本部

ゆるっと解決☆天空のクロスワード

昇竜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/09/24 17:22

掲示板

オープニング

 ……その日、とある高級ホテルに一行が現れると、ドアマンは恭しく扉を開いた。最後尾のゲストが扉をくぐると、ドアマンはベストの内側のマイクに向かって何か呟く。
 彼らがチェックインの手続きのためフロントに近づくと、既に待ち構えていたホテルマンがそれを制した。

「遊戯愛好会様ですね。お待ちしておりました……お部屋までご案内致します」

 一行はなかば取り上げられるように鞄を係に預けると、導かれるままエレベーターホールへ向かった。
 誰しもが、聞いたときには本当にそんなうまい話があるのかと思ったものだが、どうも真実だったらしい。
 各々、自らの腕に付けられた奇妙なリストバンドに視線を落としていた。

 ……ことの発端は、HOPEの解説係が高級ホテルのスイートに泊まってみないないかという話を持ち出したことだった。とある有志サークルが企画していた親睦旅行が夏風邪の蔓延で中止になったため、彼らの代わりに格安で宿泊できるという。
 部員らも初めはキャンセルを試みたが、予約担当の部長が本名でない偽名で予約を取っていたらしく、ホテルに受け付けてもらえなかった。部長に聞こうにも、これまた夏風邪で寝込んでいるのか音信不通でどうしようもない。そこで、キャンセル料を払うくらいなら誰かに代わりに行ってもらおういうことになった。
 残念なことにサークルメンバーの友人である当の説明係らは多忙のため参加できず、こうして彼の口から能力者たちへ声が掛かったのであった。
 この招待に喜んでと二つ返事した参加者たちは、一人一個の文字盤のない時計のようなリストバンドを受け取っていた。それが参加者の証であるという、ゲーム愛好サークル部長の言葉と共に……。

 ホテルマンに案内され、最上階49階のスイートルームにやってきた一行は、目の前に広がる非日常的な光景に感動の声を上げた。
 そこは4LDKの邸宅風の佇まいで、4つの寝室には人数分の天蓋付きベッドを配し、パーティが開けそうな広いリビングはブラウンを基調として金をアクセントにしたインテリアで彩られ、壁の全面を覆い尽くすパノラマビューウインドウからは眼下に都市を一望でき、バスルームとトイレまで2つずつある。
 料理好きが涎を垂らしそうな素晴らしいキッチンには最新型冷蔵庫が並び、開けてみるとたくさんのオードブルや美しく盛り付けられたフルーツ、アイスクリーム、酒やフルーツジュースなどが所狭しと入っている。大きなワインセラーもあり、ワイン好きが泣いて喜びそうなラインナップが用意されているようだ。

 各自、ベッド決めなどを始めるのであったが、ここでふと廊下に出ようとした一人の参加者が、扉が開けられないことに気付く。そんなわけないだろう、と皆が集まってくるのだが、押しても引いてもドアはうんともすんとも言わない。確かにここに入ってくるとき、ホテルマンはカードキーを使っていたが、参加者の中にそれらしきものを受け取った者は誰もいないのである。
 慌てて内線電話でフロントを呼び出すと、一人の男がそれに応えた。

「ようお前ら! 部屋に閉じ込められたことには気付いたか?!」

 電話の相手がホテルフロントでないことは明らかだった。何者かと問うと、彼は悲嘆したように言った。

「そんなことも分からないのか? お前らの部長だろうが! これがただの親睦会だと思ったか? 残念、抜き打ち強化合宿だ! お前らには俺の用意したクロスワードパズルを解いてもらうぞ!」

 なんということだ。部長は、風邪で倒れていたのではなく、この抜き打ち合宿の準備のために忙しくて携帯電話の充電をし忘れていただけだったのである。しかも、自分が閉じ込めた相手が見ず知らずの人間とはまだ気づいていない。
 参加者たちは自分たちがサークルメンバーの代理で来たことを伝えようとするのだが、部長は徹夜明けで興奮しているのか、こちらの話には全く取り合おうとしない。

