本部

君が描く──

真名木風由

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2015/11/24 01:28

掲示板

オープニング

 エージェント達は、互いの疲れた表情を確認し合った。
 肉体的な疲労、と言うより、精神的な疲労が半端ない。
 はぁと息をつけば、白い息。
 季節的に、もう暖かくはなかった。

 日本で生駒山を中心に愚神アンゼルムの大規模作戦が展開されようと、全ての事件がそこに集約される訳ではない。
 日本だけでなく、世界各国で従魔、愚神に関連する事件が発生すれば、依頼として寄せられ、任務としてエージェントが招集される。
 ……ということで、今回は中国の西安に至る道に出没するという従魔を討伐する任務に携わった。
 道路上の戦いとなったが、無事に討伐、さぁ、帰ろう……そこで悲劇に気づく。

 車が、パンクしていた。

 出没する場所まで、車で来ていた。
 そして、戦闘中、新たに登場した従魔は後方、車を遮蔽物にして登場していた。
 ……その時に、従魔が自分達に対して行った遠距離攻撃の余波で車がパンクしていたらしい。
 既に討伐完了した従魔への恨み言を並べるが、H.O.P.E.の職員によって手配される迎えや来た車の移動の手間などで身動きが取れない状態。
 そして、一緒に待つ現地運転手の話によると、この辺りは、元々秋から冬、暖かくないらしく、夜になれば……言うまでもない。
 後は迎えを待つしかない状態である為、雑談して待とうということになった。
 すると、現地運転手が「折角能力者と英雄が揃ってるんだし、意識の違いの最たるもの、コイバナでもしてみたら」と言い出してくる。
 この現地運転手は愛妻家だそうで、息子も娘も可愛くて仕方ないとか。
 そう思えるだけの出会いだったそうで、その出会いの前は今とはちょっと違う奴だった、妻が変えてくれたなどと笑う。
 人が抱える事情は様々で、恋愛したい者、したくない者、よく解らない者、興味がない者、する資格がないと思っている者……多くの見解があるだろう。特に英雄は元の世界では、自由な恋愛すらままならないものだったかもしれない(彼らがどこまで憶えているかは判らないが)
 が、話題が取り立ててあった訳ではなく、この道の先にある西安の名物料理ばかりを話題にしてもそれが口に入るかどうか解らない為、虚しいこともある。
 その話題でも話すか、と思ったが、ただ、話すだけでも面白くないと誰かが言い出した。
「互いによく合いそうな理想の相手を提示して、それに関し、恋人になった場合の想像、それに対して合っているかどうかの答えと感想を言ってみては」
 例えば、能力者なら、英雄の理想の相手(男性なら、彼の脳内嫁)を想像し、そういう相手を恋人にしたらどういう感じになるか好き勝手言い、それを聞いた英雄がその想像で合っているかどうか、相手が言った想像(妄想?)をどう思ったかを言ってみよう、ということだ。
 真面目にコイバナ、というには、能力者も英雄も知り合って間もない者もいるし、場所が場所だけにガチでするのもどうかと思う。
 あと、何より、ここ寒いので、ガチオンリーより、そうじゃない方がいいかなと。
「面白そうなこと考えるねぇ。ああ、でも、話し方次第では、熱くなるかもねぇ」
 聞くだけスタンスの運転手が、楽しそうに笑った。

解説

●状況整理
・従魔討伐任務終了、やったね! そう思ったら、来た車がパンク(犯人は従魔)
・待ってる間、話の流れで変則的なコイバナ(妄想話?)をすることに。
・あと、凍える程ではないが、普通に寒い。

●プレイングの書き方
能力者
→英雄が理想と思っていそうなタイプ(脳内嫁・婿)を想像してみてください。
その理想の相手とくっついた時どうなるかも添えましょう。
(例:人当たり良さそうに見えるけど実は遊び人の英雄、年下の庇護欲刺激される子がタイプで、今までの遊びは何だったのかと思うレベルでいちゃいちゃしたがる。微笑ましい(プッ)とすると、真っ赤になって否定して相手に泣かれておろおろしそう)

