本部

戦場のアリア

saki

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 5~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/07 23:27

掲示板

オープニング

●あるパーティーの戦闘
「よし、目的は達成したな」
 リーダーである青年が剣を収めながら息を吐き出した。
「そうだよね。今回は結構疲れたかな」
 それにボーガンを下した少女も同意する。
「敵はたいしたことないんだけど、如何せん数が多いから無駄に疲れたな」
「違いない」
 その言葉に同意が上がり、5人の笑い声が響き渡る。
「あれ、何か聞こえない?」
 索敵能力に優れた一人がそう呟くと、笑いあっていた面々は気を引き締めて武器を握りしめた。
 一瞬にして緊迫した空気へと変わる。陣形を立て直し、いつでも対処できるようにと周囲への警戒は怠らない。
 だが、何の反応もない。
「気のせいだったのか?」
 そう呟くや否や、その一人が膝を着いた。
「おい、大丈夫か!」
 頭を押さえて蹲る仲間に声をかけるが、声をかけた本人も息を詰めて呻いた。
 声が聞こえる。
 歌だ。
 それは、脳内に直接響き渡る歌であった。
 しまったと思ってももう遅い。5人は頭を押さえるようにして、その場に倒れた。

●本部にて
「……と、いうことがあってね。幸い、この5人は襲われかかった所を、通りすがったパーティーに救われて難を得た。しかし、ここの所ずっとこういう被害が相次いでいるんだ。従魔がよくでる草原の為、今はまだ民間人が襲われていないものの、何時どうなるのかは解らない。そこで、君達に討伐を依頼したい」
 職員は深刻そうな顔で、「君達に相手をしてもらうのはハーピーだ」と告げた。
「今回の件で3体ほど退治はされたのだが、他にも逃げた個体が存在するという情報が件のパーティーから申告されている。この草原の奥には岩盤地帯があって、そちらに住処でもあるのだろう。ハーピーがその方角に逃げていったという情報も入っている」
 職員は、「良いかい? そこにいるハーピーを全て討伐すること。それが今回の依頼だ」と言った。

解説

●目的
→ハーピーを全て討伐すること

●補足
→今回はハーピーとの戦闘がメインですので、他の従魔との戦闘はありません。
→相手には飛行能力と、呪声があります。遠距離からでも攻撃できる対策を立ててください。
→ハーピーの住処の方向は判明しているものの、正確な位置までは判明していません。
 相手の住処を探す時も重要です。
 敵に地の利はあります。
 先に敵に見つかると、オープニングで攻撃を受けていたパーティーのようになることもありますので、索敵にも気をつけてください。

リプレイ

●作戦会議
「ここには10人いるわけだし、まぁ、取り敢えず班分けでもしておいた方が良いかのう?」
 独特な口調でカグヤ・アトラクア(aa0535)はそう言った。
「ボクもそれが良いと思うよ」とアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)は賛成し、「一網打尽されるのを防ぐ意味での班分けは良いと思うぜ」と赤城 龍哉(aa0090)も同意した。
 他の面々にも異論はないようで、籤引きでのABC班分けとなった。
 組分けは以下の通りである。

 A班→木霊・C・リュカ(aa0068)&オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)、虎噛 千颯(aa0123)&白虎丸(aa0123hero001)、石井 菊次郎(aa0866)&テミス(aa0866hero001)、雁間 恭一(aa1168)&マリオン(aa1168hero001)
 B班→御神 恭也(aa0127)&伊邪那美(aa0127hero001)、赤城 龍哉&ヴァルトラウテ(aa0090hero001)、穂村 御園(aa1362)&ST-00342(aa1362hero001)
 C班→アンジェリカ・カノーヴァ&マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)、会津 灯影(aa0273)&楓(aa0273hero001)、カグヤ・アトラクア&クー・ナンナ(aa0535hero001)

 という風に、人数の関係上A班が4人でB班とC班は3人構成になった。
「3班に分かれたことだし、連絡は取り合いながらの方が良いんじゃないかなー。それと、地図も欲しいよね」とリュカが言い、「矢に発信機を取り付けたいのだが、どうだろうか。それに、受信機もだな」と恭一は言う。
 それを皮切りに次々にこれはどうだという声が上がり、結局のところ、随時連絡は取り合うものの、それぞれの組に一任されることとなった。

