本部

愚神ピエタ達を討て

岩岡志摩

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/28 18:25

掲示板

オープニング


 ここにピエタという名の愚神がいる。
 かつてこの愚神は、生駒山周辺で繰り広げられた何度目かの大規模作戦で、自分が包囲した集落で救助を求める住民達を救い出そうとした部隊を壊滅させた。
 この時部隊の指揮官へ、部隊の撤退を黙認する見返りとして200人の住民達を見捨てるよう取引を持ちかけた。
『君達が助けようとした住民達200名を死亡扱いとすれば、君達の撤退を許可しよう』
 そして『戦略的撤退』という名目で部隊は撤退し、見捨てられた200人は『犠牲者多数』として処理された。
 この取引内容は200人の住民達にも届けられ、ピエタは集落にドロップゾーンを展開して包み、住民達を閉じ込めてそのライヴスを喰らい続けた。
 そして時は巡り、再び生駒山周辺で繰り広げられた戦いの前哨戦として、既にライヴスを喰い尽くした犠牲者達を化物に変え、愚神側の動きを秘匿する陽動目的で近隣の街へ送り込み、破壊活動をさせた。
 この時送り込んだ化物達は、駆けつけたエージェント達の手で撃破された。
 しかしピエタは、戦闘の過程でエージェント達が示した行動に興味を示し、自分に仕立てた分身の姿をエージェント達の前に送り、彼らへ来たるべき戦争への助言を行った。
 分身は撃破されたが、ピエタにとっては問題ない出来事だ。大規模作戦の過程で行われた、愚神商人によるゾーン拡大によって新たな従魔が発生し、愚神が集った事は想定にはなかったが、交戦するのはエージェント達であるので、それも問題ない事だとピエタは判断した。
 戦争においてピエタが主に狙うのは戦闘の過程で負傷し、後方へ搬送される人達や敗走する部隊といった、満足な迎撃ができない相手だ。
 ピエタには『戦いとは基本的に弱い者いじめだ』との考えがあり、そうしているだけだが、その手段として己の分身をできる限り増やし、自身を集団にして襲撃を行う事が多かった。
 ただピエタの分身を増やす術は、自分の力を分ける事でもあるので、攻撃の手数を増やしたり集団戦ができる利点はあるが、当然1体ごとの強さは弱くなる。
 そして術を駆使し『自分』を100体まで増やしたピエタは、展開されたドロップゾーン周辺の戦場近くまで近づくと周囲の枯木の群れに身を潜め、後方へ搬送される敵の負傷者達や敗走する隊が出るのを待ち構えていた。
 しかしここで予想外のことが起きる。突如骸骨の姿をした集団が隠れていたピエタ達に襲いかかったのだ。
 当然ピエタ達も迎撃し、なんとか骸骨達の殲滅に成功したが、引き換えにピエタの数は8体まで削られた。
「グラスプの奴、何を考えている!」
 9割近く戦力を削られたピエタは骸骨達を差し向けたであろう愚神へ向け悪態をつくと、戦場から離脱し、自身のドロップゾーンへと戻っていった。
 実はアンゼルムのもとにいる、あるいは集った愚神達は必ずしもお互いの関係が良好という訳でもない。
 中にはお互い殺し合うほど憎み合っている愚神達も混在していたが、上位存在であるアンゼルム達は、そんな愚神達同士の対立には無関心だった。
 そして退却するピエタは、自分の戦力を立て直す事しか頭になく、密かに自分を追跡する存在に気付かなかった。


