本部

コインが告げた命運

東川 善通

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2015/12/04 21:31

掲示板

オープニング

●一枚のコイン
 彼らにとって、それらは何ら変わらないいつものお遊びに過ぎなかった。
「裏か表か」
「僕は裏」
「じゃあ、俺は表だな」
 一枚のコインを弾き、先行を決める。コインを押えた手を除ければ、そこには裏になったコインが現れる。
「裏か。今回はどっちだ?」
「そうだな。前回は崖道を行って大変だったから、移動距離が長いけど、竹林を行かせてもらうよ」
「マジか。竹林は楽でよかったのになぁ」
 くそっと舌打ちをする短髪の男にリムレスメガネの男は体力がない僕からしたらどっちも大して変わらないよと笑う。
「ま、決まったもんはしょうがねぇな。じゃあ、スタートは明々後日」
「ゴールは僕らの故郷で」
「「勝者に馳走を奢る」」
「忘れんなよ」
「そっちこそ」
 そう言って、拳をつき合わせ、彼らは笑い合った。
 出稼ぎに都市に出ていた彼らは故郷の村に戻る際にゲームをして帰っていた。途中までは一緒に旅をし、村への近道にもなるが大変危険が伴う崖道と距離はあるが安全な竹林の道へと続く道で分かれ、あとは只管故郷を目指す。そして、勝てば馳走を奢ってもらい、次は負けないと笑いあうのだ。
 この時もそういう未来が見えていた。自分が勝って相手が口を尖らせて子供のように拗ねるんだと互いがそう思っていた。



 スタートして一番に到着したのは短髪の男だった。村の入り口で相方の姿を探し、ないことに拳を上げ喜んだ。
「さぁて、何を奢らせようかなぁ」
 あれもいいな、これもいいなと入り口で感が混んでいたが、日が暮れても彼は姿を現さなかった。
 男が到着してから数日後、相方が到着したとの報を受けた。しかし、報をもたらした友人は曇った表情をしており、嫌な予感が男の脳裏を駆け巡った。
「袁(エン)!!」
 入り口に履物も履かずに彼の名を呼びながら、行けば、そこには厚手の布をかけられ、担架に乗せられ運ばれていくモノの姿があった。
「袁は?」
「ソレが袁緑(リュイ)だ」
 男が尋ねれば、担架を運んでいた男は立ち止まり、静かに言った。安全な竹林を行った袁がこんな姿になるはずがないと布を剥ぎ取れば、そこには惨たらしい相方の姿があった。
「藍(ラン)、緑は村の近くで発見された。竹林から来たのはわかった。彼が必死に這いずって来ただろう痕跡があったからだ」
「竹林は大型の肉食獣とかも出なかったはずだ」
「あぁ、今日まではな。緑の傷を見れば、明らかに大型の何かが竹林の道に潜んでいる」
 男――藍にそう言い、村の皆にはすでに近づかないように通達を出したと男は言った。そうして、緑の遺体を家族のもとへと運ぶため、止めていた足を動かし始めた。
「……あぁあああああ!!」
 藍はその場に泣き崩れた。相方を何かわからぬモノに殺された憤りと共に自分が竹林の道を行っていればと後悔で、藍はそこから動くことができなかった。

●竹林の道
『中国支部より討伐の要請です。A村の付近にて従魔らしきものが確認されており、被害も出ています』
 最初の被害者は袁緑。村への帰省中に襲撃され、死亡が確認されていますとモニターに映る中国支部の女性職員は淡々と告げる。そして、緑の体に残った傷から大型の動物系の従魔であると推測されるとのこと。
『なお、その従魔は虎の姿であると思われます。通常の虎であればよいのですが、村人たちの目撃情報によりますと翼を背にもった虎とのこと』
 体長は三メートルと大型になります。しかし、虎以外の姿は確認されておらず、ほぼほぼ間違いないかと思います、と続ける。
「虎退治、か」
『そのようになりますね。案内は依頼主でもあります趙(チョウ)藍さんがしてくださるそうです』
 また、彼は友人と被害に遭い亡くなった人たちのために何卒、力を貸してくださいと涙ながらにそう言っていたそうです、と彼女は言った。そして、先程の淡々さはなんだったかと思わせるほどに瞳に涙を溜め、涙声で私からも何卒、よろしくお願いしますと頭を下げた。

