本部

【白刃】領域に臨んで

蘇芳 防斗

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/16 18:44

掲示板

オープニング

●白き刃へ抗う為に
「総員、準備はよろしいですか?」
 映像で、音声で、出撃して往くエージェント達にオペレーター綾羽璃歌が声をかける。
「H.O.P.E.東京海上支部としては初の大規模作戦。それに伴い、今回皆様には別働隊として動いて頂きます」

 展開されたドロップゾーン。
 そこから溢れ出す従魔、呼び寄せられる愚神。
 別働隊はそれらを叩き、これ以上のゾーン拡大を防がねばならない。

「大規模作戦の成功……アンゼルム撃破の為にも、皆様の任務遂行が必須となります――どうか皆様、御武運を!」


「今回の作戦は至極単純です。展開されているドロップゾーンのこれ以上の拡大を防ぐ為、その内部から侵攻してくる愚神に従魔の群れを討伐する……ただそれだけです」
 場所は変わり、生駒山近郊……H.O.P.E.東京海上支部を後に駆けながら、ジェイソン・ブリッツ(az0023)は揃い駆ける皆へ足を止めぬまま、今回の作戦概要を話すがそれは彼が言う通りに至ってシンプルなもので。
「その引き際については皆さんに一任します。ただ、敵の狙いがドロップゾーンの拡大である以上、可能な限り長く戦い続けて敵の侵攻は阻止し続けなければなりません」
『やる事は単純だけど、皆の実力が試されるね!』
 とは言え、だからこそか、その彼の傍らを駆ける、リラ(az0023hero001)はと言えば続く彼の話が一段落着いた後でそう言葉を続けるから頷いてジェイソン。
「それに加え、私達が配置される場所は比較的見通しの良い山腹となります。罠等の仕掛けも事前に準備出来る時間なく、戦場に辿り着けばすぐに戦闘となります」
 これから一行が向かう戦場について今度は話を及ばせるなら確かに、彼女の先の言葉を真に的を射るものだと皆、確信する……真っ向からの衝突、個々の能力では恐らく勝るも数で言えば明らかに分が悪く、可能な限り長い時間に渡り戦線を保持しなければならない事から否応なく消耗戦を強いられる。
「……本当に純粋な力勝負、と言う事ですね」
「それもそうだけど、どれだけ長く戦ってどのタイミングで撤退するか……」
「当該区域には私達を端に後続のリンカーが多くやって来るので、そこまで戦線を保たせる事が出来れば先行する私達としては十分な時間稼ぎにはなるでしょう」
 それ故、皆から上がる声にしかしジェイソンは朗報も語る。一行がカバーする地域は広い範囲でないとは言え、これだけの数で防衛しろと言うのは無理も甚だしいのは指揮を執る者からしても火を見るより明らかだから当然の配慮とも言えよう。
『そもそも、本来の目的は別働隊がアンゼルムの展開しているドロップゾーンを壊す事だからね!』
「それを果たす為にも私達は私達で出来る事をやらなければなりません……個々にかかる負担は非常に大きなものとなりますが、それでも皆さんのお力を貸して下さい」
 そして続き響くリラの言葉、その主目的。そしてその最後、ジェイソンは非常に困難な作戦だからこそ厳しい戦況である事を確かに告げながらも皆を見回しては今更だからこそ、そう言うのだった。

解説

●目的
後続部隊が辿り着くまで、従魔の侵攻を阻止し戦線を保持せよ!
 後続部隊が辿り着く前の撤退となっても失敗とはなりませんが、戦果によって成功度は変化します

●状況等
木々等の障害物や遮蔽物の類が殆どない、開けた山腹での戦闘となります
傾斜はまだきつくはありませんが、山頂からの侵攻となる従魔に地の利はあります
(但し、攻撃に際して極端なペナルティを被る訳ではありません)
但し、皆さんと衝突する敵勢はその殆どが従魔で愚神は一体だけしかいない事から、小細工は弄さず正面からの衝突が殆どである事と、皆さんがその場にいる限り別段何かをせずとも従魔の群れは皆さんへ殺到してきます

