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中の人なんて……いるの?
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相談卓
最終発言2015/09/22 01:17:58 -
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最終発言2015/09/19 01:38:11
オープニング
●某アミューズメントパーク、フェアリーテイルエリア
暑い日が続いていた。連日三十度を超える真夏日。熱中症で倒れる者も続出。
それでも夏休みになると、殺人的な炎天をものともせず、多くの人がアミューズメントパークに押し寄せる。
親子連れ、カップル、仲良しグループ。雑多な人々が巨大なパークに満ち、唯でさえ熱い空気に人工の熱気を加えてゆく。ヒートアイランド現象。巨大な人口が産み出す暴力的な熱量は、今やそれを産み出した人々を焼き殺さんとしている。
それは、そこにいる人々も理解していた。だから異変が起きた時も、人々はその理由を、灼熱する大気に求めた。
「おいおい、どうした!?」
目の前で突然倒れたクマの着ぐるみに、青年は構えていたスマホをポケットにしまい、慌てて駆け寄った。
「やだ、どうしちゃったの?」
着ぐるみと一緒に写メを撮ってもらおうとしていた連れの女性も、突然倒れた着ぐるみ……パークのマスコットである熊三郎に驚き、声を上げる。
「今日は暑いからなぁ……ちっ、それにしたって」
長いこと誘いをかけて、やっとOKをもらった彼女とのデート。何もこんな時、水を差すように、倒れなくても良いじゃないか。そう思いながらも、青年は倒れた着ぐるみに手を差しのばす。
「大丈夫か……」
そう声をかけたまさにその時。倒れ込み、微動だにしなかった着ぐるみの身体が、ビクリと跳ねる。
「えっ……?」
異常な気配を察し、青年は慌てて身を引こうとする。が、その挙動よりも早く……。
どすっ……
鈍く短い音。青年の動きが止まった。横腹に生じた灼熱感。それは脇腹に深々と突き刺さった、熊三郎の爪によってもたらされたものだ。
「嘘だろ……!?」
驚愕と苦痛。青年は呻く。ウレタン製の爪が、人間の体に突き刺さるなどあり得ない。だが、着ぐるみが「変化」したとすれば……青年の腹から滲む、赤く熱い液体は、最悪なその可能性を示していた。
「熊三郎、どうしたの!?」
と、その時、近くにいた小さな女の子が熊三郎の異変に気付いた。倒れた熊三郎を心配するその女の子は、真っ直ぐこちらに向かってくる。
「っ……来るなぁ!」
薄れ行く意識を気力で引き戻し、青年が叫ぶ。女の子は、その怒声にビクリと体を竦め、駆け寄る足を止めた。
同時に、倒れていた熊三郎がのそりと起き上がり、青年の体は支えを失ってズルリと地面に崩れ落ちた。右手には、その青年から流れ出た、真っ赤な液体。事ここに至って、周囲の人間も何が起こったのかを正確に理解する。従魔が現出したのだ。
「きゃぁぁぁ!」
一番近くにいた、連れの女性の悲鳴を皮切りに、周囲は忽ちパニックに陥る。
「前田君! 前田君!」
それでも、連れの女性は気丈に倒れた青年を助けようと試みるが、青年は従魔化した熊三郎の足下に倒れている。
「馬鹿! あんたまで殺されるぞ!」
このままでは女性も殺されていただろう。だが、その様子を見かねた一人の男性が、咄嗟に彼女の手を掴み、無理矢理この場から連れ去った。
休日に起こった悲劇――だが、これは始まりに過ぎなかった。
●パーク管理部、管理室
「従魔だとぉ!?」
エリアマネージャーからの報告を受けた園長は、驚愕とも憤りとも着かぬ叫びを上げた。
「は、はい! スタッフからの報告によると、各パークエリアに、着ぐるみに憑依した従魔が数体現れたと! 既にお客様一名が被害に遭ったとの情報も!」
「着ぐるみぃ!? 中のスタッフはどうなったんだ!?」
