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金塊は誰の手に?
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相談卓
最終発言2015/10/31 00:39:22 -
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最終発言2015/10/29 22:57:57
オープニング
とある平和な日常に事件は起こった。現場は街中の信用金庫。ヴィランが現れたのかと思うとそうではなく、現れたのは黄金色の三葉虫のような物体。その黄金虫の正体は、金塊に取り付いた従魔だった。
●ホープ本部
その連絡は、その支店長直々のものだった。
『済まないが、手を貸してくれないか?我々が触れると、力を吸い取られるみたいに力を失くしてしまうんだ。しかも、その度に奴らの素早さは増していくようで……』
「今、奴らとおっしゃいましたね?金か……もとい、従魔は複数体現れたのですか?」
咳払いをして、平静を装いながら、オペレーターは問い質した。
『確認出来たのは三体だ。現在の金の延べ棒の本数はまだ確認出来ていないが、動いていたのは間違いなく三体だ。』
「解りました。残念ですが、金塊の回収は難しいと考えてください。従魔討伐時に、取り付いたモノを無傷での回収は難しいので」
オペレーターの言葉に言い淀む支店長だったが、意を決したのか、一度頷いて答えた。
『……解った。だが、街に奴らを出すワケにはいかない。必ず捕まえてくれ。今は、地下一階~三階に閉じ込めている。通気孔のダクト等は奴らの大きさ的に抜け出す事は出来ないだろう。防犯の観点からも、強固な物で作っているので、実質逃げ道は無い。奴らの動きを見張って、唯一の三重扉から侵入してもらう』
「解りました。詳しい話はまた後程いただきます。今からメンバーを選抜し、そちらへ急行いたしますので。では、また」
プツンと、通信を切ると、オペレーターは頬を緩めながら声高に叫んだ。
「むっふっふ。みぃんなぁ、ビッグニュースビッグニュース! 金塊を手に入れるチャンスよ!」
その声に反応し、駆け出すエージェント達はオペレーターの声に耳を傾けた。
「今、街の信用金庫で金塊に取り付いた従魔が現れたって報告があったの。支店長に話をつけて、金塊の無事は保証出来ないって伝えてあるから、参加したい人は私に参加費を払って……」
「って、そんな事は認めないであります」
オペレーターの背後から、また別のオペレーターが現れて彼女を制止させていた。
「先輩は、無償でメンバーを募ってくださいであります。自分が、支店長と話を取り次ぎますです」
悪巧みのバレた先輩オペレーターは、項垂れながらメンバー抽出に移った。
解説
●目標
金塊従魔、黄金虫の捕獲
●登場
金塊型イマーゴ級従魔三体
人が触れると、ライヴスを吸収し、速さが増していく従魔。ライヴスを吸われた人は極度の虚脱感に襲われ、行動不能に陥る。だが、リンカー程のライヴス量なら直ぐに行動不能にはならないだろう。
●状況
従魔は、地下一階~三階の中に閉じ込められている。
エレベーターはあるが、逃さない為に使用不可。各階への移動は階段のみ。階段は、通路一番奥で繋がっており、各階反対側はエレベーターと三重扉が設置されている。
各フロアは通路自体も広く、幅が3メートル程あり、その左右に部屋が3つずつ、各フロア合計6つの部屋がある。
特殊な信用金庫で、紙幣や硬貨の他、今回のような金塊や宝石まで保管していたらしく、地下一階は紙幣や硬貨のお金、地下二階は宝石、地下三階は金塊や銀塊が保管されている。ので、あまり荒らさない程度に捜索願います。
