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【白刃】殲滅の刻
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最終発言2015/11/05 19:55:37 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/11/03 19:37:26
オープニング
●白き刃へ抗う為に
「総員、準備はよろしいですか?」
映像で、音声で、出撃し往くエージェント達にオペレーター綾羽璃歌が声をかける。
「H.O.P.E.東京海上支部としては初の大規模作戦。それに伴い、今回皆様には別働隊として動いて頂きます」
展開されたドロップゾーン。
そこから溢れ出す従魔、呼び寄せられる愚神。
別働隊はそれらを叩き、これ以上のゾーン拡大を防がねばならない。
「大規模作戦の成功……アンゼルム撃破の為にも、皆様の任務遂行が必須となります。
——どうか皆様、御武運を!」
●拡大を防げ
『あなた』達は、中腹を目指して歩いていた。
目指すは、生駒山の中腹にある公園……ドロップゾーン拡大を防ぐ為、従魔達を撃退する必要がある。
既に危険地帯である為、一般人の立ち入りは勿論、付近まで送り届けたH.O.P.E.職員ですら安全地域で予備戦力とともに待機している状態だ。
「中腹を押さえられれば危険であるだろうことより、彼らは打って出てくるだろうとのことでしたね」
夜神十架(az0014hero001)と共鳴している剣崎高音(az0014)は職員の見解を述べる。
中腹にある公園へは有料道路で向かうもの……今歩いているこの道路の先にあるが、生駒山の中腹に位置している為、アンゼルムは黙っていないだろう。
今までの傾向からして、自分の思い通りに振舞うのは好きでも、こちらが思い通りに、アンゼルムの楽しみにもならない振る舞いは好きではないようだから。
だからと言って、相手の好みに合わせて行動してやる必要などない。
ドロップゾーン拡大防止の為、動くのみだ。
「……そうね、十架ちゃん。私もそう思うわ。皆で頑張りましょう」
会話の合間に十架と話しているらしい高音は、彼女へ言い聞かせるように呟いている。
姉妹みたいだ、と微笑ましさを覚えたのも束の間、『あなた』達は、自分達の思惑通りの展開になったことに気づく。
「中腹まで到達出来ると思っていただいては困るな」
蹄の音を鳴り響せたのは、黒馬の下半身を持つ青年愚神。
識別名『アレス』、推定はケントゥリオ級とされている。
アレスに従うようにいる従魔が何体もおり、場所的に脇の木々にも伏兵はいると思っていいだろう。
ゾーン拡大の為に敢えて釣るかのように中腹を目指したが、ケントゥリオ級が姿を現すとは……ある意味幸運だ。
ここで討伐すれば、十分効果が出る。
『あなた』達は、戦闘準備を整えた。
……殲滅の刻だ。
解説
●目的
・敵の全撃破
●戦闘場所
・生駒山にある有料道路上
道路はある程度開けていますが、道路脇は木々がある為、伏兵が想定されます。
●敵情報
・ケントゥリオ級愚神アレスx1
大剣攻撃の他、思念操作で複数の短剣(射程8)を攻防に用いる。
力・命中・移動力が高め。回避があまり高くない。
1ラウンド消費で次の攻撃威力を倍化させる能力を持つ。
※ゾーンルーラーではありません。
・デクリオ級従魔ハヤテx5
子鬼のような容姿をした従魔で腕にブレードのような刃がある。
力はそこそこだが、移動力・回避・命中が高め。
全力移動してもそのラウンドで攻撃出来る能力を持つ。
・デクリオ級従魔チェイx3
細長い黒い人型の従魔で両腕が銃となっている。
移動力・回避は低いが、命中やや高めで防御力が高い。
命中率半減するが、1ラウンドで片腕の銃から30発の掃射攻撃を行う。
使用後、10ラウンドその腕で銃撃は行えない。
下記PL情報
・デクリオ級従魔サイカx5
黒いローブを羽織り、中の姿は見えない従魔で両腕が銃(射程15)となっている。
移動力・回避は低め、命中が高い。
意図的に跳弾させる能力を持つ(跳弾は通常より威力低下での不意打ち判定)
・デクリオ級従魔エンx2
30cm物差し程度の大きさの空飛ぶ子鬼。
移動力が高い以外自身の能力は低い。
自身を中心に30mに超音波を発生させ、範囲内の従魔・愚神の回避と命中を上げる能力を持つ。