後続部隊の到着はおよそ6時間と見込まれていますが、その道中で何らかのトラブル等あった場合はその到着は遅れます(早くなることはなく、完全にランダムな要素となっています)
尚、後続部隊が到着しても余力があれば戦闘を継続して頂いても構いません

●名もなき愚神×1
ミレース級の愚神で、それほど強い力を持つ個体ではありません
ただ、スライムの様な不定形の体を持ち非常に打たれ強く体を伸長させては遠近問わずトリッキーな攻撃を仕掛けてきます

100匹に近い従魔の群れを率い、包囲するH.O.P.E.のリンカーを突破するでなく多く打ち倒す事を優先して行動します

●従魔の群
生駒山に生息する虫の類に憑依し、巨大化したものです
その能力は憑依した個体により様々で持つ能力こそ強化されていますが、それ以外の特殊な能力や技能等は獲得していません

尚、行動方針は名もなき愚神と同じく主たるそれを倒しても撤退する事はありません

●その他
ジェイソン及びリラに関して、その行動は皆さんが決めた方針に従って行動します
特別、何かしらの指示等あればその際はお手数ですがプレイングにてご指示頂けます様にお願いします

リプレイ

●数の暴力を前に
 生駒山に展開するアンゼルムのドロップゾーンを砕くべく、その陽動と湧き出す愚神に従魔を排除すべく緑が茂る道なき道を疾駆するエージェントのその数、十と八。
『結構険しい山道だね、皆大丈夫?』
『問題はない』
 これから相対する敵の総数を知りながらそれでも、リラ(az0023hero001)が響かせた声は普段と変わらず純粋なものならそれに応じる、Ebony Knight(aa0026hero001)は魔道式駆動鎧殻と言う存在でありながら確かに、人と同じ意思をもって彼女に応じる。
『ルビナス君……こんな道なのに、凄いね』
『この程度、メイドとしては当然の嗜みです』
 だが彼の様な英雄も珍しくはないから、ミアキス エヴォルツィオン(aa0188hero001)が次いで口を開けば一見動き辛く映るメイド服を纏う、ルビナス フローリア(aa0224hero001)は意に介した風なく平然と応じる……彼女にとってそれはこの世界に来てから以来、戦闘に挑む為の装束であるから一糸たりとも乱す訳にはいかないから。
「そろそろ到着するぞ」
 ともかく皆に過度の緊張は感じられないから知らず口元を緩め、月影 飛翔(aa0224)はしかし現場への到着が近いとも告げれば徐々に薄くなる木々の群の向こうへ視線を投げる。
「え、ええと、凄い数ですけど何とかしないとですよねぇ」
『何とも壮観だね。向かってくる敵は大群……気を引き締めよう』
 果たして目前の光景、群れる従魔の群を前に響く、狼谷・優牙(aa0131)の狼狽は何時もの事でそれに苦笑を浮かべてしまう、AT(aa1012hero001)の声は湛える雰囲気にそぐう落ち着いたもので彼を宥めればさてその彼の英雄、プレシア・レイニーフォード(aa0131hero001)はと言えば。
『一杯いるから一杯遊べそうなのだ♪ 一気に突撃を……』
「しないですよ……!? 私達は後ろから援護しますよ」
 優牙とは逆に楽しげな声を響かせ無茶な提案を言うものだから、それは途中で遮って彼は慌て口元を抑えれば視線を従魔の群れへ投げ……その動きに変化がない事に安堵の吐息を漏らす一方。
「いっぱいいるね……正直、自信を無くしそうなくらい。うん、でも臆したりなんかしないよ」
『大丈夫、何時も通りさ』
 セレン・シュナイド(aa1012)、その声に緊張こそ孕みながらそれでも自身を深く理解するからこそ目前に蟠る敵を前にしても怯まず機械と化した掌を握り締め、だがそんな無駄な緊張を拭う様にATはその肩を叩き宥めるなら首肯して笑みを浮かべ返す彼。
『それじゃあ今の内に頑張って数減らそっか?』
「多勢相手に殲滅戦……飛んで火にいるのがどちらになるのか教えてやらねばな」
 そんな、それぞれの様子を見てリラは安心するからこそ何度も頷けばやがて皆へ言葉を投げると、天原 一真(aa0188)が初めて声を発してはそう応じるから皆、驚きつつもだが田島に頷き応じるなら戦場へと散っていった。

