本部

ロング滑り台の悪夢

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/10 19:24

掲示板

オープニング

●日曜の公園は大賑わい
 よく晴れた日曜日、公園は家族連れで賑わっていた。
 公園といっても、住宅街にある小さな公園ではなく、有料駐車場のある大きな公園である。
 この公園で人気があるのは、全長100メートルの長い滑り台である。滑る部分がローラーになっており、大人が滑ると、確実にお尻が痛くなる。しかし、体重の軽い子供はそういうこともなく、楽しんで滑っている。
 今日も、滑り台にのぼる階段には、子供たちが行列を作っていた。

 ワタルは、高い滑り台を見上げた。高いところは少し苦手だ。でも、あの高さから滑ったら、空を飛んでいるような気持ちになるかも。きっと楽しいだろう。
 ワタルより小さい子供も、どんどん階段をのぼっている。きっと大丈夫だ。

 ママとミキが一緒に滑り台を滑っていく。シオリも、そのあとから滑ったが、なんだか物足りなかった。この滑り台は、小さい子向け。3歳のミキにはちょうどよくても、6歳のシオリにはスリルがなさすぎる。
「ママ、あっちの滑り台で遊んでいい?」
「いいよ。気をつけてね」
 シオリは、ロング滑り台のほうへ駆けていった。

「兄ちゃん、おせーよ。先、行くからな」
 弟たち二人が、ケラケラ笑いながら、エイスケを追い越して行った。
 元気だなぁ。自分も昔は、ああだったのだろうか。別に急がなくてもいいのに。滑り台は逃げないのだから。
 エイスケは、のんびりと階段をのぼっていった。

 貴美子は、ロング滑り台の終点近くで、ビデオカメラを構え、録画を開始した。
 ワタルは楽しそうにキャーキャー言っている。思わず貴美子の頬がゆるんだ。
 突然、ビデオカメラの中のワタルの表情がゆがんだ。
「ママ―! なんかいるー!」
 恐怖に満ちた悲鳴。
 貴美子はビデオカメラを下ろした。滑り台の上。ワタルがこれから滑ってくるところに、茶色い大きなモノがあった。
「なに、あれ……」
 ビデオカメラを持ち上げ、ズーム機能でその部分を拡大した。
 そこにいたのは……。
 貴美子はビデオカメラを放り出すと、両手を大きく振った。
「ワタル! そこで止まって! ストーーーップ!」

●子供たちを救出せよ!
 HOPE敷地内のブリーフィングルームで、担当官は説明を始めた。
「公園に、従魔が出現しました。全長約50センチメートルの蛙です。従魔がいるのは、長い滑り台の上です。滑り台の途中に水平になっている部分があり、そこに座っています。問題なのは、従魔より上の部分に、子供たちがいて、身動きがとれない状態になっていることです。子供の数は3人。子供たちがいるのは、地表から7メートルの斜面です。滑り台はローラー式で、滑りやすく、上に戻ることはできません。子供たちは手すりに必死でつかまっていますが、既に従魔出現から15分が経過しています。子供たちが疲れて手をはなしてしまったら、従魔が待っているところへ滑りおちてしまいます。子供たちを救出し、従魔を倒してください。迅速にお願いします」

解説

●目標
 子供たちを救出し、従魔を倒す

●登場
 ミーレス級従魔。
 蛙型の従魔。
 全長約50センチメートル。
 2メートルくらいジャンプできる。
 長い舌で攻撃する。
 動くのが嫌いで、子供たちが落ちてくるのをじっと待っている。
 
●状況
 公園には、ロング滑り台の他にシーソー、ブランコ、小さい滑り台、ジャングルジム、鉄棒がある。
 ロング滑り台は、全長100メートル。スタート地点の高さ15メートル(一般的な建物の4階の高さ)。
 従魔がいるのは、ロング滑り台の水平部分で、スタート地点から70メートル、地表からの高さ5メートルの場所。
 従魔がいる水平部分の長さは、2メートル。
 子供たちがいるのは、従魔より上にある斜面で、地表からの高さ7メートルの場所。
 調達に時間がかかるため、子供たちの救出に、クレーン車などの重機は使えない。
 ロング滑り台の滑降部を支えている柱を登ることは可能。
 救出対象の子供は、3人。滑り台を横から見ると、上からエイスケ(7歳)、シオリ(6歳)、ワタル(5歳)の順番に並んでいる。
 3人は密着した状態で、それぞれ手すりにしがみついており、誰か1人が手をはなしたら、下にいる子供が従魔のところに押し出されてしまう。
 ロング滑り台の周辺にいるのは、3人の家族である大人4人、子供3人。
 他の人は、既に避難している。

