本部

【白刃】山とNINJYAと目玉がいっぱい

雪虫

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
9人 / 5~9人
英雄
9人 / 0~9人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/07 18:29

掲示板

オープニング

●白き刃へ抗う為に
「総員、準備はよろしいですか?」
 映像で、音声で、出撃し往くエージェント達にオペレーター綾羽璃歌が声を掛ける。
「H.O.P.E.東京海上支部としては初の大規模作戦。それに伴い、今回皆様には別働隊として動いて頂きます」

 展開されたドロップゾーン。
 そこから溢れ出す従魔、呼び寄せられる愚神。
 別働隊はそれらを叩き、これ以上のゾーン拡大を防がねばならない。

「大規模作戦の成功……アンゼルム撃破の為にも、皆様の任務遂行が必須となります。
 ——どうか皆様、御武運を!」

●宿営地
「君達には、E地点にカメラと集音機を設置してきてもらいたい」
 オペレーターはそう言うと、足元にあるカメラと集音機の入ったリュックサックへと視線を落とした。
「現在この生駒山にドロップゾーンが展開され、従魔や愚神の出現が激化している事はすでに聞いていると思う。それにいち早く対応するために、カメラと集音機を設置する事になった。……まあ、ただの気休めかもしれないが、ないよりはずっとマシだろう。もちろん、愚神や従魔に出くわす危険も十分にある。それらの討伐も任務ではある。だが、無理はするな。君達一人一人が貴重な戦力である事をきちんと肝に命じるように」
 それから、と、オペレーターはあなた方に紙の束を差し出した。
「これは、現在報告されている従魔や愚神の資料だ。出発前にきちんと目を通しておいてくれ。それでは、君達の武運を祈る」
 オペレーターは言葉を切ると、あなた方に対してビシリと敬礼の姿勢を取った。あなた方もオペレーターに一人一人敬礼を返し、そしてあなた方能力者と英雄は、それぞれカメラと集音機の入ったリュックを一つずつ背負い、目的地へと歩いていった。

●E地点
「えーと……この辺り……でござるな」
 ガイル・アードレッド(az0011)は立ち止まると、背負っていたリュックを下ろし「ふう」と小さく息を吐いた。それに合わせてあなた方もリュックを下ろして辺りを見回す。
「従魔や愚神はおらぬでござるな。センジツは大変だったでござる」
「あらーん、ガイルちゃんったら弱気ねん。デランジェちゃんを頼ってくれないなんて、そんなのとっても悲しいわん」
「デランジェの事はもちろんトラストしてるでござるよ。バット、今このマウントはアブノーマルなステイトとオペレーター殿も言ってたでござる。拙者、センジツのようなテッツを踏みたくはないでござるから、ここはきちんとサイシンのケアを払うでござ……」
 デランジェ・シンドラー(az0011hero001)と会話をしていたガイルは、突然振り向きあなた方に「しー」と人差し指を立てた。そして手帳を開き、「何かいるでござる」と文字を書いてあなた方の視界に映す。
『センジツ、オンリーヒアという音にハンノウするジュウマに出会ったでござる。音を出しちゃダメでござる。しーでござる』
 カタカナがほとんどを占めている、実に読み辛い文章でガイルは必死に説明した後、従魔を発見した前方へとサングラス越しに視線を戻した。すると山の奥から、トカゲのような姿をした、全身にたくさんの目がついた奇妙な生物が出現した。
「…………あれ?」
 ガイルが思わず呟いた瞬間、トカゲの全身についた目が、ギョロリと一斉にある一点を向いた。そして四本の足を動かし、視線の先にいる人間……ガイルに向かって走り出す。
「う……うわああああああああ!」
 自分がターゲットである事に気付いたガイルは、反射的に背を向けて従魔から逃げるべく走り出した。全身に目を生やしたトカゲのような見た目の従魔は、あなた方には目もくれずガイル目掛けて一直線に走っていく。
「なにゆえ……なにゆえミーばかり! ぎゃああああああ!」
 多分、そんな目立つ格好しているから……というツッコミを、今は入れている場合ではなかった。