 激戦が、始まる。

●領域に臨んで
 圧倒的な数の従魔に対する一行の作戦は、三班に散って相互にフォローしながら戦線を保持する事。
 従魔に思考は存在しない。一団となって待ち構えるよりは間違いなく一人一人が対応する従魔の数は分散される事になるだろうと言う、その目論見は果たして。

「あー、こりゃ凄ぇな。一騎当千っつーやつか?」
 まだ戦場へは飛び出ず木立の中を駆けながら散開する内の一班の最先、ルキア・ルカータ(aa1013)は木々の隙間から覗く従魔の群れを見て紡いだ言葉は呆れを通り越してか、何処か軽く。
『弾切れには気をつけるように。我々の戦闘力はそこに依存している』
「分かってるって。それに、俺の死に場所は暖かいベッドの上って決めてんだ。こんな所じゃ死ねねーし! 負けられねーな!」
 故に彼女の傍らを疾駆する純白のスーツに身を包んだ伊達男、モダンタイムス(aa1013hero001)が自身の英雄へ窘める様に言葉を継ぐも彼女はそれも理解するから頷き返して息を吐くなら、レオン・ウォレス(aa0304)。
「……ここで食い止めなければ、後方で戦う者達にどれだけの犠牲が出るか分からないから、な。ここが踏ん張り処だろう」
『あたし達の力は誰かを守る為のものだから。あたしも出来うる限りの手助けをするわよ、あたしの英雄さん』
 広がる戦場のその一端とは言え、ここが瓦解した時の影響も考えるからこそルキアとは違い静かにだが決意は同じだけの熱を帯びるものだから、ルティス・クレール(aa0304hero001)はパートナーの決意に応じると誓って同時。
「うんそうだね。二人とも、よろしくお願いするよ」
 揃い足を止めるなりセレンも彼に同意するから改めて二人へ向き直り頭を垂れると、その時になってモダンタイムスはある事に気付く。
『おぉ、今更ですが今回は同道される仲間がいるのですな。Ms.ルキアはボッチ属性だったと思っていたが……』
「うっせーな! 今回は余り出ねーよ!」
『それは僥倖。では、宜しくお願いしますね』
 その、大げさな茶化しにはすぐ叱咤で返すルキアだったが伊達男は別段気にした風も見せずむしろわざとらしく深々と頭を下げて詫びれば鼻を鳴らす彼女に、苦笑を浮かべる英雄二人だった。

「アリッサ、わたしたちどこまでやれるかな」
 一方、そんな三人とは反対の方へと向かった一班の中で何時もと変わらない口調ながら何処か不安げに、志賀谷 京子(aa0150)は自身が英雄、アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)へ尋ねるも。
『ここは別に倒してしまっても構わんのだろう、とか言うところなのですよね』
「その知識をどこで覚えてきたのか気になるけど……実際、それ位の気概でいかなきゃね。カガヤンもいるし、やれるだけやってみようか」
『そうですよ、京子。弱気はらしくありません』
 果たして生真面目な筈のその射手が解はと言えば茶目っ気に溢れたもので、思わず呆れる京子だったがそれでも笑える程の余裕がある事を実感するからこそ意気を吐くなら見知った、加賀谷 亮馬(aa0026)の方も見れば頷くとその彼。
「まぁ、期待に添える様に俺も頑張るとするか」
 一人早くも共鳴を成すから全身を蒼き装甲に身を包みEbony Knightと似た姿に変貌を果たした彼の表情は伺えず、けれど確かに力強く応じるならそれを見てジェイソン・ブリッツ (az0023)へ声を掛けて京子。
「ブリッツさん、ラジエルの書を貸すから使って。長期戦になるからね」
「いいんですか?」
「わたしにはこれがあるし、大丈夫」
 一冊の魔導書を彼へ託すなら尋ねるジェイソンへ、先までの不安は何処へやら長大な砲身を持つ狙撃用のライフルを掲げ応じると使い慣れない得物に彼が戸惑った、その時。
「僕には戦える力がある。だから、頑張らないといけないんだ……かかってこい。順に返り討ちにしてあげる!」
 三人の耳にしっかり飛び込んできたセレンの、共鳴によってだろう先までと違った凛と響く鬨の声を聞くなら亮馬は二人の方は見ず、しかし声を掛ければ正しく弾丸となり木立の中から飛び出した。
「行くぞ。ここは必ず、死守する」