●行動開始
<A班>
 見渡す限りの草原が続き、ここでお弁当でも食べたら気持ちが良いであろうピクニック日和である。従魔との遭遇もないし、本当にこれから血生臭いことが待ち受けているのだろうかと疑問になるような長閑さだ。
 保護色になりそうな衣服に身を包んだリュカは、オリヴィエに手を引かれながら、『ハーピーは歌うものだったか?』「姿形は似てるけど、一般的に歌を謡うのはセイレーンじゃないかなー。……オリヴィエ、神話の本も読んだの?」『従魔はそういう物に似せてた姿をしてる事も多いからな』「うわぁ、情緒の無い読書理由ね……」と会話をしていると、千颯と白虎丸は「最近すごく頻繁に会ってる気がするけど気のせいだよね?」『これは心強い今回もよろしく頼むでござる』と話しかけた。それに、「そう言われてみると、そうだよね」とリュカは同意した。「
 それにしても……と、千颯は白虎丸をチラリと見ながら「歌かー歌なら白虎ちゃんも……」と思わせぶりなことを言えば、『黙れ……』と白虎丸は低く唸った。「そんなに怒んなくてもいいじゃん……。白虎ちゃん怖い……」と同意を求めるようにリュカを見れば、彼は肩を竦めた。
 その横で、菊次郎もテミスと「ハーピーですか、コードネームではありますが神話じみていますね」『何が神話か? は、ゴミを喰い散らかした上に汚物を撒き散らすカラス以下の存在ではないか』「そういう存在は地球と同じなんですね」とまるで世間話のような会話をした。
 先頭を歩く恭一とマリオンも、「まったく、ハーピーなんてファンタジーRPGみたいな代物が出て来たな」『よく分からぬが、空飛ぶ妖獣の扱いはただ一つ、物陰から射殺す、それだけだな』「物陰のない時は?」『犠牲を覚悟で射殺す、それだけだな』と少々物騒な会話を交わしていた。
「ところで、作戦などはどうしましょうか?」
 菊次郎の言葉に、それぞれの会話を止め話題は戦闘のことへと変わった。
「神話上に準えて多少の食糧(肉類)を用意してみたよ。他には双眼鏡も持って来ているから、それを餌に様子を見るのはどうかな?」と、リュカ。
「囮が必要なら、オレが囮をやってもいいぜ。何か良い作戦とかあるようだったら、それで良いし」と、千颯。
「敵と遭遇した際に一体残し、拠点の位置を探すのはどうですかね?」と、菊次郎。
「俺も似ていると言えば似ているが、発信機を付けた矢を射ち、その従魔を追うのはどうだろう?」と、恭一。
「では皆さんの案を纏めると、食糧や囮を使って敵を誘き出し、戦闘になったら一体だけ撃破はせず、拠点を突き止めるということで良いでしょうか?」
「あぁ、それで良いと思うぜ。他の班の足を互いに引っ張らないようにだけは、気を付けようぜ」

<B班>
 龍哉と御園はギリースーツに着替え、草原の中でも目立たない保護色を身に着けている。恭也は着替えてこそいないが、岩や草に身を隠しながら慎重に進んでいた。
 龍哉とヴァルトラウテは「ギリースーツが早速役に立つとは」『でも動き辛いですわ』と、装備について溜息をついた。「ハーピーってあれか、頭と胴体だけ人間っぽくて後は鳥っていう」『基本的にはそうですわね。歌が上手かったり下手だったりは伝承によって違うようですが』「聞いたら昏倒するんじゃどっちでも変わらねぇなぁ」
 そんなテンポの良い会話から少し離れた所で、「相手の武器は音波か……。見えない上に躱すのは不可能だな」『今回のボクは足手まといになるかも……』と、恭也と那美は今回の任務の相性の悪さに対して溜息を吐いた。「仲間がいる。連携してことに当たれば難なくこなせる筈だ」『そうだよね。みんなのサポートできるように頑張ろう』
 後方上空を警戒しつつ進んでいる御園とSTは、ギリースーツに対し「本当は服って周りからこれは違う! って、目立つ為に有るんだよね? ……良いの、エスティ、分かってるの」と評価した。大分テンションの落ちた御園は見渡すばかりの草に「うわー、何にも無い……」と、肩を落とした。『ST-00342は23種類の植物の存在を指摘する。昆虫の種類はもっと多い』「虫あんまし好きじゃ無いんだよね。あー、早く帰って買い物行きたい!リップ切らしてる種類あるの」『早く帰投出来るかは、こちらが先に従魔を発見出来るかに懸かっている。頑張ろう、御園』
 そんな感じで警戒しつつもマイペースに進んでいるように見えるB班だが、其々が遠距離武器を手にしている為に隙がない。慎重に進みながら、発見次第各個撃破ということになった。戦闘になったら遠距離から攻撃し、敵が逃げ帰るようなら追跡というのが作戦である。

