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Be Cool,Be Stylish!

雪虫

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~15人
英雄
8人 / 0~15人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2015/12/03 12:17

掲示板

オープニング


「戦闘のモデル……ですか?」
「ええ、ぜひお願いしたいんです!」
 戸惑い気味のオペレーターに、カメラを首から下げた青年は拳を握って力説した。 
「H.O.P.E.に所属するエージェント達の活躍は常にチェックしているんです! テレビ、新聞、雑誌、ネット……もちろん、こうやってカメラやビデオを持って撮影に行く事もあります! けれど、近付ける距離には限度があるし、全てを収める事は出来ないんですよね……。そこで! 直にリンカー達にお願いして、彼らの華麗な戦闘の様子を近くで撮影させてもらおうと思ったんです。お願いします。お金なら当然お支払いします。僕にリンカー達を近くで撮影するチャンスを下さい!」
 そう言って、青年は深々と頭を下げた。オペレーターはひたすら困った表情を浮かべていた。


「というわけで、君達にはモデルをお願いしたい。依頼主は小橋晴太という青年で、大学では美術を専攻しているらしい……リンカー達の戦う様を作品の参考にしたいのだそうだ。まあ端的に言えば『戦闘訓練の様子を間近で見学させて欲しい』だな。もちろん、彼の要望を無視して、自分の立ち回り方や仲間との連携、敵や地形の特性をどう利用するかなどの練習に徹しても構わない。
 だがまあ、彼はつまり『リンカーのファン』だ。ヒーローとしての君達の姿を期待している。攻撃をギリギリで避けて、敵の腕を駆け上がって反撃する……みたいな、な。大学生ゆえ報酬はあまり期待出来ないが、乗るか反るかは君達次第だ」
 オペレーターは言葉を切ると、伺うようにあなた方に視線を向けた。あなた方から少し離れた所にある椅子の上では、小橋晴太が憧れのリンカー達にキラキラとした視線を向けていた。

解説

●依頼内容
 晴太「ただひたすら華麗に、カッコよく、スタイリッシュに戦って頂くだけのお仕事です!」

●マップ情報
 H.O.P.E.の訓練場。7×10スクエア。フィールドが何種類かあるが、今回は「時折風の吹く岩だらけの荒野」で固定とする。岩は破壊すれば割れる/岩の修復費については考慮する必要なし。

●ダミーエネミー情報
 ダミーアーマー
 訓練用に用意されているライヴス駆動のロボット。速さや動きをプログラムする事が出来る。防御力は高いが攻撃力がない(従魔や愚神にはダメージを与えられない)、訓練場以外では制御出来ないため実戦に登用するのは不可能。高さ3メートル程の、巨大な剣と盾を携えた鎧姿の騎士の姿をしている。希望があれば四体まで増やす事が可能。なお普通の人間がダミーアーマーの攻撃を受けるとダメージを受ける。
・ソードアタック
 剣を敵に叩きつける。
・突進
 前方に突進する。
・シールドヒット
 盾で攻撃を防御する。