英雄
→その逆、能力者が理想と思っていそうなタイプを想像してみてください。
その理想の相手とくっついた時どうなるかも添えましょう。
(例:能力者はああ言っているが(というか妄想凄いな)、そんな能力者こそ王子様願望の下キラキラしてる奴にお弁当をあーんとかしてこっちに見るなと怒ったりする)

相手から提示があった場合の回答、反応(妄想が過ぎる場合はツッコミもしましょう)もお願いします。
※能力者のみの参加の場合、英雄はその場にはいますが反応はない状態となります。

●NPC情報
・現地運転手
30代半ば程度の男性。愛妻家、2児の父親。
基本話を聞いているだけなので描写はありません。
せいぜい最後に迎えの車に気づいてくれる程度です。

●注意・補足事項
・他の人の話に対する反応もあればどうぞ。
・とても寒いですが、残念なことに周囲にお店や人家はないようです。迎えが来るまで、寂しく待ちましょう。
・相手にそれとなく好意を伝える機会にしてもいいですし、コメディ的に笑いを取りに行ってもいいです。妄想爆発でも問題ないです。人の想像は自由です(優しい瞳)
・合意あれば、参加者同士シャッフル可能。その場合はプレイングに相手の名前を明記してください。

リプレイ

●始めようか
「息が白くなってきた! ホットな話題で盛り上がりたいねー」
 ニア・ハルベルト(aa0163)が白い息を吐いてる中、移動の車に戻っていた礼野 智美(aa0406hero001)が荷物抱えて出てきた。
 防寒具と寝袋、紅茶入りクッキーに保温性が高い水筒に入った温かい飲み物だ。
「準備万端過ぎないか?」
「市街地での任務でないなら不測の事態は想定しておくべきだろう」
 中城 凱(aa0406)が呆れると、智美はこうした準備は当然と返す。
「慣れてますね」
「智ちゃん、夜にも出かけていったような気がするから……」
 智美の恩恵に与る離戸 薫(aa0416)と美森 あやか(aa0416hero001)は、顔を見合わせる。
 彼ら(というより薫)が寒くなさそうな様を見、智美が凱をチラチラ見るが、凱は気づかない振りをした。
「わたしも出すよー」
 ニアも紅茶入りクッキーを出し、小腹が空いているエージェント達へ振舞われる。
パンクで立ち往生はマジで精神によろしくない」
「それには同意したいです……」
 冬月 晶(aa1770)に同意するのは、鹿中 靖一郎(aa0841)。
 事の発端に何を言い出すんだ的に見たが、いい提案だろうとドヤ要素ある物凄いいい笑顔された靖一郎、ちょっと精神が削れてる。
 しかも、馮 翠梅(aa0841hero001)は、
「多少のことでオタつくでないわ。こーんな面白いこと、拒否する方が無粋だと思うがのぅ」
 満面の笑みでいらっしゃる。
 ちなみに、晶の相棒であるアウローラ(aa1770hero001)も、
「アキラさんがどんな人と子供作ったらいいかってことですね!!」
 と大声で発言し、晶の精神を削った。
 けれど、この人以上に精神が削られている(現在進行形)人もいないだろう。
(この運転手とんでもねぇ地雷踏みやがったな)
 久遠 周太郎(aa0746)である。
 傍らにいるアンジェリカ・ヘルウィン(aa0746hero001)は、「もっと寄り添いましょう」と間合い詰めてくるのを、「離れろ」と手で押し返すも「温かいですね」とその手を握り返される(というか指を絡められる)始末。
「甘美なコイバナ……わたくしが大好きで大得意な分野……どうして黙っていられましょうか!? 早く話したいですわ!」
 ルーシャ・ウォースパイト(aa0163hero001)が、早く話したくてうずうずしている。
「コイバナ……?」
「とりあえずテーマに沿って話せばいい」
 よく分かっていない38(aa1426hero001)がツラナミ(aa1426)を見るも、見られても答えを返せないツラナミはそう教えた。
 なるほど、と38は頷き、出されたテーマについて考えてみる。
 水落 葵(aa1538)は空いた手にコーヒー持ちつつ、「相棒の理想のタイプ……」と呟き、同じようにコーヒーを手にするウェルラス(aa1538hero001)を見た。
「何見てるんだよ」
「いや、べっつにー」
 風下にいる葵はウェルラスにそう言うと、底がLEDライトで派手に輝くライターで煙草に火をつけた。

