本部

隠された砦の三悪人

月桂樹

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/07 16:39

掲示板

オープニング

●隠された砦にて
 時代に取り残され自然に飲み込まれつつある古びた砦。
 城門は取り壊され、城壁にもいくつか大穴がある。
 幾人もいたであろう守人たちの代わりに、ツタが巻き付きゆらゆらと揺れる。
 しかし、この廃墟には灯がともっていた。
 そこでは、三つのヴィラン組織の連合についての話し合いが行われていた。
 実際、話し合いという上品なものではなかったが。
 一室の中には円卓があり、そこに三人が座っていて、その三人の背後に二人ずつが控えている。
 いずれも能力者であり、臨戦態勢を維持している。
 その中で、一番大柄の男が机をたたきながら豪快に言う。
「この三つの組織の力があれば、なにもこわくないぜ」
 それに応じるように、場違いなスーツ姿の男が応じる。
「まったくもってその通り。これで、新たなルートを構築することができる」
「お前はそればかりだな。これだけの力があってまず、金か」
 見下すように壮年の男が言う。
「金がなければ、組織は回らない。そんな原理も理解できないのか」
 それに応じるようにスーツの男が嘲りを返す。
 じんわりと殺気が漂う中、それをなだめるように大柄の男が声を出す。
「それにしても、今回の連合は利益が大きいと思わないか?」
 そうしてスーツの男、壮年の男を順に見ながら言う。
「お前が金を集め、お前が戦闘員を出し、そして俺が武器を提供する。」
 最後に自分を差しながら言葉を終える。
 スーツの男がうなずく中、壮年の男は不承不承という渋い顔をする。
 軽い咳払いとともに、スーツの男は引き継ぐ。
「それでは、今度はこの利権の分配についてですが……」
 悪党たちの悪巧みは古びた砦で続いている。

●某内某所
 薄暗い部屋にスクリーンがあり、そこには古びた砦が映し出されている。
 依頼の説明要員がスクリーンに一瞬影を映し出して現れる。
「それでは、依頼のご説明をいたします」
 パソコンを操作し、スクリーンの内容を切り替えていく。
「今現在、この砦にて三つのヴィラン組織の会合が行われています。皆さんにはそれに強襲をかけていただきます。そして三人の幹部の捕獲、それが困難な場合は殺害が主な目的となります」
 スクリーンには三つの幹部の顔写真が映し出されては切り替えられていく。
 その下には違法薬物の密輸や犯罪組織の傭兵、武器の横流しとそれの売買などそれらの組織が関わっているであろうことが映し出される。
「作戦領域はこのイエローストーン砦を中心とした領域です。イエローストーン砦は今現在は放棄され、補修されないまま風雨にさらされたことにより廃墟と化しています。イエローストーン砦の周りは深い森に囲まれ、一つだけ道があります。」
 スクリーンにはイエローストーン砦の歴史が映し出される。
「イエローストーン砦はそのあたりを支配していた豪族の砦であり、豪族が戦に敗れ最終的に豪族が立てこもる砦は包囲されますが、その豪族は透明にでもなったかのように包囲をすり抜け逃げおおせました。その後は放置されています。イエローストーン砦の建築には……」
 熱っぽく語る説明員を遮るように、咳払いがされる。
 我に返った説明員が少し顔を赤くをしながら続ける。
「今までにも何度もヴィラン達の隠れ家として機能していたようです。それと同時に違法な物資の貯蔵場所としても使われているようです。イエローストーン砦の名目上の所有者、先ほどの豪族の子孫ですが、からは今後このような事態が起きないように砦の解体に同意してもらっています。なので皆さんは周辺被害を気にする必要はありません」
 砦の画像から切り替わり、ヴィラン組織についての情報がスクリーンに現れる。
「ヴィラン達の戦力ですが、幹部自身は確実に能力者であり、彼らのボディーガードも能力者と思われます。それらの組織の動向から、総勢九人から十人ほどだと思われます。勿論、今のは能力者の推定人数であり、一般構成員は砦の周りで警戒に当たっていると思われます。能力者ではないとはいえ、発見された場合奇襲の利が消失しますので、奇襲を狙う場合は彼らにも警戒する必要があります」
 スクリーンが真っ白になり、部屋が明るくなった。
「最後に、能力者の到着は会合の最中になると思われます。真夜中での行動になりますので潜入では有利ですが、対象を見失うと発見するのは難しいというデメリットもあります。唯一の道は警戒が厳しいと思われるので、能力者の皆さんは途中から徒歩に切り替え、周りの森から接近することになります。以上、説明を終了します。ご健闘をお祈りしてます」
 それから改まった口調になった。
「私事ですが、個人的に写真を撮ってきていただける方はいませんか?」