「わ、分かりません!」
「じょ……冗談じゃない!」
園長はそう叫ぶと、絶望の表情で天を仰いだ。が、何時までも絶望してはいられない。
「避難にどれだけの時間が掛かる!?」
「この混雑ですから……」
「死ぬ気でやれ! 一秒でも早く避難を完了させるんだ! それから、HOPEに連絡して従魔の殲滅を……い、いや、それでは遅い!」
HOPEに連絡しても、能力者が到着するまでに多くの被害が出るだろう。今即座に対応しなければ……。
「おい、全園放送のチャンネルを開け!」
「え? 全園放送は、今避難誘導に使っていますが……」
「いいから早くしろ!」
「は、はい!」
怒鳴られたエリアマネージャは、慌てて機械を操作し、避難誘導を行っている放送室から、園長室へとチャンネルを変える。園長はそれを確認すると、あらん限りの大声で叫んぶ。
「お客様の中にライヴスリンカーは居られませんかぁ!」
解説
●目標
従魔の殲滅
●登場
ミーレス級従魔。全て着ぐるみ型で、力はそれなりですが、動きは遅いです。
フェアリーテイル、アドベンチャー、フラワー、スペースの四つのエリアに、それぞれ2体の着ぐるみ型従魔がいます。パークのガイドブックを読んできたPLなら、着ぐるみの正確な数が分かるでしょう。
●状況
PCはパークに遊びに来ていたと言う形で始まります。任意のエリアに所在しているという設定でお願いします。武器は幻想蝶で携帯しているでしょう。
呼びかけに答えてという形のため、連れ立ってきた人たち以外は、お互いの状況が分かりません。
従魔はあくまで着ぐるみです。中の人は生存している可能性があります。ですが、中の人を傷つけず、着ぐるみだけを攻撃する場合、判定に多少のマイナスが掛かります。また、敵の動きを止める事が出来るなら、後ろのチャックから中の人を救出することも可能です。
フェアリーテイルエリアにはOPで刺された男性がいます。生死、怪我の程度は不明ですが、こちらもまだ生きている可能性があります。
男性も中の人も、時間をおけば生存の可能性は加速度的に低くなって行くでしょう。PCには可能な限り迅速な対応を求められています。
スタッフの努力により、避難は比較的スムーズに行われています。避難誘導などに参加する必要はありませんが、被害が出そうな時は一般人を守って下さい。
リプレイ
「お客様の中にライヴスリンカーは居られませんかぁ!」
園長の悲痛な叫びは、幸運にも希望の木霊を返した。
●ライヴス・リンカー
「あれ? 氷樹(aa0759hero001)、また買うの? たしか同じ物を持って無かった?」
「炎ちゃん。通販のと現地で買うのとは、クマの口の角度が微妙に違うんだよ」
休日を満喫していた姫神姉妹に、平穏の終焉を告げるその声が響く。
「炎ちゃん」
放送を聞いた氷樹は、熊のぬいぐるみを持ったまま炎樹(aa0759)の顔を見つめた。
「分かってるわ、氷樹。でも、焦っちゃ駄目よ」
そう言うと炎樹は、ポケットから携帯を取り出す。単独で動くのは危険だし、救助も難しくなる。連携を密にせねばならないだろう。
「……来たばかりでござるのに」
放送を聞いた小鉄(aa0213)は、切られたばかりの半券を手に呆然と呟く。
「許すまじ、従魔!」
そのすぐ隣には、小鉄と同じような境遇の女性がいた。
「折角遊びに来たのに、って所なんだろうけどな」
だがその女性、山吹 スザク(aa1022)は、小鉄ほど落胆はしていない様だ。
「だけど、ただ遊ぶよりは有意義な一日になりそうだ」
「せっかくヴァレ姉と遊びに来てたのに……」
フラワーエリアで放送を聞いたシルヴィア・ティリット(aa0184)は、そう言ってがっかりした様子を見せる。
「でも、緊急事態みたいだし早めに動かないとだね」
「急がないといけない状態であるほど、焦りは禁物ね」
気を取り直して言うシルヴィアに、契約英雄のヴァレリア(aa0184hero001)は軽く手綱を引く。シルヴィアは、頭より先に体が動く傾向がある。