解説

●目標
従魔の討伐及びガイル・アードレッドの救出及びカメラと集音機の設置

●敵情報(全員渡された資料により把握済み)
オンリーウォッチ×1
 聴覚と嗅覚が存在せず、視覚のみで敵を発見し襲い掛かってくる従魔。全身に全部で15個の目がついている。全長1m50cm。一度認識した敵が死ぬか視界から完全に外れるまで追いかける。
 体部分に衝撃を受けると体を中心に目が四方八方に4スクエア内に吹き飛び、吹き飛んだ先でオンリールックに変化する。変化には1ラウンド掛かる。目だけを攻撃する事が出来れば目を潰す事は可能。
・猛毒噛み付き
 噛まれると猛毒により【減退】付与。減退状態に噛み付かれる度に減退(x)のxに1ずつ数字が加算される。木が噛まれた場合その木は腐って倒れる。

オンリールック
 聴覚と嗅覚が存在せず、視覚のみで敵を発見し襲い掛かってくる従魔。全長80cm。オンリーウォッチからオンリールックに変化した際、敵の情報は一度リセットされる。移動と回避が上がる。一度認識した敵が死ぬか視界から完全に外れるまで追いかける。
・毒噛み付き
 噛まれると毒により【減退】付与。木が噛まれた場合その木は腐って倒れる。
・尻尾ブーメラン
 前方に範囲3スクエアのブーメランを飛ばす。

●NPC情報
ガイル・アードレッド
 回避適性。現在オンリーウォッチに追われており、このままだと2ラウンド後に噛まれてしまう。
デランジェ・シンドラー
 シャドウルーカ―。ガイルと接触するまで共鳴する事は出来ない。
・縫止
 ライヴスの針を発射し、対象の行動を阻害する。【封印】付与。
武器:リボルバー/鉤爪

●マップ情報
生駒山E地点
 現在生き物は一匹もいない。北西に三十分降りるとH.O.P.E.の宿営地がある。駆け込むと救援が得られるがミッション失敗とする。

●持ち物情報
カメラと集音機の入ったリュック×参加人数分、無線機、手帳、ペン、各自装備アイテム、あんぱん(おやつ)