『兄と他の方々の弔いのためにもお願いいたします』

解説

従魔の討伐

●戦闘場所
 竹林の道。名の通り、竹の密集地にある道である。また、A村へと続く道の一つである。村へと着くには早くて二日、遅くても三日には着くとされる。多少うねりはあるが人が行く道は長い時間をかけて、踏み固められている。

●従魔
【ガンケン(翫虔)】
 背に翼を持つ虎。三メートルという巨体でありながら、そのスピードは速く、竹林を縦横無尽に駆け回る。主に竹林の道を徘徊しているとされる。また、夜に光る眼が目撃されていることから夜に多く行動していると思われる。

・飛行
 少しの間であれば、宙を舞うことができる。
・咆哮
 時折、竹林の道に低い鳴き声が響くという。
・切裂
 爪を振りかざし、襲い掛かる。肉をやすやすと抉り取る。
・噛砕
 顎の力も強いとされ、あるものは噛み付かれたところの骨が折れていた。

リプレイ

●現場確認
 エージェントたちは本部より中国へと移動し、A村近くのB町を訪れた。そこで彼らは依頼人兼案内人である趙藍(チョウラン)と合流する。
「遠いところまでご足労頂き、感謝する。村はこの町の先になる」
 一先ず、村へといい、エージェントがいるとはいえ、竹林の道は通れないのでと崖道を行く。
「結構な道だな」
 人が二人通れるかどうかほどしかないそば伝いの道に御神 恭也(aa0127)はそう感想を零す。その背中に伊邪那美(aa0127hero001)を背負い、彼女は「これ、落ちたら、死んじゃうよね」と谷底を覗き込んでいた。
「なぁ、向こう側から人が来たらどうすんだ?」
 布野 橘(aa0064)がそう声を言うと、一番先頭を歩いていた藍が姿を消した。それに驚いていると崖から藍が顔を出す。
「窪みに入る」
「ふぉおお、びっくりしたー。落ちちゃったかと思ったよ」
 崖には所々広い窪みがあり、ココに入って通り過ぎるのを待つのだという。説明した藍に言峰 estrela(aa0526)は声を上げる。それにキュベレー(aa0526hero001)が「……あまり大きな声を出すな」と諫める。それにむぅとするものの、声が反響するということもあり、大人しく歩くレーラ。
「一応、室もあるが」
「いや、ここは急ぎましょう。ゆっくりしていてまた被害が出てもいけませんから」
 道の数か所に泊まるための室があると説明すれば、佐倉 樹(aa0340)が急ぐ旨を伝え、その後ろを歩いていた真壁 久朗(aa0032)もこくりと頷く。それを見て、藍はわかりましたと頷いた。
「何、厳しくなってくれば共鳴をすればよい」
 逆に趙藍が辛いのであれば、休んでも構わないとカグヤ・アトラクア(aa0535)が伝えれば、藍は薄く笑みを浮かべ、「伊達に袁と競争はしてない」と答えた。
「ちょっとあれだったかもね」
「うむ、そうかもしれんな」
 クー・ナンナ(aa0535hero001)が辛いこと思いださせちゃったねと言えば、唸りながらも頷く。
「うーん、それにしてもこの道は本当に危険ね」
「おかげで物資は全て村の皆で担いで運ぶようになってる。以前は竹林の道が使えたから車も使用できたんだが」
「え、ここの道を荷物を持って歩くの?」
「あぁ、そうだ」
 落ちたらひとたまりもないと餅 望月(aa0843)が呟けば、藍が物資は自らの手で運ぶと伝えてきた。それに疑問を感じた百薬(aa0843hero001)が問えば、その通りと声が返ってくる。
「じゃあ、早くやっつけないとダメだねー」
「パッパと見ツケちゃおウ!」
「早く終わるほど安心なものはありませんからね」
 頑張るぞーと声を上げた百薬にシルミルテ(aa0340hero001)も声を上げ、うんうんとセラフィナ(aa0032hero001)が頷く。
「子供の遠足みたいだな」
「そのように楽しいものだったらいいのですけどね」
 きゃっきゃと声を上げる彼女たちを見つめ、リーヴスラシル(aa0873hero001)が呟けば、この先に待っているのは人を襲っているものだと苦しそうな笑みを浮かべる月鏡 由利菜(aa0873)。
 そして、休憩を程々にとりつつも、崖の道を進み、村に着くとあたりは既に夕闇に包まれていた。
「それで、件の竹林の道と言うのはどこだ?」
「竹林の道はあっちだ」
 とりあえず、どこにあるかと魔纏狼(aa0064hero001)が尋ねる。そして、藍が指を指したのは自分たちが来た道と違うもう一本の村へと続く道だった。その道にはさわさわと木々がこすれ合う音が不気味に響いていた。
「時折、あの奥で何かが光るんだ」
 きっと獲物が来るのを待ってるんだと無表情で呟く藍。それに望月は「それを何とかするためにあたしたちが来たんです」と告げ、彼に任せてくださいと笑みを浮かべる。
「本当に感謝する」
「礼は虎退治が終わってからじゃ。まだ、始まっておらぬのでな」
「ねこねこーまってなさーい!」
 カグヤはフッと笑い、グッと両腕を振り上げたレーラに藍は笑みを浮かべ、頼もしい限りだと涙を零した。
「とりあえず、今日は休もうぜ」
「……そうだな、移動で体力を消耗しているし、それがいいな」
「無理に動いて被害を増やしたら意味はないからな」
 橘を筆頭に久朗、恭也と続き、男性陣は体力の回復をしようと話し合いを付けているとやる気満々の女性陣からえーと声が上がる。
「いや、彼らの言っていることは正しい。今の状況だと我々が不利だ」
「そうですね。虎が休んでいるあろう、明るいうちにある程度地理を掴み、夜に備えるのが得策でしょう」
「確かにそれもそうじゃな、急いては事を過つというしな」
 今日は休もうではないかと言われれば、しょうがないなぁと休むことに同意していく。藍は泊まる家を案内し、エージェントたちは旅の疲れを癒すため腰を落ち着かせた。

「虎挟とか考えているんだが、どうだろう?」
「……それはいいな。ただ、味方がかかった場合はどうするか、だ」
「んじゃ、なしの方向にしようぜ。引っかかったら引っかかったで怪我するし対応が面倒だろ」
 相手の機動力じゃなく、こっちの機動力が削がれると橘が続ければ、恭也と久朗はそうだなと頷く。じゃあ、他になにかあるかと仕掛けるトラップについて話し合う。
「鳴子とかどうでしょうか? それなら、人が引っかかったとしても敵もそちらに意識が向きますよね」
「どちらがかかろうと、いい目印というわけだな」
「相手は飛ぶんだよな」
「なら、他の罠を仕掛けるついでに上のほうにもつけておくか」
 セラフィナの提案すれば、成程と恭也は頷き、橘がそう言えばと口にすれば、久朗が次を提案する。そして、その後も鳴子について話し合いが行われ、部屋の隅にいたクーは黙々と藍からもらった拍子木を縄に括り付けていた。