(超音波は300ラウンド継続)
・デクリオ級従魔センリx1
迷彩柄のローブを羽織り、中の姿は見えない従魔で両腕が銃となっている。
移動力・回避は低いが、命中が高く、部位攻撃を行ってくる。
狙い動作に1ラウンド消費するが、射程30からの狙撃攻撃を行う。
●NPC情報
剣崎高音
共鳴済。指示がなければハヤテ対応。
●注意・補足事項
・危険地帯である為戦闘開始時点で既に共鳴しているものとします。
・危険を伴う任務の為報酬は多目となっています。
リプレイ
●想定の戦闘
「さて、何事も足場を固めないと物事は進みませんからね」
そう漏らしたのは、辺是 落児(aa0281)と共鳴する構築の魔女(aa0281hero001)。
彼女としてはドロップゾーンに興味はあるが、今はその時ではないと思考を切り替えている。
「先方の勢力下で迎撃されているのですから、見た通りの戦力ではない……狙撃、伏兵、後詰め……最悪罠も仕込んでいると思っておいた方が良さそうです」
推定ケントゥリオ級の愚神が来ているのだ、推して知るべし。
「あの」
敵との間合いを計るエージェント達へリーヴスラシル(aa0873hero001)と共鳴する月鏡 由利菜(aa0873)が口を開いた。
「私にも、あの愚神を倒す手伝いをさせてください」
由利菜には、愚神アンゼルムをこの手で倒す為の足掛かりを掴めるのではという思いもあった。
彼女は愚神アンゼルムに白銀の騎士という二つ名があるのが許せない……それは、リーヴスラシルの称号とほぼ同じであり、愚神がそのようなものを名乗るなどと憤りすら感じているからだ。
(『ユリナ、あまり無理はするな』)
心中を知るリーヴスラシルが気負わぬよう声を掛けてくる。
(ラシル、ごめんなさい……私の我侭でアンゼルムを倒すと決めて)
実際に由利菜自身の手で討伐出来るかどうか、それは誰にも明言出来ない。大規模作戦がどのような形の結末を迎えるかなど、誰にも予想出来ないことだ。
けれど、由利菜は、それでも自分が倒したいと願っている。
「倒すとは面白い冗談を言う。アンゼルム様の白銀を汚すまでもない」
アレスが喉を鳴らすと、それだけで由利菜はカッとなったが、夜神十架(az0014hero001)と共鳴している剣崎高音が由利菜の肩を掴んだ。
「相手はこちらの反応を見ているだけです。逆に隙を与え、目的が達成出来なくなりますよ」
(『彼女の言う通りだ、ユリナ。相手はこちらの反応を見ている……動揺は揺さぶりが有効と教えてしまう』)
リーヴスラシルの言葉にも頷いた由利菜は深呼吸し、前を見る。
「私、心が強くないから……あなたのまっすぐさが羨ましいです」
「どうでしょう? 私もまだ未熟ですから」
直後、アムブロシア(aa0801hero001)と共鳴する水瀬 雨月(aa0801)が警告の声音を発した。
「伏兵からの遠距離攻撃、注意して」
伏兵は織り込み済みである、しかし、どの攻撃手段を持った伏兵かまではまだ把握していない。
その為、雨月は敵の進軍速度を見ていた。
敵は全力といかずとも疾走してこない、特にアレスは前進すらしてこない……ならば、戦端を切り拓くのは遠距離攻撃と見ていい。
直後、不意打ちの弾丸がエージェント達を不規則に襲う。
「……従魔サイカは確実にいるみたいですね」
ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)と共鳴する鋼野 明斗(aa0553)は、先日遭遇した従魔を思い浮かべる。
周辺偵察を行うエージェントの為の陽動任務に携わった明斗は跳弾能力を持つ従魔がいたことを忘れていない。
共鳴前にもドロシーから『シャキッと!』と書かれたスケッチブックをぐいぐい押しつけられた彼は、思案するように頭の後ろをかく。
敵の勢力下である為、アルデバラン(aa0157hero001)と共鳴したカペラ(aa0157)も敵の遭遇を警戒し、脇の木々を歩いていたのだが、どれだけ速やかに従魔を見つけられるかが鍵になるだろう。
「何だか敵がいっぱいいるね! クエスちゃん!」
共鳴しているクエス=メリエス(aa0037hero001)宛に声を発したのは、豊聡 美海(aa0037)。
(『見ての通り、敵は目の前だけじゃなさそうだよ?』)
クエスの応答に、隠れてるよねと返す間もサイカの跳弾が予測不可能な攻撃を仕掛けてくる。
不意打ちの攻撃は思った以上に面倒……しかし、それ以上に最前線に陣取る黒く細長い人型の従魔が不気味だ。
