本部

黒炎

紅玉

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2015/12/01 22:23

掲示板

オープニング

●趣向
 暗い部屋の中で低い唸り声が響いてる。
「さぁ、私の可愛い子たち……そんな狭い場所から開放してあげるわ」
 女は艶っぽい声で囁く。
「でも、簡単に殺されちゃダメだからねぇ」
 がちゃりと、重い金属の音を立てて頑丈な錠が外された。
「成果を楽しみにしているわ」
 軽快な足音が遠ざかっていく闇を見つめたまま女性は妖艶に微笑んだ。

●ハンティング
 イギリスの並木道で日が西へと沈んでゆき霧が出始めた頃。
 帰りや仕事から家へと向かう人々が行き交う中、黒い獣は路地等に息を潜めていた。
 並木道には美しい彫刻が彫られている街頭が立ち並ぶ美しい道だ。
「きょうも、きりがすごいねー」
 幼い少女が母親の手を握り締めながら街道を歩いていた。
「本当ね。濃くなる前に早く帰りましょう」
 優しく微笑む母親に、少女は小さく頷いた。
「きょーは、シチューがいいなー♪」
 無邪気に笑う少女は母親の方へ顔を向けた瞬間ー……
 首が霧の中へと飛んでいった。
「あ、あぁっ!……お、おかあさん……?」
 赤い目が霧の中で光る。
「え?」
 少女の細い首に牙が立てられる。
「ごぽっ!」
 口から大量の血が溢れ出し服を赤く、赤く染め上げた。
 それを見た通行人は悲鳴を上げた。
 赤い目の狼は、牙を剥き出しにして唸り声を上げていた。
「こ、子供が殺されたわ!み、皆、に、にげて!」
 女性が声を上げた。
 恐怖で腰を抜かす人も多数いたが、近くに居た男が抱えてその場から逃げていった。
(さぁ、どう動くのかしら?)
 女性は妖艶に微笑んだ。

●思惑と願い
 H.O.P.E.会議室に呼ばれたアナタ達は、椅子に座って待機していた。
「こんな夜遅くに呼び出してしまってごめんなさいね」
 事務の女性は申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「けれど、被害が広がる前に討伐して欲しいのよ」
 事務の女性は、事件の概要が書かれている資料を配った。
「ペットが逃亡して人を殺した……どういう事ですか?」
「詳しくは依頼者である。飼い主のミレーレ様から話してくれるそうよ」
 会議室に入ってきた妖艶な女性を、事務の女性は紹介した。
「とある筋から珍しい狼が手に入ったと聞いてだね。一目ぼれして買ってしまったのだよ。10匹ほどね」
 ミレーレはため息をついた。
「しかし、厳重に管理していたのにも関わらず逃走されてしまってな。檻には鍵を掛けていたのだが……外れていたので、狼の一匹につけていたGPSで示している場所まで行ったら……既に二人ほどやられててね。皆さん、飼い主として責任を果たしたい。お願い、これ以上被害者が出る前に討伐してくれないでしょうか?」
 ミレーレは、目から涙を零しハンカチで顔を覆った。
「どうか、お願い……」
 アナタ達は、声を殺して泣くミレーレが居る会議室を後にし現場へと向かった。
「お願い……」
 ハンカチの下でミレーレはニヤリと口元を吊り上げた。

解説

●人物
事務の女性:名前【ティリア・マーティス】29歳独身

依頼の女性:狼の飼い主、名前【ミレーレ】見た目20代後半の美女

●目標
 一般人救出とブラッドハウンドの討伐

●敵
ミーレス級従魔『ブラッドハウンド』10匹
 開始時は並木道の何処かに潜んでいる。
 見た目は狼で虎ほどの大きさがある。
 凶暴。知性はケモノ並み。
 素早いが、攻撃力は低い。

