本部

語るのはいつだってこの背中

電気石八生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 6~10人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/09/28 15:02

掲示板

オープニング

●ぼくはしんじてる!
 埼玉県某所の採石場。
 関係業者の廃業によって放置され、誰も近寄らない「誰も知らない場所」として朽ちていこうとしているこの場所に、今。
 悪の笑いがこだまする!
「うぇひゃあぁぁぁっほっほっは! てめぇの大事なボクちゃン助けてほしきゃ、カネ集めてこいやぁ!」
「つまり我々はお宅の息子さんを誘拐し、身代金を要求しているわけですね」
「トモダチだったら100人だけどぉ、諭吉クンならイチ・オク・ニンだぁああああああ!」
「友達は100人作ることが目標になりますが、さておき。1億円を支払っていただきたい」
「俺サマが酒かっくらって寝て起きて酒かっくらって寝るまでしか待たねぇぞぉぉぉお!」
「支払いのリミットは……そうですね、明日の12時にしましょう。あと20時間ほどありますので、準備していただくには充分かと」
 電話の向こうから響くうろたえた声を断ち切るように、冷静な声の主は自らの言葉を継いだ。
「我々は俗に言います「ヴィランズ」です。新興勢力ですので、要求が通らなければ世間へのアピールも兼ねて思いきったことをしでかしますよ? ぜひご熟考を」
「俺サマはクレイジー・サイコだぁぁあぁあぁあぁ!」
「ボスの自己紹介でした。ちなみに私はイワタと申します。それでは明日、お会いしましょう」
 通話を終えたイワタが、町でオラつく若者から巻き上げてきたスマホを地に放り捨てた。
「ボス。いつ警察なりライヴスリンカーなりが突入してくるとも限りません。いつでも盾にできるよう、人質を手元に置いておきましょう」
 イワタの指示で、手下が人質である松尾正義(まつお せいぎ)を引っぱってきた。
「ぼくはなかない!」
 有名な地元企業の御曹司にしてママとエビピラフが大好きな4歳児が、涙をいっぱいにためた両目で悪い奴らをにらみつける。
「なんだとぉ!?」
 クレイジー・サイコ(53歳)が、腹だけ突きだす貧弱中年太りボディを震わせ、生白い腕を振り上げた。その手に握られたバールのようなものが、赤らんできた日差しをギラリと照り返す。
「このチョーおっかねぇヴィランの俺サマがぁ、怖くねぇえ!?」
「こわくないっ!」
 サイコの「ぇえ」を噛みちぎる勢いで、正義が高く叫んだ。
「松尾さん。なぜ、怖くないんですか?」
 イワタが興味深げに尋ねると。
「びらんはまける! せいぎがかつから!」
「確かに我々は悪ですが、正義――松尾さんが我々に勝つと?」
「かつ! ……もっと、おおきくなったら」
悔しそうに顔を伏せた正義だったが、すぐに顔を上げて、右手を突きだした。
 小さな手に握られたそれは。日曜日の朝に放映されている、男子向け戦隊ヒーローのマスコットだった。
「せいぎのヒーローがぼくをたすけてくれるんだ! せいぎはあくをたおすんだ! ぼくはしんじてる!」

●今だけはヒーローとなれ!
「こんな時間に呼び出しちゃってすみません。松尾氏と県警本部から、正式に正義君救出の依頼を受けました」
 大まかな説明を終えたHOPEの新人女子職員が、厳しく引き締めた童顔を巡らし、ライヴスリンカーたちに言った。
「相手がヴィランズってこともあるんですけど。……電話がですね、ヴィランズの脅迫後も、通話状態を保ってたんだそうです」
 松尾氏は聞いたのだ。小さな男の子の真剣な思いを。
 だから決めたのだ。HOPEに救いを求めると。
「戦場は採石場になります。戦うときに足場とか広さとかは気にしなくても大丈夫です。大声出しても、大爆発しても問題なし。問題は、ヒーローの登場を信じて恐怖に耐えている正義君に、みなさんがどう応えるかってことだけです」
 女子職員は静かに拳を握りしめた。
「ここにはヒーローを業務にしている人も、そうでない人もいますよね。でも、今だけはみなさん全員が正義の味方、ヒーローです」
 女子職員が小さな拳を突きだした。
「正義君に見せてあげてください。悪に負けないヒーロー――ライヴスリンカーの背中を。みなさんならできます」
 そして女子職員は拳を突きだし、ぐいっと親指を立てた。
「私、信じてますから!」

