本部

カレーライス防衛戦線

雪虫

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
13人 / 5~15人
英雄
13人 / 0~15人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2015/11/17 20:07

掲示板

オープニング

●生駒山宿営地
「突然で申し訳ないのだが、誰か昼食のカレーを作るのに協力してくれる者はいないか」
 オペレーターはそう言うと申し訳なさそうに頭を掻いた。「ふう」と少し息を吐き、それから目の前にいるリンカー達へと視線を向ける。
「実は、この宿営地で我々の食事を用意してくれている調理班の数名が、イマーゴ級従魔に襲われてライヴスを奪われてしまったのだ。幸い奪われたライヴスは少量程度で命に別状はないのだが、昼食を作れない程度には体調不良を起こしている。そこで、急遽彼らの代わりにカレーライスを作って欲しい。材料、器材、調理場はすでにこちらで用意してある」
「はい! 拙者、やりたいでござる!」
 青い忍び装束の青年、ガイル・アードレッド (az0011) は元気いっぱいに手を挙げながら勢いよく名乗りを上げた。オペレーターは「よし」と頷き、そして他の面々の顔を眺める。
「他にも料理が得意な者、怪我をして戦闘に参加出来ない者なども積極的に支援して欲しい。従魔や愚神と戦う事も大事だが、食事を用意する事も戦場においては重要だからな。
 それから、従魔や愚神が宿営地内に出没する危険もあるので十分注意するように。例えばイマーゴ級だとしても、カレー鍋に取り憑かれてカレー鍋がガッシャーン、……なんて事もあり得るからな。君達にこの宿営地全員分のカレーを作れとまでは言わないが、君達がカレーを作れなかった場合、その分昼食のカレーが減るという事は伝えておこう」
 それでは、調理場に案内しよう、とオペレーターは歩き出した。ガイルもオペレーターの後をついて行き、カレー作りに参加希望したあなた方も調理場へと向かって行った。

●宿営地調理場
「では、よろしく頼んだぞ」
 オペレーターは一通りの説明を終えると、次の仕事に行くために一人調理場を後にした。それぞれ役割分担を終え、調理に取り掛かろうとするあなた方の耳に、ガイルとデランジェ・シンドラー(az0011hero001)の話し声が聞こえてくる。
「そう言えばガイルちゃんって、料理やった事あるの?」
「ないでござる!」
「全く? 全然?」
「ホウチョウもフライパンも持った事はないでござるよ! しかしか、マミーとおばあちゃん殿のヘルプはよくしていたでござる! だからきっとダイジョウブでござる!」
 何か不穏な事をしゃべりつつ、ガイルは猫柄のエプロンをつけ頭に猫柄の三角巾を巻き付けた。そして、装備を外した手を水道水でバシャバシャ洗い、傍らにあった米の入ったボウルを掴む。
「よし、それでは、まずはライスを洗うでござるー」
 元気いっぱいに呟いたガイルの右手には、何故か洗剤の見慣れたボトルが握られていた。こいつはマズい。あなた方は調理場に紛れ込んだ怪物の進撃を止めるべく、それぞれ行動を開始した。

解説

●目標
 カレーライスを(能力者人数+英雄人数+2)×3人前作る。
※今回参加していない英雄は上記の「英雄人数」に含めず、調理には参加していないものとして扱う。従魔退治についてはこの限りではない(共鳴は可能、英雄の描写はなし)。
 
●敵情報
ガイル・アードレッド
 回避適性。少しでも仲間の役に立ちたくカレー作りに名乗りを上げたが……。以下は料理に関するガイルの発言。
「手裏剣とソードなら持った事があるでござる」
「フライパンが燃えたでござる!」
「あんぱんは何にでも合うNINJYA食だとおじちゃん殿が言ってたでござる!」
「び、びしょびしょになったでござる……」 

イマーゴ級従魔
 物に取り憑いてポルタ―ガイストを起こす程度の能力しかない。取り憑く前はぼんやりとした黒いもやのような姿で現れる。何処にどのタイミングで何体現れるかは不明。

●NPC情報
デランジェ・シンドラー
 シャドウルーカ―。ガイルの付き添いで調理場にはいるが、調理に参加するつもりはない。従魔退治は指示を出せば従う。
・縫止
 ライヴスの針を発射し、対象の行動を阻害する。【封印】付与。
武器:リボルバー/鉤爪

●調理場情報
 5×10スクエア(スクエアは一辺2m)。屋外キャンプ場にあるようなオープンな調理場。屋根あり。調理台は全部で5つ、北東側に野菜の入った冷蔵庫が設置されている。
器材:布巾、炊飯器、ざる、包丁、ピーラー、まな板、さいばし、おたま、計量カップ、フライパン、大型鍋、大型ガスコンロ、スポンジ、洗剤、水切り籠。その他必要があれば申請可だが、用意出来ない場合もある。
食材:カレーに必要と思われるものは大体揃っているが、食材によってはない場合もある。ガイルがあんぱん(賞味期限以内)を持っている。

