本部

従魔はうさぎに入りますか?

水藍

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/23 04:19

掲示板

オープニング

●始まりは1組のカップル
「……あれ? 今日、ふれあいコーナーやってないの?」
「ええ? そんな筈……、あれ? 本当だ……」
 都市部にある動物園よりは小さいながらも、それなりに動物の飼育されている動物公園のふれあいコーナーの前である。
 1組のカップルが、南京錠の掛けられたふれあいコーナーの入り口で足を止めた。
 ふれあいコーナーの入り口のドアには、張り紙が1枚貼ってあるだけであった。
「えー、と? ……うさぎとモルモットが謎の体調不良だってー」
「ええー。うさぎ、抱っこするの楽しみにしてたのにー……」
 残念そうに口を尖らせる彼女に対し、彼氏が宥める様に彼女の頭を撫でる。
「まぁまぁ。うさぎは触れなかったけど、あっちにポニーが居るってさ。ポニーで我慢しようぜ」
「ポニー? 背中に乗れるかなぁ?」
 不機嫌な顔から一転、期待に満ち溢れた顔をする彼女に対して、彼氏がにんまりと口の端を引き上げる。
「あんまりデブだったらポニーが潰れるんじゃないのかー?」
「っひどーい! もう、私そんなにデブじゃないもん!」
「どうだか? まあ、流石にポニーは子供しか乗せらんないだろ」
「えー……」
 再び不満げにしながらも、彼女は素直に手を引く彼氏に従って動物公園の奥へと進むのだった。

●紛れ込む珍種?
 動物公園の事務局で、園長の男性が頭を抱えていた。
「……」
「園長? 一体どうされたのですか?」
 事務の女性が園長のデスクに煎れたての煎茶を差し出した。
「ああ、有難う。……なぁ、君はチュパカブラ、って信じるか?」
「チュパカブラ、ですか……?」
 耳慣れない言葉を耳にし、事務の女性は顔をしかめる。
 チュパカブラとは、外国に生息するとされている未確認生物の名前で、家畜を襲ってその血を吸うとされている。
「え、ええと? 一体何のことでしょうか……?」
「……いや、いいんだ。気にしないでくれ。……それに、チュパカブラだったら血を吸うらしいしな……、違うか」
 ぶつぶつと独り言を漏らす園長に、事務の女性は疑問を抱きながらも園長の悩みについて聞いてみる事にした。
「何かあったのですか?……あ、そういえば小動物が謎の集団体調不良になってましたよね? もしかして、それですか?」
「……ああ、まあそうなんだけどね。体調不良、と言ってもなんだか元気がなくなってしまった様なんだ」
「へえ……?」
「まるで何かに精力を吸い取られたみたいな感じでね。それで、職員の中ではチュパカブラ説が出回っているとか」
「え、でもチュパカブラは血を吸うんじゃないですっけ? 傷口とかはないんですか?」
「そうなんだよ。そこで、不審に思った職員からHOPEに調査を頼んでみてはどうか、という意見が出てね」
 事務の女性の出したお茶を啜りながら、園長は言葉を続ける。
「まあ、未確認生物だろうがなんだろうが、従魔? とやらが犯人なら、話が早いんだがね」
「それを確認するためにも、HOPEに……、ですか。いい考えだと思いますよ?」
「君もそう思うかね?」
「はい。……じゃ、早速連絡してみますね!」
 事務の女性が近くにあった外線用の電話の受話器を持ち上げた。