 それを端、標的を発見した従魔は今までの場を警戒する様な動きから一転して怒涛の攻勢へと転じるなら迎え撃つ一行の内の、他の二班から見れば中央に位置する一班。
「やはり数が多い、囲まれない様に注意しろ」
 ルビナスとの共鳴を果たし長大な突撃槍を肩に担ぎながらも涼しげな声音で飛翔は僅かでも振り返って他の二人へ声を掛ければ。
「あぁ」
「はっ、はい!」
 肩を並べる一真は端的に、優牙は慌てながらとそれぞれに応じたのを確認して頷くと赤黒く染まるランスを腰だめに構え。
『ほらほら、落ち着いて落ち着いて♪』
「突っ込む、援護を頼む」
「お任せ下さいっ、二人の背中は守りますよ」
 その間、プレシアが優牙を宥めて直後に飛翔は一真と揃い吶喊する。背後からでも僅かながらに彼の雰囲気が変わったことを察し、そして響いたその言葉を信じたからこそ。
『飛翔様、上空より来ます』
 ならば容赦も慈悲もなく、金色の瞳で蟠る巨大な蝗を模した従魔の群を射抜けばそれを追従する様に正面からただ真っ直ぐに打ち貫いてしかし直後、脳内に響いたルビナスの声から一房の銀髪を揺らしすぐに頭上を仰ぎ見れば浮かぶ、巨大な甲虫の従魔を見止めたから腐臭放つ液体が注ぐより早く来た道を引き返して彼。
「助かった」
『お礼には及びません。主を支えるのは従者の務めですので』
 英雄への礼は忘れなければそつなく応じる彼女が頭を垂れる風景を思い描きつつ、共鳴した事により今は女性となりながらも変わらず黙したまましかし華やかに死神の大鎌を振るう一真と背を合わせ、従魔の群れがただ中で朱き剛槍を荒れ狂わせる。
「うん、いい調子ですっ」
『一真、抜けられたよね! 警告!』
「……済まない。そっちへ行った」
 従魔の群れの気をそうして二人が完全に引くから優牙も落ち着いてスナイパーライフルの銃爪を引いては確実に一体ずつ撃ち抜いてはその動きを止めていたが、ミアキスの確認に一真もそれは認識していたから静かにだが通る声で後方の彼へ警告を発すると途端慌てて。
「はわわわ!? ちょ、近すぎますよー!? この武器じゃ近距離戦はっ」
『でも、こんなこともあろうかとオートマチックも持ってきてたのだ♪ 遠距離しか出来ないと思わないで欲しいのだ♪』
「はっ、そうでした!」
 長大な砲身は取り回しに難があり距離を詰められれば邪魔以外の何物でないから右往左往する彼に、しかしプレシアは何時もの調子でそう声を響かせるから思い出せば彼は先程までの慌てっぷりは何処へやら、肉薄される前に懐から取り出した短銃で巨大蝗の足を撃ち抜き僅かでも動きを止めれば立て続けに銃爪を引き絞り、その動きを止める。
「出来ればこんなことは無いほうが嬉しいですけど……」
 そして半ば泣きながらも優牙はそんな言葉を漏らすが、近くにもう敵影がない事を確認すれば再び狙撃銃に持ち替え次の標的を探すのだった。