●妄想介入宣言
 最初は、ルーシャが乗り気なこともあるからとニアから始められた。
「ルーシャは、本人も言ってることだけど、大抵の人とは仲良くなれそうだよね」
 38がメモを取り出すのを見ながら、ニアはルーシャの理想には、と話を続ける。
「ルーシャは癖が強過ぎるから、見た目だけで寄ってきた人には逃げられそう。お節介焼きってことを考えると、素直じゃない人の方が上手くいくのかも」
「所謂つんでれ、くーでれじゃの」
「そうそう! ヤンデレも上手くやれちゃうかもって思う!」
 翠梅が口を挟むと、ニアは我が意得たりとばかりに頷いた。
「ニアの仰る通りですわ! わたくし、どのような方がお相手でも全身全霊全力の愛を注ぐ用意があります!」
(止めろ、煽るな)
 アンジェリカが激しく同意しているのを見た周太郎、恋愛観がない、自分の恋も考えられない、その為に他人の理想もよく分からないから話を聞いていれば思いつくかもしれないと思っていたが、自分の色々な危機を感じ取っている。
「ですが! 片想いならばまだしも、いざ恋愛となれば話は別!! 人は恋をして心が変わり、愛で以て心を受け取る存在……そう、恋愛とは駆け引きなの! 押したり引いたりする力加減が大切なのですわ!!」
 一息で喋ったルーシャ、地味にアンジェリカを勢いづけ、周太郎の精神へダメージを与えていることには気づいていない。
「で、わたくしから見たニアの理想、ですが」
 咳払いの後、ルーシャは愛しい妹のように思うニアを見た。
「わたしはほら、右腕がこれだから」
 あと、童顔が気になる。家事も勉強も出来ない。ルーシャはべた褒めするけど、そういうのが大丈夫な人じゃないとダメだろうなー。
 ニアがそう言うと、ルーシャはさらっと言った。
「仮に伴侶を得るとして、わたくしがその方に求めることはただひとつ! この子を幸せにしてくださること。それだけよ」
 ニアの瞳が小さく見開かれた。
「こんなわたしでも好きでいてくれて、一緒にいて楽しい人だったら大体オッケー! ……わたしは、一人が嫌いだから。誰かが隣にいてくれるだけで充分かなって」
「本来、恋愛は難しく考えるべきではないの」
 心のままに感じ、くるくると変わる想いに翻弄されてこそ、素敵な恋愛に出会える。
 愛の真髄と恋の真理を語ったルーシャは、目を爛々と輝かせた。
「さあ、折角の貴重な機会!! わたくし、隙あらば皆様の妄想に介入いたします!! 」
 ……愛って素晴らしいね。

