本部

火事場泥棒達に踏み込んで

真名木風由

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/20 19:01

掲示板

オープニング

「このような状況で呑気なものです」
 剣崎高音(az0014)の声は、呆れていた。
 彼女の隣を歩く夜神十架(az0014hero001)は、よく解っていない様子だが、『あなた』もその意見には頷きたい所だ。

 生駒山に陣取る愚神アンゼルム掃討に関する大規模作戦が展開されており、多くのエージェントが招集されている。
 『あなた』も招集されており、陣地にいた所、軽い任務を請け負うことになった。
 それは、火事場泥棒退治である。
 依頼主は付近の温泉旅館で、状況が状況である為に被害が出る前にエージェントの誘導で避難したらしいが、急であった為に身の回りの貴重品程度しか持ち出せなかったらしい。
 そこを、ヴィランズが火事場泥棒しているというのがオンラインの監視カメラの映像で判明したそうだ。
 生駒山から適度に離れている為、従魔や愚神が出没頻度は高くないらしいが、それでも一般人がいられるような場所ではない。しかし、能力者である彼らは一般人ではない為、この旅館を拠点にして、温泉地で火事場泥棒をしており、彼らの騒ぎで旅館も荒れつつあるとのこと。
 旅館としての被害も無視出来ないが。もし、戻る日が来たその時、ヴィランが荒らした旅館を見たくないということで、旅館の女将が避難先から依頼をし、『あなた』達が軽い任務として引き受けたのである。

 高音の言う通り、そんな状況ではない。
 他人事として火事場泥棒しているような場合ではなく、幾ら出没頻度が高くない場所であっても一般人がいられない程度には危険な場所だ。
 彼らの振る舞いで、敵勢力が変に刺激されても困る。
 そうした話をしていると、通報元の旅館へ到着した。
「こういう任務で足を運びたい場所ではないですね」
 高音の意見には、同意したい所だ。

解説

●目的
・火事場泥棒のヴィランズ逮捕

●敵情報
・ヴィランズ

男3人、女3人で各クラス1名。
宴会場に男1人、女3人がいます。酒盛り中。
露天風呂に男2人います。ごく普通に汗を流す為に入浴しています。
※監視カメラの映像から推測含め、情報提示がされています。

・PL情報
宴会場にいるのは、ブレイブナイト、ドレッドノート、バトルメディック、ジャックポット
露天風呂にいるのは、ソフィスビショップ、シャドウルーカー
宴会場側は武器を装備(密売された低レベルのAGW(剣と弓)のもの)していますが、露天風呂側はタオルの自衛以外ありませんが、近くに桶はあります。

※6人で力を合わせればデクリオ級に対応出来るだけの能力はあるようですが、全員油断してます。

●NPC情報
剣崎高音、夜神十架
指示がなければ、宴会場対応または連絡役担当です。

●注意・補足事項
・この旅館は拠点にされていたので食材は全て食べられ、金庫も破壊されて現金は奪われています。旅館内は彼らが騒いだ為多少荒れましたが、許容範囲内です。
・宴会場は広く30人程度が食事出来る広さ、露天風呂は15人程度がゆったりと手足を伸ばせる広さがあります。
旅館側からの情報提示があった為、旅館内部は判明しているものとし、迷わず向かうことが出来ます。
・露天風呂側は踏み込むことになります。男子の突入をお勧めします。女子が突入する場合、色々覚悟していると判断します。(直接的な描写はありませんのでご安心ください)
・今回はヴィラン逮捕を含む上、安全とは言い難い場所ですので、温泉に入ることは出来ません。ただし、ヴィラン引渡し後、希望すれば職員の車でスーパー銭湯へ行くことは出来ます。(ただしメインとしての取り扱いではありません)

