本部

キグルミウォーズ~T00の野望~

アトリエL

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~15人
英雄
6人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/22 14:27

掲示板

オープニング

●始動! 資金稼ぎ!!
「ついに動くときがきましたね」
「きゃん!」
 小さなチワワに頭を垂れるのはチワワのキグルミ。
「はい、これが全ての始まりになります」
 そう言ってキグルミチワワが示した後方に視点を移せば、そこには無数のチワワのキグルミの姿。
 何故かその中に一匹だけペンギンが混ざっているが。
「……貴様、どういうことだ?」
「はっ、このキグルミは私めが帝王閣下とであった際に配下にしていただいた思い出の品であります!」
「そんなことは聞いていない! 何故支給したチワワのキグルミではないのだ?!」
「それはペンギンこそが至高であるからであります!」
「歯ぁ食い縛れえええぇぇ!」
 ほわんとチワワのコブシがペンギンに当たる。
「貴様、バイトの分際でT00様に逆らうというのか?!」
「いえ、T00様を愚弄する気など微塵もございません!」
「では何故チワワを着ない!」
「それは……チワワに従うあなたと同様に私もペンギンに従っているからであります!」
「くっ……確かにバイト面接時にペンギンのキグルミについて熱く語っていたな……」
「はい、それに答えてチワワのキグルミについて語っていただきました!」
 二人の間にあるのはキグルミへの愛。しかし、その間にはペンギンとチワワという種族の壁が存在する。
「だが、他のバイトへの示しがつかない……どうしたものか」
「きゃん!」
「……勝負……ですか? なるほど、勝てばペンギンのままで働くことを認めると……」
「負ければ……ペンギンの敗北を意味するというわけですか」
「いや、誰もそこまでは言っていないんだが……」
「わかりました。帝王の配下、皇帝ペンギンに逃走の二文字はありません!」
 こうして、戦いは始まった。
 多くのバイトが変な会社で働くことになったなあと思う中で。

●従魔は突然やってくる
「きゃん!」
 そんな鳴き声と共に配られるのはティッシュ。間に挟まれた広告はチワワとは何の関係もない金融業界のもの。
「ぺんっ!」
 そんな鳴き声(?)と共に配られるのは同じくティッシュ。間に挟まれた広告はペンギンとは何の関係もない通信業界のもの。
「きゃん!」
「ペーんっ!」
 二人が同時にティッシュを繰り出す姿はキャンペーン中です。とこれ以上ないくらい明確に告げていた。色んな意味で。
「きゃん」
「ぺん」
 互いの姿を見つめあうチワワとペンギン。その二人の雄姿は互いを称えあっている戦友同士のもの。
「……くぅ~ん」
 それを見つめるのはT00様。
「……なんだ、愚神の気配を感じてきてみればハズレか」
 そしてもう一人。
「きゃんきゃんきゃん!」
「T00様?!」
 鳴き声に振り向けばそこには首を絞められているT00様の姿。反射的に攻撃を加えるキグルミチワワ。
「何?! リンカー……いや、ヴィランか?」
「何を言っているのかわからぬがT00様を放せ!」
「くぅ~ん」
 本物は足元にいますよ?
「くっくっく……この食材を追求する我が愚神だと知ってそう言っているのか?」
「いや、全く知らん」
 キグルミチワワは正直だった。
「ならば見るがよい! 我が力の片鱗を!!」
 そう言って愚神が取り出したのはワンパック380円のセール品のお肉。それが三パック。
「素材に拘ればよりよい従魔が生まれるのだがな……」
 それらに何事か力を加えると瞬く間にお肉三パック980円は三体のマンガ肉へと変貌した。
「なん……だと……」
「さあ、食うか食われるか。愚神同士で争おうではないか」
 そう言って食材愚神は愚神T00に宣戦布告をした。

解説

 食材愚神:ランク不明。ただし、最低でも過去の従魔マンガ肉を越える従魔を三対同時に生み出せる程度のライヴスを吸収している模様。
 愚神T00:ランク不明。多分チワワ一匹分のライヴスを吸っていない。無害すぎて困るレベル。
 キグルミチワワ:レベル不明。英雄不明。実は常時リンク状態。キグルミは脱げない。中の人などいない。
 キグルミペンギン:一般人。皇帝ペンギン。常時キグルミ状態。キグルミは脱がない。中の人などいないッ!!
 従魔マンガ肉:合いびき肉をベースにした従魔。触手を延ばして攻撃可能らしい。気持ち悪さが増してます。

