本部

土砂除去作業の警備は楽観除去次第?

真名木風由

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/04 04:04

掲示板

オープニング

 『あなた』達は、警備任務でラオスに来ていた。
 ラオス国内の道路は、幅があまりない場所もあり、バスのような大型車両が相互に通行出来ない箇所もあるらしいのだが、その相互通行出来ない狭い場所に、雨季に発生した大規模な土砂崩れが発生、現在通行止めになっているのだとか。
 現地に作業員を派遣して土砂除去を行わなければ通行が出来ないそうだが、近隣に従魔やヴィランが率いる山賊が出没する情報があり、作業員警備の必要ありとして、H.O.P.E.に依頼が舞い込んだ。
 1日で終わる作業ではない為、現地到着の昼前から晩まで作業したら帰還、翌日また現地へ赴くスケジュールだそうで、『あなた』達は今日1日の警備担当である。(翌日は別のエージェント達が派遣されるらしい)
 深刻な被害情報はないらしいが、出没自体は信憑性が高い、のだが。
「……」
 剣崎高音(az0014)が、少し不機嫌にそちらを見る。
 彼女としては色々許せないものがあるのだろう。
 まぁ、彼女じゃなくても言いたくなりそうな光景ではあるが。

「僕小さい国だったから、こういう光景見慣れない。緑が沢山だね」
「もう少し危機感持ってくれ」
「大丈夫だよ。君は心配し過ぎだよー」
 この任務を共にする能力者のセシルと英雄のアレクだ。
 セシルはオセアニアにある小さな国の出身の青年で、控えめに言ってもふくよかだ。対するアレクは華奢と言っていい体躯だが。
 セシルは彼の国の事情もあって、自分で働いてお金を得て生活を賄うという感覚が乏しいらしい。性格も温和で楽観的(アレクによると彼の故郷の人はそういう人が多いらしい)で、アレクは随分苦労しているようだ。
 その分アレクに皺寄せが来ており、エージェントの話を聞きつけ、彼を説得して国を出て、何とかエージェントになったものの、任務以外は何もしないニート状態のセシルの為にパートタイムで働いて生活費を補っているとのこと。
 気になる誓約は、前進の努力をすることというもので、誓約が持続している所を見ると、セシルなりに努力はしていると思われるが、言動もあってかそうは見えない。
 確実に戦力外、いやマイナス。
 しかも、バトルメディックである為、有事の際のほほんとしたままでは困る。
 そんな訳で、高音の眉間の皺が深く刻まれているのだ。

「セシルは……沢山、食べるから……大きい、のかしら……」
 高音の心のオアシス、夜神十架(az0014hero001)が自分の背丈の低さを表すように頭をぽふぽふしている。
「十架ちゃんはそのままでいてね」
 高音が十架へ抱きつくと、よく分かっていないが高音に抱きつかれて嬉しい十架ははにかんだ。

 やがて、現場へ到着する。
 右手山側は土砂崩れが発生した側、土砂と倒木が凄まじい。
 左手谷側は急斜面、ちらりと見ると土砂崩れの影響がない為、木々は普通に生えている。
 前方は作業する必要がある土砂、幅が狭い道路の全面を覆っており、除去しなければ通行不可能。
 後方にある移動車両は破壊されると帰還手段がなくなる為注意も必要。
 『あなた』達は資料に記された注意事項を思い浮かべながら、今日1日の警備を思った。

 身内のマイナスを考えると、頭痛いけど。

解説

●目的
・今日1日警備を全員(NPC含)で頑張る

●周辺情報
・天気は晴れ(乾季です)
・山間部の道路で大型車両が相互通行出来ない程幅が狭い。
・右手山側は土砂崩れが発生した影響で土砂と倒木が凄まじく、左手谷側は土砂崩れの影響なく木々は普通に生えている急斜面。地形的なものもあり場を離れて索敵は困難な見通し。
・周辺に人家なし。

●敵情報(PL情報)
・ヴィランと非能力者の手下
総勢20名の山賊。警備開始して2時間程度で襲撃してくる。
手下は銃で武装、ドレッドノートのヴィランのみ何らかの手段で手に入れたAGWの剣装備。
が、強さ自体は大したことない。

・ミーレス級従魔トットx30
子供位の大きさの塊。ぶよぶよしてる。ゼリー状の身体で鈍い。臭い。
最初10体程度の登場で、後から続々登場、最終的に30体相手をすることになるという形(30体1度に相手をするという意味ではない)
臭いのと殴ると臭いのが付着しそうという心理的な嫌悪以外能力はなく、強くもない。