●その他情報
 配食はセルフサービスなので盛り付ける必要はなし。カレーとご飯が無事出来上がり、洗い物まで終了した時点で完成とする。

リプレイ

●まずは米研ぎから始めよう
 食器用洗剤。主にスポンジなどに染み込ませ、使用済みの食器を洗うために使われる洗剤である。もちろん、手にガンコな油汚れがついた時とか、シャボン玉を作って「まあキレイ」と言いたい時などに使う場合もあるだろうが、米を洗う時に使ってはいけない事は断固明白の事実である。麻生 遊夜(aa0452)はその禁忌を今まさに冒そうとしているガイル・アードレッド(az0011)の姿を認めると、「待て! それはヤバい!」と叫びながらその手から洗剤を取り上げた。
「ゆ、遊夜殿?」
「ガイルさん、落ち着いて考えて欲しいんだが、洗剤って飲める物だと思うか? 食う事が出来る物だと思うか? 飲めない、食えない物と食材を混ぜるのはご法度だぜ? 後で食うんだからな。そのままだと口からシャボン玉が量産されることになるし、火を通したらすごい匂いと味になるぞ?」
 遊夜の分かりやすくも的確な説明に、ガイルは「ガーン」とショックを受けた。自分がどれだけの暴挙を冒そうとしたかようやく気付いたようである。
「口からシャボン玉は大変でござる! ソ―リーでござる! 拙者、ウォッシュの際はセンザイを使えばいいものとばかり……」
「洗剤は邪道だよ! 手で一生懸命洗ってこそお米は美味しくなるんだからね!」
 御代 つくし(aa0657)は黄色の可愛らしいエプロンを揺らしながら、元気いっぱいにショックを受けるガイルに向かって声を掛けた。しかし、ガイルはつくしの言葉にさらに盛大にショックを受けたらしく、「ガガーン」と効果音を発しながら全身で衝撃を露わにする。
「邪道でござるか!? うう……拙者またやってしまったでござる……二度ある事は三度あったでござる……」
 ガイルは力なく呟くと、「落ち込んでいる」を体現するかのごとく肩を落として項垂れた。何故かキノコの幻影が頭の上に見えるガイルに、齶田 米衛門(aa1482)は肩を叩いて力強く親指を立てる。
「(ガイルさん、今日は、張り切って、頑張るッス)」
 という旨をハンドサインで表現して爽やかな笑みを見せる米衛門に、ガイルは心の底から訝し気な顔をした。そして、米衛門の真似をするように手を彷徨わせ始めたガイルに、相棒兼通訳のスノー ヴェイツ(aa1482hero001)(以降スノー)が説明をする。
「いや、それは『今日は張り切って頑張ろう』というハンドサインだ」
「そうなのでござるか!? 拙者、ライスをウォッシュする際のオマジナイかと思ったでござる!」
「まあ、なんだ。そんなへこむなって。やり方が分かんねーなら覚えりゃ良いだけの話だろう?」
 少し離れた位置から及川 柚里(aa1366)がぶっきらぼうに声を掛けてきた。お世辞にも愛想があるとは言えない、むしろ荒っぽいとも言えるような端的過ぎる物言いだったが、それが一層「フォローならするから」という優しさを言外に滲ませていた。
「米ならオイに任せるッス。名前は伊達じゃないッスよ!」
「一緒にお米洗おうよ!」
「……経験がないなら、覚えればいいだけ」
 米衛門が、つくしが、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)(以降リーヤ)が、言いながら正しい米の研ぎ方を教えるべくガイルの手元を覗き込んだ。同時にメグル(aa0657hero001)がさりげなくガイルの視界から洗剤を遠ざける事も忘れない。
「……最初は軽くかき混ぜて、さっと水を捨てるの。……ん、ゴミや糠を洗い流すのが大事」
「お水流す時も、お米が零れないように丁寧にね!」
「米を研ぐ時は強くやっちゃよくないッス、お米の本来の味が落ちるんス。そうなったらいだましねぇ(もったいない)ッス」
「……指を立てて力を入れずに、円を描くように……ん、軽く研ぐ。……あとは軽くすすぐの」
「お米に、美味しくなーれって願いながら、丁寧に洗うんだよー!」
「量が多いので頑張るッス!」
「りょ、了解でござる!」
「リーヤが積極的に関わりに行くのは珍しいな。ガイルさんを孤児院の子供らと同じ扱いで接してるみたいだが……。ま、良い傾向かね」
 遊夜は万一の為に用意したジャージをいつでも使えるようにセットしながら、超絶人見知りの気のある相棒の姿を眺めていた。その裏では赤城 龍哉(aa0090)が、とりあえずの危機は去ったらしい事にひと段落の息を吐く。
「これで変に自説を曲げない方向に行ったら『お前の国ではパスタや肉を洗剤で洗う習慣があるのか?』って笑顔で言ってた所だぜ。ま、間違った事をしていると諭してくれている相手を無視するような奴でなくて良かったな」
 だが、と龍哉は目の前にそびえ立つ次なる問題へと視線を向けた。下された指令は84人前のカレーを作る事。当然、その武を極める者特有の隙の無い瞳の前には、見ただけで気が遠くなるような大量の米が鎮座している。
「多く食べる奴の事も考えて、全部で10升、重さにして約15kgか……」
「一応5升炊きの炊飯器を2個借りられたから、炊飯器のキャパ的には問題ないが……最初の糠取りは時間との勝負だしな。水にもきちんと浸したいし、手早く捌いていきたい所だ」
「いやぁ、かなりの人数分の米だから、運ぶのも研ぐのも大変だなこりゃ。といっても、俺もティアも米研ぐのはしょっちゅうやってるしな、美味い米が炊けるように気合い入れて頑張るわ」
「ふふふー、ティアはほとんど毎日のように甘味茶屋でおにぎりを作ってるから、お米研ぐのも炊くのも慣れっこなのさ♪」
「余ればドライカレーやトッピングでおにぎりにするのも悪くないな」
「精一杯頑張らせて頂きますわ」
 柚里が、龍哉が、柏崎 灰司(aa0255)が、ティア・ドロップ(aa0255hero001)が、遊夜が、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)(以降ヴァル)が、それぞれ自分達の前に立ちはだかる強敵へと視線を向けた。今、彼らの全身全霊を懸けた、白い粒をひたすら洗い炊飯器に流し込んでいくお仕事が始まる。

