本部

赤い靴

雪虫

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 6~6人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/09/28 14:31

掲示板

オープニング


「あ、この靴可愛いな……」
 少女はショーウィンドーの前で足を止めると、窓ガラスの向こうに飾られている赤いブーツに視線を止めた。ストロベリー色のブーツは可愛らしさの中に大人っぽさも秘めており、今日の少女の服装にもピッタリ似合いそうである。
「ううう、ちょっと高いかな。でも、頑張れば買えないって程でもないかな。とりあえずちょっと履いてみて……それから決めたって大丈夫だよね……]
 などと、少女は自分に言い聞かせると、「よし!」と両手を握り締めて店の中へと入っていった。そして笑顔で自分に近付いてきた店員を前にして「あの靴試着したいんですけど……」と、先程まで熱っぽく見つめていた赤いブーツを指差した。


 休日の昼下がり。あなたは知り合いのリンカー達と共にショッピングに赴いていた。通りには若者向けの店が立ち並び、休日とショッピングを楽しむ人々で溢れ返っている。
「……けて、誰か……けて……」
 突然、背後から妙な声が聞こえ、あなたは後ろへ視線を向けた。その横を、恐怖に顔を歪めた少女が風のように走り抜け、その後ろから汗だくの女性が必死の形相で向かってくる。
「ド、ドロボー! 待ちなさいドロボー! お願い、誰かあの子を捕まえて! うちの商品の靴を履いたまま店を出て行ったのよ!」
 女性店員の訴えを聞いたあなたと仲間達は慌てて少女の後を追った。ライヴスリンカーの運動能力は一般人を遥かに越える。いくら人混みの中とはいえ、靴泥棒を捕まえる事など造作もないはずだった。
 しかし、走っても走っても、赤い靴を履いて逃げる少女に一向に追い付く事が出来ない。背後からは仲間達も追ってくる気配がするのに、誰も追い付く事が出来ないなど明らかに異常と言っていい。何かおかしい。誰もがそう思った時、赤い靴を履いた少女が足を止めて振り返った。その顔は恐怖に青ざめ、助けを求めるようにあなた達を見つめている。
「助け……助けて……あああ、足が止まってくれないの……お願い助けて……助けて、助けてェッ!」
 突然、少女が大地を蹴り、あなたに向かって駆け出してきた。殺気を感じ後退したあなたの顔のすぐ前を、風が通り過ぎた。何かが砕ける音がした。赤い靴の少女が放った蹴りが厚いアスファルトを粉々に砕き、ひび割れたアスファルトが周囲に高く舞い上がる。
 休日のショッピング街に大きな悲鳴が響き渡った。

解説

●目標
 赤い靴に取り憑いた従魔の討伐、及び取り憑かれた少女の救出。

●情報
デクリオ級従魔『赤い靴』
 赤い靴に取り憑いた従魔。一撃でもダメージを与えれば赤い靴から離脱する。攻撃力はアスファルトを砕く程度、防御力はないに等しいが回避能力が高く、また赤い靴を履いた少女を盾代わりに使ってくる。戦闘が長引くと逃亡する。
・ステップ:横回避。
・ジャンプ:3m程跳躍する。ジャンプ中は移動不可/攻撃行動は可
・スピンアタック:超高速の蹴り。アスファルトを砕く程度の威力しかないが、(リンカーが受けても大したダメージにはならないが)、通行人や店に当たった場合それなりの被害をもたらす。回転が掛かっているので攻撃中の赤い靴を捕縛するのは難しい(触っても弾き飛ばされてしまう)。

少女
 『赤い靴』に取り憑かれた少女。浸食されつつあるが完全に従魔化していないのでAGWで攻撃されると大ダメージを負う。ライヴスを介さない攻撃も通用する。

●場所
 若者向けのファッションやアクセサリー等を取り扱った店の立ち並ぶ大通り。戦闘区域は縦15m×横6m程で、縦側には店が左右に3店舗ずつ(計6店)、横側には野次馬が集まっている。店には女の子向けのワンピース、スカーフ、帽子、靴等が並んでいる。