解説

●依頼
・誘拐犯10人を「あなたの個性(キャラクター設定)に合わせたヒーローらしさ」で対し、倒してください。

●状況
・救出作戦は3時から12時までの間で自由に開始できます(日の出は5時)。
・採石場の広さは直径40メートル、見通しのいい平地です。ただ、東側に崖があり、なにかに使えるかもしれません。
・ヴィランズは採石場の中央部にテントを張り、そのまわりで警戒しています。
・テントの中には正義君が、水だけを与えられて閉じ込められています。
・戦闘開始後、イワタはすぐに正義君の身柄を取り押さえ、盾にします。また、正義君と引き離されるか15ラウンドが経過すると、遠距離単体攻撃で正義君の殺害をはかります。
・ヴィランズを全員倒すと付近で待機している警察が出動、後始末をしてくれます。

●敵
・クレイジー・サイコ
 元零細企業の平社員。株で失敗し、多額の借金を負ったトラウマあり。
 武器は「バールのようなもの」で、近接単体攻撃の「縦振り」と近接範囲攻撃の「横振り」を使います。
 攻撃力は低いですが、物理魔法ともに防御力は高めです。
・イワタ
 理屈屋で、感情的言動が苦手。
 主な攻撃手段は改造拳銃による遠距離単体攻撃。近接戦闘ではナイフによる単体攻撃を行います。
 攻撃力は高めですが、物理魔法ともに防御力は低めです。
・手下8人
 ヴィランを目ざすオラついた輩。戦闘力はゼロですが、ナイフを使ってちょっと邪魔してきたりします。

リプレイ

●楽屋にて
 4時55分。
 採石場の東にそびえる崖の裏側に、10人のライヴスリンカーが集結する。
「陽動班は崖上から派手に登場し、敵の目を引きつけつつ戦闘開始だ」
 眼鏡ごしに碧眼を巡らせ、レオン・ウォレス(aa0304)が口火を切った。
「おお、サイコもイワタもボッコボコしばき倒したるわ!」
 テンションの高い大阪弁を小声でまくしたてるのは、外見年齢が一同の内でもっとも高いゼロ=フォンブラッド(aa0084)だ。
「順序と役割を忘れるな。奴らを倒すのは、手下を叩いた後だ」
 女と見まごう美貌に180センチの長身を併せ持つアヤネ・カミナギ(aa0100)が、ゼロのセリフをかき消した。
「救出担当、準備はどうだ?」
 問うレオンへ、謂名 真枝(aa1144)はうっとうしげに手を振って。
「ザコの群れに準備なんかいらないよ。きみらはわーわー大声でも出しててよ。その間にあの子を奪い返して退散するさ」
 そのイヤミったらしい口調を気にする様子もなく、ヴィント・ロストハート(aa0473)は淡々と言葉を継いだ。
「俺がイワタの気を引く。殺すほどにはうまくできんだろうが」
 イヤな顔をする真枝を「まぁまぁ」となだめつつ、ゼロが割って入る。
「狙撃担当、そっちはどうや?」
「イワタを……撃つよ」
 ぽそぽそ答えたのは、首に厚く巻きつけたマフラーへアゴを埋めて立つ今宮 真琴(aa0573)だ。
「子供を人質とか……ありえないし……」
 自分の身長とそれほど変わらないスナイパーライフルを抱える姿は、どうにも「子供」にしか見えないわけだが……。
「絶対、正義君を助けましょう。だって私たち」
 努々 キミカ(aa0002)の内気そうな顔から、はじらいの赤が消えた。
「ヒーローですから!」
 その言葉に、七城 志門(aa1084)は力を込めて。
「ヒーロー、か。未熟な俺には荷が重いかなって思うけど。でも、助けを待ってる子がいるから。俺、精いっぱいがんばるよ」
 うなずきあうキミカと志門。そのとなりでは氷斬 雹(aa0842)がひとりニヤニヤ。
「ヒーロー、かァ。ようは派手に暴れてもイイってことだよナ?」
 と。
 ここで朝日が東の果てから顔を出し始めた。
 ライヴスリンカーたちが配置につくべく崖を駆け上る。
「真琴はひとりか。気をつけてな」
 志門に声をかけられた真琴は、印籠よろしくスマホを見せた。
「なにかあったら……電話する……。みんなも、電話して……?」
 最後尾にいた草薙玄桃(aa0023)が、口の端を吊り上げて言葉を投げた。
「俺や俺や言う奴はサギだからな。かかってきたら即切りしろよ」
「……了解」
「まっ、真琴は~ン!?」
 わざわざ崖上からすべり落ちてきたゼロはさておき。
 救出劇の幕が開く。

