本部

神に選ばれし生贄の巫女姫

せあら

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/03 01:30

掲示板

オープニング

●生け贄の巫女
「納得いきません! どうしてお姉様が行かなければ行けないのですか!?」
 茜色の夕日が沈みかける中、神社の前で巫女の美憂は姉の涼華へと心配そうな表情を向け強く言い放った。
 涼華は心配する美憂に小さく苦笑を浮かべた。腰まで届く長い黒髪が風に乗って少しだけサラリと揺れる。
「美憂、仕方ないの。村で決まった事だもの……私は大丈夫だから、だからそんなに心配しないで」
 そう言う涼華に美憂は納得出来なかった。
 美優達が住むこの古い村には一つの言い伝えがあった。祟り神の顔を持つ守護神がおり、昔は若い娘を生贄として神に捧げていた。だが今は時代が進みそれは廃れていた。そんな中、ある一つの社で少女の遺体が見つかった。村の伝承がまだ残っている年寄達はそれを祟りだと信じ込み、この村の神社の巫女の涼華を生贄として選んだのだ。
「こんなの絶対に可笑しいです! こんなの昔話を利用した悪どいやり方に決まっています! それにあの社には愚神が出ると噂されています。そのような場所に行くなんって……」
「美憂……」
 美憂の言葉を涼華は優しい声音で遮り、その場にしゃがみながら同じ目線の高さに合わせ柔らかい口調で言葉を続けた。
「大丈夫だよ。きっと何も出ないから。2、3日過ぎればお爺様達も殺人事件だと分かってくれて警察に届けてくれるし、それに何も無いと分かればすぐに私を迎えに来てくれるから」
「でも……」
「お姉ちゃんが美憂に今まで嘘ついた事あった?」
 そう優しく訪ねられ、美憂は小さく頭を振った。
「待っててね、必ず帰って来るから」
 涼華は妹の頭を優しく撫でる。その手は昔と変わらず優しい手だった。美憂は不機嫌そうな顔で涼華へと渋々小さく頷いた。

 涼華は小さな古い社の前にいた。
 話によると生け贄とされる巫女はこの社の中に入って神を待つらしい……。涼華は社を一瞥し、恐怖を感じながらもゴクッと生唾を飲み、社の扉を開いた。ギッ……ギィ……と何処か壊れた音がし、中に入ってみると、そこには何も無い狭い空間だけが存在していた。
「ここ何だよね……?」
 まるで自分に言い聞かせるような言葉で不安気に辺りを見渡す。
「そなたが妾の人形か?」
 その時、突然声がした。涼華は慌てて声がある方へと視線を向ける。するとそこには20代ぐらいの花魁姿の女性の姿があった。だが涼華は一瞬で理解してしまった。彼女がこの世の者ではない存在だと言う事に。
「貴方が神……様……ですか……?」
 震える声をどうにか絞り出して涼華は問う。花魁姿の女性は妖艶に、そして呆れたような顔をして紅色の美しい唇を動かした。
「神? 妾をあんな者と一緒にするではない。妾は愚神。だが昔話を利用し、お前達人間を拐かしたのは妾だから一概にも言えんがな……」
「愚神……貴方が……」
 花魁は涼華に近づき、クイッと涼華の顎を軽く指で持ち上げる。涼華は背筋から冷や汗が流れるのを感じた。花魁は涼華の顔をまじまじと見た後、ふっと笑みを溢した。
「気に入ったぞ。なかなかの上玉だ。一生妾の可愛い人間として扱ってやる」

