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繰り返す、これは訓練である!
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相談卓
最終発言2015/09/22 09:59:58 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/09/19 01:51:24
オープニング
●とあるハイスクールの教室、3ーCにて
ごく一般的な高校生たちの休み時間。
教室では、生徒たちが好き勝手に雑談をしている。
「正直、避難訓練ってタルいよな」
「ホントになにかあるわけじゃないしなー」
「っていうか、高校生にもなって避難訓練とか……」
本日、この高校では、避難訓練が実施される予定である。
とはいえ、ごく一般的なハイスクールでの避難訓練のこと。何ら特別なことはない。
「でも、今回は、避難したあと、ホンモノの能力者がやってきてお話してくれるらしいよ!」
「え、ホント!?」
「テレビに出てるヒーローとか、来てくれるかな」
生徒たちの会話の途中で、教室にサイレンが鳴り響く。
『訓練です。訓練です。校舎に残っている生徒は、速やかに避難してください』
予定調和だ。生徒たちが避難訓練を開始する傍ら、とある男子生徒が大きな欠伸をした。
「くっだらね、俺はフケるわ」
男子生徒はサイレンを気にもとめず、生徒たちの列から離れていく。
いつも通り校舎裏でサボるつもりなのだろう。
呆れながら、彼を止める者はいない。
生徒たちはまだ気が付いていなかった。
これが訓練ではないということに。
●緊急作戦室にて
避難訓練に呼ばれたもの、たまたま近くに居合わせたもの、とにかく、急な現場にこれだけの能力者が集まったのは奇跡といえるだろう。
急ごしらえのミーティングルームで、担当説明官が話し始める。
「今回、みなさんに依頼したいのは、逃げ遅れた生徒1名の保護および、現れた従魔3体の討伐です」
パニックを起こさないよう、これが訓練ではないということは、避難が完了してから生徒たちに伝えられた。
避難し終わった生徒たちの間には、かなりの動揺が広がっている。目立った被害はないが、訓練ではなかったと知って震えだす生徒や、泣き出す生徒が多くいる。
「救出対象は、おそらく非常事態に気が付いていません。最悪の場合、校舎内で生徒が従魔とはちあわせになる可能性があります。この従魔は、既に別の場所で被害を出しており……敏感に音に反応して襲ってくるということです。生徒がパニックになると、かなりの危険が予想されます」
説明官の額を汗が伝う。
「……ここに能力者のみなさんがいらっしゃるのは、不幸中の幸い、ということなんでしょうか。彼は……ステュワートはあまり素行はよくありませんが、根は悪い奴じゃないんです。うちの生徒をよろしくお願いします」
能力者たちに、教師は深々と頭を下げた。
一同は、果たして、生徒を救うことができるだろうか。
解説
●目標
いち早く生徒を保護し、なおかつ従魔を撃退すること。
●登場
デクリオ級従魔『コカトリス』×3
中型の従魔。すばしっこい。
頭はニワトリで尻尾はヘビのような外見をしている。
音に敏感に反応して襲ってくる。
言葉は通じず、それほど知能は高くない。
つつく、ひっかく、尻尾で噛みつく、雄たけびをあげる、など。
男子生徒(ステュワート)
保護対象の生徒。
悪ぶっているが結構ビビり。
●状況
件の生徒はよく体育館倉庫で喫煙などしてサボっているそうです。
救出対象の生徒と従魔は、それなりに近いところにいるようですが、すぐさま危険がありそうなほど近くはありません。生徒が何か行動したり、長らく放置していたら出くわしそう、という感じです。
救出対象の生徒は、従魔と出くわすと、また、自分が危険であることを知ると、パニックに陥る可能性があります。パニックになると身動きが取れなくなったり、悲鳴を上げたりといった行動をとる場合があります。
救出対象ではない他の生徒・教員などは、基本的には安全です。
リプレイ
●事前の準備
「……」
透けるようなアルビノの白い肌と、赤水晶の様な赤い瞳。染井 桜花(aa0386)はグリムリーパーの感触を確かめながら、じっと校舎を見ていた。
あそこに、倒すべき従魔がいる。
「避難訓練のつもりでサボりですか……自分等が行っても『手が込んでるな』とか思われそうですね」