●朝日を背負って、登場!
 採石場に朝が来た。
 白光を手で遮り、クレイジー・サイコが顔をしかめた。
「終電帰宅からの始発出社、思い出すぜぇ」
 テントの出入口を背で押さえたイワタが苦笑い。
「早いですね」
「なにがあるかわかんねぇだろ」
「そうですね。敵の襲撃があるとも限りません」
「それ、「ないとも限らない」じゃないのかい?」
 思わず素に戻るサイコに、イワタは東の崖上を指して。
「あると考えておけば慌てずにすみます。今のように」
 果たしてそこに立つものは、朝日を背負う7つの影。
「さぁ、物語を紡ごう。この瞬間より始まるエピック、その1ページめを!」
 細身の影が小気味よいポーズを決め、戦闘の開演を告げた。
「アレは俺のキャラじゃねぇ……」
 次々と語りあげる仲間たちの後ろでかぶりを振り、玄桃がつぶやいた。
「派手で格好いいだけがヒーローじゃないだろ。見せてやるさ。俺なりのヒーローってやつをな」
 伏射姿勢で待機中の真琴が、小さくサムズアップしたことに気づかず。
 その間に口上は進み、残るは雹のみ。
 そして雹は、手製のダイナマイトを起爆させた。
 ドムン! 6つの影の背後で爆炎があがる。演出を越えた事故レベルの。
「おはようございまスヴィランズさん! 正義の救世主、テロリスト様の参上だゼ★」
 哄笑のメロディと爆発のリズムが壮絶な不協和音となり、戦場を揺らす。
 長時間の緊張に寝落ちしていたサイコの手下たちも、さすがにあわてて駆けつけた。
「急襲するはずじゃなかったか?」
 あきれるレオンへ、アヤネが静かに返す。
「サイコとイワタが待ち受けていた。急襲に意味はなかったさ。むしろこれを陽動とするべきだ」
 名家に生まれ、家格を汚さぬための英才教育を受けてきた彼の心は、この程度のイレギュラーでは揺らがない。
「ヒーローなんて柄でもないが、今は少年の夢を守るために戦おう」

