本部

ブロック型復讐の夢

玲瓏

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/23 22:39

掲示板

オープニング

●復讐のための輪舞曲
 現時刻は昼の十六時を少しだけ過ぎた所。雲に隠れた太陽が地上を明るくしようとするがそれは虚しく、ぼんやりとした暗がりしか残らない。
「一人目」
 三人の能力者と三人の英雄が、大の字に手を伸ばして石の壁に磔にされている。
「ま、待て。分かった、お前の気持ちは十二分に分かったッ。だからこんな事はよせ!」
「悪いのは誰? 僕かい? ……違うね。フフ、君たちだよね」
 少年は魔道書らしき物を両手いっぱいに広げて、呪文を唱えた。十秒に及ぶ高度な詠唱を終えると、少年の目の前に幾千ものナイフが浮いた。切っ先は磔にされたリンカーに向いている。
「よせ、やめろ!」
「大丈夫、僕の最後の良心は、君の叫びを無くす事だから」
 目の前にあったナイフはいつのまにか、コンマの世界で生きなければ理解が追いつかない速度で飛ばされていた。
「二人目」
 六人はそれぞれ横に並べられていた。だから、"一人目"の惨状を見た二人目は、恐怖意外何も感じられなかった。
「お願いやめて! やめてやめてよッ!」
「うーん。僕は飽き性だから、少し趣向を変えてみよう。こんなのはどうだろう?」
 長い詠唱は、今度は十五秒も続いた。
 二人目、は十五秒の間ずっと叫び続けていた。
 詠唱に時間をかけた割に出てきたのは飴だった。普通の飴よりも少し大きい程度のピンク色の飴で、とても可愛らしい見た目をしている。
「それは何……?」
 喉奥から締め出したような声で尋ねられると、少年は微笑んでこう言う。
「何って、溶けない飴さ。人の唾液に含まれる成分じゃ溶けないっていう事になっていてね」
「十五秒かけて出した物が、それなの……?」
 安堵の息が二人目からこぼれる。
「君がうるさいから詠唱に集中できなかったんだよ。――それはいいから、口開けて」
 溶けない飴……。見た目も聞こえも悪くない。しかし少年の微笑みは不吉だった。
 頑なに開けようとしない二人目。少年はついに腹部を強打した。自然と、鼻を指でつままれるよりも早く彼女の口の出入り口が開いた。
 さてさて、彼女の口内に忍び込んだ飴ではあるが、そのままでは処刑にならない。だから少年は次の一手を差し出さなければならなかったのだ。下から上に向かって華奢な腕を大きく振り上げた。その腕は、彼女の顎に命中する。
 飴が喉に詰まり、体が必死に喉を押し出そうと悶える姿を見た後少年は「三人目」と対峙した。
「もう一度いう。悪いのはお前たちなんだ。――三人目」
 ショーはこの後四時間も続いた。

●大きな疑惑
 少し、いやかなり不審だった。過去のデータには任務記録という物が含まれている。リンカーに任務をくだすオペレーターとしては、少しでも不審に思えば記録を調べてすぐに行動に移さなければならない。
 あなた達に今回の任務を説明している最中、いつもよりオペレーターの彼女は緊張しているように見えた。
「今日、あなた達にはC遊園地に出現した従魔の討伐を行ってもらいます。避難勧告を出しましたが、中にはまだ数名だけ逃げ遅れて閉じこもっている人々がいるとのことです。従魔の討伐、民間人の救出をお願いいたします」
 依頼を受けてから数秒後、あなた達にこんなメールが届いた。オペレーターからだ。
『今回あなた達と一緒に依頼を受けた白宮(しらみや) 龍樹(たつき)というエージェントについて、あなた達に極秘任務を言い渡します。任務といっても簡単な内容です。任務中、彼を常に見張っていてください。……内容は簡単ですが、少々危険を伴う任務です。注意してください。
 これは私が上層部に彼の事を報告して発生した任務です。
 エージェントの皆さんも突然こんな任務を受けて様々な困惑があると思いますが、彼を疑う切っ掛けとなった過去のデータをこちらに添付させていただいています。そちらをご覧ください。
 このメールは白宮本人には送っていません』
 あなた達に届いたメールは迷惑メールといった類の物ではない。正真正銘オペレーターから届いたメールだ。