●微妙に傷つき易いオトシゴロ
「妄想、ねぇ……。まず、お前ダメなタイプいるのか?」
 ツラナミも合流した風下の喫煙グループから葵がウェルラスへ問いかけた。
「失礼な! オレにだってちゃんと好みあるよ!?」
「どうだかなぁ」
「ちゃんと相手がいる人には手を出さないからね!?」
 ウェルラスの反論を聞いた智美が、凱へ「良かったな」とにやりと笑う。
「何が」
「分かっているんだろう?」
 智美が喉を鳴らしている間も葵とウェルラスの会話は続いている。
「こないだ随分性別不明な人に熱が入ってたしなぁって」
「あの人素敵だったじゃん。他に恥じることなく自分をしっかり持ってて」
 葵は紫煙を燻らせ、「ちったぁ真面目に話すと」とこう話し始めた。
「概ねどっかしらが『強い』人が好きだろうな」
 最近分かるようになってきたその『基準』を頭に過ぎらせているのか、葵の目はどこか遠い。
 『基準』に思うことがあるかどうかは、彼の過去を覗かないと判断出来ないだろう。
「いざくっついたらでろっでろに甘やかすだけ甘やかしてどこまでダメになるかを愉しんでそうなんだよな。実はわりと相当性格悪いもんな」
「やんでれじゃな」
「ヤンデレですわね! 自分なしでいられないようにする系ですわ!」
 翠梅とルーシャがすかさず口を挟む。
 が、アウローラは手をしゅばっと挙げてこう言った。
「子供は1人では作れませんから、アリだと思います!!」
「そこまで飛んでないだろ」
 晶が呆れるが、アウローラの元はドラゴン、今はだいぶ馴染んできているとは言え、そう考えても仕方がない。
「さぁてねぇ。正解ではないけれども大外れでもないよ」
 当のウェルラスは余裕崩さずニヤリと笑うだけだ。
「じゃ、今度はオレね。葵のおっさんの好みのタイプ……その前に、オレも確認したいけど、おっさん、ちゃんと他人に興味ある? そっち方面問題ない?」
「そろそろ地味にココロが抉られるオトシゴロだからおっさんはやめて……!」
 (外見上同年代の)晶と靖一郎もいるんだし、と言う葵の眉間の皺は深い。
 ちなみに、彼よりも年上のツラナミは気にしていない様子である。
「まぁ、年が結構離れたヒトが好きそう。上下問わずで。同じ位はそういった意味では興味あんまりなさそう」
「自分の名誉の為に言っておくとロリは範囲外だぞー」
「どうだか」
 ウェルラスは葵を一蹴し、最後はこう締め括った。
「くっついたら……あれだよね、何かものっすごく細かい所の世話焼いてそう。常に何かしら自分を認識させてそう。うわー怖いわー」
「独占欲がお強いということですわね!」
「独占……?」
 納得のルーシャに38が首を傾げる。
 さっきのニアとルーシャの話の印象と今の話の印象が噛み合ってないのかもしれない。
 38は、ツラナミへ顔を向けた。

●よく分からないもの
「ツラの、タイプ……」
 38は懐から別のメモを取り出した。
「パターンA、バランスの良いスタイルをした、程よい妙齢の女性。若過ぎず、かと言って年を取ってる訳でもない、程よい年齢層が好ましい。パター」
「待て」
 ツラナミは、38を遮った。
 38としてはツラナミ同様コイバナは勿論恋愛何それよく分からないこともあり、ごく普通に読んだ感覚であったのだが。
「それは俺の模範解答だ。今回はお前が想像し回答するのであって、それは意味がない」
 理解はしていないが、知識として有しているツラナミ、聞かれた際の模範解答はあったらしい。
「なら、……仕事の邪魔にならない人。見た目は……女性」
「子供を生むのには」
「黙ってような」
 アウローラが発言しようとするのを晶が止める。
 その光景を不思議に思う38は、ツラナミから「スタイル位は言ってくれ」と自身の好み(普通にバランスの取れた身体が好みらしい)を添えて言うように言われ、「じゃ、それ」で終わらせた。
「性格は……仕事の邪魔にならない人。そして、一緒になったら……仕事してる」
「……もうそれでいいんじゃねえの」
 案外38が当て嵌まるようなと思ったエージェントがいるかどうかは分からないが、ツラナミは彼女の回答にそう答えた。
「ツラナミはどうなの? 38の理想、言える?」
「サヤの理想ねぇ……」
 ニアから話を振られ、ツラナミも葵同様本人へ話を振ってみる。
 葵と違い、「そもそも理想とかあんの」と直球のものであったが。
「よく分からない」
 38の答えは、ツラナミの予想通り。
「とりあえず使える奴がいい。仕事でも家事でも構わん。使えない奴は不要だ。そうだな?」
「使えないより、使える方がいいに、決まってる」
 この辺りも予想の範囲内。
「そんで見た目、性格……は、難がなければいいんじゃね。会話出来れば十分だろ」
「ん、問題、ない」
「で、そいつとくっついたら……? ……どうなるんだろうな。どうなると思う?」
 ツラナミは、38へやっぱり聞く。
「……必要なこと、してもらう。それで、仕事がない時は、のんびり、過ごす」
「そうか。……と、いうことだそうだ」
「ツラナミが答え考えてない!」
 話を振ったニアが大ブーイング。
「戦略だ」
「戦略……そう考えれば、アリだな」
 ツラナミの回答に智美がふむと口にする。
「そういうものなんです?」
「そういうものだ。薫も試してはどうだ?」
 薫が智美へ尋ねると、智美は逆に話を振った。
「ボク?」
「おい、智美」
「智ちゃんらしい」
 凱が智美を諌めようとするが、あやかがそう言ってしまったので、なし崩し的に彼らの番となった。