「わかった、急ぐにしても、まずは情報がないと動けないからね」
シルヴィアはスマホを取り出し、状況を確認するため管理室へと電話を掛けた。
「なんだ? イベント……ではないようだな」
スペースエリアのベンチは、一人寂しくソフトクリームを食べていた古川瑛理奈(aa0042)が、慌ただしくなる周囲の様子に異変を感じ立ち上がる。
ユリア シルバースタイン(aa1161hero001)の付き添いに疲れたマックス ボネット(aa1161)は、うんざりした顔でスマホをいじっていた。
「初めてお話を聞いた時から、私すっごく楽しみにしてたんですよ、ほら、このお化粧道具(フェイスペイント)とか調度イイと思いませんか?」
(はぁ……こういうときに限って、仕事でも入ってくんねぇもんかなぁ)
『まさかアミューズメント施設で休暇取るなんて、ついこの前まで想像もしなかったな……』
ベンチで夏の強い日差しを浴びながら、Arcard Flawless(aa1024)は心の中で独りごちた。近くでは、相棒のIria Hunter(aa1024hero001)が楽しげに駆け回ってる。だが、園内に響いた放送は、つかの間の平穏を容赦なく打ち砕く。
「Iria!」
放送を聞いたArcardは、跳ね回るIriaに声を放つ。
「ミー?」
紫の瞳をこちらに向けるIriaに、Arcardは苦笑いして応える。
「残念だけど、休暇は終わりだ」
Arcardはそう言って携帯を取り出す。戦いに必要なのはまず情報。HOPEにも協力を求めなければ……。
「凄いよ、宇宙船だ!(目キラキラキラ)……あそこには、熊三郎もいるよ(手ふりふり)」
『星の海がテーマか、ここは落ち着くな……』
スペースエリアのアトラクションを満喫する宇宙 みらい(aa0900)とカトリ・S・ゴルデンバード(aa0900hero001)の元にも、園長の叫びは届いた。
「大変だよカトリ兄ちゃん……よし、宇宙警備隊初出動だ! 園内の平和、僕達で護る」
『了解だみらい、まずは避難誘導を手伝いつつ、敵の様子と他の能力者の動向を見よう(宇宙服姿の為、まるで園の係員?)』
バラバラのライブス・リンカー達。だが、その意志は一つである。即ち、中の人を救い、従魔を殲滅すること――。
●フェアリーテイル・エリア
「こっちで間違い無いでござるか、炎樹殿!」
管理室からの誘導に従い炎樹と合流した小鉄は、現場に向かいながらそう聞く。
「管理室からの情報です……居ました!」
言葉を途中で切り、炎樹は前方を指差した。
「熊三郎! それに負傷者もだ!」
行動を共にするもう一人、山吹が叫んだ。言葉通り、前方には従魔化した熊三郎と、血を流し倒れる負傷者の姿があった。
「最優先は人命の救助。私は負傷者の治療にあたります! 小鉄さんと山吹さんは従魔を!」
「承知でござる!」
「任せて!」
炎樹の指示に二人はそう応え、真っ直ぐ従魔の方へ向かった。その隙に、炎樹は負傷者の元へ向かう。
「山吹殿、拙者が動きを抑えるでござるから、中の人の救出を!」
「了解!」
小鉄は正面から従魔に向かい、山吹は後ろに回り込む様に動く。正面から来る小鉄に気付いた従魔は、凶暴なその爪を振りかざした。
「遅いでござ……る!?」
スローな攻撃は、素早い小鉄には止まって見えた。だが小鉄は、偶然足下にあった石につまずきバランスを崩してしまう。
「う、嘘でござろう!?」
小鉄の眼前に従魔の爪が迫る。あわや串刺しと思われたその瞬間、小鉄の体がその場から消える……いや、消えた様に見えた。
「あ、危なかったでござる!」
回避不可能な距離から虎徹を救ったのは、『零距離回避』。能力者として得たその力が、小鉄の危機を救ったのだ。
「止まれでござる!」
攻撃を回避した小鉄はすぐさま従魔に組み付いた。動きを止めれば、後ろのチャックから中の人を救い出せることは確認済だ。小鉄の俊敏さなら、造作も無い事のはずだが……。
「……って、またでござるか!?」
従魔に飛びつこうとした小鉄の足下に、またしても石!
