本部

脱線事故を防げ

遊人

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/25 15:55

掲示板

オープニング

●疾走する列車
 大陸を横断する長距離貨物列車は、その日西海岸を目指している最中だった。
「連結部異常無し、車軸異常無し、っと……」
 燃料補給のために停車した途中駅では、技師による安全点検が行われていた。安全な運行のために設けられた無数の項目一つ一つを技師が確認し、チェックボックスにペンで印を書き込んでいく。この日も列車に異常は見られなかった。
 この安全点検を怠ることは重大な事故に直結する。車両のちょっとした変調、あるいは点検をサボる怠惰な気持ちが事故の原因になった例は枚挙に暇が無い。列車とはつまるところ、高速で走行する超重量の鉄の塊なのだ。脱線などしようものなら、乗員や積荷はもちろん沿線に住む人々にも甚大な被害が出る。技師はその事を肝に銘じながら日々の点検に臨んでいる。
 しかし、その技師の努力をあざ笑うかのような危険が待ち構えていることを、この時はまだ誰も知らなかった。
「おう、点検終わったか?」
「はい。問題無しです」
 作業を終えて一息ついていた技師に運転手が声を掛ける。
「よし、じゃあそろそろ出発するぞ」
「あれ? でも発車時刻までまだ時間ありますよね?」
「カミさんのお産が近くてな。早く帰ってやりてーんだ」
「そうでしたね。産まれたら俺にも見せて下さいよ、赤ちゃん」
「ああ。……っと、そういや、通信機の調子はどうだった?」
「やっぱりダメですね。終着駅で積荷を下ろしたら業者を呼びましょう」
「技師っつっても、俺達ぁ列車以外はからきしだからなあ」
 技師は運転手と談笑しながら列車へ乗り込む。この日も列車に異常はなかった。そう、列車には。

●岩の巨人
「時間が無いから一度しか言わない。みんなよく聞いてくれ」
 ブリーフィングルームに駆け込んできたH.O.P.E.職員は切羽詰まった表情で説明を開始した。
「出現した従魔が走行中の長距離貨物列車の線路を塞いでる。このまま列車が走ったら従魔に激突して脱線してしまう」
 ディスプレイに表示される巨大な岩の塊。よく見るとその岩は人の形を模した、直立すれば五メートルほどの高さになるであろう石像だった。それが、線路の上で身じろぎ一つせずに座り込んでいた。
「長距離走行用の貨物列車だから普通の客車よりは頑丈に出来てるし、ちょっとした障害物なら弾き飛ばして進める。でもさすがにこれだけの大きさで、しかも従魔と来ると話は別だ」
「列車を止めることは出来ないんですか?」
「それが、さっきから列車と連絡が取れなくてね……何とか運転手に事態を伝えられればいいんだけど、停車が間に合わなければドン、だ」
 従魔が現れたのは貨物列車が通過する街のすぐ近くだ。列車が従魔に衝突し脱線、横転すれば、超重量の車体や積荷が街を襲うことになる。燃料や積荷による火災などの二次災害も考えると、被害は計り知れない。
「そこで君達には障害物、つまり従魔の方に当たってもらいたい。列車がこの場所に到達するより先に、この従魔を排除するんだ」
 集められたリンカーたちは顔を見合わせる。あの巨体を、列車が来るまでの僅かな時間で倒せるのだろうか。
「先遣隊の調査によると、従魔の身体は岩石と同じくらいの強度らしい。つまり、ライヴスの通ったAGWでの攻撃なら簡単に削れるってことだ。強さ自体はデクリオ級ってとこだろう」
「とすると、やはり問題は時間か」
「あ、あのっ、倒す以外の方法でどかすことは出来ないんでしょうか? た、例えば、みんなで協力して線路の外に押し出すとか……」
「それも考えたんだけど、やっぱりちょっとキツイな。僕の見立てじゃ、リンカーと英雄、合わせてここにいる倍くらいの人数は必要になる。せめて敵があの半分くらいの大きさなら今いる人数でも何とかなりそうだけど……」
 がちゃり、と会議室のドアが開く。入室してきた別の職員が移動の準備が出来たことを告げる。
「とにかく現場へ向かってくれ。最優先事項は線路上の障害物除去と安全確保。住人の非難はもうすぐ完了するから、危険だと判断した場合は君たちもすぐ離脱してくれ。決して無茶はするなよ」