両腕が銃である為、銃による攻撃をしてくるのは判るが……。
(『人数はともかく強敵揃いだ。慎重に事を進めないとね』)
「大丈夫だよ! 美海ちゃんには小さい英雄さんがついてるんだから!」
小さいと言われたクエスが反論しようとした、その時だ。
3体の、後に識別名『チェイ』とされるあの黒く細長い従魔の片腕が一斉に火を噴いた。
「ここで食い止めるよ、お姉ちゃん!」
アイリス(aa0124hero001)と共鳴するイリス・レイバルド(aa0124)が美海の隣でシルバーシールドを構え、銃撃を阻む。
自動小銃のフルオートに近く、2発3発の話ではない。
命中精度は恐らく通常のものより落ちるだろうが、3体で一斉に行えば下手な鉄砲何とやらとも言うし、何より弾幕として有効である。
「く……」
全て阻んでいるが、シルバーシールドへ命中している感触は伝わってくる。
(『頑張る女の子は好きだよ。だから頑張りたまえ。私も手伝うから』)
アイリスの言葉が響いた直後、ハヤテがチェイの後方から飛び出してくる。
(さあて、この間は顔を見ただけで終わっちゃったけど……今度は本気で相手しなきゃね。尻尾巻いて逃げたとか思われたままでいられないよ)
アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)と共鳴する志賀谷 京子(aa0150)は、彼女に語りかけるように呟く。
アレスと遭遇したあの時、当初より全体指針として慎重に任務遂行するとなっていたこと、意識不明の民間人救助があった為、本格的な戦闘をすることなく撤退したが、今回は前回と違う……本気で相手をする気満々だ。
(『ええ、京子。目に物見せてやりましょう』)
アリッサの意気込みに京子は口元に笑みを作る。
従魔サイカが厄介なことは解っている……けれど、最終目標は愚神アレス討伐ならば、その戦いのお膳立てするのが自分達の役目。
「そちらのペースで戦う訳ないでしょ」
機動力重視のハヤテの撹乱を危険視した京子がスナイパーライフルを構え、トリオ発動。
命中し、その機先を制すると、美夜(aa1678hero001)と共鳴する紅鬼 姫乃(aa1678)がスナイパーライフルで続こうとしたが、その肩が撃ち抜かれた。
跳弾じゃ、ない?
しかし、正面のチェイが撃った様子もなく、また、距離が遠い。
「狙撃ですね。既知ではないのでしょう」
落児の身体で構築の魔女が注意していたそれを言及する。
「どちらから狙い撃っているのか……次は探りますわ」
姫乃は自分の敵ならば倒すのみと前を見据える。
跳弾を音の方角で探ろうと試みていたが、敵が複数である上状況的に他の音も発生する為追い切れない。
他のエージェントが支援型と推測されるエンという超音波を発生させる従魔が目視出来ない為警戒しているが、いるかどうかまだ不明であること、超音波は周波数が高い為に能力者の聴覚であっても捉えられないものである為、その耳で超音波の発生を知ることは出来ないだろう。
「伏兵の射撃攻撃はある程度諦めた方がいいかも。今は数を減らすことを優先した方がいい」
雨月がトリオで機先を制されたハヤテ狙いでブルームフレア。
その間も紅焔寺 静希(aa0757hero001)と共鳴するダグラス=R=ハワード(aa0757)はアレスの動きを探っていた。
間合いに近づくまでは敵の防御と観察に意識を傾けていたが、遠距離攻撃での応酬から始まっている為、彼の間合いに敵がまだ来ない。
跳弾も予測出来ないようにしてくる為に特定が難しく、ダグラス自身も命中している。
ケアレイのタイミングを考慮する必要はある……味方へも余程のことがなければ優先順位は低い為、それを考慮して組み立てていく。
(指揮を執っている訳ではない……こちらの戦い方を見ている)
元々従魔とは自我を持たない存在であり、その行動はプログラム化されたロボットのようなものだ。(無論、プログラム化されたロボットと一口に言ってもそのプログラムが簡単なものであることは言うまでもないが)
相手を消耗させる、相手の戦闘傾向を見る目的がある……そうした冷静な視点を持つ相手であるが……。
(俺が満たされるかどうかは別の問題)
描く笑みは、それが出来るかどうかという嘲り。
己が渇望を満たす狂気のまま今に狂喜する狂人故に浮かべられるもの。
破壊対象に過ぎないモノが、破壊される為に間合いへ近づいてくる……!