「その愚神、ピエタですが。調査や『ある出来事』の結果、居場所を突き止めることができました」
 先日ピエタ絡みの事件を解決したエージェント達が提供した『証拠』や詳細な情報をもとに、担当官は全力でピエタの行方を調査し続けていた。
 そして追跡調査や戦場での動向を把握した結果、遂にその居場所を把握する事に成功した。
「生駒山を巡る大規模作戦や、展開されたドロップゾーンから放たれた従魔達や、呼び集められた愚神達との戦いを繰り広げゾーン拡大を防ごうと別働隊が奮戦していたのは記憶に新しいと思います」
 スクリーンに地図が映し出され、その上に1つの点が乗せられる。そこはかつて集落があったが、愚神達の襲撃を受け、記録の上では誰もいないはずだった。
 この地点こそピエタの居場所との情報を送ったのは、たまたま周辺で戦闘を繰り広げていたエージェント達だった。
 黒ヘルメット姿の集団と骸骨の集団の争いは、周囲の混乱具合を差し引いても異様であり、エージェント達を警戒させるには十分だった。
 その動向を注視していた数名のエージェント達は、骸骨達を倒して退却していくピエタの後を密かに尾行し、無人であるはずの集落に入っていく一連の動きを克明に撮影していた。
 スクリーンが黒ヘルメット姿の存在達が骸骨達が争う状況が映し出される。
 『ピエタ達』の手には狙撃用と思われる長銃を持ち、周辺に存在する枯木の間を跳躍し飛び移りながら、構えた銃から赤い光を骸骨に飛ばしたのち、骸骨の頭を撃ちぬき撃破する姿や、骸骨達に殺到された『ピエタ』が消えていく姿も確認できた。
「恐らくどれかが本物で、残りは自分の姿に似せた従魔でしょう。そしてエージェント達はさらに集落内へ踏み込んだ結果、人々の姿を確認する事ができました」
 映像が集落内部のものへと切り替わり、その中には残存する家屋内で昏倒する人々の姿が映されていた。
「エージェント達の報告では、内部はドロップゾーンで、辛うじて助け出せた数名は衰弱が激しいものの、息はありました。現在その方々は未だ意識は戻っておりませんが病院で治療を受けています」
 そして改めて担当官は話を聞くエージェント達に向き直り、頭を下げた。
「ドロップゾーンと化した集落の中にいる住民達はまだ生きています。全員ではないでしょうが、救いだせる命はまだ残っている筈です。安全確保後、中にいる人々を病院へ搬送する活動やドロップゾーン消去の為の専門家の手配、事後処理は私どもが全力で行います。どうかピエタを討ち、生き残っている方々を救い出して下さい」
 こうして遂に、過去から犠牲者達が届けた『願い』と『約束』を果たすときが来た。

解説

●目標
 愚神ピエタ達を全て倒す

●登場
 『ピエタ』8体
 身長1.8m。頭に黒いヘルメット、体にコート、手袋などを纏い全身を黒で統一した人型の愚神。
 『見捨てられた』住民達のうち、ライヴスを喰いつくした者達を手勢に変え、近隣の街を襲わせた元凶。
 調査や骸骨達との戦闘映像を解析した結果、武器は狙撃銃。最大射程は推定18。ただ狙撃前に対象へ向けダメージのない、レーザーサイトのような赤い光を銃から放つので、狙われている事を察知するのは可能。
 跳躍して移動する事が多いが、骸骨達との戦闘状況から鑑みて、防御や生命力はそれほど高くないと推測される。
 判明した能力は以下の2つ。
・影撃
 体から黒い針を飛ばし対象の影を撃つ。射程2。命中した場合対象に【封印】を付与する。ダメージ無し。使用回数3回。
・分裂憑依
 自分の力を分けて複数の対象へ憑依し、『自分』とする。手数や行動範囲を増やす反面、分裂させるほど1体の強さは弱くなる。
(PL情報:8体のピエタは『全て本物』だが、襲撃を受けかなり弱体化しており、1体あたりミーレス級程度の強さしかない)

●状況
 生駒山周辺の一角にある無人だったはずの集落。今はピエタのドロップゾーンが展開されている。
 偵察したエージェント達によると、建物の半分は倒壊しているが、住民達は残存する家屋の中で100名程昏倒しており、未だ生きている可能性はあるとのこと。周囲は平地で身を隠せるほどの大きさの枯木が周囲に立ち並び、見通しは悪い。集落内も瓦礫と化した家屋など、身を隠せる障害物はあちこち散乱している。現在『ピエタ達』は集落周囲を巡回する4体と、内部を守る4体に分かれ、防御を固めている。
 今回H.O.P.E.別働隊より、ハンズフリーの無線機が貸与される為、離れた場所の仲間との交信も可能。連絡すれば集落内の住民達を搬送してくれる。周辺地域は無人の為、道路封鎖や避難誘導の必要はない。