解説

●目標
 線路の安全確保及び従魔の討伐。

●登場
デクリオ級従魔「ゴーレム」
 線路上に突如現れた、人型を模した石像のような従魔。身体は岩で出来ており、頑丈だがAGW等で容易に削ることが出来る。が、巨体ゆえに手足を少し削る程度ではなかなか倒せない。線路の上で座り込んだまま動こうとせず、こちらから攻撃すれば反撃や防御はするがその場から離れることは無い。
・通常攻撃(単体)
 対象一体に小ダメージ。岩の塊そのものの拳で殴りかかる。
・通常攻撃(範囲)
 大きな腕を振り回し、範囲内の対象全てに中ダメージ。
・砲岩投げ
 対象一体に小ダメージ。手近な岩を持ち上げ離れた敵に投げつける。
・岩喰らい
 周囲の岩や石、地面を吸収して身体を補修する。自身の体力を小回復。

●状況
 輸送ヘリによって現場に到着したリンカーたちは、列車が現場に到達する残り数分の間に従魔を退けなければならない。残り時間の少なさや輸送の問題から応援は間に合わない。また、列車の通信機の故障で運転手と連絡が取れないため、列車を止めることは出来ない。
 戦場は街外れの鉄道沿線。地形による特殊条件は無し。切り拓かれた森に線路が敷かれただけの平坦な地形。

リプレイ

●立ちのぼるシグナル
「先輩、何ですかねあれ」
 若い技師が走行中の貨物列車から何気なく外を見た時、それは彼の目に留まった。
「おう、どうした?」
 後輩の技師に声を掛けられた運転手は、列車の前方と操作盤に注意を残しつつ、技師の指差す方向へ目を遣った。
「あれですよ、ほら、右前方の……」
「ありゃあ、煙……か?」
 列車の遥か前方の、位置的に恐らく線路のすぐそばから空に向かって立ち上る一本の赤い筋。それは確かに救難信号などに使用される発煙筒の煙だった。
「何かあったんですかね?」
「分からん。とりあえず、少し速度を落として運行だ」
 運転手はブレーキレバーを操作して列車の速度を落とす。とはいえ、彼らは到着予定時刻までに終着駅に着かなければならない。安全運転は列車を操る者の至上命題だが、発煙筒の煙が見えたからと言って、それが何のサインなのか分からない以上――煙が線路から近いからと言って、それが列車の運行に関わる出来事とは限らない――荷物の運搬に支障が出るほどの減速は出来なかった。
 この技師と運転手の判断を、危機管理意識の不足だと誹るのは少し酷な話かもしれない。愚神や従魔の存在が広く認知されている現代だが、それらと関わりの薄い一般人にとって、「線路上に突然巨大な岩の塊が発生する」という事象は、十分に常識の範囲外の出来事だ。
 列車は減速しつつも着実に従魔の出現地点へ近づいていく。到達までの猶予は、残り数分――