●どこにいる
(大物とやり合う前の露払い、よね。識別名を持つ愚神と遭遇したけど、早く殴り飛ばしてやりたい)
カペラが心の中で呟くと、すぐさまアルデバランの反応があった。
(『こういった戦いでは敵の頭を落とすのは最善策だ。しかし、それが最難関でもある』)
アルデバランが説くのは、機を窺うことと目的を見失わないことだ。
手柄や武功よりもこちらの存在を気づかれないことが大事、極論愚神を倒すのは他のエージェントでも良いということ。
(伏兵もいたしね。道の中で堂々待ち受けていただけじゃなかったわね)
愚神とはそういうものが多いのか、とも思ったが、チェイの弾幕を生かす場合、遮蔽物がない場所の方が効率の面でいいのだろうと気づく。
(今の所、トラップはないわね)
罠師を発動させつつ、カペラは足元に注意しながら進んでいく。
下手に枝を踏んだり、何か蹴ったりしないようにしないと、それらが自分達の存在を教えかねないからだ。
(それにしてもどこから撃っているのかしら)
伏兵を目視次第背後から奇襲、ワンサイドで沈めるつもりだが、その伏兵が見つからない。
攻撃のビジョンは頭に思い描いていたが、伏兵の居場所を考察し切れておらず、相手が跳弾を使う為に攻撃方向から居場所を特定するのに時間が掛かっているのだ。
(邪魔になるし片付けておいた方がいいのだけど。『時間を掛けてでもなすことが重要。焦ることではない』)
アルデバランの言葉に耳を傾け、カペラはまず、居場所を探る為に全神経を集中させる。
●目的ある攻撃
サイカの跳弾が確実にエージェント達を撃つ。
「今は落ち着いて対処しよう。下手に慌てる方が負ける。雨月さんの言う通り、確実に敵の数を減らした方がいい」
京子が木々にいるであろう伏兵に意識を傾け過ぎない(無意識とは違うが)よう声に出す。
自分達同様の射手、内1体は狙撃可能と自分達と似た傾向を持つ敵がいるようだが、アリッサが『わたしにも射手としての意地があります。相手が誰であろうと敵に後れを取ったとあっては一生の恥』と士気も高い為、止めるつもりもない京子はその士気の高さを皆の力に足し、勝利を呼べればと思う。
京子がトリオで攻撃したハヤテが一旦後退したのに合わせ、チェイが別の腕を向けた。
(『止まって!』)
クエスの警告と同時に美海は足を止め、ライオットシールドを正面にし、掃射攻撃に備える。
直後、サイカの跳弾が側面から当たるが、今の優先順位は正面の掃射への対処だ。
(『孤立しないことが大事、集中砲火を喰らい易いよ。でも、固まり過ぎても駄目、範囲攻撃の被害が大きくなり易い』)
突出してきた者を狙うであろうアレスを警戒し、エクスが注意を促す。
前衛はアレスとハヤテ以外いるようには見えないが、その分射手が目的別に展開されており、火力で押し切る目算……というのがエクスの見立てだ。
掃射攻撃を耐えた直後、ハヤテが疾走してくる。
所謂全力移動に見えるが、攻撃態勢に入るまでに間があるのではなく、すぐに攻撃態勢に入れる辺り、ハヤテの能力は一見すると大したことはないが機動力を活かしたもののようだ。
そのハヤテに向かい、間合いに入ったと判断したダグラスが踏み込む。
重要なのは、発勁の概念……最小の動きで最大の成果を挙げることにある。
膝の力を抜いて前へ進み、相手へ攻撃のリズムを読ませないよう注力しつつ、地を軽く蹴って落下の威力も乗せるようにグリムリーパーに叩き込もうとし、その肩にアレスの短剣が突き刺さった。
宙は無防備になり易く、ハヤテへの攻撃を行おうとしていた為回避が間に合わず、ダグラスがそれを抜く前に短剣はアレスの元へ戻っていく。
