本部

小足見てから昇竜余裕でした

鷲塚

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 6~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/05 14:35

掲示板

オープニング

●ゲーセン!ゲーセン!
 ゲームセンターの一角にギャラリーの人だかりが出来ていた。シューティングゲーム斑鳩をプレイしている少女が人間とは思えない反射神経と正確さでプレイしているのを見るためだ。
 その華麗なテクニックに、ギャラリーからは、「人間TASって本当にあるんだな」とか「これは人間止めてますシリーズですわ……」などといったざわめきすら聞こえてくる。
 そんなギャラリーの声を気にもとめず、獅子口美嘉留は淡々とプレイを続けた。
「パターン構築と弛まぬ鍛錬がこのプレイ結果なんだけどね」
 そうして叩き出されたハイスコアに、MKRとネームを打ちこんで美嘉留は席を立った。
「やっぱり美嘉留はゲームの天才だな」
 美嘉留のプレイを観覧していたギャラリーが捌けてから、一人残った男が声を掛けてきた。その余りにも渋い声は、声を掛けられた女子が10人中10人が振り向くレベルで素晴らしいものだ。
「うっさい。あんまり馴れ馴れしく話しかけるな、このデッドリー&ブースト!」
「(頭を取ってデブですか……)」
 美嘉留の厳しい一言に、清流院公磨は全身にため込んだ脂肪をプルプルと振るわせた。
「出会った頃の、あの頃の、素直な美嘉留ちゃんは何処へ行ってしまったんだろうなあ」
 遠くを見るような目で公磨はぼやいた。そう言う顔のパーツはどう見てもイケメンなのだが、覆われた脂肪のせいで台無しである。
「それを言うなら、出会った頃の完璧超人だったアンタは何処へ消えてしまったのやら……」
 美嘉留は能力者と英雄として出会った頃のスレンダーでイケメン大学生風であった公磨の事を思い出して口を尖らせた。
「俺は、この世界で出会ったネットゲームという素晴らしい娯楽に身を委ねることを是としたんだ。言っておくが、その存在を俺に教えてくれたのは美嘉留、君なんだぜ」
 手櫛で髪を掻き上げ、さらに笑顔に歯を煌めかせて美嘉留に視線を送るが、美嘉留の反応は冷たいものだ。
「それで、寝て、起きて、寝るを繰り返した結果この様だよ!!」
 美嘉留は大げさな素振りで公磨にアピールした。友達に自慢できるイケメン英雄が出来たという自分のステータスを返せと、全力で突っ込みたい感情も過分に籠もっている声である。
「ポテチとピザとコーラが抜けてるぞ、美嘉留」
 その場の空気が凍り付いた。ゲームセンター特有の雑音が美嘉留には妙に大きく感じられた。
「……ゲーする」
「なんだって、聞こえない」
「憂さ晴らしに格ゲーすんの!」
 そう言って美嘉留は格ゲーのブースへ向かった。

●予想外の挑戦者
 格闘ゲームにおいても美嘉留の実力は圧倒的だった。乱入してくる相手を容赦なく叩きのめし勝利を重ねていく。
 ふと気がつくと美嘉留は5人の男に囲まれていた。振り返ると公磨は二人の男に押さえつけられている。
 美嘉留は短くため息を吐いた。
「どんな手を使っているのかは知らないが、勝ちすぎなんだよじょうちゃん」
 ドスの効いた声で男が言う。見るからに頭の悪そうな顔をしていると、美嘉留は思った。ゲームで勝つ実力も無いのに連コインをした挙げ句、負けると難癖着けてくる輩だ。昔ならいざ知らず、現代のゲーセンにこのような奴が居るとは驚きである。
「俺たち遊び足りないんだけど、もうお金無いんだよね。誰かさんのせいで」
 男はギラ付いた目で美嘉留を睨み付けた。これは所謂かつあげと言うやつだ、と美嘉留は思った。囲まれて金を奪われるかもしれないという恐怖感もあるが、能力者であるという事が美嘉留に少しの勇気を与えた。
「アンタが弱いのが悪いんでしょ。それに、あんたらに渡すお金なんてないし」
 そのまま美嘉留は席を立ち、その場を去ろうとした。
「おっとお残念だねぇ。連れのデブがどうなってもいいのか」
 男が顎で合図をすると、仲間がポケットからメリケンサックを取り出し拳にはめ込む。そして、仲間は公磨の頬を強くはたいた。結構な音が周囲に響いて張られた頬に赤い筋が走る。
 美嘉留の顔が一瞬ひきつった。英雄は愚神や従魔と同様にAGWでなければ物理的に傷つかない。英雄である公磨に傷を付けたのだ。男達がAGWを持つ能力者である事を認めざるを得ない。
 周囲から人がどんどん引いていく。誰もがこんな状況に巻き込まれるのはまっぴらごめんだからだ。
 美嘉留は、軽い絶望感を味わいながら助けを求める視線を向けた。その視線の先に偶然HOPEの能力者が居たのは幸いだったと言えよう。