一般人
 逃げ遅れている人が居る可能性があります。

●状況
 町外れ、並木道。広い。
 時間帯は夜。街頭はあるが霧が出ている。
 

リプレイ

●依頼主
 怪しい、と思った來燈澄 真赭(aa0646)は退治に向かう仲間の背を見ながら会議室の隅で俯くミレーレに視線を向けた。
「檻の鍵が開いていたとのことですが鍵の種類と鍵の保管場所を教えてもらえますか?」
 ミレーレは赤くなった眼で真赭を見上げた瞬間、甘い花の匂いがした。
「最初から檻に付いていた物、くらいしかわからないね。鍵は私とメイド長が持ってたよ……。鍵の状態が見たいなら写真みるかい?」
「はい」
 真赭が頷くと、ミレーレは鞄から写真を取り出した。
(狼がこの錠前をこんなに破壊できるの?)
 真赭は写真に視線を向けると、一部が破損している大きな錠前が写っていた。
「狼10匹とのことですが、1日の餌の量とどういったやり方で餌を与えられてましたか?」
「餌か、普段はメイド長にさせているんだが……。たしか、普通の犬用の餌か馬肉を与えてたよ」
 ミレーレは頭に手を当てながら答えた。
「では、狼たちはあなたの指示に従いますか?」
「答えはイエス」
 真赭の言葉にミレーレは頷いた。
「GPSで追えるのであればなぜその1匹だけでも確保しなかったのです? 指示には従うんですよね?」
 真赭はミレーレの顔色を窺いながら言った。
「言い忘れてたね。見に行ったのはメイド長の方なんだよ」
 微笑みながらミレーレは答えた。
「では、一目ぼれで購入したにもかかわらず、討伐処分を即座に了承されたようですがなぜですか?」
「あぁ、日本では人を殺した飼い犬を処分するからね。昔は日本にいたのでそれが当たり前だと思っているのでね」
 ミレーレは悲しげな表情で呟いた。
「残念ながら人を襲う獣ということになってしまいましたし購入元の名前と連絡先を教えてもらえますか?」
「ああ、いい……」
 返答しようとしたミレーレは言葉を詰まらせ苦悶の表情に変わった。

 エステル バルヴィノヴァ(aa1165)は、退治組と出たフリをして会議室にこっそりと戻っていた。
「ペットの殺人の後始末をH.O.P.E.に?」
「本来、警察に"出頭"すべき事案だと思います。勿論、それが従魔なら別ですが……その時は従魔の入手先を含め依頼者はたっぷりと尋問されるべきでしょう」
「職員の方はなぜこれをそのまま受けてしまったのかしら?」
「聞き出す必要が有ります」
 エステルが泥眼(aa1165hero001)と話していると、エステルに気付かないまま会議室から出ようとするティリアのくいっと袖を引っ張った。
「あら?バルヴィノヴァさ……」
 笑顔で名前を呼ぼうとしたティリアに向かって、エステルは人差し指を口元に当てて「ちょっとお話が」と小声で言った。
「どうなさいましたか?」
 つられて小声になるティリアは首を傾げた。
「依頼人が愚神である有力な情報が入りました」
 と、エステルが緊迫した口調でティリアの耳元で話した。
「うぅっ」
 突然、ミレーレが胸元を右手で掴んで眉間にしわを寄せた。
「大丈夫ですか!?」
 ティリアは慌てた様子でミレーレの傍に駆け寄った。
「す、すまないね。きゅ、急に苦しくなってね……」
「來燈澄様、質問はこの辺で切り上げた方がよろしいかと……ミレーレ様、途中まで送りますわ」
 ティリアは苦しむミレーレの体を支えながら会議室から出て行った。
 真赭は、2人を追いかけようと会議室のドアノブに手をかけたエステルの肩に手を置いた。
「質問から逃げるのは怪しいけど、ミレーレさんが愚神の確証が無いから捕まえる事は出来ないよ」
 エステルは、そっとドアノブから手を離した。
 ミレーレ達が出て行った後のH.O.P.E.会議室は、クレマチスの匂いに包まれていた。
『狼は従魔だ』
 そんな時に真赭の携帯からリィェンの声がした。
 エステルと真赭は顔を見合せて頷いた。
「やっぱり!」
 2人は会議室から出てミレーレ達の後を追いかけた。
「ティリアさん! 依頼主は!?」
 ティリアの姿を見つけ真赭は声を上げた。
「先ほど迎えの方がいらしてお帰りになられましたわ」
 その言葉を聞いて2人は外に出たが……一足遅かった。
「今からでも追いかければっ!」
「エステル様、真赭様、依頼主は体調をくずされておりましたわ。それに、今は狼退治が優先ではないでしょうか?」
 ティリアの言葉に2人は頷き並木道へと向かった。