リプレイ

●ロング滑り台を見上げて
 黄泉坂クルオ(aa0834)はキラキラと目を輝かせた。
「この滑り台、凄い……っ!」
『あら、クルオ、こういう子供だましが好きなの?』
 クルオの隣で、天戸 みずく(aa0834hero001)が妖艶に微笑んだ。
「う、うん……こういうので遊んだこと、無かったから……」
『……解ってると思うけど』
 みずくは、いったん言葉を切ると、きつい一言をクルオに告げた。
『貴方の身体だと滑れないと思うわよ?』
「………………うん」
 クルオは、滑り台から目をそらし、心の中で呟くのだった。
(……いいんだ。僕は……彼らを無事に助けられたら……)

 マリオン(aa1168hero001)は、滑り台の上で必死に手すりにつかまっている子供たちを見て、顔をしかめた。そして、隣にいる雁間 恭一(aa1168)に向かって言った。
『雁間、余は子供が嫌いだ』
 マリオンは子供の姿をしているが、元の世界では成人しており、王子だったのである。
「分かってるよ。俺も嫌いだ」
『ではなぜ受けた?』
「いや、お前が嫌がる顔が急に見たくなってな」
『……』
 マリオンは、無言で雁間を睨みつけた。雁間はニヤリと笑った。

「子供たち、頑張ってるね。早く助けてあげないと」
 同じように子供たちを見ながら呟いたのは、餅 望月(aa0843)だった。
『今、ワタシたちが助けてあげるからねー。この羽で飛べたら簡単に助けられるのにー』
 自称天使の百薬(aa0843hero001)は、背中の羽をパタパタさせた。

 骸 麟(aa1166)と宍影(aa1166hero001)は、そろってロング滑り台を見上げた。
 宍影が、骸忍術の逸話を披露する。
『滑り台とはそもそも骸忍術の修行法から出来たものでござる』
「そうだったのか!」
『言行録を紐解けば落とし穴に取り付けた罠であった事が分かるで御座る。竹を蟻地獄の様に穴の壁に張り付けて途中に刃を仕込んだかなり危険なもので、それを修行に応用したでござるな』
「それで里の滑り台は釘だらけだったんだ? 予算の都合かと思ってたぜ!」
『……』

 無音 彩羽(aa0468)が見上げる先には、蛙型の従魔。下半身は、滑り台の手すりに隠されて見えない。
「しかし、15分経過して被害0とはあの蛙やる気なさ過ぎだろう……」
『従魔が全部あんなのばっかだったら楽なのー』
 彩羽の隣で、猫耳の夜帳 莎草(aa0468hero001)が尻尾を振った。

