさん』を呼んだ時の共通点はわからなかったね」
 何かないかと考え込むリュカにシャルタンが、
「シャンテ、クラスの子とやろうとしたけど、決まりとかはないみたいだったよ!」
 そういうことなら、とシールスはみんなに提案する。
「今日、呼び出そうとしている生徒の情報もなかったし、放課後になったら僕たちで呼び出してみよう」
 その言葉にリンカーと英雄達は頷きを返した。

●倒して! キューピットさん
 エージェント達は手をつなぎ円になり、その中央には魔方陣の描かれた紙を置く。
「「キューピットさん、キューピットさん。私達の恋を叶えてください」」
 辺りには緊張した空気が漂っている。誰もが『キューピットさん』が現れるのを今か今かと待っている。
 そして、紙から淡いピンクの光が蛍のように舞い始める。大きな光の玉が弾け、中から羽の生えた小さな妖精――『キューピットさん』が飛び出した。
 妖精はどこかぼんやりとした表情で、
「わたしを呼んだのは、だぁれ?」
 共鳴したオリヴィエは素早く銃を構える。
『ここで騒ぎを起こしていたのはあんただな?』
「ちょ、ちょっと待って! わたしは貴方達の願いを叶えに来たのよ?」
 菊次郎はあちらこちらと飛び回る妖精を冷たく見つめながら、
「俺の望み? もし御身がそれを聞きたいならまず此方の質問に答えて頂きたい……俺が乞い願う相手の居場所は何処か?」
 『キューピットさん』の頭の中で警鐘が鳴る。ここにいる人間は今までの恋に浮かれた少女達とは違う、と。
 人形のように愛くるしかった『キューピットさん』の顔が醜く歪んだ。
「わたしはただみんなのお願いを叶えてただけよぉ? その代わりにライヴスをもらっていただけ……邪魔しないでッ!!」
 瞬間、妖精の姿は一変する。花の装飾があしらわれていたドレスは烏珠に染まり、頭からにょきりと角が生えた。

