本部

ブラックドッグラン

アトリエL

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~15人
英雄
8人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/09 19:20

掲示板

オープニング

 黒い犬が駆けていた。
 目的は復讐……しかし、それは黒い犬自身のものではない。
「……犬を殺すもの全てを排除する……」
 一見すると犬のキグルミでも着ているかのような姿をしているのは一人の愚神。
 駆け回っている黒い犬は車に撥ねられた犬だった。
 高速で駆け回るその犬はただ闇雲に走り回っているわけではない。
「さあ、見つけたぞ。お前の復讐相手だ」
 愚神がそう呟いた先には一台の車。乗っている男女は犬を撥ねたことはない。同車種に乗っていただけだ。
 だが、狂いつつある思考の愚神とその命令に従う黒い犬にはそんなことは関係は無かった。

「高速道路の環状線を黒い犬が駆け回っているという情報が入りました」
 その黒い犬は車に撥ねられても死なず、逆に襲い掛かってきて車を完膚なきまでに破壊したらしい。
「幸い、人的な被害が出る前に交通事故を理由に道路の一時的な封鎖を行うことが出来ましたが、あまり長時間の封鎖は経済に与える影響も大きく、HOPEの立場が弱くなる可能性があります」
 特権を得るのと引き換えに背負った義務も大きい。
 今回の義務は迅速なる解決で、当然特権は道路封鎖ということになる。
「標的の黒い犬は環状線をぐるぐると駆け回っていますが、標的がいないことを知れば環状線の外に出てくるかもしれません。そうなると追跡するだけでも大変ですが、どんな被害が出るのか予測もつきません。HOPE側でいくつか車両を準備したので直ちに現場に向かってください」

解説

 従魔ブラックドッグとのカーチェイスになります。
 車両はオープンカーや軽トラックなどが用意されています。
 オープンカーは運転手の他に乗れる乗員2~4名と限られていますが、その分被害にあっても戦力ダウンは最低限ですみます。
 軽トラックであれば複数名が後ろに載れますが、被害にあうとその分一気に戦力が下がります。
 他にも要望があればセダンから乗り合いバスに至るまでHOPE側で準備してくれます。
 運転手は年齢制限がある点だけは注意してください。
 ブラックドッグの足を止めることができれば、それほど強敵ではありません。
 なお、環状線の出入口を封鎖した際に道路が封鎖されている場合、引き返すことも確認されています。
 待ち伏せて迎撃という手段だけでは逆走するだけなので注意してください。