●鮮血の巫女姫
「お姉様、美憂です。申し訳ありません、どうしても心配になり来てしまいました……」
 美憂は社の前で声を潜めながら、姉に話し掛けた。姉と別れた後美憂は嫌に胸騒ぎがし、姉の元へと来てしまったのだ。
「お姉様……?」
 自分の問いかけに涼華の返事が無い事に疑問を抱き、美優は社の扉にそっと手を掛けようとした。
 瞬間――――。
 ビュュュウと風が鳴る音と共に扉が風で勢いよく開かれ、社の中から姉の涼華と花魁の格好をした女性が現れた。姉の隣にいる女性に疑問を抱いた瞬間、同時に美憂は恐怖を感じた。彼女はおそらく、この辺りで噂されている愚神なのだと美憂はすぐに気づいた。
「お姉様!?」
 姉の名を叫ぶかのように呼んだ。だが反応は無く、涼華の瞳は何一つ映していない虚ろな色をしていた。
 美憂はそれを見て姉が操られているのをすぐに察し、唇を噛んだ。そして踵を返し、急いでその場から逃げ出す。
「もう帰るのかぇ? 愛しい姉に会いに来たのだろう?」
 クスクスと可笑しそうに笑いながら花魁は髪に差している一つの簪を取ると、それにライヴスの光を宿す。光に包まれた簪は真っ赤な弓に変化し、逃げる美憂に向けて氷の矢を2、3発放った。
 美憂は背、腕、脚へと矢を受けながらも必死で社の階段を駆け降りる。普通ならば一般人は愚神の攻撃を受けてしまえば死んでしまう。だが美優は能力者防御適正だった、その為少女は愚神の攻撃を受けても死なずに済んだのだ。
 美優は自分の中で姉を置いてきた事に対する罪悪感が生じる。だが少女はそれを無理矢理自分の中へと押し込め、瞳からボロボロとあふれ出る涙を必死で無視した。
 早く、早く、早くしないとお姉様が死んじゃう……!!
 射たれた傷が酷く痛む。
 意識が朦朧とする。
 でもここで倒れる訳にはいかない……
 そんな想いが今の少女を突き動かす。
 ズキンと矢に打たれた足が激しく痛み、美優は足を滑らせ階段から転げ落ち地面に倒れた。側に落ちたスマホを震える手で手に取ると少女はある所へと電話を掛けた。
「もしもし、こちらホープ支部です。どうかされましたか?」
「お姉様……を……助けて……」
 電話口にいる職員へと美優は掠れた声で必死にそう告げた。

解説


花魁の姿をした愚神の討伐、美憂の姉涼華を助け出す依頼になります。

登場人物
美憂……14歳の巫女の能力者(防御適正)の少女。姉の涼華を慕い憧れている。涼華を心配し、社に行くと愚神に操られている涼華を見つける。
愚神の攻撃を受けながら、必死でホープ支部へと助けを求める。

涼華……美憂と同じく17歳の巫女。
村の神社の娘で巫女と言う事もあり村人達から「生け贄の巫女」として選ばれた。現在愚神に操られている。

デクリオ級の愚神……20代前半の花魁の姿をした愚神。
村の言い伝えを利用し、涼華を手に入れる。涼華を操り、または体を乗っ取り村全体を壊滅させようと企んでいる。村の壊滅はただの暇潰しがわりであり、涼華を都合の良い入れ物として扱っている。

攻撃……ライヴスでの氷の矢で遠距離の攻撃を仕掛けて来る。近距離になると扇子を取り出し、扇子を振ると小さな竜巻を3、4つ一メートル付近に出現させる。
竜巻に少しでも当たると巻き込まれてしまう。

涼華を操り、鈴華に薙刀を持たせ攻撃して来る。一般人な為攻撃して来るスピードは鈍足。(助け出す為には10ターン以内に倒して下さい)

Pl情報……愚神は自分が窮地に立つと黒い文字が書かれた番傘を相手に向け、式神の鬼の姿をした従魔ミーレス級2、3体を出現させる。
従魔 鬼ミーレス級×2、3体。口から青白い炎を吐きながら攻撃し、手に持つこん棒で殴り掛かる。

状況……夕方の日が沈む時間帯、古びた社。
社には愚神、涼華のみしかいない。戦闘開始(リプレイ)は社の場面から始まります。社の階段の前に瀕死状態の美優が倒れています。

