本部

RUMBLE FISH

白田熊手

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/16 19:23

掲示板

オープニング

●某日深夜、首都高速道路

「従魔だ!」
 突如深夜の首都高に現れた従魔。偶然それに遭遇した前田は、己の不幸を呪った。
「健徳君……!」
 助手席に座る緒方薫子が前田の名を不安そうに呼ぶ。前田は以前にも遊園地で従魔に襲われ、大怪我をした事があった。今日はその時のやり直し的な意味で、箱根の方にドライブへ行った帰りだったのだが……またしてもと言うわけだ。
「だ、大丈夫!」
 前田は気丈に言うが、その言葉には何の根拠もない。従魔は目の前、警察やHOPEに助けを求める余裕は無い。遊園地の時は、偶然居合わせたリンカー達に救われたが、今度こそ――前田が絶望に捕らわれかけたその時、救いの主は現れた。
「何だぁ!? あのクソ野郎は!」
 救世主にしては下品な声。だが、怯え、硬直していた前田はその声に自由を取り戻し、反射的にそちらを見る。
 数十台のバイクと車。その先頭で、一際目立つ大型バイクにまたがった六人の若者が、不遜な姿勢で従魔を睨み付ける。
「『亜主羅慧留(アズラエル)』!」
 前田がその名を叫ぶ。噂に聞いたことがある。最近東京を中心に勢力を伸ばす暴走集団『亜主羅慧留』。普段なら絶対に出会いたくない相手だが、今は彼らが救いの天使に見えた。何故ならば――。
「人間様の道路で、化け物がデカイ面してんじゃねぇ!」
 先頭の少年が従魔に向かってそう怒鳴り、跨がったバイクを猛然と発進させた。
「くたばれ!」
 バイクを充分に加速させてから、少年はそう叫んでシートから飛び降りる。バイクは慣性に従い、ハイスピードで従魔に突っ込む。激しい衝突音と、それに続く爆発的な炎上。。だが、我々と理を異にする従魔にとって、ガソリンの爆発は派手なだけの花火に過ぎない。
「チッ! やっぱ駄目か、直接ぶっ殺すしかねぇな」
 炎の中で悠然と佇む従魔の姿に、少年は苦々しげに呟く。かなりのスピードのバイクから飛び降りたと言うのに、その体にはかすり傷一つ負っていない。タフと言うだけでは説明できない頑丈さだ。
「圭二、一々バイク壊すのやめなよ。勿体ないだろ」
 その中の少女が、呆れた口調で少年に言う。
「うっせー玲奈、今はこいつをぶっ殺すのが先だろ!」
「やれやれ……相変わらず血の気が多いな」
 後ろに居た少年の一人が、これまた呆れ声で呟く。
「いいから行くぞ! 武雄、富雄、突っ込むぞ! 玲奈、明生、庄司は援護しろ!」
 圭二と呼ばれた少年の号令に従い、あるものは嬉々として、またあるものは呆れつつ、人間には太刀打ちできないはずの従魔に突撃する。だが、それは無謀ではない。何故なら彼らは、従魔に対抗できる特別な存在――リンカーなのだ。