●とある飼育員の嘆き
「おい、そっち行ったぞ! 捕まえろ!」
「わわっ、ちょ、待て!」
 ふれあいコーナーの飼育スペースである。2人の飼育員が、うさぎの数を数えていた所、見慣れない大きな白黒のハチワレ模様のうさぎが檻を壊して穴をあけてしまったのだ。
 そのうさぎが開けた穴から、そこにいた他のうさぎやモルモットが一斉に逃げ出し、飼育員はパニックになっていた。
「おい、お前! とりあえずここは俺が何とかこれ以上逃げない様に食い止めるから、園長に知らせてきてくれ!」
「はい!」
 足元にいたうさぎをやっとの思いで捕まえながら、1人の飼育員がもう1人へと指示を出した。
 指示を出された方は全速力で園長室へとつながる近道を駆け抜け、重厚な部屋の扉を壊さんばかりの勢いで押し開けた。
「大変です! うさぎが……、小動物が逃げました!」
「なんだと!?」
「えっ!」
 秘書の女性が電話をしているのにもかかわらず、いきなり飛び込んできた彼の様子に園長と秘書は驚きの声を上げる。
「……あ、ええと、大丈夫です。ちょっと動物が逃げ出したようで……、はい」
「……君、電話中だ。別室に移動しよう」
 すぐに冷静さを取り戻した秘書の姿を見て、園長も冷静に指示を下した。
「え? い、いいんですか!? 園長! HOPEの方が逃げ出した動物も捕獲しましょうか、との事です」
「なんだと!?」
「えっ」
 願ったりかなったりの相手の申し出に、園長は飛びつく様に受話器を秘書から取り上げた。

解説

衰弱していく動物たちの原因である、うさぎ従魔を見つけ出して討伐し、そして園内に散らばったうさぎとモルモットを捕まえてください。

●うさぎとモルモットについて
 うさぎ(従魔を含まない)→30羽(内6羽を捕獲済み)、逃げ足は速いですが集団で行動することが多いので、ひとつの場所に固まっている場合が多いようです。
 モルモット→12匹(内2匹を捕獲済み)、単独行動を好みますが、逃げ足はあまり早くありません。

●被害にあった動物
 今のところはふれあいコーナーにいる動物たちだけです。お客さんには被害者はいません。
 ふれあいコーナーを封鎖したら被害はぱったりと止みましたが、これから被害が増えるかもしれません。

●居なくなったうさぎ従魔の特徴
 ・ハチワレ模様の白黒のうさぎ型です。
 ・通常のうさぎよりも一回り大きい体格をしています。
 ・最後に目撃されたのはキリンの檻辺りになります。
 ・逃げ足が速く、攻撃はかみつく位ですがげっ歯類特有の歯で攻撃してくるため、攻撃を受けた場合かなりの深手になると見込まれます。
 ・戦う事よりもほかの動物のライヴスを吸うために逃げる事を優先させるようです。

●動物公園について
 ・展示範囲は14ヘクタールあります。公園全体では、20ヘクタールです。
 ・事件発生当日は平日で、お客さんは少ないです。
 ・午後からは事件解決まで公園を締める予定になっています。