(まだ前に出ていないから大剣と短剣が同時使用可能か判らないね)
ダグラスを援護するように銀の魔弾で援護する雨月は冷静な分析を怠らない。
別のハヤテへは由利菜と高音が組み、ハヤテへ当てること重視で攻撃している。
リンクコントロールを用いつつ、まずは全滅させる為の個別撃破狙い……これは由利菜の英雄リーヴスラシルが由利菜へ特に突出しないよう言い含めているのもあるだろう。
「どうです?」
「エンはいると見ていいでしょう」
ケアレイを発動させた明斗が一旦後退して、落児へ問うと、そう返答が返ってきた。
「サイカの跳弾はこちらにとって不意打ちに等しいので考察の対象外ですが、狙撃精度の高さとハヤテの回避や命中精度も先程より上昇しています」
それと、と言葉が続く。
「あの正面の初見の従魔の掃射……弾幕として脅威ですが、使用後一定時間連射を行った腕が使用不能になるのではないでしょうか。2度目の連射は異なる腕、その後攻撃をしてきていません」
「エンがいるなら命中率も上がっているでしょうし、負傷しているハヤテを優先的に攻撃して数を減らし、早期対応が必要そうですね」
明斗も応じながら、落児同様グレートボウを構える。
アレスが徐々に援護し出しているなら、行動妨害をしないと回復が間に合わない。
サイカの跳弾能力に悩まされている現状だが、浮き足立っては思う壺だ。
「ここが正念場だから頑張らないとね!」
注意すべきことが色々あると漏らしていた美海は盾を構え、辛抱強く前へ進んでいく。
京子が足を撃ち抜き、体勢を崩したハヤテへグラディウスを振るい、攻撃を叩き込む。
けれど、その立ち位置はチェイの射線上であるのは変わらない。
サイカの跳弾能力が脅威ならば、それ以上は許してはならないとチェイの連射能力への対応を考慮しているのだ。
後衛を守るのも大事な役目……遠距離攻撃重視の状況に柔軟に対応しなければ。
「お姉ちゃんの教えひとーつ! 盾で攻撃の起点を作れ」
美海のすぐ近くでは、姫乃の援護を受けてイリスが別のハヤテへ対応している。
速度重視の従魔であると判ったなら、その攻撃を受け止め、そこから相手の速度を潰しにかかる作戦へ出ていた。
ハヤテもその作戦に対応するようにバックステップで間合いを取ろうとするが、その着地点を狙い、明斗がグレートボウを射てくる。
「相手の足を止めれば、力押しに持っていける!」
明斗が作った隙を逃す筈もなく、携えたライオンハートを鋭く振り抜く。
速さと攻撃直後の身体のバランスを保つことも心掛けていた上、その攻撃直後の隙を縫うように姫乃が追撃した為、反撃はない。
イリスがハヤテへ仕上げの一撃を放った直後、由利菜と高音もハヤテを倒し、美海も京子の援護で続き、ダグラスが雨月の銀の魔弾で弱らせていたハヤテを仕留めていた。
「これはこれは」
「前哨戦だけで、H.O.P.E.の戦力層を計れると思わないでください!」
アレスの言葉に由利菜が睨むが、アレスは喉を鳴らした。
「白銀の騎士たるあの方の力も分からないのに、随分吼える」
由利菜がアンゼルムを白銀の騎士と呼称したことに思わず嫌悪の表情を浮かべると、アレスは更におかしそうに笑った。
「先程から随分気にしているようだが、自称白銀の騎士でもいるのか? 同じ名を名乗られてアンゼルム様も迷惑だろうに」
「白銀の騎士は、愚神如きが名乗っていい名ではありません!」
殆ど反射的に叫んだ由利菜の隙を、敵は逃してくれなかった。
チェイ3体の片腕が、再び火を噴く……!