『6時間以上の戦闘と考えて、持つかい?』
 同じ頃、彼らと同じだけの従魔を自らの領域に誘引しては先頭に立つセレンとレオンの後背でルキアも巧みに立ち回るそんな中、己の内から響く伊達男の声へ応じる。
「なんとか持たせる。今までは速攻でスキルぶっぱしてたけどな。配分に頭使わねーと」
『その足りない頭で、かい?』
「……後で殴るからな。覚えとけよ」
 従魔の動きを鈍らせるべく蝗の足を吹っ飛ばしながら果たしてそう応じると、驚き交じりの口調で返ってきた英雄の声に彼女は舌打ちと共にそう応じながら間違いなく肩を竦めているだろう彼を思い浮かべるもしかしその間、二匹の蝗に迫られていてルキアは益々苛立ちを露わに、だが冷静に割り切ってその内が一匹へオートマチックに籠められた弾丸をありったけ吐き出しながら、もう一匹の攻撃へ身構えるも。
「……わりぃ、助かった」
「いいえ、無事で何よりです。まだ大丈夫?」
「あぁ、問題ねぇよ」
 襲い来る筈だったもう一匹はしかし寸で、セレンが放った拳状のライブスによって弾き飛ばされたから、彼へ小さくも手を振ってそう応じれば次いで掛けられる言葉にもしっかり応じ頷るなら彼はまた目前へ視線を戻し、恩師から教わり鍛えた拳を振るう。
「必ず、皆を守る……!」
『ふむ。君はもう少し彼の可憐さを見習った方がいいかもしれないな』
「……それよりもさっきの、お前のせいだからな」
『失礼した、いい加減に気を引き締める事としよう』
 その様子にしかしモダンタイムスは相変わらずの調子で彼女をからかうも、ルキアはと言えば彼へ噛みつき、その非を認めるから英雄も相応に応じると両足の膝から下に宿る蒼き輝きは増して。
「随分と賑やかだが、普段からかい?」
「あぁ、共鳴してもこいつが色々煩くてね……と!」
「まぁ何であれ、仲が良いのはいいことだ」
『うんうん、そうよね』
 そんな二人のやり取りを見るだけの余裕がまだあるのは年の甲か経験の差か、ともかくレオンが大鎌を振るいながら彼女へ尋ねれば、もう油断も隙も見せず飛翔する甲虫の一匹へ銃弾を浴びせながらルキアが応じるなら今は赤き長髪を大鎌と共に舞わせる彼が漏らした呟きにはルティスだけが応じるなら、我が盟友へ首肯だけ返して彼。
「それもそうだが少しずつ。押し込まれている。気を付けてくれよ」
「馬鹿だから勢いつくと厄介だな……負けずに押し返そうぜ!」
『……全く、従魔の事を言えるんですかね』
 今の情勢もつぶさに認識するからそれを言葉にして二人へ投げるなら、だが続いたルキアの言葉にモダンタイムスは溜息を零すのだった。

 時間は否応なく経過し、押したり引いたり緩急をつけながら瓦解する事無く一行は戦線を保持していた。
「……上も気にしないといけないのは面倒ですね」
 とは言え従魔の数は未だ多く、空から一行へ挑む個体も多いから纏う黒衣を捌いてジェイソンは辟易としながら、それでもラジエルの書を紐解いては白きカードが刃を放ちまた一匹の甲虫を切り裂くも、焼け石に水。
『纏めて薙ぎ払えるといいんだけどねー!』
 思考がない故の留まらない勢いにリラが苛立たしさを露わにするから、掌にライブスを収束させては構築した雷撃の槍をあえて放った上でしかし数こそ減らしても留まらないその勢い。
「まぁ今はこれが限界だ。我慢を重ねる他にない。それよりもここは、彼女のスタイルを見習うべきだろうな?」
「この程度、まだまだですよ……やっぱり中々、上手くは行かないものね」
 改めてそれを見せ、言葉を重ねてブリッツは傍らで狙撃銃の銃爪を引き絞っては少ない手数で確実に飛翔する甲虫を一匹ずつ撃ち落としている京子を見るも、当の彼女はと言えば自身がこの戦いにおける理想には届いていないから謙遜の言葉を返すも。
『また猫被ってる?』
「……うっさい」
 大群を前にしてか、アリッサは普段とは違う彼女の様子に早く気付くから何時もならからかわれる側の英雄が珍しく逆の立場でそう声を響かせると小さな声音ながらも普段の主らしい言葉が返ってきた事に微笑を零し、そして体の強張りも軽くなった事に安堵するなら。
「ここは退いてもらうぞ……!」
「それよりもカガヤン、しっかり私達でサポートしないと」
 雄叫びをあげては的確に得物を変えながら蟠る従魔の群れを切り裂く亮馬の奮戦を支えるべく、深く息を一度だけ吐いてから京子はジェイソンへ次いで言葉を投げると再び銃爪を引いては砲口からただ一発の銃弾を放ち、今度こそ間違いなく従魔の頭部を吹き飛ばした。