リプレイ

 社の階段を駆け上がりながらイリス・レイバルド(aa0124)は神妙な面持ちで、ぽつりと言葉を溢した。
「お姉ちゃん……絶対に助けたいんだ」
 家族を失う怖さをイリスは良く知っている。だからこその言葉だった。そんな少女を見てイリスの英雄アイリス(aa0124hero0001)は前を見据え、力強く頷いた。
『いいよ、その為の私だ。頑張りたまえよ女の子』
「うん、お姉ちゃんが一緒なら……どんな敵だって大丈夫だよ!」
『では無事に助ける事が出来たら2人に挨拶しに行かないとね』
「えっ!? それとこれは話が別、じゃない?」
『はははっ頑張りたまえよ女の子』
 動揺するイリスに対してアイリスは笑い、そして柔らかな笑みを浮かべながら言った。

「ふむ……やはり来たか」
 花魁は社の前に立ち、真っ赤な唇を吊り上げ、静かにそう言った。花魁のすぐ側には涼華が佇んでおり、さらに二メートル先には傷だらけの美憂が倒れていた。その姿を見た加賀谷 亮馬(aa0026)は緊張感を抱き、目の前の花魁を睨みながら低い声音で言った。
「人を食い物にしてきたツケだ。ここまでだぜ愚神」
 亮馬の隣に立つ三坂 忍(aa0320)は花魁へと警戒心を抱きながら玉依姫(aa0320hero001)へと言葉を促した。
「自称神様一言どうぞ」
『別に自称ではないのじゃがな。……神とは畏怖じゃ。己の及ばぬ領域にそれを畏れ奉る心奥にこそ神は宿る。故に手向かう事能わず只人は伏せ過ぎるのを待つばかりなり』
『しかし是は人の子の事情よな。神の身なればこそ、人の世に干渉してはならぬ。それが愛であれ、戯れであれ、神に触れられる程人は強くはないのじゃから』
「要するに、こっちの手の届かないところから嫌がらせしてんじゃないわよ卑怯者! って事よね」
 挑発染みた忍達の言葉に対して花魁は動じる事なく、ただただ可笑しそうにクスクスと笑った。
「全く……。何を言い出すのかと思えばその様な事だとは。可笑しくて敵わんわ。現にこの村は自分達の身、可愛さに妾に生け贄を差し出した、それをどう扱おうと妾の勝手じゃ」
「ふざけるな! それは全てテメェの差し金だろーがッ!」
『行くぞ。亮馬』
 亮馬は怒りを露し、そう叫びながらEbony Knight(aa0026hero001)と素早く共鳴をし、装甲騎士の姿へと変え、手にはをシルフィールド携えながら花魁へと疾駆した。それを見た花魁は隣に立つ涼華を一瞥し、そして短く唇を動かす。
「行け」
 その言葉と共に涼華は亮馬へ目掛けて駆け出し薙刀の刃を閃かそうとした。
 刹那。それは叶わぬ結果に終わる。何故ならば壬生屋 紗夜(aa1508)は共鳴した状態で竜牙刀で薙刀を防いのだ。
『生け贄などとふざけた事を』
 ヘルマン アンダーヒル(aa1508hero001)は吐き捨てるように言った。
「やはりこうしたものは気に入りませんか?」
『当たり前だ! 生け贄を求めるような輩を神と呼ぶなど許されるものではない』
「私としてはその辺りはどうでも良いんですけどね。ええ、あれは斬るべきだと、それについて是非もありません」
 花魁は舌打ちをし、美憂をこの場から連れ出そうとする忍の姿が目に映った。それを見て薄く笑い氷の矢を連続で2、3発放つ。亮馬は忍の前へと出ると、それを素早く刀で全て凪ぎ払う。
「待てよ。お前の相手は俺の筈だぜ」
「良いだろう、全て始末してやる。死んであの世で詫びても遅いぞ愚かな人間共!!」
 花魁は苛立ち、そう言い放つと再び氷の矢を2発放った。それは閃光のように駆ける光に近いもの。
 それすらも亮馬は回避し、花魁へと一気に距離を詰めると刀で肩へと目掛けて突き刺す。そして。
「今のうちに早く行け!」
 亮馬の言葉に忍は短く頷くと美憂を連れその場から駆け出し遠ざかった。それを亮馬は確認し、刀を抜くと花魁へとストレートブロウを放つ。花魁は吹き飛ばされ、涼華達との距離からさらに遠ざかった。