リプレイ


 赤い靴は動きを止めると、まるで次に襲う獲物を選定する獣のような異様な雰囲気を醸し始めた。従魔に取り憑かれた少女の目の前には、アスファルトの割れる音に集まった通行人達の姿。やめて。従魔の意図を察知した少女の懇願を断ち切るように、赤い靴の形をした従魔は通行人に向かって走り出す。
「いやあああああっ!」
 少女は勝手に跳躍した足に両手で自分の目を覆った。しかし、その耳に届いたのはアスファルトを砕く音でも通行人の悲鳴でもなく、鳴神 命(aa0020)の手にした大鎌の銀色の刃と、赤い従魔の蹴撃とがぶつかり合う音だった。
「させないよ」
 いち早く従魔の意図に気付き、従魔と通行人の間に割り込んだ鳴神は、そのまま赤い靴を破壊しようと死神の名を冠する鎌を振るった。しかし、従魔はそれより早く後退し、鳴神は一旦従魔から顔を背けて通行人へと視線を向ける。
「ちょっと下がってて下さいね。ボクより前に出ると、助けられませんから」
 身の丈以上の巨大な鎌を軽々振るいながら威圧感を漂わせるリンカーの一言に、通行人達は「はい、下がります」と大人しく指示に従った。一方、次なる獲物を仕留め損なった赤い靴は、そこで自分が複数の人間に取り囲まれている事に気が付いた。大剣を持つ少年、鞭を構えた幼い少女、大鎌を携えた女……そしてその中には何故か、武器を持たず、丸腰で取り憑かれた少女に近付こうとする男の姿があった。
「ア、アンタ何やってんだ丸腰で!」
 通行人の悲鳴が響き渡ったと同時に、それに呼応するように少女に寄生する赤い靴は駆け出した。囮として我が身を晒した男、秋津 隼人(aa0034)は即座に相棒と共鳴し、自分の胸を抉るように飛び込んできた従魔の攻撃を両腕で受け止めようと試みる。
「ぐ、ぐううう……うわっ!」
 秋津の奮闘も空しく、秋津の体は回転の掛かっている従魔の攻撃に弾かれてしまった。しかし、秋津は弾かれる直前、隠し持っていたナイフを走らせ赤い靴に結わえられた靴紐部分を断ち切った。少女の体が前にのめり、床に倒れこんでいた秋津は体を起こして慌てて少女を抱き止める。顔色は悪いが外見上大きな怪我はしていない。少女の無事を確認した秋津は、傍らにいた飛鳥 凛(aa0073)に少女の身柄を預け渡した。
「すいません、彼女を頼みます。俺は従魔を追い詰めますので」
「任せなさいよ、最低限の仕事はしてあげるわ」
 飛鳥は少しだけぶっきらぼうに秋津に告げると、保護した少女の肩を抱えながら通行人の方へと歩いていった。通行人が道を開け、飛鳥は縁石へと震える少女を座らせる。大きな怪我こそしていないが、従魔の攻撃に巻き込まれて出来たのであろう細かな擦り傷が、少女のむき出しの顔や腕や足の上に散見された。
「能力者でもないのにあれだけの動きをさせられたら、筋肉痛どころじゃないわよね。擦り傷もあるし、筋肉痛にまで効くかは分からないけど……ケアレイ!」
 飛鳥が手をかざした瞬間、飛鳥の手から光が迸り、暖かく優しい光が少女の体を包み込んだ。少女の体中にあった擦り傷は何事もなかったかのように綺麗に消えたが、少女の細い肩は未だに恐怖に震え、赤い従魔に色を奪われたかのように顔は酷く青ざめている。
「あ……あの人達、大丈夫なんですか……?」
「大丈夫よ。安心して少し休みなさい。休んでいる間に私達が終わらせるわ」
 高校生にしか見えない外見にそぐわない凛々しさで飛鳥は告げると、少女の恐怖を和らげるように優しく肩を抱き締めた。