攻撃力はなく、最初は人を襲いに行くつもりで捕獲されていたが、逆に触れた瞬間にその人のライヴスを吸収して弱ったら次の獲物へと離れていった。その繰り返しで速度はかなり速まった。
「因みにでありますが、支店長には多少傷付く可能性もありますが、破壊しきらないで捕獲する事も可能と伝えたであります。そして、支店長の計らいで、この従魔を捕らえた人には特別ボーナスを用意してくれるそうであります」
「つまり、少数精鋭で一緒に行く仲間を出し抜いて捕獲しろって事ね」
「五月蝿いであります。先輩は、少し黙るであります。皆様は、うちのダメな先輩を見習わないでほしいであります」
リプレイ
●無線機にて
『ザザッ……あーあー、聞こえるっすか? 皆さん、配置はオッケーすね? んじゃま、自分は二階階段入り口辺りに罠仕掛けるんで、従魔発見時と誘き寄せる時には無線連絡宜しくっす』
●地下一階
「さて、我々も始めようか」
地下の天井の高さが辛うじて足りている巨体のメイナード(aa0655)は、階段を背にイリス・レイバルド(aa0124)に話し掛けた。しかし、逃げ場(?)を失ったイリスはフードを被り、自分の英雄のアイリス(aa0124hero001)の陰に隠れてしまった。
「すまない、恐がらせるつもりはないのだが、この巨躯だけはどうしようもないな」
「大丈夫ですよ、イリス。このおじさん、こんな強面ですが、虫も殺さないような優しいおじさんだから」
彼の英雄、Alice:IDEA(aa0655hero001)がフォローに入ると、イリスは恐る恐るアイリスの陰から顔を出した。そこで、メイナードが満面の笑みを見せると、イリスもそれに応えて笑顔で返した。
「よろしくおねがいするです、メイおじさん」
フードを外し、普段通りのイリスだと感じたアイリスも、微笑み応えた。
「私からもお願いするよ、メイおじさん」
「やれやれ、またメイおじさんか」
「いいじゃないですか、メイおじさん」
女子三人に男一人で、巨体に似合わず圧倒されるメイおじさんだった。
●地下二階
「それじゃ、ちゃちゃっと罠仕掛けるっす」
既に下準備を済ませた罠用の気泡緩衝材を取り付けたシートを広げ、Domino(aa0033)は階段付近に罠を設置し始めた。
「緩衝材は仕方無いにしても、テントは縫い合わせればまた使えるし、破れない事祈りつつ、捕獲っすよ。王様も気を抜かないでくださいっす」
「うむ、背後は任された、従者よ!」
Masquerade(aa0033hero001)が鼻息荒く返す中、マックス ボネット(aa1161)とユリア シルバースタイン(aa1161hero001)は各部屋を見回り始めた。
「俺は後衛派なんだが、パートナーが俺より前衛に向かないのなら、見回りくらいは仕方無いか。で、ここは確か、宝石類を取り扱ってるんだよな? 部屋で暴れて傷物に、なんてなったらヤバイな」
恐る恐る入り口から部屋内を覗き込むマックスだが、部屋が荒らされた形跡は見れなかった。
「ここではないみたいですね、オヂ様。他の部屋を当たりましょう」
「いや、待て。あのショーケースのやつなんか高そ……」
真剣な表情のマックスに、ユリアは圧力のある笑顔で返した。
「オ・ヂ・さ・ま。まさかとは思いますが、何か良からぬこと考えてたりしませんか?」
「い、いや違う! 暴れて宝石を傷付けると大変だろ? だから、部屋に何があるか確認も兼ねてだな……」
「どうだか。はしたない真似は許しませんからね」
そう言って、ユリアは部屋の扉を閉めて、二人は次の部屋へと向かった。
●地下三階
「ここに黄金虫さんが居る可能性は高そうだよね。美海ちゃんの直感がそう叫んでるよ!」
廊下も他の階に比べると荒らされている事から、豊聡 美海(aa0037)は気合いを入れ直していた。