●紛い物の神様
『なんだありゃ! 顔まで真っ白じゃねぇか!』
「あれは花魁というものですよ、でもあれは美しさの欠片もない花魁ですがね……本来人としての心があるからこそ、花魁は花魁たるのです。行きますよバイラヴァ」
「んなもん当たり前だ! それにてめぇらは、いつも俺様の神経を逆撫でしやがって、やり方が気に入らねぇんだよ!」
 坂野 上太(aa0398)とバイラヴァ(aa0398hero001)は、そう花魁へと言うと共に幻想蝶で共鳴をする。足元に炎の魔方陣が現れ、上太の髪の半分は赤のメッシュに染まり、二十歳ぐらいの姿へと変化を遂げた。上太は赤い瞳を花魁へと向けて睨み、
「純粋な少女を……これ以上好きにはさせませんよ!」
 銀の魔弾を発射させた。
 花魁は小さく鼻をならし、着物の裾を翻し、舞うようにそれを素早く交わす。そして彼女は再び弓の弦を引き絞り矢を2、3発連続で放った。
 それを素早く八朔 カゲリ(aa0098)はマビノギオン……魔法書を行使した攻撃で矢を向かわせる。ライヴスの光が一瞬で矢を打ち消し、微かな風が凪いだ。
『“あんな物”――……“あんな物”か。私とは無関係とは言え、愚神に嘲謔されるのは不愉快だな』 
 カゲリと共鳴したナラカ(aa0098hero001)は花魁と対峙しながら小さく呟く。
『――名を聞かせろよ小娘。愚神と言えど名乗る程度はあるだろう。ああ、それともそれすらもない雑魚であったか。ならば己む無しではあるが』
 不愉快そうな口調で言うナラカにカゲリは花魁へと冷酷な瞳を向け言った。
「……やる気になっているところ悪いが、戦うのは俺だろうが。まぁ殺す事には変わりないがな、愚神は害悪でしかない」
「ふん、殺れるものなら殺るが良いだろう。まぁ貴様らは全員殺すがな」
 花魁はそう相手を氷のように冷たく、殺気だった表情で告げると着物の懐から扇子を取り出し、扇子を仰ぐ。するとその場に小さな竜巻が3、4つ出現した。カゲリは地面を蹴り、それを難なく交わすが残りの1つはイリスの方へと向かって行った――。

●遠い過去の記憶
 社から離れた御神木の側で眠る美憂に、忍は自分が持っていたチョコを食べさせる。数秒後、暫くして美憂はゆっくりと瞳を開け身を起こした。
「ここは……それに私は……」
「良かった。もう大丈夫みたいね」
 忍は美憂の姿を見て安堵した表情を浮かべた。美憂はハッとし、忍の腕を掴み必死な表情で叫んだ。
「お願いです! お姉様を助けて下さい!」
 それは姉の涼華を助けたいという気持ちの表れだった。忍は美優を安心させるかのように柔らかい口調で言った。
「大丈夫よ。必ずあなたのお姉さんを助けるわ。だけど、」
 そして言葉を続けた。
「この傷で生きてるってあなた能力者よね。だったらまだ出来る事はあるんじゃない? なんならうちの玉ちゃん貸そうか?」
『いや、それは無理じゃろう』
「英雄……」
 忍達の言葉に美優はぽつりと言葉を溢す。
「願う事ね。貴方の望みを、本質を、感情を。貴方の英雄はきっと応えてくれるはずよ」
 忍はそう少女へと告げる。それは姉の涼華を救うのは美憂自身だと彼女はそう感じていた。だからこその言葉だった。忍は上太から預かった通信機を渡し、その場から踵を返し走り出した。忍の言葉に美憂は胸の前に手を組み、瞳を閉じて切に願う。
 今の自分に出来る事、何が出来るなんって分からない……。でも、だからこそ少女は想いを強くして願う――。

