本部

ヒーローの背中

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2015/11/27 17:25

掲示板

オープニング

●ワールドネットリンク
 ワールドネットリンク。略称をWNLという、地球上において電波の入らない地域は無いと言われる、あらゆる多言語にも対応した地球規模の超巨大放送局である。ドラマ、バラエティから討論番組、ドキュメントなども手広く製作するのだが、リンカー達の活躍を多く放送することで、世間の人々とリンカー達の垣根を取り除くということに貢献していると言ってもいい。
 HOPE本部にも敏腕プロデューサーがおり、名をポール・サン=ローランという。
「おはよう諸君。さて、君達に頼みたいのは他でもない」
 組んだ両手で顔の下半分を隠し、プロデューサーは厳かに話し始めた。
「これまでも、WNLではリンカー達の活躍や日常の素顔を番組で取り上げ放映してきたが、今回また新たな内容で番組を製作することになった。君達も知っていると思うが、リンカーの中にはヒーローという職業に就いて、スポンサー企業の広告活動や所属する企業のイメージ戦略に貢献している者達がいる。彼らの活躍を報道することで、リンカーという存在そのものやHOPEの社会的認知度と地位の向上にも役立っている。今回製作する新番組は、戦闘ももちろんだがそれとともにリンカーと英雄の日常生活にも密着した内容にしたいと考えている」
 かっこいい華やかな戦闘シーンのインパクトはもちろん絶大だが、リンカーや英雄という存在のイメージが、一般人とあまり乖離してもいろいろ不都合が生じる。そこで、ごく普通の暮らしをしている様子で、人々に『身近な存在』アピールもしたいという番組企画らしい。
「討伐対象もすでに目星は付けてある。デクリオ級とミーレス級の従魔が一体ずつだ。郊外の倉庫で、フォークリフトと業務用延長コードが従魔化して、討伐依頼が来ていたものだ。まずはこちらをすませてから、日常パートの撮影に移ろう。戦闘は、とにかく派手に頼むよ。ある程度編集でなんとかできるが、実際の動きに勝る迫力は出ない。日常パートは、あまりばらばらに行動されても困るが……そうだな、君達の趣味や好きなことを撮影しよう」
 プロデューサーは、リンカー達に従魔についての資料を配付したあと、忙しくあちこちと連絡を取り始めた。その合間に二本の指を額の辺りで軽く振ったのは、「健闘を祈る」とでもいった挨拶だったのか。
 ともかく、まずは従魔を倒しに行かなければならない。リンカー達は、資料に目を通しつつ会議室をあとにした。

解説

テレビ番組製作です。なるべく派手に戦闘をしてプロデューサーを満足させたあと、各々の日常生活を撮影されます。あまり緊張せず、素顔のままで振る舞ってほしいという要望が出ていますので、頑張ってください。

登場:
デクリオ級従魔『フォークリフト』
 すごい速さで向かってくる。直撃すると大ダメージ。小回りも利くし、壁を走るなどの動きも可能。
ミーレス級従魔『延長コード(業務用)』
 コードを延ばして攻撃してくる。足を取られたり、縛られて動きを封じられたりする危険がある。