 泉興京 桜子(aa0936)は、小さい拳を振り上げた。
「おのれ! すべりだいを邪魔するとは許せぬ!! しかもろんぐであろう! 普通のすべりだいの二倍……いや三倍は楽しいものであるぞ!!」
『あんたが怒ったって敵は倒せないのよ……早く行くわよ!』
 ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)は、桜子の首根っこをつかむと、ずるずると引っ張っていった。
 引っ張っていった先は、滑り台の下にいる子供たちの家族のところである。
「兄ちゃん、頑張れー! 小さい子より先に落ちたら、かっこわりーぞ!」
「そうだぞー!」
 兄のエイスケに声をかけていた弟二人は、リンカーたちの存在に気づくと、
「お願いします。早く兄ちゃんを助けてください」
「助けてください」
と、頭を下げた。よく見ると、二人の目には涙がにじんでいた。
「あたしたちが来たからには、もう大丈夫だよ」
 望月は、二人の頭をなでてから、心配そうな顔をしている家族たちを見回すと、
「この中に、抱っこ紐や大きなコートをお持ちの方はいますか? あたしたちは滑り台に登って、お子さんを抱きかかえて飛び降ります。大丈夫ですから、信じてください」
 エイスケの父親が自分のジャケットを脱いで、望月に手渡した。
「車のトランクに抱っこ紐が入っているので、取ってきます。ミキ、ちょっと待っていてね」
 シオリの母親はそう行って、抱っこしていたミキを地面に下ろした。途端に、ミキが泣き顔になる。百薬が慌ててミキをあやそうとすると、ミキは百薬の後ろを指さし、一言。
「ゴリラだ」
 ミキに指さされたクルオは笑って、
「はは……そうだね、毛深いからね」
と受け流した。
 ミキは、泣くのを忘れてしまったようで、「ゴリラだー」とクルオの周りを歩き出した。
 その間に、シオリの母親は駐車場へと走っていった。
「ご家族のみなさんは、公園の外に避難してください。お子さんを救出したら、すぐにみなさんのところに連れて行きますから」
 望月の言葉に促されて、ワタルの母親、エイスケの両親、エイスケの弟たちが、公園の外に避難した。
 残ったのは、リンカーたちと、クルオの周りをぐるぐる回っているミキ。
「無音君たちは柱登ってくれる? じゃああたしたちは上から滑り台で降りるよ」
 望月が言った。彩羽が頷く。
 作戦はこうである。
 彩羽と麟が、滑り台の柱を登り、子供たちと蛙の間に入る。
 望月は滑り台を上から滑り降り、子供たちのところに行く。
 クルオは、蛙の居場所より少し下方の柱を登っていき、蛙の背後をつく。
 桜子は、滑り台から少し離れたところにある木に登り、滑り台の横からスナイパーライフルで蛙を狙う。
 雁間は、滑り台の下から銃で蛙を狙う。
 子供たちの安全を確保してから、彩羽と望月が子供たちを救出する。その後、従魔を退治する。
 話がまとまったところで、シオリの母親が抱っこ紐を持って駆け戻ってきた。
「はぁはぁ……どうか娘をよろしくお願いします」
 シオリの母親は望月に抱っこ紐を渡し、深く頭を下げると、ミキを抱き上げ公園を出て行った。

●救出作戦、開始!
 猫耳と尻尾のついた姿になった彩羽が、滑り台の柱をするすると登っていく。柱のてっぺんに辿り着くと、滑り台の手すりに手をかけ、身体を引き上げた。
「わ!」
 子供たちが悲鳴を上げた。
(しまった……怖がらせたか。まあ、想定の範囲内だが)
 共鳴時、彩羽は猫耳と尻尾が生えるが、それが恥ずかしいため、目の穴だけが開いた無貌の仮面を装着しているのである。
 彩羽は、すぐさま共鳴を解除した。子供たちの前に現れたのは、青年と少女。
 子供たちがほっと安堵の息をつく。
 彩羽は、子供たちの説得を莎草に任せ、蛙のほうに向きなおった。
『莎草たちリンカーが来たからもう大丈夫なの。良く頑張ったの』
 猫耳と尻尾の愛らしい少女にそう言われて、子供たちの緊張が少し解けた。
『ちょっと怖いかもしれないけどお兄さんお姉さんの言うこと聞いてほしいの』
 子供たちは素直に莎草の話を聞いている。
 彩羽のほうは、蛙とにらめっこ、の状態である。蛙は微動だにしない。
「しかしここまで動かないやつでもミーレス級になれるものなんだな……」