●NPC情報
・剣崎高音、夜神十架
真面目に警備、戦闘します。
ただし、高音とセシルとの相性は(高音が一方的に)よろしくないので注意が必要。

・セシル、アレク
バトルメディックでケアレイ使用可能。
セシルはのほほんとしており、危機感ゼロ、苦労性貧乏籤のアレクはとても真面目。体格はふくよかと華奢の両極端。
現状セシルはマイナス要素。
今までが今までであった為裕福ではない(寧ろ国情もあって貧しい)家の生まれでもこの状態で。
本人が言うにはエージェントになって少し痩せた、アレクには感謝してるそうで、悪気はなく、性格もいい部類。
前進の努力は本人なりにしているからか、誓約は維持されている。

・現地作業監督・作業員x30
ショベルカー等々で土砂除去作業に従事。全員非能力者。
戦闘の際は護衛の必要あり。

●注意・補足事項
・ヴィラン達は生きたまま拘束、監視となります。
・連戦ですので配分にご注意ください。

リプレイ

●セシル操縦術
「ほう、ミニショベルのお出ましかの」
 現場に到着し、レジャーシートを敷くクー・ナンナ(aa0535hero001)から視線を外したカグヤ・アトラクア(aa0535)は、大型車両ならば相互通行も出来ない程幅もない道路に姿を現した存在を見て、目を細めた。
「後方からの車での接近もありえるじゃろうな」
「車を使わない理由がありませんものね」
 カグヤが金と足目的で車両強奪もありうることから、後方からの警戒を優先させる旨を告げると、剣崎高音(az0014)も後方から急速接近されるのは避けたいと頷く。
「徒歩のや従魔は味方が見つけるじゃろ」
 カグヤは言いながら、時間稼ぎにもなるロードコーンを設置していく。
「準備……完了だよ」
「高音、十架、出番を待とうぞ」
 クーがレジャーシートに座布団、水筒にお菓子を並べてそう言うと、『待機所』に座り込んだカグヤが招き入れた。
「ですが……」
「長丁場故、気を張り過ぎても途中で疲れ過ぎてしまうのじゃ」
 難色を示す高音へカグヤが笑う。
「大丈夫、でしょうか」
「これも作戦の一環じゃ」
 けれど、高音はチラチラと前方を見ている。
 他のエージェントと会話をしているセシルの姿だ。
「セシルの悪い所が見えて気になっているのじゃろうが、良い所を見つけてあげるとお互いに幸せぞ。そなたは真面目で可愛いのぉ」
「えっ」
「高音……は、本当は……可愛いの……」
 カグヤの言葉に驚く高音の隣で、夜神十架(az0014hero001)がぽつぽつと語る。
「何かあったら、すぐに動けるようにはします」
「わらわの方がお姉さんなので頼るといい」
「え、あっ……恥ずかしいですっ」
 カグヤに頭を撫でられて顔を真っ赤にする高音を見、クーは(余計にカグヤが喜びそうだよね)と心の中で呟き、十架へお茶菓子を差し出した。