●口に出来ること出来ないこと
 智美の配慮で寝袋の上に座る薫とあやかは水筒の温かい飲み物(理想は運転手もいるし眠気覚ましの意味でもブラックコーヒーだったらしいが現地で用意出来なかった為お茶)を飲んでいる形だ。
 この寝袋の上には、周太郎的にはとんでもない地雷を踏み抜き、靖一郎的にイイ笑顔を浮かべた現地運転手も勧められるまま腰を下ろしている。
 智美が言うには、道路にそのまま座るのは身体が冷える、とのことで。
 凱は智美の屋外戦闘の慣れを感じたが、今この場は違う話題、口にする時ではない。
「でも、あやかさんって相手いたっぽいよね」
 なのに、そういうことを言っていいのかなといった具合の薫。
 あやかと智美は文明が同じ位の世界であったそうだから、恋愛観も大きな違いはないと思っている。
 誰かと2人暮らしをしていたと推測出来る数々、智美とは同居していなかったような話を以前聞いており、同棲している……社会的にも信頼され、周囲からも認められた恋人がいたのではないか。
「どうして、そう思ったの?」
「あやかさん、優しいし料理上手だし可愛いし……普通にモテると思うんだけど、自覚ないから。その人以外目に入ってなかったんじゃないかって」
 薫は、あやかにそう指摘する。
 きっと、あやかよりも年上でうんと大人の人が相手だろう。
「あやかの見た目考えたら、相手ロリコンってことにならないか?」
「凱、茶々入れないの」
 素朴な疑問を口にした凱を薫が窘めるが、智美が何も言わないことに気づいて眉を顰めた。
 あやかも智美も何故か顔を見合わせている。
 表情を見る限り、両者不思議と納得したようだ。(あやかは異性にモテるというのは自覚がないからかピンと来ていないようだが)
 けれど、薫の言うその人がいるのかいないのか、どんな人かは2人共思い出せない。
「智美はいるかどうか分からないので言うが」
 話題を変えるように凱が話し始める。
「女尊男卑、根は多分真面目、戦闘は男勝り……男と付き合う感じがしない」
 からかわれる自分、友達感覚の薫はいるが、想像出来ない。
 親友のあやかを大事にしている智美は、男よりも女に王子様扱いされて百合な世界を展開していそうだ、と凱。
「自分より弱くて可憐な子がタイプか?」
「女性は花、守るもの。男は雑草のように強くあるべき」
 凱も戦略的に尋ねると、智美は7歳までの幼子は宝である為性別関係なく守るとした上でそう答えた。
 が、凱には呆れたらしく、女性は守る対象であっても恋愛対象ではないという考えを口にした。曰く、一応ある女という自覚ということで。
「俺の性格理解していて、方向性は違うけど戦える男……なら多分付き合えるな。女以上に装えて、頭が良くて……」
 智美は話の途中で、あやかと同じ位傍にいた、そういう存在がいたような感覚を覚えるが、やはり思い出せない。
 思考が過去に向かいそうになるが、あやかが薫へ話を振って我に返る。
 気に掛けている異性は自分を別にすれば自身の妹達であろう薫とそういう話をしたことがなかった、とあやかは口にし、妹達が納得する相手でなければ恋愛対象にしないのではないかと話す。
「食い物の好き嫌い程度のモンってレベルじゃなさそうだな」
「あたし達が出会った時も、怪我した妹さんをすぐ治したんですよ」
 周太郎が感想を漏らすと、内気なあやかは馴染みが薄い異性である周太郎に緊張しながらも答えを返した。
「世話好きでマメってことも考えると、年齢じゃなく、世話を焼いてあげたいって思う人が好みのタイプの気がする」
「そうかも。凱とか同級生とかが忘れてることとかよくやってるし」
 薫の言葉を聞いた凱がバツの悪そうな顔をする。
「智美さんから見て凱の理想ってどういう感じに見える?」
「俺には分からん」
 薫に問われ、智美は軽く肩を竦めた。
(第三者が本人へ間接的でも暴くものでもないだろう)
 多分、凱は薫を『そう』見ているから。