●ブラッドハウンド
 深夜、イギリスの並木道は恐ろしいほど静かだった。
「……おいおい、こんな夜更けに緊急の依頼かよ……面倒くさ」
 ツラナミ(aa1426)は大きな欠伸をした。
「仕事は、仕事」
 38(aa1426hero001)はため息を吐いた。
 そんな感じのツラナミだが、地元警察へ連絡をして並木道を封鎖するように要請はしっかりとしていた。
「はいはい……わぁってるよ。まったく商売繁盛で結構なこったなっと」
 ツラナミはいつでも戦えるように共鳴状態にし、霧に包まれた並木道へ歩きだした。

「狼が脱走するなんてずさんな管理だね!クエスちゃん!」
 豊聡 美海(aa0037)は頬を膨らませながら言った。
「本当に脱走したのかは疑問だけどね」
 クエス=メリエス(aa0037hero001)は首を傾げながら疑問を口にした。
「え? どういうこと?」
 美海は首を傾げた。
「依頼主がわざとやったんじゃないかなってことさ。まあ証拠も何もないけれど」
 腕を組みながらクエスは思った事を口にした。
「なんでそんなことをしたんだろうね?」
 美海は頭の上にハテナマークを浮かべた。
「今は依頼主より狼達を何とかしないとね。従魔になっている可能性が高いし」
 クエスは軽く首を横に振り、霧に覆われている並木道を見た。
「それもそうだね!早くなんとかしてあげないとね!」
 笑顔で美海は右腕を振り上げた。
「それで今回はどうやって動くの?」
「戦闘・囮役と一般人の避難役、それと情報収集役に別れようか。戦闘・囮役は主に敵の引きつけと戦闘を、一般人の避難役は逃げ遅れた人の救助と護衛を、そして情報収集役は少し怪しい依頼主について調べる形にしようか」
 クエスの提案に美海は頷いた。
「相手はおそらく複数だろうし、早めに片付けないと被害が増える可能性も高いしね」
「それに一般人の避難役については避難完了後は戦闘に参加する形になるだろうから、戦力としては十分になると思うよ」
 クエスは笑顔で美海言った。
「そうしたら美海ちゃん達はどうしようかな?」
 美海は小さく首を傾げた。
「今回は一般人の避難役は足りているようだし、戦闘に集中する形にしよう。基本方針としては当然前衛として行動だね」
「今回もやっぱり盾を構えながら相手を誘って行く形だね?」
「そう。盾で弾かれた相手を確実に仕留めていくことで、しっかりと数を減らしていこうね。あと、こちらへの注意を引き付けるために盾を叩いて音を鳴らすのもいいかもしれないね」
「盾を叩くってなんだか原始人みたいでやだなー……」
 クエスの「盾を叩く」という提案に美海は大きくため息を吐いた。
「相手を威嚇する意味合いが強いから、まあそこは我慢するしかないよ?」
「でも相手の注意を誘わないといけないから我慢するしかないかー」
 一匹でも多くの狼の気を引き付けるのは大切な作戦だ、と思い美海は恥を捨ててやる事を決めた。
「そうそう。でも戦闘終了後も増援とかがいるかもしれないから、付近の捜索は忘れないようにね」
「はーい」
 美海は元気よく手を上げた。