 という、後方のやり取りを見た鋼野 明斗(aa0553)は、頭の後ろを掻いた。
『今日も凛々しく元気に逞しく!』
 さっきまで肩車されてご機嫌だったドロシー ジャスティス(aa0553hero001)からスケッチブックを押し付けられつつ、高音対応は同じ女性のカグヤに任せておいた方が上手くいきそうかと考えた。
(セシルさん次第の所もありますしね)
 明斗が視線を移した先には……。
「その格好、どうしたの?」
「え?」
「わ、かっこいい!!」
 天戸 みずく(aa0834hero001)の言葉にキョトンとした黄泉坂クルオ(aa0834)は、セシルから賞賛を浴びていた。
 クルオは全くそうは見えないけれど、現役高校1年生、アルバイトという言葉はとても輝くお年頃。
「ありがとう! 手が空いた時はお手伝いすることにしたんだ!」
 そう、作業着こそ大柄なクルオに合うものはなかったが、手が空いた時という条件付で手伝いOKが出たのだ。
「一緒に働いてはどうかの」
 セシルへ、獣臓(aa1696)が声を掛けた。
 先程まで、可愛い女の子が一杯なので友達になっておっぱい揉みたいという欲望に忠実な発言をし、キュキィ(aa1696hero001)に張り倒されていたのだ。
 キュキィは作業開始までの時間の間に警備に必要として、現場監督へ有事の際はエージェントの指示に従って動いてほしいことや作業員の人数確認の取り纏めを依頼していた。何かあったらすぐ、エージェントが動けるように、と。
「皆さんの護衛もお願いしたいですし、いいと思いますよ」
 アレクの不安そうな表情を視線で捉えながら、キュキィはセシルへ提案してみる。
「セシルちゃんにしか出来ぬ仕事じゃぞ?」
「そうなの?」
 獣臓の言葉に、セシルが首を傾げる。
 アレクの評価に違わぬ危機感のなさだが、獣臓はセシルをちょいちょいと手招いた。
「ここでいい所を見せたら、お給料に色がついて、美味しいもの食べられるぞぃ」
「ホント?」
「ホントじゃ。よろしく頼むぞぃ」
「じゃあ、僕も手伝える範囲で手伝うよ」
 獣臓、セシル操縦に成功。
 簡単な作業を警備の一環で手伝うことにしたセシルへ、木霊・C・リュカ(aa0068)が近づく。
 獣臓の手並みが彼に合っていたようなので任せていたが、キュキィとは違い作業員へ声を掛けて回っていたリュカもセシルへ共に作業を手伝おうと提案を考えていたクチである。
「作業するのかな」
「国で誰も仕事してないから、仕事がよく分からないけど」
「そういえば、どうしてエージェントになったの?」
 エージェントは危険なことも多い仕事なのに、セシルは穏やかだ。
 それが不思議なクルオには、エージェントになった理由はアレクに誘われた以外の事情があるのかと尋ねてみた。
「負けたら誰かが傷ついちゃうから、怖いよ。でも、僕がやらなかったら、誰かが傷つく……誰かを救うために、頑張りたかったんだ、僕は」
「僕は仕送りかなぁ。国でお仕事ないし」
 まずは自分がとクルオが話すと、セシルはあっさり答えた。
 アレクより話は聞いていたが、仕事の必要がない程裕福なのではなく、仕事が全くない程貧しい国だったとは。
「仕事があるって凄いなぁって思うよ? 僕の国で仕事に就ける人は一握りだもの。皆仲いいから、犯罪起こらないけど」
「体格はしっかりしてるよね」
「僕の国の人太り易い体質だし、女の人はその方がいいって話なのもそうだけど、殆ど食費に終わるよ?」
 穏便な表現で尋ねたクルオの隣にいたみずくが確認するようにアレクを見ると、彼はそうだと頷いた。
「今は故郷にいる頃より食事変わってるん?」
「食事は国と違うけど、前より食べてないと思うよ? アレクが一生懸命作ってくれたご飯、不満ないし」
 弥刀 一二三(aa1048)が話を振ってみると、そうした回答。
「そろそろ警備が始まる。ヴィランの出現の可能性が少しでもあるなら、拘束道具の準備は先にすべきだ」
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が外見の幼さに見合わぬ落ち着いた声を掛ける。
 どうやら、明斗のロープ、獣臓の固定用結束バンド以外にもオリヴィエは準備していたようだった。
 地形確認や連絡体制の整備は終了しているが、これらの準備も怠れない。
 見ているようにと筆記用具を渡したオリヴィエは点検作業を見学させることから始めた。
「誰かがやれればいいことだが、自分がやらなきゃ進めない。出来ないとやらないは違う」
 やろうとする気概を持て。
 オリヴィエにとってセシルは色々ありえないからそう言ったのだが、意外なことを言われた。
「君は優しいんだねー。初対面の僕の為にそう言うのって、中々出来ないし」
 のほほんと笑うセシルに、オリヴィエが何も言わず黙々と準備する様を見学させた。

 その後方、アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)が、木陰 黎夜(aa0061)を見た。
 男性恐怖症の為、男が多い現場にいる黎夜はとても無口だ。
「苦手で嫌いなヤツがいるからって、そいつに流されるのは癪だから頑張ろうって思うけど、最後まで頑張れるか、今スゲー不安だ……」
「依頼で男の人に関わってること自体進歩でしょうに。限界になったらすぐ言いなさいね?」
 アーテルが死んだ目の黎夜へ言葉を掛けると、黎夜は小さく頷いた。