リプレイ


 枯木の群れの中を、H.O.P.E.別働隊に案内された8組の戦意たちが、その先にあるであろう、かつての戦いで『見捨てられた』人々がいまだ囚われているドロップゾーンと化した集落へ進んでいく。
「おそらく集落だけでなくその周辺にも敵はいるはずだよ。油断せずに行こう」
 豊聡 美海(aa0037)と共にあるクエス=メリエス(aa0037hero001)の助言に従い、既に全員共鳴化は終えている。
「天に召された方々が、永遠の安らぎに憩うことができますようお祈り致します」
 共鳴前に御童 紗希(aa0339)は祈りを手向け、自分もカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)との共鳴で、黒髪に青い左目の特徴を得て、戦場に臨む心はカイと共有している。
(そこに愚神もいるみたいだね。クエスちゃん)
 進む間、自分達の存在を秘匿するため、全員無線でお互いのみ聞こえる音量で、最小限の会話を行う。
 美海は内にいるクエスに向け心の声で会話していた。
 美海の言う通り、H.O.P.E.の粘り強い調査と『ある騒動』をもとに追跡を続けた結果、この先にあるドロップゾーンの主がピエタという名の愚神である事は既に判明している。
 そのピエタという愚神こそ、今回の依頼における殲滅目標であり、この場にいつエージェント達は、様々な心情や事情をもとに集まっている。
 かつてこの愚神は、自分達の大規模な動きを秘匿する陽動として、殺した住民達を化物に変え、付近の街を襲撃させた。
 その化物達は、この場にいる御代 つくし(aa0657)とメグル(aa0657hero001)、坂野 上太(aa0398)とバイラヴァ(aa0398hero001)、御門 鈴音(aa0175)と輝夜(aa0175hero001)、ヴィント・ロストハート(aa0473)とナハト・ロストハート(aa0473hero001)達の手によって退治され、彼らは犠牲者達の『願い』を受け取った。
 しかしそんな彼らが犠牲者を悼む気持ちを、ピエタは分身を遣わして踏みにじった。
(落ち着け鈴音……。怒りは冷静さを欠くぞ)
(……わかってる)
 共鳴化し、金の髪と瞳、白の着物を纏う姿となった鈴音の中で、輝夜は必死に鈴音の抱える怒りの手綱をとっていた。
 同じような思いをナハトと共鳴化し、髪を銀、瞳を赤に変え、左腕を真紅の異形に変えたヴィントやナハト、既にメグルとの共鳴化を終えて銀髪に紫の瞳と大きなローブを纏ったつくしやメグルも抱いている。
(つくし、気負いすぎないで下さいね。僕達だけじゃないんですから)
(……うん、分かってるよ。ここまで繋いでくれたんだから、終わらせなきゃ。……あの人達の、嘆きの分も)
 届けられたのは嘆きだけではない。『願い』と『約束』もある。だからこそ、自分はここにいる。
(嗚呼……貴様からすれば、犠牲にしてきた奴等は『犠牲者多数』の『廃棄物』でしかないのだろうな)
 あの時ピエタが、仲間達がたむけた犠牲者達への『悼み』を眼前で踏みにじり、『廃棄物』呼ばわりしたことをヴィントもナハトも忘れていなかった。
(愚神ピエタ……私は貴方を許さない。ヴィント……誓約の下、かの愚神に剣の死を贈りましょう……。それが、犠牲になった者達への鎮魂歌となる筈です)
 ヴィントの内にいるナハトも同じ想いのようだ。
(行くぞナハト……。奴に剣の死を贈ってやろう)
 ヴィントからすれば、ピエタは己が犠牲にした者への礼儀すら知らない無礼者だ。
 だからこそ『礼儀』を教え、犠牲者達の無念や嘆きの分も全て叩きつける。
 敵に察知されぬように光を抑えてバイラヴァとの共鳴を終え、髪の半分や瞳をバイラヴァの色とし、姿を20代の自分の姿とした上太も、ピエタへの戦意は高かったが、一方で仲間達への配慮も忘れてはいない。
 何かあれば駆けつけてフォローする心構えで、上太は戦場に臨む。