「いいか! タイムリミットは明日のチェックアウト14時までだ。これまでにクロスワードが解けないと……そのリストバンドに搭載された注射器が作動する! 中には俺が蚊に刺されまくって開発した対能力者仕様の虫刺され毒が入ってるぜ! めちゃくちゃカユい思いをしたくなかったら、頑張って考えるように!」

 それを聞いた参加者の何人かはリストバンドを外そうとするが、金具はびくともせず、外せなくなっていた。

「クロスワードはリビングのどこかに隠されている……俺は家出した英雄を探すので忙しいので、合宿はパスするぞ」

 誰もが避難の声を上げ、それは電話口の部長の耳にも届いたらしい。

「うるせえ! 問題の作成から何から何まで、あいつに任せっきりにしてたら、へそを曲げられちまったんだ! てわけで、お前らグッドラック!」

 部長はそう言い放つと、一方的に通話を切った。携帯などで誰かに助けを求めれば外には出れるかもしれないが、虫刺されからは逃れられないだろう。
 慌てる者、のんびり冷蔵庫を物色する者、早速クロスワードを探すもの、一行の反応は様々だが……。
 かくして参加者たちは、地上300メートルのホテルの一室に軟禁されてしまったのである! クロスワードパズルを解き明かし、スイートルームからの脱出を目指そう!

解説

ゲーム愛好サークルの強化合宿に巻き込まれ、ホテルの一室に閉じ込められてしまいました。
チェックアウト時、何も知らない部長が部員の様子を見に来ます。このときまでにクロスワードが未解決だと、リストバンドが作動します。
え?虫刺されになってもいいから、最後までのんびりしたい?ふふふ、それもいいでしょう。
うだうだしつつ、たまにクロスワードを解きつつ、ゆるっと解決していきましょう。

クロスワードパズルについて
・問題用紙はリビングのテーブルの下にあります。
・クロスワードの問題としてあなたの考えた問題が出題されます。(0~3問を自由に考案できます)
・この問題にあなたのキャラクターがどう解答するかもあなた次第です。
・クロスワードをクリアした結果得られる文章は「ふくぶちょうのいえのこになってやる」です。
・クロスワードは大きな失敗が無ければ、翌日昼までにクリアされるようマスタリング予定です。

設備について
・各所にある飲食物は取り放題です。
・バスルームは和風モダンな檜風呂です。え?男女混浴かって?バスルームは二つあるので、心配無用です!
・なんと屋外プール付き!水着を持ってきている人もいるでしょう。え?そこから飛び降りれば脱出できる?しかし痛いうえに、虫刺されからは逃げられないですよ!
・ブランドのボードゲームなどもあるようです。
・持って帰れるのは、アメニティだけです。

リプレイ

「外の世界は不思議な事が起こるんだね。……オルヴィス? なんで四つん這いになってるの?」
「……どうしてこうなった……」

 ドアをこじ開けることを断念したオルヴィス・バーナード(aa0902hero001)が玄関に崩れ落ちた。召喚者エイン・ヴァルフレッド(aa0902)の、のほほんとした問いにオルヴィスはくっ……と呻く。

「せっかく遊びに来たのに閉じ込められるとかしんじらんな~い!」

 カレン(aa0680)の声がリビングにこだまする。彼女の英雄アーノルド・V・ブラックボーン(aa0680hero001)がそれを宥めた。早くも立ち直った彼女は早速水着に着替えるようだ。

「つまり、罠だったのか……?」
「美味しいだけの話じゃなかったって訳ね……」

 同じくリビングにいた木陰 黎夜(aa0061)とその英雄アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)が通話の切れた電話機と廊下向こうの玄関とを交互に見やって呟いた。

「やれやれ、不味いことになったな」

 その傍で、閉じ込められて不機嫌な自身の英雄ユフォアリーヤ(aa0452hero001)に抱き付かれてふらついていた麻生 遊夜(aa0452)が、不意に木陰へ近づいた。木陰はぎくりとして、素早くアーテルの背後へ身を隠す。