「って、そりゃそうでしょ。相手は金塊だって言うんだからここ以外から出てこないよ」
呆れた様子で返すクエス=メリエス(aa0037hero001)に、豊聡は膨れっ面をしていた。
「まぁまぁ、取り敢えず一部屋ずつ探索してみようよ」
普段通りな二人を宥めつつ、餅 望月(aa0843)は開きっぱなしの部屋の扉を一つずつ閉めて回った。
「……? どうして探索するのに部屋を閉めてるの、望月ちゃん?」
人指し指を頬に当てて首を傾げる豊聡に、百薬(aa0843hero001)が答えた。
「それはね、敵が逃げ出してもその部屋か通路にしか居られなくする為だよ。逃げられた時に他の部屋に入ったのを見れなかったらまた捜し直しになるし」
えへんと、胸を張る百薬に、豊聡とクエスは感嘆の声と拍手を送っていた。調子づいた百薬は更に続けた。
「今回のトランシーバーだって、ワタシ達のアイデアなんだから」
おぉと言う声が気持ちいい百薬は手を腰に当て、天井を見るように仰け反っていた。
「よし、それじゃそろそろ始めよっか? 美海ちゃんの言う通り、ここは従魔の居る可能性が高いから共鳴はしとこうね」
言うと、餅と百薬は目を瞑り、互いの額を重ね合わせた。すると、淡い光の中、二人の共鳴は完了していた。
「あっ、いいな今の。ねぇねぇ、クエスちゃ……」
「いやだよ、いつも通りちゃっちゃとやるよ」
くすんと項垂れる豊聡の手に、クエスが気恥ずかしそうに軽く触れると、二人の共鳴も完了した。
「あはは。美海ちゃん、頑張ろ」
任務をなのか、クエスとの仲をなのか、曖昧に濁しながら、餅達は一つ目の部屋に侵入した。
●数分後の無線会話にて
『……みんな、見付けたよ! 今、望月ちゃんが攻撃を仕掛けてる!』
『ちょっ、殴っちゃダメっす! 生け捕りっすよ! 他の品も傷付けちゃダメなんすから!』
『こちらも見付けた。通路に誘き出して捕獲を試みているが、イリス君の盾のとりもちに気付いたのか、正面からは中々来ない。膠着が続くようなら、このまま階段へ後退して、二階へ引き下がる』
『そっすよ! メイナードさんのように美海さん達も……って、お、王様、ヘルプっす! うおわぁっ! ……ガッ』
『黄金虫さんは一斉に飛び出したの? なら、尚更一匹でも早く倒さないと。望月ちゃん、部屋から出して通路に閉じ込めよう』
『……待て待て、マックスだ! こいつら、ライヴスを通す攻撃にも反応するぞ! 銀の魔弾の着弾地点に残るライヴスを喰いに近寄っていた。そこを捕らえる方が楽だ……っと、惜しい!』
●先の無線会話を少し遡り、地下一階
「居ないねぇ」
「そうだね」
多少荒らされた部屋を、小柄な身体を活かして入念に調べるイリスとアイリスの後ろには大きな身体のメイナードが自慢の力を活かし、崩れた棚等を起こしていた。
「ここには居ないのかもな。ところで、手分けするのも構わないが、共鳴した方がいいのではないかい?」
「ボクらが共鳴しちゃうと金ぴかになっちゃって、金塊と区別がつかなくなっちゃうかもしれないから」
「それに、いざとなったら、メイおじさんが護ってくれるんだよね?」
「って、おじさんはわたしのナイトですよね?」
女が三人で姦しいとはこの事なのかと、頭を抱えながら、メイナードは苦笑いをしていた。すると、隣の部屋からドンと鈍い音が響いた。
「今のは、例の従魔が壁に体当たりでもしたのか?」
「ボクらのライヴスに反応したのかな?」
顔を見合わせた一同は、頷き、その場で共鳴をしてからその部屋へと近付いた。
「私が中へ入ろう。イリス君は、捕獲用の盾を展開しといてくれ」
金ぴかになったイリスは、神妙な面持ちで頷くと、メイナードの後ろから部屋の中を覗き込むようにして、シルバーシールドを手に入り口に立ち塞がった。