 一方で、テミス(aa0866hero001)との共鳴を終え、己の魔法具に十字の剣の意匠を施した石井 菊次郎(aa0866)や、クー・ナンナ(aa0535hero001)との共鳴を終えたカグヤ・アトラクア(aa0535)は別の因縁からこの場に集っている。
「救える命があるなら救う。自らの力不足を嘆きたくはないのでな」
 カグヤはそう意気込みを伝えつつ、別件についても思考を巡らせる。
 きっかけは依頼を受ける際に提供された映像に示された、ピエタ達を襲う骸骨の集団だった。
 かって菊次郎とカグヤは同じ集団を、とある場所で展開していたドロップゾーン内で目撃している。
(あの骸骨の従魔……)
(レゾ、グリスプに連なる者どもと思って良かろうな)
 今は魔法書に宿るテミスがそう菊次郎に告げる。
 レゾというのは、そのドロップゾーンの管理者を名乗っていた愚神の名前で、グリスプとはレゾの話では本来のドロップゾーンの作成者であり、その骸骨集団を作成した存在らしい。既に先の依頼で、レゾは菊次郎やカグヤ達によって退治され、ドロップゾーンも消去されている。
(愚神ピエタ……グリスプの敵でしょうか? 話を聞けば面白い情報が得られる可能性が高いですね) 
 そう思い、菊次郎は事前に仲間達へ『1体は即座に討たず愚神グリスプに関する情報を絞り出した後討つ』話を持ちかけている。
 最初は『やつに問うことなど何もない』と復仇に燃えるエージェントに反論されたが、自分とは異なる事情を抱える相手のことも尊重して、最終的には『自分達の見えないところで1体から情報を引き出した後、退治する』という条件で合意した。 
(己が欲望に振り回される奴らの事、この様な事も有ろうかと思っておったが小気味良い話だ)
 そうテミスは菊次郎へ語りかけるが、『何か裏がある』と菊次郎もテミスも考えていた。
 事前情報では、敵の数は8体で全てが『ピエタ』の姿をしている。担当官は従魔が7体で1体は本物と言っていたが、全て退治するからどれが本物なのかは問題にならない。
 むしろ厄介なのは、判明したピエタの能力の1つ、分裂憑依だ。
 エージェント達は、ドロップゾーン内にいる住民達を救助する予定のH.O.P.E.別働隊に、ピエタが分裂憑依で密かに住民達へ一部憑依し逃げおおせる危険性を指摘し、住民達を救助時にピエタが憑依しているか識別してほしいとH.O.P.E.別働隊に要請した。
 H.O.P.E.別働隊からは『骸骨達との戦闘に忙殺されていたピエタ達に、密かに近付き接触を果たしたり、その特性や能力を把握できた別働隊員達がいるので、その者達の使う術を応用すれば識別できる』と答え、仮にピエタが潜んでいても見つけだして始末すると、要請を快諾した。
 別働隊が識別可能の術を持ち、万が一の事態にも対処してくれるという話を聞いたエージェント達は、外で巡回するピエタ達を退治する『巡回班』と、内部に突入してピエタ退治及び住民達を守る事も兼ねた『突入班』に分かれ、集落内外でピエタ達を全て退治する為動き出す。
 ヴィント、鈴音、カグヤ、菊次郎が突入班に回り、つくしや美海、カイ及び紗希、上太も巡回班に回りバランスをとった。
 そして辿りついた集落の周囲には、複数の赤い光が線となって周囲を睨んでいた。
 その数は集落の外に4本。内側より4本確認できる。
『本当に素人じゃな。あれでは自分がどこにいて、どこを警戒しているか、丸見えではないか』
 無線越しに、カグヤの呆れた声が仲間達の耳のみに届く。
『ですが、おかげで巡回の眼を潜りやすくなりました。私達は外側から連中の動きを監視しています。何か変化があれば無線で連絡し、援護します』
 カイの支援を受ける紗希から頼もしい返事が仲間達に届き、突入班は巡回班の援護のもと、集落へと密かに進む。 
 そして赤い光の線を掻い潜り、突入班となった4人が集落内へ入り、援護を終えた巡回班も、枯木などの障害物に身を潜めつつ、ピエタ達を狙える配置につく。
 そして両班ほぼ同時に無線越しに合図が飛び交った後、集落内外で戦いが始まった。