「ワタシ虫とかきもちわるいのぜーーーーったいダメだから、そこらへんよろしくね?」
 大量の殺虫剤の粉の円の中にいるのは、言峰 estrela(aa0526)とキュベレー(aa0526hero001)だ。
 熱帯に位置するラオスは乾季のこの季節も湿気はなくとも高温であり、一二三と同じように辟易していた彼女は虫を恐れて虫除けスプレーと殺虫剤持参で虫に備えていた。
「で、でも、完全には難しいんじゃないかな」
 クルオが声を掛けると、estrelaはクルオを見上げた。
「動物園から出てきちゃったのかしら…? それとも野生?」
 クルオを見ている目は、明らかにゴリラを見る目であった。
 その後、人間の言葉ではいけないと、彼女なりにゴリラ語で語りかけ、キュベレーが呆れた眼差しで一言。
「その鳴き声は猿だ」
 そこで、クルオが違う車両に乗っていたけどゴリラではなくエージェントである旨を説明した。
「……やっぱり?」
「だから、よろしくね?」
 クルオへ茶目っ気に笑ってみせるestrela、しかしクルオが立ち去った後でああ見えてクルオがまだ高校生であるとキュベレーが教え、そうは見えない外見に驚愕したのは内緒の話。

●安全第一
『やる気!いいぞ!』
「いや、待つの面倒だし、さっさと終らせよう」
 交替制の巡回警備1番手明斗、ドロシーの書かれた文字にあっさりそう言う。
(人は人、自分は自分)
 そう考える明斗であるが、経済破綻した国で仕事しようがない状況についてはセシル個の努力で改善する問題ではないと思うので、そういう国もあるのかという感想に落ち着く。
(後方から車で接近される可能性はある……)
 その警戒は、カグヤと高音に任せるとして。
 一応、地形的に道路以外の場所を歩き回るのは厳しい為、車などで死角になり易い場所を見て回り、それから後方警戒の待機所へ足を運んだ。
「どうです?」
「不審車両は接近しておらんの」
 明斗の問いにカグヤがそう言いながら、茶を啜る。
「作業音とは異なる音が接近した場合は、すぐに皆へ連絡しますね」
「思ったより、緊張されてないですね」
 高音の続きに、明斗はセシルへの対抗心を考慮してそう言ったが。
「任務は任務として真面目にしていますよ。ただ、カグヤさんの仰る作戦の一環ですので」
 なるほど、殺伐としては逆に敵を煽る、油断させるのも手と言ったか。
 性格的に対抗心から周囲が見えなくなって突出する恐れがある、その時は指摘するつもりだったが、カグヤの作戦は上手であったようだ。そのカグヤも火事場泥棒確保の際の教訓を生かしているようだが。
「まぁ、眉間に皺は可愛い顔が勿体無い……?」
 明斗は事実を述べた所で、沈黙に気づいた。
「高音は……可愛い……わ」
「そうじゃのぅ。さっきも頭を撫でただけで真っ赤になっての」
「いえ、そんな、可愛くはないと思います。十架ちゃんの方が可愛いですよ」
 こくこく頷く十架と微笑ましそうなカグヤに挟まれて、高音が顔を真っ赤にさせている。
 直後、ドロシーがスケッチブックで明斗をバシンと叩いた。
『任務中に! ナンパ禁止!』
「ナンパじゃない」
『禁止!!』
 ドロシーが怒っているので、明斗は谷側を警戒するようにして場を離れた。

(『リュカとも相性悪いよな。緩い所はよく似てる』)
 警備の都合上共鳴したリュカは、オリヴィエの響く声に苦笑した。
 現場監督に申し出て、簡単な作業を申し出ている者もいるし、一二三オなどは作業服を借りている為、一見エージェントとは判らない。
(『セシルは、一二三とクルオと組んでいるのか』)
 オリヴィエが言う通り、作業員に混じって労働するクルオやセシルへ積極的に声をかける一二三がセシルと共に巡回するらしい。
 獣臓の美味しいご飯という餌が効いているのか、敵襲の警戒は他のエージェントより格段に低いが、作業員の作業を手伝い、明斗は調達した水分補給を促したりと世話を焼くのは割とマメだ。
「適材適所というものかもしれません」
 キュキィがリュカの視線の先を見てそう言う。
 警備の意味ではマイナスだが、作業員の作業の手伝いや彼らの世話に振れば、作業員から警備上の協力を得られ易い。楽観的だからこそ、ギスギスしそうな空気を緩和出来る。(ただし、カグヤはギスギスした人間模様が楽しいと漏らしていたが)
「確かにそれは言えているね」
「可愛いむちむちおねーちゃんといっしょがよ」
 キュキィ、獣臓が全部言い終わる前に鮮やかなるツッコミ。
「旦那様……言わせねぇよでございます」
 キュキィが呆れた、その時。
 携帯電話が鳴った。
 着信はカグヤ、後方から不審車両を告げる連絡の音。