「ねこねこにはこのワタシの猫パンチをお見舞いしてやるのよ」
「さスガ、ことみネーサン!」
「ワタシは鎌でズバッと悪い敵は斬っちゃうよ」
 きゃあきゃあとはしゃぐ少女たちにキュベレーは溜息を吐く。
「何度も言うが、猫ではなく、虎だ」
「でも、ねこでしょう」
 ぼそりとキュベレーが零した言葉を耳聡く聞きつけたレーラが首を傾げる。
「まぁ、でかい猫には変わりはないな」
「ほらー、ねこだ」
「……虎だ」
 罠会議をする男性部屋とは打って変わり、女性部屋は猫談義を行っていた。
「普通の可愛い猫だったら歓迎できるんだけどね」
「うんうん、わかります。猫と入っても大型の猫ですからね」
 大きいのにすばしっこいなんてかなり連携していかないとい厳しいですねと望月が言えば、樹はそうねと頷く。
「竹が生い茂っているところに誘導していければ、少しは動きを封じることはできるだろう」
「そうね。でも、竹林の手入れもしていたって言うから、そう言うところがあればいいのだけれど」
「体長は三メートル言うから、それほど密集してなくても削ぐことはできるだろう」
 由利菜とリーヴスラシルはどうしたものかと作戦会議をしていた。そこに樹と望月が加わり、追い込むと同様に罠の話も出てくる。
 そうして、エージェントたちの夜は更けていった。