 現場に到着したリンカーたちは、輸送ヘリに積載されていたありったけの発煙筒を炊くことで、貨物列車の運転手に事態を伝えようと試みていた。これだけ煙を起こせば、運転手が何らかの異常と判断して列車の速度を落とすだろう。
 しかし、発煙筒の煙がシグナルとして有効なのは精々数キロ先が限界だ。したがって、運転手が発煙筒の煙を視認する頃には、列車は既にある程度こちらに近づいていることになる。稼ぐことが出来た時間は僅かだ。
 その僅かな猶予を無駄にしないためには、限られた時間内に何としても敵を線路上から排除しなければならない。
「悪いが、手伝って貰えると助かるぜ。森林火災を起こさない程度でな」
 リンカーたちは発煙筒を輸送ヘリのパイロットに託し、列車の安全を脅かすゴーレムの元へ向かう。
「――列車事故。それだけは、避けなくちゃ、だね。みず……みずく?」
「ななにかしら」
 目前に迫る悲劇を食い止めようと意気込む黄泉坂クルオ(aa0834)は肩に乗るパートナー天戸 みずく(aa0834hero001)に声を掛ける。が、みずくの様子がなんだかおかしい。普段の自信に満ちた、高慢とも言える態度の彼女はどこへやら、クルオにしがみつくようにして縮こまってしまっている。
「……なんか、変だよ。どうしたの?」
 不思議に思うクルオだったが、みずくは頑なだった。
「は、はぁぁ? わた、わたしが? 変? どこが? どこがなの? ねぇ、言ってくれる? どこが?」
「……」
 ここでようやく、クルオはみずくの変調の理由に合点した。そういえば彼女は、輸送ヘリで移動中もずっとクルオにひっついて離れようとしなかった。みずくの心中を察したクルオは、それ以上は何も言わず彼女をそっとしておくことにした。
 クルオとみずくに続き、残るリンカーたちも続々とヘリから姿を現す。
「時間との勝負、気合いれてかないとね!」
「……行くぞ」
 弱視症を抱える木霊・C・リュカ(aa0068)は、手にした白杖と相棒であるオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)の手助けを借りながらヘリを降りる。
「間に合わなかったら大惨事確定だね」
「たら、じゃない。間に合わせるんだ。周囲の物の損害ならまだいいが、このままぶつかったら運転手が死ぬ」
 リュカの言葉に応えるオリヴィエからは、絶対に人死にを出してはならないという強い意志が見て取れた。周辺住民の避難は済んでいるが、高速で走る列車に乗っている運転手たちは逃げることが出来ない。ゴーレム従魔との衝突による脱線事故、という最悪のシナリオを書き換えるため、射手たちは戦場に降り立った。
「無線が通じひんやったら、携帯とかで連絡出来ひんのんどすか? どでかい岩が見えてきたらブレーキ掛けへんのんやろか? 無線通じひんて、向こうの故障ちゃいますのん? 技師はんおるんどすやろ? 何で無線直せへんのんどす?」
