本部

宇宙戦争!?

落花生

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/05 13:51

掲示板

オープニング

●星に願いを
『オリオン座には、数多くの明るい星や星雲や星団があります。そのため、古来からオリオン座は特別な星座として人々を照らしていました。古代メソポタミアのシュメール人はオリオン座を「アヌの真の羊飼い」と呼んでおり……』
 プラネタリウムの音声が非常事態にも関わらずに、星座の説明をし続ける。外に声は漏れてはいないはずであるし、内側から鍵はしっかりとかけた。これでしばらくはプラネタリウムの外にいる従魔の目を逃れて、牢状できるはずである。
「ママ……。外にいる宇宙人さんは、人間のことが嫌いなの?」
 母親は、娘をしっかりと抱きしめる。
 娘の手には『宇宙人さんに手紙を書こう!』と印刷されたプリントが握られていた。今月の天文台の催し物の一環で配られたプリントだった。
「大丈夫よ……。今、職員の人が事務室に行ってHOPEに電話をしてくれているから。絶対に助かるからね」
 母は、娘に強く語りかけた。

●助けを求めた人々
「HOPEですか! こちらは県立天文台です。宇宙人が……宇宙人に襲われています」
『こちらはHOPEです。落ちついてください』
 電話口から聞こえてきた声に、職員は深く息を吐いた。
「現在、天文台では想像上の宇宙人の模型を展示しています。その模型に従魔が宿ったらしく……現在、職員とお客様はプラネタリウムに籠城しています。従魔の数は……」
 男は、事務室の電話を落とす。
『どうしました? もしもし、どうしたんですか!!』
 受話器からは未だにHOPEの職員の声が聞こえていたが、男は答えられなかった。なぜならば、事務所にドアをグレイ型の従魔が開けたのだから。

解説

県立天文台……平屋の天文台。入口付近は展示コーナーがあり、真ん中にプラネタリウム、奥に事務所がある。プラネタリウムには職員4名、客7名(そのうち2名が子供)が籠城している。(PL情報―HOPEに電話をした職員は、事務所のトイレに牢状しています)

従魔
想像上の宇宙人の模型に宿っている。

グレイ型……二足歩行している。足音なく歩き、ドアなども非常に静かに開ける。歯や爪などはないが掌が吸盤になっており非常にくっつきやすく、力も強い。事務室付近に出現。

タコ型……触手が8本あり、すべての足に吸盤がある。獲物を触手で包んで、絞めつけてくる。展示室付近に出現。

クリーチャー型……足が4本のクモのような形をしている。糸などは吐かないが、壁などを伝って歩くことが可能。また、足は槍のように尖っている。展示室付近に出現。

スライム型……広がると1メートル、まとまると10センチ程度まで小さくなる。変幻自在なため、どんな隙間でも入り込める。切ると増える。攻撃方法は薄く広がって、相手の顔に覆い被さり窒息させる。なお、色は半透明。プラネタリウム付近に出現。