 寄生主を失った赤い靴は、切れた靴紐を揺らしながら手負いの獣のように目の前のリンカー達に威嚇の気配を放っていた。その中の一人、布野 橘(aa0064)は大剣を構えながら靴型の従魔を睨み下ろす。
「童話の赤い靴と同じ結末にはさせないぜ。呪い憑きの靴なんざ叩き斬ってやる!」
 布野の気迫に押されたように、赤い靴は布野達とは反対にいる通行人の方に逃げ出すような動きを見せた。しかしその意図を封じるようにスラヴェナ・カフカ(aa0332)が放った銀の魔弾が、赤い靴の眼前で魔力の煌々しい光を放つ。
「そっちはダメです。行かせませんよ」
 スラヴェナの足留めに呼応するように秋津が告げ、三人は赤い靴への包囲網を徐々に徐々に狭めていった。赤い靴が考え込むように止まった瞬間、布野が体勢を低くし、地面を這うように低位置から剣を薙ぐ。
 しかし、その攻撃は届かなかった。赤い靴は布野の放った剣をかわし、その場から3メートルの高さまで飛び上がった。それこそが布野達の張った罠であるとも気付かずに。
「シメた、全員散れッ!」
 布野の言葉と共に、靴を取り囲んでいた三人は仲間の邪魔にならないように素早く後退し場を開けた。空中に一組舞う外見は魅力的な赤い靴を、この好機を待っていたゼノビア オルコット(aa0626)が静かに狙う。
「(絶対に、絶対に逃がしません……!)」
 ゼノビアは祈るように、そして堅い決意と共にスナイパーライフルの引き金を引いた。祈りと共に放たれた弾丸は見事赤い靴の中心を撃ち抜き、赤い靴はやがてボロボロに崩れ、赤い霧となって空中へと立ち消えた。
「やった……やった、やったぞォッ!」
 誰かが呟いた言葉は小さな拍手を呼び起こし、小さな拍手はやがて割れんばかりの歓声となって六人のリンカーを包み込んだ。ようやく姿を現した可憐な容姿の狙撃手にスラヴェナが片手を挙げる。
「お疲れ様でした。見事な腕前でしたね」
「(皆さんのおかげです。特訓通りに出来ました……味方を撃たずに済んで良かったです……怪我人が出なくて良かったです……)」
 スラヴェナの労いにゼノビアが覚束ない手話で答え、そして仲間達と、無事に救出された少女へと視線を向けた。共鳴を解除し武器もしまった鳴神が少女に近付き、ややもすると女性にも見られるような柔和な顔立ちに笑みを浮かべる。
「無事で良かった。でも、あの靴似合ってたのに、残念だったね。他のを探すのは大変かもしれないけれど、頑張ってね。君ならもっといい靴が見つかるよ」
「足はちゃんと二本あるな?良かったなぁ、『森の木こり』に出会わなくて。けど、こう言っていいのか分からねえけど、こいつの言う通り結構似合ってたぜ、あの靴。悪い意味じゃなく、嫌味でもなく、な」
 鳴神の言葉を継いで放たれた布野の発言に、凍りついたようだった少女の両目から大粒の涙が零れ落ちた。まさか泣き出すとは思っていなかった布野も、鳴神も、他の4人も驚きにぎょっと目を見開く。
「もう、あんた達一体何やってんのよ!」
「(怖がっていた女の子を泣かせてしまうなんて……最低です……)」
「ち、違うって! 俺は童話の『赤い靴』を思い出してだなあ、あの結末みたいにならなくて良かったって言っただけで……」
「そ、そうだ、あのね! 私も焦って見てた服を持ち出してきちゃったの! 何かに使えないかと思ってさ! あはは、一緒だね」
 布野と飛鳥とゼノビアの言い争い(筆談争い?)を遮るように、スラヴェナが少女の眼前に白い服を差し出した。薄手の白い服は強く握り締められていたためか皺が出来てぐちゃぐちゃで、しかも立ち回っている間に所々薄汚れてしまっていた。少女はスラヴェナが差し出した服と同じぐらい白い顔をしていたが、涙を流しながらもリンカー達に首を横に振って見せる。
「違うんです。私、あの赤い靴を履いてから、自分の意志じゃ止まれなくて……それこそ童話の赤い靴みたいに……本当に怖かった……そんな中皆さんが体を張って私を助けてくれたんです……皆さんがいなかったら、私、今頃……」