「施設の管理がなってないでござるよ~!」
だが、つんのめりなりながらも、小鉄は何とか従魔にしがみつく。
「や、山吹殿!」
「おう!」
小鉄の合図に、背後に忍び寄っていた山吹は威勢良く応え、手に持った大鎌を思い切り振り回す。
「子供が夢を見る場所で、物騒な真似をするんじゃねぇ従魔共!」
一閃した大鎌は、従魔の頭部、丁度人の入っていない部分をスパンと切り裂く。
「おひょお!?」
頭上を旋回した大鎌に、思わず声を上げる小鉄。
「あ、危ないでござる!」
「早く中の人を助けろ!」
苦情を言う小鉄に、山吹が叫び返す。従魔は攻撃してきた山吹の方を向いている。救出するなら、今がチャンスだ。
「わ、分かってるでござる!」
従魔の頭の穴から、小鉄は素早く中の人を引き出した。衰弱しているが、命に別状はなさそうだ。
「やりたい放題楽しんだのなら、後は帰る時間だ。無に帰れ。幻想蝶が送ってやる!」
救出を確認した山吹は、従魔の攻撃をひらりと躱すと、渾身の一撃を叩き込む。中の人が居なければ、ミーレス級の従魔など彼女の敵ではない。従魔は真っ二つに切り裂かれ、その活動を停止した。
「小鉄、中の人は無事か?」
「無事でござるが……出来ればチャックを開けて欲しかったでござるなぁ!」
「あんたが危なっかしかったから、早く片づけた方がいいと思ってな」
小鉄の文句を、山吹は涼しい顔で受け流した。
「小鉄さん、山吹さん、横!」
と、そこに、負傷者の治療を終えた炎樹の声が響いた。その声に小鉄と山吹がハッとして横をみると、そこには熊三郎の嫁、熊美の姿が。
「ちっ……!」
小鉄と山吹は新手に向き直るが、一拍子遅れたことは否めない……そう思った瞬間、熊美の脚に銀色の閃光が突き刺さる。
「ごめん! 遅れちゃった!」
閃光が飛来した方向から、元気のいい声が響く。フラワーエリアから駆けつけたシルヴィアだ。
「急ぎたいところだけど、一体一体を確実に迅速に倒していくしかないか」
焦る心を、ヴァレリアに言われた通り落ち着け、シルヴィアは武器を構え直し従魔に向かって叫ぶ。
「楽しんでたところを邪魔してくれたんだもん、中の人さえ助けられれば、後は容赦しないよ!」
●スペース・エリア
「カトリ兄ちゃん、熊三郎が、熊三郎が……きっと悪い奴らに操られて」
パークのアイドルである熊三郎が暴れる姿を目の当たりし、みらいは震えた声で言う。
『そうだな……(口元に手を当て)にしてもやっかいだ、あの様子ならまだ中の人は』
その様子に、カトリは笑いを堪えつつそう応えた。能力者とはいっても、まだ子供であることに違いは無いのだ。
「……えっ? 中の人? ……あああ、そうだね、中の人、もちろん助けなくちゃ、中に人居るってちゃんと知ってたよ(わたわた)」
カトリの言葉に、みらいは慌てて言葉を取り繕う。だが、すぐに今はそんな場合ではない事に気づき、力強くカトリの方を見た。カトリもすぐその意を察する。
『行くぞ! みらい』
「うん、カトリ兄ちゃん……共鳴合体ブレイブリンク!」
英雄とのリンク。みらいの髪は赤く染まり、瞳は緑色に変化する。小さな体も、高校生程の体格に変わった。派手に変化したみらいに従魔が気付き、こちらに向かってくる。
「今助けるよ!」
みらいはそう叫ぶと、向かってくる従魔に大剣を振り下ろした。
ガッ!