「狼退治、なぁ……」
 布野 橘(aa0064)は、狼という単語を口にしながら魔纏狼(aa0064hero001)を見た。
「貴様、何故俺を見る」
 狼を模した仮面で表情は見えないが魔纏狼は不満げな口調で言った。
 共鳴状態後、魔纏狼は並木道に所持していた武器を無造作に置きその場に座り込んだ。
「なんでわざわざ隙だらけになんだよ」
 座っている魔纏狼を見て橘は首を傾げた。
「馬鹿めが。隙のない敵に切り込む者があるか? ……それに、敵にしても、単純ではない」
 魔纏狼は呆れた口調でため息をついた。
「狼は群れで行動し獲物を包囲し、神経を衰弱させ、弱ったところを狙う、これが狼の狩り」
 地面を蹴る音が遠くから響いてきた。
(2……いや3匹か?)
 霧の中で緋色に光る眼が魔纏狼と橘を見つめる。
「キャー! くるなー!」
 頭上から甲高い叫び声がした。
 橘が近くの木を見上げるとそこには男の子が居た。
 叫び声を聞いた狼は木に向かって走り出した。
「仕掛けるぜ、余所見してんじゃ――」
 狼に向かって橘は地面を力強く蹴り素早く接近したが――……狼の方が早かった。
「なっ!」
 狼が木に登ろうとした瞬間、白いカード状の刃が狼の喉笛に刺さり呼吸が出来なくなった狼は絶命した。
「音がしたんで来てみれば……当たりだ」
 刃が飛んできた方向に視線を向けた先には本を持ったツラナミが居た。
「グルル……」
 でかい、普通の狼より大きいくそして素早いとツラナミは思った。
「こいつ、タダの狼じゃない」
 ツラナミは威嚇する狼を見つめた。
「そうなのか?」
「大きさや素早さからして既にな」
 魔纏狼は橘の言葉に静かに答えた。
「あー、俺は一般人救助優先だから後は任せた」
 男の子を木から下ろしたツラナミは、橘に背を向けて手を軽く振った。
「ツラ」
 38が狼の気配を感じ名前を呼んだ。
「……囲まれたか」
 その場から離れようとしたツラナミの前に狼が現れた。
 一匹、二匹……と、霧の中から足音を鳴らしながら現れた。
「ガウッ!」
 狼はツラナミに向かって跳躍した。
「くっ!」
 ツラナミは刀で狼の突進を受け止めるが後ずさりし、素早く毒刃で反撃をした。
 毒刃を受けた狼は口から血を吐いた。
「グゥ……ハァハァ」
 猛毒に掛った狼は息遣いが荒くなった。
「さっさと倒れな」
 ただ依頼を遂行する、今はそれ以外の感情は切り捨てたツラナミは躊躇い無く横一閃で狼の首を切り落とした。
「あ……」
 走り出したツラナミの背で男の子が小さく呟いた。
「あのおにーさん囲まれてるよ!」
 男の子は必死にツラナミの頭をぺちぺちと叩いた。
「あー……他にも仲間がいるから大丈夫だ」
 気だるそうに言うツラナミを見て男の子は「よわむしっ!」と言った。
(俺は一般人の避難が優先する事が任務なんでな)
 頭を叩いてる男の子を気にせずに逃げ遅れた人を探しに集中した。

 狼の群れからツラナミ達が離れたのを確認した魔纏狼は、橘に視線を向けた。
「橘、意識を寄越せ」
 橘が頷き表面人格と魔纏狼は交代した。
 何かが変わった、と本能で感じた狼達は魔纏狼の周りをゆっくりと歩く。
「魔を纏う狼のやり方、少しだけ見せてやる」
 魔纏狼は、コンユンクシオを肩に担ぎ腰を落とし膝に手を置き狼達に視線を向けた。
(先ほどより数が増えたか)
 ぐるぐる、と周りを歩く狼達とその様子を見る魔纏狼。
「魔を纏う狼のやり方、少しだけ見せてやる」
 魔纏狼は、口元を吊り上げストレートブロウで狼を吹き飛ばした瞬間、魔纏狼は素早く狼に近付き首を力強く踏みつけた。
 黒い仮面に赤い斑点が付く、地面が赤く染まってゆき地面をころころと狼の頭部が転がった。
「滅べ」
 静かに魔纏狼は呟くと狼の頭部を群れの方へ蹴り飛ばした。
 血の匂い、仲間のモノでも狼は足元に転がってきた頭部をかみ砕いた。
「オォーーーン」
 空に向かって狼は吠えた。
 それが合図かの様に狼達は魔纏狼に向かって飛びかかった。
 コンユンクシオを逆手に持ち魔纏狼は構えた。