リプレイ

●突入にあたっての注意
「剣崎さんの言う通り、呑気な連中だな」
 御神 恭也(aa0127)が、剣崎高音(az0014)の意見に深く共感していると、隣の伊邪那美(aa0127hero001)がうんうん唸っていることに気づく。
「どうした」
「こんな危険地帯で宴会してるんだよね。誰が岩戸に引き篭もったんだろう?」
「自分達には火の粉が掛かってこないとでも思ってるんだろうが、その表現はどうかと思うぞ」
「え、引き篭もりじゃない。まぁ、でも、長生きはしそうだよね」
 それ以外には同意したい恭也は、ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)にスケッチブックをぐいぐいされている鋼野 明斗(aa0553)を見た。
『いつでも! どこでも! 誰が相手でも! 雄々しく戦うのです!』
「いや、まだ、何も言って……」
『先制攻撃!』
 明斗はサムズアップしているドロシーにやれやれと溜息。
「先制攻撃にわらわも賛成じゃ。警告や勧告を与えては逃亡の隙を生む。一気に突入すべきじゃろう」
「突入時はそれでいいんですが」
 カグヤ・アトラクア(aa0535)が会話に加わると、明斗が頭を掻きながら、ひとつ提案。
「突入前に旅館から浴衣の帯を拝借しましょう。間取り的に宴会場や露天風呂方向に気づかれないよう客室には行けそうですし、事前に拘束道具を確保すべきです」
「浴衣の帯で拘束は俺も賛成だ。火事場泥棒するような相手だ、浴衣の帯程度の拘束で問題ないだろう」
 明斗の意見に恭也も浴衣の帯の拘束を考えていたと賛成の意を示す。
「抵抗する気力さえ殺げば、関節外したりする必要も感じない。何人も殺しているような凶悪犯罪者なら、油断してる場合ではないし、救出対象や護衛対象がいれば時として躊躇ってはいけない時もあるだろうが、そんな状況でもない」
 この辺りの見解は、彼の生い立ちに由来するものだろう。
「でも、相手はヴィランですよ?」
「ヴィランだから何をしてもいいって訳ではないだろう」
 怒ってはいるが冷静なように見える流 雲(aa1555)の、火事場泥棒たるヴィランに対する感情が少し見えたが、恭也はそう答える。
 実際、H.O.P.E.ではどの任務においてもヴィランの命を積極的に奪う指示は出しておらず、この任務も例外ではない。指示は逮捕(生存状態での拘束)だ。旅館破壊防止も含め、武器使用を見送るか使用する場合は十分に注意しようという話となった。
「後顧の憂いを絶つのに面倒じゃの」
「面倒じゃないでしょ。大規模作戦に便乗したヴィランの逮捕ってだけだし」
 カグヤへクー・ナンナ(aa0535hero001)が嗜める。
「不届き者は捨て置けませんからね。……さぁ、まずは帯を確保しに行きましょう」
「……火事場泥棒か。避難してった皆さんの為にも、とっちめないとね」
 雪道 イザード(aa1641hero001)が不知火 轍(aa1641)を見ると、轍がそう口の端に乗せる。
 が、心の声は、違っていたりする。
(……早く帰って寝たいな……。ここが危険地帯じゃなかったら、旅館のふわふわな布団でも……)
「また寝ることを考えていたでしょう……。集中してください」
 ただし、イザードにはバレてるので、轍は面倒そうに、けれど、明斗が大声や物音に注意しようと提案したこともあり、皆静かに旅館の中へ入る。
(……はいはい、仕事はきっちりこなすよ……。相変わらずクソ真面目だなイザードは……)
(それだけが取り柄ですからね)
 轍とイザードも小声で会話を交わし、皆と静かに進んでいく。