 自身の義肢の保守と改造を自分で行っている弥刀 一二三(aa1048)は、技術者肌からか列車の技師に対して非常に辛口だった。
「……何で何で五月蝿い奴だな……ともかく、ゴーレムとやらを破壊すればよいのだろう? 行くぞ!」
 まくし立てる一二三をキリル ブラックモア(aa1048hero001)が窘める。
 技師に対して厳しい一二三だが、当初彼は移動用の輸送ヘリから貨物列車に飛び移って運転手たちに直接危険を知らせようとしていた。時間的に列車に追い付けない、停車が間に合わないなどの危険からさすがにそれは仲間に止められたため、今はゴーレム破壊に意識を集中する。
「てか、何でここに湧いて出たんだコイツは」
 発煙筒の使用と後始末をヘリのパイロットたちに託した赤城 龍哉(aa0090)は、ゴーレムの元へ向かいながら素朴な疑問を口にする。
「余り人の居ない場所で既にデクリオ級というのは、確かに不自然ですわね」
 彼のパートナーであるヴァルトラウテ(aa0090hero001)も同意する。確かに、街が近いとはいえ、普段人気の無い郊外の路線の上に従魔が出現するのは不自然とも言える。
「仕掛け人が近くに居る可能性もありってとこか」
 龍哉をはじめとしたリンカーたちが考えたのは、ゴーレムを操る第三者の存在。しかし、今は目前に迫る脱線事故という危機を回避しなければならず、龍哉もそれを心得ている。
「線路上にものを置いてはいかんのであるぞ! なんとけしからん敵であろうか!?」
 小さな体で憤りを露わにしているのは泉興京 桜子(aa0936)だ。幼いながらもH.O.P.E.に所属しエージェントとして活動する彼女の言うことは、単純ながらも至極正論だ。
「あーはいはい確かにいけないことね~。とりあえずとっととゴーレムぶっ壊しにいくわよ~」
 桜子のまっすぐな怒りを正しい方向へ導きつつ(というか引きずりながら)、ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)はゴーレムの破壊へ向かう。
「周りの避難が済んでいるとは言え失敗すれば大惨事ね」
「はい、兎も角時間的余裕が無さ過ぎです。行動を効率的に行わなければ」
 街への被害を憂慮するエステル バルヴィノヴァ(aa1165)と泥眼(aa1165hero001)は限られた時間を無駄にしないよう迅速に動き出す。運転手の命ももちろんだが、事故による街の建造物への被害も防がなくてはいけない。避難している街の住人は、事件が終わった後で街に戻ってこなければならない。住人達が帰ってきた時に街も家も破壊されてしまいました、では困るのだ。
「事故は起こさせないわよ!」
 後に続く芦川 可愛子(aa0850)、そして骸 麟(aa1166)と宍影(aa1166hero001)もその思いは同じだ。列車が無事に通過できるようにするため、一同は従魔の元へ急ぐ。
 輸送ヘリの着陸地点から数十メートル、走ること数秒。リンカーたちの行く先に待ち構えるのは、身の丈およそ五メートルはあろう、岩の巨人。