「どうにもきな臭い依頼だな」
「そうじゃぁのぅ、人を襲うほどの動物をペットとしていたのもそうじゃが、それが逃げたという状況も作為的なものを感じるのぅ、それにあの依頼人、こそって笑っておったぞ」
 険しい表情のリィェン・ユー(aa0208)の言葉にイン・シェン(aa0208hero001)は頷いた。
「まじか……つぅか……こうゆうとき便利だな、英雄ってのも」
 リィェンはインの言葉を聞いて目を見開いた。
「そうじゃろう。とはいえ、これ以上被害が出る前に片付けないといけないのじゃ」
 インは扇子で口元を隠した。
「ち……こう霧が出てたら見つけにくいぜ」
「じゃが、あしゃしい気配をひしひしと感じるぞ」
 リィェン達は霧に覆われた並木道を歩く。
 緋色の目が霧の中で怪しく光る。
「おいおい……これのどこが狼だよ……」
 ゆっくりと近づいてきた狼を見てリィェンは目を見開いた。
 大型猛獣の様に太い四肢、体、そして血に染まった口。
(こいつは、いよいよもって黒い話だな)
「とにもかくにも今は殲滅あるのみじゃ」
 インの言葉にリィェンは頷き身の丈180cmもある大剣を構えた。
 大剣を見た狼は空に向かって吠え、リィェンに向かって走り出した。
「わざわざ接近してきてくれてありがとよ」
 リィェンはフルンティングを力を込めて振るうが――……狼の方が早かった。
「くっ!」
 威力は無いが巨体で突進されると、鍛えられたリィェンでさえ後ろに吹き飛ばされる位の力だ。
「後ろからもじゃ!」
 フルンティングを振るうより先に、リィェンの後ろから狼が突進してきた。
「このっ!」
 吹き飛ばされる寸前にリィェンは、狼の喉元を掴みその巨体を持ち上げ地面に叩きつけた。
 骨の折れる感触がリィェンの手に伝わる。
「トドメっ!」
 狼の首をフルンティングで切断した。
 間髪入れずにもう一匹の狼も突進してきたが、リィェンは狼の足に向かってフルンティングを横に振った。
「キャンッ!」
 足の痛みに驚き狼は着地し後ずさりした。
「カンカンカン!」
 鉄を叩く様な音が遠くから聞こえてきた。
 その音に驚いて狼は音のする方へ顔を向けた瞬間、リィェンは狼に斬撃を浴びせた。
「相変わらず無茶な戦い方をするやつじゃな。かえったら鍛え直しじゃぞ」
 インは狼の残骸を見てため息を吐いた。
 リィェンは狼に関しての情報を仲間に連絡して伝えた。

「こっちに引き寄せたものの……お、大きい……!」
 美海は自分を睨みつける狼を見て目を見開いた。
「でも相手の注意を誘わないといけないからやるしかないね!」
 防御に優れている美海は、力強く頷くとコンユンクシオを強く握りしめライオットシールドを構えた。
「避難が終わるまで美海ちゃん頑張るよ!」
「俺もついてること忘れないでね。今回もみんないるんだし、一人で戦うわけじゃないんだから」
 クエスの言葉に美海は笑顔で力強く頷いた。
「えいっ!」
 狼が前足を縦に振りおろすが、美海はライオットシールドで攻撃を弾きコンユンクシオで切る。
「グゥ……」
 狼は後ろへ飛退いた。
「これなら美海でも倒せそうだよ」
「油断はしちゃだめだよ」
 余裕を見せる美海にクエスは言った。
「ガウッ!」
 再び狼が美海に向かって走ってきた。
「来るよ!」
 クエスの言葉に美海は頷きライオットシールドを構えたが、狼は美海の上を飛び越え背後に着地した。
「ど、どうしよっ!」
「後ろに向かって剣を振って!」
 美海はクエスの言葉通りにコンユンクシオを後ろに向かって横に振った。
 剣を横に振った勢いで狼の頭部は横に吹き飛んだ。
「や、やった!」
 少し時間は掛ったが確実に狼を倒した美海は歓喜の声を上げた。
「まだ油断はしたらだめだよ。狼は他にもいるから探しに行くよ」
「そうだね」
 クエスの言葉に美海は頷いた。
「あれ? 声が聞こえるよ?」
「逃げ遅れた一般人かもしれないね。行くよ」
 美羽は声のする方へ向かった。
「あー、速攻で帰りたいのは分かるがな、まだはぐれてる奴いるかもしれんし?今ソッチに行くと囮してる仲間の方に行くわけでつまり的に襲われるぞ。 ……ま、なんだ。下手に動かれて襲われても守り切れんもんで、きっちりついてきてくれると助かるねぇ……俺の見える位置にいる限りは、生命の安全は保証してやる」
 気だるそうな声と女性の声が聞こえた。
「こんな危ない場所からさっさと私は出たいの!」
 苛立ってる様子で女性は声を上げた。
「叫ぶと狼が寄ってくるかもしれんぞ」
 ツラナミがため息を吐きながらそう言うと、女性は「ぐっ」と言葉を詰まらせた。
「美海も護衛しますね」
 居合わせた美海はツラナミにそう申し出た。
「ま、まぁ、もう一人いるなら……大丈夫そうね」
 女性は美海を見て安堵のため息を吐いた。