 客室で十分な数の浴衣の帯を調達し、改めて旅館側の情報を確認すると、宴会場と露天風呂にいることが濃厚となった為、二手に分かれることとなった。
「本当に露天風呂側でいいのか?」
「動じなければいいだけの話だ。どうということはない」
 中城 凱(aa0406)が礼野 智美(aa0406hero001)へ確認すると、智美は邪悪とも言える笑みで応じた為、凱は何を考えているかを想像し、味方である幸運に安堵した。
「小細工はせず正攻法で行くべきだろう。一般の入浴客を装い、浴場へ入り、油断した所を攻撃してはどうかと思うが」
「でも、ここって皆避難してるから、あの人達来てるって話だったよね」
 同じく露天風呂対応を申し出た天原 一真(aa0188)へミアキス エヴォルツィオン(aa0188hero001)が首を傾げる。
 一般人は全員避難している場所だ、一般の入浴客がここに来ることはない。
 避難していない場所で彼らが幅を利かせているなら不自然ないだろうが、ここにはこちらが一般の入浴客を装う為の一般人がいない為逆に不自然……彼らはこちらを能力者とみなすだろう。
「普通に踏み込むしかないか」
「入浴中とは言え、相手もヴィランだ。早急に無力化すれば問題ない」
 一真へ智美がにやと笑ったので、凱は早期な無力化に確信を抱いて顔を背けた。
 ここに轍とイザードも加わり、残る全員が宴会場突入となる。
「本当にパニック起こさないよね」
「智ちゃん、男性には厳しいから」
 宴会場突入となる離戸 薫(aa0416)の言葉に美森 あやか(aa0416hero001)が凱と智美のやり取りに苦笑する。
 彼らは軽いとは言え戦闘が想定される任務は初めて携わる(軽くなかったら凱が猛反対しただろうとは薫の談)とあり、慎重な姿勢だ。
「そろそろ頃合いですね」
 改めて旅館側提供の監視カメラの映像を確認した高音の言葉に全員頷く。
 高音が夜神十架(az0014hero001)と共鳴したのを皮切りに次々とと共鳴していく。
 そんな中、フローラ メイフィールド(aa1555hero001)は雲の手にそっと手を重ねた。
「雲がやり過ぎないようフォローするから、安心して」
 フローラは雲が彼らに気分悪いと感じていることに気づいている。
 降伏に応じない場合、共鳴時容赦出来るか分からない。
 が、恭也の言うことが理解出来ない訳ではなく、H.O.P.E.の指示も無視することは出来ない。
 けれど、ヴィランズに対して、思うことがあるのも事実。
 降伏さえすれば問題ないが……。
 静かに目を閉じた雲とフローラも共鳴する。

 彼らが油断した瞬間を、見逃すな。

●早急な無力化
 ミアキスと共鳴した一真、智美と共鳴した凱、イザードと共鳴した轍は、凱の提案もありタイミング合わせての突入の為、脱衣場で待機していた。
「……泥棒だろうが腐っても能力者、気をつけないと……。油断しているうちに終わらせようか」
 まだ相手に聞こえない距離はあるだろうが、気配を殺している轍が小声で言うと、一真も凱も頷く。
 タイミング通り、3人は中へ踏み込んだ。 
「!?」
 油断していたのだろう、彼らの顔には明らかな動揺が見える。
 が、見晴らし自体はいいので、この先は気配を殺した動きは出来ないだろうと轍は周囲を確認、立ち位置を調整しておく。
(……俺はコソコソするのが得意なんだがなぁ……)
 仕方ねぇか、と最後に零している間も、状況は動いている。
「ここに踏み込んで来た……つまりエージェントだな」
「その点の物分りは悪くなかったか」
 一真は一般入浴客を装わなくて良かったと心の中で呟くと、男の1人が投げた桶を轍がシルバーシールドで防いだのを好機として踏み込もうとし、足を止める。
 もう1人の男が近くのタオルで間合いを取ったからだ。
 濡れたタオルでの攻撃自体は共鳴している今ダメージになるようなものではないだろうが、連係してくるのは明らかだろう。
 が、連係は彼らだけの特権ではない。
「……さっさと終わらせるよ」
 逆に好機と轍が縫止、ジェミニストライクを先にと考えていたが、踏み込んだ時点で彼らがその奇襲に十分狼狽していた為、縫止を優先させた形だ。
 轍のアシストに合わせ、凱が踏み込む!
「後よろしくお願いします」
 完全に武装していない状態で所持している武器の攻撃は危険かもしれない。
 そう判断した凱は、温泉にまだ下半身浸かっている彼らの機動力は本来ではないことを見越し、怒涛乱舞発動。
 油断していた、また、連係の為に距離が近かった彼らへ的確に決まり、その体勢が崩れる。
「くそっ!」
 凱へ指先を向けた動作で、男の1人がソフィスビショップであると気づいた一真がライヴィスリッパーを防具も何もつけていない腹へ放つと、男は九の字型になって浴槽へ沈む。
 一旦間合いを取るように後退した残る1人が一真へ縫止を発動させるが、凱が跳躍していた。
(『最終的に沈める場所は判っているだろうな』)
 智美はそうい言ってくるが、凱はせめてもの情けとしてさっさとシャドウルーカーらしい男を気絶させる。
(『手緩い』)
「拘束したんだからいいだろ」
 智美はそう言うが、凱は静めた男が意識を回復させる前にとさっさと服を着せて拘束した。
 同様に一真も自身が沈めた男に服を着せて拘束している。
 正確に言うと、一真は気にしなかったが、ミアキスが宴会場に向かっている女性陣へ見せるのはどうかと言った為、それもそうかと拘束した口だ。
 この間も轍が暴れ出した場合の為に控えていたのだが、彼らは実力的に厳しいと判断したらしく、抵抗しなかった。
「手応えがなかったな」
(『来ないと思って油断してただろうし、浴場まで踏み込むと思ってなかったからだと思うよ~』)
 ミアキスの言葉にそれもそうかと一真は納得。
 一般の入浴客に偽装していたら、彼らは何か違う感想を漏らしただろうか。
(見られて恥じる鍛え方もしていないが)
 そういう意味でガン見されれば話は別だが、彼らがどのような反応をしようとも気にすることもなかっただろう。