●下拵えも並行で
 炊飯組が怒涛の勢いで、かつ繊細な指使いで米を研いでは炊飯器に流し込んでいくお仕事に徹していた同時刻、ウォルター ドノヴァン(aa1366hero001)は大量の食材と器材の前でややテンションを上げていた。
「見てくれこの鍋、この食材の山! もう、オペレーション・給食のおばちゃんって感じだよね! でも、自慢じゃないけど料理はやったこと無いんだ……とはいえ僕は騎士だからね。簡単な手伝いや最後の洗い物は勿論、応援と食事も頑張るよ!」
「ああん?」
 ドスの効いた低い声と迫力有り余るガン飛ばしに、ウォルターは「あ、いえ……ちゃんと働きます、はい」とその場に小さくしぼんでいった。一方、ガンを飛ばした2m近い大男、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は、「料理酒」と申請して許可の下りたビールをあおりながら、それなりの速さで器用に包丁を動かし野菜の皮を剥いていた。
「こんな時間からビール?」
「いいじゃねーか、料理は楽しくがモットーなんだろ?」
 御童 紗希(aa0339)は「もう」と呆れた表情を浮かべながら、しかし自分も手だけは休めずてきぱきと作業を進めていた。予定としてはじゃがいも、人参、玉ねぎといったオーソドックスな具の他に、トッピング用の具材も用意していく方向だ。ナスとパプリカは素揚げ、ほうれん草は茹でたもの、トマトは湯むきしたものをサイの目に切り、豚、牛、鶏と魚介は油で簡単に炒めたものを作っておく。ハーフ特有の美しい茶髪を三つ編みにし、エプロンをして手際よく作業に当たるその姿は、何処に出しても恥ずかしくないお嫁さんの鑑であった。
「頼もうでござる!」
 そんな中、炊飯組にいたはずのガイルが、少し元気を取り戻した顔で下拵え組へと回ってきた。面倒を起こす奴が嫌いなカイは無言でガンを飛ばしたが、ガイルは幸か不幸かそれには気付かず谷崎 祐二(aa1192)の元へと歩いていく。
「ガイルさん、どうした」
「『もう米研ぎに関して教える事はない』って言われたでござる! ティア殿と『美味しく炊き上がりますように』ってスイハンキに手も合わせたでござる! 今度はこっちのお手伝いをしたいでソウロウ!」
 それは体よく追い払われただけでは……とその場の誰もが思ったが、意外に繊細らしいこの派手なNINJYAにそれを伝えるのは気が引けた。「それ、追い払われただけじゃ」とストレートに口に出しそうな者が若干いたが、その者達は仲間の手によってすぐさま口を塞がれた。
「そっかそっか。それじゃあピーラーで野菜の皮剥きを手伝ってくれないか?」
「ぴーらー、でござるか? 拙者手裏剣とNINJYAソードなら持った事があるでござるが……」
「ピーラーはこう、な。こうやって人参やじゃがいもの皮を……」
「グ、グレートでござる! 拙者もピーラー頑張るでござる!」
 ガイルは興奮した様子でピーラーで人参の皮を剥き始めた。料理の手伝いをやりたがる幼稚園児のようだな……などと思ってはならない。
 ガイルが初めての皮剥きに闘志を燃やす一方で、御神 恭也(aa0127)もまた、こちらは静かに包丁で、ただ黙々と一切の無駄なく野菜の皮剥きを行っていた。十六歳とも思えないよく言えば落ち着いた、悪く言えばいやに老成した雰囲気を醸し出すその横で、伊邪那美(aa0127hero001)は心の底からうんざりと呟いた。
「この量の皮むきって苦行に近い物があるんだけど……」
「そうか? 精神修行に調度良いと思うのだがな。今なら悟りすら開く事が出来る気がする」
「こんな事で悟りを開かないでよ……」
 だが、伊邪那美がうんざりした表情を浮かべるのも、恭也が「精神修行」と評するのも全く無理からぬ話であった。84人前のカレーを作るという事は、84人前の肉や野菜の下拵えをしなければならないという事でもある。剥いても剥いても切っても切っても鎮座し続ける人参、玉ねぎ、じゃがいも、肉類……祐二に指導を受けながらも玉ねぎの皮を剥いていたプロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)(以降セリー)は、完全に飽きて見回り役に任命されたデランジェ・シンドラー(az0011hero001)の元に走っていった。
「あらん? 子猫ちゃんったら疲れちゃったのん?」
「にゃーん」
「そうだな、セリーにはデランジェさんと一緒に見回り役をしてもらおうか。セリーの分の皮剥きは俺が急いで頑張ると……」
「ウォルターも、暇なら従魔が出た時のために警戒しといてくれ。もやが出たら大声で知らせろ、いいな?」