●依頼人情報
 小橋晴太
 大学で美術を専攻している青年で、リンカー達の大ファン。絵を描いたり木像や石膏像を作ったり版画を作ったりと色々手を出しているらしい。

●所持品
 装備アイテムのみ持ち込み可。

リプレイ

●Aspire Boy
「なんか……すげぇキラキラした目でこっち見てるな、晴太君」
 柏崎 灰司(aa0255)は呟くと、キラキラした目でこっちを見ている青年、小橋晴太へと視線を向けた。灰司の言う通り晴太は、それは眩しい視線で憧れのリンカー達を見つめていた。そして灰司の隣では、同じぐらいキラキラとした目でリンカー達……ではなく別の物に視線を向ける少女がいた。
「ふあぁ……すぎょ、すごいのさこのロボット。ティアが好きなヒーローものに出て来そうな佇まい……最高なのさー」
 ティア・ドロップ(aa0255hero001)は若干噛みながら、しかし晴太に負けぬ程にキラキラとした目で訓練用ロボット、ダミーアーマーの姿を四方八方から眺めていた。ロボットが動く度に「はぁぁぁ」と感嘆の悲鳴を上げるティアの横を通り過ぎ、大宮 朝霞(aa0476)は晴太の元へと歩いていくと、幅広の帽子の下から人懐っこい笑みを浮かべた。
「はじめまして。私はH.O.P.E.所属のエージェント、大宮朝霞です。こっちは私の英雄でニクノイーサ。よろしくお願いしますね。ヒーローって事なら任せて下さい。カッコよく決めますよっ!」
「は、はい! よろしくお願いします!」
 晴太は朝霞とニクノイーサ(aa0476hero001)の姿を認めると、上擦った声で頭を下げた。その一方では虎噛 千颯(aa0123)が、友人である御神 恭也(aa0127)の仏頂面を覗き込む。
「恭也ちゃんがこういう依頼入るなんて意外~。やっぱヒーローとかに憧れる系?」
「……最近、家の英雄が勝手に依頼を受けて困る」
「伊邪那美殿もすたいりっしゅに決めるでござる?」
 白虎丸(aa0123hero001)は呟くと、自分の腰程の背丈もない少女へと視線を下ろした。伊邪那美(aa0127hero001)は遥か高くにある白虎の被り物を見上げると、拳を握り締めながら勢い込んで口を開く。
「そう、すたいりっしゅに決めたいの! ね、恭也」
「俺の戦い方は人様に誇れるものでは無いのだがな……」
「オリヴィエ殿もこういうのは興味があるでござったか?」
 白虎丸の問いに対し、今度はオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が、十歳の外見には似つかわしくない不愛想な表情で口を結んだ。そんなオリヴィエの横で木霊・C・リュカ(aa0068)が、対照的な穏やかな笑みで答えを返す。
「どんな素敵な物語があるのかと思ってね。折角依頼人の要望もある事だし、ビシッとクールに決めたいよね!」
「……クール?」
「クールって、カッコよくって事だよね! そう、それ思ってた!」
 訝し気に呟いたオリヴィエに、モニカ オベール(aa1020)が元気いっぱいに割り込んできた。いつもながらに元気な様子の相棒に、ヴィルヘルム(aa1020hero001)が渋い声で意外そうに問い掛ける。
「なんだ、そういう趣味もあったのか?」
「そうじゃないよ。あたし達の身体能力、普通に戦っても強いけど、それ活かして映画のヒーローみたいに動けたら幅が広がるなって思ってたんだ」
「そりゃ面白いな、練習させてもらおうってワケか」
 依頼に対し思い思いの感想を述べる一同の横で、浪風悠姫(aa1121)は目を輝かせてリンカー達を見つめる晴太の姿を眺めていた。方向は若干違えども、ヒーローに憧れているという点では共通したものがある。
「ここでしっかりとヒーローアピール出来るといいな!」
「本来ヒーローは自分の力をひけらかしたりはしないんだがな……」
 両手を握り締める悠姫に対し、須佐之男(aa1121hero001)は溜め息混じりに言葉を吐いた。そんなリンカー達に向かって、テスト駆動を終えた職員が声を掛ける。
「よし、それでは最初の訓練者以外はシステム室に入ってくれ。なお、ダミーのレベルは稼働台数と参加人数によって調整させてもらう。それでは大宮朝霞、ニクノイーサ、前に」
 職員の声に従い、朝霞とニクノイーサ以外はシステム室へと入っていった。そんな中、言峰 estrela(aa0526)が、訓練場を一瞥しにやりと不敵な笑みを浮かべる。
「ふーーーん、ダミーとかっこよく……ねー?」
「私はマスターの命令に従うのみだ」
 キュベレー(aa0526hero001)はエストレーラの言に淡々と答えを返しながら、やはりにやりと不敵に笑った。若干二名が不穏な空気を漂わせる中、「ただひたすら華麗に、カッコよく、スタイリッシュに戦って頂くだけのお仕事」は始まった。