「……お兄さん達さぁ、火事場泥棒って凄く格好悪いの分かるかい? 悪いことして金儲けしてる連中の家とかに入り込めよ。お前ら、みみっちいことしてんじゃねぇ」
 こちらにバトルメディックはいない為、仕方なく毒刃の使用を控えた轍は意識を取り戻した男達へそう言った。
(『珍しく怒ってますね。自分も同意見です』)
 イザードが轍に同調する。
 その後も「ヴィランでなくともこういう時にこういう馬鹿をする奴はいるものだ」と一真から言われ、『腰に巻いてたタオルやら湯煙やらで酷いのを見ずに済んだ』と内なる声で智美に言われた凱が微妙な顔をしていたが、拘束した彼らが暴れ出さないよう注意し、宴会場に合流すべく歩き始めた。

●速やかな制圧
 露天風呂へ突入したのと同時刻、宴会場へもエージェント達は突入した。
「生憎こちらは大規模作戦で戦争脳じゃぞ」
 カグヤが戦闘狂への抵抗は無駄とばかりに明確な殺気を放つが、虚を衝かれた4人の男女もすぐさま応戦しようとする。
(『恭也、お腹は絶対に駄目だよ。吐瀉物を掛けられたら最悪だからね』)
 カグヤに続いて踏み込んだ恭也は那美の言葉を受けてすぐさま周囲へ注意を飛ばす。
 相手を気遣ったというより、旅館側の後々の手間や戦闘への自分達側の悪影響を考慮してのものだ。
(『スキルを使わないと、ちょっと判別が難しいわね』)
 外見で判別出来ればバトルメディック狙いと薫は思っていたが、3人剣の1人弓という状況では弓がジャックポットの可能性があると判ってもその先は判らない。
(回復担当を潰すのは集団戦闘では大事って聞いたんですけど)
 と、カグヤや明斗が攻撃するより早く、雲が弓を持っている、足回りが軽そうな女へグレートボウを放った。
 容赦ない一撃に射貫かれ、悲鳴を上げた女はそのまま崩れ落ちた。
 ダメージよりも派手さ重視でリンクコントロールからのライヴスブローだったが、ダメージが深いのか指が細かく痙攣する以上の動きはない。
「最初で最後の投降勧告だ。5秒やる。武装を解除し投降しろ」
 だが、警告を発する目的の攻撃は容赦しなかったが為に相手へ異なる警戒を抱かせるに十分だった。
「降伏? 殺すつもりだろうが」
「信用出来ないわね」
「殺してもそちらはH.O.P.E.が揉み消すだろうし?」
 そう、相手は投降後自分達を殺すと判断したのである。
 密売された低レベルの武器で武装しようと、エージェント並の装備がある訳ではなく、ライヴスブローで攻撃力が増強された一撃を撃てば、それは警告と思われない。多くのブレイブナイトは大ダメージを見越して使用するスキルであり、警告攻撃には向いていないのだ。
 共鳴している雲も抵抗するならばと遠慮なく弓を番えようとし、
「止せ」
 恭也が制止していた。
 フローラが制止する前に恭也が制止したのは、意識の差にある。
 雲に人殺しをさせたくない(ヴィラン自体はどうでもいい)フローラは、攻撃最中に危険な場合のみとなりがちだ。だが、火事場泥棒相手にそこまでする必要はないと考える恭也は雲の攻撃が1回で致命傷になりうると判断出来る為、先に動けた。
 しかも、相手は何をしても自分達を殺すつもりと既に判断してしまっており、ライヴスブロー主体の攻撃を考える雲は彼らを煽る可能性があった。
(『雲……』)
 フローラの気遣う声が響き、雲は恭也に言われたことよりも彼女が自分の為に心を痛める可能性に気づいて、踏み止まる。
「ですが、バトルメディックの方が誰なのかは分かりましたよ」
 ケアレイで女の延命措置を図った男を見、明斗がそちらを優先して対応に掛かる。
(勧告はもう通じないと思っていい……なら、このバトルメディックをこれ以上機能させる訳にはいかない)
 チームプレイをさせないことが第一と明斗はバトルメディックの男を部屋の隅へ追い詰めていく。
「自分と遊んで貰いますよ?」
 その後方では、雲が射貫いた弓の女が高音によって拘束され、残る2人もエージェント達が動いていた。 