 食材愚神はリンカー達の乱入で逃走を開始します。より良い食材を得るために力を蓄えるのが目的なので逃げに徹します。ちなみに懐にはかぼちゃが残ってたりします。
 T00は一匹食材愚神に捕らわれてます。あ、この場合チワワです。
 T00の本物はキグルミチワワの足元にちゃんといます。
 キグルミのペンギンと他のバイトチワワは一般人なので保護対象です。

リプレイ

●広場に群れるキグルミとリンカー
「……うわっ!! チワワがいっぱいー!! あぁ、和む」
「ワタシも和むー。おいでおいでー♪」
 餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)は無数のチワワに囲まれて和んでいた。
「……なるほどのぅ。着ぐるみを着ておったらワシも可愛こちゃんに可愛がっても……」
 それを見ていた獣臓(aa1696)の言葉が言い終わるよりも先にキュキィ(aa1696hero001)のストレートが言葉を終わらせた。
「旦那様が失礼なことを……大変申し訳ございません」
 そのままキュキィは獣臓を引き摺っていく。
「おおぅ。なんだか今日は賑やかだねぇ。なんかイベントでもあったっけ?」
「いや、得には聞いておらんでござる。着ぐるみ……でござるか?」
 キグルミで賑わう広場で起こったそんなやり取りをイベントの一つだと認識し、虎噛 千颯(aa0123)と白虎丸(aa0123hero001)は渡されたティッシュを受け取る。そこに書かれているのは某保険会社の広告だ。
「みてみて、ニック! あのチワワとペンギン、かわいいよ! 私もティッシュもらってこよー」
「あぁ!? なんだ、着ぐるみか。従魔が大量出現したのかと……なわけないよな」
 大宮 朝霞(aa0476)はチワワとペンギンに挟まれてティッシュを受け取り、ニクノイーサ(aa0476hero001)はその内側から発せられる奇妙なプレッシャーから思わず戦闘態勢を取りそうになるが、その矛先をキグルミ同士で向けあっていることに気付くと矛を収める。
「あっ、虎噛さんだ! こんにちは。白虎丸さんも元気してました? あのチワワの着ぐるみ、よくできてますよねー」
「朝霞ちゃんやっほー。今日ってなんかの日なの? 妙に着ぐるみが多いんだけど」
 キグルミの完成度に感心する朝霞に千颯は疑問を投げかけた。だが、当然知っているはずもない。
 本当はあちこちでティッシュを配るのが彼等の仕事である。だが、勝負のためには同一の条件でなければならないというただそれだけの理由で一箇所に集まっていた。目的と手段がおかしいことに当人達は気付いていない。
「買出しに来ただけだというのになんだこの状況は……」
「今日って何かのイベントの日でしたっけ……すいませーん!! 通してくださ……わきゃ!?」
「大丈夫か? 何かこの辺りは余計に人が増えてるな……人っていうか犬が」
「きゃん!」
「あ、ティッシュですか。ありがとうございます」
「ぺーん!」
「……あ、いえ、もう結構です……」
 緋褪(aa0646hero001)と來燈澄 真赭(aa0646)は広場を埋め尽くさんばかりのキグルミ達の中を突き進もうとするが、彼等の目的はティッシュ配りである。僅かに出遅れ受け取ってもらえなかったペンギンの鬼気迫る表情に気圧される形でもう一つ受け取れば、挟まれている広告はまた別のもの。
 群れることで一般人に敬遠され、僅かな配布対象に対し、チワワとペンギンの双方が配るこの勝負は最初からずっと平行線を辿っていた。
「……くぅ~ん」
「お? あれだけは本物の犬なのか」
 そんなキグルミ達を見守る複数のチワワ達。緋褪の目にはただのチワワにしか見えないが、しっかりと躾けられているらしくその場から動かない。TOOが自らの意思でキグルミ達を見守ってるなどという思考に到達出来るものはいないだろう。
「……なんだ、愚神の気配を感じてきてみればハズレか」
 そして、そんなTOOに気付いた存在がもう一人。
「きゃんきゃんきゃん!」
「T00様?!」
「あの人、ワンちゃんを猫掴みで……ちょっと注意してきます!!」
 チワワを捉える黒い影。その姿を確認した瞬間、真赭は思わず動き出していた。そして、同等の反応速度を示したキグルミが一体。
「何?! リンカー……いや、ヴィランか?」
「何を言っているのかわからぬがT00様を放せ!」
「くぅ~ん」
 そんな二人に向けて放たれる言葉にキグルミチワワは首を傾げ、チワワは心配そうに鳴いた。
「ちょっとあなた!! 小型犬に対してなんて危ない持ち方してるの!! 人が抱えてる高さから落ちただけでも足を骨折したりするんだからもっとしっかりと抱えないと危ないでしょうが!!」
「いや、他人が持ってる犬を奪い取る行為も十分に危ないからな?」
 真赭のリンク状態でも出せるかどうかという領域の瞬間的な動きに自分の必要性を一瞬悩みそうになりつつ、緋褪は突っ込む。
「くっくっく……この食材を追求する我が愚神だと知ってそう言っているのか?」
「……食材愚神? 聞いたことあるか?」
「ないよ。って食材? まさかこの子もそういう目で見て……、三味線業界には悪いけど犬食文化なんてなくなっちゃえばいいんだ!!」
「三味線なんの関係があるんだよ」
 名乗りを上げた愚神に緋褪は首を傾げ、真赭は奪ったチワワを守るように抱き寄せた。