リプレイ


 佐倉 樹(aa0340)は、今目の前で起きたばかりの出来事を何処か遠い目で眺めていた。音を立てて走っていった物体達から目を逸らし、足下に置いてあるリュックを見つめ淡々とした口調で呟く。
「よし、任務をこなそうか」
「ミナカッタ事にしチャウにハ、チョット派手過ぎダネ、あレハ」
 本気でどうでもよさそうな塩対応過ぎる相棒に、シルミルテ(aa0340hero001)は歌唱用の合成音声で呟いた。一方、餅 望月(aa0843)も、山の奥へと走っていくガイル・アードレッド(az0011)と従魔を眺めて呟く。
「出たか従魔。ガイルさん、あなたのことは忘れない。……っていうわけにも行かないか、そういえば従魔退治も依頼に含まれていたんだっけ」
 望月が独白したように、今回言い渡された任務はカメラと集音機の設置だが、愚神や従魔に出くわした場合はその討伐も含まれている。何とも言えない空気が辺り一体に漂う中、小鉄(aa0213)もまた走っていったガイルと従魔の背中を目で追った後、額に機械の右手を当て嘆くように口を開く。
「ガイル殿にも資料は渡されていたはずなのでござるが……ぜ、前回の反省を踏まえてる所までは良かったでござるよ!」
「今はとにかく急ぐわよ! あの目玉をなんとかしなくちゃ、あのままだと噛まれちゃう!」
「そうだな、ロックオンされちまってるし、やばそうな敵だ。早く倒した方がいい」
「ガイルさんってあいどる? って聞いたッス! 今はとにかく助けるッス!」
 小鉄の嘆きに稲穂(aa0213hero001)が拳を握って声を上げ、さらに柏崎 灰司(aa0255)と齶田 米衛門(aa1482)も稲穂の意見に同意を示した。米衛門の少しズレた台詞にスノー ヴェイツ(aa1482hero001)が「あいどるって何だ? 食いもんか?」とさらにズレた質問をしたが、稲穂の言うように今はのんびりしているような場合ではない。謂名 真枝(aa1144)はいち早く謂名 なな(aa1144hero001)と共鳴を果たすと、ガイルと従魔に追い付くべくいの一番に駆け出した。全力で山を駆ける真枝に、ななが苛立ち混じりに声を掛ける。
『主様、此度はどうか私にお任せ願います』
「別にいーけど、ボクの身体なんだからあんまり無茶しないでねぇ……」
 ななは意識の中で頷くと、スピードを緩めぬまま従魔、オンリーウォッチに肉薄し、そのまま縫止を敵へと放った。しかし、ライヴスの針は従魔に刺さる事はなく、隣を走る真枝の様子に気付いたような風もない。
「うーん、足は止まらないか。当たればラッキー、本体に当たったらそこはゴメンね!」
 同じく百薬(aa0843hero001)と共鳴した望月はスナイパーライフルを出現させると、オンリーウォッチの十五個ある目の一つを狙って引き金を引いた。しかし、弾丸は従魔には当たらずその左隣に着弾し、オンリーウォッチはそれにも気付かずただひたすらにガイルを追う。
「隣を敵が走っても、弾が当たっても気付く様子もなし、か。これはガイルへの追撃を緩めさせるのは無理そうだな」