●ヴィランvsヒーロー
 先陣を切ったのは、まさに流星のごとく崖を駆け下りたキミカだ。
「流星たる我が拳、戒めの一撃として受けよ!」
 ナイフを構えた手下の右肩へ、左拳を打ちつける!
「あぎっ!」
 ナイフを取り落とす手下のアゴを、レオンの鎌の石突が突き抜いた。
「これでもう痛い目に合わなくてすむぞ」
 気絶した手下に言い置いて、他のヴィランズどもへ見せつけるように大鎌を振り回す。
「命が惜しければ投降しろ。俺がヒーローでいられるうちにな」
「おお、やってくれんなぁ。やったら俺も」
 ゼロは手下の突きだしたナイフを後転でかわしつつ、つま先でナイフを蹴り上げた。
「ショータイムや!」
「俺の得物は峰撃ちが苦手なんだがな」
 ナイフを失った手下の脚へ、玄桃がアサルトライフルを3発制限点射で撃ち込んだ。
 と、ヒーロー的連携を決める仲間たちを横目に、ひとり飛び回っては手下どもを翻弄し、かろやかに仕末していく雹の姿があった。
「ラクショーじゃん♪」
 勝手気ままに見えるテロリスト様だが、その動きは常に仲間の死角をフォローし、攻撃をサポートしている。
 そんな雹の隠れ支援を受けながら、志門は剣で別の手下のナイフを弾いた。そして。
「アヤネさん!」
 普段は闘志をたぎらせ戦場を駆け回る志門だが、今日ばかりは冷静であることを自らに課し、仲間の盾と繋ぎ役を務めていた。
「次は誰だ?」
 その場へ崩れ落ちる手下をそのままに、アヤネは鋭い目線を飛ばす。その冷めた闘気に、残った手下たちは立ちすくむが……。
「ヒーロー気取りのリンカーなんざにナメられたまんま終われねぇぁあぁ!!」
 サイコの咆哮に、手下たちが我を取り戻した。
「ヒーローとか知らねぇ! 俺たちゃヴィランズだぜ!」
「ヒーローとヴィランは表裏一体。コインの裏と表だ」
 威勢よく吠える手下に語りかけたのはヴィント。
 振り返った手下が鉄拳を食らって吹っ飛――ばない。手首を掴まれていたからだ。しかもその手首はひねり上げられ、いやな音をたてる。
「ぁぇぇぇ」
「折れた骨は接げばいい。切れた肉は縫えばいい。だが、引きちぎれた腕は……もう繋げない」
「ヒーローにあるまじき脅し文句ですね」
 テントの中からゆっくりと現われたイワタが苦笑いを漏らした。
 左手で正義を拘束し、右手でそのこめかみに改造拳銃の銃口を押し当てている。
「そもそも戦隊ものは5人が相場ですよ? 「9人」は多すぎる」
 唐突に銃口を横へ――潜伏していた真枝に向け、撃った。
「っ!」
 銃弾を肩口に受け、潜伏を強制解除させられる。
「最初から気づいていましたよ。これだけ開けた場所で、陽動の助けを得たとて隠れおおせられる道理がない」
 イワタは続けて正義にささやいた。
「松尾さん、ヒーローはだまし討ちが得意のようだ。所詮は同じコインの裏表ですね」
 ――崖上で潜伏中の真琴は、ひたすらに「そのとき」を待っていた。
「まだ……がまん……」
 スナイプは一撃必殺が絶対条件。今なら決められる。でも。
 イワタの銃が正義に向いている現状、奴の体に衝撃を与えるわけにはいかない。
 ああ、もどかしい。正義を早く助けたい。1発ぶち込んでわーっと状況をひっくり返してやりたい。
「……スナイパーは……待つのが仕事」
 ノドの奥に迫り上がる衝動をくわえた菓子の甘みで飲み下し、真琴は待ち続ける。
 ――場面は再び崖下へ。
「ヒーローは、日曜日の朝に語られるだけのものじゃない」
 痛みと恐怖で失神した手下の手首をつかんで引きずりながら、ヴィントが踏み出した。
「悪をもって悪を討つ。それが俺の「正義の味方」のありかただ」
 その顔に浮かぶ暗い笑み。この少年はヒーローなんかじゃない。こちら側の人間だ! イワタが息を呑んだ。その瞬間。
 うずくまっていた真枝が、跳んだ。
 黒の忍装束で固めた体が次々と分身し、イワタへ襲いかかる。しかし。
 突如躍り出たサイコが、バールのようなものを横振りし、分身ごと真枝を打ち落とした。
「ぐあっ」
 再び地に転がる真枝。しかし。
「ちょっと甘く見過ぎたかなって反省してたんだけどさぁ、撤回。だってさ」
 苦しげな息を吐きながら、それでもイヤミを垂れ流す。
「きみ、ほんとバカだし」
 指されたイワタが自分の銃を見る。
 思わず真枝へ向けてしまっていた銃口。これはつまり――
「真琴ぉ!!」
 ゼロの太い声音が轟いた。
「……電話してって、言ったのに……」
 崖上の真琴はくわえていた菓子を乱暴に噛み砕き。
「……糖分充電……行くよ……!」
 スナイパーライフルの引き金を引き絞った。