●肉を前に
「なん……だと……」
 キグルミチワワの目の前で1パック380円のマンガ肉が大きく変貌した。
 その瞬間、彼の脳裏に過ぎったのは組織の食糧事情。そう、驚愕の理由は食費が浮くに違いない。という思考からだった。

●マンガ肉と共に現れる者
「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!! 肉ぅ!! 肉はどこだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「えぇい!! なんじゃこのチワワの大群は!? 邪魔じゃ!! あっちへ行けあっちへ!!」
「……あっちだ!! 間違いない!! あっちから肉の匂いがするぜ!!」
「よし、お主の勘を信じるぞ!! そこのペンギン、邪魔!!」
 カトレヤ シェーン(aa0218)は王 紅花(aa0218hero001)と共に駆けていた。指し示す方向に並ぶ無数のチワワを蹴散らし、巨体のペンギンを軽く吹き飛ばす彼女達の目指す先は一つ。
「あの人だかりは……間違いないぞ!! あれこそ我々の探し求めていた……」
 紅花の眼前に浮かぶは探し求めた万象にも等しき存在。
「ふっふっふ。ついに見つけたぞマンガ肉。勘を頼りにきたが女の勘は万能だというからな」
「うむ。乙女の純粋な祈りは天に届くとかいった気がしないでもないからの」
 カトレヤと紅花の求めしそれはマンガ肉だった。
「それはそうと。あれは何かの演出なのか? 肉が空を飛んでいるのだが?」
 ニクノイーサの指差した先にはふよふよと漂うマンガ肉の姿。全ての生命を構築するたんぱく質の塊であり、原始的な争い事は相手からこれを奪うことから始まったとも言える物質である。人類進化の最たる原因と言えるかもしれない。
「マンガ肉……でございますか? かような者も敵となりうるのでございますね……」
「なーにを言っておるかい。ほーれ、そこにボインボインのねーちゃんの乳肉も暴れまわっとるわい!! あれこそまさに世界の男達の敵となるおに……」
「エロじじいが失礼致しました。……えぇ。後でちゃんと躾ておきますので。旦那様? いつまで寝ているのでございますか? お仕事でございます」
 キュキィは目の前の獣臓を反射的に処置し、叩き起こす。
「……キュキィよ顎が痛いのじゃが……いやなんでもない……さあ! 仕事じゃぞ!」
「それはきっとあれですね。昨日寝違えたからですよ、きっと。それでは皆様の誘導を開始します」
 獣臓はキュキィに問いかけるが、寝¥横になったままでいるともう一撃喰らいそうな雰囲気を察して、すぐに立ち上がった。
「千颯!! マンガ肉といえば……見覚えがあるでござるよ!! ひょっとしてひょっとするでござる!!」
「例の奴だな!! うっし!! マンガ肉の対処は他のメンツに任せた!! 俺たちはみんなを誘導するぜ!!」
「お、おい。すでに嫌な予感しかしないぞ。もしかしなくてもまたあれを……」
誘導という単語ですでに白虎丸は千颯がやろうとしていることに気付いたらしい。だが、ここで逆らったところで被害が広がるだけだということも理解している。……理不尽な世界に一人の英雄が抗うことなど出来はしないのだ。
「……ええっ!? あれって従魔なんですか!? 大変!! ニック、変身よ!!」
「こんなところで変身したら、大コスプレ大会になりそうだな……」
「これだけチワワの着ぐるみがいるんだから、いまさら大差ないわよ!」
 朝霞はそう言うとニックの手を取る。
「変身! ファンタスティック☆トランスフォーム!」
 徐々に解けていく感覚と同時に鮮明になるもう一つの意識。決めポーズと共に現れたのはある意味でこの場に相応しいこの場においてはコスプレとしか思われない聖霊紫帝闘士ウラワンダーの姿だった。