「あ、あんま近づくなよ」
「……ごめんなさいね、黎夜は人見知りが激しくて、男の人が苦手なの」
「おお……悪かった」

 彼女の反応に驚く麻生に、アーテルが弁明する。やり取りを見ていたリーヤは、麻生を抱きしめる腕に一層力を込めた。

「……分かった、分かったからは・な・せ! 抱き付くのはいいが、締め上げるな、色んな意味で俺が危ない!」

 玄関から戻ったエインとオルヴィスが、彼らの様子を見て微笑ましそうに顔を見合わせる。
 そこへ谷崎 祐二(aa1192)が色とりどりのオードブルやジュースを持って現れた。誰もが感嘆の声を上げ、たちまち華やかになったテーブルへ集まる。

「冷蔵庫の中身、すごいな。これでクロスワードさえなければなあ」
「……これが良い」
「へいへい、仰せのままに」

 リーヤに肉をねだられ、麻生が野菜や果物と共に取り分けて膝の上で食べさせる。
 と、テーブルの下からヴェールを纏った人影が姿を現した。黒い一つ結びを尾のように揺らす、英雄プロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)である。

「にゃー!」
「お、見つかったのか?」

 その手には今回の事件の鍵となるクロスワードパズルの問題用紙があった。
 ……さて、パズルの解読を始めた一行だが、中にはクロスワードを知らない者もいる。

「タテヨコの問題によるヒントを元に、言葉を当てはめてマスを埋めるゲームだな。簡単な物から埋めて他の問題のヒントにすると良いらしいぜ?」
「なるほど~」
「例えばエージェントが必ず持ってるものってのは、これだな」
「じゃあ、この真ん中の文字は『う』なんですね!」

 自身の幻想蝶の義眼をトントンと示す麻生に、エインは興味深そうに頷く。
 エインはしばらく部屋をうろうろしていたが、思い出したようにリビングへやって来て麻生のクロスワード講座を受け始めた。しかしそうなると彼の英雄は暇である。リーヤに首をぐいぐい絞められ、麻生はぐえ!?と声を上げる。

「……すまん、ここまでだ」

 撤退する麻生を微笑ましげに、または同情の視線で見送り、パズル解読は続く。

「『チーズ生成過程で生じたホエーを煮詰めて作ったもの』は『リコッタチーズ』だな」

 料理の得意な谷崎が、一問正解する。そういう声にすら時折怯えたような木陰の様子を、アーテルがそっと伺う。

「黎夜はどう?」
「……『ソフィスビショップが使える、本の扱いが上昇するマスタリー』は……『ブックマスタリー』だね」
「そうね! 次の問題は『金属を切断する一枚の鋼板の側面に多くの刃をつけた工具』は何か?」

 アーノルドが顎に手をやる。考える仕草もダンディだ。オルヴィスは思案がちに長い睫毛の影を問題用紙に落としている。

「ふむ、三字目が『の』か」
「……それは金鋸じゃあないか?」
「む、それだとぴったり合うな」

 クロスワードの解読は、ここまで非常に順調だ。いくつか、製作者の私怨としかとれない問題があるが、マスを埋めていけば自ずと答えが出るだろう。

「どうせなら、時間内にクリアさせて。ついでに時間いっぱいまで高級ホテルを楽しみたいね!」
「うむ、そうだな。どんどん行こう、『秋に収穫できる野菜の1つで、お菓子に使う芋』とは何か?」
「これは……秋の食べ物……だと? 五文字……パンプキン? いや、何か違うな……」
「それ芋じゃないぞ」
「さつまいもだな。含有酵素がでんぷんを分解して甘くなるんだ。製菓にも使われる」
「ほう……谷崎くんは植物にもちょ~詳しいのだな」

 渋い声がやけに若々しい抑揚を紡ぎ、驚いた面々がアーノルドを振り返った。しかし、本人は面白いことを言ったつもりはないらしく、誰もが『能力者の影響か……』と察するのであった。
 ……その頃、カレンはプライベート・プールで大きなくしゃみをしていた。