(油断している酒盛り中退治は日本の神話にもあるのぅ)
 カグヤは呑気に思いながら、もう1人の女に向き直る。
 恭也より言われた、旅館の今後を思えば、旅館に傷が残るやり方は好ましくないだろう。
(バトルメディックは部屋の隅……オーガドライブを発動させておった所を見るにドレッドノートのようじゃが)
 戦闘狂としては、負けるつもりもない。
 フラメアのリーチを活かして、剣を弾き飛ばすと、剣を拾おうとしたその動きに恭也が剣を蹴って妨害し、その隙にカグヤが間合いを詰めている。
「目は醒めておるようじゃが……己が何をしているか理解し、反省を勧めておく。歯向かうなら、保障はせん」
「あら、歯向かわなくても保障するつもりないでしょ。殺すつもりの攻撃を見れば大体判るわよ」
 喉を鳴らす女へ仕方ないとカグヤが視線を移す。
 側面から回り込んだ恭也が女の手を取ると、そのまま腕挫十字固を取った。
 致命傷を負わせないよう、けれど、身動きも取れないその技の間に弓の女の拘束を終えた高音が監視役を雲に引き継いで駆けつけており、恭也は高音へ拘束を依頼すると、薫が足止めしていた最後の男へ対処すべくそちらへと向かう。

 カグヤが恭也より先に到着した時には、男はブレイブナイトと判明していた。
(『ある程度ダメージを重ねればセーフティガスで止められるのだけど』)
「中々上手くいかないですね」
 実力的には自分達の方が上だろうが、相手もそれが分かっているからか、まともに相手をしてこない。
 何とか突破口を見出そうとしているようだが、その為に積極的に戦闘してこなかったのだ。
「じゃが、多勢に無勢ということもあるじゃろ」
 カグヤが駆けつけると、薫はカグヤと共に男を追い詰めていく。
 最終的に破れかぶれの突撃をしてきた男の足をカグヤが引っ掛け、転んだ所を恭也が関節技極めて拘束という運びになったが。

「これでもまだ続けられます?」
 明斗が最後の勧告を行う。
 だが、相手は応じなかった。
 仲間が逃げろと叫び、男が身を翻そうとする。
 その足元へ雲の牽制の矢が突き刺さった。
「畳一枚で済むならば」
 監視しながらもどの戦闘も位置取りに気をつけて確認していた彼は、逃げるならば退路を防ぐ牽制をと準備していたのだ。
「殺すしかない」
「……仕方ないですね」
 明斗は駆けつけた他のエージェントと共に無力化、拘束の道を選ぶ。
「しかし、男性でも女性でもこういう状況じゃなかったら、ちょっと危ないシチュエーションですよね」
 高音に拘束されるヴィランへ明斗がそう漏らす。
 本人なりの冗談のようだが、多分、後でドロシーに怒られるだろう。
 が、露天風呂組も無事拘束と判明すれば、事前に拘束道具の確保、全員に物音を立てないよう周知徹底といった明斗の意識の高さのお陰でスムーズに物事が進んだのは言うまでもない。