●Beautiful Girl
 1対1の勝負を希望した朝霞は、訓練場の中央へ相棒と共に足を進めた。目の前には1体の鎧騎士が、冒険者を待ち受ける守護像のごとく立ち尽くしている。
「正々堂々、1対1で勝負よ!」
「こっちは朝霞と俺で2人だがな」
「変身した後の話だもん! 私とニックは2人で1人、1対1で合ってるわよ」
「そうか、朝霞がそう言うなら、そうなんだろうな」
 朝霞は相棒に「そうそう」と頷き、窓越しに自分達を見つめる依頼人を一瞥した。そして、今一度立ちはだかるロボットへと視線を戻す。
「小橋さんの期待に応えるためにも、ここはいつもよりカッコよく変身よ! へん☆ しん☆ ミラクル☆ マジカル☆ トランスフォーム!!」
 朝霞は華麗かつ機敏な動作で幻影蝶に右手をかざした。瞬間、幻影蝶から蝶のような光の群れが迸り、朝霞の体を包み込む。白とピンクを基調とした●塚のような衣装、華麗に翻るスカートとマント。バイザーの下に隠れる瞳で敵にウインクし、びしりと指を突き付ける。
「聖霊紫帝闘士ウラワンダー参上! さぁ、存分にかかってこい!」
『……いつも以上に恥ずかしい動きになってるぞ』
 ニクノイーサはいつも通り突っ込んだが、『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』(自称)が聞かないのもやはりいつもの事だった。目を光らせ、突進してきた鎧騎士に、朝霞はひらりと攻撃を躱す。
『どうした朝霞、防戦一方だな』
「演出よ。ヒーローは最初は苦戦して後から逆転するモノなの。視聴者をハラハラドキドキさせるのがセオリーよ!」
『さっきから俺がハラハラドキドキしてるんだが。調子に乗って攻撃を喰らうなよ?』
 攻撃を避けられた鎧騎士は、しかし間髪入れずに敵目掛けて弾丸のごとく突っ込んできた。それを朝霞は左右に飛んで躱し続け、隙を見て両手にフェイルノートを出現させる。
「あなたの攻撃は見切ったわ! さぁ、反撃よ! ウラワンダー☆ アロー!」
 朝霞はウインクしつつアーマーに狙いを定めると、その顔面目掛けて洋弓の矢を打ち放った。鎧騎士が怯んだ隙に、攻撃を誘発させるためわざと眼前に躍り出た朝霞に、ダミーアーマーが叩き潰さんと手にした剣を振り下ろす。朝霞はそれをステップだけで避けるとダミーアーマーの腕に乗り、駆け上がり肩を踏み台にして宙高くへと舞った。そして、鎧騎士の頭上に踵落としを叩き込む。
『朝霞が肉弾戦? 効果あるのか?』
「愚神相手じゃないからね。見映えがよければ実際ダメージ通ってなくてもいいのよ」
 内緒話をしながらライオンハートを手にした朝霞は、ふらついた様子を見せる鎧騎士の剣と盾の狭間に斬り込んだ。そしてトドメを刺すべく、周囲にライヴスのメスを出現させる。
「ウラワンダー☆ スラーッシュ!!」
 正式名称、ブラッドオペレートを喰らったダミーアーマーは、目から赤い光を失い完全に動きを止めた。共鳴を解き、ポーズを決める朝霞に千颯が熱烈な声援を送る。
「朝霞ちゃん今日もウラワンダー決まってるね! 格好良いよ!」
「ニック殿は今日もお互い苦労が絶えないでござるな」
「ビュ、ビューティフルです! こんな華麗な戦いをこんな近くで見られるなんて……」
 白虎丸の哀愁漂う呟きに、しかし晴太は聞こえていないらしく感極まった声で呟いた。完全に見入っていたようで、当初は構えていたはずのカメラは首にぶら下がったままになっている。
「訓練終了。それでは次、御神恭也、伊邪那美、前へ」
「さあ、恭也。頑張って行くよ!」
 名前を呼ばれた伊邪那美は、意気揚々と訓練場へと歩き始めた。恭也も渋い表情を浮かべながら、しかし隙のない足取りで訓練場へと入っていった。