●HOPE支部、ブリーフィングルーム

「先日首都高で突如従魔が発生した。無論我々が対処すべき事件だが、お呼びは掛からなかった。何故だと思う?」
 言うと担当者は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「回りくどかったね、本題に入ろう……この写真を見てくれ」
 スクリーンに一枚の写真が現れる。そこには半壊した車とバイク、アスファルトの抉れた道路、そして徹底的に叩きのめされた従魔の姿があった。
「『亜主羅慧留』って暴走族知ってる? これは彼らがやったんだ――そう、『亜主羅慧留』のリーダー格と見られる六人のメンバーは、リンカーなんだ」
「従魔を退治してくれたんだ、本来なら表彰ものなんだが……暴走族ってのが問題だ。彼らが不運と踊るのは勝手だが、巻き込まれでもしたらたまったもんじゃない」
「言うまでもない事だが、公道での暴走は違法行為だ。その意味で言えば、彼らはヴィランと言うことになる。だが、彼らが人類の脅威たる従魔を倒したことも事実だ。連中は今、我々とヴィランの中間にあると言えるだろう」
「そこでHOPEは、彼らが本格的なヴィランの道を歩まないように、勧誘を掛けた。結果は……まあ失敗だね。暴走行為をやめる気は無いと言われたよ」
「ま、分かってたことだ。ガキってのは大人の言うことは聞かないからね。だが食い下がってみるもんだ。しつこく勧誘したところ、彼らは一つの提案をしてきた」
「『強いものに従う』彼らはそう主張している。つまり、『言うことを聞かせたかったら、俺達を打ち負かせ』と、そういうことらしい」
「方法はバッドボーイズのトラディショナル――『決闘』だ。こちらが勝利すれば、彼らは『亜主羅慧留』を解散しHOPEに所属する。ノスタルジックかつクラシックで……馬鹿げた話だ。しかし、面白い提案でもある」
「話が長くなったが、要するに、君らには決闘で彼らを負かして欲しいんだ。俄芝居の様な任務だが、意義は決して小さくない。能力のある若者をヴィランの道に追いやることなく、HOPEの戦力を増やすことにもなるんだからね」
 そう言うと、担当者はスクリーンのスイッチを切ろうしたが、ふと何か思い出したように手を止める。
「言い忘れてたよ、彼らが倒したこの従魔、ぎりぎりって所だが――デクリオ級だ。ガキだと思って舐めない方が良いと思うよ」

解説

●目標
 決闘に勝利すること。

●登場
「新井圭二」
 リーダーのドレッドノート。自信過剰な上非常に攻撃的な性格で、防御を顧みず突撃してきます。戦闘と暴走が楽しくて仕方ないお年頃です。

「達川明生」
 No.2のジャックポット。比較的冷静なタイプで、チーム戦では猪突する圭二の援護を担当します。圭二の幼馴染み。圭二の付き合いでやっていますが、本来喧嘩にも暴走行為にも興味がありません。

「篠田玲奈」
 ソフィスビショップ。明生と同じく援護を担当。猫をかぶっていますが血の気は多いです。明生と同じく圭二の幼馴染み。暴走よりも戦闘が楽しいタイプです。

「高橋武雄・富雄」
 双子のブレイブナイト。圭二と共に敵陣へ切り込み、耐久力で戦線を支えます。二人とも無口で、物事にあまり動じません。

『東出庄司』
 バトルメディック。後方支援担当。6人の中では気の弱い方です。圭二に心酔しています。

●状況
 決闘場所は伝統に則って河原です。基本的に開けた場所で、小細工は難しいでしょう。また、彼らは力に従います。その意味でも、正々堂々とした戦いが望まれます。
 6対6の決闘ですが、チーム戦、1対1の星取り合戦、どちらの形式でも彼らはこちらの提案を呑みます。何も提案がない場合はチーム戦となります。
 彼らの実力は高く、一般的なリンカーと比べても遜色ありませんが、装備は粗悪な模造品、或いは密売で入手した低レベルなAGWだけです。
 変わった形ですが、この決闘はHOPEの勧誘です。戦意を失った相手に止めを刺す様な真似は控えて下さい。血の気が多く、暴走行為を繰り返している彼らですが、暴れられる場所を与えてやれば、優秀なリンカーとなるでしょう。
 同時にそれは、彼らを野放しには出来ないと言うことも意味します。皆さんが敗れた場合、HOPEは以後彼らをヴィランと見なし、今度は勧誘でなく壊滅を目指すことになります。

リプレイ

●夕焼けの河原
「今一度確認するでござるが、此方が勝てばHOPEに従う約定で相違は無いでござるな?」
「クデェ、男が一度口にしたこと引っ込めっか」
 念を押す小鉄(aa0213)に、亜主羅慧留総長・新井圭二は苛立たしげに答える。小鉄の懸念にも故はある。新井の後ろには、バイクに跨がった亜主羅慧留の構成員百数十名が集結しているからだ。
「後ろの、人達は?」
 物騒な一団に目をやり、秋津 隼人(aa0034)が新井に尋ねる。新井達が敗れた後、彼らが暴れ出さないとは限らない。無論暴走族などリンカーの敵ではないが、余計な被害は出したくなかった。
「あいつらには一切手出しはさせねえ。俺達が負けたら、その場で亜主羅慧留は解散だ……負けねえけどな」
 圭二はそう答えると、ふと思いついたように、不敵な笑みを浮かべて続ける。
「あんたらを病院に送らせる位は、してやってもいいぜ?」