「皆さん! 一箇所に固まって。それから、他の所から怪しい何か来ないか見張りお願いします!」
 クルオの声が響く。
 単純にエージェントが護衛する安心で立ち尽くしていては、その油断を衝いてくる可能性がある。
 見張りを依頼することで、現場監督や作業員達の意識を統一すれば、自分達の死角を潰す以上の効果があるだろう。
「あれかな」
「多分。数が多いみたい」
 みずくが遠目に見える車の荷台に武器を持った者がいることに気づくと、クルオが溜息を吐き、2人は共鳴。
「車や機材もしっかり守らな任務成功とは言えんやろなぁ」
 一二三が作業員のメンタル面をセシルに任せつつ、彼らを守る為に人の多さで一二三の背中から出ようとしないキリル ブラックモア(aa1048hero001)と共鳴。
 ただし、本日、キリルのやる気ゲージの関係で一二三は意識を保てず、可愛い系の魔法少女……第3の人格を目覚めさせる悲劇。
「ガンバって☆ アナタなら出来るよ☆」
 アレクと共鳴したセシルへ一二三が言うと、セシル、「日本って凄いんだねー」と感心の呟き。
「も~☆ そんな場合じゃ……」
「あ」
 会話の最中にクルオがそんな呟きを漏らした。
 両手を挙げて交渉しようと持ちかけたカグヤがそうして近づき……セーフティガスを発動させたのだ。
 範囲内にいた手下が倒れると、カグヤの正体に気づいたリーダーが先陣を切ってくる。
「能力者っぽいね。ドレッドノート、かな。さっきのヘヴィアタックっぽい」
「リーダー格以外は非能力者であるようだがな」
 殺虫防衛線を敷くestrelaはまだ出られない状況だが、キュベレーも見抜いたそれをすぐさま伝えた。
「長丁場じゃからのぉ、温存しながら戦うぞぃ。女の子が危険な時は頑張……」
「旦那様無駄口叩きやがるのではございません」
 キュキィが獣臓にツッコミし、彼らも共鳴。
(『実戦を積ませた方がいいと思うが』)
「不意打ちのお陰でガタガタだからね。無理に出す必要はなさそう」
 オリヴィエにリュカは応じつつ、威嚇射撃。
 ヴィランも非能力者の手下も明らかに怯んだ瞬間、武器や手足を狙うべきという意見そのままに十架と共鳴した高音が手下の銃を弾き飛ばし、その彼女を守るように明斗が背後でアスピスを構える。
 クルオの銀の魔弾がリーダーへ吸い込まれると、体勢を立て直し切れないリーダーに獣臓がジェミニストライクで追撃、捕縛体制が整った。
 リーダーが崩されれば、後は非能力者が共鳴している能力者に勝つ術などなく。
 後衛に到達されることもなく、全員捕縛され、結束バンドで固定されて身動きも取れなくなった。
「不意打ちが効いたのでしょうけど……逃げないで頂戴? 男のままでいたいでしょう?」
 共鳴解除したアーテルがにっこり微笑むと、男達は露骨に脅えた。
「?}
 黎夜は意味が分からなかったが、多分知らない方が幸せだと思う。