解説

●目的
1.ヴィランズへの対処。
2.獅子口美嘉留を家に送ってあげる。

●場所
 ゲームセンター「ホアッター」。某商店街にあるゲームセンターで、歩いて直ぐに大通り、5分も歩けば川に出られる。

●状況
 美嘉留は4人のリーダー及び取り巻きA~C、取り巻きEに囲まれている。その後方に押さえつけられている公磨と取り巻きD、取り巻きFが居る。
 フロアには筐体が配置されており通路はかなり狭い。

●時間:PM6:00

●登場
獅子口美嘉留(ししぐち みかる) 人間 女 14歳 回避適正
 おとなしそうな成りをしているが内面に熱く燃える闘争本能を持つ。そして、その闘争本能を満たすためにゲーセンに通い詰める日々を過ごす。厳つい顔をした父親に似ず可愛く生まれて良かったと心底思っている。自分が能力者である事は家族には絶対秘密であり、公磨とは外でしか会わない。

清流院公磨(せいりゅういん きみまろ) 英雄 男 22歳 シャドウルーカー
 かつてはイケメンだったであろう顔のパーツを脂肪に埋もれさせた男。高性能な自分の能力の上に胡座をかいて生活しているうちに怠惰な性格となり、現在のような体型となる。こちらの世界に来てからはネットゲーム廃人となった。声も超絶イケボなのだが容姿が伴っていない残念系男子。

ゲーマーヴィランズ
リーダー  攻撃適正 ドレッドノート
取り巻きA 命中適正 ソフィスビショップ
取り巻きB 防御適正 バトルメディック
取り巻きC 攻撃適正 シャドウルーカー
取り巻きD 回避適正 ブレイブナイト
取り巻きE 一般人
取り巻きF 一般人

 彼らは裏ルートで手に入れた粗製AGWで武装しています。武器の秘匿性を考慮し、バタフライナイフやメリケンサックを使用しています。
 実力を示した後、更正・管理の為にHOPEに加入させるのも悪くないでしょう。また、HOPE加入の如何に関わらず殺害する事を禁止します。