●作戦会議
「『強い奴が偉い』ってか、若いってのはイイねぇ。しがらみやら何やかや、余計なこと考えなくて済むんだからよ」
 マックス ボネット(aa1161)はそう言って皮肉な笑みを浮かべる。
「基本は集団戦で、その中で個々の実力差を見せつける……という事でよろしいでござるな?」
「ああ、同系統の能力者と戦えば、否応なく力の差が分かるだろう」
「こういうのって血が疼くわね!」
 決闘を前に稲穂(aa0213hero001)は興奮気味だ。赤い浴衣が可愛らしい彼女だが、見かけに反して結構好戦的らしい。
「私、弱い者いじめはあまり好きではありません」
 そんな血の気の多い連中に対し、卸 蘿蔔(aa0405)がやや遠慮がちに言う。
「ほう、まるで自分が強いみたいな言い方だ……慢心はよくないぞ。若い言えど実践経験はあるんじゃないかな、それこそ遊んでばっかのお前より」
 レオンハルト(aa0405hero001)は、相棒の発言を捉え辛辣な言葉をかける。もっとも、きつい言葉は癖のようなものだ。
「そうですね……」
「油断は、できませんよ。デクリオ級を、正規のAGWも無く、撃退するとは……強い、ですね」
「うちもデクリオ級とは一遍戦ったことあるけど、結構苦労したな」
 虎牙 紅代(aa0216)はそう言って、機械化された手で頭を掻く。
「あたい達、あの時より大分強くなってるぞ」
 やや控えめな紅代の言葉を励ますように、ニココ ツヴァイ(aa0216hero001)は鼻息荒く言う。
「決して、舐めてはかかれない相手、ですか……用心しましょう。まあ、初めから、手を抜くつもりもありませんが」
「やれやれ、元気なのは良いが度が過ぎるのは考え物じゃの。それに決闘を提案してくるとは……若さ故の怖いもの知らず、と言ったところか」
 椋(aa0034hero001)は溜息のように言葉を吐き出す。歳月を経て顕現した椋に、彼らの稚気は実感し難いようだ。
「……ん、放っておけば、いいじゃん」
 佐藤 咲雪(aa0040)は興味なさげに呟く。亜主羅慧留がヴィランとして殲滅されようが、咲雪にとってはどうでもいい事だ。咲雪にとってエージェントの仕事は割の良い仕事で義務感や責任感等というものは欠片も無い。
「はぁ……この前、殴るだけで終わる仕事が良いって言ったのは貴方よ」
 いつもの様にやる気のない咲雪を、アリス(aa0040hero001)は溜息を吐きいて諭す。
「……ん、分かった。やる」
 傍らに立つアリスの言葉に、渋々と咲雪は頷いた。
「このままではいずれ愚神に殺されるやもしれんし……何より、わしらにもエージェントとしての誇りはあるしの、しかと、実力を見せつけてやらねばなるまい」
「是非も無し……我々エージェント、いや忍びとしての力を童どもに見せつけるでござるよ」
「他の人も忍びにしようとするのはやめなさい」
 椋の言葉に力強く同意した小鉄に、稲穂は突っ込みを入れた。