<C班>
 こちらの班は既に、スマホの音楽機能を使って相手を誘き寄せられないかということで方針は決まった。
 岩盤地帯に大分近づいた所で、「どんな歌か知らないけど、ハーピー如きの歌でまいるなんて情けないね!」と、アンジェリカが嘯くと、珍しく真面目な顔をしたマルコが「俺は神に捧げる為に歌うが、お前は何の為に歌うんだ?」と尋ねた。「もちろん有名になる為だよ!」と答えると、「そうか」と一言呟いた。
 灯影と楓はというと、「ハーピーって男もいんのかな? 歌が聴こえないくらい頑張れ頑張れしてやろーか」「ふむ……歌で男を誘い出し喰らうは女化生の常套手段よな。我に見合う美人であれば良いが、さて」と、噛み合っているような噛み合っていないような会話を、二人とも笑ってこそいるが、あまりにも意味合いの違う笑みのまま交わしていた。
 緑色の布で身体を覆ったカグヤは、「ふーむ、なかなかに厄介な狩りじゃな。逆に狩られぬように気をつけねばいかんな。のう、クー?」と顔を覗き込むと、『そうだね』と頷いた。「まぁ、目的ははっきりとしている分、やりやすいといえばやりやすいのじゃろうか? 要は殲滅、それだけじゃからのう」と、常と変わらないまま悠々と草原を歩いて行く。
「じゃあ、この辺りにスマホを仕掛けてみて、少し様子を見ようか」
「そうだね。仕掛けた後は見つからないように身を潜めておかないとね」
「そうじゃのう。騙されてくれると良いのじゃがな」

●遭遇
<A班>
 肉につられたのか何なのか、空を飛ぶハーピーが5体程現れた。
「じゃあ、オレちょっと行ってくるぜ」そう言い、千颯は共鳴した。
「んじゃま、チックら派手に動きますか! ってな!」『派手に動きすぎて孤立するなよ』
 他のメンバーも共鳴した状態でそれぞれ物陰に隠れ、追撃できるように身構えている。
 先制攻撃とばかりに、千颯のスナイパーライフルが唸りを上げた。
 ヒット。
 一体に命中する。しかし、決定打にはならない。それで良い。こちらの存在に気が付かせて追わせ、一体ずつ倒せば良いのだから問題はない。

 走り出したのを追ってきたハーピーを、リュカのライフルが捉えた。
 翼を的確に狙った一撃だ。
 鳥というものは片翼でもなくなれば、飛ぶことができない。そして墜落してきたところを、追い撃つようにして止めを刺す。
『翼を持つ物は落とされることが多い、イカロスにせよ何にせよ』「羨ましいんだよ、きっと。お兄さんも飛んでみたいな」

『キーキーと喚きおって、本当にイラつく羽虫どもだ』吐き捨てるようにして言うテミスに苦笑しながら、菊次郎は自身の武器の射程範囲ぎりぎりの位置から的確に相手を削っていく。
「この程度でしたら、余裕ですね」
 その言葉の通り、味方の邪魔にならないように徹底的に援護を行う技術はある意味脱帽ものだろう。確実に相手の戦力を削いでいく。

 草陰にて相手の出方を伺っていた恭一は、残りが一体になった所で矢を打ち込んだ。
 発信機が付いた矢である。
 本当は敵の攻撃範囲を見定めるつもりであったが、それらしき特殊なものがあったようには感じ取れなかった。今回は爪を振り回しての攻撃だったからである。
「まぁ良い」
 矢が刺さった一体が逃げた方向を眺めながら、そう呟いた。