●トット
 ヴィランとその手下である山賊を捕縛し、この見張りを高音と十架が担当することとなった。
 一応、虫除けゾーン付近に監視所を設置した為、estrelaとキュベレーも見張りの一助を担うことになる。
 セシルの案もあったが、クルオと作業を手伝わせておいた方がいいという話になった為見送られた。
「虫っ。虫除けたっくさんぷしゅーしてるのにっ!」
「完全防御の訳ないだろう」
 estrelaにキュベレーは呆れるが、死活問題らしい彼女はその怒りを彼らに「こんな所で活動しないでよ」と理不尽な怒りを向け始める。
 一二三が接近されなかったとは言え、余波を食らっている可能性があるとカグヤと手分けして車とショベルカーを点検するが、深刻と呼べるものはなく、作業は程なく再開の運びとなった。
「そろそろ見回りをお願いしてもいいかな」
 リュカがクルオに声を掛けると、獣臓から労われているセシルを見ていたクルオは「あっ」と声を上げた。
「あ、うん! そうだったね……」
 作業員に抜けると頭を下げたクルオはみずく、一二三、セシルへも声をかけた。
「少し彼借りていいですか。警備の意見が聞きたいので」
「大丈夫だよー」
 アーテルに声を掛けられたセシルがそう応じてから、見張り開始。
 みずくがクルオの肩に乗り、クルオとは異なる箇所を見、一二三とセシルもフォローで周囲警戒。
 明斗が懸念したように、谷側の斜面は従魔なら苦にする可能性は低く、注意しなければならない。
「クルオ、馬鹿とゴリラは高い所が好きらしいわ」
「登らないよ……?」
 みずくの言う意味を察し、クルオがやんわり否定。
「あの、気を強く持って?」
「もう……嫌や……仕事したない……」
「でも、フミリル、可愛かったよー?」
 楽観は、時として人の心を抉る。
 一二三は、泣いた。

 一方、その頃、アーテルはアレクへ警備上の意見としてセシルの話を聞いていた。
 男性が多い状況で無口になっている黎夜が両者が会話をしている間も警戒を怠らないよう現実逃避の意味もあってか精一杯視線を走らせている。
「あなたもパートをして大変みたいね。私は黎夜がエージェント以外の仕事をしてはいけない年齢で、実質稼ぎ手が私1人なものだから生活費を稼ぐのが大変で……」
 苦笑混じりに話すアーテルは、黎夜が家事をしてくれなかったら自分が過労死していたという話を向けてみた。
「セシルも家事などは苦ではないかな。食事の量が多いのと楽観過ぎる以外は我侭も何も言わないし。その2点が多大なる問題だけど……」
 アレクが言う、セシルの1日の食事量は本人が減らしたと言ってもかなりの量だ。食費のウエイトはかなりのものだろう。
「働かないのです? あなたが仕事の間何を?」
「近所のご年配の方々と仲良くなったみたいで。そこで食べ物はねだっていないけど、話を聞いたり、身の回りのお世話を手伝ってるっぽい。でも、家計的に人を助けている場合では」
「ちょっと待って」
 リュカが会話に加わった。
「今、そういうのが苦にならないなら、日本ではかなり重宝するんじゃないかな」
「介護のお仕事向いているかもしれませんね」
 アレクはこの世界に来て、また、現住所の日本に馴染みがない為にそれを知らないのだろう。
(『適材適所か』)
 オリヴィエが呟く中、リュカとアーテルがアレクへセシルに向いてそうな仕事の話をし始める。
 と、黎夜がアーテルへ「何か臭う」と呟いた。
「異臭ね」
 すぐさまホイッスルを鳴らし、全員に異常を伝えた。
 クルオの呼びかけもあって、リュカとキュキィの依頼以上に作業員がホイッスルの動きで迅速に一塊に集まり、エージェント達も護衛の為に陣形を組む。
 そして、それが来た。