「ひ、暇じゃないよ! 手伝う気は満載だよ! でも、僕は騎士だからね! 料理よりも敵に備えている方が確かにふさわしいよね!」
 柚里の言葉を受けたウォルターは「仕方ない」と口に出しつつも、何処かほっとした様子を見せながら警戒組へと加わりに行った。とりあえずオペレーターの言っていた従魔の影はないらしく、順調に進みそう……に思われたが。
「縁殿! すごいでござる! 一体どうやっているでござるか!?」
 やたらとテンションの高い声に全員がそちらに視線を向けると、いつの間にかガイルが、人参で手裏剣やら梅やらを作り出す縁(aa1517hero001)の手元を凝視していた。
「これ、人参でござるよね? すごいでござる! アッパレでござる!」
「ふっふっふ、すごかろう! 全部私の指示なのだ!」
 ガイルの全力の称賛に、エス(aa1517)は腕を組みながらえらく尊大な口調で答えた。この絹糸のような髪を持つ性別不明の麗人は、自信溢れた雰囲気とは裏腹に「私に任せろ!」の一言と共に野菜で大惨事を演出していくある意味脅威の人物だったが、その頃米研ぎの極意を叩き込まれていたガイルがその事を知る由もなかった。
「すごいでござる! オイエゲイというヤツでござる! ミーもやってみたいでござる!」
「ガ、ガイルさんは皮剥きの方を……」
「もう終わったでござる」
「嘘っ!」
 祐二が驚いて顔を向けると、確かにそこには皮を剥かれた人参とじゃがいもがきちんと山を為していた。しかもよくある皮の剥き残しなどもない。もちろん、ガイルを除く下拵え組の作業の成果が大半であるし、祐二の教え方が良かったのもあるのだろうが……どうやらこの派手なNINJYAは、物をよく知らないだけできちんと教えさえすればそれなりに出来るようではある。もっともそれは裏を返せば、デタラメを教えた場合そのデタラメを実行に移してしまうという事なのだが。
「うーん……」
 ピーラーの実演をしてまで「いかにガイルに包丁を持たせないようにするか」を熟慮していた祐二の横では、佐倉 樹(aa0340)が心の底から面倒そうに声を漏らした。その思考を見透かしたシルミルテ(aa0340hero001)が、何故かシルクハットに三角巾姿で相棒にぽつりと呟く。
「見捨テ方ヲ考えルのハ止しテあげヨーネ……?」
「考えてないよ。包丁で指切ってもらった方が楽かも、なんて考えてないよ」
「考えテル、考えテル」
 だが、このまま放置する訳にもいかない。何より自分の作業の邪魔になったら嫌過ぎる。樹は一計を案じると、ガイルの傍へ行き皮を剥いて半分に切った玉ねぎを一つ差し出した。
「いきなり手裏剣を作る事は初心者には許されない。修行を積み包丁マスターになって初めて手裏剣を作れるのです。なのでまずはこの玉ねぎを細く切って包丁の修行を積んで下さい」
「ほ、ホウチョウマスター……拙者、イッショウケンメイ頑張るでござる!」
 ガイルは真剣な面持ちで玉ねぎをまな板の上に置き、そんなガイルの姿を見ながら樹は密かに「よし」と思った。かくしてガイルは包丁で玉ねぎを刻み始めた訳だが、しばらくして何やらべそべそという音が聞こえてきた。
「め、目がイタイでござる……」
 どうやら、玉ねぎが目にしみたらしい。ズレたサングラスの奥では青い目がしょぼしょぼと動いていた。これまで一言も発する事なく、ただ黙々と野菜を刻んでいた鵠沼 龍之介(aa1522)は、ガイルの惨状に気付き一時手を止め近付いた。
「玉ねぎを切る手が遅いな。包丁をこのように持って素早く切れば涙は出ない。玉ねぎが目にしみて辛いというなら鼻にティッシュを突っ込むといい」
 と言いつつ、龍之介は右手でガイルの顎を掴むと、左手でガイルの鼻の中に丸めたティッシュをねじ込んだ。
「おお、本当に涙が出ないでござる!」
「うん、意外にいい包丁使いだ」
 鼻ティッシュに感動するガイルの包丁さばきを龍之介が上官のような口調で褒め、祐二も胸を撫で下ろしつつ自分の作業に戻っていった。紗希は見事な手際でトッピング作りに精を出し、縁は人参の紅葉作りに取りかかり、恭也は山寺の修行僧のように静かに野菜を切っていた。その時、樹の前に突然黒いもやが現れ、まな板の上に置いてあった一個のじゃがいもに取り憑いた。動き出すじゃがいも。すぐさま共鳴してじゃがいもをわし掴みにする樹。樹はじゃがいもを渾身の力でまな板に叩きつけて粉砕すると、飛び散ったじゃがいもを集めて袋の中に放り込む。
「ん? 何かあったか?」
「いえ、別に」
「ポーい」
 かくして名もなき従魔はシルミルテがそこそこ綺麗な字で「従魔ごみ」と書いた段ボール箱へと沈んでいった。そして束の間の平穏が訪れた……かに見えたが、誰かがぽつりと呟いた。
「そう言えば、二人足りなくないか?」
 