●無自覚推薦
「英雄も色々だな」
 4人のやり取りを聞いた晶はそう感想を漏らし、アウローラを見る。
(何でいきなり子供作らにゃならんのだ)
 どうしてそこに行くと言いたいが、アウローラがこの世界に来た当初を思えば、油断は出来ないが、これでも進化している。
「アキラさんは大人しいタイプですからね。元気で体が頑丈なタイプをお嫁さんにした方がいいと思うんですよ!!」
 そろそろ自分の番と思ったらしいアウローラが前触れなしにぶちかました。
「待て。何で嫁まで飛ぶ」
「あと、面倒くさい性格ですから、素直なタイプの方が合いますよ、ぜーったいっていうか、そういう方が好きなんじゃないですか?」
「いや、そこじゃない。嫁に飛ぶな」
 晶は、アウローラに頭を抱えた。
「ああ、あとあれあれ。人間の女の子って何歳くらいが体力あります? 16~20位? それ位の人がいいですね。子供作るなら体力ある方がいいですからねー」
「話、聞いてるか?」
 晶が顔を引き攣らせるも、アウローラの話続行。
「その年齢になってくるとちらつくのは当然。葵のオッサンだって……な?」
「ドサクサに紛れて抉るな」
「ハッ」
 晶を諭したウェルラスは、葵の抗議をやっぱり一蹴した。
 が、晶は葵に共感している場合ではない。
 今もアウローラの話は続行!
「何だかんだ言ってアキラさんも張り切ってご飯作っちゃいますよー。お嫁さんもいっぱい食べられて幸せですよー」
「お前の希望がダダ漏れじゃないか」
 えへへと笑うアウローラへ、晶がツッコミした。
「お前は……飯の美味そうな奴にバキュームされそうだよな。餌付けされると弱いし」
 好きな物を出された時の満面の笑顔。
 嫌いな物を出された時の半泣き。
 どっちも子供のよう。
「毎日好きな物を出されてるみたいになるんじゃないか?」
「嫌いな物が出た時とかバレてるんですかー!?」
 アウローラは慌てるが、晶は隠していたつもりだったのかと軽く肩を竦めた。
「何だかんだ言って幸せに暮らせるんじゃないか? お前相手だと、保護者じゃないといかん気もするが……」
「失礼ですね。私だって食べること以外に色々考えてるんですよ?」
 大体食い意地で出来ていると言わんばかりの態度の晶へアウローラが反論する。
「色々って何だよ」
「い、色々は色々なんですっ!! つがいの相手だってご飯のこと以外でも選びますからー!!」
 アウローラは晶にそう言い切った。
 メモを取る38はお互いのことを言っているのだろうかとツラナミを見るが、ツラナミは何も言うなと首を振る。
「梅さん、物凄いいい笑顔だね」
「楽しいのじゃ」
 靖一郎が翠梅を見ると、彼女は清々しくもそう言った。
「そろそろこちらも話す時じゃ」
 話さないのも抵抗感半端ないと思い始めていた靖一郎へ、翠梅がイイ笑顔。
 既に退路はなく、彼らの話が始まった。