●下準備
 カランカランとクーが作った鳴子の音が響く。
「え、なに、男どもで内職やってたの?」
「やってない。必要だろうから、作ってただけだ」
「だから、内職じゃない」
 素直に認めちゃいなさいという樹に久朗は違うという。その間にもクーはそれをカグラに手渡す。
「まぁ、即席にしては何とかなるじゃろ。あとは仕掛ける場所じゃな」
「夜、皆で話してたのは下は勿論だけど、上にも張ろうって」
「なるほどのう」
「ねこは空飛ばないよ」
「ガンケンは飛ぶみたいですよ。報告書にも書かれてたし」
「えーー、それじゃあ、ねこパンチ届かないじゃない」
 ぷくぅと頬を膨らませるレーラだったがすぐにまぁ、そうなったら別の対応をすればいいとキュベレーに言われ、それもそっかと気分を持ちなおす。
 一方で別の所では竹林の道へ入った際の行動を話しあっていた。
「基本は道通りに見ていったほうがいいだろう」
「確かにな。……被害者の多くは普通に道を通ってただろうし」
「ただ、罠を仕掛けるなら、道を外れたとこでもいいんじゃね?」
「鳴子は村の近く中心に配置するのはどうだろうか?」
 元々、目撃情報もこの近辺であるわけだしと樹と言い合っていた久朗が参加すると橘は「なんだ、もう痴話喧嘩はおしまいか」などと言って茶化す。
「痴話喧嘩って」
「ただの世間話よ」
 作戦会議に樹も加わるとシルミルテも自然に加わり、いつの間にか全員で作戦会議になっていた。
「罠を仕掛けるにしてもできるだけ一人にならないように二人一組で動きませんか?」
「それはいいが、趙藍さんはどうされます?」
「俺は村で待たせていただく。まぁ、迷うほど複雑ではないし、大丈夫なはずだ。一応、地図はお渡しするが」
「「?!」」
「そのほうが確かにこちらとしては助かるな」
 こっそりと話を聞いていた藍は自分の話になり、待機させてもらうというのに魔纏狼は頷く。また、竹林に行く準備ができたら、呼んでくれというと藍は再び下がっていった。
「あの人はなんなのかな?」
「……普通の人だろう」
「俺としたことが、気づけなかったとはな」
「中々、不思議な人だね。暗殺業とかできるんじゃない?」
 伊邪那美の言葉に恭也はかもなとだけ、答えると二人組のチームをどうするかの話へと持っていった。 そして、急拵えではあるが作った罠を持ち、藍にもらった地図を手に竹林の道を歩く。
「なるほどな。これならば、巨体であっても自由に行き来できるわけか」
 間引きをされ、整えられている竹林は大きな虎でも容易に通れるような広さがあった。しかし、道ではない所は竹の葉が敷き詰められており、ふわふわとしていた。
「ここにはパンダはいないみたいですね」
 セラフィナが残念そうに呟き、それを聞いた久朗が「無事に終わったら見れるところがないか、聞けばいいだろ」と提案した。セラフィナは「それもそうですね」と納得した。
 そして、ある程度歩けば、所々に血の跡が目立つようになっていた。それにはうっと全員が息を詰める。
 まるでここは俺の縄張りだと言わんばかりに周辺の竹にはおびただしいほどの血が付着していた。更には死臭があたりを立ち込めている。
「被害者はまだ運が良かったらしいな」
 村まで逃げてこられたんだからと零す魔纏狼。そうしながら、周りにしっかりと目を凝らす。
「スゲーな、この爪痕」
「普通の人間であれば、即死だな」
 地面や折られた竹にはしっかりとガンケンの爪痕が残されていた。また所々、へしゃげた竹もあり、それらには喰らいついたのだろうと推測された。