リプレイ

●VSクリーチャー型 
「宇宙人従魔とかマジうける!」
 現状を確かめ合った直後、虎噛 千颯(aa0123)は噛み殺せなかった笑いを盛大に吹きだしていた。『ウケルのはかまわないが、救助が優先だ……でござろう!』と白虎丸(aa0123hero001)が虎噛を叱りつけた。だが、ほとんどの面々の心境は虎噛と似たり寄ったりである。
 従魔がらみの事件は多いが、今回の事件はなかなかに可笑しなシュチュエーションであろう。虎噛の腹筋はそんな現実に耐えきれなくなっていた。その隣で、石井 菊次郎(aa0866)は呟く。
「ちょうどプラネタリウムを見たいところだったので、都合の良い依頼でした」
『空を見上げれば本物の星が見られるというのに……この世界の人間は変わっておるのう』
 テミス(aa0866hero001)は、天文台についている丸い屋根をしげしげと見つめる。
「都会では夜空が……というより、天蓋の全てで星を把握したいという欲望の賜物でしょう。古代からの星の位置の変移を示してくれることもあるのですが……とても良いものです」
 饒舌になった石井を見るに、彼は本当にプラネタリウムに来たかったのであろう。だが、デミスは隣で「我の意見は変わらぬな」と呟いている。
『なんや、エセ科学雑誌に乗っ取るような模型を置きまくっとる天文台らしいで。ユーは、こんな天文台でもええんか?』
 スケジロー(aa1493hero001)は、HOPEより事件の話しを聞いた時からずっと苦笑いをし続けていた。教育に悪いだろう、とツッコミたくてたまらなかったのである。その上、宇宙人の展示物に従魔が宿ったと言うのだから、もう笑うしかない。
「宇宙臣の模毛イニ憑いたジュウ魔だよ。お菓子しく無イよ」
 と、シャンタル レスキュール(aa1493)はぐっと拳を握った。
『避難しているなかには子供もいるわ。弱虫達だから、きっと脅えているわ』
 天戸 みずく(aa0834hero001)が、どこか色っぽく黄泉坂クルオ(aa0834)に微笑みかける。
「そうだね……。悪戯に驚かせないようにしないと」
 巨体を誇るクルオは、シャンタルと同じように拳を握りしめた。
 それぞれの決意を改めると、天文台へと入って行った。平屋の建物の内部は、平時と変わらない明るさである。だが、当然ながら人の声はせず、『次回展示 アームストロングの一生』と書かれたポスターが破れていたり、スペースシャトル型の募金箱が壊されたりしていた。おそらくは従魔かパニックなった人々が壊してしまったのだろう。
「わらわは、最近映画を見たのじゃが……その映画では救助隊が登場後に即上から連れ去られておった」
『それって、今するべき話しなのかな?』
 カグヤ・アトラクア(aa0535)の言葉に、クー・ナンナ(aa0535hero001)は少し嫌そうな顔をした。そういう行動は『フラグを立てる』とも言うのではないか、とクーは思ったが言わなかった。言ったら、自分たちが本当に宇宙人に連れ去られてしまうような気がしたのである。
 石井は、動かせそうな展示室から動かせそうな展示品をいくつか見つくろうと天文台の入口においた。従魔相手には時間稼ぎにしかならないであろうが、これで彼らが外に飛び出すことを少しでも防げるであろう。
「菊次郎、天井じゃ!」
 石井の頭の上にいたクリーチャー型の従魔を、カグヤが発見する。すぐさま広げていたクリスタルフォンにて従魔を攻撃するも、従魔はクモのような動きでそれを避けた。カグヤは、そのクモをじっと見つめると「……うむ、見た目の形がよい」と小さく呟いた。それを聞いていたクーは、「悪趣味だよ」と呟くことしかできなかった。
「ここは、わらわに任せて先に行くのじゃ!」
「カグヤちゃん、大丈夫なんだな?」
 虎噛は、カグヤに確認を取った。リンカーとしての腕前を信用していないわけではないが、仲間を置いていくことに若干の引け目を感じたのである。ましてや、相手は女の子だ。
「わらわのことなら、平気じゃ」
 その言葉を信じて、各自はそれぞれの敵を粉砕するために散った。
 クリーチャー型の従魔が、散って行った仲間を追おうと壁を伝って歩きだす。カグヤはそれに向かって、マビノギオンを使って幾千もの剣を掃射した。粉塵のなかで、カグヤは微笑む。すでに狙いは、従魔に足に定めていた。
「こちらは、人々が作りあげた戦術で戦っておるのじゃ。宇宙人や従魔風情に遅れは取らぬぞ」