リプレイ

●危険の匂い?
「……嫌な匂いだわ。犬臭い、駄犬の香り」
「んー……そんなにくさいかなぁ……あと、みずく。知ってるかもしれないけれど、狐もイヌ科だよ」
 風の中に混じる匂いに顔を顰める天戸 みずく(aa0834hero001)に黄泉坂クルオ(aa0834)は首を傾げた。むしろ漂うのは排気ガスの臭いの方が強く感じる。
「僕はわんちゃん好きですけど……あんまり大きいと、こわいですよね」
「そうね。だから、優劣ははっきりと教えてあげなくちゃいけないわ。我が物顔でわたしの手を焼かせるのだもの」
 葛原 武継(aa0008)の言葉に頷きつつ、みずくは不敵な笑みを浮かべた。
「りゅか殿、よろしく頼むのである!! くるお殿もよしなに!! すごくおっきいのである!!」
「あ、えっと、ゴリラは……大きいけど、怖くないですよ! すごく頭がいいって、動物園の人が言ってたんです」
「……うん、今は、それでいいよ……うん……」
 泉興京 桜子(aa0936)のフォローのつもりでそう言う武継はどちらが英雄でどちらがリンカーなのか間違えたのだろう。そんなことを純真無垢な瞳で言われればクルオは項垂れながらそう答えるのが精一杯だった。
「こ、こら!! 失礼のないようにしなさい!! ……すいませんね。うちの子が」
「あ……うん……」
 ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)が謝罪するがクルオのテンションは下がったままだ。
「そろそろ始めたほうがいい。長期の封鎖はHOPEの信頼に関わるそうだ」
「そ、そうだね!!」
 任務の開始を告げるЛайка(aa0008hero001)に武継は頷いた。
「犬を倒すのであるか。可愛そうであるがの」
「誰かに操られているそうですが。そいつを探している暇はないみたいね。ずっと道路を閉鎖してるわけにもいかないし」
「むむむ……仕方ないのである」
 少ししょんぼり顔の桜子はベルベットの言葉に頷いて前を向く。やらなければならないことをやる。それがリンカーの使命なのだから。
「狙われているのは車は全て同じね。囮でおびき寄せれば……」
 みずくの目の前にはその条件に該当するオープンカーがあった。総数三台。
「車に関してはHOPEが用意してくれたそうです。後は随時連絡をとりあって行動を」
「通信機も人数分用意されている。おかしなことに気がつき次第教えてくれ」
 灰堂 焦一郎(aa0212)とストレイド(aa0212hero001)はそれらを皆に配り、鍵を各車の運転手に預ける。どれもHOPEが用意したレンタカーだ。何かあっても書類だけで済むらしい。
「僕たちは木霊さんの車に乗るんだね。よろしくお願いします。あ、泉興京さんもよろしくお願いします」
「わしおーぷんかーに乗るのははじめてなのである!! はつおーぷんかーである!!」
「身を乗り出すんじゃないの!! 落ちるわよ!!」
 クルオが振り返ればそこにはすでに乗り込んでいる桜子とベルベットの姿があった。走っていないからこそ大丈夫ではあるが、それでもはしゃぐ桜子は危なっかしい。
「やっほー!! 一回車運転してみたかったんだー!」
 そして、木霊・C・リュカ(aa0068)もすでに乗り込んでいてはしゃいでいた。
「……リュカ、免許持ってるのか?」
「え? 無い無い、お兄さんほら、見えないからとれないよ」
 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)のそんな問いに、リュカは自身のサングラスを指差し、当然とばかりにそう答え……車内と車外に沈黙が走る。無免許運転は違法だが、今回は他に車両がいないこともあり、HOPEの特権として例外的に許可を得た。
 当然、普段は私道などの例外を除けば、やってはいけないことだが。