 呟いて再び泣き崩れる少女に、誰もが困惑した表情を浮かべた。その空気を断ち切るように、スラヴェナが明るい声を上げる。
「とりあえず、さ。あの赤い靴があった靴屋さんに事情を説明しに行こうか。もしかしたら近くで見てたかもしれないけど、泥棒したワケじゃないって事をきちんと説明した方がいいかもだし」
「そう……ですね。ちゃんと、言いに行った方が、いいかも、しれません。君は、それで大丈夫、ですか? まだ、無理なら、もう少し休んでからの方が……」
 秋津の独特なしゃべり方に、少女は顔を上げて少し驚いたように目を見開いた。共鳴時の姿と今の秋津の姿の変化にも驚いたが、我が身を呈して自分を赤い従魔から救おうとしてくれた姿と、今のぽつぽつと区切るような喋り方が少しそぐわない感じがした。
 しかし、何故だかそれが妙にほっとして、少女はようやく強張った表情を和らげた。色を失っていた頬の上にも、わずかながら赤みが戻ってくる。
「いえ、大丈夫です。それから、申し訳ないですけど一緒にお店まで付き合って頂きたいです。上手く説明出来る気がしないし……そ、それでもしよろしかったら、新しい靴を選んでくれませんか? あの赤い靴と同じぐらい……ううん、もっと魅力的な靴を」
 少女の思わぬ申し出に、6人は再び驚きに目を見開いた。少女は少し不安そうに、しかし懇願するように恩人達を見つめている。
「……うん、そうだね。せっかくだし、みんなで新しい靴を探しに行こうか。せっかく可愛い靴を見つけたと思ったのに、実は従魔でしたで帰っちゃうのも残念だし」
「(私も賛成です。あの赤い靴よりずっと素敵な、嫌な事全部忘れちゃうぐらい素敵な靴を見つけましょう!)」
「えっと……本当にボクらと一緒がいいの?」
「何よ。さっきは『似合ってた』なんて言ってたじゃない。それぐらいの事を言ったんだから、責任はきちんと取りなさいよね」
「いやいやいや、確かに言ったけど! でも、女の子の靴なんて選んでやれる自信がねえし……」
「俺達で、本当に、いいんですか? 女性の方々は、ともかく、俺も鳴神さんや布野さんと、同じく、あまり、自信がないですよ?」
 少女はスラヴェナの、ゼノビアの、鳴神の、飛鳥の、布野の、そして秋津の顔を見た。そして、まだ何処かぎこちない、しかしそれと分かる程の笑みを微かに浮かべて見せる。
「はい、あなた達に選んで欲しいんです。勇気をもって私の事を助けてくれたあなた達に。私はまだあなた達みたいな勇気を持つ事は出来ないけれど、あなた達が選んでくれた靴なら、きっと見ているだけで勇気が湧いてくると思うんです。そしてそれは、あの赤い靴よりずっと素敵な靴だと思うから……」
 そして、少女はしっかりとした笑みを浮かべた。赤い靴に操られてからは決して浮かべる事の出来なかった、しかし今は6人の恩人達に向けた、心からの微笑みを。その微笑みは、そしてその笑みを受けてリンカー達が浮かべた笑みは、偽りの魅力で飾っていた赤い靴よりも遥かに魅力的で素晴らしいものだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    鳴神 命aa0020
    人間|15才|男性|攻撃
  • 挑む者
    秋津 隼人aa0034
    人間|20才|男性|防御
  • 信念を抱く者
    布野 橘aa0064
    人間|20才|男性|攻撃
  • エージェント
    飛鳥 凛aa0073
    人間|16才|女性|防御
  • エージェント
    スラヴェナ・カフカaa0332
    人間|12才|女性|攻撃
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
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