●一方その頃
 鈴原 絵音(aa0874)はトイレの住人と化していた。原因は飲み過ぎによる二日酔いである。カレーを食べるだけの簡単なお仕事だと思って立候補したのだが、突如ぶり返した二日酔いによりただ今トイレなうだった。ちなみに英雄の信長(aa0874hero001)はどっかのバンドのバックバンドの誰かみたいな感じで幻影蝶の中で高笑いなうだった。
「ははははは」

●甘口カレー防衛戦線
 「いない者については途中で気分が悪くなったのかもしれない」という事で意見がまとまり、リンカー達はそれぞれの班に分かれ、味付けに取り掛かる事にした。灰司は右手で眼鏡の位置を直しながら、濃い灰色の瞳に班員達の姿を映す。
「炊飯もなんとか一段落ついたし、今度はカレーだな、カレー。俺達は甘口班、肉は豚肉、野菜は定番の玉ねぎ、人参、じゃがいもって事でいいかな」
「(了解ッス)(ハンドサインで)」
「猟師の癖って抜けねぇのな、通訳する身にもなってほしいぜ……飯が食えんならどうでもいいけどな!」
 スノーは相棒の米衛門の癖に呆れた声を出しつつも、「旨い飯が食える」という事に目を「きらーん」と光らせた。実はカレーを食べるのは今回が初めての事なので、カレーへの期待とカレーを守るという決意は英雄一倍高かった。
「従魔の事は任せておけ! 食いもん減らされたらたまんねぇからな。おおシルミルテ、飴やるわ、飴」
「じゃあ従魔の警戒には米衛門君とスノーちゃんに当たってもらって、カレーを煮込むのは俺と祐二さんと交代しながらがいいのかな。これだけの量となると割と力仕事だし、ずっと煮込んでるのも大変だし。後、一応作業中に何か変なのが現れたら対処出来るようにしておくぜ。せっかくのカレーが台無しなったらもったいねぇしな」
「ああ、そうだな。俺も混ぜながら警戒しておこう。要因は様々あるようだし」
「祐二さんは前に甘味茶屋に来てくれた事があったのさ、お久しぶりなのさー♪ 樹ちゃん達もよろしくねーっ」
 スノーがシルミルテに飴を渡し、灰司が役割を提案し、祐二が同意し、ティアが挨拶し、そしてシルミルテが飴を嘗めた。何事もなく灰汁を抜き、野菜に満遍なく火が通り、ルーや隠し味が鍋に投入され、カレーのいい匂いが漂ってきた頃、青い忍び装束を着た人影がひょこりと甘口班に現れた。
「頼もうでござる! ベリーおいしそうな匂いでござる!」
「おお、ガイル君もカレーは好きかい?」
「大好きでござる! そうだ、拙者あんぱんを持っているでござる。あんぱんは何にでも合うNINJYA食だとおじちゃん殿が言ってたでござる!」
 灰司の言葉に元気よく返事をしたガイルは、懐から袋に入ったままのあんぱん(おやつ)を取り出した。何故あんぱんを持ち続けているのか、おじちゃん殿って誰なのか、突っ込もうと思えばツッコミ所は山のように出てくるが、とりあえず今カレー鍋にあんぱんを入れられては堪らない。いかにあんぱんをしのごうかと考える灰司と祐二の横から、エプロンと三角巾を装備した樹が颯爽と私物のうさぎ柄小皿をガイルに向けて差し出した。
「ガイルさん、あなたに忍者の仕事をお願いします」
「NINJYAのシゴトでござるか!?」
「まず、この小皿でカレーを味見し、感想を述べて下さい」
「ベリーおいしいでござる」
「では、同じように他の班も偵察に行き、その味を報告して下さい」
「リョウカイでござる! 行ってくるでござる!」
 そしてガイルは、うさぎ柄の小皿を抱えたまま中辛班へと向かっていった。その背中を見送りながら、樹がやりきった表情で汗を拭うフリをする。
「偵察……正に忍者の仕事ですね」
「体ヨク追イ払っタトモいうのネー……」
「いやでも、ガイルさんには悪いが助かったよ。さすがにあんぱん入れられるのは」
「でもあれじゃ、いずれ何処かが犠牲になるのよさー」
「……」
 ティアの呟きに、その場にいる全員が聞こえないフリをした。