リプレイ

●園内では迷子に気を付けましょう
 依頼のあった動物公園に到着したのは、午前11時の事だった。
 園内は異様な賑やかさと混乱を醸し出していた。明らかに動物公園特有のほのぼのとした空気が死んでいる。
「さて、それじゃあ手分けでもするか。……情報収集と客の避難誘導、の2班でどうだ?」
 真壁 久朗(aa0032)がパニックに包まれている動物公園の空気を切り裂く様に口を開いた。その横で、セラフィナ(aa0032hero001)はきょろきょろと物珍しそうに動物の檻を見まわしている。
「うさぎって食い物じゃ無かったのか……」
 班分けの相談を行っている能力者と英雄をしり目に、骸 麟(aa1166)がそっと呟いた。
「麟殿、それを外界で言うと人でなしとして袋叩きに遭うでござるよ」
 麟の呟きを拾った宍影(aa1166hero001)が、麟の耳元でそっとささやく。
「え? 何それ怖い! ……じゃ、じゃあ、こっちではうさぎって何なんだ?」
「神でござる。小さくてもふもふで一人だと淋しくて死んでしまう絶対の正義! 凶暴な齧歯類でネズミの仲間と言ったら学者でも身の危険が有るので強引に別の種類の動物という事にされた位でござる」
「ひぃぃぃ……」
 宍影のささやきに、麟は震えながら己を抱きしめた。その知識が若干偏って居る事など、訂正するものは残念ながら誰もいなかった。
 今さっき取り入れた知識を脳裏に焼き付け、麟は真面目に班分けの相談をしている面々に向かって顔を上げた。
「はい! 私めは、是非ともうさぎ様の捕獲に協力したいと思います! つきましては、うさぎ様を捕獲するにあたって情報収集の班に入りたいと存じます!」
「そ、そっか……」
 麟の宣誓の様な主張に、思わず唐沢 九繰(aa1379)は怯んだような声を上げてしまった。
 九繰が怯んでいる間に、エミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)が徐に手を上げた。
「私と九繰も情報収集に参加したいと思います。人手は多い方がより多くの情報が集まるでしょうし」
 エミナの提案に、久朗も強く頷いた。
「じゃあ、俺とセラフィナ、麟と宍影、そして九繰とエミナが情報収集の班で決定だな。後の人員は避難誘導、そして興奮しているであろう他の動物の鎮静を飼育員に依頼する、でいいか?」
 興味津々に近くにあるライオンの檻に近づこうとしていたセラフィナの服の裾を掴んで行動を制限しながら、久朗が的確に班分けを捌いた。
 情報収集担当に分けられた面々は勿論、避難誘導に振り分けられた加賀美 春花(aa1449)、CERISIER 白花(aa1660)も満足げに頷く。
 避難誘導に分けられた人数を人知れず数えていた蒼焔(aa1432)が、何かを考えるそぶりをしながら口を開いた。
「避難を優先させるのは良いことだが、その途中で逃げ出した動物たちに出会ったら困る。……つまり、出来れば動物を捕獲する事を専門にする者が居ると助かると思う」
 蒼焔の言葉に賛同するかのように、アクアルート(aa1432hero001)も小さく頷く。
「じゃあ、恭也とボクがうさぎさん達をさがすね!」
 御神 恭也(aa0127)の契約英雄である、伊邪那美(aa0127hero001)が声を上げた。
 伊邪那美の隣に立っている恭也はやる気のこもった様子の伊邪那美の方を見下ろしながら、肩を上下させた。
「とりあえず従魔倒して毛玉集めりゃいいんだろ?」
 伊邪那美と恭也のやり取りを静観していた水落 葵(aa1538)が気だるげに声を出した。
「もっと小動物に対する慈愛を持てよおっさん!」
 ウェルラス(aa1538hero001)が焦ったように葵の腰の辺りを殴りつけながら言った。どうやら、ウェルラスは葵が小動物を毛玉と言ったのが気にくわなかったようだ。
 ぷんすか、とでも擬音のしそうなウェルラスを困ったように見ながら、春花が苦笑を浮かべる。
「じゃあ、うさぎ達を捕まえるのは御神君と伊邪那美ちゃん、水落さんとウェルラス君だね」
「それでは、うさぎとモルモットの事は頼んだぞ、恭也、伊邪那美、葵、そしてウェルラスよ!」
 春花の言葉を続ける様に、エレオノワール アイスモア(aa1449hero001)が何処か気品を感じさせるような動作でもって4人に小動物たちの保護を託した。
「さぁ、のんびりしてはいられませんわ! 早く取り掛かりましょう!」
 プルミエ クルール(aa1660hero001)の言葉に促され、能力者とその英雄たちは動物公園の奥へと足を踏み入れたのだった。