●そこをどいてもらう
 とにもかくにも、列車がこの場所に到達するまでにこのゴーレムをどかさなければならないわけだが、問題はその方法だ。
 先遣隊の報告によれば、ゴーレム従魔の身体の強度は普通の岩石と同じくらい。AGWでの攻撃なら簡単に砕くことが出来る。しかし、単体で小さな丘ほどの大質量を持つゴーレムを完全に破壊するには、列車到達まで残り時間が足りない。ならば破壊を諦めて線路外まで押し出すことが出来るかと言うと、やはりその質量、重量がネックだ。
 壊すことは間に合わず、押し出すことも敵わない。これらの条件の中、限られた時間内にゴーレムを線路上から排除するためにリンカーたちが取った作戦は、「壊す」と「押し退ける」の折衷案だった。
 リンカーたちはまず、ゴーレムの額を確認する。伝統的な手法で生み出されたゴーレムであれば、額の部分に「真理」を意味する「emeth」の五文字が与えられており、その中から「e」を消し去ることで「死」を意味する言葉「meth」に転化しゴーレムは土くれに戻って崩れ落ちる、と言い伝えられている。
 しかし、目の前のゴーレム従魔の額には「emeth」の文字は無い。このことが意味するのは、このゴーレムが宗教的な定義付けで人造されたものではなく、あくまで従魔として顕現しているということだ。「『e』の文字を削る」という決定的な対処法は使えないが、何者かが黒幕としてゴーレムを操っているという可能性は減少したとみていいだろう。
 線路の上にどっかりと座りこむゴーレム従魔に最初に飛び掛かったのは麟だった。忍者として鍛えられた素早い身のこなしで従魔に接近し、その身体に曲刀を繰り出す。
「骸斬岩刃! 工事のお姉さんだよ!」
 曲刀が石像の左脚の部分を穿つ。適当な四字熟語と共に放った斬撃だが、その威力は本物だ。能力者とAGWの前には、普通の岩など泥や雪の塊に等しい。やはり削る事それ自体は容易いようだ。
 リュカが愛銃を構え、ゴーレムに照準を合わせる。赤と金の入り混じった瞳で狙う先は、麟が攻撃した刀傷のすぐ近くだ。銃弾単体では削れる岩の量は少ないが、こうして既に破壊された部分から亀裂を広げていくことでより多くの岩を削る、という寸法だ。
「……さて。行こうか、みず……みずく?」
「何よ」
 黒鉄色の杖を取り出しながらパートナーと意気を合せようとしたところで、クルオはふと先程のみずくの様子を思い出す。が、みずくの返答を聞いて、心配は無用だと悟った。
「いや、なんでもないよ」
 みずくの強気なリアクションに、クルオは安堵する。どうやら完全にいつもの調子を取り戻したようだった。
 クルオが杖を構えて術を放つと、斬撃と銃撃で傷ついた岩肌に不浄の風が吹き付ける。劣化の風魔法ゴーストウィンドによって、ゴーレムの身体の一部が風化し脆くなっていく。
 耐久力の下がったゴーレムの脚を、ライヴスを纏った槍が貫く。両手で槍を華麗に手繰るのは、フリフリ衣装に身を包んだ可憐な少女だった。
「正義の魔法少女フミリルちゃんが、悪いゴーレムさんを退治しちゃいます! えーい!」
正義の魔法少女フミリル、改め共鳴した一二三とキリルが槍の攻撃によって従魔の左脚を削り取っていく。
 リンカーたちの強襲と連続攻撃に、ついにゴーレムが動き出した。まだまだ削った部位は少ないが、さすがのゴーレムもこのまま黙ってやられるわけにはいかないのだろう。ここからはゴーレム従魔の反撃にも注意しなければならないが、それは同時に、着実にダメージを与えられているということでもある。
「正しく岩の塊ですわね」
「時間も無い事だしな。叩いて砕くぜ!」
「了解ですわ」
 片膝立ちで攻撃姿勢を取ろうとするゴーレムを先制するように、龍哉が大剣を突き出す。刀身に勢いを乗せた重い一撃によって、ゴーレムの左脚に深々と大剣を突き立てる。と、不意に龍哉の足元が暗くなる。危険を察知した龍哉は咄嗟に大剣から手を放して飛び退く。そこへ落下してくる、岩の塊。