リプレイ

●ゲームセンターは楽しいなっと!
 時間は少し遡る。
 フンスと鼻息を荒くして、アリス(aa0040hero001)はクレーンゲームの景品を真剣に見つめていた。お目当ては絶賛放映中のアニメ、ニートとなった六つ子のフィギュアだ。
「この良さを再発見したッ。絶対にゲットする。いや、コンプリートします!」
 胸元で拳を握るアリスの手には、大量の百円玉が握られていた。惜しげも無く100円玉を投入していく。
「ごめん、アリス。あたしには、どれも同じ顔にしか見えないんだけど……」
 頭を抱えてフィギュアを右から左に6体見てみるが、佐藤 咲雪(aa0040)には殆ど違いが判らなかった。
「お隣さん盛り上がってるよね。ノイズちゃん」
「ん~、そうだな。こっちはこっちで盛り上がっているけど」
 アイリス(aa0676hero001)とミク・ノイズ(aa0192)の見ている前で、レヴィア・プルート(aa0676)とリスターシャ(aa0192hero001)クレーンゲームに勤しんでいる。
「リスターシャちゃん。このぬいぐるみ、凄く可愛いと思いませんか?」
 景品を取り出したレヴィアが抱きしめているのは、夢の国の黄色い熊の縫いぐるみだ。その丸くて愛らしい姿にレヴィアはニッコリと微笑んだ。リスターシャが縫いぐるみをまじまじとのぞき込む。たしかに可愛いかもと、縫いぐるみをもふもふ撫でている時だ。突然パンチングマシーンの方から派手な炸裂音が響いた。
「久々にパンチングマシーンを見たからやってみたが、俺はさらに強くなったかもしれんぞ、ヴァル」
 赤城 龍哉(aa0090)が右手に嵌めたグローブからうっすらと煙が漂う。はじき出したスコアも凄まじく人間業とは思えない。
「相変わらず龍哉君は脳筋ですわ。私もやってみましょう」
「ん、やってみるか?」
「ええ、ちょっとグローブを貸して下さいます」
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)は、コインを入れて拳を構えると、せり上がってきたミットに向けて凄まじい右を放った。
「ギャラクティカ・マ○ナムッ!」
 ヴァルは先日読んだ芸術の本により得た知識をここぞとばかりに披露する。一瞬ヴァルの背後に集中線が走り、星々が砕ける画が見えるほどのパンチだ。またもやフロアに凄まじい衝撃音が響く。
「い、いい右持ってるな、ヴァル……」
 可愛く腕を構えると、ヴァルは満面の笑顔を赤城に向けた。
「今日はさ~、なんかフロアが賑やかだよね~」
 鴉守 暁(aa0306)がアサルトライフルでゾンビの眉間を淡々と撃ち抜いていく。
「ソウデスネー。でも、皆さん楽しそうヨー」
 その横で、キャス・ライジングサン(aa0306hero001)がガトリングを掃射してゾンビの群れをミンチに変えていく。
「キャスさあ、もう少しスマートに行こうよ。弾切れに用心……」
「楽しいから大丈夫デース!」
 笑顔のキャスは弾切れを気にも止めずにガトリングで弾をばらまいていた。
 その頃、天城 稜(aa0314)はリリア フォーゲル(aa0314hero001)を連れてフロアを歩いていた。リリアの手には、虎屋で購入した抹茶アイスが握られている。アイスを買ったついでにゲームセンターで遊んで行こうというプランだ。
「苦いのと甘いのとが絶妙なハーモニーを醸し出してますよね、このアイス」
 これ以上の物は無いというような笑顔でアイスを口に運んでいる。リリアは毎日一個アイスを食べることを日課にしていた。今日の一個がこのアイスということになる。
「久々にゲームセンターに来てみたけど、何で遊ぶかな」
 目移りする筐体の数々に、天城は周囲を見回した。リリアも一緒になって面白そうなゲームを探してみる。ゲームのことは殆ど知識の無いリリアだが、とある筐体にフト目を引かれた。
「稜君、洗濯機が置いてある……」
 白いボディに横向きの蓋。どう見ても洗濯機だ。そのどう見ても洗濯機の筐体の前で、男女が楽しげに蓋にタッチして遊んでいる。蓋に見えたのはモニタだ。どうやらリズムゲームの筐体のようだった。
「よし、これなら二人で遊べるか。行こうかリリア」
「まだアイスを食べ終わってなのでそれからですよ」