●飼育担当の失態
「……さて、それじゃあ始めるとするか」
 久朗は小動物担当の飼育員を捕まえるべく、ふれあいコーナーへと足を向けていた。
「クロさん、クロさんっ! 僕、早くうさぎを触りたいです!」
「おー、全部終わったら飼育員に触っていいか訊いてやるよ」
 やったぁ、とはしゃぐセラフィナを微笑ましく思いながら、久朗は事務所のドアをノックする。
 久朗のノックに反応してか、中から若い男性の声が応答し、そして少ししてから中から扉が開かれた。
「えっと……、HOPEの方、ですか?」
 どこか頼りない印象を受ける男性が、久朗とセラフィナをおどおどしながら見た。
「ああ、HOPEから依頼を受けたエージェントだ。ちょっと聞きたいことがあってな。……小動物担当の飼育員はお前であってるか?」
 自分よりも身長の低い飼育員と思しき男性を見下ろすと、彼は慌てて大きく頷いた。
「っはい! 僕がうさぎ担当の飼育員です! ……あ、あともう1人、僕の先輩もそうなんですが……」
「そうか。じゃあ、そいつも呼んでもらえるか? 被害にあった動物やら逃げ出したデカいうさぎについて聞きたいことがある」
「分かりました! すぐに呼び出しますので……、ええと、コーヒーでもいかかですか?」
 室内へと促され、久朗とセラフィナは素直に従った。
 飲み物を進める若い飼育員に、セラフィナが目を輝かせた。
「僕、お砂糖を入れてほしいです! あと、ミルクも!」
「……悪いな、こいつのには砂糖とミルクを多目で頼む」
「はい!」
 申し訳なさそうに言う久朗に、若い飼育員はすっかり緊張が解けたのだった。
 一方その頃、同じくして情報収集にあたっている麟と宍影はと言うと、出口近くで聞き込みにあたっていた。
「うさぎ様のお姿を何処かで見かけませんでしたか? ……決して取って喰おうなどとは思って無いよ!」
 何やら怪しい事を言ってのける麟に、宍影は困ったように声を掛けた。
「麟殿、そのように下心丸出しでは周りの方々も不審に思ってしまうでござるよ。……ここは1つ、鉢割れの大型うさぎを見なかったか聞くでござる」
「おお!」
 宍影の提案に感嘆の意を表した麟は、近くにいた飼育員の服を来た女性に声を掛ける。
「お忙しいところ、申し訳ない! 少し聞きたいことがある」
「は、はぁ……?」
 呼び止められた飼育員らしき女性は、怪訝な顔で麟たちへと振り返った。
「ここの飼育員であるとお見受けする! 時に、巨大なハチワレ模様のうさぎをお見掛けしなかったか!?」
 麟のどこか芝居がかった言い回しに、女性は困惑したような表情を浮かべた。
「私はキリンの飼育担当ですが……。ええと、うさぎ? ですか? ……そういえば、避難する前にそんな感じの模様のうさぎを追い払った、ような……」
「真にござるか!」
「え、ええ……」
 食いつくように身を乗り出した麟に怯みつつ、女性飼育員は言葉を続ける。
「確か、逃げようとするときになぜかキリンの檻に入り込もうとしてるうさぎが居たので、なんとなく覚えてます。……ハチワレ模様だったかどうかは……、ええと……」
 必死に過去へと思考を巡らせる女性飼育員に、麟は慌てて手を差し出した。ちょうど、女性飼育員の顔の前に麟の掌が来るような具合だ。
「あいやまたれい! そこまでわかって居たら大丈夫です! 貴重な情報、ありがとうございました!」
 ぽかん、と呆然とした様子の女性飼育員をその場に残し、麟はそのまま疾風のごとく駆けだした。そのあとを、宍影がいそいで追いかける。
「飼育員殿、貴重な情報を提供していただき、礼を申し上げる! それでは、われらはこれにて!」
 すっかり見えなくなった麟の背中を追いかけていった宍影の背中をみつめながら、女性飼育員は呆然と立ち尽くす。
「……一体なんだったの?」
 彼女の中で、麟と宍影の存在が迷宮入りした瞬間であった。
 麟と宍影が女性飼育員に聞き込みをしている頃、九繰をエミナは1人の飼育員から話を聞いていた。
「大型の動物、ですか……」
「はい。どうやら、ふれあいコーナーのうさぎのなかに従魔が紛れ込んでいたみたいで……。それを倒すために私達が派遣されたんです」
「そうですか」
 ベテランの様な風格をしている男性飼育員は、自身の顎に生えた顎鬚をなぞった。
「それで、出来れば動物が密集しているところや大型の動物がいる場所を教えていただきたいのです」
「ふむふむ、なるほど。……でしたら、動物公園の北の方、大型の草食動物のエリアあたりですかな」
「草食動物、ですか」
 男性飼育員の口から出た言葉を反芻する九繰は、事前に渡されていた動物公園のパンフレットを広げた。
「ああ、丁度このあたりですな。ここには群れで生活する動物や、キリンなどの大型動物を飼育しています」
「そうですか!」
 パンフレットに書かれた地図の上部を指さした男性飼育員の指先には、キリンやゾウの絵が描かれている。
「じゃあ、そこに行ってみますね。ありがとうございました」
「はいはい、お役に立てたのであれば幸いです。……ああ、そうだ。大型の草食動物のエリアには、こっちから行った方が近いですよ」
「ありがとうございます! それでは!」
「ありがとうございました。お仕事、頑張ってください」
「はい、こちらこそ」
 互いに礼を言い合い、男性飼育員は持ち場へ、そして九繰とエミナは教えられた場所へと足を向けた。