 レイミア(aa0156hero001)と共鳴した古代・新(aa0156)は呟くと、ガイルを追いながらオートマチックを出現させ、従魔の目へと狙いを定めた。同じように、御童 紗希(aa0339)、灰司、樹も遠距離用の武器を取り出し、それぞれの位置から従魔の目を撃ち潰さんと照準を合わせる。銃弾が、矢が、ライヴスで作り出された魔法の剣が、ほぼ一斉にオンリーウォッチの目玉に向かって襲い掛かった。しかし攻撃の内二つはオンリーウォッチ本体からもわずかに逸れ、残り二つはオンリーウォッチの胴体へとぶち当たった。その瞬間、オンリーウォッチの身体が崩れ、同時に全身に生えていた十五個の目玉が一斉に方々に飛散した。目玉がオンリーウォッチから分離した場合に備え待機していた小鉄と米衛門が、それぞれ手に大剣と斧を携えて立ち塞がる。
「米殿、ここは連携と洒落込むでござるよ」
「……(ハンドサインで了解の合図)」
『ひっさつの、怒涛乱舞!』
 二人のドレッドノートは正確に目玉を見据えると、怒涛の勢いで踊るように刃を目玉に叩き込んだ。切り裂かれた目玉はくす玉のようにぱっくりと割れ、霧となって虚空へと立ち消えていく。
「我ら御庭番コンビ、殴ってから後の事考えるッス!」
「拙者、今日は暴れさせて頂くでござる」
『だから何時も忍んでないでしょ!』
 米衛門と小鉄が高らかに声を張り上げ稲穂がツッコむその横で、二人と同じく目玉の爆散に備えていた真壁 久朗(aa0032)もブラッドオペレートを用いて目玉を細かく切り刻んだ。威圧的で近寄りがたいと言われる雰囲気を崩す事無く、残りの目玉を見据えながら久朗は無愛想な口調で呟く。
「目玉だらけとはまた……難儀な従魔だな」
『どこか痒くなったら大変そうですね!』
 何処かズレた回答をするセラフィナ(aa0032hero001)に思わず苦笑を浮かべながら、久朗は注意深く残った目玉を数えていた。オンリーウォッチが爆散した時に飛び散った目玉は全部で十五個。小鉄と米衛門が合わせて五個、自分が今二個を仕留めたので、目玉の数は残り八個、そこから発生する一つ目のトカゲ型従魔、オンリールックは八体となる。オンリーウォッチから落ちたばかりの目玉を破壊するのは難しくはない。ただ飛び散る範囲が広過ぎるのだ。三人が七個の目玉を仕留めた間に、オンリールックはすでにその姿を現し、新たな獲物を探すべくその目玉を動かし始めた。
 一方、ガイルの身柄を確保すべく動いていた真枝とななは、逃げていたガイルを無事に捕らえ、その胴に腕を回し肩に担ぎ上げていた。真枝は共鳴した状態でもガイルより十センチは背が低いが、共鳴したリンカーであれば人間一人抱える事など造作もない。真枝と、特に今回強い意志を以て主導を頼んだななは戦場を一瞥すると、戦線を一度離脱するべく元来た方へと駆け出した。真枝とガイルを従魔の追撃から守るべく、灰司と新が同時に従魔の前へと躍り出る。
「俺の名前は古代・新! 世界を旅する高校生冒険家見習い! 今度はストーカーかこの野郎! 現法上有罪だ目玉野郎! お前の行くべき先は二つに一つ! 大人しく裁きを受けてあちらに戻るか! 或いはぶっ飛ばされてあちらに戻るかだ!」
 新はライオットシールドを構えハイカバーリングをガイルに掛けつつ、一つ目トカゲ型従魔に対して盛大に声を張り上げた。もっとも、オンリールックには聴覚が存在しないため、新の前口上は一ミリも届いていなかっただろうが……だが、そんな些末な事は、敵に対して真正面から正々堂々名乗りを上げる、そのロマンには一ミリだって傷を付けるものではない。
「死なない程度に指導をお願いするでござるよ」
 一方、小鉄は真枝と、真枝に抱えられているガイルを一瞥し、そんな事をぽつりと漏らした。そして、今は目の前の敵に集中するべく、自分にぎょろりとした目玉を向けている従魔へと素早く意識を戻した。