 彩羽が柱を登っているころ、クルオは滑り台を見上げていた。
「僕の身体なら、こう、滑り台の端に足を広げて走ってのぼれるかも……?」
『何をしてるの? こっちから上りなさいな』
「……うん」
 みずくの言葉に、素直に従うクルオであった。
 巨人のように常人離れした筋肉質の身体を持つ故に、子供のころのクルオは人目を避けた生活をしていた。滑り台で遊んだことは、ほとんどない。まして、ロング滑り台など、夢のまた夢。
(……僕には、出来なかった遊びだけど。それでも、それを奪う君を、僕は許すわけにはいかない……っ!)
「……みずく、力を貸して!」
『いやよ』
「え?」
『……蛙は嫌いなの』
「……あ、そうなんだ……」
 みずくに無理はさせられない。クルオが、やっぱり端と端に足を広げて駆け上ろうとしたところで。
『嘘よ』
「良かったよ!!」
 クルオは、みずくとリンクすると、滑り台の柱を登っていった。滑り台が揺れて子供たちに影響しないように、なめらかな動きであった。そして、無事、滑り台の上に到着した。
 クルオは、蛙の背後に立った。彩羽と、蛙を挟んで向き合う格好になる。
 子供たちの向こうにある長いスロープが、クルオの目をとらえた。
(蛙を上から地上へと叩き落とすって言ってる人がいたから、もしそういう事態になったら……滑り落ちれるかどうかは解らないけど、おしりがハマらなければ靴で滑ればいいじゃない、ってみずくが言ったから……とにかく!)
「……あとは退治するだけ、だね!」
 ご満悦のクルオであった。

 麟は、彩羽が滑り台の上に到着したのを見届けると、宍影とリンクし、滑り台の柱を登っていった。滑り台の上に着くと、彩羽に状況を確認した。
「子供たちは大丈夫だ。蛙は見てのとおりだ」
 彩羽が顎で示した先には、動かない蛙。
(正に骸修行術、竹壁伏殺そのもの……この従魔関係者でござろうか?)
 麟の内部で、宍影が呟いた。

 桜子は、ベルベットとリンクすると、滑り台から少し離れたところにある木に登った。
「蛙よ! 滑り台を途中で邪魔するとはばんしにあたいするぞ!!」
 そう蛙に向かって叫ぶと、スナイパーライフルを構えた。
「早く蛙を殲滅して、わしもロング滑り台で遊ぶのである!」

 望月は、百薬とリンクすると、ロング滑り台の階段を登り、滑り台を滑り始めた。膝の上には、借りた抱っこ紐とジャケットを抱えている。
 彩羽が子供たちと蛙の間に入るまでは、ゆっくり滑っていくことにした。
(ゆっくりでも、結構お尻がいたーい! あ、無音君が辿り着いた。スピードアップ!)
「い、て、て。お待たせ!」
「わー、天使さんだ!」
 望月が子供たちの上に到着すると、望月を見たシオリが歓声を上げた。
 望月の背中についている大きな羽が、女の子の心にヒットしたらしい。
「みんなよくがんばった。もう大丈夫だからね」
「前の子が滑っていかないように壁になってるから救助は後ろの子から頼む」
 彩羽の言葉に、望月が頷く。
「えー。女の人にしがみつくなんて恥ずかしいよ」
と顔を赤らめたのは、一番後ろのエイスケ。
 真ん中のシオリは、手を上げ、宣言した。
「わたしは、天使さんがいい!」
 望月が「どうしよっか?」と彩羽に目顔で尋ねると、彩羽は肩をすくめた。
「しょうがない。私が男の子二人を抱えて飛び降りよう」
『すぐに下に降りるからしっかりつかまってるの』
 莎草が最後に子供たちを励ましてから、彩羽はリンクした。
「じゃ、あたしがシオリちゃんの下まで行くね。あたしが横になるから、一人ずつ、あたしの上を乗り越えていってね。まずキミから」
 望月は身体を横にして自分自身を支えると、子供側に体重をかけないようにエイスケを抱えて自分の身体を乗り越えさせた。
「はい、次はシオリちゃん」
 シオリも同様に、自分より上の斜面に移動させようとしたが、その時、シオリの足がワタルの背中を少し押した。
 ずるずるっと滑ったワタルを彩羽が抱きとめる。
「ごめんなさい!」
「大丈夫だ」
 謝るシオリに、彩羽はクールに応えた。
 望月は、無事にシオリが自分より上の斜面に移動すると、抱っこ紐を彩羽に渡した。
 残ったジャケットをシオリの背中に回し、自分の身体の横で両袖をしっかりと結び合わせる。
「今から滑り台よりもっとスリルのあることやるけど大丈夫?」
「大丈夫。天使さんと一緒だから」
 望月はシオリを抱え、滑り台の上で中腰になった。
(百薬、今こそ羽ばたく時だよ、って飛行能力はないよねぇ)
「それ!」
 掛け声とともに、足から落ちるように滑り台から飛び降りた。無事、着地。
「シオリちゃん、大丈夫?」
「うん」
「じゃ、今からお母さんのところに行こうね」
 望月は、公園の出入り口に向かって走り出した。
「さあ、次は君たちの番だ」
 彩羽はまず抱っこ紐でワタルを自分の身体に縛りつけた。次に、エイスケのほうに手を伸ばす。
「しっかり私の首につかまるんだぞ」
 あとは飛び降りるだけと思ったその時、桜子の声が響いた。
「蛙が動いているぞ! お子たちよ! そなたたちを助けるため、ちぃと派手にドンパチするであるが、手を離すでないぞ!」