●VSタコ型
 展示室には、宇宙船に関した様々な展示品が置いてあった。現在の展覧会の題名は『人々が憧れた地球外生命体~宇宙人っているのかな?~』らしい。題名は長いが、展示室には実際に使われた宇宙船の模型や宇宙にいると信じられていた宇宙人の姿絵などがあった。どうやら真面目な展示は大人用、宇宙人などの砕けた展示は子供用のものらしい。大人と子供が楽しめる展示が、ここのコンセプトのようだ。
 そして、ここに展示されていた模型に従魔が宿ったのである。
 友人である虎噛の息子もいつかはこういう場所に連れてってくれとせがみだすのかもしれない、と御神 恭也(aa0127)は考えた。こういうものが好きな男の子は、けっこう多いものだ。
『タコか……妖にいたけど良くは知らないんだよね』
 伊邪那美(aa0127hero001)は、唸りながらもきょろきょろとあたりを見回す。さらには、ゴミ箱まで漁りだした。
「宇宙人を模しているらしいから、タコと同じように擬態能力を持っているかはわからんが……最悪を想定して探すぞ」
 御神も狭い隙間などを注意して従魔を捜索したが、従魔はそんな狭い隙間には入っておらず、堂々とドーム状の硝子に守られた展示品にまとわりついていた。にゅるりとしていそうな感触と八本の触手は、まさにタコであり、従魔が少し力を入れただけでドーム状の硝子が割れた。その様子に、御神は恐ろしさよりも懐かしさが先だった。
「俺が知る、宇宙人と言えばこのタイプだな」
 小さな頃に見た漫画やアニメの宇宙人は、ほとんどがこんな外見をしていたものである。
『……恭也、年齢を誤魔化してない?』
 従魔が御神に気が付き、ぐわっと触手を広げながら向かってきた。
 御神は触手に完全に包まれる前に、怒涛乱舞を発動させる。タコのような触手がちぎれ、びたんと床に落ちた。
『恭也、捕まらないように気をつけてね』
「おう!」
 展示品に気を配りながら、御神は従魔の目を狙う。
『でないと、お子様が見られない絵面になっちゃうから』
 伊邪那美の言葉に、御神は一瞬驚いた。狙いがそれなかったのは、さすがと言うべきであろうが。
「……対象がお前なら、特殊な性癖なもの以外は喜ばん」
 伊邪那美は、すっとんきょうな声をだした。まるで御神の話しは想定外だったとばかりの顔をして『えっ!! 襲われるのはボクじゃなくて恭也だよ』とのたもうた。
「……腐っていやがるのか」
 前門の従魔、後門の伊邪那美。
 はたして、御神の敵はどちらなのか。