●アドバタイズデモ!
 それぞれが、それぞれの時間を楽しんでいた時に事件は起こった。先ほど響いたパンチングマシンを叩く音とも違う、人を殴る鈍い音がホール内に響いたのだ。ホール内が俄にざわつき、格ゲーの筐体周辺に人だかりが出来ている。ゲームのプレイが丁度終わっていた鴉守とキャスは、ひょいと顔を出してみた。
「台パンはんたーい」
「反対ねー」
 筐体のコンパネを叩いたり、筐体を蹴ったりして対戦相手を威嚇する行為を一般的に台パンという。しかし、目の前で起こっている光景は、もはや台パンの域を超えていた。十代半ばの少女が男5人に囲まれているのだ。先ほど殴られたと思しきデブの方は頬に傷を作っている。
「公磨っ、キミ英雄だろっ。根性見せてなんとかしてっ!」
 美嘉留が囲まれた恐怖に膝を振るわせながら叫んだ。この台詞に鴉守は引っかかる物を感じた。只のマナーの悪い客という訳ではない。何名か判らないが彼らの中に能力者が居り、英雄に傷を負わせるAGWを所持しているという事実だ。鴉守とキャスは、顔を見合わせてため息を吐いた。
「んー、せっかく遊びにきたのにねー」
「でも金になるゲームができるネー。ポジティブシンキンヨー」
「そだねーん。じゃー捕まえマスカット」
 鴉守とキャスは、そそくさと行動を開始した。
 咲雪は、絡まれている美嘉留と公磨を見て面倒な事になったと思っていた。つい最近、暴走族のヴィランを更生させたせいで妙な称号まで得ているのに、また典型的な不良との遭遇である。
「……ん。背中から……刺せば……早く終わる?」
 物騒な事を呟いてリーダーと思しき人間に視線を送った。男は美嘉留につめより、咲雪の視線に気づく様子は無い。
「何様のつもりかは知らねぇが、何をしても許されるわけじゃねぇんだぞ」
 腰を落とし、今にも実行しようとした咲雪の肩をノイズが掴んだ。
「そうですよ。人が捌けちゃったら奇襲は難しいからね! 人質の安全も考えようね!」
 両手にフィギュアを詰め込んだ袋を抱えてアリスも咲雪を諭す。
 咲雪が周囲を見ると、大多数の見物人が出口に向かい始めている。キャスが店のスタッフと客を退避させているのだ。
「ん~?何~?」
「ちょっとめんどくさいのが居るからぁ、片付けてからの方が静かに遊べるでしょぉ?」
「ゲームセンターなんて騒がしいのが普通だと思うけど~?」
 美嘉留の視線に気付き、クレーンゲームで遊んでいるレヴィアを連れてきて共鳴する。
「ノイズちゃん。あの子、助けてあげるよね?」
「……もちろん」
 気づけば殆どの客が退避完了しており、如何にも能力者ですという雰囲気を醸し出す一行がその場に残っていた。赤城とヴァルも勿論その場に止まっている。
「何ともまぁマンガ的な世界が目の前に」
 少し楽しいことになってきたと、赤城はグローブをはめ込んで拳を鳴らす。
「こんなお痛をする体の大きな坊やは制圧して再教育ですわ」
 二人は即座にリンクして準備万端だ。
「そんじゃ始めるとしようか」
 騒動を感じたときから天城はリリアとリンクしていた。フロアから殆どの人が退避して、天城はその場に残っていた友人のノイズとレヴィアの姿を見つけた。
「君たちも来てたのか」
「お、天城。アンタも来てたんだ」
 天城の呼びかけにノイズとレヴィアが振り向いた。しかし、直ぐに男達に向き直り、鋭い目を男達に向ける。
「天城さん。この状況、もちろん加勢してくれますよね」
 レヴィアに言われるまでもない。こんな状況で女の子を放っておけるほど天城は腐っていない。
「アレ、どう見る?」
「流石にアレで、諍いじゃないとは言えないでしょう……女の子相手に複数で脅すのは、許せませんね。行きますよ」
「流石リリア、話が早い!」
 天城は幻想蝶から武器を取り出し構えた。
 男達が美嘉留と公磨を囲んでからさほど時間は経っていない。鮮やかに行われた客の退避にフロアが一瞬静かになり、ゲームのデモ音楽だけがフロアに響いた。
「流石の暁でもこの時間でやること多すぎてココに上がって来られないネー」
 キャスが頭の後ろで手を組んで小さく笑った。
 その頃、店の入り口付近で鴉守は電話をかけていた。警察に連絡し護送車の確保と周辺の一時封鎖を手配するためだ。それが終わったらHOPE本部に連絡してヴィランの後処理も頼んでおく。少し遅れるがしておかなければならない配慮だろう。入り口から美嘉留の方をチラリと見る。どうやら同業者が複数居たようで、現場に多少遅れても大丈夫のように思えた。
「なんだぁ、てめらはよぉ!!」
 リーダー格の男が叫ぶ声が聞こえてくる。これは始まったなと、電話で事情を説明しながら鴉守は思った。