●巡回班
 突入班へ合図を送った後、ピエタの1体が上太から放たれた銀の魔弾を受け、何かに殴り飛ばされたかのように吹っ飛び倒れ伏すと、複数の方角から、黒い人型が跳躍しながら接近してくる。
「あなただけは、絶対に許さない……! 許すつもりもないし、許したくもない!」
 倒れた1体のもとへ、3体のピエタが集まったところで、つくしの放つ不浄の風がピエタ達に猛然と襲いかかった。
 とっさに3体のピエタが周囲にある枯木の群れへと飛び退くが、上太の攻撃を受けた1体だけは逃れられず、残る生命力と共に不浄の風に体を蝕まれて、光の粒子となって消えていく。
(どれが本物かは分かりませんが、全て退治すればいいんでしょう? あの連中が犠牲となった方々に与えた以上の痛みを味あわせてやりましょう)
 つくしの内にいるメグルもつくしの戦意を支える。
 そして互いに周囲の枯木の群れを、障害物や盾としながらの攻防が始まった。
 その中でも美海は己に敵が放つ赤い光を集めるべく、あえて大胆に木々の枝を足場にして動き回る。
 できる限り敵たちを自分達の企図する位置や距離に追い込む形で敵をひきつける。それが美海の狙いだった。
 ピエタ達も赤い光を放った後、銃弾を同じ軌道で放ってくるが、つくし、上太、カイも枯木を盾にして狙撃を凌ぎ、ピエタの攻撃はことごとく枯木を穿ち、破砕するだけだ。
 今のところピエタの狙撃は仲間達には命中していない。赤い光が枯木の群れの中で飛び交う中、互いに木端をちらすのみの交戦が続く。
 ふと1体のピエタがカイの近くへ着地する。それを逃がすカイではなく、疾駆して大剣を振るうが、そのピエタは跳躍して斬撃をかわし、その足元から別のピエタから放たれた赤い光がカイの体を捉える。
 このままでは仲間が撃たれると判断した美海は、カイへ狙いを定めているピエタのもとへ疾駆すると、術の間合まで敵に接近後、ハイカバーリングを発動した。
 するとピエタの銃弾は、本来狙っていたカイではなく、己のそばで透明な盾を掲げていた美海に命中し、弾は美海の盾に弾かれた。
「行って下さい、紗希さん、カイさん」
 美海が盾となりピエタの攻撃を防いで稼いだ機会を活かすべく、共鳴時の意識の主導権を一時的に握ったカイがピエタとの距離を詰める。
「せめて土に還れ」
 力を込めたカイの重い一撃が、獅子の咆哮と幻影を伴ってピエタの体を切り裂いた。
 切断された部分から2つに割かれたピエタが倒れると、やがてかつてピエタだった身体は何も残さず、光の粒子となって消えていった。
(坂野のおっさん。今のでピエタの弱点がわかったぜ)
 内から聞こえるパライヴァの声に上太は耳を傾ける。
(確かに奴は命中も回避も高いんだろうが『それだけ』だ。攻撃力は前衛役なら無傷で済む範囲だろうな。みんなに教えてやれ)
 直ちに上太は無線で仲間達にピエタの特性を伝えると、それまで回避中心だった仲間達の動きが変化していく。
 当たっても無傷ならば、赤い光は逆にピエタ達の位置を示す役割を果たす。
(もう一つ効率よく倒す手段がありそうだぜ、坂野のおっさん。目の前にある枯木の一番上にある枝に、あと少しでピエタが飛び移ってくるから、飛び乗った時を狙って攻撃してみな)
 バイラヴァの助言に従い、上太は指示された場所を温存していた炎の術の範囲にするまで近づき、狙いを定める。
 やがてバイラヴァの予想通り、その枝の上へと1体のピエタが飛び移ってくるのを上太が見定め、枝に着地したピエタめがけて豪火を放つと、ピエタは逃げられず炎に包まれた。
(やっぱりだ。いくら回避が高くても、飛んで着地する時は躱しようがねえ。これも教えてやれ)
 直ちに今目の前で確かめた結果を上太は無線を介し、他の仲間達へと伝えると、上太は枯木の上から炎に抱かれて失墜するピエタのもとへと疾駆する。
「ここで仕留めます!」
(俺様が作った花折り紙の代償は高くつくぜ!)
 バイラヴァの意志に支えられ、上太は跳躍しながら氷を纏う剣を顕現し、落下するピエタと交錯する。
 氷風を纏った剣閃は、ピエタの体を縦に両断しピエタは体が地上へ叩きつけられる前に光の粒子となって消えていった。
 不意に赤い光が正面から見えたとき、つくしは自分の手前にあった枯木へと軽く跳ぶと、枯木の幹を基点にさらに横へ身を捩りつつ跳躍した。
 体と視界が急速に横へ回転するなか、つくしは目の前で狙撃銃を構えるピエタにウィザードセンスで魔力を収束して鋭化した銀の魔弾を放つ。
 ピエタが放った銃弾は風を纏ってつくしの横を通過し、つくしの魔弾はピエタの胸を撃ちぬいた。
 つくしが空中で体勢を立て直して着地する中、ピエタは苦悶の呻き声を上げながら、仰向けに吹き飛んだ。
「あなたは、ここで……っここで……!」
『貴方は、ここで殺します。覚悟して絶叫して下さいね』
 怒りのあまり言葉に詰まるつくしをフォローすべく、つくしの中にいたメグルがつくしとの共鳴を介し、己の声をピエタに冷たく伝えるが、相応の苦しみを与える前に、先の攻撃に耐えきれなくなったピエタの体は光の粒子となって消えていった。
 消化不良の想いが、つくしやメグルの心に積もる。
「集落内へ行きましょう。敵はまだいるはずです」
「速めに敵を片付ければ、それだけ住民達を助けに来る別働隊への連絡も迅速に行えると思います」
 紗希と美海の言葉を受け、つくしは意識を切り替え、上太も合流して、巡回班は集落内に突入した。