●避難誘導
「ふへぇ……じゃなくて!! とにかくここにいるチワワ……人? を避難させないと」
「え、えっと!! 皆さん落ち着いてこちらへ……うきゃぁ!?」
 和み状態から状況を察して辛うじて復活した望月と百薬だが、職務熱心(?)な彼等はこの場から離れようとしない。おそらく状況を理解していないのだろう。
「普通に誘導しようとしてもダメ!! ここは逃げ惑う人を演出しよう!!」
「うわぁー。向こうでお肉が暴れてるぞー。あっちへ逃げろー」
「全く、暴れるお肉ってなんなのよいったい。チワワが一杯で困ってるってだけでいいのに……」
「うわぁー!! 助けてえぇぇぇぇぇ!! お肉に!! お肉に捕まるうぅぅぅぅぅ!!」
 望月と百薬は方針を変えて、逃げ出す一般人を演じることにした。パニック状態に陥った人間は人の流れにそって移動する習性があるという。最初は棒読みだった二人もノリノリで避難先へと煽動し始めていた。
「紳士淑女の皆様愚神が出現した様子にございます。私達の指示に従い避難をお願いいたします」
「この愚神共は演出じゃあねーぜ? ここは戦場だ。ほらほらとっとと避難しな! おいそこのペンギン野郎てめーも逃げんだよ」
「ペンギン? 何故こんなところにペンギンが……あ、とにかくあちらへどうぞ」
 キュキィと獣臓に後ろから押し込まれる形でキグルミ達もそれに続く。
「そこのキグルミども、何を争ってるのかは知らんが一般人の避難が始まったからここにいても人はこんぞ」
「あとそこのペンギン、なりきるなら鳴き声くらい勉強してきなさい」
「ぺん?!」
「ペンギンって鳴くのか? そもそもこいつはペンギンなのか?」
「一応鳴くよ。可愛げは全然ない鳴き声だけどね」
 緋褪と真赭に突っ込まれ、キグルミペンギンは項垂れた。嗚咽するその声が本物の鳴き声っぽかった気もするが、そんなことは今はどうでもいい。
「ここは危険です。はやく逃げてください! えっと……あっちです。あっちの方に。チワワさん、ペンギンさん。勝負は後日、あらためてということで!」
「そもそもこいつらはなんで争ってたんだ……というかなんでペンギンが1匹だけいたんだ……」
 それを助け起こしながら逃げるように促す朝霞の脳内でニクノイーサは悩んでいた。
「ほらほら~そこのキグルミ共~逃げるよ~」
「ここは危険でござるよ。演出でも無いから逃げるでござる」
「聞いて驚け! ここにいるのはHOPE非公認ゆるキャラの白虎ちゃんだぞ! ふっふっふ……お前たちのキグルミには無いモフモフで数多なモフリスト達の心を鷲掴みしている最近人気急上昇中のゆるキャラだぜ!」