解説

●目標
今回は古びた砦にいる犯罪組織の幹部の捕縛または殺害が目的となります。
●場所
砦はかつて豪族が最後に立てこもり、最終的に放棄され、廃墟と化してます。
砦は周りを森に囲まれ一つの道以外では車などは使えません。
敵能力者たちは会合の部屋に集まっています。
会合の部屋は元はダンスホールとして使われていたほどの大きさで入り口は二つです。
能力者は会合が始まって数十分後、真夜中に到着します。
●構成員
構成員は非能力者のヴィラン組織の一員です。
彼らは付近の森の巡回や砦の要所の警備をしています。
能力者と接触した場合、無線により連絡をします。
構成員は大概瞬間的に戦闘不能にすることができますが、多数に発見された場合などは連絡されてしまう可能性があります。
●ボディーガード
幹部が三人にそれぞれにボディーガードとして二人ずつ能力者がいます。
幹部のボディーガードたちは、戦闘経験が少ないため、平均的な能力者よりも弱いです。
幹部が戦闘不能状態に陥った場合、その組織の構成員、ボディーガードは統率を失い敗走します。
●幹部
三人の幹部の内、大柄の男は武器商人でありもともとはただの下っ端でしたが、能力者になったことでのし上がります。
その時の習慣で場の空気を読もうとし、戦闘時劣勢と判断したら逃走します。
戦闘力としては平均的な能力者と同等程度。
スーツの男は生粋の商人気質で、英雄と自身の二つの脳を生かし組織を拡大しています。
身に危険が及んだ場合、すぐに逃走を図ります。
戦闘力は平均以下です。
壮年男は能力者たちの傭兵を率いるリーダーであり、元退役軍人です。
彼と彼のボディーガードは日ごろから、様々な戦闘訓練を積んでいるため、平均的な能力者とは互角以上に渡り合えます。
●補足
ヴィラン達は車を砦の近くの場所に駐車しており、逃走時に使用します。
彼らがダンスホールを会議の場所として選んだのは、砦や城に付き物のものがあるからです。 