「……居ない? 先程の音のした壁辺りにもそれらしい姿は……」
『イリス、天井だよ!』
アイリスの言葉に、イリスもメイナードに叫んだ。
「メイおじさん、上!」
イリスが言うや否や、メイナードは体勢を低く構え、視界に捕らえた異物のある辺りに腕を振り払った。すると、従魔は壁づたいに駆け降り、二人の前へ降り立った。と同時に、無線が騒がしくなったのをメイナードは確認した。
「どうやら地下三階にも出たらしいな」
「メイおじさんはお部屋から出て! ボクが捕まえる!」
「いや、狭い室内より、通路に誘きだそう。敵に背は向けるなよ」
ジリジリと撤退する二人を追うように、従魔も部屋から抜け出した。そこで、盾を構えるイリスの背後でメイナードは無線を手にした。
「こちらも見付けた。通路に誘き出して捕獲を試みているが、イリス君の盾のとりもちに気付いたのか、正面からは中々来ない。膠着が続くようなら、このまま階段へ後退して、二階へ引き下がる」
手早く報告を済ますと、メイナードはイリスに耳打ちをした。
「イリス君、このまま地下二階まで退こう」
「でも、こっちに来ないかもしれないよ?」
「従魔がライヴスを求めて動くのなら、私達を追ってくるとは思うのだが……む、地下二階にも現れたのか?同時侵攻とは敵もやるな」
メイナードが感心していると、地下二階のマックスの声が聞こえてきた。
「……ライヴスの攻撃に反応するの? なら、当たればラッキーで攻撃してみよっか」
長柄の火之迦具鎚を盾の陰から構えつつ、従魔を狙った。
「今だ、ライヴスリッパー!」
イリスの攻撃は、しかし、素早い従魔には当たらなかったが、従魔は攻撃の当たった床に近付き、頭(?)の辺りを小刻みに動かしていた。
「今だ、とうっ!」
前方へ飛び出し、盾を床にぶつけるようにイリスはヘッドスライディングをした。
「逃げ出す暇はなかったみたいだが、イリス君、大丈夫かい?」
「うん……って、盾ごと動く?! うわわ!」
スライディングした体勢のまま、盾に引き摺られそうになったイリスを、メイナードがひょいっと持ち上げると、盾がガタガタと揺れ出した。
「捕まえた! ほら、メイおじさん!」
イリスが盾をメイナードの方へ向けると、多足の虫特有の複数の足の、しかも、速すぎるその動きにメイナードは顔を引き攣らせていた。
「……うっ、正直あまり見たくない光景だな。イリス君、そのまま離すなよ」
そう言いながら、メイナードはHOPEから借りてきた捕獲用の箱を取り出した。
「箱の中もとりもちを用意させている。ここに収めれば逃げられはしないだろうが、一瞬だけ我慢してくれよ、イデア」
『おじさんとわたしの為だもの。少しくらい我慢します』
イデアの台詞に頭から『?』を出しながら、メイナードは義手の腕を従魔に構えた。
「いくぞ!」
ガッと、掴んだ瞬間に、ライヴスが吸われる感覚をメイナードとイデアは感じていた。
「くっ、中々剥がれないか」
『アアァッ! ……力が、力が出ないですぅ……』
「うおおぉっ! 人間の欲深さをナメるなよ!」
イデアも悲鳴をあげる中、メイナードは渾身の力で従魔を引き剥がし、ガンと、箱に詰めて蓋をすると、メイナードは尻餅を着いて座り込んだ。
「メイおじさん、大丈夫?」
「あぁ、何とかなったな。こちらは無事捕獲に成功した。今から下に向かう」
無線で報告を済ませると、メイナードとイリスは階段を下っていった。
●地下二階
「罠はこんなもんっすかね」
手をパンパンと叩き、Dominoが立ち上がると、部屋半分を見て回ったマックスとユリアがやってきた。
「オヂ様、ちゃんと捜してください」
「ちゃんと見てるだろ? 高い宝石があると危ないんだしよ」
最初の部屋から同じような会話を続けている二人に、Dominoは溜め息混じりに返した。