●Cool Guy
 恭也の見せた戦いは、実に静かなものだった。音を奪う術が掛けられたのではと錯覚しかねない程に。1対1からのスタートを希望した恭也は静かに眼前の敵を見据えると、ダミーアーマーの振るう剣を上体の動きだけで躱して見せた。そのまま、まるで散歩にでも行くようなゆったりとした足取りで鎧騎士の懐に滑り込むと、瞬時に出現させたコンユンクシオを鎧騎士へと叩き込む。
『良いよ~恭也、このままズバット! と斬ってバス―っと倒すんだよ』
「アドバイスにしろ演技指導にしろ、擬音では無くもう少し具体的に話せ」
 1体目が攻撃を受けたのを合図に、さらにもう1体のダミーアーマーが訓練場へと投入された。最初の1体が剣を振り上げ、新たな1体が恭也目掛けて獣のごとく突進してくる。しかし恭也の動きは変わりはしない。突進をわずかな動作で避け、迫りくる剣を自身の刃で受け止める。そのまま刃を滑らせ攻撃を逸らし、騎士の腕を斬り飛ばさんと直剣を素早く振るう。無駄な修理を避けるため特殊加工されたダミーの腕を切り落とす事は叶わなかったが、鎧騎士の片腕は糸の切れた人形のように力なく垂れ下がった。
「ふむ、制限のある中での戦闘も意外に良い鍛錬になるな」
『いやいや、鍛錬じゃなくて人に魅せる為の動きをしてよ』
 伊邪那美の声を受けるように、さらに訓練場に2体のダミーが降り立った。4体の鎧騎士はそれぞれ剣を、盾を、己が巨体を構え、そのまま恭也を押し潰すかのごとく肉薄する。それら全ての攻撃を恭也は家伝の、暗殺術由来の身のこなしでゆるやかに一切の無駄なく躱すと、無骨な大剣を4体の胴に怒涛の、乱舞と呼ぶにはあまりにも華麗な舞いで叩き込んだ。最初の2体は動きを停止して後ろへ倒れ、残る2体の内1体に隙を与えずストレートブロウを打ち付ける。巻き添えを喰ってバランスを崩した最後の1体に、防御をかなぐり捨てた猛攻の一撃を。目から光を失った4体の鎧騎士の前で、恭也は己が演武と同じ静かな口調で呟いた。
「こんな感じで良いのか? 伊邪那美」
『う~ん、多分だけど良いんじゃないの』
「おー! 格好良いー! ヒューヒュー!」
 恭也と伊邪那美の疑問を解消するように、拳を上げて口笛を吹く千颯の姿が目に入った。いかにも若者風な千颯の様子に、白虎丸が諫めの声を上げる。
「千颯、チャチャを入れるのはやめろ」
「応援してるじゃん!?」
「ぐっ……リンカーのこんなカッコいい姿を間近で見られる日が来るなんて……」
 鼻を啜る音に一同が視線を向けると、晴太がハンカチを手に一人むせび泣いていた。そんな晴太の横で職員が事務的に声を上げる。
「終了だ。次はチームでやるんだったな。残りの十二名、前へ」
 職員の声に従い、残りのリンカー達は一斉に訓練場へと入っていった。その中に不穏に笑う人影が混じっている事に、気付く者はいなかった。