眼鏡をかけた青年の名前は、鋼野 明斗(aa0553)。彼は真剣さが感じられない表情で校舎の見取り図を眺め、内部構造を片端から頭に叩き込んでいる。同時に、鋼野は、自分のスマホをアリエティア スタージェス(aa1110)に貸し渡した。アリエティアはおずおずとそれを受け取ると、軽く操作を確かめる。
(緊張するけど、頑張らなくちゃ)
アリエティアにとっての、エージェントになってからの初仕事だ。従魔は恐ろしかったが、保護すべき一般人のことを考え、気合を入れる。
人より小柄で可憐な少女だったとしても、能力者をあなどることはできない。能力者は、一般人とは比べ物にならない力を持つ。
瑚々路 鈴音(aa0161)もまた、自分のスマートフォンを取り出し、互いに連携の取れる体制を整えていた。
今回、能力者たちは、戦闘班と救出班の二つに分かれて行動することになった。
「こういう時の為の避難訓練だってのになーにしてんだか」
とはいえ、弘原海 風月(aa0225)にも、訓練をさぼる彼の気持ちが分からなくもない。弘原海は、生徒たちから防犯ブザーを借りていた。これで従魔をおびき寄せるのだ。2つもあれば十分だろう。弘原海とアリエティアは、救出対象の居場所についても心当たりがないかどうか聞きこんでいた。
「まあ、サボりたくなる気持ちはわからんでもないわー。避難訓練って緊張感が大事やんなあ」
大和撫子のような黒髪の女性の口から、人当たりの良い気さくなことばが飛び出す。門隠 菊花(aa0293)もまた、弘原海と同意見のようだ。
「体育館倉庫によく居るって話やし、闇雲に探すよりかはマシやろ」
彼女は、ステュワートと仲のいい友人を探し出すと、スマートフォンで連絡を取ってもらうようにたのむ。門隠の顔には、どこか学生時代を懐かしむような苦笑が浮かんでいる。
ステュワートの友人のひとりが、スマートフォンのチャットツールで、彼にどこにいるのかを尋ねる。
『いまどこ?』
ややあって、返信が返ってくる。
『体育館倉庫。いつもの。言ったろ、俺、サボるから、もう連絡するなよ』
それ以降、携帯の電源を切ってしまったのだろうか。返信はなかった。しかし、これで確実な場所が掴めた。
(初の依頼で二つの任務。難儀な事だが)
虎生 八重子(aa1044)は真剣な面持ちで、準備を進めている。
「悪ぶってるけど、いじめとか、恐喝とかはしないし。でも、不良にあこがれがあるみたいで……」
生徒の保護を目的と据え、虎生は、生徒たちにステュワートの人柄について尋ねていた。
「今日も今日とて正義に従事してやろうじゃねーか」
レヴィン(aa0049)の紫の瞳が、正義に燃えてきらりと輝く。
レヴィンは、体育教師からホイッスルを拝借し、担当官に従魔の場所を確認していた。そのうちの一匹がいると思われる場所が体育館倉庫に近そうだ。
討伐班は、そちらから始めることに決めた。
鋼野と、レヴィンは慎重に経路の相談をすると、陽動できるように、すばやく進行ルートを調整した。
「さーてと、お仕事お仕事。ちゃーんと助けたるからな」
目的はふたつ。ステュワートを助けて、従魔を倒すことだ。
●1匹目のターゲット
『ピイイイーーーー、ピイイイイーーーー!!』
校舎の中に、レヴィンのホイッスルの音が鳴り響く。
「できるだけ怪我しないで終えられるよう頑張るの」
物音を立てておびき寄せる意味もあるが、初めての依頼に不安もあるのだろう。瑚々路は討伐班の一行に度々話しかけながら道を進んでいた。しかしながら、油断なく騒音に紛れる敵の気配を探ろうともしている。先頭を走るレヴィンが、たびたび笛から口を離して受け応えをする。
「そうですね。恐いのは不意打ちですから、気を付けて行きましょう」
鋼野は前衛と程よい距離を取りつつ、同じように周囲に気を配っている。
事前の目撃情報で予想をつけた場所から、そう遠くない位置だ。音につられて、コカトリスが現れる。
「……見つけた」
染井は、コカトリスに駆けよると、素早くグリムリーパーを振り抜いた。
「……行くよ……ファル」
共鳴中の英雄に呼びかけると、コカトリスに回転をかけて斬撃をくわえる。
瑚々路がスマートフォンを使い、救出班に従魔と遭遇した旨を伝える。救出班は、迂回することに決めた。これで安全に体育館倉庫まで行けるだろう。
「よォ、ニワトリ共。今から俺がてめぇ等をスライスにしてやんぜ」