●偽りの神
 戦況は一進一退、一行は従魔を押し切れずにはいたがそれでも絶えない怒涛に引かず、負傷や疲労も蓄積するから僅かずつ戦線こそ後退させながらもその崩壊にも至らず……とは言え、予め告げられている長丁場を修羅が如く戦い続ける事は共鳴するエージェント達でも、叶わない事。
「ところで、その紅茶はどこから?」
『嗜みです』
 共鳴を今は解いた飛翔の問い掛けに、ルビナスは答えならざる答えで応じながら手際よく淹れた紅茶を皆へ振る舞っていて……詰まる所、休息である。
 三班を作ったのもこの為。確実に従魔のその数を減らしているからこそ、それが例え僅かでも今なら休む暇があると判断したから一行の内、今はその三人が木陰で息を抜く。
「……今のところは、俺達の勝ちか」
『そうねー、でも愚神がまだ捕捉出来ていないから気は抜けないかな』
「どっ、どこにいるんでしょうね?」
 紅茶もそうだが、ティーカップまでも出て来た事に内心でだけ首を傾げながら一真はその相伴に預かりながら呟くと、応じてミアキスも彼に続いて紅茶を啜ればその美味に人懐っこい笑みを零すもそれを聞いた優牙はと言えば声だけでも震わせて。
『んー……でもそろそろ、出てきそうな気はするよね♪』
 だからそんな彼をお約束の様に茶化すようにプレシアが言葉を続けるからいよいよ身震いする優牙だったが、そんな彼へ飛翔は努めて冷静に声を掛ける。
「まぁ皆がいる。優牙一人で相手にする訳じゃないからそう気負うな」
「余り休息が長くては気が萎える。そろそろ出るぞ」
『全くせっかちなんだから!』
 それを聞いて安心したからだろう頷き一つだけ返して彼が応じるなら次いで響いた一真の声に非難の声をあげるミアキスと揃い、優牙は残るルビナス手製の弁当を頬張った。

 戦意は上々、勇んで飛び出した三人と入れ替わって休息を取るのは京子達。
「ちょっとした事だけど、それでも気分は変わるわね」
 予め考慮していたからこそ準備していた簡単な手製の弁当にチョコレートを皆へ振る舞いながら、自身はチョコを口に放りその甘さに頬を緩めながら楽しげにそう呟いて。
「そうだな」
 とは言え亮馬の返事はそっけないもの……過去、愚神の襲撃に遭い機械の両眼両腕になってから能力者として覚醒したならば、未だ戦場のどこかに愚神がいる事を考えるだけでも応じられるだけまだ冷静であり、そう言った過去こそ知らないながらジェイソンがその彼の代わりに感謝を告げる。
「ささやかでもこの配慮、ありがとうございます」
「気にしなくても……」
 そうしてサンドイッチを一口齧り笑えば、それに京子も応じたその途中……ざわりと不意に、だが確かに三人は『それ』を何となくでも感じた。
「……空気が変わったか」
「いよいよご登場、って事かしら?」
「ミレース級とは言え、気を付けましょう」
 ならばと昂る気のまま真っ先に立ち上がる亮馬、得物の状態を再確認しながらそう呟けば二人も手早く場の撤収を済ませ彼に続けば、再び戦場へと臨む。
『気負うなよ。お前の刃ならば或いは……』
「分かってる」
 乾いた土を蹴り、赤き諸刃の直剣を構えながら疾駆する亮馬へEbony Knightは改めて信頼するからこそただ一つだけ注意を促せばただの一言と一つの頷きだけ返して彼は抱く激しい闘志を迸らせる様、大剣を閃かせては眼前の従魔を切り伏せた。