 真枝とななはガイルを抱えたままデランジェ・シンドラー(az0011hero001)の待つ位置まで戻ると、従魔が追ってきていない事を確認してからガイルを地面の上へと降ろした。そして無線機でデランジェと合流した事を仲間達に伝えた後、冷たく厳しい瞳でガイルを見下ろし、懐から小太刀を取り出してガイルの足下へと放り投げる。
『お前も忍びを名乗るならば身の丈を誤り突出して任務に失敗、あまつさえ救助までされるなど恥と知れ。自害するなら情けで介錯はしてやろう』
 怒りを含んだななの声で語り掛けられ、ガイルは俯いて小太刀を拾い、黙ったまま視線を落とした。表情は見えないが肩が震え、絞り出すように声を漏らす。
「ソ―リーでござる。拙者、またやってしまったでござる……」
『忍びとは格好や戦法ではない、心を研ぎ澄まし刃と成して一振りの刀となれ。恐れるな、侮るな、そして己の考えを貫け。去るも追うも勝手だが、足手まといなら化け物と一緒に叩き斬るぞ』
 ななは鋭く言い放つとガイルの足下に無線機を置き、仲間達の元へ戻るべく座り込むガイルに背を向けた。そんなななに、真枝の意味ありげな含み笑いが聞こえてくる。
「ぷぷぷ、まるでニンジャマスターだねぇ。B級映画のワンシーンみたいだったよぉー!」
『主様……あまりからかわないで下さいまし……』
 ななは先程の厳しい口調から、いつもの古風で穏やかな口調で主に向かって言葉を返すと、自身の忍びとしての任務を果たすべく仲間の元へと駆けて行った。一方、その場に残されたガイルは、ななの置いていった小太刀と無線機にぼんやりと視線を落としていた。その無線機から人の声が聞こえ、ガイルは無線機を拾い上げる。
「もうすもうす……」
「ガイル君かい? ちょっとお願いしたい事があるんだけど、いいか?」
 聞こえてきた灰司の声に、ガイルはしばし沈黙した。小太刀の柄を握り締め、少し湿っぽい声で答える。
「なんでござるか」
「この敵、やっかいなスキルを使って来るし、縫止を使ってスキル封じして貰えたらなぁと思ったんだが、戦闘の方に参加できそうか? 万が一怪我とか疲労で動けないなら、無理しないでいいからな? 休んでろよ?」
 灰司は気遣わしげにそれだけ言うと、ガイルの返事を待たずに通信を切った。恐らく戦闘に巻き込まれているのだろう。無線機の向こうからは、微かに仲間達の声と従魔の声が聞こえていた。
 別に怪我はしていない。怪我をする前に真枝とななが助けてくれたから。走った事による疲労はあるが、共鳴すればどうにでもなる。しかし、こんな自分が今更戦いに参加した所で、役に立つ事が出来るだろうか。
「ガイルちゃん、どうするのん?」
 問い掛けてくるデランジェに、ガイルはぐっと顔を上げた。その眉は情けなく八の字に下がっているが、背を向けて逃げようなどという考えはその瞳には見当たらない。
「行くでござる。もちろん。拙者は、NINJYAでござるゆえ。足手まといかもしれぬでござるが、もう逃げたりしないでござる」
 ガイルはデランジェと共鳴すると、仲間達が戦っている戦場へと駆けていった。ななが置いていった小太刀と無線機を、強く握り締めながら。