「マックスさんの言う事も一理あるっす。けど、これはHOPE、強いては自分達リンカーの信用問題でもあるっす。不用意な行為はしちゃダメっすよ」
「Dominoさんの言う通りです、オヂ様」
言葉を詰まらせるマックスに、Masqueradeは更に加えた。
「貴公、宝石に興味があるのなら、それより美しい余を愛でるがよい」
「あーはいはい、そっすね。まぁ、そんな王様だから自分は安心してこの仕事に励めるっすよ」
「む、棘を含む物言いに聞こえるが、余の懐は寛大だ。従者の戯言くらい聞き流そう」
四人で小休止と言わんばかりに話していると、不意に無線が騒がしくなった。
「……え、現れたんすか? ちょっ、殴っちゃダメっす! 生け捕りっすよ! 他の品も傷付けちゃダメなんすから!」
無線で話すDominoを他所に、先程の空気の気不味さからマックスは次の部屋の扉に手を掛けていた。
「騒がしいがどうした? 金塊が現れたのか? うおっ?!」
扉を半開きにすると、急に内側から勢いよく開き、マックスは通路真ん中まで飛ばされていた。
「オヂ様!」
「メイナードさんとこも出たんすか? そっすよ! メイナードさんのように美海さん達も……」
無線に夢中になるDominoだが、カサカサと音を立てて近寄る輝く物体が目に入り、慌てふためいていた。
「……って、お、王様、ヘルプっす! うおわぁっ!」
罠を踏まないようにフラフラした足取りで回避するDominoだが、その拍子に無線を放り投げていた。
「従者よ、余の後ろへ!」
「あの野郎、舐めやがって! 喰らえ、『銀の魔弾』!」
倒れた直後にユリアと共鳴したマックスは、従魔を狙って技を放つが、掠りもしなかったものの、従魔の動きが止まった事にユリアが気に留めていた。
『……オヂ様、もしかして、ライヴスなら何でも反応するかもしれませんよ』
「成る程な……ん、Dominoの落とした無線か?」
そこから、金塊を攻撃するような言葉を聞いたマックスは、無線を拾い話し掛けた。
「待て待て、マックスだ! こいつら、ライヴスを通す攻撃にも反応するぞ! 銀の魔弾の着弾地点に残るライヴスを喰いに近寄っていた。そこを捕らえる方が楽だ」
マックスは、無線を手に、もう片方の手のねこねこなっくるで従魔を取り押さえに飛び込むが、寸前で回避された。
「っと、惜しい!」
「従者よ、余達も共鳴を……」
「ダメっす。自分達が共鳴すると、身体は王様に持ってかれるっす。罠に嵌めた後の捕獲は、王様の手じゃこなせないっすから」
ふむと、納得するMasqueradeだが、状況が好転するワケでもなく、従魔は辺りを駆け回っていた。
「ならば、どうしろと言うのだ?」
「案ならあるっす! マックスさん、銀の魔弾をここの罠の後ろに撃ってほしいっす!」
Dominoの声に、マックスは一度頷き、再び技を放った。
「成る程な! ちゃんと捕らえろよ、『銀の魔弾』!」
罠を避けて、指定のポイントに着弾させると、罠目掛けて走り出す従魔に、Dominoは口角を吊り上げながら、捕獲用の箱を手にした。
「ビンゴっす! 王様、罠ごとこの箱に詰めるっす!」
罠に飛び込んだ従魔を罠ごと丸め込みながら、Dominoは箱に従魔を閉じ込める事に成功した。
「ご苦労様だな、従者よ」
「ふぅ、疲れたっす」
「やれやれ、一件落着だな」
周囲を見ながら、歩み寄るマックスだが、不意に頭にユリアの声が響いてきた。
『オヂ様! 不審な行動は私が見張ってますからね!』
ユリアからの一喝に、苦笑いをするしかないマックスだった。
●地下三階
金塊や銀塊の山が崩れて、床に散乱している部屋ばかりで従魔との見分けがつかない餅や豊聡は、地道に一部屋ずつ、一個ずつ金塊をAGWで突きながら手に取っていた。