●要約するには……
 自分のではなく、翠梅の理想のタイプを語るのだ、話さないことへの抵抗感も覚えてきているし、と靖一郎は口を開く。
「一言で言うなら、ナイスミドルでしょうね」
 泰然自若で大らかに笑って許してくれる包容力、いざという時は荒々しく、そして漢らしく速攻即決。
 そんな男性ではないだろうか。
「オッサンは脱落したな」
 ウェルラスがぽそりと呟き、葵を抉っていると、
「智ちゃんみたい」
「あやかさん、それはどうなんだろう」
「2人共、俺はナイスミドルじゃないぞ」
「そこかよ」
 あやかの感想に薫がツッコミ、智美が指摘すると、凱が呆れている。
「そうした方と結ばれたら、どうなりますの?」
「今日は午前様になるかもと言われて、仕方なく思うもちょっと寂しいと甘える感じにすり寄りそうですね。そして、軽くハグされて早く帰れるよう頑張るよ……と耳元で囁かれていそうな感じです」
「愛ですわね!! まるで夫婦ですわねー!!」
 ルーシャが靖一郎が語る翠梅の理想とその相手とのやり取りを聞いて、歓喜。
「子作りの時……むがっ」
「でも、そういうの、大人って感じだよね」
 晶がアウローラの口を塞いでいる間、ニアも声を弾ませる。
 38はやっぱり分からないのでメモをちゃんと取っているが、どこまで生かせるかはツラナミにも本人にも分からない。
(……もう顔向けるのが恐ろしい)
 周太郎は、今とても逃げたい。
 アンジェリカが今まで発言しないのも怖いが、聞いている話で煽られていることは想像出来るので、口を開くのがいつかと震えている。
 自分には恋愛観がない為にアンジェリカの理想は語れないと思っていたが、いや、最初から語るまでもないのだが。
 周太郎が凍えているのを他所に、翠梅が呆れたように溜息を吐く。
「言うに事欠いて色々言ってくれるわ。どこの万年新婚夫婦じゃ……。おぬしの妄想も中々のものじゃの」
 最後はくふっと笑った翠梅、靖一郎へ反撃開始。
「おぬしは、外面こそ無表情で口数も少ないが、中身は甘やかしお世話することに喜びを見出すわんこ系に弱いと見ておる」
「わんこ系……」
 外見での判断だが自分と年齢が近いだろうと思う葵と晶が反芻し、靖一郎を見る。
 翠梅がそうして視線を集める靖一郎ににやりと笑った。
「無表情に膝をポンポン叩いて膝枕、耳掃除を逆強要されるのじゃ。おぬしは無言の威圧に押されてやって貰うが、何やら怖く感じるやら柔らかい腿の瑞々しさに胸を高鳴らせるやらじゃ」
「ヤンデレスレスレじゃないかな、それ」
「いいえ、愛が溢れてますわ!!」
 ニアがツッコミすると、ルーシャはそう言い切った。
「女の影が見えんから、衆道好みかの? ……と思っておったが、こういうおなごが好みとはのう……」
「ムッツリだな!」
「いや、健康でいいんじゃないか?」
「ムッツリって言う程でもないだろう」
 ウェルラスの発言に年が近いと思われるよしみで葵と晶がフォローしてくれる、が。
「違ーう!! 僕がそういう性癖って勘違いされるじゃないかっ。嘘泣き禁止!!」
 靖一郎は、そっと袂で涙拭うフリをする翠梅へ抗議する。
 葵と晶のフォローは嬉しいけど、でも、何か違うし!!
「ところで、周太郎さんとアンジェリカさんはまだですね!! お互い、どのようなつがいを理想と思っているか聞かせてください!!」
 その時、メモを取っていた38は見た。
 周太郎の顔色が露骨に青ざめたのを。
 そして、アンジェリカの空気が明らかに変わったのを。
 38が、ツラナミを見る。
 けれど、ツラナミは黙って首を横に振った。