解説

●目的
 表:遊園地を荒らす従魔の退治。
 裏:白宮(しらみや) 龍樹(たつき)の監視。不審な行動を取ればオペレーターに報告。報告する度オペレーターからあなた達に新たな指示がくだされる。例:『現状保持をしてください』『警戒を強めてください』『その場で拘束してください』

●過去のデータ
 白宮がエージェントとして一番最初にいった任務が愚神討伐であり、その任務で彼を除く全てのリンカーが消息不明。愚神は見失ったと報告。
 その後もう一度任務があったが、その任務でも彼以外のリンカーが消息不明になる。この任務は愚神討伐ではない。簡単な依頼であった。
 このデータを使って白宮を問い詰める事もできます。

●白宮について
 紛うことなき黒です。
 彼はエージェントになる少し前にディランの起こした事件で家族を殺害されてしまいました。その件、一人のリンカーに家族を助けるように言うものの、リンカーの不手際によって助かりませんでした。その事を根に持ちリンカーに復讐するため愚神と手を組み復讐を兼ねてリンカーを次々と裏切っていきます。
 無垢な少年の見た目をしている事が原因で、過去消息不明となったリンカーは騙されて"消息不明"となりました。
 もしあなた達と戦闘になった場合、愚神の力を得て強力な魔法を使います。雷の力を使い派手な攻撃を仕掛けてきます。

●愚神について
 デウーラ・アイオスというデクリオ級の愚神で、白宮が復讐に満足したらライヴスを吸収するという契約で白宮に力を与えています。
 愚神は存在を感知されないよう、最初は離れていますが、白宮が呼んだらいつでも登場します。
 戦闘時、白宮と一心同体に重なるので白宮に与えたダメージが愚神に与えられます。白宮を倒せば、自動的に愚神も瀕死の状態に追い込まれる事になります。

●従魔について
 簡単に倒せます。小さい人型のゴブリンが長い爪で攻撃してくるだけです。

リプレイ

●遊園地に陣取る従魔
 人のいない遊園地は不気味に等しい。真っ昼間、普通ならここは人で溢れ返しているのだろう。メリーゴーランドは軽快な音を立てて人々を夢へ送り込み、ジェットコースターはスリルを体感させる。
 人間を楽しませるために生み出された物が、どれも今は停止している。人間を楽しませる事を止めてしまった無機物の集合体は、異常な表情をして佇んでいる。
 受付所まで聞こえてきた足音が、従魔の耳に届いた。便宜上、ここではその従魔の事を彼と呼ぶ事にする。
 彼は新たな人間の気配に物陰へと姿を潜めた。足音は一つだけではない。複数人の足音が聞こえ、話し声も聞こえる。
 一秒ごとに迫る足音。捕食の時は近く、更に独り占めできるという優越感、そして最上のタイミングを得て彼は物陰から飛び出した。
「一匹目」
 彼は頭を抑えられていた。淡い絶望がこみ上げる前に、儚くも散った。
 ミク・ノイズ(aa0192)は剣先についた血を振り払った。
「今のが従魔の最大限の知能に違いない」
「へえ、お姉さんは剣で戦うんだね。魔法使いかと思った」
 ノイズが動かなくなった従魔に言葉を被せた後、白宮が従魔を見下ろしながら側で屈んだ。
「いやあごめんよ。どうか僕達を悪く思わないでね」
 遊園地の入り口から三分歩くと、ここで別れ道が発生する。レヴィア・プルート(aa0676)が手を優しく叩き、心地良い音を立てながら注目を集めた。
「じゃあ、別れて動こうか~。その方が効率よく従魔もやっつけちゃえるしね~。皆携帯は持ってるかな?」
「あの、すみません」
 声を出すと同時に右手を上げたのは三ッ也 槻右(aa1163)で、腰を低くしたような口調だ。
「実は携帯がなくて」
「あ、それなら私の貸りる? 二個持ってるんだけど」
 音を立てながら三坂 忍(aa0320)は鞄の中から携帯電話を一つ取り出し、三ッ也に差し出す。
「すみません、ありがとうございます。ですが、三坂さんの分は……」
「大丈夫大丈夫。二個持ってるから、私」
 では……と三ッ也は受け取った。
「大切にします」
 遊園地に揃った九人のリンカー+彼等の英雄は、三つの班に別れることとなった。A班、B班、C班という仮名を付けて、結果はこうなる。
 A班、白宮龍樹、レヴィア・プルート、アイリス(aa0676hero001)、クレア・マクミラン(aa1631)。リリアン・レッドフォード(aa1631hero001)
 白宮の監視が仕事だ。白宮が本性を現した時の囮役という危険な役柄も得ている。
 B班、三坂 忍、玉依姫(aa0320hero001)、晴海 嘉久也(aa0780)、エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)、三ッ也 槻右、酉島 野乃(aa1163hero001)
 従魔討伐、民間人の救助が仕事となる。
 C班、ミク・ノイズ、リスターシャ(aa0192hero001)、辺是 落児(aa0281)、構築の魔女(aa0281hero001)、紅鬼 姫乃(aa1678)
 遠方から白宮の監視、及びオペレーターへの報告係。白宮の不審な行動を機敏に察知する。
 広い園内の中規模の掃討戦の幕開けだった。