●決闘
「オヂ様、決闘とは誰かの名誉を守るためのもののはず。この決闘には誰の何がかかっているのでしょうか?」
 共鳴を開始したマックスに、ユリア シルバースタイン(aa1161hero001)が今更ながらこの決闘に疑義を呈す。貴族だったらしいユリアとって、不良の喧嘩を決闘と呼ぶことは相当の違和感があるようだ。
「そうだな……ユリアさんの言うとおりなんだが、そういうのは何百年か前に廃れちゃってんだよ、これが。今じゃ命は取らないことも多いし、男同士の友情が芽生えたり……」
 ユリアが知らないのを良い事に、マックスは適当なことを吹き込む。元より、疑義があろうとなかろうと、彼らを従わせるにはこれよりないのだ。
「ほな、悪ガキどもと喧嘩しに行こか♪」
 紅代の声を合図としたて、双方の陣営が戦闘態勢に入る。亜主羅慧留側は高橋兄弟を両翼として新井が前衛に走り、後衛中央に東出、左翼に達川、右翼に篠田。範囲攻撃を警戒し散開気味である。対してHOPE側は、マンツーマンで対応するように展開。
「女か……喧嘩場に出た以上手加減はしねえぞ!」
 自分の前に進み出た咲雪に、新井は廃品のAGWを改造して作ったナックルを両手にはめ、防御も何もなく突撃した。咲雪は眠たげな顔で欠伸を堪えている。目の前の相手など心底どうでもいいといった表情だ。
「……いい度胸だ!」
 新井の額に血管が浮かんだ。本人は意図していないが、咲雪のそれは挑発行動そのものだ。
「……めんどくさい」
「ドレッドノートは一撃には気をつけて」
 咲雪は共鳴したアリスの言葉に頷き、突進する新井よりも早く攻撃態勢に入った。
「なにぃ!?」
 分身を作り出す『ジェミニストライク』。亜主羅慧留には居ないシャドウルーカーの技。新井は不覚にも狼狽し、咲雪の繰り出した大ぶりの右フックを真面に食らってしまった。
「あの馬鹿、HOPEのエージェントに真っ正面から」
 『射手の矜持』で精神を集中させていた達川は思わず舌打ちする。だが油断は彼も同様だった。視線が泳いだその瞬間、蘿蔔の放った弾丸が達川の左肩を貫く。
「ッ……!?」
「よそ見とは余裕のようですね……でもさせてあげないですのですよ」
 蘿蔔の勝ち誇った声。達川は慌てて銃弾の方向に視線を移し……。
「魔銃少女レモン、貴方のハートを撃ち抜いちゃいますよっ!」
 そっと目をそらした。
「なぜ!?」
「出来れば俺も目をそらしたいよ……」
 驚愕する蘿蔔の頭の中で、レオンハルトが溜息混じりに呟いた。

 前線両翼では、小鉄と紅代が高橋兄弟と激突する。
「あたい参上!! まけないぞ~!」
「ほれほれ、あんまはしゃいだらあかんよ」
 はしゃぐニココを紅代が軽く窘める。双子としては突出した新井と連携したいところだが、それには目の前の相手を突破しなければならない。無論、容易くそれを許すような二人ではない。
「拙者とて忍びの端くれ、容易には後ろへは通さぬでござる!」
「……え、それって忍びなの?」
 稲穂の突っ込みも聞こえない風に、小鉄は武雄に手加減抜きのヘヴィアタックを放った。同時に、紅代も富雄にヘヴィアタックを叩き込む。技量の差、獲物の差、目にした事のない鋭さで繰り出される二人の攻撃に、双子は内心驚きの声を上げる。回避は試みるが、及ばない。二人の大剣は双子の防御を引き裂き大きな打撃を与えた。
 それでも双子は声一つあげず、模造品のAGWアックスを振りかぶり、力任せに防衛戦の突破を試みる。
「当たらんでござるなぁ!」
 だがここでも技量の差が出た。小鉄は武雄の攻撃を楽に躱す。無論紅代も……。
「おおっ!?」
 と、思ったことに油断があったか、富雄の斧は紅代の脇腹に食い込んだ。致命傷には程遠いが、身につけた防具の下から薄く血が滲む。
「紅代!」
「大丈夫やニココ……あかんな、これ以上失わんと決めたんに」
 心配するニココに苦笑いして言い、紅代は苦笑いして崩れた体勢を立て直した。
「新井さん、大丈夫ですか!?」
 他方では、バトルメディックの東出が傷付いた新井にケアレイを飛ばす。それ程深手でなかった新井の傷は全快する。
「隼人、アレを続けられたらキリがないぞ」
「邪魔しに行きましょう」
 東出の行動を警戒していた隼人は、椋の進言に従いそちらへ向かう。