●Dangerous ×××
 悠姫は須佐之男と少し間を空けて並び立つと、眼前に立ち並ぶ鎧騎士達をその黒い瞳に映した。そして悠姫は敵に向かって拳を構え、須佐之男は祈るように胸の前で両手を合わせる。
「俺は悠姫!」
「我は須佐之男……」
「『リンクッ!』」
 叫びながら互いの拳をぶつけ合った2人を光の蝶が包み込み、そして光の中から1人の青年がその姿を現した。銀髪のウルフヘアーと黄金色の瞳をライトの下に煌めかせ、人差し指を上に向け、高らかに声を上げる。
「『俺が正義の執行者だ』」
 そしてそこから少し離れた岩の下では、灰司が何とも言えない表情を浮かべて佇んでいた。共鳴した悠姫の姿を涙を流しながら見ている晴太にちらりと視線を向けた後、ティアにこそりと声を掛ける。
(おい、大丈夫なのかこの岩の上。滑って転んだりしたらスタイリッシュどころじゃなくなるぞ)
(いいから、このマントをブァサーっと脱ぎ捨てて、水色の薔薇の花弁を舞い上がらせて「薔薇の騎士、参上!」って言うのさ)
(何だ、その薔薇の騎士っつーのは)
 ツッコミ所は色々あったが、突っ込んでいる暇など微塵もない。灰司は色々覚悟を決めると、ティアの指示通り颯爽と岩の上に立ち、マントをブァサーっと脱ぎ捨てた。同時に相棒と共鳴を果たし、水色の薔薇の花弁と共に、凛々しさ溢れる女騎士の姿で現れる。
「薔薇の騎士、参上!!」
「ゆ、夢みたいだ。思い描いていたヒーローの姿をこんなにたくさん見る事が出来るだなんて……」
 晴太の目の輝きはもはや人智を超えていた。もう少し押せば目からビームが出るかもしれない。
「あははははは!」
 突然、この世の全てを嘲笑うような少女の声が荒野の訓練場に響き渡った。見ればエストレーラが、笑みを浮かべ挑むように他のリンカー達を見つめている。
「そーんなかかしみたいなの相手にしたって面白くないでしょ? 本当のかっこよさって、戦いの中で自然に出てくるものじゃない?」
 そしてエストレーラはキュベレーと共鳴し、愛らしい容貌の、しかし禍々しさを漂わせるダークヒロインへと変貌を遂げた。向けられる明らかな戦意に戸惑いを見せたリンカー達に、キュベレーが侮蔑のように呟く。
『傷付くことが怖いのか? 臆病者め』
「敵として訓練に参加するという事か。禁止はしていない、そのまま続行!」
 職員の言葉に、5組のリンカー達は4体の鎧騎士と、敵としての参戦を宣言したシャドウルーカ―に視線を向けた。リンカー達の戦意を感じ取ったエストレーラは、愉快そうに笑みを浮かべる。
『クク、そうこなくてはな』
 エストレーラは呟くと「影を歩む者」の名に従うがごとく、鎧騎士の影に潜むように姿を消した。ダミーを操作出来る訳ではないが、流石に一人で相手にするには人数差があるというもの。ダミーを盾にしながら高い機動力と回避を駆使する、それが、悪役を選んだ彼女達の戦略だった。
「ま、仕方ないよね。とりあえず最後までかっこよく決めようか!」
 リュカは穏やかに笑むように言葉を漏らすと、しかし動きだけは微塵の隙なく鎧騎士へと狙いを定めた。スナイパーライフルの射程距離と鎧騎士の特性を鑑み、金木犀の瞳の狙撃手は敵の自由を奪うべく足元の岩を打ち砕く。
「ふふ、スナイパーっぽいね。それではモニカちゃん」
「了解!」
 フリークライミングで大きめの岩に取り付き、セルフビレイ(自己確保体勢)をとっていたモニカはリュカからの通信に片腕で自身を支えると、フリーになった手の内にクロスボウを出現させた。
「あのオーバーハング(突き出た岩)、脆そうだけど崩せそう?」
『クラック(割れ目)を狙えばあるいは』
 相棒兼師匠であるヴィルヘルムの言葉にモニカは「よし」と頷くと、神速の早撃ちをクラック目掛けて解き放った。トリオを乗せた片手弓の矢は見事裂け目に「大当たり」し、近くにいた鎧騎士へと岩のシャワーを注ぎ降らす。同時に崩落から逃れるため、ペグ(ロープを固定するための金具)を引き抜きつつ、ロープを握り反対の壁に乗り移るべく岩を蹴る。
『壁に叩きつけられるぞ!』
「分かってる、そのためのリンクでしょ!」
 モニカは降り注ぐ岩を掻い潜りながら背中から壁に受け身を取ると、すぐさま体勢を整え足場の確保に移行した。一方、悠姫はリュカとモニカの奇襲を十二分に活かすべく、精神をアロンダイトへ集中させ、重心を崩した鎧騎士の胴へと剣を鋭く一閃させた。三方向からの攻撃にバランスを失ったアーマーは、粉塵を巻き上げながら荒野の上に倒れ込む。