 薫が最終的な状況をスマートフォンで画像とメモで記録していく。
「折角の楽しい大規模作戦を邪魔されなくて良かったのじゃ」
(『……大規模作戦限定の話じゃないよね』)
 カグヤへクーがぽそりと呟く。
 引渡しまで、一応共鳴状態続行している為、クーの意見への賛同者がいるのかどうかは不明だ。
「現金……盗んだ半分位使われてるみたいですね」
 薫が暫くここにいたならまだ残っているのではと思っていた現金、暫くここにいる為の生活費に宛がわれていたようだ。
 拠点にして動かれている為、他の旅館やホテルの被害も今後調べる必要がある為、この旅館の最終的な被害がどういうものなのかは現時点では判らない。
 薫は、いずれ戻る日の復旧作業の為の資料と彼らの荷物を取り纏めることにした。
「何事もなくて良かった」
 合流した凱が薫を労い、手伝ってくれる。
 盗んできた物が蓄積している為、一真も運び出しを手伝ってくれると言う。
「放置して戻る訳にもいかないだろう」
「ありがとうございます」
 凱と薫は声を揃えて頭を下げた。
 尚、その横では、露天風呂にいたヴィラン2名と同じことを言う轍の姿があり、それを聞いた高音が「そのような方々ならば泣き寝入りの方から取り戻す形ですよね」と同調されている。
「いずれにせよ、逃げられると思わないことです」
 どこでAGWの剣と弓を入手出来たかも含めて聞くことがある。
 ヴィランズは沈黙を選ぶが、事情聴取は専門家に任せておくべきだろう。
「……お疲れ様」
 轍が宴会場のヴィランズの拘束を担当した高音へ声を掛ける。
「轍さんもお疲れ様です。後は皆で無事に帰ることだけですね」
 帰るまでが任務。
 無事に帰らなければ、安心して布団にだって潜れやしない。

 全てが終わり、エージェントが引っ立てる形でヴィランズが歩いていく。
 けれど、彼らは雲の方を1度も見ようとしない。
「……」
 明斗はドロシーと一緒にあれがなかったら、ケアレイの発動をされず、誰がバトルメディックかの特定が出来なかったと言ってくれたが……。
 いち早く共鳴を解除した雲は彼らの言葉と自分の行動を思い返し、自己嫌悪していた。
「雲、私は信じてる」
 フローラのその一言に込められた彼女の想いを感じ、雲は小さくありがとう、と言った。

●温泉ではないけれど
 無事に帰還したエージェント達は待機していた別のエージェント達にヴィランズを引き渡した。彼らは事情聴取の為に連行されていく。
 この時、薫が作成した資料や回収した彼らの荷物も引き渡しとなり、任務は無事に終了となった。
「お疲れ様、雲」
 お礼を言った後、張り詰めた空気の雲へフローラが労いの言葉を投げる。
「お疲れ様」
 少し肩の力を抜いた様子の雲が、小さく笑った。
 と、高音がひとつの提案をしてくる。
「車で少し行った所にスーパー銭湯があるそうです。任務での心身の疲れ、癒しませんか?」
「賛成だ。仕事の合間にこそしっかりと休まねば」
「シャワーだけとか身体を拭くだけ、それすらナシだと嫌だもんね~ゆっくり肩まで浸かれる所なら行きたい~」
 一真とミアキスが賛成を示すと、次々に提案に応じてくる。
「折角だし、俺達も行かないか?」
「そうだね。任務の後だし、一応戦闘したし、さっぱりしたい」
「あたしも賛成。行くまでも距離があったし、湯船で手足伸ばせたらって思います」
 凱も薫とあやかにもどうかと持ち掛け、了承を得ていた。
(肌を見る機会は逃したくない、か?)
 戻ってきた凱へ智美が耳打ちすると、凱は智美を見る。
 それは否定しないが、いちいち言うな、という意味合いだ。
 自分と薫は幼馴染の親友、なのだから。
「智美さんは、どうしてやけに優しい目をしているんでしょう?」
「さぁな」
 薫が尋ねてきたが、智美は喉を鳴らして笑った。

 こうしてスーパー銭湯へやってきたが、恭也が深々と女性陣へ頭を下げた。
 那美の面倒をよろしく頼む、という意味だ。
「自分もドロシーのことは是非お願いし……痛っ」
『子供扱い禁止』
「だって泳ぐし」
『禁止!!』
 ドロシーからそう書かれたスケッチブックを押し付けられる横で恭也は、那美に言って聞かせていた。
「いいか、メイフィールドさんに迷惑を掛けるようなことはしないようにな」
「ボクがそんな子供染みたことすると思うの?」
「家の者に聞いたが、銭湯で思いっ切り泳いだことがあるみたいだが、浴槽で泳いだりは絶対するな」
「……お風呂、泳いだら……ダメ、なの……?」
 思わぬ伏兵、十架が首を傾げている。
 意外な場所からの疑問に恭也が硬直していると、すかさず高音がフォローしてくれた。
「広い、お風呂……泳いで、みたい……」
「十架ちゃん、今度もっと広いお風呂(多分温水プールのことだろう)で泳ごう?」
「もっと広い……?」
「そうじゃのぅ、ここじゃと泳ぐのにはちょっと物足りぬかのぅ」
 十架ときゃっきゃっしたいカグヤが後方から抱きつく。
 高音は温水プールに十架を連れて行く約束と引き換えに銭湯で泳ぐのを防ぐ任務に成功した模様。
 恭也は、フローラへ頭を下げた。
「監視をして貰えると助かる」
 その後ろでは、那美が「さあ行こう! 早くサッパリしたいな~」とはしゃいでいたので、フローラは恭也と彼の年齢にそぐわぬ苦労のバランスに小さく笑って応じた。