●やり取り

『From、晴海 嘉久也』13:02
 三体の従魔を撃破。まだ遠方にも複数体見えます。
 途中で停車したジェットコースターの中から人の救助を求める声を確認しました。救助に向かいます。

『From、三坂 忍』13:03
 報告ご苦労様ー。あれ、Toリストにいつの間にかオペレーターさんが入ってる。

『(From、レヴィア・プルート)』13:03
 報告ありがとね~。オペレーターさんにも状況が分かるようにあたしが入れて置いたの~。
 そうそう、メール送る時は気をつけてねー。白宮ちゃんに送っちゃだめなメールは、Toのリストから白宮ちゃんを外しておくんだよ~。
 例えばこんなメールとかね~。

『(From、紅鬼 姫乃)』13:05
 気をつけますわ。……報告しておきますと、今の所白宮様は至って普通。引き続き監視を続けますわ♪

『(From、構築の魔女)』13:10
 オペレーターさんに確認したい事があります。Hopeに登録されている白宮 龍樹の契約英雄の情報、そして一度目の依頼で相対した愚神の特徴及び能力、その後の目撃情報を教えていただけますか。

『(From、構築の魔女)』13:12
 すみません、もう三つ。二回目の現場で不自然に壊れているものはないですか? それと、依頼の参加者が使用しない武装や術式による傷跡ありませんでしたか? 登録情報を偽っている可能性も多々あると思うのですが。
 二度目の依頼、中間報告や完了報告があったと思うのですが白宮以外からの報告は、依頼中どの時点まで成されていたでしょうか?

『From、三ッ也 槻右』13:12
 中央広場、ゲームセンターの中にある手洗い場に隠れていた民間人を一人――

『From、三ッ也 槻右』13:13
 すみません、途中で送信してしまいました。
 民間人を一人救助しました。
 おぬしらも頑張るが良い。まだまだ従魔の数は多いからの。

『(From、クレア・マクミラン)』13:16
 お化け屋敷内部から悲鳴が聞こえました。B班の方、至急救助に向かってください。

『(From、晴海 嘉久也)』13:22
 わたしが救助に向かいましたが、クレアさんの聞いた悲鳴はスピーカーから発生された悲鳴でした。異常はありませんでした。

『(From、オペレーター)』13:24
 白宮龍樹についてですが……。過去に、ヴィランの起こした事件によって家族を失っています。これは、防ぎようもない事件で……私も、非常に心残りの強い事件です。
 白宮龍樹の英雄の名前は「ルイキュヴ・アーサ」といいます。契約内容は、絶対に死にたいと言葉にしない事でした。一度目の依頼以降、この英雄の姿を見ていません。
 一度目の依頼の愚神の能力は電撃による範囲攻撃、状態異常……主に麻痺といった二種類の攻撃を多用する愚神でした。すみませんが、愚神の情報はこの二点だけとなります。
 不自然な傷跡、武装、術式についてですが、難しい話を省略しますが、電気的な作用が使われた形跡がありました。
 例の依頼で受け取った報告は中間報告のみで、完了報告は白宮自身から受け取りました。従魔を倒す、といった今回と似たような事例の依頼でしたが、依頼達成までは行方不明者等はおりませんでした。

『(From、構築の魔女)』13:25
 ありがとうございます。それなら終盤に差し掛かったところで頭角を現すのでしょうか……。なんにせよ警戒を怠らずに。

『From、白宮 龍樹』13:25
 従魔一匹討伐したよー。

『From、紅鬼 姫乃』13:25
 ご苦労様ですわ。どこで討伐しました?