リプレイ

●暗闇の中で
 空を覆い、月を隠す木々。
 鳥のさえずりもなく、虫の音すら響かない森。
 その合間を、花を散し風すら追い抜かんばかりに駆ける一団がいた。
「廃墟の砦に潜入して大捕物か、腕が鳴るな」
 麻生 遊夜(aa0452)が相方に語りかけた言葉は音となって森に波紋を広げる。
(『……ん、こういう狩りは得意』)
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)がそれに応じる。
 遊夜には、耳をピンと立て尻尾をふるさまが容易に想像できた。
 装いは黒一色に染まり、まるで庭のように翔るさまは夜に溶け込んでいる。
 二人は気分良さ気に会話を続ける。
(『……ん、良い夜』)
「そうだな、俺達を隠してくれる…本当に、良い夜だ」
 そんな仲睦まじい二人とは対照的に、久遠 周太郎(aa0746)とアンジェリカ・ヘルウィン(aa0746hero001)は静かだった。
 周太郎はもともと無口なのに加え、出された仕事をただこなすだけという、淡々としてさっくりした心境がそれに拍車をかけていた。
 あるいは、周太郎曰く。
「騎士様って感じすぎて嫌」
 という共鳴状態の格好を厭って、不機嫌になっているだけかもしれなかった。
 早瀬 鈴音(aa0885)とN・K(aa0885hero001)は緊張感のない会話をしていた。
「隠し砦に三人。一人は良い奴だったりすんのかなー?」
(『なんなのそれ?』)
「気にしない、気にしない」
 冗談を切り上げると、説明員の依頼説明を思い出す。
 多分に説明員の趣味が入った無駄話の中に、拾うべき情報を見つけていたからだ。
(「お客様には教えられない勝手口って奴かな?」)
 ますます映画じみてきた舞台に主演女優のようにいいところを見せようと闘志を燃やしていた。
 一方、エステル バルヴィノヴァ(aa1165)と泥眼(aa1165hero001)は他の能力者とはモチベーションの置き所が違っていた。
 エステルは説明員と個人的に親交を深めていた。
「これはあなたが撮影したの? 綺麗な写真ですね。古城と言うのも良いものですね。俄然やる気が出てきました」
 説明員自慢の写真に魅せられていた。
 その結果、彼女の主な目的は古城の撮影になり、悪人たちはただの障害となってしまっていた。
「建物の損傷はああ言われましたけど最低限にしましょう」
 説明員からカメラまで借りて、彼女はいまだ見ぬ古城に熱意を向けていた。
 骸 麟(aa1166)もまた抜け穴の存在を予期していた。
「抜け穴かあ…里に居た時は山の抜け穴によく潜り込んで怒られたよな」
 宍影(aa1166hero001)が驚いたように答える。
(「潜り込んで? いや、麟殿の昔の事は知らぬがあそこは子供が入り込んで生き残れるような処では無かったような……」)
「だよな! 三歩歩く毎に何かしら罠が有ったもんな。いやー大変だった! 毎回大怪我して母さんに泣かれたよ! あれがオレの原点だな!」
(「爽やかに言う内容でも無い気がするでござるが……」)
 二人はその経験を生かして、抜け穴を見つけることを目指していた。
「今回のお仕事はヴィランズ幹部の逮捕、ですね。逃げられないようバッチリ捕まえちゃいましょう!」
と意気を燃やすのはアイアンパンクの唐沢 九繰(aa1379)だ。
 静穏歩行用にラバーソールを履き、外装を暗闇に紛れる黒いものに変えていた。
 それをエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)が窘める。
(「殺さず制圧が原則ですが、無茶はしないで下さい。わかっているとは思いますが、ククリの命も誓約の内です」)
 その念押しに義足を駆りたてながら、軽くうなずいた。
 一団の先頭は迫間 央(aa1445)とマイヤ サーア(aa1445hero001)が務めていた。
 罠に精通している二人が、先頭に立って道を指し示すことで、今までいくつかの罠を回避することができていた。
 森の中というのは罠の仕掛け場所が多い。
 ワイヤーは背の高い草に隠れ、落とし穴は落ち葉に埋もれる。
 それを見つけられてきたのは、鈴音と九繰のスキルによる暗視効果とひとえに二人の技量によるものだった。
「おい、そこは危険だ。気をつけろ」
 罠を見つけるたびに発せられる尊大な一言が一団を導いていた。
 一行の中で一際目を引くのは柳子・サマンサ・テイパー(aa1760)だ。
 彼女はどことなくこの粛然とした森と似つかわしかった。
「雪麗ったら本当に探検が好きね」
 腹部のあたりを愛おしげに撫でながら会話する。
「……ふふ。勿論ママも好きよ。……そうね。悪い人にはめっ!ですわね」
 楽しげに会話をしている瞳にはこの森より深い影が差しているように見えた。
「待て、光が見える」
 先頭の央が静止するよう言う。
 その視線の先には、ライトを持った人影が見えた。
 