●悪を討つ志!
「!」
 右腕をぶち抜かれたイワタが地に転がった。
「い、イワタ君!?」
「人質を逃がしてはいけません!」
 サイコが、傷ついた体でそれでも正義をかばった真枝へ。
「こうなりゃ正々堂々、ぶっ殺してやるぜぇえ!」
「じゃ、俺様も正々堂々だゼ。クレイジーさん?」
「誰だ俺サマじゃねぇのに俺サマとか言うヤツぁ!?」
「俺様デース♪ え、救世主サマのご尊顔が見えねえノ? そりゃ株価も見えねえわ。ダメじゃーん?」
 あわててまわりを見回すサイコだが、声の主は見つからない。
「ここでース。中年腹のおっさーん★」
 雹がクロスボウをサイコに撃ち込み、煽った。……得物の射程ギリギリの遠くから。
 口先ばかりの正々堂々に、サイコの悪の怒りが爆発した。
「てっ、てめぇええ!」
 走り出すサイコの目を、突然に大ぶりな紙吹雪が塞ぐ。
「なんだカネかぁって、ニセ札じゃねぇか!」
「お気に召さんかったみたいやで?」
「なら、こいつをプレゼントだ」
 からかいを込めた大阪弁に続き。
「Duck!」
 サイコの突きだした腹へ、アサルト弾が次々に食いついた。
「あちぃ! 俺サマのちょっとした弱点がぁっ!?」
「やかましいやっちゃなぁ。こっちのクールさんとはえらいちがいやわ」
 余ったニセ札を律儀にしまいこんで軽口を叩くゼロに、玄桃が口の端を吊り上げて。
「おまえは似てるよな。やかましいところとか特に。おっさん同士のシンパシーか?」
「誰がおっさんやねん! 俺はおっちゃんや!」
「大阪かよ」
「大阪や!」
 ……などと微妙なコントが展開している隙に、レオンのケアレイで癒された真枝は離脱を図る。
「ここは危ないから安全な場所に行くよぉー。ちょっと怖いかもしれないけど、キミは強い子だから大丈夫かなぁ?」
 おずおずうなずいた正義を抱え、真枝が走り出した。
「待て!」
 その背中へ、イワタが左手で構えた銃を向けたが。
「仲間もあの子も、俺が守る!」
 志門がその体で射線を塞いだ。
「冷静にヒーローするつもりだったんだけどさ、ダメだな。俺は未熟だから、体張って全力出すしかないんだ」
「どかないなら、急所を狙いますよ」
 突きつけられる銃口。しかし志門は動かない。揺らがない。すくまない。
「ちっ」
 イワタが志門の胸を撃った。外しようのないゼロ距離で、心臓を狙った1発を。
 が。それだけだった。
「……俺、自分にできること、精いっぱいやるって誓ったんだ。だから俺は、こんな弾くらいで倒れてらんないんだよ!」
 志を乗せた刃が、イワタの胸に叩きつけられた。
「俺はヒーローでもなんでもないが、戦友の志、全力で支えよう」
 傷ついた志門をかばい、レオンがイワタへ大鎌を振るう。
「男なら思いを込めた得物を交わし、語り合うのが粋ってものじゃないのか?」
「私はヴィランです。それを知らしめるため、ここにいる!」
「幼子を盾にして己の喧伝か。実に無粋だな」
 鋭く研ぎあげられた刃が、志門の刻んだ痕をなぞってイワタを斬り裂いた。
「粋? 志? そんなもの、知りませんね。知る気もない」
 イワタはナイフを構え、よろける脚を無理矢理、前へと進める。
「志とは、心を焦す想いとひたむきに向き合うを選びし士が謳うもの」
 その前進を真正面から阻むのは、仮面の奥に燃え立つ瞳を隠したキミカ。
「理解不能な戯れ事だ」
「ならばその身に受け、知るがいい。英雄たる我が絶技――この拳に宿りし志を!」
 ずっと夢見ていた。
 咳が止まらなくて眠れない夜も。
 高熱に苛まれ、声も出せずに泣いた朝も。
 ――けして負けず、くじけず、痛みや苦しみを隠して誰かのために闘うヒーローになりたい。
 少年、私を見よ。きみが信じる正義はこの拳に在る!
 握り込まれたキミカの拳から、猛々しいライヴスが噴き上がった。
「燃え上がれ、ポルックスグローブ!」
 かくして倒れ伏すイワタに、キミカは最後の言葉を投げる。
「咎人よ、悔いて眠れ」