攻撃を準備していたレヴィンが、染井とは別方向から大剣を振り下ろす。体重をかけた威力のある一撃は、コカトリスの身体を大きく切り裂いた。コカトリスの反撃を、大きな刀身を生かして上手く逸らす。多少ケガを負ったものの、たいした傷ではない。
コカトリスは、一歩飛び退くと喉をふるわせた。大きく息を吸い込み、叫び声をあげようとしている。
「……全員耳を塞げ!」
負けじと、染井はあらんかぎりの大音量を発した。
通常の人間がとうてい出来ないことでも、リンクした能力者なら可能である。染井の信じられない声量が、コカトリスの声と、同時に響き渡った。
びりびりとした音は拮抗して、場はせめぎ合う。
気圧されたのか、本来の声量を出せず、コカトリスは途中で叫ぶのをやめた。
怒ったコカトリスは、肩で息をすると、狙いを染井に定める。そのままくちばしで突進をかける。
「よそ見すんなよ鳥頭!」
弘原海が、回りこんでコカトリスの後方から攻撃を加える。ヘビのような尻尾が不意を突かれて悲鳴を上げる。状況を把握できないコカトリスは、ぐるぐるとその場で回った。
「あっはっはー……うわこっちみんなキモイ!」
仲間の斬撃に合わせて、瑚々路がグレートボウで攻撃を仕掛けた。コカトリスは、瑚々路に向かってするどくくちばしを突き出したが、鋼野が後衛をカバーしている。そして、交戦を抜けることを、前衛が許してくれるはずもない。
レヴィンが再び大剣を振り下ろすと、コカトリスは先ほどの叫びよりも弱弱しい断末魔をあげた。
「来世はもうちっと上質なチキンになれるといいな? っつーわけで、そろそろくたばりやがれ」
レヴィンが大剣を振りかぶって、とどめを刺すと同時だった。再びけたたましい足音がする。声を聞きつけたのか、
横からもう一匹のコカトリスがやってくる。先ほどのものよりも、やや体躯が大きい。
鋼野と瑚々路の警戒と、前衛の立ち回りは的確だった。すぐに前衛と後衛が入れ替わり、適切な距離を保つ。
●一方その頃……。
「悪い子はおらんかねー? ってとこか」
陽動が上手くいったのだろうか。救出班の3人は、難なく体育館倉庫にたどり着いていた。門隠は冗談めかして言うと、体育館倉庫の扉を開く。
そこでは、問題の生徒がタバコを吸っていた。
「ああ、無事でよかった」
アリエティアが、即座に鋼野から借りたスマートフォンで討伐班に連絡をとる。
「うおっ……」
不意を突かれたステュワートは、現れた3人の能力者たちに、タバコを取り落してその場に立ちすくむ。
「能力者だ、君を助けに来た」
虎生は歩み寄ると、ステュワートが逃げる暇も与えず、即座にステュワートの腕部を掴んだ。ステュワートは少しひるんだが、そこへ門隠がにこにこと笑って、重ねてことばをはさむ。
「初めましてさんやなあ。うちは学校に呼ばれたエージェントでなあ。生徒の人数が合わんから探して来いってこき使われてもうてん。よかったら助けると思て一緒に来てくれんかなあ?」
門隠の笑顔に、ステュワートもややほっとしたようだった。どうにも外の様子がおかしい、ということには、ステュワートも気がつきはじめていた。
アリエティアはコールを待つ。繋がりはしたが、あちらも交戦中のようだ。戦闘の音に、アリエティアは恐怖を覚える。あちらで行われているのは、本物の戦闘なのだ。だが、アリエティアはステュワートを見て、己を奮い立たせる。短く保護したことを伝え、通信を切った。
●2匹目のターゲット
「救出、完了したみたいです」
瑚々路は、ステュワート救出の連絡を受け取ると、レヴィンにケアレイを使用する。治癒の光がレヴィンを包み、たちどころに傷が治る。
レヴィンは礼を言うと、再び前衛に舞い戻る。
レヴィンと弘原海、二人の攻撃を、コカトリスは抜けることができない。狙いの正確でない攻撃も、なんなくいなされてたじろぐばかりだ。
コカトリスが体力を削られて弱っているところに、染井が踏み出した。グリムリーパーで、円を描くように、横に回転切りを仕掛ける。
「……円舞・輪切」
コカトリスは、のけぞって上に飛んだ。染井は、落下にあわせてグリムリーパーの刃を突き刺し、そのままフルスイングで吹き飛ばす。
待ち構えたように、弘原海が斬撃を繰り出す。よろけたところを、レヴィンがカバーする。
「……円舞・乱れ桜」
染井はコカトリスの後頭部を掴み、顔面を地面に叩きつける。
「……絶技・兜割り」
そして、後頭部を踏み抜いてトドメをさした。
「……絶技・兜潰し」