 そして『それ』は最初に休息を終えていた一班が、より近くで確認していたからレオンは肩を並べ前線を保持してきたセレンへ癒しの光を放ち、失った命の一端を回復する。
「あっ、ありがとう」
「……気にするな、俺はおかげさまで割にタフだからな。愚神が出張ってきた以上、セレンもルキナもここで倒れられたら戦線の維持が難しくなる」
 ただ単体とは言え愚神である以上、慢心出来る筈もないから彼が響かせた言葉に偽りはないが、それよりも。
『仲間想いは結構だけど、無理だけはしないでよ』
「あぁ。優先順位を間違えるつもりはない」
 ルティスが漏らしたその言葉が核心にあるからこそ取ったその行動に、彼は頷き返す。
「……頭たるこいつを潰せば、少しでも従魔の動きは鈍るかもしれない。どのみち潰さなくてはならぬならば、全力で撃破しよう」
 故に率先して先頭に立って彼は今まで揃い戦い続けた二人へ言葉を投げれば改めて『それ』へ視線を投げる……話の通り、巨大な体をうねらせてはその形を柔軟に変える、不定形なゲル状の愚神はあちこちから触手を伸ばしては大地へそれを突き立て一行目掛けて猛進してくる。
「あぁ、分かってる! で、愚神には波状攻撃だっけ? どうやるんだ?」
『もう少し視野を広めなさい。いつも突撃ばかりしているからだ』
「なっ、何だよ。何とかするよ。俺もやりゃ出来るんだって!」
 それをルキアは見止めながら、しかし内心では慌てているのか応と返しながらも次の手に逡巡を覗かせるから、静かにでも伊達男に珍しく真面目な調子で叱咤されるなら殊更慌てる彼女へセレン。
「ルキアさん、愚神の気を引きながら少しずつ引きましょう。いずれ皆さんも駆けつけますから、その時に全員の最大火力をぶつけます」
「そうだな……が、少しずつでも削らせて貰おうか」
 レオンと揃い、後方支援に徹する彼女の所まで下がってはそう穏やかにこれからの指針を明示するなら漸く落ち着いたのか、首を縦に振り返すならレオンも頷いてしかしライブスで構築されたメスを創造すると勢いの止まらない愚神をギリギリまで引き付け、それを投擲しては穿てばその表面へ癒えない傷を残し、体液をとめどなく垂れ流させるなら。
「あの大物を何とかしないと、ですよねー……うう、対処出来るといいのですけどもっ」
 彼らとは別の方から愚神へ迫る優牙、遠目からでもそれを目前に彼は当然ながら狼狽するも従魔に愚神はそれを気にする筈もないから侵攻の勢いを止めない。
『全く、羽虫程度が邪魔をしないで頂きたいものです』
 だがそれでも自らの意思を示す様、迫る従魔を切り裂いては道を切り開く飛翔。安定した涼しげな口調で苛立ちを紡ぐルビナスに同意するから朱きランスを尚も鋭く振るっては豪風と化し、只管に前進し。
「狙う敵が複数……それなら同時に狙うだけですよっ」
 優牙は先程の狼狽から早くも立ち直ったなら道を切り開く二人の後ろから更に三匹の大蜘蛛を同時に狙い撃てば、その悉くの足を撃ち抜き動きを阻害する。
「……やれば出来るじゃないか」
『ほら、あともう少しだよ!』
 例えそれが僅かな抑止でも一真からすれば十分な貢献だから、ライブスを切り裂く一撃で体勢崩した大蜘蛛のその一匹を昏倒させれば一瞥だけして彼を称賛してはミアキスに言われるまでもなく、飛翔と揃いただ前進する。
「狼狽えるな! 戦える限り、俺達に負けはない!」
『単独での深入りは禁物だ。我等は一人ではないぞ』
 そして出遅れた三人の亮馬達だったが、それ故に愚神の前に立ちはだかる従魔の壁は薄く、だからこそ突出しがちになる彼へ嘆息を漏らしながら宥める漆黒の英雄だったが。
「道は私が作ります。二人は愚神への攻撃に注力を」
「……分かった」
「お願いするわね!」
 それに亮馬が僅かでも速度を緩める前、自らの信条を示す様に二人へジェイソンがそう声を掛けるから彼はもう止まらずやがて愚神の前へと躍り出て、その亮馬へ伸びる太い触手を京子が狙撃して頷きだけ返すなら蒼き英雄はただ攻撃へ没頭する。
「終われよ、この一撃で!」
 そして猛進する勢いに全体重を乗せた大剣を鋭くも力任せに振るえば、その巨躯を深々と切り裂いて初めての致命打を被った愚神は身悶えする様に全身を大きく戦慄かせるも、だがしかし深い傷こそなくとも負傷と疲労の蓄積に亮馬もまた体を泳がせ。
「持って行け、俺の全身全霊を……!」
『守ったら負ける! 攻めろ!! ってね!』
「小細工は抜きだ」
 そんな彼を見たからこそ殊更に自身へも言い聞かせる様、言葉で払って一真はミアキスの後押しも受ければ殊更に鋭く重いライブス籠めた一刃を亮馬に続き振るうなら、愚神の巨躯を大上段から切り裂き。
「そこ、狙い目なのですよー! 冗談言ってる余裕は余りないのですけどっ」
『あなたの急所にストライク! なんちゃって♪』
「せっかく拾った命なんだ。どこまでも生き抜いてやるぜ!」
 止めどなく垂れ流される体液にしかし愚神は厭わずむやみやたらと触手を伸ばし一行を襲うも、その嵐に今は怯まず優牙は愚神の中心を冷静に狙っては撃ち抜くと僅か一瞬でも動きを止めゲル。
「この拳で、お前を打ち砕く!」
『セレン、あなたの拳なら必ず届くわ』
 その間隙を逃さず、腰だめに構えた己の機械が拳に全ての闘気とライブスを込めてセレンが愚神の眼前へ躍り出るなら優牙が貫いた一点をATが祈りと共に打ち据えるのだった。