●VSグレイ
 虎噛と泉興京 桜子(aa0936)は、事務所に向かっていた。HOPEにかけられた電話は固定電話であり、その緊急要請は途中で切られている。もしかしたら、まだ事務所には助けを求める人がいるかもしれない。
「ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)! 宇宙人! 宇宙人であるぞ! 本物であるならばサインが欲しいところであるがなの」
 桜子は興奮した面持ちで、ベルベットに語りかけた。
「いいね、いいね。俺ちゃんもサインをもらうぜ!」
 と、虎噛まで悪乗りする。
 英雄である白虎丸とベルベットは、互いにため息をついた。友人同士であり気心しれている同士であるからなのかもしれないが、テンションが一気に上がりすぎていて始末が悪い。白虎丸がいくら『遊ぶのは、依頼が終わってからにしろ!』と叱ったところで、寝耳に水な状況なのである。
『宇宙人にサインを求めてどうするのよ……』
 ベルベットは呆れてしまったが、脳裏にはグレイ型の宇宙人が奇妙にサインする図が浮かんでしまった。『ワレワレガウチュウジンダ』とか書かれていたら、どうしよう。
「お、ここが事務室だな」
 虎噛は、事務所のドアを開ける。桜子は、周囲を警戒していた。HOPEに連絡が入ってからだいぶ時間が経っている。桜子が内部の地図を把握していたおかげで事務所までは最短距離でたどり着くことができたが、従魔がどこに潜んでいるのかは分からない。桜子はそう思い、天井すらも警戒していた。
 だが、桜子の警戒に反して、グレイ型の宇宙人は普通に立っていた。あまり大柄ではなく、事務所の机と机の隙間に隠れるようにしていたのである。
「タコ型もやはりいいが、ここはグレイ型であろう」
 桜子の呟きに、ベルベットは頭を抱えた。
『あんたの趣味がわからないわ。さあさ、ちゃっちゃと倒すわよ!』
 ベルベットの言葉を合図に、虎噛はにやりと笑って鎌をかまえる。
「HOPEから来たぜー! もし隠れているなら、俺ちゃんが良いって言うまで、隠れててな!!」
 虎噛が、叫んだ。もしも、ここらにHOPEに連絡を取った人間が隠れていたとしたら、下手に出てこられても巻き添えにするだけである。ならば、目の前のグレイを倒す間だけでも隠れていてもらったほうがずっと安全だ。
「こっちだぜ!」
 虎噛は、大声を出してグレイを事務所から呼び出そうとする。だが、グレイに動きはない。もしかしたら、動きが緩慢すぎるだけなのかもしれないが。
「ラチがあかないか。桜子ちゃん、ベルベットちゃん、こいつを廊下まで押しだすぜ」
「ワシらにまかせておけ。従魔よ、ここであったが、ひゃくねんめ! そなたの悪逆非道のおこないをゆるさぬぞ。よいうちゅうじんにあやまるがよい!!」
 その言葉を聞いたベルベットは、思わず『宇宙人に良いも悪いもないわよね』と呟く。桜子はそんな言葉など興奮のために耳には入ってはいなかった。桜子はライブスブローを発動し、武器を使用してグレイをを事務所から押し出そうとした。しかし、グレイは自らの手の吸盤で桜子の武器に張り付いてしまった。
「おおおっ! このグレイ型は、タコのようにきゅうばんをもっているのだな。それなら……」
 桜子は、武器をグレイごと廊下に投げ捨てた。
「どうじゃ!」
「広いところに出ちまえば、こっちのもんだぜ!」
 虎噛は鎌を大きく振りかかぶり、グレイを真っ二つにしようとした。しかし、グレイは今度は虎噛の鎌に吸盤でくっついてしまう。ブラッドオペートを使用してグレイを引き裂こうにも、グレイが鎌にぴったりとくっついている状態では使用が難しい。
「虎噛さん、鎌から離れてもらえますかねえ?」
 聞き覚えのある声が聞こえ、虎噛は咄嗟に自分の鎌を離した。すると、その鎌にくっついていたグレイに向かってリーサルダークが撃ちこまれる。
「まったく宇宙人を真似るのなら、その科学性も真似るべきでしょう。こんな野蛮な行動をするとは……やはり異界の屑にふさわしい行動と言えます」
 口調は礼儀正しいが、どこか怒りを感じさせる石井の声であった。
『大丈夫か? 展示室の従魔が掃射された故に、我らも駆け付けることができた』
 テミスは、助けた二人を見つめていた。
「サンキュー。でも、まだグレイは本気をだしてないみたいだぜ」
 虎噛は急いで自分の鎌を拾うと撃ち抜かれて穴が開いたグレイに向かって、ブラッドオペレートを使用する。まだわずかに動いていたグレイの体はメスによって引き裂かれて、今度こそ動かなくなった。
「自分が、キャトルミューティーレーションされる気分はどうよ!」
 虎噛の言葉に、白虎丸はぽかんとしてしまった。キャトルミューティーレーションは宇宙人が家畜などの一部を切り取り血を抜いていった、と考えられる現象につけられる名前だ。一般的な知識ではないので、白虎丸も戸惑ったのであろう。
『きゃ……きゃとる…………』
「うん、白虎ちゃん……無理に反応しなくていいから」
 虎噛は、健気な英雄の肩をぽんと叩いた。
『すまないでござる……』