●構成員の悲劇
 幾重にも仕掛けられた罠の合間を縫うように、ライトの光がさす。
 光に遅れて、何人かのしゃべり声が森に響く。
 突然光が地面に落ちる。
 ライトが落ちた軽い音の後に、次々と人が倒れる音が重なる。
 そして大きく闇が広がった中から、能力者たちが現れた。
 セーフティガスによって眠らされた構成員たちはそれぞれお互いに口裏合わせをさせないように分けて尋問された。
 その大体の模様は。
「静かに、な……騒ぐと指が滑っちまうぜ? 殺害許可は出てるんでな」
「待てまて、話せばわかる」
 悪役そのものの顔をしながら、これまた悪役っぽい台詞を吐く遊夜。
「くくく……骸毒針惨の恐怖味わって見るでござるか? 手足が腐り落ちるでござるよ」
「お、お、おい、分かった。話すから。やめてくれ」
 針をちらつかせながら、相手を脅す麟。
「おい、俺達を嵌めようなんてつまらない真似は考えるなよ? 少しでもおかしな素振りを見せればお前を殺して他の奴を使う。大人しく協力すればその後の扱いには口添えしてやるさ」
「ひぃ。待ってくれ。俺が知ってることは言うからさぁ」
(『……央、今の本気?』)
 マイヤが本気どうか尋ねるほどの迫力を見せた央。
「ご機嫌よう貴方の秘密、共有させて下さいませ。例えば……会場や送迎車は何処か御存知? 教えて下されば悪い様に致しませんわ」
「何で俺ばっかりこんな目に……」
 優しく頬をなでて微笑みかける柳子。
「これは俺たちの出番はねぇな」
 いつでも武器を出せるようにして見守っていた周太郎が言った。
「あれは主役っていうより、悪役だねー」
 鈴音が自身の感じたことを率直に言葉にする。
「皆さん、すごく楽しそうですよね」
 気の毒そうに九繰が口にする。
「できれば、写真を撮るにはどこがいいか訊いてみたいですね」
 エステルが言った。
 情報を搾り取れるだけ取ったと判断した能力者たちは、構成員たちをそれぞれのやり方で拘束し、立ち去って行った。
「あら私、良い様にとも申しておりませんわ」
 最後に柳子がその言葉を残したのを最後に、森は再び静寂に包まれた。
 その後、三つの組織の中で情報格差があるのではないかという遊夜の提案で、手ごろなところにいた新たな一団が被害者となった。
 勿論、それは先ほどとは別の組織の一団だ。
 その狙いは的中していた。
 スーツの男は情報の管理について神経質であり、構成員たちにも情報が隠蔽されていた。
 一方、大柄の男は部下の顔色を窺うところがあり、様々なうわさという形で情報が出回っていた。
 その結果、様々な情報が能力者たちに伝わった。
 壮年の男の組織は、能力者だけの組織であり、構成員たちは二つの組織が人員を出し合うという形だった。
 その中には、隠し道の存在をほのめかすものや幹部の逃走用の車両置き場まであった。
 意気揚々と立ち去った能力者たちの後には、これまた悲惨な構成員たちが残された。