 それから……やがて後続の部隊が到着し、展開の間に状況の報告を済ませて一行は残る従魔の掃討を託し戦線から離脱する。
「……最低限の仕事はこなせたようで何よりだ。更なる精進が必要だな」
『お疲れ様、レオン。それと皆も。きちんと身体を休めて次の戦いに備えましょう』
 従魔の六割程を屠り、愚神まで討伐した事に勝利を確信したからレオンはそう呟きながら、しかしその成果でよしとはしないから言葉を続ける彼へルティスは労って後に今、皆がすべき事を告げれば飛翔も頷き応じる。
「そうだな。今は勢いが乗っているだけで疲れは溜まってるんだ。後は後続に任せよう」
『皆様お疲れ様でした。お食事とお飲物を用意いたしますので、帰ってゆっくり致しましょう』
『うん、それはいいね。ご相伴に預かろうか、ねぇセレン』
「そうだね」
 それに完璧メイドのルビナスも続き、皆へそう提案するならATの賛同にセレンは頷き皆も漸く表情を緩めるその中。
「どうしたの?」
「白銀の騎士、か……」
 一人、歩を止めて生駒山を仰ぎ見る亮馬に京子が何事かと尋ねれば彼はポツリ、言葉を漏らすのだった。

 まだ、戦いは終わっていない。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224

重体一覧

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • 元気なモデル見習い
    プレシア・レイニーフォードaa0131hero001
    英雄|10才|男性|ジャ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • うーまーいーぞー!!
    天原 一真aa0188
    人間|17才|男性|生命
  • エージェント
    ミアキス エヴォルツィオンaa0188hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 屍狼狩り
    レオン・ウォレスaa0304
    人間|27才|男性|生命
  • 屍狼狩り
    ルティス・クレールaa0304hero001
    英雄|23才|女性|バト
  • マグロうまうま
    セレン・シュナイドaa1012
    人間|14才|男性|回避
  • エージェント
    ATaa1012hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • ひとひらの想い
    ルキア・ルカータaa1013
    機械|14才|女性|生命
  • エージェント
    モダンタイムスaa1013hero001
    英雄|32才|男性|ジャ
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