●避難は迅速に
 午前で閉まってしまう動物公園の出入り口は、人でごった返していた。
「白花様。わたくし……、街中で見る『いぬ』や『ねこ』や『すずめ』でない動物をぬいぐるみ以外で直接見るのは初めてですの……!」
 どこか興奮した様子のプルミエを、白花は微笑ましく思った。
 プルミエにとっては見たこともないような動物が沢山いるこの動物公園では、見るものすべてが物珍しく映るようだった。
「怯えなくても大丈夫ですよ。取り扱いさえ間違わなければ臆病な彼らは心を開いてくれるものです」
(……とは、白花様が申されましてもわたくしにとってはほとんど未知な生き物ですわ!)
 にっこりとほほ笑む白花の笑顔を見ながら、プルミエは緊張で震える指先をごまかすように手を握り込んだ。
 すっかり緊張しているプルミエの様子を見ながら、白花は見事に避難誘導をこなしていく。
 その間に、プルミエは持っていたノートパソコンで小動物の取り扱いについて検索をしていた。
「これによりますと……、『うさぎ』は……、片手で首の後ろを大胆なぐらいに掴んで、片手でお尻を支えるのですね」
 プルミエの近くにあるフラミンゴのサークルでは、呑気にフラミンゴたちが片足で立ちながら眠っている。
「『もるもっと』は……、驚かせないようにお腹の下からすくい上げるように抱え上げるのが良いらしいですわ。そのあと抱きかかえてお尻を支えるのが良い……と。……これでは一匹ずつしか抱えられませんし、捕まえる度に戻るのはやや非効率で反逆的ですわ!」
 効率の悪さに気付いたプルミエは、困ったように白花を見上げた。
 プルミエに見上げられた白花は、にっこりと余裕の笑みを浮かべている。
「ケージと言うものがあるのですよ、プルミエ クルール」
 白花による小動物の持ち方講座が開かれているとは微塵も知らない春花とエレオノワールは、動物公園を巡回していた。
「エルちゃん、迷子にならないようにね」
「ハル、余をなんだと思っているのだ? 余は子供ではないぞ!」
 客を出入り口へと誘導しつつ、春花はエレオノワールと共に動物公園の奥へと進んでいた。
「カバさんの檻は大丈夫……、と。エルちゃん、次に近いのはどこの動物かな?」
 エレオノワールの主張を聞いているのかいないのか、春花はエレオノワールと固く手を繋ぎながら動物公園のパンフレットを広げた。
「ハルよ……、余の話をちゃんと聞いてはくれぬのか……。……、まあいい。次は目撃情報のあったキリンの檻近くに行くぞ!」
 気を取り直して、エレオノワールは春花の手を引く様に歩みを速めた。傍から見ると、動物公園にはしゃいでいる世間知らずの王子のようだ。
「はいはい。エルちゃん、足元には気を付けてねー。……あれ、あの人達は……。スリジエさんとプルミエさん……?」
 見慣れた能力者と英雄の姿に、春花は足を速めた。