大剣は動きの鈍い従魔を捉えたが、中の人を気遣っているせいか、切り裂くというところまではいかない。
『大した事の無い相手だが、一人では少し手間取りそうだな』
「放送では、すぐに他の能力者も来てくれるって言ってたけど……」
従魔の反撃を盾で防ぎながら、みらいは脳内でカトリと会話する。
『みらい! 後ろだ!』
みらいの脳内にカトリの声が響く。みらいがその声に後ろを見ると、もう一匹の従魔が、みらいの背後から爪を振り下ろそうとしていた。だが、正面に敵を抱えるみらいは、新手に対応することが出来ない。
ガッ! と、再び短い音が鳴った。
みらいが切り裂かれた音……ではない。従魔の爪がみらいを引き裂こうとしたその刹那、赤い髪の女性がその攻撃を引き受けたのだ。
「受け切れると……思ったんだがな」
攻撃に割り込んだのはArcard。だが、咄嗟だったせいか、Arcardは従魔の攻撃を完全に受けきることが出来なかった。硬い爪の一部が彼女の体に食い込んでいる。
「お姉ちゃん、大丈夫!」
「心配は……要らない!」
みらいの言葉にそう応えると、Arcardは双剣で爪をはじき飛ばし、一瞬の隙を突いて従魔に組み付く。
「古川さん、今だ!」
「わかった!」
Arcardの合図に、背後から忍び寄っていた古川が、着ぐるみのチャックを一気に下ろす。
「臭っ!」
中から溢れ出す熱気と臭気に鼻白む古川。
「早く!」
「わ、分かっている!」
こうしている間にも、Arcardは従魔の攻撃に晒されている。臭気を我慢し、古川は中の人を引きずり出した。
「助けたぞ!」
「よし!」
それを聞き、Arcardは組み付いていた従魔を突き放す。従魔はたたらを踏んだ後、体勢を立て直し、鋭い爪を繰り出す。爪はArcardの頬を僅かに掠った……Arcardは薄く笑う。
「お返しだ!」
ザンッ!
Arcardの双剣が従魔を切り裂く。従魔はそれでもまだ動きを止めなかったが……。
「お前のせいで、スペース熊三郎と写真撮れなかったぞ……」
不機嫌な声でそう言いながら、古川は従魔に『銀の魔弾』を放った。
「やった!」
従魔の消滅する気配に、みらいは歓声を上げる。
「よそ見してんじゃねえぞ、小僧」
聞いたことのない声が、突然響いた。同時に、みらいが切り結んでいた従魔の姿がグニャリと歪む。
「なに!?」
目の前で起こった突然の変化にみらいは一瞬戸惑ったが、すぐにそれが、後ろから着ぐるみのチャックが下ろされたせいだと気付いた。
やったのはマックスだ。マックスはArcard達と行動を共にしていたのだが、従魔の隙を突く為、戦場を大きく回り込んでいた。
「おわぁ!」
開けたチャックから中の人を救出しようとしたマックスだったが、従魔は前面のみらいを放置し、チャックを開けたマックスの方に怒りの矛先を向けた。
振り返りざまの一撃。マックスはそれを何とかかわすが、肉弾戦は彼の得意分野ではない。すぐさま後ろに距離を取る
「話し合おうじゃないか熊三郎……暴力は良くない」
マックスは薄ら笑いに冷や汗を浮かべ、従魔にそう提案する。無論、そんな提案を聞くはずもなく、従魔は無造作に間合いを詰めて来た。
「早く中の人を抜き取れ!」
「あ、そっか……」
裂帛したマックスの声。脱皮中の蝉が如く、背中から人間を生やす熊三郎に唖然としていたみらいは、慌てて中の人を抜き出した。
「……やっぱり、中の人居るんだ(ガーンガーン)」
ショックではあったが、今はそれどころではない。
「助けたよ、おじさん!」
「オヂ……まあいい!」
救出を確認したマックスは後退をやめ、手を拳銃の形に作り、従魔の眉間に向けた。
「裁判は省略……判決だ」
従魔が飛びかかろうとする一刹那、マックスは『銀の魔弾』を撃ち放つ。魔弾は突進する従魔の眉間を正確に捉え、この従魔もまた動きを止める。
「やったね、おじさん!」