リプレイ

●戦士達の姿を
 四輪の車体の前面に、二本の突起。まるで威嚇するかのように唸りを上げて迫ってくるフォークリフトの運転席は、無人だ。
 従魔化してしまっているのである。強さはデクリオ級。共鳴したリンカーが八人でかかれば、決して倒せない相手ではない。
 今回の戦闘で厄介なのは、フォークリフトが引き連れているミーレス級の延長コード従魔だ。長いコードが、蛇のように自在な動きを見せている。あれに巻き付かれたらふりほどくのは困難だろう。
 加えて、地形も戦いにくい。倉庫街なので、いろいろなものが大小置かれている。人の避難が完了しているのが幸いだ。
「行くぞ、リーフ!」
「ええ」
 多々良 灯(aa0054)と、リーフ・モールド(aa0054hero001 )がいち早く共鳴を開始する。共鳴により、17歳の少年である灯の姿は、23歳ほどのたくましい肉体へと変化した。黒い髪は長く靡き、赤い瞳が爛々と輝く。赤と緑のグラデーションの幻想蝶を留め具としたマントを、見せつけるように大きく後ろへ翻す。
 実際、演出である。今回の任務は、テレビ番組製作への協力なのだから。カメラマンは嬉しそうに、灯の共鳴シーンを撮影している。
 戦闘も、できるだけ派手にしてくれという注文を受けている。
「いくぞ、渚!」
「おう!」
 同じく共鳴を終えた水澤 渚水澤 渚(aa0288)に呼びかけ、灯はフォークリフトへ向かっていった。渚は後衛に回り、隙あらば銀の弾丸を撃てるように体勢を整えている。
 灯の動きは大きく派手だった。他のメンバーにフォークリフトと延長コードの注意が向かないよう、囮を努めている意味もあるのだろう。幼馴染み故にそれがわかるから、清原凪子(aa0088)はあわてた。
「十六夜(aa0088hero001)、共鳴しよう」
「わかった!」
 すう、と凪子は大きく息を吸い込んだ。
「いきます!」
 叫んで緊張を解すのと同時に、十六夜との共鳴が始まる。凪子の黒い瞳が十六夜の月の色を宿すのが、その証だ。
 武器はサーベル。大きく振りかぶり前衛へ飛び出した凪子は、わざと大きな動作でフォークリフトの前に躍り出た。足止めできないか試してみるつもりだった。
「ちょ、凪子あぶねえな! 怪我すんじゃねえぞ!」
 やはり幼馴染みである渚の声が飛んでくる。
 フォークリフトは、そんな彼らに向かって突進してくる。速い。灯、凪子、渚はばらばらの方向へ跳び、回避する。
 少し離れたところで、状況を見守っていた少女が口を開いた。
「素顔のまま……ん、いつも通り……でいいなら、ラク」
 テレビの取材に際して、普通の人間ならもう少し良い所を見せようと張り切ったり、緊張でガチガチに固まったりするだろう。
しかし、佐藤 咲雪(aa0040)は違った。
「めんどくさい」が口癖の無気力少女は眠そうな半目で、だるっとしていた。
「咲雪の普段の行動はテレビには向いてないと思うわ」
 咲雪の英雄アリス(aa0040hero001)が、世話焼きの姉のような口調で窘める。
「さ、共鳴するわよ」
「ん……」
 咲雪は、たすき掛けにしていた鞄を足下に置いた。バッグの紐が食い込み大きさが強調されていた制服の胸の部分を、適当になでつけて整える。
 共鳴が始まる。
「ん……めんどくさい」
『私たちは支援に徹するわよ』
「ん……」
 英雄であるアリスと共鳴した咲雪はフォークリフト型の従魔の行動を阻害する事を主にしていた。妨害は得意だが、真正面から殴りあう派手なやり方は苦手だからだ。
 しかし、疾走するフォークリフトの進路上を狙って放とうとした妨害スキルは、行動に移す前に阻害される。
「危ない!」
 誰かが叫んだのも遅く、咲雪は死角から伸びてきた延長コードに絡め取られていた。
「……きつい」
 胸を強調するように絡みついたコード。身動きを封じられたような姿はどこか扇情的にも見える。
『咲雪、テレビだからってサービスシーンは要らないわ。さっさと引きちぎりなさい』
 アリスが頭の中で発破をかけるが、延長コードの素材というのは丈夫にできている。まして業務用なのだからなおさらだ。
 しかしその時。
 破裂音とともに、コードの一端がはじけ飛んだ。しかも咲雪の身体の外ぎりぎりの部分。
「大丈夫?」
 長く靡く赤い髪。紫色の和装。狐の耳と立派な尾。
 今宮 真琴(aa0573)が奈良 ハル(aa0573hero001)と共鳴した姿だ。遠距離からの狙撃援護を得意とする彼女が、遠くの物陰からコードを撃ったのだ。
 ばらばらとコードが床に落ちる。その隙に、咲雪はその場から離脱していた。