「何これ凄い臭いっ!! やだっ、あっち行ってっ!」
 estrelaが露骨に嫌がる先、急斜面から這ってくるようにぶよぶよした、子供位の大きさのゼリー状の塊が姿を現した。
「まるでトットだな」
「トットって何!?」
「この国の言葉で屁」
 作業員から教えて貰ったestrela、知りたくなかったと肩を落とす。
 しかし、後に識別名になるのだから、印象は大事だ。
「レーラ、あの身体に虫の死骸が付着しているようだ」
「教えないでいいー!!」
 冷静なキュベレーに涙声でツッコミのestrela、共鳴。
「臭いの方角が複数」
(『まだ出てくるわよ』)
 黎夜に応じたアーテルは、新手はブルームフレア、ゴーストウィンドの対応がいいと判断、クルオとの連携も重要である為、クルオと更に別方向から現れた新手とどちらを対応するかを軽く打ち合わせた。
「イヤじゃ。アレはイヤじゃ。高音、接近前に片付ける故、そのままで」
 『ホント臭いね』とクーも言う中、高音へそう言い含めたカグヤがラジエルの書構え、谷側から接近するトットを攻撃開始。
 『臭い』と連呼しているらしいドロシーへ「我慢しろ」と言いながら、明斗もグレートボウで攻撃開始。
「強さ自体は大したことなさそうだし、接近される前に対応した方が良さそう」
 リュカはそう判断し、まずは温存していたフラッシュバン。
 見た目より物理攻撃が通り難いかもしれない可能性を周囲にも伝え、遠距離攻撃手段を持つカグヤ、明斗、一二三と共に攻撃を開始した。
「もうちょっと中央に寄って貰って!」
「あ、うん」
 クルオに頷いたセシルが作業員を道路中央に集めていく。
「セシルちゃんにしか出来ぬことじゃぞぃ」
 彼が狙われないようフォローする獣臓はバトルメディックであることを暗に言い、有事の際は皆を助けろと言う。
 直後、クルオ、続けて黎夜のブルームフレアが炸裂し、トット達の動きが怯んだ。
「でも、焼けてもっと臭い……」
「つ、次で解消されるよ!」
 estrelaのクレームがあったからではないが、クルオがそう言った通り、黎夜もクルオもその次はゴーストウィンドを発動させ、殲滅と一緒に臭いも風で払っていく。
 その頃には、谷側のトットは全滅しており、estrelaも一安心と思った瞬間、虫除けゾーンに、何かが落ちてきた。
 最後のトットだ。
「いーやー!!」
 折角の防衛線がと涙目になったestrelaがシルフィードを振り回すが、キュベレーの落ち着けという声も聞こえないレベルでパニックになっている彼女の攻撃が当たる筈もなく。
 獣臓が縫止で牽制している間にクルオの銀の魔弾と一二三のライヴスブローが叩き込まれ、トットはじゅるっと原形を失った。

●警備は最後まで
「ひふみちゃんもぷしゅー」
「スプレー掛け過ぎやっ! うちだけの話やないしっ!」
 周囲が臭いと消臭して回るestrelaは一二三にもそう言って容赦なくスプレー。
「ゴリラさんバナナ好き?」
「ちょっと毛深いだけからね」
「バナナ位貰っていいんじゃない?」
 生え際も前だからかなと気にしつつもestrelaに応じるクルオ、みずくは年相応の少年の心お構いなしの発言をぶちかます。
 明らかな現実逃避の影響を前にキュベレーは依頼間違えたと思ったとか。

 2回に渡る襲撃の後は特に何事もなく時間が過ぎていく。
「高所で働く人にとって、最も危険なのは下りる時、地面から残り数mなんですって。もうちょっと、大丈夫大丈夫と気が緩むと大怪我をする。油断大敵。覚えておいてくださいね?」
 アーテルが「あともう少しで終わり」と一息の意味でコーヒーを啜っている黎夜を気遣いながらもセシルへそう言うと、感心する彼はメモを取っている。
「いい仕事をした後のご飯は格別じゃぞぃ」
 獣臓が賄いの時にもそう投げた言葉にセシルが頷いている。
 労働の喜びが分からない訳ではなさそうで、向いた仕事もありそう……まぁ、やっぱり楽観は楽観なようであるが。
「案外、悲観なおぬしといい組み合わせかもしれぬのぅ」
「補い合うことはいいことじゃないでしょうか」
 カグヤがそう言ってアレクを見ると、明斗も達観の言葉を投げる。
 からかっているとクーは気づいたが、ドロシーがパートナーについてスケッチブックで熱く語り出したので、止めておいた。
「旦那様、油断も隙も……」
「高音……いじめた……」
「そこに尻があったんじゃ」
 セシルがクルオと作業に戻っていく姿を見ていたリュカは、獣臓が高音の尻を撫でて、十架とキュキィにシメられていることに気づく。(その高音は真っ赤な顔で石のように硬直している)
(『彼も緩い』)
 オリヴィエの容赦ない評価は、現状高音には聞かせない方がいいとリュカは思った。

 楽観は土砂のように完全除去されるのではなく、ある程度の有効活用の道を歩くようだ。
 今日の任務は無事に終了するだろうが、最後まで油断せず警護すべく、エージェント達は気を引き締めるのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    黄泉坂クルオaa0834
  • エージェント
    獣臓aa1696

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • エージェント
    黄泉坂クルオaa0834
    人間|26才|男性|攻撃
  • エージェント
    天戸 みずくaa0834hero001
    英雄|6才|女性|ソフィ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃



  • エージェント
    獣臓aa1696
    人間|86才|男性|回避
  • エージェント
    キュキィaa1696hero001
    英雄|13才|?|シャド
前に戻る
ページトップへ戻る