従魔を仕留めたマックスに、みらいが駆け寄る。
「マックスだ、小僧」
無邪気に駆け寄るみらいに、マックスは渋い顔でそう応えた。
●収束
リンカーが一度まとまってしまえば、ミーレス級の従魔など敵ではない。フェアリーテイル、スペースの従魔を撃退したそれぞれの組は、救出した中の人及び負傷した男性の救護を管理局に委ね、それぞれ、アドベンチャー、フラワーのエリアに向かった。
リンカーとミーレス級従魔では、一対一でもリンカーが勝る。中の人を救わねばならないという制約があっても、既に勝敗は決したと言えるだろう。
「許せないわ……遊園地の着ぐるみの中の人は、判ってはいても居ないとしなきゃいけないのに、よくも私達自身の手でそれを暴くような事をさせてくれたわね!!」
フラワーエリアで残り一体となった従魔と交戦する炎樹は、憤懣やるかたない口吻でそう怒鳴る。頭の中では、その言葉に氷樹が激しく同意していた。
「最後の一匹! 焦らず前線を構築するでござる!」
小鉄はその炎樹と並んで従魔の正面に立つ。炎樹が負傷した為、ケアレイは既に尽きている。組み付きに行くのはリスクが高い。だが、数で勝る今なら、無理に組み付かずとも、着ぐるみの一部を切り裂き、そこから中の人を救出すれば良い。山吹の大鎌は、それに打って付けの武器だった。
「とろくさい!」
前面の二名が従魔と切り結んでいる隙に、山吹は鈍重な従魔の背を紙一重で切り裂き、楽々と中の人を救出した。
「やった! これで終わりだね!」
中の人救出を確認したシルビヴィアは、歓声を上げ、空っぽになった着ぐるみ従魔に最後の魔弾を打ち込む。魔弾は空っぽになった従魔の中央を貫き、熊三郎の土手っ腹に大きな風穴を開けた。それでも、従魔はぎくしゃくと動いてはいるが、もはや決着が付いたことは明白だった。
「うわ……ごめんね、熊三郎」
無残なその様に、思わず謝るシルヴィア。しかし――。
「イヤー、でござる!」
ふらつく従魔に、小鉄は容赦なく『ヘヴィアタック』を打ち込む。
「ええっ!?」
当然の行動だが、全く躊躇ない小鉄の行動にシルヴィアは思わず声を上げる。最早絶命寸前だった従魔が、この攻撃に耐えられるはずもない。
「さらば熊三郎」
止めを刺した小鉄はそう言って渋く決めた。
アドベンチャーエリアに向かった組は、Arcardがスペースエリアの戦闘で負傷したことと、前線を構築できるメンバーが少なかった事が重なり、多少の苦戦を強いられた。
それでも、Arcardの負傷覚悟の組み付きによって、みらいが中の人一人を救出。従魔の撃破にも成功。残る従魔は一体となった。
「Arcardはもう休んでな!」
従魔を撃破したArcardに古川が叫ぶ。古川とマックスは、Arcardとみらいが一方の従魔を相手にしている間、もう一体の従魔を引きつけていた。
「いや、まだ大丈夫だ」
Arcardはそう言って、古川が対峙している従魔の方に向かおうとする。
「無理するな、こいつは私達だけで充分だ……マックス!」
古川はマックスの名を呼ぶ。と、同時に足を止め、クリスタルファンを従魔の右足に向ける。
「小僧といい……人使いが荒いな」
従魔の背後をを取っていたマックスが、打ち合わせ通り古川と同時に『銀の魔弾』を放った。狙いは左足。従魔といえども、脚がなくては動けない。
ドンッ! と、短い音が二つ同時に鳴る。
「やった!」
従魔の両足が弾けたのを見て、古川は歓声をあげる。だが、中の人を気遣ってぎりぎりを狙いすぎたせいか、従魔の脚は完全には止まらなかった。
「ちょっ……!?」
脚を壊された従魔は、慣性を利用して古川に襲いかかる。射撃のため完全に足を止めていた古川は、予想外の事態に狼狽した。
「危ない!」
だが、古川を狙った従魔の爪は、彼女に当たる寸前みらいのシルバーシールドに阻まれる。従魔が見せた最後の足掻き……だが、それも潰えた。