●砦に現着
 深い森を抜けた先には、月明かりと幾つかの人工の明かりに照らし出された砦があった。
 外壁は苔で覆われ、巻き付いているツタが妖しげに揺らめく。
 木と近いところでは、石と石の隙間に木の根が入り込み、所々から根が飛び出す。
 人に忘れられ、自然に隠された砦だった。
 およそ文明とは縁がなかった砦にも、今夜ばかりは火がたかれ、人影が外壁に映し出されている。
 壁の大穴を警備する構成員たちはセーフティガスによって眠らされ、それを逃れたとしても無線機を先立って破壊された。
 構成員達は助けを呼ぶ暇すらなく、制圧されていった。
 それに尋問で聞き出した情報が一役買っているのは言うまでもない。
 砦では以前、沈黙が守られている。
 火の爆ぜる音に足音が混ざり、外壁に映る影が突然倒れたとしてもそれは変わらなかった。
 無事に現場に到着した能力者たちは、三つの集団に分かれた。
 一、二班は入り口の二つから同時に突入する。
 第三班は逃走車両付近での待ち伏せと隠し通路の探索が主な目的だった。
 それぞれの役目を果たすため三つの集団が動き出す。
 相互に連絡を取り合いながら無事にダンスホールの入り口に陣取った一班と二班の能力者が第三班の待ち時間の間に最後の作戦会議が行われていた。
「それじゃあ突入の段取りを確認しましょうか!」
 九繰が元気よくり切りだす。
「まず、遊夜様がフラッシュバンをお使いになられるのですわね?」
 妖しげな笑みを浮かべながら、色っぽい柳子の声が続ける。
「そうだな。相手からしたら寝耳に水だ。まず、不意をつけるはずだ」
 遊夜が嘯く。 
「そうしたら私と久遠さんが先陣を切って突入します!」
 再び元気よく九繰が言った。
「せいぜい、こっちに気を引いてやるか」
 戦闘間際だというのに、落ち着いた周太郎が言う。
「その間にわたしと麻生さんが照明を壊すんだよね?」
 鈴音が何時ものぶっきらぼうの話し方とは打って変わって、無理して丁寧に確認する。
「この暗闇を利用しない手はないからな」
 遊夜が応じる。
 外は未だ日が昇らず、夜のとばりに覆われている。
 人工の光がなくなった場合、照らすのは原始から続く月光だけだろう。
「こっちはわたし達がライトアイを使うから影響ないからねー」
 緊張を吹き飛ばすかのように、軽い感じで鈴音が答える。
「ところで、ヴィラン達は捕縛ということでいいでしょうか?」
 エステルが話を変える。
「いいんじゃねぇか? 生かしといて逃げられたら、そん時また俺たちが稼がしてもらえばいいんだからな」
 周太郎が答える。
「そうですわね。死人に口なし、生きていてくださった方が情報が引き出せますわ」
 柳子も同意見のようだ。
「ヴィラン達が文明の価値を理解しているといいのですが……。あ、何でもありません」
 エステルがぼそっとこぼす。
 そうして、様子を窺っている間に、第三班も逃走車両付近を発見し、走行できないようにパンクさせることに成功していた。
 央は逃げてくる方向などに目星をつけ、不意をつけそうな場所に潜んだ。
「後はここで狸どもがあぶりだされてくるのを待つだけだ」
 麟は逃走車両付近を探索していた。
 逃走車両を止めている場所には、隠し道の出口があるというあたりをつけていたからだ。
 麟の読み通りそれはあった。
 巧妙に痕跡を隠蔽していたが無作為に探すのでなく、このあたりに目星をつけていた二人の目から隠すことはできなかった。
 抜け穴に入ると、その先は通路になっており、まだ新しい足跡が残っている。
 他の出口につながる通路を探しながらそれを辿る。
 通路があった場合、それを壊そうと考えていたが、どうやら杞憂だったらしく、一本道だった。
「何だよ、罠の一つもないのか。拍子抜けだ」
(「そこは残念そうにするところではない気がするでござるが……」)
 そうやって進んでいく間に、携帯の電波は途絶え、九繰の提案で用意された無線にも雑音が混じりだす。
「オレのことは……、先に……。狐疑逡巡ってな……」
 その言葉を最後に無線が切れた。