「なっ!? 待て! 何だそれは初耳だぞ!? いや!? 俺はそんなのでは無いでござる! 阿呆の言う事は聞かなくていいから早く避難するでござる」
「白虎丸さんって、ゆるキャラだったんですか!? 白虎丸さんはもふもふですものね! もふもふ丸さんですね!!」
 千颯の妄言を信じ込んだウラワンダーとチワワ達の目がキラキラと輝き、白虎丸を見つめる。朝霞の方はともかく、実際はキグルミの目のパーツ部分が光を反射しているだけだが、今の白虎丸にはそれを判断するだけの冷静さはない。
「朝霞、いいから早く一般人の避難誘導を続けろ……まだ肉が残ってるんだぞ」
「はっ!? 白虎丸さんの可愛さに油断してしまいました……」
 だが、ニクノイーサにはあった。冷静さを取り戻した朝霞は避難誘導を再開する。
「あ、HOPEには先日企画書出しといたから。たぶん今後の活躍では企画通るから頑張ってね~♪」
「何を勝手なことを……危ないっ!! 大丈夫でござるか? 怪我は無いでござるか?」
 なおも続ける千颯の口を封じるよりもキグルマー達を守ることを優先する白虎丸の姿は彼等の目にどう映っているのだろうか。
「た……隊長が身を挺して仲間をかばってくれたぞ!! お前らもこの勇姿を見習うんだ!!」
「だ、誰が隊長でござるかっ!! いいから……胴上げとかいいから!! 早く避難するでござ……うおぉぉぉ!!」
「そ~れ、そのままこっちこっち~」
 人知れず不敵な笑みを溢した千颯の誘導に従いながらキグルミ達は祭りの神輿を担ぎ上げるかのように白虎丸を胴上げしながら移動する。
 避難誘導。人心操作。既成事実を巧みに利用した千颯の計画通りに事進んでいた。
「おぉ!! 白虎丸ちゃん効果はすごいな!! 流れるように人が動いていくぜ!! ひゅーひゅー白虎丸ちゃんかわいいーーー!! 白虎丸ちゃんもふもふかわいいーーーー!!」
「白虎丸様後ほどもふもふさせていただいても……?」
 獣臓の声援に紛れて、キュキィはそんな要望を口にする。もふもふは乙女を虜にするのだ。
「そうだそうだーちわわはでかいとかわいくないぞー。白虎丸ちゃんはもふもふで回復も出来て才色兼備だぞー」
「っと、旦那様。遊んでばかりもいられません。例のお肉、動き始めました」
 プライドを傷つけられたキグルミに囲まれてフルボッコを受ける獣臓を拳で助け出し、キュキィはずるずると旦那様と呼んだ物質を引き摺りながら戦場へと向かった。