一連の技は、弱ったコカトリスを倒すには十分すぎるものだった。
「皆ー! 鳴らすけどいいー!?」
弘原海が防犯ブザーを手に、仲間に後退の合図を送る。全員が無言で頷く。
「頼むからこっち来てよねー……!」
再び、校舎の中にけたたましい音が鳴り響いた。
●3匹目のターゲット
一方その頃、ステュワートを逃がそうと道を戻りかけていた保護班の面々の前には、一匹のコカトリスが立ちふさがっていた。
「従魔を発見、保護対象を逃がし、交戦します」
逃げ出したい気持ちを押さえて、アリエティアは討伐班に連絡を取る。
(逃げ出したいけど……逃げるわけにはいかないよね)
繰り出されたコカトリスの攻撃を、アリエティはひらりとかわした。距離をとってハンズ・オブ・グローリーを打ち込むと、コカトリスは僅かによろけるが、すぐに体勢を立て直して襲って来ようとする。
「に、逃がすって、む、ムリだよ! ムリだって、あ、あ、あ、あんな化け物……」
ステュワートの足はがくがく震えている。ステュワートが倒れそうになったとき、虎生が静かに口を開いた。
「一般人の中では君はその強きを誇るのであろうが、能力者を前に一般人が無力である事を恥じる事は何もない。だが、一般人としてのベストを尽くせ」
虎生のことばに、ステュワートは唇を噛みしめる。
ステュワートのため、アリエティアも必死で戦っている。従魔と闘って、怖くないはずがない。
すぐ側には門隠がいてステュワートを守っている。彼女は、ステュワートを庇って、僅かにケガを負っていた。けれど、心配するな、というようににっこりと笑う。
(気絶しちゃダメだ、大声をあげちゃダメだ……さ、最低限!)
ステュワートはなんとかこらえた。
虎生は、その研ぎ澄まされた集中力で、曲刀シルフィードをコカトリスに振り下ろす。確実な攻撃だ。確かな手ごたえを感じた。それでも、まだ、倒すには及ばない。
羽をふるわせ、蛇のような尾を立たせ、三度コカトリスが襲い掛かろうとくちばしを振り上げたときだ。
近くで、防犯ブザーの音が校舎の中に響き渡った。
コカトリスは、くるりと向きを変えると、一直線にそちらの方に駆けていく。
(た、助かった……のか?)
前には陣形を組んだ討伐班、後ろからは、ステュワートの保護を終えた救助班。
こうなっては、もう、勝利は見えたようなものだ。
染井の鋭い斬撃に合わせるような、レヴィンのヘヴィストライクがコカトリスに着実なダメージを与える。間髪を縫って、瑚々路の射撃が命中する。とどめを刺したのは、弘原海のクレイモアでの胴体への一撃だった。
「クエエエ……エエエ……」
耐え切れずに甲高い声をあげて、最後のコカトリスは倒れた。
「……怪我は?」
虎生は、ステュワートにケガがないことを確かめる。声にならないようだったが、ステュワートは、何度も何度も頷いた。ステュワートには、ケガひとつない。救出は成功したのである。
●放課後
夕暮れ時になりつつある。
傷ついていた能力者たちを、瑚々路の治癒の光が癒していく。
事態の終息を悟り、生徒たちの間には、ほっとしたような空気が広がりつつあった。保護者たちがちらほらと迎えに来ていて、無事を喜びあいながら帰っていく。
彼らにとって、能力者たちはこの上ないヒーローだったに違いない。
弘原海は、妹に電話をかけていた。任務終了の連絡だ。
「もしもし? ねーちゃんね、今任務終わったー。晩御飯なにー?」
散々な避難訓練ではあったが、一人の犠牲もなければ、一人のけが人も出なかった。
そこにあったのは、達成感だ。
「ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる瑚々路から、鋼野は貸していたスマートフォンを受け取り、頷くとポケットにしまう。
生徒の輪から、ステュワートが、一行のところへ歩いてきた。
「おかげさまで、なんともねえよ。すごく怒られたけど。ケガ、ないし。それで、えーっと……ありがとう、ございました」
ステュワートはどこか照れくさそうだ。
「やれやれ、なんとか無事に終了ですね」
鋼野は言った。計3体もの従魔を倒し、ステュワートにはケガひとつもない。依頼は紛れもなく成功したのだ。
タバコの件ですっかり絞られたステュワートだが、それ以上に怖い思いをしたのはいうまでもない。ただ、彼は、恐ろしい出来事を思い出すたび、能力者たちの頼もしさも同時に思い出すのだった。
彼ももう、学校行事をサボることはないだろう。
こうして、任務は成功に終わった。