 八匹のオンリールックは一つ目にそれぞれ敵の姿を映したまま、敵の動きを探るかのように沈黙を保ち続けていた。従魔と一口に言ってもその種類は千差万別であり、その強さも、特性も、知能レベルも、虫と獣、獣と人間程の違いを生じる場合もある。このトカゲ型従魔も、実際の所どの程度の知能を有しているかは分からない。しかし、一瞬でも気を抜けば襲い掛かってくるだろう事はどうやら確かな事だった。
『結構カワいいネ』
「多分、それは少数派」
 シルミルテと樹はオンリールックを前にそんな会話を行っていたが、従魔達は樹が「あっかんべー」をしても視線を向ける事はなかった。その視線はそれぞれ自分達の目の前にいる久朗、新、小鉄、灰司、米衛門の姿を捉えており、特に仲間達を殺された恨みとでも言わんばかりに、久朗と小鉄と米衛門の前には二匹のオンリールックが構えていた。互いに探り合うような均衡状態。一番先に動いたのは、引き続きスナイパーライフルを構え従魔を狙っていた望月だった。
『いっけー!』
 自称天使、百薬の声援を受け放たれたスナイパーライフルの弾は、今度は見事米衛門の前にいた従魔の胴体を貫いた。体勢を崩した従魔に米衛門がすかさずオーガドライブを叩き込んで霧散させ、しかしそこに米衛門を狙っていたもう一匹の牙が迫る。
「おっと!」
 従魔が米衛門に飛び掛かる寸前、新が盾を構えた状態で従魔の前へと躍り出た。盾に弾かれた従魔の口に、さらに新は支給品のあんぱんを丸ごと放り投げる。
「なんであんぱん投げたッスか?」
「俺らとしては唯の食物だが、奴らにとってはどうなのかね?  理解したい訳じゃないが、ちょっとした嫌がらせって奴さ」
 米衛門の疑問に答える新の耳に『あんぱんがあっ!』というレイミアの悲鳴が聞こえてきたが、新は努めて聞こえないフリをする事にした。しかし直後従魔の口の中で真緑色になったあんぱんに、それが無駄な努力であった事を思い知る。
『あ、あんぱーんっ!』
「分かった! 俺が悪かった! 食べ物を粗末にするのは良くないな!」
『オレも食いもんを粗末にするのは許さねえぞ!』
 思わぬダメージをレイミアとスノーに与えつつ、従魔は尻尾を振りかぶりブーメランを二人に放った。しかしブーメランは新のライオットシールドにぶち当たりそのまま従魔へと戻っていく。
 その少し離れた所では久朗が、フラメアを構えたまま二匹の従魔に鋭い視線を送っていた。涎を垂らし、口を開けて飛び掛かってきた従魔の一匹に、槍の柄をわざと噛ませて防御し、さらに足で蹴り飛ばす。そして従魔を薙ぎ払わんと斜めに槍の刃を振るい、空中で仕留められた従魔は虚空の彼方へと立ち消えていく。
『クロさん、僕こういう目玉のキャラクターが出てくるマンガ読みましたよ!』
「お前はまた、世俗の影響浮けまくってるな……」
 セラフィナに律儀に言葉を返しつつ、久朗はもう一匹の放ったブーメランをライオットシールドで弾き返した。そのさらに離れた所では小鉄が、やはり二匹の従魔相手にツヴァイハンダ―で応戦している。
「忍びの技、その眼に焼き付けるでござる」
『目ん玉なんか潰しちゃえ!』
 稲穂の声援を受けつつ、小鉄はへヴィアタックを乗せた大剣を頭上に振り上げた。従魔はその攻撃を避けようとしたが胴に紗希の放ったスナイパーライフルの弾が当たり、動きの止まった目玉目掛けてツヴァイハンダ―が振り下ろされる。
「御童殿、ナイスアシストでござる!」
『気イ抜くなよ、まだ目玉は残ってんだからな』
「分かってるわよ」
 ぶっきらぼうな物言いのカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)に返事をしつつ、紗希は再び銃の照準を別の従魔へと狙い定めた。その一方で灰司もまた、目の前にいる一匹の従魔目掛けて剣を振るう。
「こいつら、ちょこまかしていて厄介だな」
「ううぅ、せっかくあんぱん楽しみにしてるのにぃ……ちゃっちゃと倒しちゃおうなのさ!」
 ティア・ドロップ(aa0255hero001)の訴えに「そうだな!」と答えつつ、灰司は従魔を仕留めるべくライオンハートを縦に振るった。それを避け、ブーメランを飛ばそうとする従魔を、駆け付けた真枝の刀が薙ぎ払う。
「真枝君、戻ったか」
「謂名殿、ガイル殿への指導は死なない程度でござろうな」
「さあて、どうだろうねー」
 含みのある真枝の返事に苦笑いを浮かべつつ、リンカー達は残った従魔の群れへと視線を向けた。どれだけの知能を有しているのか外見からは定かでないが、自分達が不利な事は感じているのか、心なしかリンカー達から距離を取ろうとしているようだ。従魔達がじりじりと後退して一か所に集まった、そこにライヴスで作られた不浄の風が吹き荒ぶ。
「風と炎が通るよ!」
『ゴ注意あレ!』 
 樹とシルミルテの声と共に、今度はライヴスの火炎が従魔達へと襲い掛かった。トカゲ型従魔はあっという間に黒焦げになり、地面の上にどたりと落ちる。
『こッチもコンガリ!』
「上手に焼けましたー(棒)」
「先に倒したのが七体、俺達が斬ったのが計四体、今焼け焦げたのが四体……計十五体、か。これで全部だな」
 シルミルテと樹のトドメのセリフに引き続き、久朗が冷静に呟いた。ついに現れなかったガイルに、灰司が残念そうに呟く。
「ガイル君は来なかったか。俺が無理はするなと言ったんだ。あまり怒らないでやってくれよ」
『…………』
「ま、いいんじゃないの、別に。ボクはそんな事より一秒でも早くおふとんに戻りたい……」
「ミナサマ、まだジエンドじゃないでござる!」
 突然飛んできたガイルの声に、全員が黒焦げになった従魔達へと視線を向けた。そこには目玉まで真っ黒に焦げ果てた、しかし牙を剥いて唸り声を上げる四体の従魔の姿があった。従魔の一匹がよろめきながらも立ち上がり、尻尾を振ろうとしたその瞬間、ライヴスの針が発射され従魔の動きを封じ込める。近接武器を手にしたリンカー達が一斉に刃を叩きつけ、そして黒焦げとなった従魔は、黒い灰となって崩れ完全にこの世から消え失せた。
「遅くなって……ソ―リーでござる……」
 心の底からすまなそうな声に一同が視線を向けると、そこには、気まずそうな顔で立っているガイル・アードレッドの姿があった。