「ジャックポットが近接出来無いと誰が決めた?」
 静かに言い放つ悠姫の背後から、別のダミーアーマーがその巨大な剣を振るった。悠姫はそれをアクロバティックにバク転を繰り返して距離を開け、そこに千颯が颯爽と斬り込みグリムリーパーを振りかざす。
「Stylishって俺ちゃん超得意だし!」
『そんな事は初めて聞いたぞ……』
 白虎丸の呟きに千颯は楽し気な表情を消さぬまま、華麗な動作で鎧騎士を下から上へと斬り上げた。勿論カメラ目線に加え、Sexyな鎖骨と腹筋をチラリズムする事も忘れない。
『千颯、それは明白過ぎないか?」
「え? そんな事ないよ? 俺ちゃんいつも通りだし!」
 笑みつつアーマーの剣に鎌を滑らせるように入れ、少々大袈裟な程に音高く宙へと打ち上げる。同時にライオンハートを手にした灰司が横薙ぎにアーマーを叩き伏せ、巻き上がった砂塵が女騎士の水色の髪をなびかせた。
「あまり無様な姿を晒すわけにもいかねぇしな。攻撃が来たら華麗に避けて、防がれたら『ぶっ潰すぞ、テメェ……!』とか言えばいいのか」
『華麗な騎士なんだからそんな事言ったらダメなのさ! イメージダウンになっちゃうのさ!』
「あ、はい。わかりましたティア監督……」
『……遅い、遅過ぎる』
 闇から響くような声が灰司とティアの声を遮り、シルフィードを携えたエストレーラが灰司の前へと踊り出た。咄嗟に防御に出た灰司に対し、火之迦具鎚に持ち替えエストレーラが口元を吊り上げる。 
『耐えて見せろ』
 しかし、エストレーラの攻撃は目の前のリンカーには届かなかった。直前に同じく武器を変えた千颯が、ポルックスグローブをエストレーラへと連続で撃ち込んでいく。
「たまには違う武器も使わないとね!」
『拳は少し不得意だが、そんな事も言ってられないか』
 隙を見て今度はトリアイナを手にした緑白虎の武芸者は、相棒が最も得意とする槍術を乱雨のように叩き込んだ。さらに敵を追い込むべく、ライヴスのメスを出現させエストレーラへと撃ち放とうとする。しかし、その直前ジェミニストライクを発現させたエストレーラは、己が影と共に千颯へと一歩を踏み込んだ。迫りくるブラッドオペレートを躱し、分身と共にバトルメディックへと火神の戦鎚を振り下ろす。火の粉を美しく舞わせながら、バッドヒロインは禍々しくも蠱惑的な笑みを浮かべて見せた。
『何処を見ている?』
 衝撃に生じた粉塵から顔を上げたエストレーラは、もう一方の敵の自由を奪うべく縫止を放とうとした。ライヴスの針が放たれる、その動きを阻止せんと、射手の矜持を込めたリュカが必殺の一撃でシャドウルーカ―の肩を貫く。
「お兄さんがイケメン、なんてね。仕事人って感じでカッコよくない?」
「おー! リュカちゃん格好良いぜー! オリちゃんもセクシー!」
『だからチャチャを入れるなというに!』
「えー!? 応援してるよ! 俺ちゃん!」
「まずは目を、そしてそのまま命も摘み取る。これが俺の祝福だ、受け取れ!」
 悠姫は荒野に立つ残りの敵を見据えると、フラッシュバンを駆使して敵の視界を奪い、オートマチックを鎧の隙間にねじ込みストライクを撃ち放った。さらに背後を取ったモニカが、甲冑と兜の間を狙って同じく渾身のストライクを贈る。動きを止めた4体の鎧騎士が粉塵を舞い上がらせる中、灰司と千颯が自身の得物をエストレーラの首に突き付けた。さらにリュカの銃口が自分を狙っている事に気付き、エストレーラは両手を上げて共鳴を解く。
『チッ、この人数差でこの程度か。私も存外、言う程では無いな』
 駆け寄ってきた朝霞のケアレイを受けながら、キュベレーは不満気に呟いた。とは言っても言葉とは裏腹に、ある程度満足気な様子も見えなくはないのだが。
「結構いい汗かいた感じかしら?」
『ふん、これが演技ではなく本当の殺し合いだったのならばな』
「はいはい、じゃーオフロへれっつごー! もちろんキュベレーもね?」
『お前と付き合っていると何もかもが疲れる』
 溜息をついたキュベレーに、エストレーラはにこにこと無邪気そうな笑みを浮かべた。和やかな様子を見せるダークヒロイン達に、他のリンカー達も緊張を解いて互いに顔を見合わせ笑みを浮かべた。