 『キューピットさん』を愚神だと見て取ったシールスは教室を出て、ひとまず廊下に人影がないことを目視する。
「僕、周りの状況を確認して、避難するように伝えてくるよ!」
 その直後、楓と共鳴した灯影は驚きの声を上げる。なんと身に纏っていたのはセーラー服だったのだ。
『あれ!? いつもの和服は!?』
「我等せーらー服だぞ。共鳴してもせーらー服だろ、普通」
 何を今更、と言った様子で楓は答えた。
 その間にニーナは鏡子と共鳴し、防御を捨てた猛攻に出る。
「先手必勝! この共鳴探偵シュピーゲル・ニナが成敗します!」
 大太刀を受けた『キューピットさん』は身体をくの字に折り曲げた。
「きゃあっ、痛いじゃない!」
 『キューピットさん』は怒りに任せてニナを攻撃する。ニナは飛んできた魔力の玉からシールドで身を守った。
「乙女心を弄ぶなんてキューピッドらしいけど、でもやっぱり許せません! インセンスナイン・ブレイドムスク芳しく華麗に登場!」
「長いな。編集で切られるで? リテイクやな」
 桃色と紫を基調としたワンピースの裾が翻り、シャルタンの三日月の刃が『キューピットさん』を更に追いつめる。
 オリヴィエはオートマチックの撃鉄を起こしながら、
『目を瞑れ!』
 エージェント達はその指示通りに目を閉じた。
 それを素早く確認したオリヴィエは引き金を引く。銃口から放たれた閃光弾は激しく爆発し、『キューピットさん』の視界を奪った。
 菊次郎が持つテミスの融合したグリモアには、十字の剣の意匠が浮き出ている。
「ああそうだ、この質問なら答えられますか? ……御身を消炭に変えれば錯乱した生徒は元に戻るのか?」
「ふんっ、やれるもんならやってみなさいよ!」
 気丈に返す『キューピットさん』を、菊次郎の魔導書から生み出された純白の刃が切り刻む。しかし、傷は負ったものの寸での所で致命傷は避けたようだ。
 『キューピットさん』はライヴスを練り上げ、自分の何倍もある大きな玉を作り上げた。
「もう! 目がチカチカするわ……。えーいっ」
 妖精は両手で持ち上げた玉をオリヴィエに向かって投げ飛ばす。
 オリヴィエは攻撃を躱し直撃は免れたものの、衝撃波のダメージを背中に受けてしまった。彼の表情は引きつり、額には脂汗が浮かんでいる。
「ほらほら、こっちですよ!」
「私達が相手です、かかってきなさい!」
 咄嗟にブレイドムスクとニナが『キューピットさん』に攻撃を仕掛け、オリヴィエから注意をそらした。
 楓はその2人を後方から援護する。
「思ったほど見目悪くはないが我には劣る。その羽根もいでやろう」
 セーラー服の妖狐が輝く扇から放出した火炎は大輪の華となり、敵の行動を制限している。
『シールス、彼には回復が必要だ』
 避難誘導を終えたシールスと99が再び教室に戻ってきた。シールスはオリヴィエを敵から離れた場所に移動させ、回復の呪文を唱える。
「……間に合ってよかった。これで大丈夫だよ」
「ふぅ……助かったよ、シールスくん。オリヴィエもありがとう、って言っているよ」
 オリヴィエに身体の主導権を託されたリュカが礼を述べる。立ち上がったオリヴィエの頬は少し赤くなっていた。
 オリヴィエは標的から距離を取り、ライフルを構える。スコープの中心に『キューピットさん』の頭部が重なった瞬間、正確に打ち抜いた。
 大打撃を受けた『キューピットさん』は呻き声をあげて、頭を抱える。
「そのように脆弱でよく少女の願いを叶えられたものだな」
 菊次郎のグリモアからテミスの声が響く。彼は追い討ちをかけるようにして、呪いを込めた魔力の闇を放った。闇に絡めとられた愚神は意識を失い、床に落下する。
 攻撃するチャンスを窺っていたシールスは、細身の剣で『キューピットさん』の薄羽を切り裂いた。
 痛みで目を覚ました妖精は飛ぶことができずに泣き叫ぶ。
「ひどいひどいひどい! 自慢の羽がぼろぼろよ!」
「乙女心を弄んだ罰や。堪忍せなあかんで?」
「スケジローの言う通り! 反省しなさいっ」
 シャルタンは鎌で『キューピットさん』を掬い上げる。
 楓の扇子から打ち出した攻撃が自力で空を舞うことのできない妖精を捉えた。
「……哀れな姿だな」
 満身創痍の愚神にとどめを刺したのはニナの力を込めた一撃だった。
「これで終わりですっ!」
 『キューピットさん』の身体はピンクに輝き、ぱんっと弾けた。闘いを終えたエージェント達に桃色の雪が降り注ぐ。
 菊次郎は掌に乗った光を握りつぶした。
「恋のゲームの斡旋も出来ぬ者がクピドを名乗るなど……」
「まあ、次へ行こうではないか」

●さよなら! キューピットさん
 こうして、『キューピットさん』の事件は幕を閉じた。幻の恋人と愛を紡いでいた少女達は愚神が倒されたことで正気を取り戻す。
 学校で『キューピットさん』を流行らせたのは『キューピットさん』自身の仕業だった。生徒達に自分を呼び出せば恋が成就すると噂を流し、図書館には魔方陣の情報を隠した。それもこれも、生徒達のライヴスを集めるため……。その計画は成功したが、エージェント達の活躍によってすべて水泡に帰したのだった。
 事件解決後、エージェント達はシャルタンの提案で被害にあった生徒達を見舞いに訪れた。彼らは回復に向かう少女達の姿を見てほっと胸を撫で下ろす。
 治療中の少女達は、自分達を救ってくれたヒーローに憧れの眼差しを向けながら感謝の気持ちを述べた。
「私達を助けてくれて、ありがとうございます……!」

 その後、この女子校では折り紙に思いを託した「折り紙メール」が流行する。生徒達はキューピットに頼らず、自分の力で恋を叶えるようになったのだった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 希望の守り人
    シールス ブリザードaa0199
    機械|15才|男性|命中
  • 暗所を照らす孤高の癒し
    99aa0199hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 悲劇のヒロイン
    シャンタル レスキュールaa1493
    人間|16才|女性|防御
  • 八面六臂
    スケジローaa1493hero001
    英雄|59才|?|ブレ
  • エージェント
    ニーナ・トイフェルaa1594
    機械|32才|女性|攻撃
  • 恋文の伝道師
    加々美 鏡子aa1594hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
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