●触手バトル?
「聖霊紫帝闘士ウラワンダー参上! さぁ、悪い従魔をやっつけるわよ!」
「ちょっと、待ったぁ~! そのマンガ肉、俺らが御相手するぜ」
 名乗りを上げた朝霞達の背後に見える二つの影。一つはマンガ肉の歳暮……ではなく、聖母のカトレヤ、もう一つは肉食系女子の紅花だ。
「ほう、邪魔だてするか人間? 一体何物だ?」
「フッ、我等か。マンガ肉を追求する者じゃ。最近ハマっておるのは……」
 食材愚神の問いに紅花は自己紹介を始める。その大半が肉の調理方法で愚神からアドバイスをもらったり、逆に食材愚神が革新的な調理法を編み出すきっかけを作ったりしていたことは今回の事件とは余り関係はない。
「さぁ、ショーの始まりだぜ。おまえら、邪魔だから近づくんじゃねぇぞ。怪我するぜ」
「ではこちらも本気で相手をしてやろう」
 カトレヤがそう宣言すると同時にキグルミ達は更に離れ、食材愚神はマンガ肉を一体前に出す。
「はいはい。演技はもういいよわ。避難もある程度完了した……し……なんじゃこりゃぁ!?」
「……望月、今日の晩御飯はハンバーグだけはやめようね」
「……そうね、ひき肉はチワワの餌にしちゃえばいいよ」
「食べさせられるチワワが可哀想なんだけど……」
 その姿を見た望月と百薬が晩御飯の相談をしながら間合いを取った。
「気をつけろ!! 何かで攻撃してきたぞ!! ……触手?」
「やっ……ヤダ!! 気持ち悪い!! 巻き付かないで!! えいっ! えいっ! 消えろ、消えろ!!」
「……必死だな。まぁ気持ちはわからんでもない」
 ニクノイーサは感覚をほぼ全て朝霞に丸投げしながら呟く。
「……わわっ!! なんか伸びてきた!?」
「肉!? なんで肉が攻撃してくるんだよ!? ええい!! とにかくなんとかしろっ!!」
 真赭と緋褪も協力して対応するが、半ばパニック状態に陥っていた。
 それらの原因はマンガ肉から伸びたグロテスクな触手にある。赤と白の混ざったそれが蠢く様はそれなりの場数を踏んできたリンカー達にすら嫌悪感を抱かせる。リンカー達の反撃は触手には届いているが、本体に近付きたくない気持ちから決定打に欠けていた。
「あれを見るのじゃ。ウェ、気持ち悪いのじゃ」
「くそ、あれじゃ、マンガ肉のイメージダウンだぜ」
 そのマンガ肉から更に触手が伸び、紅花とカトレヤへと伸び始めた。その姿を見た瞬間に二人の心がリンクする。
「『殲滅する』のじゃ」
 互いに戦闘モード。全力の食う者と疲弊した食われる物の戦いは一瞬で終わった。
「フッ、所詮は、紛い物。一気に攻める」
 鞭の様に撓る触手がカトレヤに届く前にその槍がマンガ肉本体へと至る。最初と比べると縮んでいるように見えるのは気のせいではない。触手に受けたダメージは本体にも届いていたのだ。
「この肉塊が、消え失せろ!」
『滅するのじゃ、肉塊!』
 二人の声が木霊すると同時にマンガ肉は380円の挽肉へとその姿を戻した。中身が減っているのは触手として使用され、周辺に散らばっている分だろう。
「なるほど。それなりの力はあるようだ……ならばこれでどうかな」
 食材愚神はその両手を残った二体のマンガ肉へと当てると脈動する心臓のように痙攣を始めたマンガ肉達。その動きが収まる頃には伸びる触手がその数と太さを増していた。
「気持ち悪ぃ触手だな……足でまといにはならないよう、せめて一般人が逃げれる時間だけでも稼ぐぜ!!」
 獣臓は一般人達とマンガ肉の間に立ちはだかる。
「力を集めるつもりが無駄に消費することになるとはな」
 ライヴスを送ることで従魔を強化したのだろう。だが、それは戦うためではない。
「我が野望のためにもここで撃たれるわけにはいかんのでな。今は退かせてもらおう」
 食材愚神はそう言うとカボチャの馬車を生み出し、撤退を開始する。
「逃がしはせんのじゃ!」
 獣臓の放った針……縫止はドリフト走行をするカボチャの馬車に避けられた。
「我を止める気ならばもう少し腕を上げて出直すことだ。尤も、そのときにはより力をつけているであろうがな!」
 そのまま姿を消す食材愚神の命令か、マンガ肉達は逃げ去った方向へ向かう道を塞いだ。
「くそ、紛い物のくせに」
 カトレヤは間合いを詰めて一撃を叩き込もうと試みるが、二体の連携がそれを阻む。
「肉塊、目障りだぜ!」
「我が野望を汚すか、肉塊!」
 カトレヤ達は遠距離攻撃に切り替え、触手の数を減らすことに専念する。その度に地面に落ちる挽肉の破片をT00が食べていた。
「えいっ! えいっ! 消えろ、消えろ!!」
 ウラワンダーは触手を片っ端から叩き落す。その攻撃は本体には相変わらず届いていないが……。
「ウラワンダー☆アロー!!」
 触手が減って生じた隙間を縫って放たれた一撃がマンガ肉の本体を貫く。
「ウラワンダー☆アロー! ☆アロー!! アロアロローーー!!!!!」
「……必死だな」
 それはニクノイーサが呆れるほどの勢いでマンガ肉が動かなくなるまで続いた。