「余計なことを!」
 援護を受けた新井に感謝はない。むしろタイマンを邪魔されたという苛立ちがあったが、文句を言っている場合ではない。咲雪がまたも分身し、左右から強烈な攻撃を仕掛けてくる。見切ることの出来ない新井はヤマをかけた。
「こっちだ!」
「……ハズレ」
 左の咲雪の拳が、再び新井の顔面を捉える。
「クソッ! あっちの忍者よりこっちの女の方が忍者じゃねーか!」
「失礼でござるなぁ」
「まあこーちゃんの戦い方じゃ、言われても仕方ないよね」
 愚痴のような新井の叫びに、小鉄は心外な表情を浮かべる。
「あの女、圭二とは相性が最悪だな」
「またよそ見ですか!」
 苦虫を噛み潰す達川の左足に、蘿蔔の弾丸が命中する。
「ッ……だったら、こんなのはどうだ!」
 打ち抜かれた痛みを堪え、達川は神速の抜き打ちで蘿蔔、紅代、咲雪にオートマチックの銃弾を放つ。銃弾は正確に目標を捉え、三人に傷を負わせた。
「……やりますね!」
 意外に強烈な反撃。蘿蔔は素直に賞賛の声を上げる。
「明生! 余計なことするんじゃねぇ!」
「うるせー馬鹿! 偉そうな事は一発でもその女殴れてから言え!」
 横やりに文句を言う新井に、達川も負けずと怒鳴り返した。
「『トリオ』か、思ったよりやるねぇ」
「あちらの女性も、『ウィザードセンス』を使っているようでしたね」
「オヂさんも、ちょっといいとこ見せちゃおうかな」
 先ほどから動きのなかったマックスが、集中終えて攻撃態勢に入る。その動きを察知した小鉄は武雄に『ストレートブロウ』を仕掛け、事前の打ち合わせ通り篠田の居る方向へ弾き飛ばした。
「えっ? た、武雄!?」
 こちらも集中を終え、攻撃の準備をしていた篠田。だが、突き飛ばされて来た武雄にぶつかられ、一瞬動作が遅れる。
「マックス殿、今でござる!」
「おう!」
 篠田と武雄が重なった地点目掛け、マックスは『ブルームフレア』を放った。
「きゃあ!」
 炎に巻かれた篠は意外にも可愛い悲鳴を上げる。同じく巻き込まれた武雄は炎を物ともせず立ち上がり、自分を吹き飛ばした小鉄に向かった。
 篠田はそれから少し遅れて立ち上がり、怒りの形相でマックスを睨み付けた。全身にはうっすらと焦げ目、髪も少し縮れている。
「オッサン、許さないよ!」
 篠田は意趣返しとばかりに炎を召喚し、マックスに向けて解き放つ。
「今度はお前が燃えろ!」
 炎は風を巻いて河原の草を燃えあげ、一瞬でマックスの全身を包み込んだ。
「うわぁぁっ!?」
「やった!」
 マックスの悲鳴に篠田が歓声を上げる。
「……なんてな」
「な!?」
 だが、それはぬか喜びだった。炎に包まれたはずのマックスだが、服の裾が少し焦げた程度で体は全くの無傷だ。
「なんで!?」
「人生経験の差……と、言っておこうかね?」
 そう言うと、マックスはにやりと笑って見せた――。
「くそっ、誰を治せば……一番怪我の酷い明生さんか?」
 焦げた篠田に加えて富雄も再び紅代の剣を食らい、ほぼ全員が負傷。東出は若干パニックになりながらも、ケアレイの対象を達川に決めた。だが、正にその瞬間。
「残念ですが、ケアレイは待ったです」
「な!?」
 接近した隼人の拳が東出の横っ面を張る。腐っても族。東出は反射的に拳を固めると、即座に隼人を殴り返す。遅速な攻撃。だが、隼人はあえてそれを受けた。
「っ!?」
 壁を殴ったような感触。それは隼人がダメージを受けていない事を如実に示している。
「効きませんね、そんな攻撃じゃ」
 隼人の不敵な笑顔に、東出は静かな恐怖を覚えた。