<B班>
 標的を発見した。
 相手からは確実に見えない位置からの発見である。
 遭遇する前に恭也は水で濡らした布を耳に詰め込んでいた為、基本的にこのメンバーのやり取りはメールによるものである。その前に、『こんな原始的な方法で相手の攻撃を防げるの?』「只の布を積めるよりも水に濡らして置けば水が空気の振動を遮断する」「効果が薄い様なら自分の鼓膜を破くまでだ」『鼓膜を破いたら後に響いちゃうんじゃないの?』「心配するな、10日位で感知するし完全に音が聞こえない訳じゃない」という、ちょっと大胆なやり取りが恭也と那美の間で交わされたのはご愛敬だろう。
 共鳴したそれぞれが展開し、遮蔽物や草むらに身を隠すと、武器を構えた。そして、一体ずつ的確に打ち込んでいく。
 その際の龍哉の技術には目を見張るものがある。何せ、彼の一撃は的確に相手の頭部を打ち抜いて行くのだ。
 ヘッドショット。
 正にスナイパーのような的確さである。
 この遠距離からの一撃を避けるのはなかなかに難しい。それも、適宜素早く位置を変えているのだから尚更だ。
 突如の奇襲にハーピー達は狼狽えた。そこを狙い、恭也からも更に追い打ちがかかる。
「流石に銃だといつも通りとは行かんか」『ごめんね、ボクのせいで……』「気にするな、俺自身も銃の扱いは苦手だ。だが、効果的である以上は下手なりに使うまでだ」と言いながらも、難なく相手に当たっている。
 そして、そんな良い位置につけたのはC班の作戦があってこそだろう。C班が発動した作戦につられ、そちらの方に向かうハーピー達を見つけ、そこを狙ったのである。
 御園の射撃技術もなかなかのものである。
 派手こそはないが、伏せた状態から少しだけ身を起こし、限りなく不安定な状態でありながらも穿たれた一撃が的確に相手を削っていくのはまるでハンターのようだ。
 真剣に射抜き、その矢が最後の一体に手傷を負わせた。
「一体、向こうに逃げたようだよ」
 同じ班のメンバーに連絡を取り、一同は身を潜めるようにしてその後を追った。

<C班>
 念の為、それぞれ共鳴をした状態でスマホを設置する。なかなか見つからないように草陰に隠れるように配置し、そのままそっと岩盤地帯へと向かった。
 
 ある程度離れた所でも微かに音は聞こえてくる。
 共鳴状態にあるとはいえ、人間の耳で捉えられるのだから、従魔にはもっとよく音が届いているのだろう。
 音に誘われたのか、先程まで一同がいた方向にハーピーが数体飛んで行くのを見かける。
 だが、先程の定期連絡でB班との連携が確定している為にこのまま身を潜めたまま岩盤地帯へと向かうことにした。
 
 しかし、少し行った所で先程とは別のハーピーがこちらに気が付いたようだ。とはいえ、違和感のようなものを覚えただけなのか、こちらを見てはいるが警戒しつつも襲ってくる気配はない。
 敵は3体。こちらは共鳴した者が三人。
 各個撃破ということで頷くと、アンジェリカはアサルトライフルを構えたままモアキーンを発動した。
 羽に命中する。
 バランスを崩し、地上に落ちてきたところへヘヴィアタックを決めた。
 重たい一撃が炸裂し、難なくハーピーを撃破した。

『巣へ向かう道中見付かれば致し方なし。ここで無様に死ぬが良いぞ』「なんで喜んでんのかね……」
 呆れた声を出しつつも、銀の弾丸が容赦なくハーピーを抉る。
『女々しく囀って気を引こうと必死なのだ。羽の一つ一つを毟り取って遊んでやりたいところだが、灯影が卒倒しかねんな。 全滅が任務なればあまり遊んでいても仕方あるまいさっさと寝所へ赴かねばな』「猟奇趣味なの? なんなの? やめてね!」

 カグヤはフェイルノートから矢を放つ。
 無駄なしの弓という異名があるように、実に無駄のない動作で相手を屠った。その様はごく自然であり、まるで何でもないかのような余裕さがうかがえた。
「まぁ、この程度の相手、とるにたりんのう。なぁ、クー」『そうだよね。それよりも早く帰りたい』

●岩盤地帯
「ここは彼女らのテリトリーです。どこに隠れて待ち伏せしているか分かりません。慎重に行くべきでしょう」と、菊次郎は他の班に連絡を取りながらそう進言した。
 それぞれが別のルートを使い、岩盤地帯へと赴いた為に姿こそ見えないが、情報を統合するに、ハーピーが逃げた場所はほぼ間違いなく同じと取っても良いだろう。この先も適時連絡を取りながら、三方向から包囲を狭めてハーピーを殲滅することに決まった。