●散らばったもふもふ
 恭也と伊邪那美は、うさぎが逃げた場所から近くにある何かの隅っこや暗がり、穴の中を見つけて足音を立てない様に注して接近して探査していた。
 暗がりの中、ぼんやりとうさぎの体毛の色が浮かび上がる。
「伊邪那美、そっちを頼んだ」
「うん!」
 伊邪那美と二手に分かれて、網を利用して行動範囲をせばめるようにしてじりじりとうさぎを追い詰めていく。この方法で、今の所8羽のうさぎと2匹のモルモットを捕まえていたのだ。
「恭也が、うさぎさん達の習性を知ってるなんて意外だね」
 じたばたと網の中で暴れるうさぎをケージに優しく入れながら、伊邪那美が感心して声を上げた。
「前に猟師の人に教えて貰ったんだが、……あー、理由は言わないから涙目で無言の非難をするのは止めてくれ」
 理由を察して、伊邪那美が恭也を非難するように見上げる。まるで子猫を守る母猫の様な目つきだ。
 ケージに入ったうさぎ達を自分の後ろに隠しながら、伊邪那美が神妙な顔つきをした。
「みんな、こっちにおいで。恭也に捕まったら食べられちゃうから」
「ウサギは兎も角、モルモットは食べないのだが」
 もたもたとケージの中を移動するモルモットを見ながら、恭也はため息を吐いた。
 冗談はともかく、うさぎとモルモットを捕まえなくてはならない。 
 いまだに恭也を怪訝な顔で見上げる伊邪那美から視線を外し、恭也は何げなく視線を近くの草むらへと向ける。
 ふと、何か茶色いもこもこしたものが動いた様な気がした。
「……伊邪那美」
「ん? また居たの?」
 どこか切羽詰まった恭也の声に、伊邪那美は素早く反応して網を両手に持って立ち上がった。
 恭也の見つめる先に伊邪那美も視線を遣り、――そして草むらに駆け寄った。
 草むらの中には、隠れる様にして1羽のうさきがぐったりと横たわっていた。
 伊邪那美は素早くそのうさぎを抱きかかえると、すぐさまケージへと入れてやった。
「こんな酷い事をする子は、皮を剥いで海水を掛けて吊るすべきだね」
「……稀にだが、お前の方が酷い事を提案する事があるな」
 自身の英雄の暗黒面を見た様な気がして、恭也は空を仰いだ。

●餅は餅屋、肉食は肉食飼育員
 きょろきょろと何かを探すアクアルートを見て、蒼焔は気付いた。
 アクアルートが探しているのは、間違いなくうさぎかモルモットであろう。
 小動物に触れた事などないアクアルートは、うさぎとの触れ合いをひそかに楽しみにしていることを、蒼焔は知っていた。
「さて、ルゥ。うさぎと触れ合うには一仕事しなければならない」
 蒼焔が傍らにいるアクアルートへと語り掛ける。
「私達は今回、小動物の形をしている従魔を倒す。……しかし、従魔とはいえ傍から見れば小動物の形をしているだけに、弱者をいじめているのとなんらかわらん。子供の目に戦いの景色を見せるのはよろしくない、と私は思う」
「……うん」
 蒼焔の言葉に、アクアルートは素直に頷いた。
 自身の契約英雄とは言えども、アクアルートは外見年齢からしてまだまだ子供の範疇に入るだろう。蒼焔はつづける。
「子供達には夢とふれあいを。を崩すわけにはいかんからな」
 私たちは一般人の避難を最優先に行わなくてはならない、と言外に告げる蒼焔に、アクアルートは全てわかったうえでもう一度頷いた。
 アクアルートが了承したことを確認し、蒼焔は早速仕事に取り掛かる事にした。
「さて、ここに、九繰と春花から貰った情報がある。それを頼りに探索をしよう。……それと、飼育員に肉食系の動物の鎮静も依頼しよう」
「うん」
「……私が飼育員に依頼している間、ルゥはライオンを眺めていても構わない」
「!」
「こういうところに来るのはなかなかないからな。……見学位なら許容範囲内だろう」
「……うん。ありがと、レア」
「礼には及ばない。ルゥの強い希望もあって今回の依頼を受けたのだから、ルゥにも何かしら良いことがあっても然るべきだろう」
 嬉しそうに頬を赤らめるアクアルートを、蒼焔は愛しく思うのだった。