「危ない!」
その言葉と同時に由利菜の前に美海、イリスがハイカバーリングを発動させた。
攻撃を肩代わりした2人はそれぞれ盾で連射に対応するが、ハイカバーリングは『攻撃を行った相手』、つまり『単数相手』対象である為、2人が肩代わりしているのは、2体のチェイ、残り1体の連射はそのまま由利菜へ向かい、幾つか貫く。
「援護お願いします」
「分かりました」
明斗に応じた高音が残り1体のハヤテから由利菜を守るべく前へ出る。
ハヤテが残り1体である為、対応をこちらへ任せたエージェント達がチェイ、その後方にいるアレスへ向かっていく。
「アレスは最後! 余所見をして戦える相手じゃないよ」
雨月の注意が飛ぶ。
チェイの後方から動かないアレスは射程範囲にエージェントが来た場合のみ思念操作の短剣で攻撃してきている。
アレス対応の為にチェイを無視すれば、その掃射が背後から襲い掛かってくる……命中精度が低くとも背後に敵を置く必要はない。
「見える者がいるか」
アレスが雨月の言葉を聞いて、アレスから一旦チェイへ攻撃目標を変えたダグラスを見る。
少し後退したのは、落児がアレスの援護を最小限に抑える為、粘り強く攻撃していることによるもの、回避し易い攻撃を行うことでわざと回避させ、アレスと従魔達の連係遮断に成功していることを示している。
「ですが、少し消耗してきましたね」
チョコレートを口にし、明斗への負担軽減を行った落児は周囲を軽く見る。
少し前からサイカの攻撃が減りつつあることに落児は気づいていた。
カペラの対応が始まっているようだ。
●潜む者
時間を少し前に遡らせる。
(木々……下に潜んでいるだけが能ではなかったわね)
カペラは何度目かの跳弾で潜伏場所が木の下ではなく、木の上の可能性があるとアルデバランより指摘を受けた。
(なるほど。罠もあるしね)
移動していく内に見つけた罠は罠師があれば取るに足らない罠だが、無視も出来ないもの。
そうして最初に見つけたのは、迷彩柄のローブを羽織った見た目従魔だ。木の高い所にいる。
「面倒な所にいるわね」
跳躍、狙撃する従魔へ向かおうとし……違う角度から射撃を次々に喰らった。跳躍で気づかれたのだ。
(『優先順位を変えるな』)
アルデバランが跳弾へ意識を向けそうになるカペラへ注意を促す。
今すべきは、場所を確定させた敵を確実に討つこと。
「お仲間がいたのね」
カペラがにぃと笑う先には、小さな子鬼のような従魔。
この従魔の攻撃がなかったことを考えれば、支援型と見ていい。
カペラはジェミニストライクを発動、子鬼を一蹴してから、尚も正面へ展開する味方を狙撃しようとする従魔へ速やかに近づく。
「死ぬまで殴る、それだけのことよ」
毒刃発動、一撃で倒れなかったその従魔、後に『センリ』と識別名がついたその個体を宣言通り死ぬまで殴るカペラ。
その間も幾つか跳弾が向き、カペラを貫いた為、既に位置が知れ渡ったこと、自身の消耗の大きさより残るサイカの位置の見立てと共に彼女はアルデバランのアドバイスも受けて地へ飛び降りた。
「状況は?」
「正面はほぼ問題なく」
カペラの問いに落児が答えた。
最後のハヤテは由利菜が倒し、チェイも雨月のゴーストウィンド、イリスのライヴスリッパーを起点とした攻撃で1体落ち、残る1体も時間の問題といった所。
「木の上から狙ってるわ」
「任せて」
カペラの言葉に京子が攻撃を引き受けると、木の上へ向かってスナイパーライフルの引き金を引いた。
明斗と姫乃が京子に倣うように加勢すると、命中したらしく、サイカが木から落ちてきた。
「任せていい?」
「勿論」
最後のチェイも倒れ、アレス対応が始まることを見越した雨月が京子へ尋ねると、京子はそう笑う。