●そして、次の戦いが始まる
「……くそっ。今回はただのまがい物だったか。ただの肉塊に手こずったぜ」
「我らの勘も鈍ったのかのぅ……」
 元が挽肉ではカトレヤと紅花にとってはそれはマンガ肉ではない。チワワ達の餌と貸したマンガ肉だったものを背に精神を研ぎ澄ます。
「……ムッ。4時の方向に新たなマンガ肉の気配を感じるぜ。さっそく出動だ!!」
「ほほぅ。今度こそ間違いないのじゃな? それでは、皆の衆、おさらばじゃ」
 そして、再びカトレヤと紅花は駆け出していた。向かう先にマンガ肉があると信じて。
「やっと終わったみたいだな……しかしこれはなんのイベントだったのか」
「はぁ、はぁ……しばらくお肉は食べたくありません……」
 ニクノイーサに朝霞はそう言うのがやっとだった。全力で攻撃を続けた疲労は肉体よりも精神に圧し掛かっていたが。
「……そういえば捕まってるチワワがいたよな。あいつってどうなったんだ?」
 ニクノイーサが振り返れば、そこには挽肉で餌付けされているチワワの姿があった。
「良し、お食べ。お前野良だったらうちに来る? いいよね?」
「それやっても大丈夫なのかよ? 管理人は真赭なのだしいいんじゃないか? すでに3匹いるんだ、1匹増えたところで変わらんよ」
「わーい♪ ありがとう、お父さん。大事に育てるね♪」
「誰がお父さんだ誰が!? ……こいつ、何か言ってないか? ……ま、いいか」
 喜ぶ真赭の姿に突っ込みを入れつつ緋褪はそう思ってしまうのであった。
「敵の逃亡を確認……任務完了であります」
 念のために食材愚神が逃げた方向を調べ、キュキィは痕跡が途切れていたことを報告する。
「……ふぅ。とにかく任務は完了……でいいのかな?」
「……お腹すいたー。ワタシもハンバーグとか食べたい」
「いや百薬さん、さっきなんて言ってた?」
 望月は百薬に突っ込みを入れつつ、晩御飯のメニュー候補として一考していた。メニューを考えるのって大変なんです。
「朝霞ちゃんも白虎ちゃんのゆるキャラ化を応援してー! 応援してくれたらいつでも白虎ちゃんをモフれる券あげちゃう!」
「白虎丸さんはもふもふですものね! もふもふ丸さんですね!!」
「いや、大宮殿! この阿呆の言う事は聞かなくていいでござる!」
 千颯の提案を受ける朝霞にもふられながら白虎丸は抗議を続ける。
「白虎丸ちゃんモテモテじゃのぅ……羨ましい。白虎丸ちゃん~一緒にナンパし……!?」
「白虎丸様申し訳ございません。……あ、でも。よろしければ私も少しだけ……」
 獣臓を殴り飛ばしたキュキィももふもふに加わる。
「獣臓さん……あんたわかってるな!!」
「獣臓殿もキュキィ殿も悪乗りがすぎるでござる!」
 千颯は戦友を見送るように敬礼を送り、白虎丸はもふられながらも抗議を続ける。
「いや……これも白虎ちゃんのモフ力(ぢから)の成せる技か……白虎ちゃんをゆるキャラにするぜー!! 白虎ちゃんのモフ力(ぢから)は53万だぜ!」
「そんな値はない! 千颯はいい加減目を覚ませ!」
「ごふぅ……!! ゆるキャラにあるまじきこのパワー……これも白虎ちゃんと魅力……だぜ……」
 修羅を背負う白虎丸を前に千颯を治療してくれる人はいなかった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218

重体一覧

参加者

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • もふもふの求道者
    來燈澄 真赭aa0646
    人間|16才|女性|攻撃
  • 罪深きモフモフ
    緋褪aa0646hero001
    英雄|24才|男性|シャド
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • エージェント
    獣臓aa1696
    人間|86才|男性|回避
  • エージェント
    キュキィaa1696hero001
    英雄|13才|?|シャド
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