 フォークリフトが、動きを止める。付き従うものの不利を知ったためか。
 だが、それは従魔にとって大きなミスだった。
 再びの破裂音。今度は連続して、フォークリフトのタイヤ付近で立て続けに起きる。
 鴉守 暁(aa0306)の狙撃だ。真琴と射線が重ならないよう、膝打ち、伏せ撃ちの狙撃態勢で確実にタイヤを撃っている。
 フォークリフトは、唸りを上げて後退し始めた。しかし時すでに遅く、パンクしつつあるタイヤでは先ほどのような俊敏さは望むべくもないようだ。
「んーカメラこっちきても何も出ないよー前衛映してきたらー? そっちのがヒーローものっぽいよー」
 アップで彼女を撮るカメラマンに、のんびりとした口調で言う。その間もフォークリフトから視線は外さない。
 一方、その前衛でも大きな動きがあった。
「勇ましき者、今一度その心に猛き灯をくべよ!」
 高らかに叫んだ早瀬 鈴音(aa0885)が、まだ動いていた延長コードをなぎ払い、床に叩きつけた。
『鈴音? 何なのそれ』
 脳内で突っ込みを入れてくる英雄N・K(aa0885hero001)に、楽観的な口調で答える。
「こういうのは、ノリでいいんじゃない?」
 そして再び向かってきたコードを槍で払いのけると同時に、フォークリフトと闘っていた灯が大きく転倒する姿を認めた。
「おっと」
 コードが向かってこないのを確かめ、そちらへ向かう。灯はかすり傷程度の負傷だったが、念のため回復させてやる。
「ありがとう」
「うん」
 いくら番組撮影とはいえ、意図的にピンチのシーンを長引かせるのも鈴音としては不安だった。それに、従魔との戦いはテレビ向けやらせではない。いつもと同じ、本気の戦闘だ。
 延長コードの方は、狙撃組が対応してくれているのが音でわかった。そろそろとどめを刺した方がいいだろう。
「そっちがんばってね」
「ああ!」
 二人は正反対の方向へ分かれ、それぞれの敵に再び攻撃を開始する。
「そっち行ったぞ!」
 フォークリフトの横合いに位置を取り、車輪の辺りを目掛けてロケットパンチを繰り出そうとしていた及川 柚里(aa1366)が、渚に向けて叫んだ。
 渚はフォークリフトの進路上から素早く跳び退る。もっとも、タイヤが完全にパンクした敵の動きは、もう恐るるに足るものではなくなっていた。
 そして放たれた銀の魔弾が、フォークリフトの正面に命中する。
「やあっ!」
 輝くサーベルを振りかざした凪子が、怯んだフォークリフトに一撃を加える。前に突き出た突起の一つが吹き飛び、その先にいた暁はさりげなく遮蔽物に隠れて難を逃れた。
 延長コードは、もうその時にはただの物質へと還元されている。驚異の一つを取り除いたと確かめた瞬間、鈴音、暁、そして真琴はフォークリフトへの攻撃へと行動を転換している。
 唸りを上げたフォークリフトの側面に、いくつもの弾痕が開いた。フォークリフトは轟音を上げて前進する。その正面には、黒い装束へと変化した真琴がいる。
 衝突。誰もがそう思ったことだろう。しかし真琴の姿はフォークリフトと接触した瞬間かき消える。
「惜しかったね……それは式紙……」
 まったく別の方向から、本物の真琴が姿を現した。
「響け……鈴鳴!(フラッシュバン)」
 魔力により造り出された閃光が、フォークリフトの影ごと呑み込む。正直視界に頼って動いているのかわからなかったが、動きが鈍ったところを見ると効果があったようだ。
「そろそろとどめお願い!」
 未だ弱まらない光の中、鈴音が叫ぶ。
 言葉で答えるより先に、柚里が動く。
 フォークリフトに、ゼロ距離でライブスローを放つ。アッパーカットのような軌道を描いた輝く拳は、鈍い音とともに車体にめり込んだ。
 軋む音。
 ほぼ同時に、フォークリフトは見事に横倒しになる。
「お膳立て完了、ってな!」
 柚里はそこで素早く辺りを見回し、横へ飛んだ。間合いを取ったのではなく、カメラに映らないように気を遣ったのだ。
 もう、敵に戦意も戦う力も残っていない。あとは、とどめを刺すだけ。
「そろそろそのフォークリフト休ませてやろうな」
 力を纏わせた剣を構え、灯が前に出る。
 両手で切っ先を真上に向け、ひたと敵を見据える。
 変わり果てた姿となった。だがここは、『彼』にとっては暮らしの場であり、安息の場でもあったはずだ。
 せめて安らかに。
「うおおおっ!」
 八つの目が見守っている。そして恐らくもっと多くの人が、『彼』の最期を目の当たりにすることとなるだろう。
 灯は、己の力のすべてを込めて、『彼』にライヴスローを放った。