落ちたサイカが体勢を整えるよりも早く、カペラが向かっていく。
「遠慮するつもりもないわ」
カペラは、その言葉と同時にジェミニストライクを発動させた。
●殲滅の刻
「お前が俺を満たせるどうか」
ダグラスがアレスへ向ける笑みは、渇望しているが故の狂喜に彩られている。
すると、アレスが面白そうに笑った。
「すぐにでもこちら側に来そうだな。こちら側の方がその欲望を程よく満たせるだろうに」
他のエージェントと異なり、ダグラスは無傷だ。
負傷しているが深刻というものでもないと判断したダグラスは自身に対してのみケアレイを使用していた為、万全であった。
後方では、京子を中心にサイカの討伐に入っており、サイカも抵抗しているが京子の命中率の高さに加え、明斗、姫乃がフォローに入り、落下の際に体勢が崩れているのをカペラが見逃していない為、討伐は時間の問題だろう。
けれど、アレスの顔に焦りはまだない。
(侮っているのかそう繕っているのか)
雨月はアレスが油断ならないと気づいている。
遮蔽物がない場所を戦闘場所に選び、間断ない攻撃を行うことで伏兵の居場所特定の時間を作らせなかった……敵の数を減らすこと、挟撃の可能性を考えて伏兵の対応を後にしたが、その手並みがこちらへ思ったより被害を出させている。
先陣を切りがちなダグラスよりも早く、ブルームフレア発動、アレスの出鼻を挫く形となり、それを見逃さないダグラスが地を蹴った。
(短剣は必ず来ます)
落児はその考察のまま、ダグラスへの短剣攻撃を行おうとしたアレスへグレートボウを撃つ。
咄嗟にその射撃への防御をしたアレスは、ダグラスだけでなく、美海、イリス、由利菜の接近を許した。
(『落ち着いて対応することだ。見えていないだけで、それなりに揺さぶれている。陣形の維持に成功し、伏兵も暴いた。精神攻撃の勝負はこちらに軍配といった所だろう』)
アイリスがイリスへアドバイス、相手の動揺を誘うのも立派な攻撃である、と。
アレスの見え透いた精神攻撃を喰らう必要はないが、こちらが精神攻撃をするのは良い……アイリスの言葉にイリスが大きく頷き、アレスへ駆ける。
「初志貫徹! 目の前の敵に全力で!」
サイカの跳弾は警戒しても簡単にし切れるものでなかったが、それもなくなった。
基本スタイルは変えず、短剣を阻んでまるで弾丸のように突き進むと、迷いなく向かっていく。
強敵でも力と技術で喰らいつくのはアイリスの教えと全力を心掛け。
「小さいからって舐めるな!」
下半身が黒馬のアレスはイリスよりも視界が高い為、その視界を盾で妨げるのは難しい。
が、思念操作の短剣を向かわせないよう落児が妨害し、その間に美海が側面へ回り込む。
(『下半身が馬なら馬並みの機動力は確実にあるだろうね。でも、当て易いと思わない?』)
「そっか、美海ちゃん達より身体が大きいなら、ダメージ受けちゃう場所一杯あるんだね」
エクスがそう言うと、美海も殊更彼の人型の部分に拘らなくていいことに気づく。
黒馬の下半身もアレスだ、ならば疎かになりがちな場所を選べばいい。
「あ! 何かいるよ!」
回り込んだ美海は、アレスの脚の陰にいる存在に気づいた。
支援型従魔エンが隠れていたのだ、アレスが動かない理由はこれもあったのだろう。
気づかれたことに気づいたエンが空を飛んで逃げようとするが、美海の声で気づいた京子がそれを逃す筈もなく、空に浮かんだ所を狙い撃って仕留める。
「残りはこちらにお任せください」
京子が姫乃へ声を掛ける。
サイカも抵抗しているが、その数を減らしている為、時間の問題……命中率の高さを考えれば京子も早期にアレス対応へ加わるべき。
「そうね。やりたい放題になんてやらせてあげたくないもの」
(『あの時教えて差し上げられなかった射撃の腕、味わっていただきましょう』)