●VSスライム
「宇宙人との戦いって言うより、勇者の冒険の最初の戦闘みたいだ!」
 木霊・C・リュカ(aa0068)は嬉々としながら、杖を持っていた。普段は使わない杖だけで、手にしっくり馴染むような感じはしない。オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)も『引き金を引くよりも重くて……やりづらいな』と少し不満そうである。
 プラネタリウム付近にいたスライム型の従魔と遭遇したリュカたちは、スライムをホームの方へと誘導していた。スライムが分裂し、隙間に入られることを恐れての行動であった。スライムが分裂するなど冗談のような光景であるが、リュカはすでにそれを目の前で見ている。
 プラネタリウム付近で最初にスライムを攻撃した際、シャンタルがスライムを鎌で切断してしまったのである。すっぱりと切られたスライムは、一つから二つに増えてしまった。
 今、リュカの目の前にいるスライムは一体のみ。片方はプラネタリウムの近くから引き離せなかったが、きっと仲間がなんとかしてくれるであろう。自分たちは、目の前の敵に集中しなくてはならない。
 スライムが、リュカの顔にめがけて伸びてくる。
「うわぁ、気持ち悪い!」
 リュカは、スライムに向かって威嚇射撃を使用する。だが、スライムの狙いは逸れることなく、リュカの顔に張り付いた。
『大丈夫か!』
 オリヴィエの声を聞きながら、リュカはフラッシュバンを使用する。目がくらむような光が発せられて、スライムはリュカの顔から離れた。どうやら、スライムも光に驚いたらしい。
「けほっ……。胃のなかに、少しスライムが入った気分だよ」
 リュカの言葉に、オリヴィエの眉毛がぴくりと動いた。
『た……食べたんだな。アレを』
「気分だって、気分! いくらお兄さんだって、アレはさすがに食べたくないよ!!」
 半透明でぷるぷるしていて、味のない寒天のような外見のスライムだ。食べ物に例えると美味しそうに感じない事もないが、動いている時点で食欲は全くわかない。
「普通、こういう敵は冒険の最初の方に出現するんだよ。そして、レベル5の主人公に負けるものなんだよね……」
『顔には、吸いつかないんだな』
 だが、目の前にいるスライムはゲームのものとは違って簡単には倒れてくれそうにもない。
 再びスライムがリュカの顔めがけて飛びかかる、リュカが再びフラッシュバンを使用しようとしたとき、「リュカさん、一歩でも良いから下がるんだ!」と声が聞こえた。
 それは、御神のものだった。
 リュカは言われたとおりに一歩下がり、スライムとリュカの間に御神が拳を繰り出す。ヘビィアタックで強化された拳は、スライムを壁に叩きつけた。
 リュカはその隙を見逃さずに、杖を振りかぶる。そして、スライムを文字通り叩きつぶしてしまった。
「タコのほうは片付いたから増援に来たが、無事か?」
「ありがとう、助かったよ」
 リュカが胸をなでおろしていたが、御神は警戒していた。
 主に、自分の背後で楽しそうに笑っている伊邪那美に対して。
「やっぱり……腐ってやがる」
 それは、あまり知りたくはない自分の英雄の一面であった。