●犯人は足跡を残す
「ほら、白花が持ち方メールしてくれたぞ! これを参考にしろ!」
 がなり立てる様に葵に向かって携帯端末の画面を見せるウェルラスは、先ほどの葵の過ちを二度と起こさない事に躍起になっていた。
 葵の起こした過ち――、それは、小動物の扱い方だった。
「ったく……、おっさん、いい加減にしろよ?ここは動物公園だぞ? 動物を売りにしているし、それになにより小動物はデリケートなんだからな!」
 ぶつぶつと小言を漏らすウェルラスとともに、葵は空のケージの乗った台車を押している。
 この台車を借りる時も飼育員に向かって『毛玉』発言をして飼育員の硬直を目の当たりにしたのだ。今度は気を付けたい。
 道中、ぐったりした小動物をケージに入れたり、逃げ回るうさぎと追いかけっこを繰り広げて、ウェルラスはもうくたくただった。
「……あ? んだあの鹿、ぐったりしてねぇか?」
「鹿ぁ? ……おっさん、あれはインパラ! ここ! 書いてあるだろ!」
 葵の視線の先にいたのは、見るからにぐったりとして地面に横たわるインパラだった。
「鹿っぽいから鹿だろ。……んで、こいつどうしたんだ」
「だからインパラ! おっさんは適当すぎる! ……従魔にやられた、っぽいな」
 ぐったりとしているインパラを目の当たりにし、ウェルラスは近くを通りかかった飼育員に声を掛ける。
「あの、すみません。あのインパラ……」
「え? ……わぁ! 大変だ! 教えてくれてありがとう。さっきもこの近くで、うさぎとモルモットがぐったりしててね……。困ってたんだ」
 竹ぼうきを持った飼育員は、そう言い残して慌ててインパラの飼育スペースへと駆けて行った。
「……おっさん、聞いたか?」
「まあな。またぐったりした毛玉がいたのか」
 台車に乗ったケージのいくつかの中では、同じようにぐったりとしているうさぎがいる。
「この近く、ってことは……、従魔がこの大型草食動物エリアにいる、って事か?」
 ウェルラスが辺りを見回していると、葵の持っている携帯端末が唐突に着信を告げた。
 液晶画面を見ると、メールのようだ。
「……従魔発見の報告?」
「宍影さんからか! ……おし、おっさん、急いで合流すっぞ!」
 ウェルラスが、重たい台車を押して先を急ぐ。葵も、ウェルラスにいくらか遅れる形でその後を追った。

●暴れるもふもふ
 ぴょん、と草陰からなにかが飛び出してきた。
 全力疾走していた麟は急ブレーキをかけて、その飛び跳ねるものへと焦点を合わせる。
「……あれは」
 がさごそと草の音を立てながら、大きなハチワレ模様のうさぎが麟の目の前から消え去った。
 どうやら、インパラの檻の近くから出てきたようだった。
「麟殿! 早いでござるよ! ……どうされた?」
 少し遅れてやって来た宍影に振り返り、麟は宍影に興奮のあまり掴みかかった。
「う、うさぎ様を見付けたよ……! 何にもしてないよ。食べようとか思った事も無いからね」
 自分が何を口走っているのかはよくわからないが、とりあえず仲間に連絡をしなくてはいけない事は分かっている。
 麟は懐から携帯端末を取り出し、仲間へ向けて一斉送信をした。
 麟のメールを受け取った蒼焔は、いまだ肉食動物エリアに居た。
「ルゥ、従魔が見つかったそうだ。現場に急行しよう」
「うん」
 肉食担当の飼育員に一声かけて足を急がせる蒼焔とアクアルートだったが、彼らは目撃情報のあった場所から正反対の方向に居た。
 その頃、恭也と白花、久朗、そして春花の4人とその英雄たちはキリンの檻近くで合流を果たした。
「見つけたってか……、ここからじゃ少し遠いな」
「相手も移動しているでしょうし……」
「出来るだけやってみましょう」
 能力者達は自身の英雄と共鳴すべく、英雄と向かい合った。
 蒼焔、恭也、白花、久朗、そして春花。
 彼らは従魔の目撃のあった場所から遠く離れてしまっている。
 麟。
 彼女は従魔を見つけ、それを仲間に知らせている間に、従魔を見失ってしまった。一生の不覚、とは彼女の談である。
 さて、残っている能力者と英雄は、というと、――葵、そしてウェルラスである。
 メールをよこしてきた麟と合流すべく、麟のGPSの場所に向かっていた。
 と、いきなり目の前に何かが躍り出てきた。――うさぎだ。ハチワレ模様の、大きなうさぎだった。
「っ、こいつ!?」
 よくみると、背中辺りに何か拳銃のようなもので撃たれた銃創ができている。普通のうさぎであったらとうに致命傷になっている傷だろう。
「……ウェルラス」
「おう、おっさん!」
 葵の呼びかけを正しく汲んで、ウェルラスは葵と共鳴すべく手を伸ばした。
 こちらを威嚇するように佇んでいるうさぎ型従魔は、2人が共鳴し終わった瞬間を狙ってとびかかる。
 それをアスピスで防いで地面に従魔を叩きつけた後、葵はグリムリーパーに持ち替えて一閃。
 従魔は抵抗する暇もなく葵の一撃の下に伏したのだった。