「……お前、それで大丈夫なのか? 他の奴らの命もかかってるんだぞ?」
「大丈夫! 予習はしてきたし船も運転できたからいけるよ!」
「……かなーり不安だが、サポートを頼む。俺もできる限りのことはする」
 不安そうなオリヴィエに対し、リュカは自信満々。これで安心しろと言われても無理があるかもしれないが、万一事故になってもリンク状態であれば死ぬことだけはないのがせめてもの救いか。
「持ってて良かった免許証! 運転は任せてください!!」
「荒い運転して仲間を落とすなよ?」
 もう一方の車の方は浪風悠姫(aa1121)が正規の免許証を提示し、須佐之男(aa1121hero001)に突っ込まれつつも同乗者の安心だけはしっかり得ていた。
「こら!! みんなを不安にさせるようなこと言わないでください!! 葛原さん、恭一さん。よろしければご一緒しますか?」
「えっと、始めまして!! 葛原武継です、よろしくお願いします!!」
「ん? あぁ、それじゃあご一緒させてもらうぜ」
「無骨者だかよろしく頼むぞ。迷惑はかけないようにする」
 悠姫の申し出を武継は若干緊張した面持ちで受け、雁間 恭一(aa1168)はそっけなく答え、マリオン(aa1168hero001)はそれを補うかのように礼儀正しく応じる。
「後カトレアさんから運転指示がきてるから、覚えておいてくれ。一応俺も覚えておくが」
「右が右、左が左……おぉ。覚えやすくて助かります。でもどこかで見たことあるような……」
「従魔の相手は皆に任せて運転に集中してくれ。できる限りフォローはする」
 須佐之男に言われ、悠姫は頷いた。
「僕は……皆さんに従います。指示をお願いします」
「なるほど。それじゃあ思いっきりやっていいんだな?」
「お? おおう? 何を興奮しておるのじゃ?」
 武継の言葉を受けて、カトレヤ シェーン(aa0218)は不敵な笑みを浮かべ、王 紅花(aa0218hero001)はそんな相棒に戸惑う。
「つまりはカーチェイスバトルといったところだろ? く~っ! 学生時代を思い出すぜぇ~!!」
「カーチェイス……上海ではショバ代払わねえくそガキどもを良く追回したな」
 カトレヤと恭一の発言にこちらもまた周囲に沈黙が走る。
「女の尻の間違いであろう? それにしても碌な仕事をして来なかったな、雁間」
「それは否定出来ねえ……」
「やはりな、上海のやくざ娘で痛い目に遭ってこの様な有様になった訳だ」
「……そっちじゃねえ」
「お、お主ら。無免許で何か危ないことをしておったのか!?」
「あ? ……今のは聞かなかったことにしといてくれ。心配するなって!! 退治もちゃんとやるぜ!!」
 そんなマリオンと恭一のやり取りに紅花は狼狽し、カトレヤは大したことじゃないとばかりに話を打ち切る。実際、大したことはないのだろう。それ一つだけしか話がないのであれば、だが。
「よし。よくわからぬがやる気になってるのは結構なこと。我も協力するぞ」
 これ以上この話を続ける危険性を感じ取ったのだろう。紅花の言葉に一同は頷く。
「どうやら相手は同じ車種の車ばかりを狙っているようです。我々が囮役を引き受けましょう」
「囮役か。不服だが、対象を捉える為ならば止むを得まい」
「では行きましょうか。……皆様方の円滑な出社の為に早急に排除しなくては」
「我らの信頼にも関わる。失敗は許されんぞ」
 焦一郎とストレイドはそう言うと一足先にエンジンを始動させた。一番危険な役目のはずなのに一番安全に思えるのは何故だろうか。
「獲物を狙う標的を狙うか……こうなってくると、狩りみたいだね」
「知ってるかもしれないけれど、ゴリラは雑食らしいわよ」
「へえ……そうなんだ、知らなかったなぁ。みずくは博識だね」
 そんなクルオにみずくは沈黙を返し、各々危険の匂いを感じながらも車に乗り込むのであった。