 龍哉を狙ったゴーレムの拳は空振りとなったが、高層ビルの支柱ほどもある大きな腕で繰り出されるパンチは地面を容易に陥没させる。追撃を警戒して後退する龍哉だったが、ゴーレムはそれ以上追ってはこなかった。やはり、反撃はしても線路の上から動くつもりはないらしい。
 ゴーレムの注意が龍哉に向いた隙に、エステルが攻撃を繰り出す。ただし、その矛先はゴーレムではなかった。
 エステルの槍が抉ったのは、ゴーレムの足元の地面。ただし攻撃を外したわけではない。線路と枕木に影響を与えないようにきちんと注意しつつ地面を抉ったのには意図があった。
 地面に叩きつけた拳を引いて再度反撃の構えを取るゴーレムを、爆発が襲う。魔本を構えて術を行使した可愛子は、ゴーレムの左脚の膝の辺りで火炎を炸裂させてダメージを与えたのだ。
「出し惜しみは無しよ! 全力で行くわ!」
 可愛子の爆炎でひるんだゴーレムの足元に、小さな身体が飛び込む。幼いながらも鍛えられ洗練された身のこなしで従魔の懐に潜り込んだのは、ベルベットと同じ耳と尻尾をぴょこりと生やした桜子だった。
「粉砕し削り取るのである!」
 小さな身体で大きな両手槌を豪快に振るい、ゴーレムに叩き込む。狙ったのは、やはり左側の脚だった。
 途切れることなく続けざまに繰り出される集中攻撃に怒ったのだろうか、ゴーレムはおもむろに両腕を広げると大振りに振り回し始めた。自身に群がるリンカーたちを追い払うかのように、辺りを出鱈目に殴りつける。
 巨大な振り子のように飛来するゴーレムの腕をかいくぐりながら、麟が左脚を斬りつける。腕に阻まれぬよう狙いを定めながら、リュカが銃弾を撃ち込む。クルオが劣化の風でゴーレムの強度を下げ、フミリルこと一二三が左脚を削り取る。リンカーたちの巧みな連係攻撃によって、ゴーレムの巨体を支える二本の脚のうちの左側だけがみるみるうちにボロボロになっていく。あと一押しだ。
「効率のいい岩の割り方……やってみるか」
 ふと、ゴーレムの左脚に刺さったままになっている自分の大剣を見た龍哉はあることを思いつく。少ない残り時間で、ゴーレムの身体をごっそりと削り取る策。それを実行するために龍哉が大槌を構えた時だった。
 警笛。
 リンカーたちが音の鳴った方向に目を遣る。地平線の向こうから近づいてきたのは、見間違いようも無く、貨物列車だった。
 いよいよ時間が無い。刻一刻と迫る列車を前に、リンカーたちは死力を尽くしてゴーレムに向かう。
 龍哉が大槌を振り下ろす。槌が打ち付けたのは、先程龍哉自身がゴーレムに突き立てた大剣の柄。ハンマーによって杭のように深く、深く突き刺さった大剣が、ゴーレムの左脚に亀裂を広げていく。
 慌てたゴーレムは、周囲の地面と自身の破片を吸収して左脚の再生を試みる。なるほど土くれで出来たゴーレムだからこそ出来る回復方法だが、この場合それは悪手だった。
 左脚を修繕しようとしたゴーレムは、一旦攻撃の手を止めてしまう。邪魔が無くなったこの瞬間こそ、リンカーたちにとってはチャンスだった。
 可愛子が爆炎ブルームフレアを炸裂させる。桜子が大槌を振り下ろす。龍哉の穿った大剣の楔を中心に広がった亀裂はゴーレムの左脚をぐるりと一周取り囲み、やがて左脚はばきり、と音を立てながらもげ落ちる。
「みんな! 目を!」
 短い合図と共に、リュカがライヴスの閃光フラッシュバンを炸裂させる。激しい光で混乱しているゴーレムの残った右脚に麟が飛びつく。
「もがくな! ゴーレム!!」
「向こうも必死でござるよ!」
 片足で抵抗するゴーレムの頭部に、クルオと可愛子が銀の魔弾を撃ち込む。ぐらついたゴーレムに、龍哉と一二三、桜子が武器を叩き込む。完全にバランスを失ったゴーレムの身体は、エステルがあらかじめ掘っておいた地面に足を取られ、ついに傾く。
 轟音を立てながら、ゴーレムの身体が地面に倒れこむ。ほどなくして、ゴーレムとリンカーたちのすぐ脇を貨物列車が通り過ぎる。
 無事に通過していく貨物列車を、可愛子がぶんぶんと手を振りながら見送る。リンカーたちの奮闘によって、列車の脱線事故という最悪の結末は避けられた。