 一人の男が、木の根元に座り込み、真剣な目付きで足下に生えているキノコに視線を落としていた。男はキノコを手に取り、あちこちと角度を変えながらしばらく吟味していたが、やがて眉を八の字に下げキノコを地面の上へと戻す。
「……いだましな、えぐね」
 米衛門は東北訛りで呟くと、隠れ筋肉質の肩をガクリと落とした。ドロップゾーン近辺にある食物が食べられるかどうか、それが気になりこの機会に調べてみる事にしたのだが、
「やっぱり影響受けちゃってるんッスかね……」
「その辺りは今後の研究課題と言っていいな。もしかしたら従魔に一時的に取り憑かれた植物もあるかもしれないし。共鳴状態のリンカーであれば食べても問題ないという話も聞くが、少なくとも一般人にはあまりお勧め出来ないな」
 無線機から聞こえてきたオペレーターの声に、「悲しい話ッスね」と米衛門は言葉を返した。従魔の群れを退治したリンカー達は一度E地点まで戻り、カメラと集音機の設置について指示を仰ぐ事にした。
「カメラと集音機の設置場所については君達の判断に任す。愚神や従魔に見つかりにくいように上手くカモフラージュしておいてくれ。それから命中力についてだが、僅かしかない急所を狙って攻撃する事は胴体などの広い場所を狙うよりも難しく、ましてや相手や自分が動いていたり、遠い場所にいる時はさらに命中力が下がるものだ。普通の生き物ならいざ知らず、愚神や従魔やヴィラン相手は特にな。だが、君達はよくやった。今の話は今後の参考程度にしておいてくれ。帰るまでが任務だからきちんと気を付けて帰るんだぞ」
 「小学生の遠足かよ」、とツッコミたくなるような締めでオペレーターは通信を切った。しかしオペレーターの言うように、従魔を倒して任務終了という訳ではない。真枝は一通り辺りを確認した後「とりあえず大丈夫そうだよ」と全員に連絡を入れ、一同はそれぞれ木の上やうろ、草むらなどに機材を設置していった。
「これも大事なお仕事ね!」
「気休めかと思ってたら意外とそれで救われることもあるしね。打てる手を打つのはいいことだよ」
 稲穂や望月も感想を述べつつ作業に当たり、そして機材の設置は終了した。全員集合し異常がない事をそれぞれ確認した所で、「あー、疲れた」と灰司がその場に座り込んだ。そしてそのまま後ろに倒れ、青空と紅葉のコントラストを視界に収める。
「やたらと動き回って疲れたなぁ……あんぱん食おうぜ、あんぱん。ティアー、お前いっぱいおにぎり握って持って来てただろう。あんぱん苦手な人やおにぎり食いたい人に配るぞ」
「おお、助かるぜ。甘いものと生魚は苦手でよ」
「んーっとね、おにぎりの具は鮭、おかか、梅、ツナ、タコウィンナーと四種類あるから好きなの選んで食べてほしいのさ。はい、カイさんは鮭、クロウさんはおかか、マエダさんはウィンナーね♪ 他にもあんぱん苦手って人がいたらよかったら、どうぞーなのさーっ」
「僕、敷物と、虫よけと、お手拭きと、緑茶を持ってきましたよ。シルミルテさん、お手拭きどうぞ!」
「リュックがパンパンだったのはそのせいだったか……」
 灰司の言葉にカイが乗り、ティアがリュックからおにぎりを取り出し、セラフィナが敷物とお手拭きを広げ、久朗が半ば呆れたように呟いた。さらにそこに望月と百薬が顔を出し、敷物の上にサンドイッチを並べていく。
「出発前にあたしもお弁当作ってきたんだー。ハムレタス、玉子、季節のマッシュパンプキンの三種類。オーソドックスな薄切り食パンにバターを塗ってまーす。百薬はサンドイッチ知ってる?」
「伯爵の名前なら」
「あれ? 物知り設定生えてきた? しっかし形式上の依頼で秋の紅葉ハイキング楽しんで来いなんて、H.O.P.E.もたまにはいいこと言ってくれるじゃない。あ、紅茶もあるからね」
「ビールもあれば最高なのにな」
「何か……色々違うぞ……多分」
 望月とカイのセリフに、一応新がツッコミを入れた。一方、新の相棒のレイミアの方は敷物の上をキラキラとした目で見つめている。
「うわあ~、どれもおいしそうです。嬉しいです! 私のあんぱんなくなっちゃったから! ……あんぱんなくなっちゃたから……」
「……」
「とりあえずさっさと食おうぜ! 旨い飯は旨い内に食わなきゃなあ」
 レイミアに睨まれ視線を逸らす新を押しのけ、スノーも喜々としながら敷物へと上がり込む。セラフィナが緑茶を、望月とななが紅茶を全員に配りだし、そして偵察と言う名のお弁当タイムは幕を開けた。
「セラフィナー、あんぱン半分コー♪」
「ありがとうございますシルミルテさん。あ、クロさんと分けたこのあんぱんはどうしよう」
「帰ってからまた食べたらいいんじゃないか」
「マリ、お前あんぱんなんて食べて大丈夫なのか? ダイエットはどうし……グフッ!」
「三キロ減ったから大丈夫! それにカイ、こういう所でダイエットとか言わないで!」
「佐倉さんも来るッスよ~」
「ラジャーヨネさん。しかしこのあんぱん粒あんだったか……趣味がいいね」
「おにぎりも悪くないけど、チョココロネが食べたいな」