●奇襲
 スーツの男が手際よく進行をし、会合は滞りなく進んでいた。
 何時間も続いた話し合いも終わりに近づき少しばかり場の空気が緩んだその時、何の前触れもなく始まった。
 二つある入り口のドアが蹴破られ、フラッシュバンが投げ込まれ、それに続く形で能力者達が飛び込む。
「H.O.P.E.だ、大人しくお縄につきやがれ!」
 その場にはいないはずである侵入者の声がダンスホールに響く。
 大半の者が唖然としている中、壮年の男のみが反応していた。
 素早く卓を倒すとそこに倒れ込むように伏せ、閃光をやり過ごす
 次の瞬間には、光がダンスホール内を駆け巡り、鋭い光が容赦なく網膜を焼いた。
 その閃光に紛れるように能力者達が戦闘を開始した。
 さらにその混乱が収まりもしないうちに、今度は部屋に銃声と矢の風切音が響く。
 その音はシャンデリアや照明に向けられ、正確無比に撃ちぬいていく。
 シャンデリアが大きく揺れ壁にぶつかり騒々しい音を立てるころには、部屋は暗闇に包まれていた。
 一転、二転、三転していく状況の変化に呆然としているヴィラン達を能力者達が襲う。
 九繰と少し遅れて周太郎がそれぞれの相手に接敵する。
 九繰は閃光の光を顔を伏せてやり過ごすと壮年の男のそばで唖然としているボディーガードに、前進する推力を力に代えフルスイングをとばす。
 風を逆立たせるほどの一撃。
 それを壮年の男が舌打ちしながら庇う形で受ける。
 小風が枝葉しか揺らせず、大木は悠然としているように壮年の男は微動だにせず刀で受けきる。
 追撃する形のエステルの攻撃を刀で軽く受け流しながらもボディーガードを庇える位置を維持する。
 壮年の男に立ちはだかる九繰とエステル。
「あなたの相手は私たちです!」
「なるべく早く終わらせたかったのですが、この方は手強いようです」
 それとほぼ同時に周太郎が動き出す。
 普段のクールさとはかけ離れた気合の一声と共にライヴスを纏わせた一閃を放つ。
「オッラァーッ!」
 ライヴスにより眩いばかりに輝いている武器は、数多の魔物を切り伏せ、幾多の人々を救った御伽噺の騎士の剣を体現していた。
 残光を残しながらも敵を両断せんとする勢いに大柄の男は吹き飛ばされながらも、空中で器用に回転し体勢を立て直す。
 二人の攻撃に続くように、飛来するものがあった。
「……無駄な抵抗だと思うんだがな」
 暗闇に紛れ闇そのものと見間違わんばかりの遊夜はその言葉を実現させるために矢をつがえ、放つ。
 遊夜の威嚇射撃を隠れ蓑に鈴音がスーツの男に接近する。
 スーツの男は風切音に惑わされ、暗闇の中に響く鈴音の足音に気付かなかった。
 相手とは違い、昼同様に見える鈴音が闇の中で右往左往するスーツの男の表情を見れるほどの距離から放つスピードが乗った槍の一撃。
 周りにいたボディーガード達ですら反応できないほどの速さは雷じみており、ただの一撃を必殺に変えた。
 鮮血が舞い、苦悶の声があがる。
 スーツの男の倒れる体を遮るようにボディーガードが即席の壁を作りだし、その間にもう一人がスーツの男を回復させる。
 開いた傷がふさがり、血色がよくなったスーツの男は周りをさっと見回すと、突然ボディーガードを鈴音の方に突き飛ばし、壁に向かって走り出した。
 スーツの男にとってここでの戦闘はあり得なかった。
 この会合がばれている時点で他の幹部の中に裏切り者がいると確信したからだ。
(「軍人気取りの時代遅れか、能無しの小物か。どちらにしろこちらをはめた借りは高くつくぞ……」)
 壁の一部に手を伸ばし体重をかけると男の前の壁が自動ドアのようにまわりだし、スーツの男は隠し通路にきえた。
「ごめんあそばせ。一曲ご一緒して下さいな。踊り狂いましょう?」
 柳子は舞踏会に招待された淑女のように一礼して微笑む。
 その笑顔の美しさが惜別の笑みであることに気づいたものはどれほどいたか。
 大窓から差し込んでいた月光が隠れ、完全な暗闇になった空間に新たな光源が生まれる。
「貴方方の罪全て跡形なく焼くことが出来ればいいのに」
 炎は突然生まれ大柄の男とボディーガード達を優しく包み込む。
「チッ魔法使いか、厄介な。」
 前触れなく現れた炎の元凶を察知した大柄の男は、火の玉になりながらも大きく踏み出し、柳子との距離を詰める。
 されど大きく振り上げたこぶしが突き刺さることはなかった。
 常人では決して間に合わないタイミングで動き出した周太郎が、守ることこそが真価とばかりに大きく盾を構え、割って入った。
 金属のガントレットと盾の衝突音が一際大きく響く。
 お互いに相手を押しつぶさんとばかりに込められる力。
 金属同士の耳障りな雑音と共に、火花が散る。
 その合間に周太郎の声が響く。
「お前等だって肉盾ってぇのは用意するだろ……。こっちに無ぇと思うなよ」
 