●あっという間劇場!
 人の捌けたフロアに緊迫した空気が充満していた。美嘉留は男5人に囲まれ、助けを求める視線を能力者達に投げかけている。時折、口元が震えていた。
「美嘉留ちゃんは話してやれよ」
 両腕を捕まれた公磨が声を絞り出すように言った。
「うるせえ、このデブ」
 腕を掴んでいる男の平手が公磨の頬を往復する。打たれたときに口の中を切ったのか、公磨の口に鉄の味が広がった。それを見て、男達が下品に笑う。
 そこに赤城が大きく一歩踏み出した。
「止めろ! ゲームセンターで少女相手に刃物をチラつかせて恥ずかしくないのか!」
 半身でビシッと指を指し、半ば挑発するように声を上げる。
「なんだぁ~。てめえが俺の負け分を出してくれるってかぁぁぁん!」
 判りやすい奴だ。こういう奴は、今まで自分たちに叶う人間に会わなかったため、逆に自分がやられるなどとは思ってもないのだ。案の定、ナイフを持った二人が近寄ってきて赤城の頬にヒタヒタと刃を当て、嘗め回すように顔を近づけて威圧してくる。
「兄さんよぉ、切り刻まれたくなかったらスッ込んでるんだなぁ」
「これで正当防衛成立だな」
 バックステップから深く身を沈めると、身を沈めて目の前の二人を躱す。そのまま赤城は全力で美嘉留の元に向かった。
「待ちやがれッ!」
 ナイフ男達は振り向いて赤城の動きを目で追うが、背中に殺気を覚えてゆっくりと振り返った。
「ここはゲームを楽しむところよぉ。こんなところでストリートファイターやってもおひねりなんか飛んでこないわよぉ」
 殺気をはらんだレヴィアの笑顔に二人の男が一歩後ずさった。しかし、相手は娘一人だ。自分たちは二人で数的優位は確実である。その事だけが二人を行動させた。
「構わねえ!」
「やっちまえぇぇ!」
 二人はナイフを振りかぶりレヴィアに襲いかかってきた。完全に素人の動きだ。大振りされるナイフの軌道を軽やかに躱し、一人の鳩尾めがけて強烈な拳を叩き込んだ。
「おっぱあああぁぁぁ」
 拳がめり込んだまま体をくの字に曲げて男は悶絶する。見開かれた目と胃液混じりの涎が口元からダラリと流れ落ちた。レヴィアが拳を引くと、ズルリと男が床に沈んでいく。
「や、野郎!!」
「何処を見ている」
 襲いかかろうとした矢先だ。かけられた声に、もう一人の男が振り向くと直ぐ側までノイズが迫っていた。ノイズは、走り込んだ勢いのまま右ストレートを男の鼻に叩き込む。鼻が折れる嫌な音が響き、顔面を押さえて男は床でもがき苦しんだ。
 レヴィアとノイズは視線を交わしハイタッチする。
「素人相手じゃこんなものなのかな?」
「確かにこんな奴ら相手に全力出すこともないわな」
 ラウンド1開幕瞬殺ゲーだ。その様子を見ていた美嘉留はそう思った。
 そのころ咲雪は、赤城が目立つことにより作り出した一瞬の隙を突いて筐体の影に潜んでいた。ごろつき達からは完全な死角だ。最初はこちらも人質をと思ったが、結構な早さで人が捌けてしまったので混乱に乗じて相手リーダーに近づくことが出来なかったのだ。
「プランBを実行する……」
 咲雪は小さく呟いて赤城が美嘉留を救出するのを待った。赤城は、一気に走り込み一人になったリーダーの正面に出る。目の前にスッと出てきた赤城に、リーダーの体が一瞬硬直するのを見逃す赤城では無かった。
「天城ィ、パスだッ!!」
 赤城は呆然とする美嘉留を抱きかかえると、そのまま後ろの天城に投げて寄越した。