「ここらがヤツの縄張りということじゃな」
「みたいですね。できれば、戦う時は別の所に誘導したいものです」
「本当、これは酷いものね」
「奥に逃げられると辛いな」
「じゃあ、村側にするの?」
「そこはあれだ、村に近づきすぎないように俺らが調整するしかねぇだろ」
「確かにな」
 となると奥に逃げられたら分かるようにそちら側に一本鳴子を設置だなと恭也はブツブツと呟き、鳴子の設置場所を決めていく。
 そして、二人一組に分かれ、鳴子を設置し、ついでに罠も仕掛けていく。
「虎挟も持ってくればよかったな」
「ありますけど。一応、村の人に借りておいたんです」
「ここを通るかわからないが、仕掛けて置いてみるか」
「相手は従魔だからダメージは与えられないだろうね。でも、上手くいけば、機動力が削げそうね」
「セラフィナー、コッチにモ、設置しヨウ」
 僅かな期待を込め、罠を設置していった。また、別の所ではそれほど伸びていない竹をしならせ、即席の罠を作る。
「森林よりも竹林の方が威力や指向性を持たせられるトラップを設置出来るな」
「うん、元暗殺稼業の家って聞いてたけど……これって暗殺じゃないよね? 確実にテロリストか戦場帰りの兵士が仕掛ける物だよね!?」
「トラップの知識は、実際に使われた物や捕らえた襲撃者から聞き出した物で俺の趣味みたいな物だな」
「そんな物騒な趣味は嫌すぎるよ……」
 はぁと大きな溜息を吐く伊邪那美は今回は誰かしらが利用できるものだから、いっかと恭也が作った罠を一瞥した。
「よくこれだけの罠がすぐ作れるな。俺じゃ思いつかねぇよ」
「一つの戦術だな。てか、相棒はどうしたんだ?」
「あー、魔纏狼だったら、奥を見てくるってよ。昼間は活発に動いてねぇみたいだし、大丈夫だろう」
「もう、それじゃあ、何のために二人一組にしたかわからないじゃない」
「簡単にやられるようなやつじゃねぇから、大丈夫だって。で、次の罠はこっちの竹か?」
 橘は恭也の指示を仰ぎ、罠を作成していく。伊邪那美はもう! と言いながら、彼らの作成の補助を行った。
「ねこさんどこにいるのかしら?」
 虎だ……と心の中で思いつつも、言葉には出さないキュベレー。
「………奴が狩人としての自覚があるのなら、自ら現れるだろう」
「ねこさんは今回はワタシたちの獲物よ」
 ふふふと笑うレーラにガンケンは立場が逆転してると知らずに我々を狩りに来るのだろうなと小さく零した。
「女だけで罠を仕掛けるのってちょっと大変ね」
「竹とか曲がらないね」
「うん、しょうがないから鳴子だけでもしっかり設置しておこう。百薬、コッチの縄をあそこの竹に」
 しっかり持っておいてねと言い、望月は自分が持っている縄を竹にしっかりと括り付け、百薬が持っているほうも二人で一緒に引っ張りピンとなるように括り付けた。
「うーん、ちょっと高すぎたかな」
「でも、虎には丁度いいんじゃない」
 まぁ、それもそっかと罠としては高すぎる位置に鳴子を設置し、「ねこさーん、ででおいでー」と言いながら歩いているレーラの後を追いかけた。
「アレは中々な絵じゃったな。普通の人であれば気を失ってもおかしくないじゃろう」
 藍は来んで正解じゃったなとカグヤはあたりを見回しながら口にする。
「アレを見る限り、犠牲者は依頼時よりもいそうだな」
「町からこちらに来る人の制限は緑さんの死から数日かかってから見たいですし」
 リーヴスラシルの言葉に確かと由利菜がそう言えば、ほぼほぼ間違いないじゃろとカグヤが頷いた。