「主様、今はティア殿が作って下さったおにぎりをお楽しみ下さいませ。では私は勝利のあんぱんを……」
「た、頼もう……なな殿……」
 消え入りそうな程の小さな声にななが後ろを振り向くと、ガイルが眉を八の字に下げ、正座をした状態でななの事を見つめていた。そして、無線機と小太刀を取り出し、ななの前にそれらを差し出す。
「お借りしていた物でござる。助けて頂きサンキューでござる。ミナサマも、助けて頂いてサンキューでござる。メイワク掛けてソ―リーでござる……」
 ガイルは言いながらしゅんと肩を落としていた。一応縫止を使って敵を封じ込めたとはいえ、自分が出ていかなくとも大丈夫だっただろう事はガイルにもよく分かっていた。ななはあんぱんを置き、ガイルにきちんと顔を向けると、同じ忍びとしてきっぱりとした口調で言葉を並べる。
「ガイル殿、実は私も、かつて失敗した事があるのです。取り返しのつかない失敗を……未熟であるという事は、自分の本当に守りたいものを失う事に繋がる場合もあるのです。忍びを志すのであれば心を刃となさいませ。それが忍びでございます」
「……ご指導……サンキューベリーマッチでござる……」
 ガイルは、ななに正座したまま頭を下げたが、表情は相変わらず沈んでいた。そこに米衛門が近付き、ガイルの肩を盛大に叩く。
「ガイルさん、二度ある事は三度あるッス!」
「さ、三度!? 拙者またミステイクするでござるか!?」
「あー、そういう事じゃなくってッスね、失敗は誰にでもあるって意味ッス。一緒に頑張るッスよ」
「米衛門殿……」
「ガイルさん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「な、なんでござるか、セラフィナ殿」
「僕もNINJYAになれますか!?」
「え……」
「僕、興味があるんです。僕もNINJYAになれますか? ござるって一体なんですか?」
 セラフィナの問いは、自分の知らない珍しいものに対する純粋な好奇心からの質問だったが、ガイルはその天の川のような美しい緑の瞳に、時代劇の忍者に憧れ目を輝かせていた幼い頃の自分を見た。ガイルはセラフィナに向けて少し泣きそうな、くしゃりとした笑みを浮かべてみせる。
「なれるでござるよ、諦めないで一生懸命頑張れば。拙者も、絶対に諦めたりなんてしないでござる。一生懸命頑張るでござる」
「ふむ、甘味は疲れた身体に効くでござる。これを食べるといいでござるよ」
 小鉄がガイルにあんぱんを差し出し、ガイルはそれを受け取った。きょとんとしているガイルの顔を、稲穂も小鉄の後ろから覗き込む。
「まだ次があるわ。頑張りましょう。あ、でもあんまりだと次はこれが寿司になっちゃったりして」
 稲穂の言葉に、ガイルの顔からサアッと血の気が引いていった。急いであんぱんを口に詰め込み、リスのように頬を膨らませてから飲み込んだ後、粒あんを口の端につけたまま必死の形相で訴える。
「だ、大丈夫でござる! 元気いっぱいでござる! もうミステイクはしないでござる! だから、SUSHIとWASABIだけはどうか、どうかゴカンベンを!!」
「さすがに寿司は無いでござろう……」
「しかしまあ、何が起きるかと思ったが、収まる所に収まったな」
「本当ねん、良かったわん」
 一部始終に対して新が呟いた感想に、いつの間にか座っていたデランジェの声が割り込んできた。驚く面々を見渡してデランジェは笑みを浮かべる。
「ガイルちゃんを助けてくれてありがとねん。ガイルちゃんってばドジでおマヌケな所もあるけれど、一生懸命なのは本当よん。迷惑を掛けちゃうかもしれないけど、また一緒の時はよろしくねん」
「せ、拙者からも、よ、よろしくオネガイでござる!」
 デランジェの言葉にガイルが続き、一同に向かって頭を下げた。こうして、平和で平穏な一時は過ぎていく。そしてまた新たな戦いが始まるのだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 再生者を滅する者
    古代・新aa0156
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    レイミアaa0156hero001
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 薔薇崩し
    柏崎 灰司aa0255
    人間|25才|男性|攻撃
  • うーまーいーぞー!!
    ティア・ドロップaa0255hero001
    英雄|17才|女性|バト
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 名探偵
    謂名 真枝aa1144
    人間|17才|男性|回避
  • スパルタティーチャー
    謂名 ななaa1144hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
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