●ご褒美はもふもふ
「これが今日の成果だ・・・そして守り抜いた命だ、そっと触るんだ」
 蒼焔が差し出した真っ白なうさぎを受け取ったアクアルートは、こわごわうさぎを抱き込んだ。
 葵によって見事に従魔を倒すことに成功した一行は、その後総出で逃げ出したうさぎとモルモットをすべて捕まえ、こうしてふれあいコーナーへとうさぎ達を戻したのだ。
 その際、飼育員の厚意により特別に小動物と触れ合う許可をもらったのだった。
 アクアルートの腕の中で呼吸するうさぎに、アクアルートはそっと頬を寄せた。
「これが命? ……あたたかいね、レア」
「ああ。……こっちをむけ、ルゥ」
 カシャリ、と電子音がして、蒼焔がアクアルートの画像を携帯端末で撮る。蒼焔の顔はかなり満足げだ。
 その隣で、春花とエレオノワールが灰色のうさぎを抱っこしていた。
「う、うさぎさん……、もふもふ……」
「ハル、顔が蕩けておるぞ」
 その様子を、プルミエが羨ましそうに見ている。
 視線を感じ、エレオノワールが1羽の茶色のうさぎを抱き上げ、プルミエに声を掛けた。
「共にうさぎを愛でようぞ! 余はこのもふもふが気に入った!」
「あ……あ、うさぎ……」
「プルミエ クルール。命に触れることも大切ですよ」
「は、はい、白花様……!」
 エレオノワールからうさぎをうけとり、プルミエはうさぎを抱きしめた。
「……」
「アクアルート! そなたも共に愛でようぞ」
「ん」
 エレオノワールの方をじっと見つめていたアクアルートに、エレオノワールがすぐに気付いて声を掛ける。
 その様子を、蒼焔はまた無言で携帯端末のアルバムに収めていく。
 ふれあいコーナーの隅にて、麟がうさぎにむかって柏手をひとつ。
 その様子をばっちり目撃していたウェルラスは、なにも見なかったことにして目を逸らした。
「わあ……うさぎさんの毛、ふわふわですね!」
 セラフィナがご機嫌に声を上げた。
「お前の髪と少し似てるな……。ほら、しっかり持つんだぞ」
「クロさんも、左手に力込めすぎたらダメですよ!」
 久朗とセラフィナがじゃれ合っている横で、エミナがうさぎに囲まれて嬉しそうにはにかんでいる。
 九繰はエミナがうれしそうな事に満足して居ると、ふと近くで会話が聞こえた。
「……ねえ、恭也?」
 伊邪那美が何かを懇願する声を上げた。
「言って置くが、家では飼わないぞ」
 それを冷たく恭也が却下する。
「モ、モルモットだけでも駄目かな?」
「駄目だな。二種とも繁殖力が高いからな手に負えなくなるは目に見えている」
「う~、判ったよ……そうだね、家に居たら恭也が食べちゃうもんね」
「人聞きの悪い事を言うな!」
 恭也の叫び声に笑ってしまった九繰を見ている者は誰もいなかった。
 動物公園のうさぎとモルモットは、無事平穏を取り戻したのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
  • 守りし者
    加賀美 春花aa1449
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • 発見せし者
    蒼焔aa1432
    機械|16才|女性|攻撃
  • もふもふ初心者
    アクアルートaa1432hero001
    英雄|14才|男性|ブレ
  • 守りし者
    加賀美 春花aa1449
    人間|19才|女性|命中
  • ちみっこプリン(セ)ス
    エレオノワール アイスモアaa1449hero001
    英雄|10才|?|ジャ
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 龍の算命士
    CERISIER 白花aa1660
    人間|47才|女性|回避

  • プルミエ クルールaa1660hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
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