笑う京子へアリッサが京子へ言うと、京子は「そうだね」と言ってから、ストライクでアレスの目を部位攻撃した。
回避はあまり高くないと思われるアレスだが、京子の攻撃はサイカの対応で警戒していたらしく、何とか回避するが、跳躍したダグラスの攻撃までは回避出来ない。
短剣を纏わせるようにして大剣を構えるが、直後、風が吹き荒れる。
背後へ回り込んだ雨月のゴーストウィンドだ。
「く……」
初めて、アレスの顔に焦りらしきものが浮かぶ。
(『言った通りだったろう?』)
「全力でぇ……ぶった切る!」
アイリスの言葉に頷きながら、イリスが高音とタイミングを合わせて攻撃する。
更に落児が威嚇射撃をし、アレスの集中を乱しにいく。
「備えてください!」
アレスを妨害しながら行動を逐一確認していた落児は、短剣を纏わせた時点で強力な攻撃を予想していた。
威嚇射撃に引っかかったアレスの攻撃は精度を欠いており、その攻撃は空を切る。
その機を見逃さず、京子のストライクが目に突き刺さった。
「ほら、あなたももうすぐよ」
京子の言葉通り、サイカも全滅、エージェントの一斉攻撃が始まる。
雨月が包囲攻撃を狙う動きをしたのに合わせ、側面にもエージェントが回り込み、射手が全員攻撃直後の隙を縫う妨害に転じた。
が、アレスもケントゥリオ級の愚神だけあり抵抗凄まじい。
「脆弱な少女を騎士へと変える……それが、私の英雄の力です」
「名ばかりの騎士は屍を無残に晒せ!」
その言葉と共にブラッディランスで攻撃する由利菜へ短剣が降り注ぐ形となり、特に彼女のダメージは色濃い。
が、雨月が着目した包囲攻撃は有効なものであった。
また、落児が当初から連係を絶つこと重視で動き妨害行動が適切であった為、アイリス指摘通り内心は腸が煮えくり返っていたのだろう、包囲攻撃もあって攻撃は徐々に雑なものとなっていく。
そうした意味で、落児と雨月の動きは全体の支援として機能したものであったのだろう。
「満たすに値せんな」
ダグラスの嘲笑をアレスがどう捉えたかどうかは不明だが、最終的にタイミングを合わせた由利菜と雨月の攻撃が落児の妨害に気を取られたアレスを仕留めた。
「……」
由利菜は、アレスを無言で見下ろす。
(『確かに白銀騎士の称号は私がミッドガルドの国王陛下から賜った誇りだが、お前がこれ程奴の二つ名に怒りを露わにするとは……』)
「その名を名乗ることは、あなたを貶めることと同義です」
私の英雄を貶める者は、誰も許しはしない。
今は目の前の敵をと終始自分へ言葉を投げてくれたリーヴスラシルへそう言う由利菜は、生駒山の頂上を睨んだ。
「ですが、そろそろ撤退時でしょうね。負傷者も多いですから、ここでまた多数の敵と当たるのは得策ではありません」
明斗が余韻なく、撤退を口にする。
正面に陣取り、アレスの大剣攻撃に対処したものの、伏兵の早期発見が出来なかった為負傷者はほぼ全員だ。特に伏兵への重点対応をしたカペラ、アレスからの短剣攻撃を集中的に受けた由利菜はダメージの色合いが濃い。
現在は命に別状はないが、ケアレイは底を尽いており、そこを衝かれては一溜まりもない。
この辺りはさしものドロシーも生き残る正義を主張しているようだ。
「賛成です。ここは敵の勢力下ですから、彼らが先遣で本隊が別にある可能性も否定出来ません」
落児の言葉もあり、エージェント達は撤退していく。
(『戻ったら、まずはカレー』)
アムブロシアが小さく呟き、雨月はやっと喋ったと思ったらと溜息をつく。
「カレーは見飽きた」
けれど、そのやり取りも殲滅されなかったから行えること。
明斗がスマートフォンで先んじた報告をするのを見ながら、雨月はアムブロシアへどのカレーにするか聞いていた。