●VSスライム その2
 クルオとシャンタルたちは、静かにプラネタリウムのなかに侵入していた。鍵がかけられていたが、そこはリンカーの腕力にものを言わせて壊した。なにせ、外ではスライムが増殖していしまっている。一刻も早く、避難している人々を助けださなければならない。
 そんななかでクルオたちが、なぜ静々と行動していたかと言うと『避難している人たちを驚かせないようにするには……静かに入って、静かな声で喋り出せばいいの。大きな声を出すと恐がらせてしまうから』というみずくのアドバイスからだった。
 それを信じたクルオをはできるだけ、息をひそめてひっそりと避難していた人々に近づいた。途中でシャンタルとスケジローが『暗い所で戦うは不便やろ』と言って、星の説明をしていた機械を止めて会場を真っ暗にしても、なお静かに進んだ。そして、シャンタルが電気をつけたとき、クルオはちょうど要救助者たちの側にいた。
 突然に明るくなる場内。
 突然に現れたように見えた、クルオ。
 その光景に大人たちは悲鳴をあげ、子供たちは……。
「宇宙人だー! おサルの惑星から、良い宇宙人が助けに来てくれたんだ!!」
 と言って、目を輝かせて喜んだ。
 子供の手にはくしゃくしゃになった紙が握られており『良い宇宙人さん、助けて!』と書かれていた。子供にしてみれば、クルオは自分たちを助けてくれる正義の宇宙人に見えたのである。
 しかし、みずくは笑っていた。
 声もなく、大爆笑していた。何故に声を噛み殺していたかと言うと、笑い声で従魔を惹きつけてはさすがに不味いと考えたからである。
「そうだね……。ちょっと、毛深いからね」
 子供たちの夢を壊さないように曖昧に微笑みながら、クルオは自分がHOPEのリンカーであることを説明した。大人たちも、それで落ち着きを取り戻す。
「魔法少女もいるんだから宇宙人だってきっといる筈、みんな危機にブレイドムスク華麗に登場!」
 シャンタルの声が、プラネタリウムに響いた。子供たちはその光景に普段見ているアニメを思いだしたらしく、拍手していた。シャンタルは、その拍手に満面の笑みで答える。
『隙間から、スライムが入ってくるで!』
 スケジローがドアの隙間から、入ってくるスライムを発見する。再びシャンタルが鎌で切り裂こうとするが、そのたびにスライムは増えてしまう。
『切ったら増えるなんて、おかしいやろ! ユーたちは本当は宇宙人やなくて、プラナリアの模型ちゃうんか』
 スケジローが、増えたスライム相手に文句を言う。
「……これが宇宙人?」
 クルオはゴーストウインドを使用し、スライム達の体を劣化させる。本来ならば自分の攻撃が効いているかを確認するべき場面なのだろうが、残念ながらクルオは今回ばかりは別な事に気を取られていた。
「手紙を書きたくなる感じじゃなくない……?」
 とても、意思の疎通ができるとは思えない外見である。
 戦闘が始まると避難していた人々の不安が一気に膨れ上がり、再びパニックに陥りそうになる者まで出てきた。
「落ちついてください! 僕たちが撃退するので……一カ所にかたまって、周囲の警戒だけお願いします」
 クルオの言葉に、シャンタルが頷く。
「シャンタルたちは、負けっ子ナイですぅ」
 それでも大人たちの恐怖は拭いされない。
 だが、子供たちは違った。
「ママ、大丈夫だよ。だって、良い宇宙人と魔法少女だよ。絶対に、負けないもん!」
 小さな女の子の言葉に、大人たちははっとする。
 今自分たちを守ろうとしているのは、年若いリンカーたちであると。
 自分たちが、足を引っ張ってはならないと。
「……みずく」
『ええ、良いわよ。今日は機嫌が少しだけ良いから――望むだけ、力を貸してあげるわ』
 クルオは、ブレームフレアを使用する。
 スライムたちはそれによって吹き飛ぶが、まだ何匹も残ってしまっている。
「待たせてしまってすまぬ。まだ、わらわたちの相手は残っておるじゃろうか?」
 プラネタリウムのドアが、開け放たれた。
 そこには、カグヤをはじめとした今回の作戦に参加したリンカーたちの姿にあった。彼らは自分の持ち場の敵をそれぞれ倒した後で、仲間の手助けにまわっていたのである。そのおかげでもあって一見すると変てこで、戦うと以外に苦戦する従魔に打ち勝つ事が出来たのだ。
「さぁ、これが終わったら修理の始まりじゃ。クー、腕がなるのう」
『カグヤ、こっちが本番なんだよ』
 科学者としてのカグヤの言葉に、クーはため息をつくしかなかった。