●突入班
 そのピエタにとって不運だったのは、昏倒している住民達に手を伸ばそうとしている姿を鈴音に見られた事だった。
 その時、鈴音の中で何かが弾け、気付いた時には弓弦を引き絞り、弓弦の音を纏う矢をそのピエタに放っていた。
 鈴音の弓より放たれた矢は『無駄なしの弓』の異名通り、眼前のピエタに避ける間も与えずにその体を射抜いた。
 胸を射抜かれたピエタは半回転して、呻き声を上げながら地に伏して倒れ、光る粒子となって消える中、残る3体のピエタは周辺の家屋の陰へと跳躍して散開し、次々と身を潜めていく。
 身を潜めているピエタの1体が、対峙するヴィントや鈴音達に声をかけた。
「招待状を出した覚えはないが、どうやってここまで辿り着いた?」
「自分で言った事も忘れたのか? 俺達の捜査能力ならば辿り着けると言ったのは貴様だぞ」
 ヴィントの言葉と共に、集落内でも、3体になったピエタとヴィント、鈴音、カグヤ、菊次郎達との戦いが開始される。
弓矢と複雑な軌道を描いてピエタに追いすがる2つの魔法の刃、赤い光に導かれた銃弾の応酬が繰り広げられ、ヴィントの無骨な大剣や鈴音の血色の長剣が、ピエタの放つ黒針を掻い潜ってピエタ達に襲いかかる。
 その物陰では、1体のピエタが菊次郎とカグヤによって確保され、『取引』をもちかけられていた。
「ピエタ様。何やら御身は私の求める存在と因縁浅からぬご様子。骸骨どもの主人、グリプスの事でございます。もしかの存在に至る情報を頂けるなら御身が今喉から手が出る程欲しいものを提供しましょう。復讐でございます。悪くない取引かと」
 戦意がないことを示す為、魔法書とは別の装備に変え、慇懃無礼に『取引』を持ちかける菊次郎だったが、当のピエタは『これのどこが!?』と反論しそうになった。
 既に自分の狙撃銃は、菊次郎の放ったカード状の刃で両断され、自分の片足は、今自分を組み伏せているカグヤの放った執拗に追い続ける魔法の刃で切断された。
「骸骨従魔に導かれてここにきたわけじゃが、そなたを裏切った相手を誅殺するのを手伝ってやるぞ。居場所や情報を寄越してくれぬか?」
 グリスプの話をすれば、目の前の人間達によって、グリスプも自分と同じ目に遭わせる事ができる。
 そう判断したピエタの口から滑らかにグリスプに関する情報が菊次郎とカグヤに届けられる。
「なるほどのう。グリスプもここの集落の住民達を殺す事に関与しておったのか」
「そ、そうだ。奴の方が主体だった。私やレゾはおこぼれに預かってただけで」
「ずいぶん大きなおこぼれじゃのう」
 仲間達が戦う間、裏方となって集落中を駆け巡り、集落の現状を把握したカグヤがピエタに酷薄な笑みを向けた。
 確認した限りでは、生存していた数は100名を超えたが、本来生きていたはずの200名には遠く及ばなかった。
 今も辛うじて息のある人々には、カグヤはピエタが憑依し操る可能性を考慮して、目立つ負傷は術で治療した後セーフティガスで『保護』してある。
 即座に救いたい衝動を辛うじて抑え『必ず助ける故、今少し寝ておれ』と言い残しここへ来た自分の葛藤など、目の前の愚神は分かるはずもないだろう。
「こ、これで全部だ。君達の手でグリスプを倒してくれ。わ、私は奴の被害者なんだ。見逃してくれ」
 1体でも逃げ延びれば、いつか力を取り戻すことができる。そう目論んだピエタだが、菊次郎は大仰に首を横に振り、カグヤは冷笑した。