「……温かくなってくると眠くなるね……」
「寝ないでください。溺れてしまうでしょう」
 湯船の中で睡眠に入ろうとする轍をイザードが慌ててフォローしている。
「何か……苦労してるんだね……」
 クーはイザードのオカン的苦労を思いながら、眠い目を擦っている。
「お待ちください、湯船で寝てはいけません!」
 イザードがフォローするのは轍だけの話ではなくなった。
 のんびりまったりする明斗は、自分は寝ないように注意しようと湯船の中で体勢を変える。
 その最中で薫と凱が互いを労っている姿を見たり、一真が湯船で手足を伸ばしているのが見えたが、雲が自分を止めてくれた恭也の背中を流している姿に目を留めた。
「今日は流石でした。今度拳を合わせたいです。あと、出来れば体術を教わりたいと思いました」
「愚神相手では通じないだろう。が、体術……武道全般は精神の強さも学ぶものだ。そこで学んだ心のあり方が今後役に立つこともあるだろう。それで構わんか?」
 そこで、何が見えるかは本人次第。

 一方、女性陣も任務の汗を流していた。
「手足伸ばして湯船に入れるっていいわね」
「ああ。こういうのは銭湯のいい所だな」
 あやかと智美ものんびり入浴しているようだ。
「お疲れ様です」
「くすぐったい~」
 フローラは那美の頭を洗ってあげていた。
 と、ドロシーが何か悲壮な空気を纏わせていることに気づく。
「……何、か……見てる?」
 カグヤの背中を流している十架が首を傾げた。
 スーパー銭湯に顔を輝かせ、元気に楽しんでいたドロシーは、ひとつの絶望(?)を抱いていた。
 自分のお胸が、全く膨らんでない!!
 特にミアキスのお胸は凄く膨らんでいるのに!!
 ※ただし、ドロシーは自身の年齢について考慮していない。
「気を取り直していただく為に呼びましょう」
 十架の髪を洗い始めるフローラへ彼女を頼み、高音がドロシーを呼びに行く。
「逆にライフゼロにならぬかのぅ」
 カグヤがぽそりと呟いたが、高音の耳には届かなかった。

 全員風呂から上がると、職員より経費として預かっていたお金で牛乳を飲もうという話になった。
『フルーツ牛乳!』
「まだ何も言ってない」
『たくさん!!』
 明斗は何か鬼気迫るドロシーを不思議に思いながら、スケッチブックを押しつけられる。
 購入役を買って出てくれた雲がフローラと配って歩き、「お疲れ様でした!」と皆で乾杯。
「そんなに急いで飲まなくても……」
 明斗は片手腰に手を当て、フルーツ牛乳がぶ飲みするドロシーへ呆れ果てる。
 けれど、ドロシーは何か決意することがあるらしく、その姿も微笑ましい(実態は哀愁)と真相を知らない明斗はマッサージチェアへ身を沈めた。(既にその隣で轍がマッサージされながら夢の世界へ直行していたが)
 ドロシーが、また1瓶、決意のフルーツ牛乳を空けた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • うーまーいーぞー!!
    天原 一真aa0188
    人間|17才|男性|生命
  • エージェント
    ミアキス エヴォルツィオンaa0188hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
  • エージェント
    中城 凱aa0406
    人間|14才|男性|命中
  • エージェント
    礼野 智美aa0406hero001
    英雄|14才|男性|ドレ
  • 癒やし系男子
    離戸 薫aa0416
    人間|13才|男性|防御
  • 保母さん
    美森 あやかaa0416hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • 温かい手
    流 雲aa1555
    人間|19才|男性|回避
  • 雲といっしょ
    フローラ メイフィールドaa1555hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
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