●中辛カレー防衛戦線
「班員各位整列! いいか、我々の目標はマトモに食えるカレーの調理、及びそれの防衛だ。敵は従魔だけにあらず、心してかかってくれ。健闘を祈る。以上」
 龍之介は思わず背筋を伸ばしてしまうような機敏な動作で敬礼をし、そして機敏な動作で元に戻った。ここは中辛班。普通に考えれば甘口班と違うのは味付けだけのはずなのだが、どういう巡り合わせなのか武闘派と男臭さが若干高めの班でもあった。
「とは言っても普通にルーを使ってれば失敗しようのない所ではあるし、カレー作り自体はそこまで気張らんでもいいだろう。個人の好みで味付けを変えるのは食べる時にやれば良いだろうし」
「俺だけが食べるのなら激辛にするのだが、今回は他の人もいるし中辛程度に抑えておくか」
 龍哉の後ろで呟きつつ、恭也はローレル等の香草・人参や玉ねぎ等の香味野菜の皮を布で包んでまとめたものを寸胴鍋の中へと沈めた。さりげなく発揮される本気と不穏な発言に、伊邪那美が顔を引きつらせる。
「恭也は舌が絶対に変だよ。一度食べて酷い目にあったんだから」
「人の物を盗み食いするからだ。人の嗜好にケチを付けるのは御子様の証だぞ。それからカレー粉は必要量の半分を入れて、残り半分は炒めて香りを出してから入れると」
「味付けってルーを入れる以外にも何かやんのか? って思ってたけど、そういう事もやるんだな……」
 感心したように呟きながら柚里は鍋を覗き込んだ。スマホにメモるまで絶対に忘れないようにと、真剣な面持ちで鍋の中を凝視する。
「やっとトッピング準備が終わりました。こちらも順調のようですね」
 中辛班と合流した紗希も、三つ編みを揺らしながら鍋の中を覗き込んだ。ちなみにカイはいまだビールを手放さずに飲んでいる。
「ここまでは一応順調って事か。あとは従魔とあのエセニンジャが……」
「頼もうでござる! テイサツに来たでござる!」
「げえっ!」
 面倒を起こす奴が嫌いなカイは無言でガンを飛ばしたが、ガイルは幸か不幸かそれには気付かず恭也……の前にある鍋の元へと歩いていく。嵐の予感を感じ取った龍之介は咄嗟にガイルの肩を掴む。
「ガイルくん、一体どうした」
「樹殿からテイサツのニンムをオオセつかったでござる!」
 ガイルはうさぎ柄の小皿を右手に持ちながらそう言ったが、何の事だかさっぱり分からない。とりあえず鍋に近付かせる訳にはいかない。龍之介は素早く鍋の蓋を閉めた。
「ガイルくん、今この蓋を開けるとカレーの味が著しく落ちる。日本には古来より始めチョロチョロ中パッパ赤子泣いても蓋取るなという格式高いコトワザがあってだな……」
 それ、竈での米の炊き方……とその場にいるほとんどが思ったが、日本文化が大好きだが疎いガイルがごまかしに気付く事はない。
「そうなのでござるか!? 拙者、絶対触らないでござる! では樹殿にはフタを開けると味が落ちるとホウコクしておくでござる!」
「あ、ああ、その方向で」
 背を向けて次の班へと向かうガイルの背中を見ながら、龍之介がやりきった表情で汗を拭うフリをする。だが、視界に入ってきた光景に、龍之介は目を吊り上げた。
「あっニンジャ君! 一緒に大事なお仕事しよぉ?」
「おシゴトでござるか? ちょっとウェイトして欲しいでござる。拙者、樹殿からテイサツのニンムが……」
「もっと大事なお仕事だってぇ~。オジさんと一緒にお酒を飲むっていうお仕事……」
「よさんかこの酔っ払い!」
 龍之介は酔っ払い……もとい三鷹 オサム(aa1522hero001)に近付くと、その金色の頭髪の上に鋭くゲンコツを叩き落とした。崩れ落ちるオサムを尻目に、困惑しているガイルに視線を向ける。
「こいつの事は気にしなくていいから、偵察の任務を続行してくれ」
「アンダスタンドでござる」
 ガイルは素直に頷くと残りの班へと歩いていった。龍之介もオサムを捨て置いて自分の班へと戻っていく。
「けれど、随分な警戒ですわね。それは確かに洗剤でお米を洗おうとはしましたが……」
「ここに来る途中に、カレーにあんぱんを入れてみたいというガイルくんの会話を聞いたんだよ」
 ヴァルに対する龍之介の返答に、その場一同が絶句した。
「いや、一応小豆を使うカレーというのもある。ダールマッカニーというレシピになるのだが……随分張り切っていたので、もしもに備えて作り方はあちらの班員に教えておいた。まあなんとかなるだろう、多分」