●狩の時間
「他の人たちの避難は終わってるんだね……ここを走ってるのは僕たちだけ……」
 不安からか、車体にべったりと張り付きながら武継は呟く。
「今のところ特に問題なし。不気味なぐらい静かだ……でもなかったか。この車内はやかましい」
「みんな、地図は確認しておいてね。どこから敵が来ても大丈夫なように」
 オリヴィエが隣を向けばリュカが目も見えていないはずなのにしっかりと運転していた。
「道はばっちり覚えたのである!! 後はわしの秘密兵器で……!!」
「まーた嫌な予感のするものを用意してるのね、この子は。期待しないでおくわ」
 自信満々の桜子の手荷物を見て、ベルベットは不安顔で溜息一つ。不安の種は一つではない。
「今はできる限り安全運転と……前方異常なし」
「いいね、いいね、この感覚。血がたぎるぜ!このまま海まで行けるといいんだけどなぁ!!」
 そんな悠姫の背中をガンガンと叩くカトレヤ。その指示は加速しろである。安全運転が許される距離は30メートルもないらしい。
「さて、後はこのショットガンマリッジをお見舞いしてやるだけだ」
「確かに早く終わりそうだが……動きが酷いものに成らないか?」
 揺れる車内で銃を準備する恭一にマリオンは不安そうに尋ねた。徐々に加速し揺れの激しくなりつつある車の動きに吹き付ける風が不協和音となって襲ってくる。
「ストレイド、間もなく会敵が予想されます。警戒を」
「……来たようだ。灰堂、備えよ。……こちら囮班。作戦フェイズ2へ移行」
 運転に集中する焦一郎の代わりに索敵をしていたストライドが通信機で連絡を取った。
「そうも言っておれんぞ!! 彼奴がきおった!!」
「囮車より連絡!! 目標に接近開始!!」
 紅花がそれを受け、須佐之男がそれを悠姫に伝えるとオープンカーは更に加速する。
「来ました!! すぐに迎撃を……!! 速い!? ……うわぁっ!?」
「フルスロットルで追いかけるよ!!」
 目の前を黒い影が駆け抜け武継は驚くが、リュカは平然としていた。と言うか、殆ど見えてないから驚きようがない。
「来たわね!! ……あははっ! いいわリュカ! オリヴィエがダメって言ってもわたしが赦してあげる! もっと飛ばしなさい!!」
「うわっ!! ……ちょっと……こんなに早いと……予想外……みずく!! 力をかりるよっ……!!」
「いいわっ!! 思いっきりやりなさい!! 奴に種族の力の差を見せつけてあげるのよ!!」
「君の目的はわからないけど……人を傷つけるのを放っておくわけにはいかない!!」
 加速を指示するみずくとクルオはリンクする。それに伴って強化された肉体と感覚が車両の動きに辛うじて同調していた。
「よし!! こっちもできる限り接近します!! 振り落とされないように!!」
 悠姫は背後のカトレヤを心配してそう声をかけたが、驚きのバランス感覚で未だに立ったままで指示を出している。確かに立ったままの方が視野も広がるし、索敵を行うにも都合はいいのだが……。
「タイヤをやられた!! 緊急停止!! ……共鳴完了。各部異常なし。状況を開始します」
「……敵影確認。戦闘システム・起動……照準補正。予測射撃開始」
 焦一郎はストライドとリンクし、壁面との衝突の衝撃に耐える。直接攻撃を受けたわけではないので怪我はない。しかし、車両の方は自走できてもカーチェイスが出来るような状況ではなかった。
「囮車がやられたか。次に狙ってくるのは……どこだ?」
 他に標的がいるためか、黒犬が追撃を加える様子はない。カトレヤは高い視界を活かして索敵をし、対向車線を併走する影に気付いた。
「囮がやられたことで一号車を狙いだしたか……しかしそれも予測の範疇」
「ここで逃す訳にはいきません」
 ストライドはそれを確認すると通信機で二号車に連絡を入れ、焦一郎と共に行動を開始する。
「攻撃を加える車両を優先しておるようじゃ。今はすぐ側の車両を狙っておるぞ」
「ほおぉ。こっちは目にないってわけか。スピードアップだ!! こっちから狙いに行ってやるぜ!!」
「ひょえぇぇぇ!! い、いくらなんでも早すぎやしないか!! か……顔が歪む……」
「風の如く! 風の如く!! 風の如く!!!」
 紅花はカトレヤの暴走に耐え切れず、リンクすることで退避する。尤も、立ち上がっているカトレヤにリンクすると言うことはある意味状況の悪化と同義だったが。
「どんなやつだろうと頭をやれば……ダメだ!! 当たらない!!」
「狙いをこっちに変えてきたか!! ……くそっ!! 近寄るんじゃないよ!!」
「……ふぅ。危機一髪。大丈夫ですか?」