『From、白宮 龍樹』13:26
 メリーゴーランドのとこ。

『(From、ミク・ノイズ)』13:28
 白宮が「ワクワク! アイスランド」という施設の探索を開始。A班がそれに続いたが、これじゃあ私らの監視ができない。指示を求む。

『(From、オペレーター)』13:28
 アイスランドの受付付近の扉に従業員専用の入り口があるかと思われます。その中に入り、監視カメラにて監視を続行してください。

『(From、三坂 忍)』13:30
 オペレーターさんよくご存知ですね。

『(From、オペレーター)』13:30
 最低限の事は調べています。情報源は遊園地の管理人からです。引き続き任務を続行してください。

『From、アイリス』13:35
 ワクワク、アイスランドの内部調査終了よぉ。レヴィアが寒くて指が動かないっていうから代わりに私が送るわぁ。
 人、従魔誰もいなかったわよぉ。ま、当たり前よねぇ? こんな寒い所にいる方がおかしいのよぅ。

『From、三ッ也 槻右』13:37
 調査お疲れ様です。残す所は後一つでしょうか。

『From、リリアン・レッドフォード』13:37
 残りは……あ、二個目のお化け屋敷です。一番近い班の方お任せしますね。B班の方でしょうか?

『(From、ミク・ノイズ)』13:37
 白宮が執拗に周囲を気にし始めた。また、来た時から首からぶら下げている鞄の中に手を入れたり、ぼうっと立ち止まったりと不審な行動が多くなってきている。

『(From、オペレーター)』13:37
 疲労による身体への影響の可能性も考え、現状維持をお願いします。

『From、晴海 嘉久也』13:40
 B班が一番近いみたいですね。では、確認してきます。

『From、白宮 龍樹』13:41
 いや僕達が……。ま、まあいいか。頑張ってー。

●表の終わり
「生存者を発見です! 周囲に従魔の姿はありません」
 狭く視界が定まらない暗闇の前後をリンク状態の晴海と三坂がカバーし、三ッ也が生存者の男性の所へと駆け寄った。
「もう大丈夫です。怖がらないで。手を取ってください、あなたを安全地域へと案内します」
「た、助かった……ありがとう!」
 
『Call、晴海 嘉久也』
 救出、及び掃討を終えました。

●裏切りの幕開け
 両腕を空に伸ばして大きく背伸びを終えたレヴィアは、お化け屋敷の方へと足を進めた。
「任務完了~。や~広い遊園地だったのに皆お疲れ様だね~」
「広かったから僕もう疲れたよ」
「白宮さんもお疲れ様です」
 レヴィアを先頭にして歩き出してお化け屋敷に到着した所でようやく白宮が口を歪ませて尋ねた。
「任務はもう終わったよね。いつまで共鳴してるのさ。それに出口とは反対側じゃない?」
「見回りだよ~。まだ逃げ遅れた人がいないかな~って。従魔もいたら大変大変~」
「あ、それもそうか。えっと、ところで他の人たちは皆どこいったのかな?」
 レヴィアは端末を手にして晴海と音声で連絡を取り合った。
「皆はもう入り口近くにいるんですって~。私達もここの見回りが終わったら戻ろうか~」
「そうか。皆はもう、戻ってるの」
 突然に白宮は鞄の中に手を入れて、中から二丁の拳銃を取り出した。
 悪しき笑みを浮かべながら銃口をクレアとレヴィアに向ける。白宮の出し抜けの行動に、彼自身は二人が驚くと読んでいたが、依然として変わらぬ態度を持つ二人に白宮が驚かされていた。
「初めてだよ。僕が仲間に敵意を見せて驚かない人がいるのは」
 白宮の、猫を被った声は失われた。少年が出すには低い声で彼は言った。
「だってね? ただの鉄砲だし~……。それに知ってたから~」