 きーっと、どこか耳障りの音が聞こえた。
 ハーピーだ。
 美しい女の顔が般若の顔に見える程に表情を歪め、唸るようにして、吊り上がった口元からは唾液が滴っていた。

「まぁ、やってみようか」
 リュカは射手の矜持、そしてブルズアイを発動する。それにより、高精度の射撃を難なくとこなし、ハーピーの眉間に命中する。
 隙間を縫うような一撃。
 当たったハーピーは何をされたのか解らぬまま、絶命した。それ程にまで正確無比な一撃であった。

「俺も負けていられないね」『突出しすぎないように気をつけろよ』「了解。オレちゃん、マジモードですから」
 軽口を叩き合いながら動き回り、千颯はハーピーをかく乱していく。その間に仲間が一体ずつ確実に撃破していくが、距離が取れれば時たまスナイパーライフルを撃つ。
 しかし、急接近してきた個体があった。ライフルを撃つのには近すぎる。
 すかさずラジエルの書に変更し、刃を放つ。
 白刃がハーピーを襲い、無数の刃が身体を切り裂く。
 疾風怒濤の攻撃である。難なく敵を撃破した。

 マノビギオンを使っていた菊次郎であったが、武器をクリスタルファンへと変更した。
 ゴーストウィンドが発動する。
『そら、瘴気で羽根という羽根を腐らせてくれる。惨めな姿で悶え死ぬがよい』
 不浄の風がハーピーを襲う。
 うねるそれは唸るようにして、次々とハーピーを地へと這い蹲らせた。それは正に、羽を持つハーピーにとってはえぐいまでに効果のある攻撃だ。
『どうだ、自分が汚物となった感想は? まったく汚い中身を撒き散らしおって、死ぬ時ぐらいは遠慮したらどうだ』

 ライフルを構える恭一は驚く程に自然体であった。この混戦の最中でも、まるで落ち着いていた。
 目立つ動きをしているわけではない。それでも確実にハーピーに当たるのは、自然体だからだろう。だからこそ、無駄なく敵を確実に削り、同時に仲間への支援を果たしていた。
 恭一は引き金を引く。
 ハーピーの羽に当たり、墜落した。

 ある程度ハーピーの数が減ったが、援軍というよりは第二陣といった感じでその数は増した。しかも、現れたハーピーは其々が険のある表情をしている。どこかぶっ飛んでいる――いうなれば、切れたような印象がある。そんな血走った眼をしていた。

 突如、形容しがたい叫び声が響いた。
 ずんと重くのしかかるような、頭をかき回されているかのような音だ。
 
 呪声だ。
 ハーピーの技の一つに呪声というものがある。それが合わさり、歌のようになっていた。
 脳内に直接響くような劈く音に、足が震えた。
 そんな時、それを遮るように銃声が響き渡った。
 龍哉だ。彼がヘッドショットを決めたのである。
 B班が援護射撃を開始する。

「取り敢えず、間一髪セーフってところだな」
「そうだな。こちらに気づいた奴らが来たようだ」
「ここは、私達が頑張らないといけないんだよね」

 射撃されたことに気がついたハーピー達が、B班の面々に襲い掛かる。だが、すぐさま移動して身を隠す。

「やるぞ、ヴァル。弓は任せるぜ」『任されましたわ。「そう簡単に私の矢から逃れられると思わない事ですわ」
 その言葉の通り、分担のハッキリとした二人は強い。
 接近した相手には龍哉が大剣で斬り込み、ヴァルトラウテがそれに援護射撃しつつ遠くの敵も矢で牽制する。
 それはチームにも匹敵する動きであった。それだけの信頼関係が感じられる動きである。

『相手が飛んでいる限りは、ボクの力は十全に発揮出来ないから気を付けてね』という那美の言葉に、恭也は「わかっている」と頷いた。
 ハーピーの歌っている姿を見て、『鳥を模した妖なのに歌が下手なのかな?』「別に音痴だから、俺達にダメージを与えている訳では無いと思うが」と緊張感のない会話を交わしながらも、怒涛乱舞で相手を撃ち落とす。そしてすぐさまコンユンクシオに持ち替えるとヘヴィアタックで屠った。
 その動きに無駄はない。苦手としている敵であっても、流れるような動きで確実に倒す実力があった。頑強な肉体と、堅強な精神――それこそが、恭也の何よりもの強みである。

 銃とビキニアーマーに換装した御園はトリオを発動した。
 近づいてきた敵が3体とも一掃される。
 これぞ神速の早撃ち。何時撃ったのかわからない程の速さだ。これがさっきまで、何か益々景色が寒々してきたね……。はあ、温もりが欲しい」『今の段階で野営を行うのは推奨出来ない。従魔の拠点の把握を優先すべきだ』などといった会話をしていた人物には到底見えない。
 そして更に襲い来る敵に向かい、集中した。