●サイコの最後
 サイコへ向かったライヴスリンカーたちは、意外なほどの苦戦を強いられていた。
「自業自得で借金を負った小物が、今度は誘拐で得ようって? まさに小物中の小物だな」
 アヤネの挑発に、サイコはあっさり引っかかる。
「胸が痛ぇえ! でもありゃRのBが全部悪ぃんだぁあ」
 隙だらけのサイコに攻撃が殺到。
 それでもなお、奴は倒れない。
「強いってのとちがうんだがな」
「我慢強いんやろな。元社畜のパッシブスキルや」
 玄桃とゼロがうんざり肩をすくめ合う。
 そこへイワタ担当のリンカーたちが駆けつけてきた。
「状況は?」
「中年腹のおっさんマジうぜー」
 問うヴィントに雹が吐き捨てた。
「ならばヒーローらしく、一斉攻撃で決めるとしようか」
 レオンがすらりと右手を上げ、振り下ろした。
 それを合図に、真琴のスナイパーライフルが火を噴いた。
「あぎっ!?」
 狙撃を受けてつんのめるサイコ。そこへゼロと玄桃が連携で追い打ちをかけ、体勢を崩させる。その機を逃すまいと、キミカを先頭にヴィント、志門、レオンが打ちかかった。
「ちぇぇええ!」
 ライヴスリンカーたちの全力攻撃を受けながら、それでもサイコはバールのようなものを振りかぶった。しかし。
「よそ見げんきーん♪」
 雹のクロスボウが、サイコの軸脚にクリティカルヒット! サイコは無様にべしゃりと倒れ伏した。これで終わりだ――
「立て、サイコ」
 ――仲間を止めたアヤネが、静かに告げる。
「最後くらい、小物なりの気概を見せてみろ」
「……ゆとり世代はわからんなぁ。おじさん、意外と強いよ? でももう倒れそうだし、逃げるんなら今だよ?」
 素のサイコが、バールのようなものを掴んで立ち上がった。
「相手が誰だろうと後退はしない」
 アヤネはクレイモアを上段に構え。
「全力で突き進み、打ち倒すだけだ!」
 声音を、闘志で燃え上がらせた。
 冷徹に敵を見切り、恐れることなく全力で刃を打ちつける。その二面性こそアヤネの本領だ。
 サイコの縦振りがアヤネの体を直撃した。その衝撃が、防具の守りを抜けてアヤネの体を襲う。
 しかしアヤネはかまわず、強く踏み出した。
「ふっ」
 短い呼気とともに剣刃が舞い。
 サイコのだらしない体を斬って捨てた。
「俺らしいやりかた……ヒーローを見せられたかな。クリッサ」
 幼いころからずっと共にある英雄にそっと語りかけ、アヤネは刃を収めた。

●エンディング
「お疲れサーン♪」
 戦闘終了と同時に去った雹をのぞき、他のライヴスリンカーは待機していた警察と合流。後始末を見守っている。
 そんな中。医者の診察から開放された正義の手に、真琴が黒いカケラを握らせた。
「ちょこ?」
「よく……がんばったね……甘いの、お食べ?」
 小さな頭をよしよし。
「君ががんばって信じてくれたおかげで、俺たちはいつも以上の力を出せた。ありがとう」
 膝をついて目線を合わせ、レオンがやさしく正義に語りかけた。
 しかし。その向こうでは、真枝が連行されるイワタに「きみインシィと関係あるわけ?」と問いただし、唐突に興味を失くして立ち去っていく。
 さらに。
「余計なことすんな、盗人かおっさん!?」
「トレジャーハンターや! わるもんの巣に捕らわれたかわいそうなお宝がないかってなばっ! グーはやめてぇ! あとおっさんやなくておっちゃんや!」
 ヴィランズのテントを漁るゼロが玄桃にしばかれたと思しき声と音も聞こえてくる。
「せいぎは、いっこじゃないんだね」
 正義はチョコを口に入れて、強く噛み締める。
「ぼくはぼくのなりたい、つよくてかっこいいヒーローになる」
 アヤネと志門が微笑み、ヴィントは静かにうなずいた。
 その様を見つめながら、キミカはひとり思いを馳せる。
 戦いの中の自分は、いつもの内気で冴えない小娘なんかじゃなかった。だから。
 もっと強くなって。誰かを助けて。ヒーローにふさわしい自分になろう。
 成長した正義君と、胸を張って逢えるように。
 その横を、転がり出す勢いで車から飛びだしてきた正義の両親が走り抜けていった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 夢ある本の探索者
    努々 キミカaa0002
    人間|15才|女性|攻撃
  • ひとひらの想い
    草薙玄桃aa0023
    人間|19才|男性|命中
  • エージェント
    ゼロ=フォンブラッドaa0084
    機械|31才|男性|攻撃
  • エージェント
    アヤネ・カミナギaa0100
    人間|21才|?|攻撃
  • 屍狼狩り
    レオン・ウォレスaa0304
    人間|27才|男性|生命
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • 冷血なる破綻者
    氷斬 雹aa0842
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    七城 志門aa1084
    人間|18才|男性|生命
  • 名探偵
    謂名 真枝aa1144
    人間|17才|男性|回避
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