「もう飽きたよ」
「頑張ろう、望月ちゃん。美海ちゃんも疲れたけど、黄金虫さんはこの階には絶対に居るからさ」
『どこからその自信が湧いてくるのやら』
クエスの野次に再び頬を膨らませる豊聡を他所に、餅は手にした金塊を見つめていた。
「……幻想蝶ならバレずに持ち出せるかな?」
「ん? 何か言った、望月ちゃん?」
無意識に呟いた事に餅本人も驚き、手にしていた金塊を宙に浮かせておたおたしていた。
「うわっと?! あ、ほら? これだけ散らかっているとお宝が無くなってても解らないよね、なんて」
「そんな事ないよ。ほら、望月ちゃんの上に監視カメラあるでしょ。何か無くなっているとそこから見付かるよ」
ニコニコと答える豊聡とは裏腹に、餅は冷や汗を浮かせていた。
『あ、危なかったね。悪い事は出来ないんだよ』
「でも、角度に気を付ければ隠しながら……」
百薬の制止を振り切り、カメラを背にするが、向かい側にも似たモノを見付けると、餅は項垂れるように床に突っ伏した。
「も、望月ちゃん?! 黄金虫さん引き当てたの?!」
「や、違うの。自分の愚かさが少し情けなくて反省しているだけなの」
餅の言う事を理解出来ない豊聡は、再び人指し指を頬に当てて首を傾げていた。
「おかしな望月ちゃん。ほら、起きて続き頑張ろ……っ?!」
餅を起こす豊聡だが、不意に金塊の山が崩れ落ちた事で、二人は構えた。
「……今のは不自然だったよね?」
「バランスは悪くなかったし、何かが動いたりしない限りは……って、美海ちゃんが動いた振動とかの所為じゃないからね!」
ぷんぷんという擬音が似合うような怒り方をする豊聡を宥めながら、餅は金塊を見つめていた。すると、金塊の山が爆ぜたかのように飛び散り二人を襲った。
「危ない! ハイカバーリング!」
咄嗟に豊聡がライオットシールドを突き出し、餅を守りつつ、二人は金塊の直撃を避けた。
「従魔が増殖したの?」
「なのかな? って、盾重くなった?」
そーっと向こう側を覗き見ると、豊聡の盾のとりもちに金塊がへばり付いていた。
「あれ? 付いたのは従魔じゃなかったけど、とりもち部分に金塊付いちゃったから、これじゃ従魔を捕まえられないよぉ」
折角の美海ちゃんの案だったのにぃ、と泣いていると、カサカサと走り回る音に餅はトリアイナを構えた。
「美海ちゃん、さっきの金塊の攻撃は多分、従魔が金塊の山に体当たりしたと思うの! だから、当初の予定通り、目標は最大の三体までと考えて動くよ!」
盾にとりもちをつけていなかった餅は、身軽に部屋を駆けて従魔を追った。
『今だよ、百薬ブレード!』
「はいはい、ブラッドオペレート!」
視界に捕らえた従魔に攻撃を仕掛けるも、素早く回避されたその技は空を斬り裂くに終わった。
『は、速いね』
「まだまだ! 次は捕獲網だよ!」
必死に餅が応戦する中、豊聡は盾を両手で支えていた。
「うう、盾も重くなって戦力になれないよぉ」
『なら、みんなに連絡とかしようよ。報告しろって言ってたでしょ』
クエスの言葉に、手をポンと叩くと、豊聡は懐から無線を取り出した。
「そうだね、クエスちゃん。え~と、こうやって……みんな、見付けたよ! 今、望月ちゃんが攻撃を仕掛けてる!」
現状報告するや否や、否定的と取れる意見が飛び出した。しかし、続く無線の話から、従魔が各階に一匹ずつ現れた事も解った。
「黄金虫さんは一斉に飛び出したの? なら、尚更一匹でも早く倒さないと。望月ちゃん、部屋から出して通路に閉じ込めよう」
「そ、そうだね。ここじゃ、紛らわしいし、一旦部屋から出てよう」
槍と網で応戦している餅だったが、金塊も多い中、攻撃の決め手も欠けていた。そして、タワーシールドを構えた餅の背後に回った豊聡が従魔を見張りながら、部屋の扉に手を掛けて通路へ抜け出した。同時に、無線から聞こえてきたマックスの声に二人は顔を見合わせた。