 ――お願い、お願い私に力を、勇気を貸して欲しいの。大切な人を護る為に――

『来ると思うか?』
 一瞬で共鳴した状態の玉依姫が忍へとそう話し掛ける。
「英雄召喚の条件なんて合って無いようなもんよ。それに、あの子達の戦いは村に戻ってからだろうしね」

 
 イリスは向かって来る竜巻を避けきれず竜巻に巻き込まれてしまった。だが少女は手にした大剣を地面に突き立て飛ばされないように耐える。数秒後竜巻が止んだと同時に矢が後衛へと向かって空中を駆ける。イリスは走り出し盾でそれを全て防ぐ。
「そんなつぶてが……痛いもんか!」
 イリスは盾を前面に力強く構え花魁へと駆け出す。

 涼華さんを助ける為に早く倒さなきゃならない。ならば恐れる理由は何もない――

 イリスはリンクバリアで素早く防御を固め、そして花魁へと距離を詰めた。
 アイリスの声がイリスの脳内へと聞こえる。
『がむしゃらな力押しが正解……な時もあるが大抵は手早く終わらせたい時程丁寧に手順を踏む事だ』
『防御を固めれば被弾時の被害も減る、建て直しに時間を取られなくなる。攻撃が脅威でなくなれば後は押し潰すだけだ……防御は攻撃にも繋がる』
 迫るイリスに対し花魁は扇子を仰ぎ再び竜巻を出そうとするが上太の銀の魔弾の弾丸が扇子へと着弾した。
「その厄介な武器から狙わせて頂きますよ!」
 花魁は扇子を再び仰ごうとするが失敗し、上太の銀の魔弾が幾つも着弾し扇子が破壊された。そしてイリスは花魁へと大剣を閃かせながら叫ぶ。
「お姉ちゃんの教えひとーつ! 装甲が分厚いだけなら壁でも出来る! 技術を駆使して防御を生かせ!」
 イリスの攻撃を受け花魁は腕から血を流し、顔を醜く歪ませ、即座に番傘を取り出し上太達へと向けた。瞬間。鬼のミレース級が2、 3体出現した。
『雑魚がわらわらと来やがって、うぜぇんだよ! 引っ込んでいろ!』
「そちらがその気なら、こちらも!」
 そう上太達は言葉を口にし、ゴーストウィンドを発動し、従魔達は上太へと襲いかかろうとするが上太は交わす。そして彼は従魔へとブルームフレアを発動させた。赤い炎に焼かれ従魔は一瞬で消し炭となりその場から全て消え去った。

●約束
『意外だな、お前が人質の確保を優先するとは』
「どうにも斬り合いに楽しく応じてくれる方には見えませんから憂いを除き種が見えた今なら……さて」
 そうヘルマンと言葉を交わしながら紗夜は涼華の手に持つ薙刀へと幾度となく刃を閃かせる。だが涼華も紗夜の攻撃を幾度なくかわす。
 駆けつけた忍は涼華の後ろからトリアイナを閃かせた。紗夜は涼華の懐に飛び込むと刃を閃かせ薙刀を弾き飛ばす。それを見た忍はリーサルダークを発動させた。
「さぁて、上手く手加減出来るかしら」
 涼華の体が包み込まれ、呪いを込められた魔術がほとけていく。涼華の動きは止まり、呆気なく気絶した。気絶した涼華を紗夜の革の鞭をロープ代わりに縛り彼女を忍達は妹の美優へと預けた。