 須佐之男の指示で長い直線道路で攻撃を仕掛けるが、黒い犬はそれらを器用にかわす。元より車両と同等かそれ以上の速度で自在に走れる相手だ。反撃を悠姫はなんとかかわしているが、状況は余り有利とは言えない。
「次の急カーブで仕掛けられると危ないな……おわっ!! ちゃんと運転しろよ!!」
 オリヴィエのカーブと言う言葉にリュカは反応して減速していた。
「急カーブです!! 気をつけてください!! ……しっかり捕まって!!」
「奴もバランスを崩した……チャンス!! ……くそ……すごい風圧だ……!!」
 一方、悠姫の方は速度を殆ど落とさないままで急カーブに突入。
 それに追従しようとしていた黒犬にも無茶だったのだろう。車両との距離が先ほどまでよりも近い。だが、須佐之男達もバランスを取らなければ転倒しかねない状況でうまく攻撃を仕掛けられない。
「ええい、まどろっこしい!! 脚を狙え雁間!」
「俺にそんな腕はねえ! ……ようやく近付ける様になった……長物持ってる奴! ケ○の穴増やす前に脚引っ掛けろ!」
「指示を出すだけで精一杯か、情けない……」
 マリオンの罵声を浴びつつも、恭一は指示を出すが、間合いは近くとも自在に左右に避けられる黒犬と車では近づけてもそうそう攻撃が当たるものではない。
「さっそくこいつの出番であるな!! じゃじゃーん!! すないぱーらいふるである!! これで狙い撃つである!!」
「って、そんなたいそうなもの使えるの? ……あ、やっぱり外した」
 その背後では桜子が狙撃を試みるが、カーブを曲がりながらでは難しかった。リンクしたベルベットの呆れた声が頭に響く。
「かわされた!? 速い……でもだからってやられっぱなしじゃないわよ!!」
 みずくは加速を指示。カーブに突入したときの速度が遅い方が抜けるときには速度を出せる。
「むむ!! しからばこの香辛料爆弾で……あ、手が滑った」
「……ぶぇっくしょいん!! ……ちょ……何やってんのよ!! 大惨事じゃないの!!」
 もう一台と黒犬を追い抜いたところで桜子がばら撒いたのは香辛料を詰め込んだお手製の爆弾。その被害に遭ったのは同乗しているリンカー達だ。
「お!? しかし目潰しにはなったようである!! 今のうちに狙い撃つである!!」
 桜子達が撒いた香辛料を避けようとしたのか黒犬の動きに迷いが見えたとき、後方から追いついてきたもう一台からの攻撃が当たる。
「誰かが当ててくれたみたいだけど……怪我の功名ね。でも2度とそれ使うんじゃないわよ」
 ベルベットはまだ残っているかも知れないそれの使用禁止を告げた。
「ぐおっ!! なんてスピードだ……リンクしてても酔いそうだ!」」
「貴様の無茶で動きが激しくなったのだろう!」
「いや違う、隣の女の指示が……こいつ、このカーブの中このスピードで立てるのか!?」
 恭一がマリオンに反論しつつ横を見れば、カトレヤは変わらず立ったままで指示を出していた。
「すばしっこいね!! でも、足をやられりゃどうしようもないだろ!! ……くぅたばぁれぇー!!」
「い……いかん……意識が遠くなってきおった……」
 カトレヤの意識が高揚しているからか、意識が遠のくような溶け込むような感覚の後、紅花はカトレヤと一つになる。
「ちっ!! さすがにこうも動かれると狙いを定めにくい……もう少し近づけないか!?」
「やってるんだけど向こうが早くて……うわっ!! こっちにも攻撃してきた!?」
 オリヴィエとリンクしながら攻撃と運転をこなすと言う器用な芸当を披露しながらリュカは黒犬を追いかける。
「闇雲に撃っても当たらない!! 本体を狙うより動きを抑制するように威嚇するんだ!!」
「だんだん動きが鈍ってきたね……そろそろ勝負といったところかな」
 オリヴィエの指示を受け、当てることを捨てた攻撃に切り替えれば黒犬の動きが鈍くなった。後方から追いかけるリュカ達と前方でハイスピードで引き付ける悠姫に挟まれたこともあり、黒犬の速度は最初と比べるとかなり落ちていた。
(みんなの脚を引っ張らないようにしないと……せめて動きを止める……!!)
 武継は身を乗り出し、攻撃を仕掛ける。その時、リュカが急にハンドルを操作し、車両がほとんど真横を向いた。その結果、武継は車両から放り出される。
「誰かが落下しそうです!! 一旦攻撃の中止を!!」
「す、すいません……助かりました。大丈夫です、まだやれます!!」
「了解。……救助確認を完了。攻撃を再開する」
 焦一郎の声がしたと思った瞬間。武継はストライドに受け止められていた。
 周囲を見れば、道路を囮に使用していた車両が塞いでいる。これを避けようと急な挙動を取ったらしい。後方から追いついた車両からもリンカー達が降りてくる。
 そして、完全に包囲された黒犬はリンカー達によって討ち取られた。