●戦士の食事
「おつかれさまデース!」
「はーいおつかれー」
 従魔との戦闘を終えたあと、リンカー達は報告書を提出しなければならない。代表して暁が作成し、英雄のキャス・ライジングサン(aa0306hero001 )共々今出してきたところだ。
 戦闘があったのは、昨日。終わってみると夕方になっていたため、番組のもう一つの売りである日常生活パートは今日撮影することになっていた。
 暁とキャスの隣を、カメラマンとスタッフがついてきている。なるべくそちらを意識しないように、とプロデューサーから注意は受けているが、それは暁の場合問題なかった。普段からどちらかというとマイペースなのである。昨日、戦闘に入る前の打ち合わせの時も、
『オハヨーゴザイマース! よろしくオネガイシマース!』
とテンションの高いキャスに抱えられたまま、眠っていたくらいである。
『アカツキーついたヨー! グッモーネー!』
「……ああ着いた? おはうぃーす。ああー仕事はちゃんとやるから気にしないでー」
 おにぎりを食べながらそんなことをいっていたシーンも、実はばっちり撮影されていたりする。
 HOPE本部を出たところには広場があり、ベンチも配置されている。その一角に、今回一緒に仕事しているメンバーが全員揃っていた。英雄も一緒なので、遠目にもかなり目立つ集団だ。
「報告書ありがとうございました」
 真琴が一番に暁達に気づいて会釈する。
「んー……」
「キャー! 抱きついてイイデスカー?」
 キャスは、灯の足下でもふもふしていた彼の愛犬饅頭を見つけ、目を輝かせている。抱きつき魔なのだ。
 飼い主の灯は年上の女性にもともと弱いため、流されるまま「あ、はい、どうぞ」とか言っている。愛犬を可愛いと言ってもらえるのもまんざらではないようだ。カメラは、スタイルのいい英雄美女ともふもふ犬のツーショットを早速捕らえている。饅頭を全国のお茶の間に見せびらかしたい灯は、にんまりしていた。
「犬かー饅頭おいしそう」
 暁は、明後日の方向を眺めてぽつりとそんなことを呟いた。黒い髪をツインテールにし、小柄な体つきなのに胸は大きめという少女である。
「え、もうカメラ回ってんの?」
 鈴音が、携帯端末からはっと顔を上げた。実際こういう撮影とかが始めてなので、割とテンションが上がっている。おめかししてこようかとも考えたのだが、同世代の視聴者の親近感が湧くのではと考え、制服でやってきている。長い赤髪は、結わずに真っ直ぐ下ろしていて、黒い瞳とのコントラストが印象的な少女だ。
「ねえねえ、真琴。もう撮ってるってー」
 マフラーをしっかり巻いてきた真琴は、もともとあまり衣服に気を遣わない少女だ。それでも鈴音と並んでカメラに手を振っている表情は、目をきらきらさせて楽しそうだ。ショートの茶髪も、小柄な背丈も、鈴音と並ぶと好対照である。
「ところで、そろそろ行かなくていいのか?」
 柚里が、時計を気にしながら言った。茶色の髪をポニーテールにした、勝ち気そうな茶色の瞳の少女だ。今回の依頼を受けるにあたり、英雄のウォルター ドノヴァン(aa1366hero001)が宿題の妨害をしてくる勢いで押し切ってきた背景があるため、急いで今日の予定を終わらせたいという事情がある。ウォルターの方は彼なりに身だしなみを整えての参加だが、金髪に若干寝癖が残っているところが、彼の性格を物語っていた。
「そうですね、そろそろ行きましょうか。お腹も空いてきたし」
 凪子の一声で、彼らは連れ立って歩き出した。英雄と犬もいるので、総勢十八人プラス三匹。これだけいると徒歩での移動ではかなり時間と空間をとってしまうこととなった。
 今日の予定は、みんなで相談の上食事と買い物がてらの散策となった。日常生活を、と言うプロデューサーの要望だったが、まさかいきなり自宅にカメラをあげるのには抵抗がある者が多かったのだ。何しろ天下のWNL、全世界放送である。自分の部屋の様子が全世界に見られるなんて、ある意味恐怖の極みだ。
「そうかー! わたまるお散歩できて嬉しいか! お前人の多いところ大好きだもんなあ」
 犬バカ……もとい愛犬家の渚が、繁華街にさしかかったあたりで元気になった愛犬にでれでれと話しかける。もっふもふのマルチーズは、たふたふとあっちへ行ったりこっちへ行ったりご機嫌だ。もちろんリードはマナーである。
 灯も、「ああ……全身で楽しさを表現してるよ饅頭可愛い」と内心でれでれなのだが、クールな外見が微塵も崩れていないのはある意味すごかった。
「じゃあ、申し訳ないですがここから二手に分かれますので」
 リーフが、一同を代表してスタッフに声をかけた。人数が人数なので、同じ店で会食が難しかったのだ。犬連れ組はドッグカフェ、他のメンバーは普通の飲食店へと別れる段取りになっている。
「うむ、では二時間ほどのちに」
 ハルを先頭にした飲食店組と、灯をはじめとする犬連れ組に分かれ、それぞれ店へ入っていく。あらかじめ予約と撮影許可を取っていたため、どちらもスムーズに席へ通された。
 ドッグカフェは、店で接客する犬達もたくさんいて、犬連れ組は一気に和んだ。
 しかし。
「灯邪魔ーーー!!!」
 ティア(aa0288hero001)は、白銀の髪を逆立てて灯と渚の間に割って入った。青いリボンでツインテールにしている髪が、心なしか角のように逆立っているようにすら見える。
「渚にひっつき虫するんじゃないぞコラ!!!」
「な、何だよティア」
「渚! 食べよう!」
 反論しようとした渚の顔にぎゅうとメニューを押しつけるティア。ついでに、FからGにかかるほど豊満な胸も押しつけてやる。渚はぎにゃーとか言っていたが気にしていない。
「ま、まあまあ。落ち着いて。十六夜、わたし達も決めよう」
「うん!」
 いつもの和風テイストのスタイルでやってきた十六夜は、黒髪の中で一房が銀髪、蜂蜜色の瞳のやんちゃ系少年だ。黒髪黒目のゆるふわ系森ガールの凪子とのツーショットは絵になると見えて、メニューを真剣に検討する様子をカメラはアップで撮影していた。
「凪子ちゃんはいいけど、灯にはなぜかめちゃくちゃ腹が立つんだよなぁ」
 ぶつぶつ言いながらも、ティアは渚と仲良くメニューを覗き込んでいる。だが速攻でがっつり系に決めた渚がすぐ灯に話しかけ、その度割って入るためなかなかティアのオーダーは決まらないようだ。
 リーフは、渚と灯だけをじっと観察している。アースカラーが基調のナチュラル系清楚な森ガールファッションに身を包んだ緑髪茶の瞳の美女が、まるで女神のような微笑みを浮かべているのである。当然カメラはそちらにもレンズを向けた。
 無機質なる凝視に気づいた女神は、慈愛に満ちた眼差しで応える。
「私の日常は……灯と渚を見守る事でできています」
 澄んだ緑の瞳。それはまさに、森の奥深くにひっそりと湧く清浄の泉を思わせる。
「TVを見てる同じ趣向をお持ちの視聴者の皆様もいかがですか……」
 しかしその口から迸る言葉はわかる人にはわかるレベルでとんでもなかったため、オンエアはされなかったという。
 ともあれ無事に会食となり、犬連れ組はもともと幼馴染みということもあって全体的に和やかな雰囲気で食事タイムは終わった。
 犬用クッキーをお土産に購入し、六人と三匹は店を出る。
「良い子にしてたごほうびに後でやるからなー」
 灯が饅頭に話しかけていると、他のメンバーもやってきた。
「おまたせー」
「じゃあ、行きましょうか」
 このあとは、自由行動の散策買い物タイムである。