「え、ええええええ!!」
 突然の出来事に、空中で美嘉留は叫ぶことしか出来ない。それを見ている公磨も、余りの急展開に目が点になったぐらいだ。
 美嘉留はそのまま天城が構える所にお姫様だっこの状態でスッポリと収まった。
「もう大丈夫だからね」
 やわらかな動作で美嘉留を下ろし、呆然としている美嘉留に笑顔を向ける。ココまでやれば大方大丈夫だろうが、何が起こるかまだ判らないので、自分が付いて守ってやることにした。
「てめえ、やりやがった……」
「アニキ、危ねえ!!」
 リーダーと公磨を拘束している二人とが殆ど同時に叫んだ。そして、あまりにも無慈悲な一撃にリーダーを襲う。その余りの激痛に、リーダーは足を内股にし、股間を押さえて息も絶え絶えとなる。リーダー後ろでは、股間を蹴り上げた咲雪が残心の構えのまま立っていた。
「……ん、急所は鎮圧するのに……最適」
 リーダーは、額から脂汗を流して、なおも赤城を睨み付ける。もはやリーダーのプライドや自尊心はズタズタになっていたが、こんな奴らに負けて堪るかという根性だけで体を起こす。
「俺はピヨッた相手に止めをさすのを躊躇しないぜ!」
 赤城は、腰を沈めてアッパーカットの要領で拳を突き上げた。その勢いでリーダーは中に巻き上げられる。当の赤城は、一度やってみたかった、という満足げな表情だ。
「うあぁぁぁ、ああぁぁぁ、ぁぁぁ……」
 エコーが掛かったかの如くうめき声を上げ、リーダーは頭から床に沈んだ。
「凄い、晃○拳だ……」
「いや、昇○拳の方なんだぜ……。殆ど同じだけど」
 美嘉留の呟きに赤城は振り向いて突っ込んだ。
「おまえら、まだやんのか?」
 赤城は、床に転がるリーダーに駆け寄った二人を睨み付ける。咲雪もまだまだこれからだよ、とばかりに鋭い素振りを男達に披露した。
「すいませんでしたっ!」
 お辞儀の角度は90度。男二人の見事な最敬礼であった。
「あ、あああ、アニキィ~」
 リーダーが倒れ、仲間が降伏したのを見て、公磨を拘束していた二人は、手足をばたつかせて全力で入り口へと走った。あんな奴らに勝てるわけが無い。風圧で顔面が歪むぐらい走った二人が能力者達を躱し、入り口に辿り着いたとたん表情が凍り付く。
「はいー。おつかれさんー」
「お帰りはコチラネー」
 警察とHOPEへの連絡に加え、一時的に周囲の封鎖を準備していていた鴉守が手持ちのスナイパーライフルをポンポンと叩いて笑顔を二人に向けた。二人の男は顔を見合わせた。もうダメだ、お仕舞いだという思いがグルグルと脳内を駆け巡る。それは、二人をある行動へと駆り立てた。
「すいませんでしたっ!!」
「勘弁して下さいっ!!」
 その余りに見事なジャンピング土下座に、鴉守とキャスは顔を見合わせる。
「許せるわけがー」
「ないのデース!」
 一人は鴉守にライフルのストックで頭をこずかれ撃沈し、もう一人はキャスの恥ずかし固めにより地面をタップしまくるのであった。
「何人たりともワタシの横を抜けさせないのデース!」
「キャス……。桜庭式で固めるのはやめてさしあげろー」
 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。事後処理は警察関係がやってくれるだろう。かくてゲームセンター内で起こったヴィラン達による暴挙は、多少のけが人を出す程度で鎮圧されたのである。