「ふぅ……終わったわね。柄にもなく興奮しちゃったかしら? ……あら? どうしたの」
「……酔った。気持ち悪い」
 みずくが振り返ると、クルオが真っ青な顔をしていた。
「全車両被害はありましたが皆怪我もなくよかったです」
「任務完了。他設備には異常なし。明日からでも平常運転できそうだ」
 車両の状況確認を終えた焦一郎が戻って来た。ストレイドが確認した範囲では周辺の道路の被害もそれほどではない。簡単な補修と事故車両の回収が終わればすぐにでも封鎖を解除できるだろう。
「本部へ。作戦終了しました。車の回収をお願いします」
「しーきゅーしーきゅ!! こちら車両の破損はあるものの全員無事である!!」
 焦一郎は本部に連絡を行い、桜子は通信機で状況を伝えた。通信機の向こうで落胆の声が聞こえたのは気のせいだろう。きっと安堵の声を聞き間違えただけだと思いたい。
「この状況。無事に見えるわけ?」
「船と言い車と言い、この世界の乗り物はなんて無茶な動きをするのだ……」
「文明の進歩だな」
「内臓をひっくり返す回数が文明の進歩の証なら水車責……うっぷ」
「これから飯に行くそうだが……どうする?一応俺は付き合うことにするが」
「余は遠慮しておく……先に帰って休ませてもらうぞ……」
「……ったく。タフな女もいたもんだぜ。今回は俺の完敗だ」
 ベルベットが指し示す方向にはマリオンが恭一の肩を借りてやっとと言う状況で立っている。
「何よ。情けないわね……ほら、あそこでやす……って! こんなところで吐くんじゃないわよ!」
「ご……ごめん。でも……うえぇぇぇ……」
「ぎゃああぁぁぁぁぁ!! 誰か!! 水!! 水をっ!!」
「み……みんなも安全運転には心がけようね……後、忘れずに酔い止めを……」
 その向こうではクルオを介抱するみずくの姿もあった。
「お? 気がついたか? 終わったぞ」
「犬が……犬が迫ってきおる……はっ!?」
 紅花が目を覚ますと大アップのカトレヤの顔。
「いや~、スッキリ、爽快! 何か食って、帰るか」
「うぇぇ……気持ち悪い。しばらく車に乗るのはごめんじゃ……」
 満面の笑みを浮かべるカトレヤと苦虫を潰したような表情の紅花。
「訂正するである!! 乗り物酔い数名!! 後鼻と目をやられたものもいるのである!! 死亡者及び命に関わる重篤者無し!!」
「前者はともかく後者は誰のせいかしらねぇ……」
 それを見て桜子が報告を改めれば、歓声が聞こえた気がした。尤も、ベルベットに突っ込まれてそんな些細なことはすぐに忘れてしまったが。
「……でもまぁ。他の連中を見てるとあまり気持ちのいいことではないけどね。汚れ役を引き受けるのも仕方ないさ」
「ん……何か様子が変じゃが……」
 らしくも無いことを口にするカトレヤに紅花が顔の前で手をひらひらさせる。
「うげっ!! いきなり叩くでない!!」
 紅花の頭に一撃。見上げたそこには……。
「……いつものカトレアじゃ」
 そこで漸く紅花は安堵の笑みを見せた。
「了解。明日から運行を再開するそうですよ」
「仕事としては終了か。さて、これからどうするか……」
 確認した悠姫に須佐之男は周囲を見回す。
「終わったが……こいつも災難だったな。復讐のために使われたなんて」
「復讐を想う生き物はね、人間しかいないんだよ。オリヴィエ」
「そんな奴に関わることもなければ静かに暮らせたのに。すまないな」
「手厚く弔ってやろう。また次の犠牲者も出ないようにお祈りを……」
 オリヴィエとリュカの前には従魔化が解け姿を見せた素体の犬の姿があった。
「……わんちゃんのことを思うと気の毒なのである」
「そうね。この子も元は普通の犬だったのよね……きっと平穏に暮らしていただけなのに」
「お墓、作ってあげたいけど……だめですか?」
 桜子とベルベットは手を合わせて祈りを捧げる。武継の提案を拒むものはいない。
「きっと、すごく寂しかったんだろうね……生まれ変わったら、幸せに、なれますように」
 そして、武継は埋葬しようとその黒犬を抱き上げれば……僅かな温もりが伝わってくる。
「もしかして……」
 脈がある。若干弱くはあるが、まだ呼吸もしていた。
 それを聞いて、リュカは動物病院に連絡をつける。
「大丈夫ですか? 病院、ついていきます……?」
「そうですね。せっかくですから乗ってください」
「あぁ。今度は安全運転で頼むぞ」
 武継は黒犬を抱きかかえたまま、唯一ほぼ無傷のオープンカーに乗り込んで悠姫の運転で動物病院に向かった。須佐之男に言われるまでもなく法廷速度を遵守して。
「誰かは知らないが許せねぇ……覚悟しとけよ」
「……あぁ。僕たちの手で捕まえてやろうね」
 オリヴィエとリュカはそれを見送ると今回の事件の背後にいるであろう存在に向けて宣言する。
「……! 今、何者かの視線を感じた。もしや奴が」
「身近に主犯が潜んでいたか。奴の姿、確認できたかい?」
「逃げられた。しかしいずれは追い詰める」
 反応を拾ったストライドに焦一郎は問いかけるが、すでに反応は追跡不能な範囲に出たようだ。

●愚神ブリーダー
「助けるか……これもまた人の……」
 その場を離れた愚神……元愛犬家の愚神は呟く。
「だが、その元凶を作ったのもまた人か……」
『故に力を振るうがよい。我はその為に汝の意志を尊重しよう』
 その内にあるモノが何なのかもわからぬままにその愚神は何処かへと消えて行った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
  • ヒーロー見参
    浪風悠姫aa1121

重体一覧

参加者

  • 違いを問う者
    葛原 武継aa0008
    人間|10才|男性|攻撃
  • エージェント
    Лайкаaa0008hero001
    英雄|27才|男性|ドレ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
    機械|27才|男性|命中
  • 不射の射
    ストレイドaa0212hero001
    英雄|32才|?|ジャ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • エージェント
    黄泉坂クルオaa0834
    人間|26才|男性|攻撃
  • エージェント
    天戸 みずくaa0834hero001
    英雄|6才|女性|ソフィ
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • ヒーロー見参
    浪風悠姫aa1121
    人間|20才|男性|攻撃
  • エージェント
    須佐之男aa1121hero001
    英雄|25才|男性|ジャ
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
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