『(From、ミク・ノイズ)』
 対象をヴィランと判定。拘束に移る。可能な限り加減はするが、味方を優先するからな。

「も、もっと驚けよ! この銃が飛ばすのは弾丸だけじゃない。電気だ。僕の能力の加わった電気が弾丸と飛ばされるんだ。当たったらただじゃ済まされないぞ!」
 突然の裏切り、脅迫を混ぜあわせた展開をしてみたところでクレアとレヴィアは全く動じない。
「なんだおまえら――」
 すぐ背後で足音が聞こえ、白宮は口を閉じた。後頭部に金属の感触を感じ白宮は武器を捨てて両手を上げた。
「そういうことね……最初から僕は疑われてたんだ」
「現行犯逮捕になりますわ。白宮様の復讐劇もこれでお終い。観念なさって」
 物陰からは紅鬼だけでなく、全てのメンバーが白宮を取り囲んだ。A班、B班、C班全てがここに合流した。白宮は手を上げながら、全員の顔を一人一人見た。
 裏切り者は甲高い笑い声で鳴いた。
「はぁーぁっはははは! ――ふ、ふふ、ハハハハ! ――アハ、ヒ、ははははは!」
 壊れた玩具に似た彼は上げていた両手をだらんとさせ、猫背になっていった。体全体が丸みをおび、見た目だけは小動物だ。彼を拘束しようとノイズが正面から近づいた。
 途端、丸まっていた彼が、大きくのけぞり、目と口を大きく開いて叫んだ。
「アイオォォォォオオオオス!!!」
 仰け反った反動で、彼の背中が地面に着いた。
「皆さん気をつけて! 何か得体のしれない物がこちらに向かってきます!」
 晴海の合図で、ノイズは二歩退いた。
 間一髪だった。空から黒い稲妻が白宮に向かって舞い降り、狭い範囲だが一帯に電気の海を流したのだ。
「何が起きた?!」
 稲妻の衝撃で凹んだ地面の中央には白宮がいて――彼はゆっくりと立ち上がった。
「復讐劇がお終い? ……違うね。僕の脚本とは違う」
「この姿こそ、白宮ということですね」
 白い輝きを放っていた彼は、今は黒く歪んでいた。焦げた服、彼を纏う黒い稲妻。
「誰も僕に、傷をつけられない。さあ! 僕の主は処刑のショーを楽しみにしているんだ。醜態を晒しながらみっともなく滅びろ」
 一秒という短い詠唱が、彼の上空に二つの黒球を召喚させた。白宮は指を弾き球を破裂させると、砕けた球の大量の残骸が降り注いだ。
「物陰に退避ッ! 急いでください!」
 降り注いだ残骸が第二の破裂を起こすと爆風が周囲を覆う。運が味方せず、三ッ也は近くに落ちた球の爆風に足を取られ地面に倒れた。彼は倒れる直前、真上に小さな影を見た。あろうことか、それは第二の破裂を待つ残骸。
 転がりながらも咄嗟の判断で三ッ也が取り出したアサルトライフルは正確に照準を残骸に合わせていて、トリガーを引くと同時に直撃を免れた。
 白宮が次の攻撃を仕掛ける前に、紅鬼はフラメアを構えて前衛に出た。
 二つの姿が白宮に左右から襲いかかり、白宮は回避を忘れた。左右の一閃が白宮を空中へ誘う。
「ずる賢い奴めッ! 僕の――」
 毒を吐く白宮の体を、破裂した炎が吹き飛ばした。三坂のブルームフレアが彼の言葉を遮ったのだった。
 少しの間空中遊泳をしていた白宮だったが、両手を伸ばし周囲に稲妻の弾丸を、ガトリング砲の速さで撒いた。両足を地面に着けると同時に全ての弾丸を両手で吸い込み周囲に全ての弾を浮遊させた後両手を広げたのを合図に八方に再び全ての弾丸を同時に放った。