「情け無い事を言われますな。事ここに至って御身程の存在が言うべき事では有りませぬ。聞かなかった事にしましょう」
 菊次郎は再び武器を魔法書に変え、先程までピエタをさんざん苦しめた刃を顕現する。ピエタから離れたカグヤは、魔術的な紋様の施された扇子を顕現する。
 地面に這いつくばって逃げるピエタに、菊次郎の刃が追いついて腕や足を切り刻み、光り輝く扇子を振り下ろしたカグヤの一撃がピエタの頭部を粉砕し、その体を光の粒子に変えた。
 残る2体のピエタも、狙撃も影への攻撃をものともしないヴィントと鈴音の猛攻に押され続けていた。
「自分の手で誰かを犠牲にした者は、犠牲となった者が歩んできた人生を含む全てを記憶すべきだ。それが、犠牲となった者への手向けであり、礼儀というものだ。その事をよくその身に刻んでおけ!」
 赤い光がヴィントに届き、ヴィントは己の大剣を眼前にかざす構えをとりながらも、なおも疾走を緩めない。
 次いでピエタの狙撃銃から銃弾がヴィントに襲いかかるが、剣戟に近い音を立てたのみで、ヴィントの大剣はピエタの銃弾を弾き飛ばした。
「今こそ犠牲となった者達との『約束』を果たす! 俺からの剣の死を受け取れ、ピエタ!」
 ヴィントの体がピエタの方角へと跳躍し、突進速度と重量を己が持つ大剣への衝撃力に添えると、防御を捨てた渾身の一撃をピエタの体へ叩きつけた。
 叩きつけられたヴィントの一撃に、ピエタの体が耐えきれる術はなく、そのままピエタの体は胸を貫かれた後、切断面を両側へ急速に広げ、その体を上下に両断されて吹き飛んだ。
「貴様には剣の死は贈るが『すくい』や『手向け』は与えない。貴様はその資格すらない。『廃棄物の愚神』として、俺の剣に記憶され、相応の惨めさの中で消えろ」
 光る粒子となって消えていくピエタに、ヴィントはそう宣告した。
 最後の1体となったピエタにも終わりが近づいている。
 すでに片足が鈴音の大剣で斬り飛ばされ、地面に尻餅をついた状態で、ピエタは鈴音に狙撃銃の銃口を向ける。
(怒りは必要じゃが、憎しみを抱いてはならぬ。お前は『人』じゃ。……そうなるべく生まれたわらわとは違うのじゃ)
 なおも必死に鈴音の怒りを制御しようとする輝夜だったが、文字通り今の鈴音は鬼気迫る勢いでピエタを追い詰めていた。
 ピエタからの赤い光が再び自分に届く。だが鈴音は恐れず、大剣の間合まで到達すると、一撃必殺を狙い、トップギアで力を貯える。
 次いでピエタの狙撃銃から銃弾が放たれ、それまで軽傷で済んでいた被弾が、やや深く鈴音の体にダメージを残すが、それすら振り返らず、鈴音の体が防御を捨ててピエタに向かって射出された。
「私はお前を絶対に許さない……」
 この愚神は犠牲となった人達を化物にして、その人達の『嘆き』と『願い』を弄んだ。
「お前に問う事など何もない……」
 そんな犠牲者達を悼む自分達の気持ちを、あの時こいつは目の前で踏みにじった!
 自分の内の中にある、今まで感じた事のなかった衝動を、ありったけ目の前の存在へ叩きつける事に、鈴音は何の躊躇も感じない。
「何も言わず消えて無くなれぇ!」
 圧倒的な豪風を纏って突っ込む鈴音と血色の大剣は、防がんとして振り上げられたピエタの狙撃銃を破壊し、勢い、威力を損なうことなくピエタの胸を貫いた。
 二つに割かれた狙撃銃が宙を舞い、地面に突き立つ前に、ピエタの体と共に光の粒子となって消えていき。
 死闘は幕を閉じた。