「おのれぇぇぇぇぇ」
 花魁の幾つもの矢がイリスへと降り注ぐ。イリスはそれを盾で防いで行く。
「お姉ちゃんの教えひとーつ! 盾も攻撃に利用しろ!」
 一瞬の隙が生まれ紗夜は再び空中駆ける矢を掻い潜り不敵な笑みを浮かべながら花魁へと竜牙刀を閃かせた。
「貴女が神だろうが愚神だろうがどうでも良いんですよ。私にとっては斬ってもいい――そして斬れるか、それだけです」
 忍はウィザードセンスを発動し花魁へと駆け出す。紗夜の攻撃で花魁に隙が生まれイリスは絆の象徴である黄金の四枚羽を翻し、回転切りをしながら声を張り上げた。
「この黄金の翼がボク達の絆の強さだ!」
 そして同時に舞うように花魁を惹きつけ忍のゴーストウィンドが花魁へと叩き込まれる。
「愚神が神を騙るなんて性質が悪いのよ、貴方達との繋がりなんって、この世界に存在しない」
 花魁は忍達の攻撃を受けながら絶叫に近い叫びを上げる。
「このぉぉ愚かで虫けらな人間の分際でぇぇぇぇぇ」
 愚神である花魁の体はもう既にボロボロな状態だ。こんな筈ではなかった……。本来の予定では涼華を操り村を襲わさせたのち、恐怖に死んでゆく人間達のライヴスを堪能しながら食らう予定だった。それを全てこんな下等な人間達の為で全て無駄になってしまう……。
 美しく着飾った着物は既に己の血と泥で塗れて酷い有様だった。花魁はそれでもなおリンカー達を葬る為に番傘を開き、舞うように従魔を召喚しょうとするが、カゲリのライヴスブローを込め刀で花魁の手にした番傘を弾き飛ばした。花魁は急いで矢を放とうとするが、間に合わない。カゲリは地を蹴り、そして。

 貴様に一つ、神威と言う物を見せてやる。欠片も残さず祓ってくれよう――!

 だからお前は、今此処で滅べ。

 カゲリは刀に力を込め花魁へと飛び掛かるように切り裂く。だがそれだけでは、まだ終らない。亮馬はフルティングに武器を持ち変え後ろから狙う。
『ふむ、油断は無しだ。だが……これに負けるようではこの先は生き抜けんぞ。亮馬』
「言われなくてもわかっているよ! 愚神、どんな気分だ? お前が馬鹿にした愚かな人間達に倒される気分は!」
 Ebony Knightの言葉に亮馬は応えて、花魁の体を凪ぎ払うかのように斬る。
「ぎゃぁぁぁ」
 絶叫の叫びと共に花魁の愚神はライヴスの光となりその光は虚空へと消え去った。
『終わった……か』
 Ebony Knightの言葉と共に亮馬は大剣にこびり付いた愚神の血を払う。
「まだ終わってねぇよ……あの村の「生贄」問題が残っている……だけどさ」
 亮馬はふっと視線を美優達のいる方へと向けた。そこには姉に抱きつく美優の姿があった。それを見た亮馬は、
「あの子達を救えた……今はそれだけで満足だよ」
 満足気に小さく笑みを浮かべ、呟いた。そんな亮馬の言葉にEbony Knightは亮馬と共にその姿を眺めながら短く同意した。
『そうだな……』

●生け贄の少女の末路
『無知故の畏れによりこのような愚をする民がいる事は承知している。だがこのように進んだ国に住まいながら無知に甘んじ、あまつさえ生け贄等と言う愚を他者に強制するその浅ましさええい、騎士として見過ごす事など出来るもんか!」
 ヘルマンは怒りを露にし美憂達の村へと駆けて行く。正義を重んじる謹厳実直な彼はこの『生け贄』のやり方が許せなかった。その姿を見ながら紗夜は小さく肩を竦めた。
「あー、村に行ってしまいましたか。ほどほどにして下さいね」