「僕の力を侮ってもらっちゃ困る。愚神の力と、僕の力が合体してるんだ。傷はつけられてしまったけど……、些細な事は関係ない。勝てばいい」
 傲慢な態度を取る白宮に、三坂が言った。
「あなたのやってる事はただの逆恨みよ。馬鹿な事はしないで。いい加減、自分のやってる事の罪を認めたらどう?」
「逆恨みで片付けられるものか! お前は何も知らない! 僕の事を何も知らないなら何も語るな! 趣味が悪いんだよ!」
 再び白宮が詠唱を開始した。その時、斜め後方から射撃音が聞こえ彼は三坂から咄嗟にその方角に体を向け詠唱を中止した。構築の魔女、彼女の姿がある。
「見つけぇぇえ!」
 白宮が構築の魔女に向かって詠唱を唱え始めると、足に棘のついた鞭が絡まり地面との平行を崩されうつ伏せに倒された。
「悪い子にはお仕置きが必要ねぇ? 覚悟なさいな白宮ちゃん」
 アイリスはローゼンクイーンを何度も白宮の体に叩きつけた。
「痛いなくそ、くそ! 僕から離れろ!」
 体中から電気を周囲にぶちまけ、アイリスを強引にも退かせた。アイリスは彼の攻撃を早めに察知し、電撃は受けていない。
 立ち上がった白宮に、遠距離から何発もアサルトライフルの弾がぶつけられ呻くも、表情から笑みは消えない。
 弾丸の洗礼を受けている白宮の背後から晴海が近づいた。槍を構えながら走り、白宮の足元目掛け体全体の重力をかけて刃を伸ばした。
「詰めが甘いぞぉお!」
 白宮は振り向きざまに槍の先端を足で踏み、電気を流した。白宮の電気が槍を伝って晴海に届いた。
「まずい……ッ」
 リンカーが動かなくなれば、白宮からみればただの獲物だ。野獣の眼光を白宮は光らせて、片手に稲妻を込めた。
「一人目ぇ!」
 覚悟を決め目を瞑った晴海だった。しかし、覚悟を決めたのはいいが無駄に終わる事になる。
 白宮は手を伸ばし手の平から細長い線のような雷撃を伸ばしたが、線は自分の足元に突き刺さっているナイフに向かって伸びていた。
 困惑する彼をよそに、クレアが晴海の肩を持って退避した。
「こんな玩具に、僕の攻撃がぁあああ!」
 叫ぶ白宮は、顔を横に向けた。光り輝く銀の弾丸が白宮の肩を射抜いた。
「お前ェ……」
「まあ、こっちが本職でね」
 笑みを保っていた表情の白宮だったが、目を剥き怒りを全面に出した顔をノイズに向けた。肩を抑えながら。
「どうした? こいよ」
「うるせぇええええ! 貴様ら全員ここで処刑してやる。もう、すぐ終わらしてやるよくそが」
 吠えた後、彼は血のついた両手を地面につけ「防御双璧」と叫んだ。
 死角のない、全方位からの攻撃を受け付けない壁が彼を包み込んだ。
 防御万全な状態をしながら彼は詠唱を口にする。彼が次に何をするかは、その攻撃手法までは読めないが誰もが察した。
「全員一斉射撃です! あの壁にダメージを負わせて詠唱を中断するしかありません!」
 アサルトライフルの重奏が溢れかえり、白宮の壁に攻撃が仕掛けられる。先とは打って変わって落ち着いた表情を見せた白宮が詠唱を続ける。
「間に合え……間に合ってくれ……!」
 防御の壁にヒビが入ると、連鎖的に他の場所にも亀裂が走った。
「亀裂を狙ってください!」
 もう少しで割れるだろう。しかし、いつ詠唱を終えるかは読めない。もうすぐ終わるのかもしれないしまだかかるのかもしれない。緊張が駆け巡った。
「間に合ってちょうだい!」
 白宮の口が閉じられた。ほぼタイミングを同じくして、壁が壊れた。
「終わりの始まりだぁああ!」