●○○カレー混乱戦線
 者共は白い悪魔の暴虐に恐れおののいていた。目の前のカレー鍋には、すでに大量のプリンが半ば溶けながら沈んでいた。
「プリンを入れればなんでも美味くなるに決まっているだろう? 美味いモノを入れれば美味くなるのだ!」
「ガイルさん対策にダルカレーのレシピを鵠沼さんから教授頂いたが……」
「まさかプリンを入れられてしまうとは……」
「すみませ、ん。主様は悪気はないので……縁がきちんと食べられるように頑張りますので……」
「頼もうでござる! テイサツに来たでござる!」
 エスの暴挙に遊夜、メグル、縁が声を漏らすその後ろから、ガイルが右手にうさぎ柄の小皿、左手にあんぱんを握り締めて現れた。飛んで火に入るあんぱんに、エスが嬉し気に声を上げる。
「甘いものは大歓迎だ! さあこの鍋に入れるがいい!」
「了解でござる!」
 そしてカレー鍋の中で、プリンとあんぱんは出会いを果たした。遊夜、メグル、縁はそれぞれ頭を抱えたが、そんな暇さえないという事は嫌という程知っていた。
「入ってしまったものは仕方がない……添加物は少量なら問題ない、少量なら……」
「大丈夫だよ! 心を込めて作れば美味しくなるよ。さっそく鵠沼さんから受け取ったレシピ通りに……」
「じゅ、従魔が! 従魔が!」
「いっぱい来たみたいよん?」
「にゃー」
 気を取り直そうとした遊夜と、ネガティブというものを何処かに置き忘れてきたつくしの声を、ウォルター、デランジェ、セリーのエマージェンシーが遮った。それと共に黒いもやが調理場へと入り込み、主に武闘派リンカー達の目の色が瞬時に変わる。
「こんなとこで出やがったか」
「ここまでの作業を無駄には出来ませんわ」
「無論!」
 龍哉はヴァルと即座に共鳴すると、襲い掛かってきた従魔に向けて鋭く拳を撃ち込んだ。もやのような形状に効果があるかは分からなかったが、有効だったらしくもやは程なく立ち消えていく。
「手応えありだ。案外やってやれない事はないもんだな」
「ちっ、一番焦げ付き易い時に現れるとはな」
 苛立だしげに舌打ちした恭也も伊邪那美と共鳴すると、最も肝心なカレー鍋に向かっていく従魔に視線を走らせた。常から鋭い瞳にさらに剣呑な光を煌めかせ、慎重かつ迅速に黒いもやを両断する。
『恭也~、何かいつも以上に気合と言うか殺る気が漲ってない?』
「気のせいだな。俺はいつも通りに冷静に事に当たっているぞ」
『絶対怒ってるよね? 表情に出して無いけど料理の邪魔をされて激怒してるよね!?』
 恭也がカレー防衛のために鬼神のごとく戦う一方、リーヤと共鳴した遊夜もまた、あんぱんとプリンの混ざり合うカレーを死守するべく従魔に向けてトリオを放つ。
「俺の目から逃げられると思うなよ? そっちに行ったぞ、気をつけろ!」
「(了解ッス)(ハンドサインで)」
『食いもんの邪魔はさせねえぜ!』
 米衛門とスノーもまた襲い掛かるもやを撃破し、オサムと共鳴した龍之介もトリオで従魔達を仕留めていく。そして樹は、火から降ろしていた鍋が微妙に動いている事に気が付くと、シルミルテと共鳴し、持参したミトンで上から蓋を抑え込み、出現させた木刀で鍋を横から殴打した。
「多少凹みが出来た気がしますが気にしないという方向で」
「とりあえず、何とかなったかな」
 従魔からカレーを死守するために降ろした鍋を押さえていた柚里は、一息吐くと蓋を開けて鍋の中身を確認した。かき混ぜないと確かな事は言えないが、とりあえず従魔に取り憑かれたり焦げ付いたりはなさそうである。
「よし! じゃあ気を取り直してカレー作りを再開しよう!」
「では、ファイアーつけるでござる」
「あ、ガイルさん。それだと火が強すぎで焦げてしまうってカレー作りの極意に書いてあるのさ。いかにも偉大なNINJYAがしたためたような巻物に書いてあるから間違いないのさ。先人の言葉は大切にした方がいいのさ」
 つくしの言葉にガイルが火を付けようとし、そこに巻物を持ったティアが颯爽と現れた。灰司とティアがガイル用にと用意した巻物を認め、ガイルが驚愕に目を見開く。
「な、なんと! そんなものが……リョウカイでござる!」
 ガイルはティアから手ほどきを受けながらカレーを混ぜ、そして全てのカレーは完成した。甘口カレー、中辛カレー、AP(あんぱんプリン)カレーの三種類が。

●そして実食へ
「まぁ、紆余曲折あったが」
「何とか必要な分は揃いましたわね」
 龍哉とヴァルは自分達の目の前にあるカレーを満足気に眺めていた。戦いは終わった。必要分のカレーはオペレーターが持って行き、今彼らの前には自分達の分のカレーがあった。戦いは終わったのだ。
 若干数名を除いてだが。
「うまいものは宵に食えという。さあ、頂こうではないか」
「ビューティフルでござる! エス殿、縁殿、サンキューベリーマッチでござる!」
 エスは得意げに率先して音頭を取り、ガイルはエスと縁から渡された、ご飯を岩、カレーを砂利、人参を鮮やかな紅葉として添えられた日本庭園風カレーに絶賛の声を上げていた。そして縁、遊夜、つくし、メグル、そして「気になり過ぎる」と自ら名乗りを上げた祐二の前にも、APカレーが綺麗によそわれた状態で並んでいた。
「……とりあえず、食べるか」
「不残(のこさず)の誓いもある事だしな」
「いただきます」
 そして彼らは、滲み湧き出る恐怖と共にAPカレーを口に入れた。彼らの口内を襲ったものは、ある意味期待以上で、ある意味期待外れの味だった。
「甘い」
「うん、それで」
「いや、甘い」
「え? それだけか?」
「それだけだ。甘い……が、食えない事はない。まあ、あんぱんとプリンなんて、言ってしまえば砂糖と小豆と卵と乳製品だからな。ふむ、俺にはちっと甘いかねぇ」
「しかし、食べられるもので……良かったです……」
「プリンは何にでもあう万能かつ甘美な味わいの素晴らしい食べ物だ! 不味くなるはずがない!」
「甘くて美味しい~」
「甘いものは元気が出るとこの前教えて頂いたでソウロウ!」
「初めての味ですね」
 祐二、遊夜、縁、エス、つくし、ガイル、メグルがAPカレーの感想を述べ、そして本格的にカレー実食会は始まった。龍哉とヴァルは「苦労した分、出来上がりを味わせて貰おうぜ」「大地の恵みに感謝を。いただきますわ」と中辛カレーを口に運び、柚里も中辛カレーを食べながら今日の学びをおさらいする。紗季は中辛で牛肉と野菜全乗せ、カイは肉全乗せにレッドペッパーで辛口に。セリーは甘口、リーヤは肉多めの甘口、伊邪那美と灰司とティアと龍之介もそれぞれ自分達の作ったカレーを堪能し、恭也のカレーはいっそ不可解な程に赤かった。
「スノーチャン、ハイ、アーン♪ ヨネちゃーん♪ ハイ! アーン!」
「カレーってうめえな!」
「(うまいッス!)(ハンドサインで)」
「ヨネさんはハムスターじゃないんだから詰め込みすぎだよ」
 樹はスノーと米衛門の頬をカレーでいっぱいにするお仕事に徹するシルミルテに一応諭しつつ、だがあえて止めはせずにエスの元へと歩いていった。何故か既視感を覚えるエスに、樹は中辛カレーを手にしたまま声を掛ける。
「お隣……よろしいですか?」
「うむ! 構わんぞ。楽にしてくれ。だがそのカレーは私に食べさせるな。辛いのはダメだからな!」
「ふっふー。色々食べれて楽しいな~。食事は頑張るから任せてよ! あ、洗い物もしますから……はい」
「私もそっちの味のも食べたい!」
「オレも参加させてもらうとするぜ!」
「俺も全種類貰おうかな」
「そんな事よりお酒飲もうよ~♪」
「絡むなこの酔っ払い!」
 全種類制覇に乗り出そうとするウォルター、つくし、スノー、祐二の背後では、龍之介がオサムの頭にゲンコツを叩き落としていた。デランジェは自分に近寄ってきたセリーと一緒に遊びつつ、にぎやかな様子を眺めて愉快そうに笑っていた。