 戦闘は能力者有利で進行していた。
 ヴィラン達の対応は後手後手に回っている。
 ライトを持ち出そうとすると撃ちぬかれ、逃走しようにも能力者達の壁を越えなければならない。
 異常状態にするスキルもスーツの男の逃走により比較的余裕のある鈴音に治療され、さらにスーツの男のせいで隠し通路の位置まで把握されている。
 今や場の人数は逆転していた。
 劣勢であるヴィラン達の中で一際激しい戦闘を繰り広げていたのは、壮年の男だった。
 刀は残像すら霞み斬撃を生み出す。
 九繰が持ち前のタフさで耐え忍び、能力者中最も防御力が高いエステルが何とか戦線を維持している。
 壮年の男とボディーガード達との息の合った行動は波のように押し寄せては確実に削っていった。
 砂上の楼閣が崩れる時は近い。
 周太郎のカバーリングや九繰とエステルが隙を見て使うケアレイによって何とかしのいでいる状態だった。
 しかし、能力者達に更なる追い風が巻き起こる。
「ふふふ……闇あるところに忍びあり。この骸一党の麒麟児が居る限り逃れられると思うなよ!」
 スーツの男を通路内でやり過ごした麟が隠し道の入り口からあらわれる。
 神風を引き連れ、月明かりに髪を濡らした様は手に持つ弓と矢という武器も相まって、絵画から抜け出してきたかのように華麗だった。
 そして、そのイメージを裏切らない流麗な動きを見せる。
 麟の登場で厚みを増した矢玉がヴィラン達の動きを制限し傷つけ、月明かりに煌めく武器はヴィラン達に手傷を負わせる。
 矢からボディーガードを庇うために大きく距離を取った壮年の男を尻目に、エステルがライヴスでメスを作り出す。
「あなた方には教育が必要なようですね」
 即席の執刀医となったエステルが患者に執刀する。
 大柄の男を庇ったボディーガードに傷跡を残しそのまま出血させ続ける。
 場の劣勢を感じ取った大柄の男は周太郎がカバーリングを行ったタイミングで行動を起こす。
 意表をついて隠し通路ではない方の壁に走り出した。
「そいつ逃げるよ!」
 という鈴音の呼びかけに応じる形で遊夜の狙撃が足を縫い付ける。 
 そうして足が止まったところを柳子が魔弾で足を狙い撃つ。
「赤い靴は踊るのですよ。意思に反してくるくると」
 自慢の機動力を失った大柄の男は集中攻撃を受け、大柄の男がふらついた機を逃さず周太郎がライブスを纏って殴りつける。
 刀が光を失ったころには大柄の男は吹き飛ばされ壁にめり込まんばかりにたたきつけられ意識を失った。
 壮年の男はその状況にも不敵に笑うと、軍靴を高らかに鳴らし踏み出す。
 少なからず傷を負っているにもかかわらず、その足取りに乱れはない
 引きずられるように繋がれているようにボディーガード達も踏み出す。
「あなた方の治癒手段を持って居るのは我々だけです。降伏して下さい」
 エステルが一番現実的な選択肢を勧める。
「我々の後ろには屍しか残らない。そして、前には敵しかいない。」
 風を置き去りにして壮年の男が踏み込む。
 ボディーガード達もそれに遅れまいと突っ込む。
 その様は切っ先を壮年の男とした一つの刃のようだった。
 剣閃は暗闇の中にいくつも花開き散っていく。
 火花はとどまることを知らずそれどころかさらにスピードを増し衝突音でホールが埋もれる。
 エステルと九繰がそれを真っ向から受けきる。
「お待たせ致しました。加勢致しますわ」
 柳子のウィンドが壮年の男を襲い、相手の目測を大いに狂わせ、鎧を風化させる。
「随分時間を浪費してしまいましたが、あなた方は瀕死です」
 二たび生み出されたメスが壮年の男を切り刻む。
「悪いね、俺素人でよ。……あんた等が相手にしてきたプロの奴らに通じる読みは通らねぇぜ。プロ特有の常套手段が効くほど、俺の手元にゃカードはねんだよ」
 周太郎が愚直に繰り返した攻撃は、確実に壮年の男の動きを弱らせる。
「骸飛仙弾!」
 燐の矢がつむじ風のごとく暴れまわっていたボディーガードを射抜く。
「最後は主役が勝たないとね」
 鈴音の銃弾が壮年の男の止まることのない勢いを削り取る。
「最後の仕上げだ」
 遊夜の矢が刀の結界を越え壮年の男に届く。
「これで、終わりです!」
 九繰が勢いを殺された壮年の男の間合いに踏み込むと、この争いに終止符を打った。
 失速した壮年の男はそのまま倒れた。
 近くに転がる銃弾を眺めながら、独りごちる。
「昔はこれが生と死を分けるものだったが、時代は変わった。私も、老いるはずだ」