●戦士のショッピング
道中で気になる店を見つけたのか、アリスは一行に断りを入れてから1人で店舗に向かっていった。
「どこ行くんだろ」
 ティアの疑問には、契約者が答えた。
「ん……アリスは…重度なオタク……あっさり汚染された」
 そう。アリスが向った店はチェーン展開するアニメショップ。
 放っておけば適当に買い物して帰ってくるだろうと判断した咲雪は服屋の店頭にディスプレイされている洋服に目を向ける。
 普段着に学生服を身に纏うのは服装を選ぶ事が面倒だからだが、年頃の少女として咲雪もきれいな服には多少の興味があるのだった。
「え、ちょ、私も行ってくるわね」
 リーフが走り去っていく。同好の士なんだろうなとぼんやり思ったが、やはり咲雪は気にしなかった。
 同じ店を見ているのは、凪子と十六夜。十六夜の服を見繕うつもりなのか、セーラーカラーの服を彼に宛がって楽しげに話していた。
「男の子でもこう言うのってかわいいと思うんだ」
「そ、そうなのか?」
「うん。あと折角だからお揃いのアクセサリでも買おうか、十六夜。灯ちゃんと渚ちゃんにもお揃いで買ってみんなでつけたら楽しいと思わない?」
「うん!」
 仲のいい姉弟のようなやりとりだ。
 店内ではいつの間にか、鈴音とN・Kが試着していた。
「こんなん出ましたけどー?」「でましたけどー」
 同時に試着室のカーテンが開いて、ふりふり少女趣味な姿を見せてくる。
 咲雪が何となくそれを見ていると、二人は同時に言った。
「ないわー」「ないねー」
 遊んでいるだけのようだ。しかしないと言いつつ結構二人とも似合っている。同じ髪と目の色の彼女達は、顔を見合わせて楽しげに笑っていた。
「へー、そういう合わせ方もあるんだな」
 柚里は、何やら感心していた。彼女は至ってシンプルな服装で、それも似合っているのだが、服のコーディネートというのは常に年頃の少女達にとって楽しい悩み事なのだ。
 咲雪も、己のために楽しく考え込むためにじっと目の前のラックに集中を始める。
 一方外では、服以外のものに興味を向けたメンバーが各々まったりと楽しんでいた。
「この、雪国に訪れた春を思わせるまろやかな舌触り! ん~、おいしいなぁ!」
 食レポのようなコメントをしながら、ウォルターは必死にカメラにアピールしている。元々今回は彼の方が乗り気で、柚里を引っ張り出してきたくらいなのだ。気合いが違う。そうでもなければインドア気味の柚里は、休日の今日はいつも通りゲームと野球中継で過ごしていただろう。
「ちょっと君、少し右にどいて。彼女達撮りたいから」
「あ、はい! 申し訳ありません!」
 注意されて、ウォルターはしょげかえりながらぺこぺこと脇へどいた。
「どら焼き売っておるな……あ、こっちに三味線置いてあるぞ」
 カメラが映しているのは、ハルと真琴の姿だった。のんびりと店を覗くハルの横で、真琴はひたすら食べている。さっきから実は、お菓子、ケーキ、クレープと食べ続け、現在はアイスクリームの攻略中だった。
「真琴、お主は元はいいのじゃからもっとこう可愛らしいものをだな」
 ハルはしきりに真琴の気持ちを洋服の店へ惹こうとしているのだが、真琴は「洋服は動きやすければいい」という主義の持ち主である。
「そもそもリンク時は服装変わるんだから」
 溶けてしまいそうなアイスを必死でプラスチックスプーンですくう真琴に、ハルはあきれ顔だ。
「いっつも同じような恰好じゃないか、少しは洒落っ気をな」
 真琴はハルの剣幕に困って辺りを見回したが、そこでいいものを発見する。
「あ、ハルちゃん猪毛の高級ブラシが30%OFFだって」
「これくれ、いくらじゃ?」
「……早っ!!」