●途中乗車の旅
 列車が無事に通過できれば、あとはゴーレムを無力化するだけだ。タイムリミットという制約から解放されたリンカーたちは、これで心置きなくゴーレムと戦える。
 片足を失ったゴーレムは投石による攻撃を仕掛けるようとするが、リュカの牽制射撃がそれを許さない。周囲の岩を吸収して回復を試みれば桜子が叩き、ひるんだ隙に他のメンバーによって岩の破片を遠ざけられる。クルオと可愛子、エステルが魔法攻撃でひるませ、龍哉とフミリルが大剣と槍で削る。ゴーレムの巨大さゆえに時間こそ掛かったものの、手練れのリンカーたちにかかれば、手負いのデクリオ級従魔を仕留めるのに問題は無い。ゴーレムは最後の一片まで削り落とされ、ついにその活動を停止した。
 列車を見送り、ゴーレムを排除した一同は、最後に周辺の捜索をしておくことにした。
「正義の使者、フミリルの勘が、何かを感じるのよ……!!」
 正義の魔法少女フミリルの、もとい一二三の予測は確かに的を射たものだった。ライヴスの収集を目的とする存在である従魔が、なぜ人気の無い街のはずれに突然現れたのか。その不自然さは龍哉とヴァルトラウテも指摘している。とすれば、近くにゴーレムの操り手がいるか、あるいは誰かに操られていたのではなく、ゴーレム従魔自身が自立活動可能なほどに成長していたのだとしたら、近くにゴーレム従魔が形成したドロップゾーンがある可能性もある。
 結局、リンカーたちが調べた範囲内にはそれらしきものは何も残っていなかった。ゴーレムがドロップゾーンを生み出した形跡はなく、またゴーレムの操り手らしき者もいなかった。操者に関しては、リンカーたちに見つかる前にその場から逃げ出していた、という可能性も否めないが、証拠が残っていない以上それは考慮しても仕方のないことだった。
 ともあれ、リンカーたちの活躍によって、線路上の危険は取り除かれた。無事に仕事を終えた面々は、状況報告を済ませた後、せっかくだからということで旅客列車に乗って小旅行と洒落込むことにした。
「鉄道と言えば駅弁だよな!」
「うむ、最近は搭乗駅から出て直ぐに食べ始める無粋者が多くて敵わんでござる」
「えー? 何で駄目なんだ? 買う時って腹減って食べたいから買うんだろ? 我慢できないよ」
「……駅弁はそもそも旅情を楽しむもの。出発して直ぐでは何時もの街で食べるのと同じでござる」
「うーん……そうだ! 二つ買おう!」
 客席でわいのわいのと駅弁談義に花を咲かせる麟と宍影。その横ではリュカとオリヴィエ、みずくとクルオも談笑している。
「……列車に乗りながら弁当を食べるのか?」
「綺麗な景色を眺めながら食べる駅弁は格別だよ! たぶん!」
「帰りは徒歩で帰りましょう」
「……う、うん」
 エステルと泥眼は車窓からの景色を楽しんでいた。窓の外を流れていく雄大な自然の景観は、日本のそれとはまた違った味わいがあった。
「こちらは日本の紅葉とは違った美しさがあります」
「清冽な空気に広大な大地…こう言うのも良いですね。……私もちょっとお腹が空いたわね」
 隣から聞こえる駅弁談義のせいだろうか、泥眼が苦笑しながら付け加える。
「いやー、それにしても良い景色ね!」
「異国の風景というのも、風情があっていいものだな!」
「あたしは良い景色より良い男が見たいけどねえ」
 可愛子と桜子、ベルベットも風景を楽しんでいる。ただこちらは、少女とオネエが計二組、という不思議な道連れだったが。
「何とかなったか」
「ぎりぎりでしたわね」
 無事に任務を果たせたことを喜ぶ龍哉とヴァルトラウテ。その隣では、一二三が座席の上で膝を抱えて縮こまっていた。
「……仕事後はいつもそうだな、情けない奴め」
 一二三と違って共鳴時の記憶がほとんど無いキリルは、窓枠に指でのの字を書いている彼を蔑んだ目で見る。正義の魔法少女フミリルの受難はまだまだ続きそうだった。
「え? こっちって駅弁無いの!……うわサンドイッチばっかりかよ? これは弘法も筆の誤りだったね」
「? 麟殿は駅弁の達人であったか……まあ、降りて地元の料理でも食し申そう」
 リンカーたちを乗せた列車は終着駅を目指して疾走する。列車は今日もトラブル無く一日の運行を終えたそうだ。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エージェント
    黄泉坂クルオaa0834
    人間|26才|男性|攻撃
  • エージェント
    天戸 みずくaa0834hero001
    英雄|6才|女性|ソフィ
  • 恋のキューピッド(?)
    芦川 可愛子aa0850
    人間|10才|女性|命中



  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
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