●対戦終了のおしらせ
 あっという間の鎮圧だった。まるでアニメかゲームの1シーンを見ているかのような流れだ。
「もう大丈夫だよ」
 天城がポンポンと美嘉留の頭をなでた。そこに解放された公磨が脂肪を揺らし走ってくる。
「美嘉留。大丈夫だったか?」
「この人達のおかげで助かったよ」
 美嘉留は助けてくれた能力者達を交互に見る。すると、みんな余裕の表情で美嘉留にほほえみかけてくれる。これが只の能力者である自分とエージェントとして活動している能力者との違いなのかもしれないと、美嘉留は思った。
「そういや、おまえさんの名前を聞いてなかったな」
「あ、獅子口美嘉留といいます。こっちは相棒の清流院公磨。助けてくれてありがとうございました」
 そう言って美嘉留が頭を下げるので、赤城がそうかそうかと頷いた。そして、ふと訪ねてしまう。
「美嘉留の好きなゲームは何だ?」
 一瞬きょとんとした美嘉留だが、笑顔でこう答えた。
「スト2’turboのスピード☆10かな。普段は無理だけど、リンクしてたらフレーム単位で技を見切れて面白いよ」
「そうかそうか!今度手合わせしてくれよな」
「おにーさんは、リアルリュウだったもん、勝てないよ!」
「実戦じゃありませんわよね」
 ヴァルの突っ込みに、そりゃそうだと赤城が笑う。それにつられて美嘉留も笑ってしまった。
「みなさん、本当にありがとうございました」
 公磨も一人一人に頭を下げてまわった。多くの者がお互い様だよとか、気にしなくて良いよと言う中、目を光らせている者が二人ほど居たのだ。
「慢心が身を滅ぼしたなーDEBUー。すこし痩せれー」
 鴉守はそう言ってダンス系の大型筐体をチョンチョンと指し示す。
「そ、そうっすね……、運動が……良いかもしれませんよね……」
「コイツはやりそうにないナー」
 キャスがお腹を抱えてゲラゲラと笑った。そこにノイズがリスターシャと駆け寄りポンポンと公磨の肩を叩く。
「なんでも堕落した英雄がいるそうじゃないか?」
 自分で自分を指す公磨にノイズは大げさに頷いた。ノイズ頭に駆け巡るそのプランは、ボクサーが2階級落としてリングに上がる事を可能にする限界ギリギリのものだ。
「いくぞおらぁ! まずはランニング!」
 ノイズは、そのまま公磨を蹴り出すと、自分も後ろから走っていった。その後ろにリスターシャも続く。
「あの子も元気よねぇ」
 レヴィアは、一つ所に集められた男達をチラリと見るて、この男達をどうしても虐めてやりたい衝動に駆られた。普段はそんな気持ちなんて抱くはずもないのだが、リンクしていると女王様気質が表に出てきてしまうのだ。
「確か、近くに川があったわよね」
 ズカズカと歩いて冷たい目で男達を見下す。その視線に男達は、息を呑み冷や汗を流した。
「ほらほらぁ、楽しい楽しい寒中水泳のお時間よぉ」
 その場に居た全員の視線がレヴィアに釘付けとなった。この寒空に寒中水泳の刑ですかという驚異の視線だ。男達は心の中で、お前の血は何色だァーと叫んでいた。
 言ったからには速実行とばかりにレヴィアが男達を連れて行こうとするので、それは流石にまずいと赤城と鴉守が割り込んだ。
「ストップ、ストップ。そこまでにしておこうか」
「そうそう。護送車も下に来てるみたいだしー、あとはケーサツとうちの職員にお任せということにしておこー」
 レヴィアは、残念そうな表情をしていたが、護送車が来ているなら仕方ないと、リンクを解除してしまう。すると、先ほどとは打って変わっておとなしくなり、レヴィアと何事も無くて良かったなどと話している。
「今日は偉かったですね、咲雪様。私、感心しました」
 普段からちょっと消極的な咲雪をゲームセンターに引っ張ってきて本当に良かったとアリスは思った。
「……面倒だけど、見て見ぬ振りなんて出来なかったから」
 その言葉に心揺すぶられて、アリスは咲雪に抱きついた。突然抱きついてきたアリスに咲雪は少し抵抗はするものの、その顔はすこし嬉しそうだった。
「コレで一件落着ネー」
 キャスは、はしゃいで手を叩き喜んでいる。
「私とキャスはこいつらをHOPEまで護送するよ-。武器の出所とか調べておかないとねー」
「それじゃ俺はこの子を家まで送ってあげることにしますよ。何があるか判らないですし」
「いや、あの。悪いですよ。そんな……」
 わたわたと手を振って美嘉留は照れていたが、リリアが、自分も一緒だから大丈夫だよと、優しく諭すと素直に了承していた。
「皆さん、ありがとうございました!」
 美嘉留は、能力者達に深々と頭を下げた。
「気をつけて帰るんだヨー」
 キャスが手を振ると、美嘉留も手を振って答えた。店から出ると、警察車両とHOPEの車両がすでに到着していた。美嘉留と天城とリリアの三人は、人混みをすり抜けながら大通りに向かう。そこはいつもの大通りだった。三人は美嘉留の好きなゲームの話や公磨との出会いのことを話ながら通りを歩いていく。
 大通りに掛かる橋からふと河川敷を見ると公磨達が走っているのが見えて美嘉留は目を細くするのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 鬼軍曹
    ミク・ノイズaa0192
    機械|16才|女性|攻撃
  • 光弾のリーシャ
    リスターシャaa0192hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • エージェント
    レヴィア・プルートaa0676
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    アイリスaa0676hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
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