●虎狩り
 日も落ち、エージェントたちは罠の位置を共有しつつ、竹林の道を歩いていた。
「流石に暗くなると不気味だな」
『不気味と言うか怖いですね』
 サクサクと葉を踏みしめる音とさわさわと竹の葉が擦れる音が響く。そんなとき、遠くの方でカランカランという音が風に乗ってくる。
「お出ましってか。これが悪戯とかだったらふざけんなってなるけど」
『恐らく虎だろう。この竹林に生き物らしい姿を見なかった』
「ぎゃん!!」
「あ、引っかかった?」
『奥の方だカラ、虎挟かナ?』
 ライヴスを介していない罠であったため効果があるかと心配していたが、突然、動きを制限されたためか、竹林の奥から虎の鳴き声が上がる。その後には暴れているのだろう、バキバキバキと激しい音が聞こえてくる。
「明かりは一つにしよう。その明かりでヤツを誘き寄せるんじゃ」
「戦闘開始ですね。早々に出てきていただけてよかったですわ」
「恐らく、人の匂いにも反応して動いたんだろう。散々、俺たちが動いてたからな」
「ねこさん、覚悟しなさーい」
『……虎なんだが』
 明かりを由利菜の持つスマホ一個にし、全員気配を隠し、目を凝らしながら進む。慎重に慎重に進んでいくと爛々と輝く目が奥から光源を睨み付けていた。
『……体を貸せ。バレぬように距離を詰める』
 橘は主導権を魔纏狼に渡す。魔纏狼は風が吹いている方向とガンケンが睨む方向を確かめ、視線を外さぬように静かにガンケンの背後に周り、距離を詰めていく。
「罠のせいで結構、頭にきてるみたいね」
『こっちに来るかな』
「由利菜ちゃんが近くにいるから来るかもね」
『じゃあ、この鎌でばっさりいっちゃおう!』
 ギュッとグリムリーパーを握り、ガンケンの行動を見逃さないように戦闘態勢を維持する。
「朴螺子、わかってるわよね」
「あぁ」
 タイミングを見計らって行くわよという樹にそっちこそしくじるなよと声をかける。
 じゃらりとガンケンの足元から金属音が響く。足を見れば、そこには虎挟がしっかりと挟まっていた。ただ、それを力いっぱい引き抜いたのだろう繋ぎ止めるための鎖が揺れる。
 さらにガンケンの体にはナイフが突き刺さっており、それはもらった情報に一切ないものだった。
「犠牲者が力を振り絞って抵抗したのじゃろうな」
 しかし、相手は従魔故に効果はなかったかとそれを見つめ、冷静に分析をする。
 ジッとエージェントとガンケンの睨み合いが続く。どちらかが動けば、本格的に戦闘が開始するだろう。そんなとき、ざわりと一陣の風が竹林の道をすり抜けた。その瞬間、ガンケンは自身の後ろにいる魔纏狼に気づいたのだろう、勢いよく後ろを振り返る。それに魔纏狼は舌打ちをし、すぐさま後ろに跳び、間合いを広げる。
 その好機を樹は逃さなかった。すぐさまゴーストウィンドを放ち、久朗の背を押す。
「ほら、仕事してこい朴螺子」
「あぁ」
 久朗はブラッドオペレートを発現させるとゴーストウィンドの風を纏ったライヴスのメスをガンケンに向かって放つ。ガンケンがそのまま受けるとは思わないため、あえてその巨体を狙えば、彼の予想はあたり、メスはガンケンの片翼を切り裂く。片翼を切り裂かれたガンケンは咆哮を上げ、久朗を睨み付ける。
 びゅうと未だ吹く強風は久朗を吹き飛ばす勢いのままだ。
「おい、俺まで吹っ飛ばす気か」
 滑りそうな地面に足をしっかりつけ、踏ん張りつつ悪態をつけば、ニッと笑った樹は「焼き『尽くセッ』とシルミルテと同時に叫び、ブルームフレアを放つ。
「あー、くそっ」
 久朗は叫ぶと再び、ライヴスのメスを発現させ、その炎を切り裂くように、それをガンケンを目がけ放つ。