●心のライフゼロ
「周太郎の理想の相手は私であり、私の理想の相手は周太郎だ」
 アンジェリカ、大変マジな顔で仰った。
 周太郎の回答も断言した……頭の中は周太郎で埋め尽くされている彼女、発言のレベルが違った。
「恋とは盲目……全てはその者の為に霞み、全てはその者の前では曇るもの」
 満を持してのお話は、立て板に流れる水の如く。
「朝は陽よりも早く周太郎の為に目覚め、夜は月よりも長く周太郎を見守り、周太郎と共に私はあります。周太郎の為に生き、そして周太郎と共に歩むのが私の定めです」
「その短ぇ一文の間に器用に俺の名前連発すんのやめてくれねぇか」
 アンジェリカへ周太郎はそう言うも、全く理解されない。
 その思い込み、筋金入り狂信的なマジキチストーカー認定されてもおかしくない(少なくとも周太郎は認定しているだろう)が、アンジェリカは気にしない。
「日常、戦い……健やかなる時も病める時も周太郎の為に何かをしているのは全て私の理想そのもの。私こそが周太郎に全てを与え、そして愛しむのだ」
「愛されておるのじゃ」
「おい、まだ迎えってのは来ねぇのか。もう俺これ聞き続けてられねぇぞ……」
 翠梅の発言をスルーして周太郎が呟くが、アンジェリカはまだ気づいていない。
 鏡を覗かなくとも、自分は凄い疲れている顔をしていると周太郎は自覚している。
「お疲れ様」
 靖一郎が凄く優しい瞳でコーヒーくれた。
 コーヒーよりも労わりの言葉が温かい。
「今が私の理想の状況であり、理想の相手の傍らにいることになる。周太郎も同じ……。どうしました、周太郎、何故そんな死んだ魚のような目になっているのです」
 周太郎がコーヒーを飲む音でやっと気づいたアンジェリカが首を傾げる。
(思いつく所の話じゃねぇ……)
 誰かに自分を預けるイメージも思い浮かばず、そこまで人を好きになったこともない為、恋愛観と呼べるものもない。恋の話など出来ないが、それ以前の問題に直面している。
「つまり、アンジェリカさんと周太郎さんはもうつがいなんですね!!」
 アウローラが無邪気にぶちかまし、周太郎の魂が脱出を試みようとし出す。
 アンジェリカが周太郎との日々(アンジェリカビジョン)を喋っている、晶が「すまない」とアウローラの発言を謝罪している……けれど、自己防衛機能が働いた周太郎には遠い言葉のように感じられた。
「あの車そうじゃないかな?」
 現地運転手が迎えの車に気づくまで、アンジェリカは周太郎の話で爆走していた。
「個人的には万年新婚夫婦の話と理想のお嫁さんの話が面白かったけど、お嬢さんは彼に夢中なんだね」
「全てだからな」
 周太郎、トドメ。

「ウチの店の駐車場には中々良い桜が植えてあるんだ。お誂え向きに2人で座るのにちょうど良いベンチもある。皆、咲く季節に気が向いたら来てみてくれ」
「是非」
 葵がその桜には近づかないウェルラスの渋面を他所に皆へ言うと、アンジェリカが即応じた。
 世の中、知らないでいた方がいいこともある。
 翠梅より尤もらしく諭された靖一郎は、心のライフがゼロになっている様子の周太郎の心の平和を祈った。

 その理想は、人それぞれ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    鹿中 靖一郎aa0841
  • YOU+ME=?
    冬月 晶aa1770

重体一覧

参加者

  • 守護者の誉
    ニア・ハルベルトaa0163
    機械|20才|女性|生命
  • 愛を説く者
    ルーシャ・ウォースパイトaa0163hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 希望の守り人
    久遠 周太郎aa0746
    人間|25才|男性|攻撃
  • 周太郎爆走姫
    アンジェリカ・ヘルウィンaa0746hero001
    英雄|25才|女性|ブレ
  • エージェント
    鹿中 靖一郎aa0841
    人間|29才|男性|防御
  • エージェント
    馮 翠梅aa0841hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • YOU+ME=?
    冬月 晶aa1770
    人間|30才|男性|攻撃
  • Ms.Swallow
    アウローラaa1770hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
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