「どっちが本物かなんて分かるか!」
 三度目のジェミニストライク。新井は未だにそれを見切れていない。こういう搦め手を使う相手とはやり合ったことがないのだ。
「……そろそろ寝るといい」
 二方向からの攻撃が新井に迫る。躱す自信はない。だがその時、新井に電流走る。
「どうせ見切れねえなら……こうだ!」
 実態と虚像。それはどちらも新井の顔面を狙って居る。ならば繰り出される二つの拳を躱すのではなく、逆に頭をぶち当てる。
「……!?」
 意外な行動に、咲雪の半眼が僅かに開く。重い打撃音。幻影の拳は消え、実態の拳が新井の額を打突した。
「へへ……止めたぜ」
 躱したわけではない。拳を体の一番硬いところで受けただけだ。馬鹿なりに考えた作戦だが、碌な装備のない新井には案外な好手だった。額から血は噴き出したが、ダメージはほぼゼロ。
「男っぽい戦い方するねぇ」
 魔力を集中しながら、マックスは呆れた口調で呟く。目標は前回と同じく、ソフィスビショップの篠田。
「玲奈……!」
「またよそ見ですか!」
 マックスの行動に気づき声を上げた達川の右足を、蘿蔔の弾丸が貫いた。両足を打ち抜かれた達川は両膝を地面落とす。
「くそっ……!」
 だが、達川は自分を打ち抜いた咲雪を無視し、膝立ちのままマックスに向かって発砲した。不利な体勢からの射撃だが、元より当てるつもりはない。
「おっと!?」
 銃弾は掠りもせず飛び去ったが、マックスは体勢を崩し、撃ち出した『銀の弾丸』は篠田から大きく外れる。
「サンキュー、明生! 今度こそ燃えな、オッサン!」
 体勢を崩したマックスに、篠田はもう一度ブルームフレアを飛ばす。単体の相手には『銀の弾丸』の方が効率的なのだが、頭に血が上った篠田はやり返すことしか頭にない。
「あぶねぇ!」
 弾丸が来ると思っていたこともあり、マックスは思わず声をあげ身を躱す。
「なんで当たらないのよ!?」
 悔しそうな篠田の声。当たらなければどうしようもない……手詰まりだ。
「そろそろ……降参したらどうや!?」
「どうだ!?」
 強烈な『ヘビーアタック』をぶち込んでから、紅代とニココは富雄に降伏を勧告する。富雄の全身からは大量の血があふれ出している。誰の目にも勝敗は明らかだったが、富雄は降参を拒否し戦闘の意思を絶やさない。
「いけませんね、あれは」
 これ以上の戦闘は命すら危うくする。そう判断した隼人は眼前の東出を捨て、富雄を中心に生命力が低下した者を眠らせる『セーフティガス』を発生させた。闘志は絶えなかったが、意識はそれで途絶え、富雄は地面に倒れ伏す――。