●星が振る場所で
「よく頑張ったな、えらいぞ! 今日は特別に、プラネタリウムのなかでお菓子を食べても良い日だからな」
 虎噛が、子供たちにお菓子を配る。
 本当はプラネタリウムのなかは飲食禁止であるが、天文台に許可をもらって今日だけ特別ということにしてもらったのである。カグヤに修理してもらった機械も絶好調であり、従魔の危機から救われた人々や子供たち―そしてリンカーたちはお菓子を食べながら星の鑑賞を楽しんでいた。
「本物の夜空もこう医う解説があレバー良い根」
『そやな』
 シャンタルもスケジローも子供たちに混ざって、楽しそうにお菓子を食べていた。桜子も隣で相伴にあずかっているが、どこか心ここにあらずである。
「……うちゅうじんのサイン欲しかったのう」
『やっぱり、あんたの趣味よくわんないわ……』
 桜子の残念そうな呟きに、ベルベットは呆れかえるしかなかった。
『複雑でござる……』
「子供たちは、喜んでいますよ。白虎丸さんも、大人気で……その…………よかったんですよ」
 クルオは白虎丸と共に、もらった手紙を複雑そうな笑顔で眺めていた。今回の一件で子供たちはクルオを『良い宇宙人』と信じこみ、虎の恰好をしている白虎丸までも『良い宇宙人』と思ったのである。その結果、もらったのは『良い宇宙人』への感謝の手紙だ。
 みずくは、やはりクルオの隣で声を殺して大爆笑している。今回は上映の邪魔をしないようにと、彼女なりに配慮からだ。
「オリヴィエたちが他の星から来たとしたら、どこの星からなんだろうね」
 クルオたちの話しを聞いていたリュカが、的外れな場所を指さす。リンクしていない彼の眼には、星の輝きを見る事はできない。
「さぁな……」
「星の重なりの一つ一つに、人は物語をつけて行ったんだよ。すごいよね」
 リュカの言葉には、感嘆があった。
 それは、星の物語を作った古代の人々への畏敬の念でもあった。
『……共鳴するか?』
「ふふ、大丈夫だよ。……今は、地上の星の物語の方が綺麗に見えるから」
 オリヴィエは、自分の頭の上を瞬く空を目に焼きつけようと再び天井を仰いだ。いつか、この星の話しを出来る日のことを信じて。
「従魔の攻撃で異常がでるかもしれないと思っていましたが、それほど壊れていないようです。良かった」
 石井がどことなく楽しそうに、頭上に浮かぶ偽物の星を眺める。デミスも星を眺めながら「ほう……」と息を吐いていた。
「わらわが直したのじゃから、直って当然なのじゃ。次は、模型の修理じゃな。それにしても……」
 カグヤはしばし口を閉ざし、星を眺めた。この星のどこかに、もしかしたら本当に宇宙人がいるかもしれない。そう考えると、カグヤの胸にときめきがふってくる。
「未知なるモノは良いのう……」
 伊邪那美も、人工の夜空を見ていた。
 その横顔は、どこか懐かしそうでもあった。
「……ボクが知る夜空と近いものがあるね」
 現代では、街の明りに邪魔をされて古代の星空など見ることはできない。見ることができたとしても、それは偽物の星空だ。
「でもね、ボクは街の光は嫌いじゃないよ。――温かい営みの象徴でもあるからね」
 伊邪那美の言葉に、御神は一瞬だけ言葉を失った。
 そして、彼は「……なにか、悪いもんでも拾い食いしたか?」と真剣な顔で伊邪那美に訪ねた。伊邪那美は、微笑みながらも御神のみぞおちに拳を喰い込ませた。
 悶えながら御神は「……やっぱりおまえが敵じゃないのか」と呟くことしかできなかった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • エージェント
    黄泉坂クルオaa0834
    人間|26才|男性|攻撃
  • エージェント
    天戸 みずくaa0834hero001
    英雄|6才|女性|ソフィ
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • 悲劇のヒロイン
    シャンタル レスキュールaa1493
    人間|16才|女性|防御
  • 八面六臂
    スケジローaa1493hero001
    英雄|59才|?|ブレ
前に戻る
ページトップへ戻る