●いきなり戦闘開始!
 桜子は、木の上から救出作業を見守っていた。
「ん?」
 何かおかしい。蛙の居場所がさっきと違うようなのだ。
 桜子が目を凝らすと、蛙は非常にゆっくりと前に動いていた。桜子は横から見ていたからわかったのだが、蛙の前後にいる彩羽、麟、クルオはまったく気づいていない。
 桜子は仲間と子供たちに向かって警告の叫びを上げると、子供たちに当たらないように射線に注意して、スナイパーライフルの引き金を引いた。弾は蛙の背中にめりこんだ。
「ゲコ?」
 蛙は半身をひねって、クルオを睨んだ。
「え? 僕? 僕じゃないよ……だって、僕は後ろにいるし、弾は横から」
 蛙の舌が伸びて、クルオの肩を強打した。硬い拳で殴られたような衝撃だった。

 マリオンとリンクした状態で救出作業を見守っていた雁間は、桜子の叫びで頭上の異変に気づいた。
 雁間は携帯品の銃で蛙を狙って発砲した。だが、滑り台の手すりが邪魔で、蛙に当てることができない。
「いかん! 滑り台に穴が空きそうだ」
(たかが蛙一匹、焦らずとも蛙が落ちてくるのを待てばよかろう)
 雁間はマリオンの言葉に頷き、それ以上の発砲を控えた。

 一方、クルオは蛙と戦っていた。マビノギオンを開き、魔法の剣を蛙に向かって投げたのである。魔法の剣は蛙の背中に刺さり、蛙は嫌そうに身体をゆすった。

 蛙を攻撃しようと身構えた麟だったが、
「さわっちゃダメだよ? 今お姉さん戦闘中だからね? ……ちょ、お下げ引っ張って遊ばないで!」
(……相変わらず麟殿は子供に舐められるタイプでござるな)
 彩羽に抱かれたワタルが、麟の髪の毛をひっぱって遊びだしたのである。
「コラ! 遊ぶんじゃない。飛び降りるぞ。麟、あとは頼んだ」
 彩羽は、ワタルとエイスケを抱えて、滑り台から飛び降り、家族の待つ場所へ向かって走り出した。
「これで安心して戦えるぜ。骸竹壁雷! オレの打撃を耐えられるかな?」
 麟は蛙に向かって鋭い蹴りを放った。蛙はジャンプして蹴りをかわすと、もう一度ジャンプしてクルオの上を飛び越えようとした。
「のがすかあ! 骸鬼神鞭!」
 麟はローゼンクイーンを蛙に巻き付け、地上に叩き付けた。
「ふ……カエルさん従魔如きが骸忍術に対抗しようなど……千年早いぜ!」
 蛙は一瞬動きを止めたが、すぐに滑り台から離れる方向へとジャンプをした。公園から逃げ出そうとしているようだ。
「骸玄神磚! 逃げても無駄だぜ!」
 麟はフェイルノートで弓を放った。弓が蛙の背中に突き刺さる。
 蛙は背中に弓が刺さったまま、公園の出入り口を目指している。
「そうはいかないぜ」
 雁間は直剣を構えた。
「上海の蛙料理に何匹か丸のまま串刺しにする奴があるんだが……」
(数が足りんな。縦に割って誤魔化すか?)
 マリオンと心の中でそんな会話を交わしながら、雁間は剣で蛙の脚に斬りつけた。蛙が「ゲコ!」と怒りの声を上げる。
 蛙は長い舌で雁間を攻撃した。雁間は半身をひねって、蛙の攻撃をよけた。
「助太刀いたすのである!」
 木から降りてきた桜子が、コンユンクシオで蛙の舌を斬りおとした。
 続いて、滑り台から飛び降りた麟が、刀で蛙の背中に斬りつけた。
「骸飛燕斬! これで終わりだ!」
 蛙は息絶え、動かなくなった。
「あー、戦闘終わっちゃったかな?」
 子供たちを家族のもとに送り届けた望月と彩羽が、仲間たちのところに戻ってきた。
「終わったのである! わしは滑り台以外のところに、敵が隠れていないか見て回ってくるのである!」
(そしてついでにどの遊具が楽しそうか見るのである!)
 桜子は他の遊具に向かって駆けて行った。