「……もう終わりにしませんか?」
 その様子を見た蘿蔔は、銃を下ろし達川に提案する。
「……」
 返事はない。これ以上の戦闘が無駄な事は達川にも分かる。だが、曲がりなりにも亜主羅慧留の幹部だ。簡単に負けた等といえる訳もない。
「……私、皆さんが羨ましいです……お友達、たくさん居て。でも本当の友達って……友達が間違ったこと、危ないことをしてたら……止めてくれるもの、だと思うのです」
 そう言って蘿蔔はにっこりと笑う。達川は急に馬鹿々々しくなった。元より、喧嘩も暴走も好きではないのだ。意地を張る意味など――。
「あなたは……いえ、皆さんもですが、リーダーさんのこと、大好きなんですね。戦ってて思いましたよ……援護するのが身についてるというか心配してるんだなーって」
 体からふっと力が抜け、達川は力ない笑みを浮かべた……自然と口が開く。
「やめだ! この喧嘩は終いにするぞ!」
 その場にいる全員に聞こえる大声で怒鳴る。大音量にその場にいる全員が動きを止めた――一人を除いて。
「終いたぁ、どういう意味だ!?」
 達川に新井が怒鳴り返す。他のメンバーは無言。半ば戦意を失っている者も居た。敗北を受け入れる心理的な抵抗は拭えないが、達川の提案を積極的に拒む気力もない。それを残しているのは、最早リーダーの新井だけだった。
「喧嘩は負けって事だ。馬鹿なお前でも分かるだろう。富雄が倒れて6対5。勝ち目なんかある訳ねえ」
「た、確かにそうですね……」
 達川の言葉に東出も賛同する。だが、新井は違う。
「お前ら、俺が勝てる喧嘩しかしねえ臆病者だと思ってんのか!?」
「あのな、圭二……」
「これからだ! この女の拳も見切って、これから叩きのめす所だろうが!」
「……そうは見えなかったぜ?」
「うるせえ! 俺ぁまだこいつに一発も入れてねえんだ! お前達はやめたきゃやめろ、俺が一人で全員ぶっ飛ばす!」
「このクソ馬鹿野郎が!」
「何だとこの野郎! お前からぶちのめしてやろうかぁ!?」
 他の者を置いてけぼりに言い争う新井と達川。どうしたものかと皆が戸惑う中、咲雪の提案が事態を打開する。
「……タイマン、しようか?」
「あん!?」
「……決着、つけたいんでしょ?」
 咲雪の静かな声に、新井はやや鼻白む。だが、次の言葉で新井の顔色が再び変わる。
「……怖い?」
 小学生でも掛からないような挑発。だが、新井には覿面に効いた。
「いいだろう! 絶対にぶちのめす!」
 基本的に馬鹿な男である。

●タイマン
「頭に血が昇ってる相手は行動が直線的になるわ。行動予測は容易よ、いつも通り敵の予測行動を表示するから、参考にして」
「……ん」
 タイマンを前にアリスはアドバイスを送る。咲雪が負けるとは思えないが、万が一と言うこともある。
「準備はいいか――始めようぜ!」
 言うが早いか、新井は咲雪に拳を突き出した。決して遅くはないが、咲雪の攻撃速度はその遙か上だ。咲雪の拳は、新井のそれよりも早く彼の腹にめり込む。
「ッ……へっ、分身はもう種切れかい?」
 決して小さなダメージではなかったはずだが、新井は虚勢を張ってニヤリと笑う。
「こっちの番だ!」
 くの字に折れた体勢から、テンプルを狙った右フック。だが、それはアリスの想定範囲内だ。
「敵行動予測、軌道上に攻撃が来るわ」
「……ほい」
 アリスの予測に従って咲雪は最低限の動きで攻撃を躱し、新井の顔面にカウンター気味のアッパーを叩き込む。
「……『毒刃』も、種切れ」
 二度の攻撃に込めた『毒刃』は新井には効かなかった。だとしても、既に相当のダメージを負っているはずだが、新井はまだ膝を折らない。
「へへ、大したことないね……まだピンピンだ」
「……」
 軽口を叩く新井の顔に、咲雪は容赦なく追撃を打ち込む。既に躱す力もないのか、新井はそれをまともに食らう。反撃の気配もない新井にもう一発。だが、新井の狙いはそこにあった。
「よかったぜ、掛かってくれて……」
 KO寸前の体が凄まじいスピードで動いた。無防備に攻撃を食らいながらの『トップギア』。この一撃に全てかけた新井の打ち下ろすような左フックは、一瞬といえどアリスの行動予測を上回り、初めて咲雪のテンプルを捉えた。
「咲雪!」
「へへっ……」
 アリスの緊迫した声と、新井の不敵な笑い。だが、結局そこまでだった。
「……お終い」
 前掛かりになった新井の顎を、咲雪の拳が打ち抜く。
「うっ……」
 意識が闇に沈む。体が膝から崩れ落ち、前倒しになった新井は、咲雪の豊かな胸に顔を埋めた。
「ん……」
 咲雪はそれを無造作に突き放し、倒れた新井の足を掴んで引きずる。頭が河原の石にガンガンぶつかっているが、気にした様子はない。亜主羅慧留のメンバー達は、慌てて自分たちの大将を救出に向かった――。