●Excellent Stylish!
 モニカは全ての工程を終えた訓練場に降り立つと、自分が掴まっていた岩や崩した岩の様子を事細かに観察した。明るく可憐なアルピニストは岩の高さや強度、矢を放った角度や岩の壊れ方などを分析しては頭の中へと叩き込む。
「今回はすぐ下に足場のある所だったけど、今後足場のない壁や崖なんかで戦う事もあるかもしれないからね。この経験が今後の戦闘や救助活動に役立てられるといいな」
「いやぁ、カッコ良く戦うのってこんなに大変なのか。ヒーローって大変だな」
 一方、灰司は疲れ切った表情で足を投げ出して座っていた。過去荒事に携わっていた経験のある灰司には、「華麗な女騎士として戦う」のは中々のお仕事であったらしい。そんな灰司の前に、紙コップに入ったインスタントコーヒーが差し出された。顔を上げるとリュカが、にこやかな笑みを浮かべて紙コップを手に持ち立っている。
「はい、お兄さんからコーヒーだよ。訓練場の無料インスタントだけどね。君も、水分補給しておかないと後でフラフラしちゃうかも」
 リュカはそう言うと晴太の手にも紙コップのコーヒーを渡した。晴太の目は赤く腫れ上がり、手にしたハンカチは絞れば水が出てきそうな程に濡れている。憧れのリンカー達の姿に何度歓声を上げ、どれ程目を輝かせ、どれだけの量の涙を滝のように流しただろう。そんな晴太の前に、恭也がケースに入れた一枚のROMを差し出した。
「今行われた戦闘訓練の映像だ。俺以外のは全て入っている。他にも、何枚か焼いたから今後の参考にしたい者は言ってくれ」
 恭也は淡々と説明すると、希望するリンカーにもROMを配って回っていった。ちなみに撮影の最中「凄い、皆がびでおの中に居る。いつの間にこんな妖術を使えるようになったの!?」と伊邪那美がビデオに手を伸ばし、恭也と密かな攻防を繰り広げていたのは内緒である。晴太は自分の手にあるコーヒーとROMを見つめると、完全にその涙腺を崩壊させた。ぎょっとする全員の前で、晴太は袖で目元を拭う。
「ず……ずびばぜん! みなざんほんどうにガッゴよぐで……ぼぐは今日、みなざんにお会い出来で本当に良がっだでず……ありがとうございます……本当に、ありがとうございまじだ……!」
 そして晴太はリンカー達に向かって、精一杯の感謝を込めて渾身の想いで頭を下げた。後日、リンカー達の元には、それぞれ絵が届けられた。まだ未熟で荒削りなタッチの、しかし溢れんばかりの憧れと感謝の心が込められた、クールでスタイリッシュなヒーロー達の似顔絵が。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 薔薇崩し
    柏崎 灰司aa0255
    人間|25才|男性|攻撃
  • うーまーいーぞー!!
    ティア・ドロップaa0255hero001
    英雄|17才|女性|バト
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 雪山のエキスパート
    モニカ オベールaa1020
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    ヴィルヘルムaa1020hero001
    英雄|38才|男性|ジャ
  • ヒーロー見参
    浪風悠姫aa1121
    人間|20才|男性|攻撃
  • エージェント
    須佐之男aa1121hero001
    英雄|25才|男性|ジャ
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