 
●車両置き場にて
 スーツの男は長い隠し通路を抜け車両置き場に向かっていた。
 そして車両置き場についた瞬間、自身の体が重くなるのを感じた。
 影が地面と縫われたように。
「あーぁ、お恥ずかしいったらありゃしない。まるで炙り出された狸だな」
 央が心底見下したような様子で茂みから出てくる。
 驚愕の表情のままかたまっているスーツの男を見据えながら、これみよがしに無線を取り出す。
「二次会……」
 スーツの男は連絡をさせまいと無線を撃ち抜く。
 勝ち誇ったようなスーツの男に構わず連絡を続ける。
「二次会始まってるぞ、早めに頼む」
 訝しげなスーツの男に今度は通話中になっていたスマホを見せびらかした。
 凍りついた表情のスーツの男に央は見下げ果てるような視線と銃口を向けながら言った。
「狸の浅知恵程度が通用すると思ったか?」
 その後足止めに専念した央からスーツの男が逃げられるはずもなく、時間だけが立ち、ダンスホールの能力者達と合流し無事取り押さえられた。


●砦の撮影会
 ヴィラン達を引き渡し無事に依頼を解決した能力者達は説明員のために写真を撮ることにした。
 森の中のヴューポイントや堀などの外郭の外など様々なところからの写真が撮られた。
 この撮影会に並々ならぬ情熱を燃やすエステルが指揮を執り、マニア垂涎の様々な写真を撮影会に協力していた、遊夜と柳子にアルバムとしてまとめられた。
 思う存分、写真を撮影したエステルは感慨深げに泥眼と話していた。
「滅びゆく、その前の一瞬にしか宿ることのできない美も存在するということですね」
「……エステル」

●余談
 後日、遊夜、柳子、エステルの三人がアルバムを渡しに行った。
「我ながら良い出来、だと思うぜ?」
 それを見た説明員は眼を輝かせた。
「本当に撮ってきてくださるなんて、ありがとうございます。国破れて山河あり、城春にして草青みたり。廃墟というのは、それだけで趣深いものです。この趣味を分かってくれる人がいるなんて感激です。そうだ、皆さんもぜひ、私が主催する悠久を探究する会に入ってはいただけませんか?いや、入っていただけますよね?いやいや、入るべきです。」
 そうして、悠久を探究する会にメンバーが増えたとか増えなかったとか。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 希望の守り人
    久遠 周太郎aa0746
    人間|25才|男性|攻撃
  • 周太郎爆走姫
    アンジェリカ・ヘルウィンaa0746hero001
    英雄|25才|女性|ブレ
  • 高校生ヒロイン
    早瀬 鈴音aa0885
    人間|18才|女性|生命
  • ふわふわお姉さん
    N・Kaa0885hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 悠久を探究する会栄誉会員
    柳子・サマンサ・テイパーaa1760
    人間|29才|女性|攻撃



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