 ハルは赤毛黒目の和装獣人の女性で、狐耳と、二本の尾を持っている。尾の手入れのためにブラシは欠かせないのだ。
「ふっふっふーやはりブラシは高級品に限るのぅ」
「ハルちゃん尻尾ふさふさだもんねー」
 包んでもらったブラシを手に、ハルがご満悦で戻ってくる。真琴もようやく、アイスを食べ終わっていた。
「至福の時間じゃな」
「夜まで待ってねー」
 放っておけば、この場でブラッシングタイムに突入しそうなハルだった。
 この繁華街には食料品を扱うスーパーなどもあるのだが、そこで買い物をしているコンビを発見し、スタッフがカメラをもって入っていった。暁とキャスの二人連れだ。キャスは小麦色の肌に金髪、緑の瞳、そして何よりスタイル抜群なため、店内でも人目を惹いているようだ。
 カメラは、暁がカートに入れて押している籠の中を映す。高級ハムとちくわが入っていた。
「ああこれは帰ってつまみを作るんだよ。キャスはお酒大好きだからなー」
 気づいた暁が解説した。スタッフは、普段は何をしているかと質問してみる。
「んー私依頼がお仕事だし日常はのんびりしているよー銃の手入れとかー一日中本読んでたりとかー。雑学を余すところ無く詰めていくと色んなところで役に立つのだよー。撮影来るー? 茶は淹れてやろう」
 話している間に買う物は揃ったらしく、やがて会計を済ませた暁達と一緒にスタッフも再び外へ出た。
「あ、カメラさんきたよ」
 ちょうどそこで食べ歩きをしていた鈴音が、気づいてN・Kに言う。
「……ちょいまって、今食べてる」
 温和で優しげな雰囲気のN・Kが、らしくなく慌てふためいた。食べているシーンを撮影されるのはどうもNGらしい。鈴音は動じず、クレープを堂々と食べ続けていた。もちろんカメラは、そんな二人の姿をばっちり撮っている。
「……ぐぬぬ、ま、まあよし。ここはティアさんが大人になろうじゃないか。みんなで和気あいあいしよう……うん、しよう」
 買い物中の凪子の愛犬ゆきちゃんを預かり、饅頭とわたまるがもふもふじゃれている様をご満悦で眺める灯と渚から少し離れたところで、ティアは呪文のようにそう呟いていた。
「あ、でもわたまるのお披露目は嬉しかったなあ。それも含めて今日のところはゆるしてやろう」
 ティアとしては、渚とたくさんいたいのだ。なのに気づけばいつも、灯や凪子、リーフに十六夜が一緒にいることが普通になっていて。
 楽しいことは楽しいけれど、複雑な気持ちになる。
「……どした?」
 声と一緒に、ぬっと目の前にたこ焼きの船が現れて、ティアはびっくりして顔を上げた。
「……その、食べるか?」
 柚里とウォルターが、いつの間にかやってきていたのだ。
「たこ焼き?」
「何か、元気なさそうだったから……や、無理して食べなくてもいいんだけど、ほら、食べたら元気になるかもしれないから」
「熱々のを買ってきたから、おいしいよ。あ、でも火傷には注意だね。ソースと青のりとマヨネーズの風味が、口の中でフォークダンスを踊っているかのような味わいだよ!」
 ウォルターの謎食レポは正直よくわからなかったが、ティアはありがたく厚意を受けることにした。
「ありがと!」
 爪楊枝で、柔らかいたこ焼きをそっと拾い上げる。思い切ってひとかじり。
「熱っ!」
 さすができたてだ。でも口の中ではふはふしているうちに、おいしさがじんわり広がってくる。
 幸せ。
 続けて噛みしめた蛸の感触とともにティアはにっこり笑った。
 それを見た柚里は赤くなってそっぽを向き、ウォルターは何やらうんうんと頷いている。
「ふふふ、あなたわかってるわね!」
「いえいえ、そちらこそ!」
 そんな三人の背後で、怪しげな包みを大事そうに抱えたアリスとリーフが盛り上がっていたりするが、カメラは控えめに彼女達からパンしていった。