●裏
 空が薄らと明るくなってきた並木道で橘、いや魔纏狼の足元には5匹の狼の死体が積まれていた。
「で、依頼主が怪しいってワケか……」
 真赭からの連絡を聞いた橘は神妙な面持ちで言った。
「俺には関係のないことだ。暴れる場を提供してくれるのなら、それでいい」
 魔纏狼は小さく鼻を鳴らした。
「そのせいで苦しむ人がいるって、分かって言ってンのかよ!」
 その言葉を聞いてムッとした表情で橘は声を上げた。

 ツラナミが救出した人達は、木に登ってた男の子が擦り傷を作った程度で他の数名は無傷だった。
「イヤだ! いってーよ!」
 エステルが擦り傷をケアレイで治そうとするが、注射でもされるんじゃないかと思った男の子が逃げ回っている。
 並木道周辺の捜索から帰ってきた美海は、その光景を見て微笑んだ。
 夜に起きた悪夢は爪痕を残した。飼い主があの様な事をしなければ、あの親子は死ななかっただろう。
 リィェンは、警察が運んでいる布で覆われた担架から視線を逸らした。
「おー! ねーちゃんすげーなー!」
 やっと男の子を捕まえたエステルは傷を癒したら、男の子は目を輝かせながらエステルを見つめた。

 その日のお昼、H.O.P.E.会議室に集まった6人はティリアを見つめた。
「今朝、調査で分かった事なのですが、ミレーレ様は偽名でありヴィランでした。私の不注意で皆様に迷惑を掛けてしまって申し訳ありませんわ……」
 ティリアは胸元で両手を握りしめた。
「誰でもミスはするわ。それはH.O.P.E.の職員であっても同じという事ね」
 エステルは、微笑みながら落ち込んでいるティリアの手を取った。
「ありがとうございます」
「内部への浸透は当然考えられる訳ですから上層部はもっと対策を考えるべきです」
 お礼を言うティリアを見て、エステルは思った事を口にした。
「それと、皆様の情報通り狼は従魔でしたわ。私は私で、ミレーレ様の事に関して情報を集めてみますわ」
「依頼人の拘束は?」
 リィェンの問いにティリアは首を横に振った。
「不可能です。確かな素性や本名は、この短時間では分かりませんでしたわ……」
 リィェンは拳を強く握り締めながら誓った。次に会ったら絶対に罪を償ってもらうと――……

 後日、H.O.P.E.本部にミレーレ名義で報酬と手紙が届いた。
 H.O.P.E.皆様へ
『今回の依頼をお受けしていただきありがとうございました。
 大変有用なデータを得られました。
 そのお礼にですが、報酬を多めに用意いたしましたのでお受け取りください。
 遠慮はいりません。その報酬は謝罪も込めていますので。
 ミレーレより』
 手紙からはクレマチスの匂いがした。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 信念を抱く者
    布野 橘aa0064
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646

重体一覧

参加者

  • エージェント
    豊聡 美海aa0037
    人間|17才|女性|防御
  • エージェント
    クエス=メリエスaa0037hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 信念を抱く者
    布野 橘aa0064
    人間|20才|男性|攻撃
  • 血に染まりし黒狼
    魔纏狼aa0064hero001
    英雄|22才|男性|ドレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
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