「脅かしてくれたな!」
事なきを得た古川は、従魔に向かってそう悪態を吐き、自分を庇うみらいの肩越しにニュッと手を突き出し、クリスタルファンの先端を従魔の右目に当てた。
「ここは、身が入ってないな?」
古川はそう言ってニヤリと笑い、魔力を集中する。
「貫け!」
クリスタルファンの先端から、銀の閃光が走った――。
――こうして、パークを襲った惨劇は、リンカー達の活躍により最小限の被害で食い止められた。中の人たちは、炎樹、Arcardらの適切な指示で速やかに後送され、相当の衰弱はあるものの命に別状はない。従魔に襲われ重傷を負った青年も、大事を取って入院はしたが、遠からず退院するだろう。
●祭りの終わりに
パークを救ったリンカー達は、避難した子供達に囲まれていた。
「ねー、お姉ちゃんって、悪い魔女?」
「違う、良き魔女だ!」
古川は周りに集まった子供にそう宣言する。だが、子供達は更に疑わしげな視線を古川に向ける。
「でも、変な仮面着けてるし……」
「子供にこのセンスは分からないか……」
別の所では、Iriaが同じく避難してきた人々の間を彷徨い歩いている。猫の様な仕草で甘えてくるIriaに、一部の人間はとろけた様な表情を浮かべていた。
「あれは、合法なやつなのかね?」
その様子を眺め、マックスは呆れた様子で呟く。
「あら、楽しそうじゃありませんか?」
そのマックスの元に、周囲への挨拶を終えたユリアが戻ってくる。
「こんな事になってしまいましたけど、私も仮装して楽しみたいですわ……ね、オヂ様?」
「はいはい御案内しますともお姫様……だけどねぇ、お前さん一緒に行くのがこんなオヂさんで良いのかね……」
マックスはそう言って、もう一度深い溜息を吐いた。
「え、売店開いてないの?」
「あれだけのことがありましたし……」
申し訳なさそうにそう言う職員の言葉に、事が終わればパークの名物を食べられると思っていた山吹は落胆の声を上げる。
「なんてこった……」
「あちゃ、残念だったね」
がっかりする山吹にシルヴィアがそう声を掛けた。既にリンクは解き、ヴァレリアとは分離している。
「あたしもヴァル姉と目一杯遊ぶつもりだったのに、がっかり」
「そうね……でも、また来れば良いでしょう?」
ヴァレリアは、そう言ってシルヴィアの頭を撫でる。
「うん、そうだね……その時は、山吹さんも一緒にどう?」
「……悪くないかもな」
落胆から、僅かに顔を晴らし、山吹はシルヴィアの言葉に応える。
「ねえ、僕とカトリもいいかな!?」
そう言って、みらいも会話に入り込む。
「もちろん!」
みらいの言葉に、シルヴィアは元気よくそう答える。
「では、拙者もご一緒してよろしいでござるかな?」
会話の流れに乗って、近くに居た小鉄も同じ事を言った。小鉄の顔を見たシルヴィアは、一瞬山吹と目を交わし合い、そして互いに小さく笑い合う。
「……もちろん、いいよ!」
そして、やはり元気よくそう答えた。
「間が……気になるでござるなぁ」
「大丈夫ですか、Arcardさん」
炎樹は、看護班による治療を受けるArcardに近づき、そう声を掛けた。
「ごめんなさい、もうケアレイは使えなくて」
戦闘の最中、炎樹のケアレイは彼女が使用できる限界まで使ってしまった。怪我をしたArcardを癒すことは出来ない。
「大丈夫、これぐらいの怪我は慣れてる」
「そう……」
それでも少し心配そうな顔をしている炎樹の服の裾を、氷樹がクイクイと引っ張った。
「炎ちゃん……」
「氷樹……残念だったわね、楽しみにしていたのに」
「うん……そうだね」
炎樹の言葉に、氷樹は素直に頷いてから、言葉を続ける。
「でも……」
「……でも?」
「また来ようね?」
氷樹の言葉に、炎樹は小さく微笑む。そして氷樹の頭に手を置くと、静かな声で言った。
「そうね、また来ましょう……」