「美海ちゃんって、マックスさんのような銀の魔弾みたいなライヴス攻撃ある?」
「美海ちゃんはリンクバリアでライヴスの壁を作れるけど、範囲が広すぎるかな?」
話し合ってる間に、部屋から出てきた従魔に、二人は階段に駆け出した。
「に、二階の罠を使おう!」
「ま、待って、望月ちゃん!」
二人の駆け上がる背後から、カサカサという音が追ってきたが、それから逃げるように二人は地下二階に飛び込んだ。
「Dominoさん、罠使わせてもらうよ!」
丁度捕獲を終えた後なのか、座り込んでいたDominoは、壁際に擦り寄り、餅を回避した。そして、罠を飛び越え、構えた餅は床目掛けて技を放った。
「こっちに来てよ、ブラッドオペレート!」
階段から駆け上がり、直ぐに壁へ回避した豊聡の背後からロケットのように飛び出した従魔は、一直線に餅の方へと向かっていった。そのまま、罠に入り込み、袋状に縛ると、溜め息とともに餅は腰は下ろした。
「ふう、何とかなったね」
『望月、捕獲用の箱にしまわないと出てくるかも?!』
百薬の言葉にハッとするのも束の間、豊聡が透かさず箱を手にフォローに回り、従魔を完全に捕獲した。
「これでオッケーだね」
一瞬の攻防にDomino達が呆気に取られていると、階段からメイナードとイリスもやってきた。
「おや、私達が最後か。みんな、捕獲は完了したのかな?」
おっとりとした口調で話すメイナードに、豊聡とDominoは手にしていた箱を掲げて見せた。
「『バッチリ』だよ」っす」
●HOPE本部
「お疲れ様であります。皆様、協力しての捕獲見事であります」
一行が報告に訪れたところ、そこには依頼を受け付けたオペレーターがおり、口を尖らせて愚痴り出した。
「いいなぁ、報酬アップ。しかも、誰も抜け駆けせず全部捕獲出来たんでしょ? 誰か、宝石とか金塊とか持ち出してないの?」
悪気もなさそうな表情で語る先輩オペレーターに、Dominoはまた溜め息とともに返した。
「マックスさんにも言ったっすけど、 そんな事したら、HOPEや自分達の立場危うくするんすよ」
「そうだよ。美海ちゃんも、盾に付いた金塊はちゃんと返したし」
「ってか、そんな信用失うような真似、誰もしないっす」
断言するDominoとは裏腹に、あわよくばと思った者が苦そうな表情をしたものの、これ以上の追究も起こらなかった。
「それじゃ、今回の特別報酬で飲み明かそうか」
満面の笑みを浮かべるメイナードの持つ封筒を、イデアが透かさず奪い取った。
「これは、わたし達の未来の為の資金です。そんな安直な使い方は許しません」
「な、何の事だ? それより、少しくらいいいだろう?」
腰を低く食い下がるメイナードが可哀想に見えたのか、イリスが間に割り込んだ。
「それじゃ、みんなでご飯に行こうよ!」
イリスの提案に口をあんぐり開けるイデアだが、周りが盛り上がり出した。
「いいんじゃない?あたしと百薬は賛成」
「俺も呑みたいな。メイナードの旦那、付き合うぜ」
「うむ、ペンギンも入店可能な店を用意するがよいぞ」
「そんなお店あるのかな?まぁ折角だし、俺ももう少しみんなと話したりしたいかな?」
「な、なっ?! ……解りました。私の負けです。但し、呑み過ぎないでくださいね」
溜め息とともに頭を抱えるイデアの肩にユリアが手を置いた。
「お互い苦労しますね」
最後まで和気あいあいとHOPEから出る一行の後ろ姿をオペレーター達は見送った。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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