 全ての『ピエタ』を倒したエージェント達から連絡を受けたH.O.P.E.別働隊が、ドロップゾーン内から次々と中にいた人達を運び出していく。
「なるほど、そういうことでしたか」
 ピエタから得た情報も含め、菊次郎とテミス、カグヤはグリスプという愚神が何のために一連の行動を行ったのか看破した。
「『自分だけ逃げのびる』ためという事だ。グリスプがしでかしたことの『証拠隠滅』も兼ねて」
 テミスはグリスプの目的を口にすると、愚神の行動をその目的から鑑みて見直してみる。
 ドロップゾーンはレゾに押し付け、生き残った人々も巻き込んで自分達エージェントに処分させた。殺して従魔化した人々もピエタとの同士討ちに見せかけて処分した。
 そして己を知る、味方であるはずのピエタとレゾも、敵である自分達エージェントと戦わせて始末した。
 先に聞き出せたピエタからの情報を信じる限り、グリスプは生駒山での戦いの勝ち目は人間側にあると予測したらしい。
 アンゼルム達が討たれた場合、人間達による生駒山解放作戦が加速するのは間違いない。そして人間達は周囲に拠点を置く愚神達も容赦なく討伐していくだろう。そうなる前に全てを処分して逃げのびる。
 己の保身の為ならば人間達の命などいくらでも踏みにじり、敵である自分達エージェントすら利用し、味方である愚神達も生贄にする。
「いかにも愚神、といえばそれまでじゃが、わらわ達をも利用して自分は表に出ない分、始末が悪いぞよ」
 ピエタとの死闘後、負傷した仲間の治療に駆けまわっていたカグヤはそう言って嘆息する。
 だが手がかりは2つ得た。
 愚神グリスプの外見は『スーツ姿の初老の男』。グリスプの次の行動は『様々な事情で家を探す人々に、家を釣り餌にして誘き寄せる』事。
 恐らく既に生駒山から遠く離れた場所で、新たな犠牲者を増やすべく、動き始めているかもしれないとカグヤは思考する。
 どこかで泣いていたのだろう。目を真っ赤に腫らした鈴音が輝夜に支えられ、同じ状態のつくしがメグルに支えられてやってくる。
「……つくし。もう終わったんですよ。僕達に出来ることは、もうありません」
 メグルの言葉を耳にしたカグヤが鈴音や輝夜、つくしとメグルのもとへ駆け寄っていくと彼女らに助言した。
「まだできる事はあるぞよ。グリプスという名の愚神こそ『今回も含めた』一連の事件全ての元凶じゃ」
 これ以上何かの身勝手で人々が殺され、仲間達が泣くなど、許されていいはずがないから。
 カグヤの傍らにいるクーも眠そうな表情のまま、コクコクと頷いていた。
 そしてエージェント達より報告を受けた担当官は愚神グリプスの追跡調査を約束した。
「私が言える立場ではありませんが、グリスプという愚神にも、皆様を利用した事への代償も含めて、きっちり『精算』してもらいます。何か手がかりが得られましたらすぐに連絡いたします」
 依頼自体をその愚神が逃走する手段として利用された形となった担当官は、感情を押し殺した声でエージェント達にそう答え、グリスプへ辿り着く為の諸業務に取り組んでいく。
 後日、H.O.P.E.別働隊よりエージェント達へ『救出できた住民達の中にピエタは憑依していなかった』と報告があった。
 エージェント達がピエタ達を退治し、集落より救い出す事ができた住民達は100名以上おり、今は全員複数の病院で治療を受けているとのことだ。
 先に救出された人々と同じく、衰弱は激しかったが、治療を続ければ全員日常生活に戻る事はできるだろう、との事だ。
 また専門家によってドロップゾーンは無事消去されたので、これ以上ピエタによる犠牲が出ることはないだろう。
 全員は救えなかった。しかし犠牲となった人達から託された『願い』と『約束』は『半分』果たすことができた。 
 本来ならば死者は何も語れないし動けない。その想いや『願い』を受け取った人間達だけが、動き、叶える事ができる。残る『半分』は、逃げおおせた愚神グリスプに辿り着き、退治する事で果たされる。
 新たな追跡劇が生駒山から別の場所へと舞台を移し、幕を上げようとしていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    豊聡 美海aa0037
    人間|17才|女性|防御
  • エージェント
    クエス=メリエスaa0037hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 繋ぎし者
    坂野 上太aa0398
    人間|38才|男性|攻撃
  • 守護の決意
    バイラヴァaa0398hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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