「ちょっ誰~? アタシのことウワサしてんの~」

 ローマ風のテラスでサンベッドに横たわっていた彼女は、両腕をさすり上げた。セクシーな水着に包まれた小麦色の肌と豊満なバストがゆさゆさと揺れる……夏の終わりが近づいているが、まだまだ眩しいものである。
 するとそこへ、野性味溢れるオジサマに連れられた狼耳の少女が現れた。
 少女が纏うのはチューブトップ型の控え目な水着ではあるが、それを押し上げる質量は確かなものがある。少女が男にクルクルと回って見せると、男は似合う似合うと笑ってみせた。

「うっひょ~☆美男美女キター! コケたフリしておっぱいまではセーフっしょ♪」

 カレンは彼らの背後に忍び寄り、ダンディさの中にあどけなさの残るステキな男に狙いを定める。ジャックポットたるカレンのテクに掛かれば、獲物はもう逃げられないのだ!
 しかし、少女と男ことリーヤと麻生もジャックポットだったのである。その広い視界に猛ダッシュで駆け寄ってくるカレンを捉えた麻生は、間一髪でその腕を掴み上げ、激突を回避した!

「だ、大丈夫か?」
「か、カッコいい~! あーん、今のもう一回!」

 普段戯れている子供たちとは違うカレンの大人っぽい水着姿に気まずそうな麻生に対し、リーヤは氷のような無表情である。しかしその瞳の中に燃え上がる炎に気付き、麻生は食い下がるカレンを優しく引き離した。

「ちぇ~。でもいいもん、まだお風呂があるもんね! にしし☆」

 カレンは二人の後ろ姿を見ながら、リーヤたんとアタシどっちがムネ大きいのかな?と楽しみに考えていた。
 ……そうこうしているうちに時間は過ぎ、日も傾いてきた。
 キッチンでは、やわらかな茶髪を忙しなく揺らして、谷崎が料理をしている。ホテル探検にも飽きてきた英雄が、その様子を見に来たようだ。

「にゃ~?」
「ん~? どうしたセリー、クロスワードなら思ったより早く解けそうだよ。それとも味見に来たのか? ダメだぞ~みんなのつまみなんだから」
「なぁ……」
「ははは、あとでな」

 気を取り直したセリーは、今度は風呂場の方へ行ってみるようだ。
 古い旅館にあるような、でもモダンで煌びやかな玉すだれをちゃらちゃら鳴らして脱衣室を出たり入ったりしていると、誰かの額と額でぶつかってしまった。

「セリーさん……大丈夫?」
「にゃー」

 エインが、そう、よかったと顔を綻ばせると、髪飾りがカシャ、と揺れた。オルヴィスに小さく頭を叩かれたのだ。

「お前はいつから猫語を解するようになったんだ」
「うわあ……オルヴィス、大きなお風呂があるよ。入ろうこれ」
「無視してないで、クロスワードを手伝え! そしてお前はどっちの風呂に入る気だ!?」
「オルヴィスと一緒でいいのではないかな?」
「よくないだろ!?」

 エインが怒られてしょんぼりしているところへ、ちゃらちゃらっと玉のれんを揺らして、脱衣室から木陰とアーテルが現れた。身体を強張らせる木陰と、その視線の先……オルヴィスとの間に、アーテルがさり気なく割って入る。

「……いいな……あんたの相棒は、聡明そうだ……」

 会釈をしてリビングへ向かうアーテルに羨望の眼差しを向けるオルヴィス。
 一方エインは、アーテルにつかず離れずどことなく不安げな木陰を見て、自分が英雄と出会った頃を思い出し、にこにこと笑っていた。

「えーっ! こかげちゃん、もうお風呂入っちゃったの? アタシ一緒に入りたかったな~」

 と、リビングの出入り口で待ち構えていたカレンが、風呂上がりの木陰を見て残念そうに声を上げた。

「あ、ボク……」

 木陰はアーテルの影に隠れてしまった。カレンはその様子に一緒に入れない理由があるのかと思い、今度は底抜けに明るく木陰に語りかける。

「いいって☆いつか一緒に入れるようになったらゼッタイ身体洗いっこしよーね♪」

 カレンはどうしていいやら困ってしまった木陰に、絶対だよ~と念を押すと、今度はぽかんと口を開けているエインの方へやってきた。
 慌てて制止に入るオルヴィスの横をすり抜けて、セリーは脱出する。