●WNL Presents
『……彼らは、まさしくヒーローである。しかしその日常は、我々と同じごくごくささやかで慎ましい幸せの上に成り立っている。その価値を知るからこそ、ヒーロー達の背中は強く美しく輝く。そう、世の中のすべての人の幸せを守るためにこそ、彼らは今日も戦い続けるのだから』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
  • 名監督
    及川 柚里aa1366

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • もふもふには抗えない
    多々良 灯aa0054
    人間|18才|男性|攻撃
  • 腐り神
    リーフ・モールドaa0054hero001
    英雄|23才|女性|ブレ
  • しっかり者のお姉ちゃん
    清原凪子aa0088
    人間|15才|女性|生命
  • 目指せお茶の間アイドル
    十六夜aa0088hero001
    英雄|11才|男性|バト
  • 荒ぶるもふもふ
    水澤 渚aa0288
    人間|17才|男性|生命
  • 恋する無敵乙女
    ティアaa0288hero001
    英雄|16才|女性|ソフィ
  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • 高校生ヒロイン
    早瀬 鈴音aa0885
    人間|18才|女性|生命
  • ふわふわお姉さん
    N・Kaa0885hero001
    英雄|24才|女性|バト
  • 名監督
    及川 柚里aa1366
    人間|15才|女性|攻撃
  • おいしさが大雪崩や
    ウォルター ドノヴァンaa1366hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
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