 しかし、今度はそれを読んだガンケンは素早くそれを避ける。……微かに当たったのだがそれは足にある虎挟を掠る程度だった。
「チッ」
 何やってんのよと怒号が飛んでくるが、タイミングが早すぎるたんだと文句を口にする。
 その間にも久朗に向かって唸るガンケンに素早く近づいた恭也が大剣を力いっぱい振り下ろす。風を裂く音にガンケンは飛び避けようとするが、切っ先がガンケンの体を裂く。
「ぐ、ぐぅあああああ!!」
 よろめくもその場にゆらりと立つガンケンに次は自分の番とばかりにレーラが飛び出す。
「にゃあ!!」
 猫の愛らしく叫びながら振り下ろした鉤爪はあたりはしなかった。
「もう! 次は当てるから! ねこぱーんち!」
『……それは猫パンチとは言わない』
 ぷくりと膨れながら、再度鉤爪を振り下ろす。レーラの言動にぽつりとツッコミを入れるキュベレー。ただ、その猫パンチならぬ猫引っ掻きはガンケンの顔面に当たり、顔に引っかき傷を作る。
「がぁあああ」
「ふぉっと」
 お返しとばかりにガンケンは傷だらけの体で飛び上げ、鋭い爪を勢いのまま振り下ろす。辛うじてそれを避け切ると、近くの竹が犠牲になったようで音を立てて地面に落下した。
 ぐるると唸りながら、ガンケンはスッと視線を動かすと最初に目に映した光源を再度目に映す。動かない彼女ならと喰らって回復できると思ったのだろう。
「させない!」
 ガンケンが振り下ろした爪を大鎌で受け止め、ぐぬぬと唸る望月。しかし、がうと顔を振り体重をかけてきたガンケンに一女子である望月の力が耐えられるはずもなく、ヤバいと思った。
「後ろががら空きだぜ!」
 ザクッと背を一線に斬られ、ガンケンは望月から飛び退く。そして、斬りつけてきた橘に対象を移す。
『避けてみせろ、この攻撃は単調だぞ』
 再び橘から魔纏狼に主導権が変わると彼は上段からの振り下ろしを多用し、ガンケンと対峙する。その後ろでは、ラジエルの書を片手に持ち、中に白刃を出現させたカグヤがタイミングを見ていた。
「餅山さん、縄切って」
「へっ、あ、これ」
 樹の声に望月は何のことだと首を傾げるもピッと斜めに張られた縄が目に入り、彼女の言うとおりに大鎌でそれを切った。すると、バサッと竹がしなると同時にしゅるるるっと縄が引かれる音が響き、「ぐぁっ!」というガンケンの叫びが竹林に響く。
 後ろ足に喰らいついたままの虎挟にロープが絡まり、ガンケンは宙づりにされた。
「丁度良い、的じゃのう」
 少し準備するのには時間がかかったが、まあ良いかと白刃を放つ。それは宙で避けられないガンケンを貫き、ついでに縄をも、斬った。どさりと落ちるガンケン。
「がぁあああ」
『中々、しぶとい様だ。ユリナ、いけるな』
「えぇ、いけるわ」
 由利菜はランスを構え、その切っ先にガンケンを捉える。
「ぐるる」
 輝きを失わないガンケンだが、既に避けるだけの体力も残っていないのだろう、唸り威嚇するだけで彼女の放った一撃をその体に受ける。
「がぁっ」
 最後に一鳴きするとどすんとその巨体を地面に横たわらせた。
『……正義は勝ーつ!』
 望月から主導権をもらった百薬が倒れたガンケンを見て、鎌を振り上げた。
 それに全員がホッと息を吐く。中々しぶとい敵だったなと笑みを浮かべる。
 そして、ガンケンの死体に近づいたカグヤは「さぁ、これを村に運ぶんじゃ」と声を高らかに上げた。
「ちなみに男どもの役目じゃ。かよわい女子どもに持たせはせまい」
 はぁっ!? と声を上げるもののニヤニヤというカグヤに顔を見合わせ、はぁと大きな溜息を零し、武器は相方に渡し、ガンケンの巨体を持ちあげ、村へと運んだ。ちなみに命令されたこともあってか、魔纏狼は橘だけに先に戻ると告げ、その場からさっさと去っていた。