●公園に恋の花、咲く
 HOPE職員が従魔の死体を片付け、滑り台の清掃を終えると、公園の立ち入り禁止は解除された。駐車場で待っていた人々が、ぞろぞろと公園に戻ってくる。
 公園の片隅で、救出した子供たちとその家族が、リンカーたちに頭を下げていた。
「本当にどうもありがとうございました!」
 クルオは子供たちの頭を優しく撫でた。
「僕らが来るまでこわかったろうに……良く、がんばったね」
 彩羽も、子供たちに声をかける。
「救助が遅くなって悪かったな。だが恐怖に負けないでよく頑張ったな。えらいぞ」
 そして、いろいろと遊びたそうにしている莎草を見て、
「良かったらうちの英雄が遊びたさそうにしているんでな。一緒に遊んでやってくれないか?」
「いいよ!」
 エイスケが元気に言った。
 彩羽は、莎草に向かって「あー、滑り台はすぐにはやめとけ」と小声で言ったが、莎草はにっこり笑って、ロング滑り台を指さした。
『もう滑っている人がいるの』
 振り返ると、わーわー言いながらロング滑り台を立ったまま滑っていくのは……クルオだった。クルオが滑り降りると、その奇抜な滑り方に、傍にいる子供たちが自然と拍手を始めた。
「楽しかったよ! でも、子供は危ないから真似しちゃ駄目だよ!」
 桜子は、ぴょんぴょん跳ねながら、騒いだ。
「ベルベットよ! すべりだい! しかもろんぐすべりだいであるぞ!! わしもあそんでみたいのである!! かように長いすべりだいははじめてみるのである!!」
『しょうがないわねぇ……少しだけよ~?』
 ベルベットの許しを得ると、桜子はロング滑り台のところに飛んで行った。
 桜子はきゃーきゃー言いながらロング滑り台を滑り終わると、
「ろんぐすべりだいいがいも楽しむのである! べるべっとよ次はあれであるぞーーー!」
と、どこかに消えて行った……。
 望月はシオリに声をかけた。
「恐かった? 面白かった?」
 ちょっと挑発気味に誘ったのは怖い思いを記憶しないうちにもう一回、滑り台をやってもらおうという心遣いからである。
「面白かった。一緒に滑り台滑ろうよ」
(あー、お尻が痛くなるけど、我慢するか)
「いいよ。滑ろう。百薬も滑ろう」
 シオリ、望月、百薬の三人は、ロング滑り台に向かって走って行った。
 麟は莎草と一緒に、エイスケ、エイスケの弟二人、ワタルとおっかなびっくり遊び始めたが、ふと気づくと自分だけ見知らぬ子供たちに囲まれていた。
「お姉ちゃん、髪長いねー」
「あ、ちょっと引っ張らないで」
「このジャージ、どこのブランド?」
 完璧に子供のオモチャにされていた。
 麟は子供たちの輪からどうにか脱け出して、宍影のところに行った。
「まだ、髪が痛いよ……情けは人の為ならずとはよく言ったものだね」
『……その誤用は新鮮でござるが、少々情け無いかと』
 宍影は苦笑いした。