「ひぃぃ何なんじゃお前らは!」
 美憂達の祖父の神主を始め、数人の村人達が村の神社に集まっていた。ヘルマンに詰め寄られ、半ば腰を抜かしそうになりながらも村人達の目がある為神主は口を開く。
「仕方なかったんじゃ、わしらもこうする他方法が思いつかなかったんじゃ!」
「仕方ない? そんな言葉ですむのか。然し村の連中も老害だな。どれだけ惚けが回ってるをだよ……。生け贄を捧げてその場を凌いでいればそれは楽だろうよ」
「自分達の身、可愛さに生贄を捧げ、その場を凌ぎ、おぬしらは何もしない……。自分達にも出来る事は少なからずあったにも関わらず「仕方ない」の言葉で赦されると思っているのか!!」
「なんじゃと!」
 共鳴を解いたカゲリとナカラの台詞に神主は顔を真っ赤にしながら強く叫ぶ。それに対して上太は神主の前に一歩出る。
「僕はこんなやり方認めませんよ。もし、生け贄が必要と言うのであれば、贄になるのは若者じゃない。僕達大人から選ぶべきだ」
 上太の柔らかくも偽善とした口調に正論を突きつけられた神主は「ぐぬぬぬ」と小さく呻く。
 その時、美憂達の父親……若い神主は自分の父親へと口を開いた。
「お父さん、確かに彼らの言うとおりです。私は涼華が選ばれた時、止める事が出来なかった……美憂があんなにも言っていたのにも関わらず……」
「その結果、涼華と美憂大切な娘達まで失うところだった。これは愚神だけじゃない……私達全員の罪です。私達が今までして来た事はいくらこの先償っても赦されない……だけど私は二人の父親として二人の為に、この先何が出来るのか探して行きたいと思います」
「板野さんこれを」
 若い神主は「生け贄」に纏わる資料を渡し「お願いします」と短く上太へと告げた。その意味を上太は理解し神主へと力強く頷いた。

「有り難うございました」
 涼華はイリス達へとそう頭を下げた。それに対してイリスはアイリスの後ろに隠れる。
「二人に挨拶をするんじゃなかったのか?」
「お姉ちゃん……」
 アイリスの言葉におどおどしながらイリスは言う。涼華はそれを見てイリスへとスッと近づき、しゃがんで目線の高さを合わせる。
「有り難う。貴方達のお蔭で妹との約束が果たせた。私を助けてくれて、そして妹との約束を守らさせてくれて本当に有り難う」
 その言葉にイリスは少しだけ照れて、そして嬉しそうな表情をしながら「無事で良かった……」とそう涼華へと言葉を返した。それを見てアイリスは柔らかな笑みを浮かべた。
 美憂はその光景を見、心から安堵した。そんな美憂の側に立ち忍は口を開く。
「行くとこに困ったらHOPEに来なさい。あたし達はいつでも歓迎するわ」
 自らの運命を切り開くのは自分自身だ。そう意味を込めて彼女は告げた。その言葉を理解し美憂は忍へと頭を下げた。その時、彼女の後ろから近づく淡い光へと忍は気づいた。その光は優しく、まるで全てを暖かく包み込むような光だった。英雄を呼び出す条件は人それぞれだ。
 その光はもしかしたら――
 忍はそう感じ口許を緩める、それを見て玉依姫はいつの間にか憂いた笑み浮かべていた。

 上太は神社の階段を降りていた。風に乗って紅葉がひらひらと舞う。美優の父親から受け取った資料を本部と警察の方に提示すれば「生贄」などと馬鹿げた村の伝承染みたシステムは全て廃止されるだろう。それにあの少女達の父親は酷く後悔していた。でもだからこそ今度こそ大切な娘達を守る為に今何が出来るのか探して行きたいと告げた。
 それは紛れもなく彼の本心から出た言葉だった。上太はあの時その言葉を聞き、もう大丈夫、この父親は彼女達を一人の父親として守る事が出来るだろうとそう感じた。そして彼はふっと立ち止まりスマホの画像を開いた。
「僕の子も生きていれば、あの姉妹の年齢か……助かった命どうか大切にして欲しい……」
 そう願いを込めながらスマホの画面に映る亡き妻を見て想いを馳せた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • エージェント
    三坂 忍aa0320
    人間|17才|女性|回避
  • エージェント
    玉依姫aa0320hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 繋ぎし者
    坂野 上太aa0398
    人間|38才|男性|攻撃
  • 守護の決意
    バイラヴァaa0398hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • ヘイジーキラー
    壬生屋 紗夜aa1508
    人間|17才|女性|命中
  • エージェント
    ヘルマン アンダーヒルaa1508hero001
    英雄|27才|男性|ドレ
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