 一方、C班はハーピーの拠点の中まで潜り込んでいた。
 身を潜めながら潜入していると、次から次へとハーピーが出ていく様から、どうやら外は上手くやっているようである。
 こちらに気が付いたハーピー達が唸るような声を上げた。
 音が重なり合い、呪歌へと変質する。
 頭の中をかき回すような音に、アンジェリカは「歌はそんな事の為に使うものじゃない!」と叫んだ。そして、唇を開いた。
『家族が 親友が 大切な人が 貴方の帰りを待っているわ 貴方の心は貴方のもの 魔物なんかには奪えない 迷わないで 負けないで その手で勝利を掴むまで』
 歌いながらモアキーンで羽を狙って撃ち落とし、素早く剣へ持ち帰ると怒涛乱舞を叩き込んだ。
 まるでパフォーマンスのようである。
 舞台の上であるかのような、そんな華やかさでもって相手を圧倒した。

 それとほぼ同時に、ハーピーが息を吸うタイミングに合わせて灯影は肺を狙って銀の弾丸を撃ち込んだ。
『いっそ我も歌うか。天上の歌神もかくやという美声に聞き惚れよ!』
 耳に心地よい声で歌いながら、ブルームフレアを炸裂させた。
 それにより、多くのハーピーが焼かれて燃える。しかし、歌声と合わせることである種の幻想ささえもあり、一枚の絵画のようであった。タイトルを付けるのならそう――。

 カグヤは魔法書を開いた。マビノギオンである。
 こんな戦闘中の最中であっても、彼女が書を開くだけでどこか優美な感じがある。
 そして、魔法書からは魔法剣が射出される。
 無数の刃が次々とハーピーを射ち落とし、抉り、鮮血が巻き散らかされる。その姿は赤い花びらが舞う円舞のようであり、演舞であった。
「この程度か。思ったよりもたいしたことはないようじゃ」

 あっという間に敵を殲滅し、悠然と佇む3人には華があった。

●合流
 それぞれの戦闘を終え、A班B班C班は集合した。
『まったく神話通りの汚らわしい雌鶏どもであった。最後飛べなくなって地上でのたうつ姿には多少溜飲を下げたが』「全滅したか確認が必要ですね」『くくく、最後の一匹まで焼き尽くしてくれる』
「さあ、帰るぞ!エスティ報告書は宜しくね」『従魔が本当に全滅したか確認を行う必要がある。周囲の捜索には万全を期して72時間は使うべきだ』
 勿論、ハーピーが何処かに残っていないかというチェックは入念にし、怠らない。
「これで終わりか?」
「そのようだね」
 周囲を見回すが、それらしき姿は発見できない。どうやら、全部無事に倒せたようだ。
 依頼も達成し、帰路につこうとしたところで「あー、嫌な歌で気分が悪い。誰か正しい歌というものを教えて欲しいものじゃ」という、前振りのような声が上がった。
 それにノリの良い千颯が「やっぱ歌は白虎ちゃんの方が……」と名乗りを上げた。
『ほう、貴様が歌うのか? 我を満足させてくれるとは思えないが』
『千颯……くどいぞ』「まだ音痴だって笑ったの気にしてるの? ごめんって」『別に怒ってなどいない』「怒ってるじゃん……」
「白虎丸さんは音痴なのか?」
「はいはい、カグヤ様。私が歌いましょうか?」
「おや、歌が得意なのですか?」
「俺は歌わないからな」
「誰でも良いけれど、上手い人が良いな」
「それだったら、アンジェリカの方が良いのでは? いい歌だった」
「あぁ、さっきの歌だろう。俺たちにも聞こえてきていたぞ」
「そうだね。ここはぜひ、アンジェリカちゃんにお願いしようか」
 全員からの視線を受け、アンジェリカは「任せて」と口を開いた。その際、この場にいる女性に声をかけているマルコにグーパンチをお見舞いするのを忘れない。
 そして唇から紡がれる。
 ハーピーなどとは比べ物にならない程、澄んだ旋律が奏でられる。その歌声はアリア。
 全てを洗い流してくれるような、極上の歌声であった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
    機械|23才|女性|命中
  • スナイパー
    ST-00342aa1362hero001
    英雄|18才|?|ジャ
前に戻る
ページトップへ戻る