●安らかに眠れ友よ
 一足先に村に戻った魔纏狼は村で酒を買い、盃は拝借した。そして、戻ってきた橘と合流し、犠牲者の墓へ赴く。
「死者と飲む酒か。……橘、月は見えるか」
「こりゃ……新月だな」
「あぁ、願いの叶う夜だ」
 墓に来た魔纏狼は一杯を墓に置き、橘の言葉にフッと笑みを浮かべると自分用に注いだ酒を呷った。

 死者と酒を嗜むものがいる一方でカグヤは運んだガンケンから早々に皮を引っぺがし、畳んで藍へと渡す。
「亡き友に捧げるか、憎しみを持って燃やすか、売って金にするか、そなたが決めよ。わらわでは死者に対する礼儀がわからんのでな」
 藍は涙を零しながら、ありがとうと彼女たちに深々と頭を下げた。
 翌朝、戦闘付近の竹が数か所に渡り、道を塞ぐ様に倒れていることが分かり、その復旧にはかなり時間が要されると判明、復旧している間に彼らは仕掛けた罠に村の人達がかからぬ様に解除していく。ただ、鳴子に関しては何かあった時のためにと残されることになった。そして、奥地の犠牲者は村人達とエージェントたちで埋葬した。
 その後、エージェント達は村人の厚意で廃車寸前のボロボロの車で送られ、B町へ降り立つ。
「そう言えば、藍さんいませんでしたね」
 お見送りの中にいなかったとセラフィナ呟くと確かにと顔を見合わせるエージェント。そんな彼らの目の前に頭に包帯を巻いたリムレスメガネの藍がどうもと言って現れた。
 何か雰囲気が違うと思うも藍は特に気にする様子もなく、近づくと皆に礼を述べ、それから、彼は実は一昨日まで事故って入院してたんだという事実も伝えた。
 へっ? とクエスチョンマークを浮かべるエージェントたちに藍は悪戯が成功した子供のように無邪気な笑みを浮かべ、「いや、流石に直前になって人が変わるのもどうかと思ってな。双子の弟に俺の代わりを頼んだんだ。似てただろ」と種明かし。
 エージェントたちは、今度ここに来るときはぜひパンダも見ていくといいと言う藍に別れを告げ、帰るべき場所へと帰っていく。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 信念を抱く者
    布野 橘aa0064
    人間|20才|男性|攻撃
  • 血に染まりし黒狼
    魔纏狼aa0064hero001
    英雄|22才|男性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
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