「滑り台、とっても楽しかったんだけど……足の裏がまだ誰かにマッサージされているみたいで気持ち悪いよ」
『それだけの体重がかかれば、そうなるわね』
 クルオとみずくが話しているところに、望月、百薬、シオリが駆けてきた。
「クルオ君、シオリちゃんがね、渡したい物があるんだって」
 望月の言葉に、シオリは少しもじもじしていたが、「これ、あげる」とクルオに小さな物を手渡すと走り去った。
 クルオが手渡されたのは、「初恋の味の甘酸っぱいグミ」と書かれたお菓子の袋である。
『わー、素敵!』
 百薬が羽をパタパタさせて、両手を頬に当てた。望月も羽こそないものの、百薬と同じポーズをして、顔を赤らめる。恋バナが大好きなお年頃なのである。
「……じゃ、みんなで分けて食べよう」
『お待ちなさい。それはあなたが一人で食べるべきだわ』
 袋を開けて皆に分けようとするクルオをみずくは押しとどめた。
「……そうなのかな?」
「あまずっぱいグミ、とな? わしも食べるのである!」
 グミという言葉を聞きつけた桜子が、突然乱入してきた。ベルベットはその場の状況をすぐに察知すると、桜子の肩をぐるっと回してジャングルジムの方向を向かせた。
『見て、あのジャングルジム。すごいのよ~。てっぺんに鐘がついていて、鳴らせるようになってるの』
「すでにそれはチェック済みである! わしも鐘を鳴らすのであるー!」
 桜子はジャングルジムの方に走って行った。ベルベットはクルオたちに向かって、親指を立てると、桜子のあとを追いかけて行った。
 クルオは、グミの袋を学生服のポケットにしまった。
『あら、食べないの?』
「……もったいなくて……食べられないよ」
 クルオは、楽しそうに遊んでいる子供たちを見つめ、これからも子供たちを守るために戦うことを胸に誓った。

 同じ頃、公園の他の場所で、もう一つの恋の花が咲き、あえなく散った……。

「あの、わたしと付き合ってください!」
『断る。幼児に興味はない』
 ベンチに座っている雁間とマリオンの前にやってきたのは、二人の少女。ツインテールの少女と、おかっぱ頭の少女であった。
 マリオンに告白してあっさり振られたツインテールの少女は、「ひどい!」と両手で顔を覆って泣き出した。
「そうよ! ひどいわ! ちょっとかっこいいからって、いい気にならないで!」
 おかっぱ頭の少女は、マリオンを睨みつけ捨て台詞を吐くと、ツインテールの少女と一緒に立ち去った。
『ひどいのは、どっちだ。だから、子供は嫌いだ』
 マリオンは仏頂面である。
「子供とはああいうものだ……救出した子供たちは、元気に遊んでいるな。心は傷ついているのかもしれないが」
 雁間は、鬼ごっこをしたり、ロング滑り台を滑ったりしている三人を見ながら、呟いた。
『心の傷を消すのが成長とは思わぬな……抱き留める手があればいずれ糧となろう』
「そうか? そのまま潰れる奴の方が多いぜ」
『成長とは潰れ失い、残された物を見つめる事だ。問題ない』
 ベンチに座っている二人を見た人がいても、二人がこのような深遠な会話をしているとはまったく思わないだろう。
『ここにいたら子供がまた近寄ってくるな。帰るとしよう』
 マリオンと雁間は、公園の出入り口に向かった。
 公園の出入り口の外に車が止まっていて、HOPE職員が帰り支度をしていた。それを見た雁間に、いたずら心が芽生えた。
「すいません。この子も事件を目撃してショックを受けたようでね。ちょっとケアしてくれませんか? 保護者どこに居るんですかねぇ?」
『あ? 何を言うγ!』
「わかりました。じゃ、僕、ちょっと車の中でお話しようか。怖い思いをして大変だったね」
 HOPE職員が車の中にマリオンを押し込む。マリオンは車の窓から、恨みに燃える双眸で雁間を睨んだ。
 雁間は「アディオス」と手を振ると、のんびり歩き出した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エージェント
    無音 彩羽aa0468
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843

重体一覧

参加者

  • エージェント
    無音 彩羽aa0468
    機械|23才|男性|回避
  • エージェント
    夜帳 莎草aa0468hero001
    英雄|10才|女性|シャド
  • エージェント
    黄泉坂クルオaa0834
    人間|26才|男性|攻撃
  • エージェント
    天戸 みずくaa0834hero001
    英雄|6才|女性|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • 迷名マスター
    宍影aa1166hero001
    英雄|40才|男性|シャド
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
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