●さらに片付けへ
「おなかいっぱい食べたら後片づけをしないとーなのさ! ゴミを捨てたり汚れた所を拭いたり、お皿やスプーンも元の場所にちゃんとしまうのさー♪ 」
「ゴミは集めればH.O.P.E.の方で処分してくれるらしいしな」
 カレーを心ゆくまで堪能したティアと恭也は、灰司や伊邪那美達と共に調理場のゴミを集め始めた。遊夜、リーヤ、つくし、メグル、そして祐二は、使ったフライパンやまな板を洗剤とスポンジで洗っていく。
「片づけがまたキツいんだよな」
「……匂いが強いから、ね」
「でも、楽しかったよ! 皆とお話しながら食べられたし、色んな味も食べられたし! 大勢で食べるご飯っていいよね! 大好き!」
「とりあえず、つくしが間違った行動を取らなくて良かったです」
「酒が余っていたら飲みたかったが……ま、あれは仕方ないな」
 祐二は息を吐きながら苦笑しつつ、「料理酒」を二人で飲み干してしまった英雄達に視線を向けた。この任務中一回もビールと酒瓶を離さず行動し続けていたカイとオサムはある意味驚嘆に値するだろう。一方、先程水を撒き散らして全身びしょびしょになってしまったガイルは、遊夜から借りたジャージ姿でしょんぼりと肩を落としていた。
「どうした」
「拙者、今度こそは頑張ろうと思ったでござるが、またミナサマに迷惑を掛けてしまったでござる……」
 片付けを手伝っていた柚里はガイルの言葉を耳にすると、「気にすんなって」と言葉少なに切り捨てた。顔を向けてくるガイルに、柚里はぶっきらぼうな口調で続ける。
「今日教わった事を列挙してみろよ。全部、誰かに聞かなきゃ分かんなかった事だ。それが分かったならいいじゃねえか。あたしも、今日はいっぱい色んな事を教わったしな」
 そう言って、柚里は誤魔化すように顔を背けた。ガイルは今日あった事を思い返す。米の研ぎ方、野菜の剥き方、玉ねぎの切り方、カレーの混ぜ方、その他にもたくさん。エスに「ガイル、誰よりも熱心にカレー作りに励んだキミにプレゼントだ」と、縁の盛り付けたカレーライスを貰えた事も嬉しかった。ガイルはここにいる全員に、心からの笑みを浮かべる。
「拙者、ミナサマとカレーを作れて嬉しかったでござる。サンキューベリーマッチでござる」
 
 それは、愚神や従魔達との激しい戦いの日々の中の、穏やかで愉快なひと時にあった出来事だった。 

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 薔薇崩し
    柏崎 灰司aa0255
    人間|25才|男性|攻撃
  • うーまーいーぞー!!
    ティア・ドロップaa0255hero001
    英雄|17才|女性|バト
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 豆芝の主人
    鈴原 絵音aa0874
    人間|24才|男性|生命
  • エージェント
    信長aa0874hero001
    英雄|28才|男性|ドレ
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
    人間|32才|男性|回避
  • ドラ食え
    プロセルピナ ゲイシャaa1192hero001
    英雄|6才|女性|シャド
  • 名監督
    及川 柚里aa1366
    人間|15才|女性|攻撃
  • おいしさが大雪崩や
    ウォルター ドノヴァンaa1366hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 色鮮やかに生きる日々
    西条 偲遠aa1517
    機械|24才|?|生命
  • 空色が映す唯一の翠緑
    aa1517hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 家庭派エージェント
    鵠沼 龍之介aa1522
    人間|27才|男性|攻撃
  • カレーな防衛アルコール系
    三鷹 オサムaa1522hero001
    英雄|35才|男性|ジャ
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