『From、クレア・マクミラン』14:23
 任務、完了です。

●回るメリーゴーランド
 依頼達成通知を受けて、オペレーターは席を立ち現場に急行した。
 クレアが傷ついた仲間達の手当をしている中、構築の魔女に事情を尋ねた。
「遊園地の監視カメラを使って、あなたちの状態を確認していました。途中、白宮龍樹が終わりの始まり、と口走った所で映像は途切れ、何も見えなくなりました。一体何があったのか教えていただけますか」
「実は、彼は何か大きな必殺技を繰りだそうとしていたに違いありませんがあの後……多分、体が耐え切れなかったんでしょう。すぐに意識を失ってしまったのです。それからノイズさんが両手を後ろに拘束させ、今に至ります」
 オペレーターは胸を撫で下ろした。ふう、と溜息を落とす。
 構築の魔女は安心するオペレーターに笑みを投げた後、思い出したように言葉を付け加えた。
「そうそう、白宮が意識を失ってすぐ愚神が姿を現しました。大分衰弱しきって、なんだかお化けみたいな……煙みたいな……愚神でしたが、逃げようとした所を私が一発で倒してしまいました」
「なるほど愚神ですか。なら合点がいきますね」
「……はい。私もこの事件の真相には納得します」
 地面に寝転ばせられている白宮は、ノイズに向かってみっともなく弱音を吐いていた。
「どうして誰も僕の事を分かってくれないんだ……」
「何だ? 同情がほしいか」
 ノイズは彼の背中に蹴りを飛ばした。
「ふざけるなよ、この殺人狂めがッ! 百回死んでから同情を乞えッ」
 二度目の蹴りを構えをノイズは見せており、近くにいた三ッ也が慌てて止めに入った。ノイズは白宮に背を向ける。
「すみません、乱暴な子で」
 リスターシャが三ッ也に言った。
「いえ、本当ならもっと罪を受けるべきなんだと僕は思います。でも……こいつの気持ちは、痛いほど分かるんです」
「分かる……ですか」
「はい。僕もヴィランの事件で両親を失ってて。……一歩間違えたら、僕も同じだったんじゃないかなって。こいつの行動は理解できませんが」
「理解しなくて良い事もあるぞ」
 ひょいと出てきたのは酉島だ。
「こやつとおぬしは違う。それに一歩間違えてもおぬしのようなへたれにはこんな真似無理よな」
 リスターシャと酉島は笑みを浮かべた。否定できず、三ッ也も苦笑した。
 そんなやりとりを見ていたレヴィアが、アイリスに質問した。
「あたしも一歩間違えてたらああなったのかな~?」
「こんな事はこの先いつでも起こりうるわよぉ? 人間って生き物は他人に押し付けないと簡単に潰れてしまうものねぇ」
「じゃあもしあたしが潰れそうになったら守ってね~」
「ふふふ、あたしにお任せ」
 その後、レヴィアは傷ついた白宮を一旦治療施設へと送るため搬送の手続きを行った。オペレーターの許可は得ている。
「少しいいかしら」
 三坂と玉依姫がしゃがんで白宮を見つめた。二人の吐息で彼の髪が揺れる。
「……なんだよ」
「あなたは昔の事件で家族を失って、それで復讐のために……逆恨みでリンカーを倒そうとしたんでしょう?」
「だから逆恨みじゃ――」
「あたしは、貴方のやった事は間違ってると思うわ。何から何まで」
 白宮は黙った。
「これは貴方が選び、望んだ未来。良いも悪いもないわ。そして貴方はこれからも、間違い続けるのでしょうね。今から間に合うか分からないけど、しっかりと反省しなさい」
 暫くの間二人がしゃがんで白宮の様子を窺っていたが、そこに紅鬼が加わり三人となった。
「他人に頼って、自分では何もしない。無力な自分を恨みなさい」

 晴海とエスティアは、ノイズから得た尋問の情報をオペレーターに伝えていた。
「白宮が行方不明にしたリンカーは全員、死亡しているとのことでした」
 と晴海が言った後、打ち合わせもしていないが綺麗なタイミングでエスティアが話に入る。
「それと、一度目の依頼で英雄と誓約を破り、愚神と契約を結んだとエスティアは耳にしました。その英雄も今はきっと、消滅している頃合いだろうとの事でした」
「お二人とも、情報提供ありがとうございます。ひとまず、彼の事はH.O.P.Eにお任せし我々は退散しましょう。処罰はかなり重いものになると思われます」
「エスティアも、それが穏当かと思います。彼は何人もの命を奪い、英雄さえも見捨てたからです。……英雄として、許せません」
 すると、園内中央にあるメリーゴーランドが突然動き始めた。和気藹々とした、この場には似合わない軽快な曲を流しながら馬が回っている。
 白宮は体を捩って、メリーゴーランドを見つめた。
 誰もいないメリーゴーランドを、ただただ見つめていた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631

重体一覧

参加者

  • 鬼軍曹
    ミク・ノイズaa0192
    機械|16才|女性|攻撃
  • 光弾のリーシャ
    リスターシャaa0192hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • エージェント
    三坂 忍aa0320
    人間|17才|女性|回避
  • エージェント
    玉依姫aa0320hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • エージェント
    レヴィア・プルートaa0676
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    アイリスaa0676hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • エージェント
    紅鬼 姫乃aa1678
    機械|20才|女性|回避



前に戻る
ページトップへ戻る