●告死天使の最後
「約定を違える事は無いでござるな?」
 東出のケアレイで目を覚ました新井に、小鉄がそう念を押す。
「しつけえなぁ、偽忍者は……男に二言はねえよ」
「偽じゃないでござる。失礼な奴でござるなぁ」
「あんた力技ばっかで忍者っぽくねーんだもん。まあそれはいいや……咲雪!」
「……なに?」
「今日から亜主羅慧留の頭は咲雪、あんただ」
 神妙な面持ちで言う新井に、咲雪は怪訝な顔をする。だが、次の言葉でその意味を理解した。
「亜主羅慧留をどうするのも――あんたの自由だ」
「……ん」
「最後の仕事を頼む」
「……分かった、解散」
 咲雪は眠そうな顔でぞんざいにそう宣言した。
「軽いなぁ……」
 新井は一瞬呆気にとられたが、すぐに気を取り直すと、集まった手下達に向き直る。
「聞いただろうお前ら! 今日限り亜主羅慧留は解散だ! 今後つまらねぇまねして俺の顔に泥を塗るような奴が居れば、誰だろうと叩きのめす!」
 こうして、関東一円に勢力を築いた暴走集団亜主羅慧留は消滅した。

「おぬしらは強い、そしてもっと強くなる。だから、力を向ける先を見失わない事じゃ」
「弱腰も、逃げる勇気も、チームには必要な事、です。バトルメディックとして、チームを支えて下さい、ね」
 元・亜主羅慧留のメンバーに、椋と隼人が激賞の言葉をかける。確認したところ、6人以外にリンカーは居ないようだ。亜主羅慧留がヴィランとなる可能性は、最早ないだろう。
「ええっと……では、皆さん改めてよろしくお願います……ですね」
 蘿蔔はそう言ってお辞儀する。
「こちらこそ、よろしく頼む」
 達川がそれに応え、すっと手を伸ばす。その手を取ろうと蘿蔔も手を伸ばすが、達川の手が向かった先はレオンハルトの方だった。
「え……? あ、ああ……よろしく」
 予想外の握手を求められたレオンハルトは、やや困惑気味に達川の手を取る。どうやら達川は、自分と対峙したのがレオンハルトだと勘違いしている様だ。
「……私、そんなに目立ちません?」
 蘿蔔はいじけた様子でそう呟いた。
「もう暴走なんてしちゃだめよっ、私たちが暴れる場所はちゃーんと別の所にあるんだからっ!」
「まだ暴れ足りぬのなら拙者の修行に付き合うが良いでござる……確か近くに山が」
「待って、こーちゃんこの子たちを何処に連れていく気!?」
「また喧嘩したなったら歓迎やで♪」
「受けてたつ!」
 小鉄や紅代達も口々に歓迎(?)の言葉を口にする。今日は戦った相手だが、明日からは同じHOPEのエージェントだ。不安も多いが、正しく導けば多くの人を救うリンカーに成るだろう。
「若い奴らは元気だね……」
 その輪から少し離れたところで、マックスは気怠げに呟く。夕日が長く影を伸ばす。残照というには遠いが、昔のように陽は高くない。輪を外れた人の中に、咲雪の姿があった。どうにも眠そうな顔の彼女に、マックスは苦笑いして言う。
「おまえは、そうでもないみたいだけどな」
 喧噪を眠そうな目で眺め、亜主羅慧留最後の総長は、一つ大きな欠伸をした――。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
  • ヘルズ調理教官
    虎牙 紅代aa0216

重体一覧

参加者

  • 挑む者
    秋津 隼人aa0034
    人間|20才|男性|防御
  • ブラッドアルティメイタム
    aa0034hero001
    英雄|11才|男性|バト
  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • ヘルズ調理教官
    虎牙 紅代aa0216
    機械|20才|女性|攻撃
  • エージェント
    ニココ ツヴァイaa0216hero001
    英雄|12才|女性|ドレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 晦のジェドマロース
    マックス ボネットaa1161
    人間|35才|男性|命中
  • 朔のヴェスナクラスナ
    ユリア シルバースタインaa1161hero001
    英雄|19才|女性|ソフィ
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