「エインっちはアタシと一緒に入ってくれるよね?」
「カレンさん、それは困る。相方は……」
「え? ダメなのか?」
「後で一人で入ろう、な、エイン」
「え~っそんなあ~!」

 ……なにやら風呂場でひと騒動あったようだが、少しずつ夜は更けていく。
 元気に騒いでいたカレンと、一日歩き回っていたエインたちとセリー、暴れられては堪らないと英雄を抱えて早々に寝室へ入った麻生たちはすでに床に就いた。

「眠りましたよ」
「お疲れ様。簡単なものだけど、料理もできてるよ」
「うむ、どれも素晴らしい」

 そして木陰が眠りにつき、アーテルが寝室からリビングへやってきた。谷崎は手製のアペタイザーを並べ終わったところで、アーノルドはその出来栄えに感心した。
 壁一面のパノラマビュー・ウインドウから望む景色は、昼間とは打って変わって大人たちに相応しい夜景へ変貌を遂げている。
 アーテル、谷崎、アーノルドの三人は、テーブルを囲むと早速ワイングラスを鳴らした。

「最高です。広い部屋、美味しい料理にお酒。稼ぎが少ないから普段縁がなくて」
「アーテルくん……君はそんな喋り方だったかな」

 アーテルは口調についてアーノルドに尋ねられ、グラスを少し傾けた。彼の黒いマニキュアはグラスに注がれた赤と、柔らかいホテルの間接照明によく映える。

「あれは黎夜の前だけです。ああでないと、彼女は口も聞いてくれなくて」
「ふむ……誰しも悩み事は尽きぬものだな」
「……悩み事といえば、あなたも」

 アーノルドは逡巡ののち、それが自らの主のことであると思い当たり、わずかに首を竦めた。

「むぅ……我が主ながら醜態を晒してしまい、申し訳ない。くろすわーどとやらは私が責任を持って解こう」
「いいえ、明るくて素敵な方ですよ。ねえ、谷崎さん」
「ああ、俺もそう思うよ」
「しかし、しかしな……私とて"おこ"になることもあるのだ……」

 真面目な面持ちでそう告げたアーノルドに、二人はくすりとし、今夜は長くなりそうだと視線を交わすのだった……。
 ……一夜明け、翌朝。タイムリミットは、午後2時。

「最後の一問なんだがな」
「この問題はひどいね。四字で、最後が『れ』か」

 案の定、夜会組はまだ夢の中である。早くに就寝した参加者たちが、クロスワードの最後の一問に首を捻っていた。

「『部長の奇行を止める手はあるか』って聞かれても、もう遅いし~っ!」
「手遅れではないのか、この問いは……」

 オルヴィスが何気なく言った一言に、皆の注目が集まる。

「それだー!!」

 その頃、風呂場脱衣室。個包装されたアメニティを眺め、葛藤する麻生の姿があった。

「これは持ってっても良いんだよな? どうする? 貧乏性か? しかし、」
「貧乏性? 別にいいだろ、実際そうだし……」

 そこへ現れた木陰が、アメニティをむんずと掴むと颯爽とポケットに放り込み、呆気にとられる麻生をよそにササーっと出ていった。出がけに彼女が残したその一言に背中を押され、麻生はアメニティを鞄に詰めるのであった。
 ……そうこうしているうちに昼下がりとなり、チェックアウトの時間が近づいてきた。荷物を纏めていた午後2時前、スイートルームのドアがノックされた。

「ぃよう久しぶりだな! お前らの部長参じょうえええええ!?」

 昨日ぶりに開いた扉から現れたのは、濃いクマを浮かべたこの事件の首謀者・ゲームサークル部長であった。事情を全く呑み込めていない様子の部長にかくかくしかじか、理由を説明する一行。

「そうだったのか……君たち、済まなかった! 腕の方は大丈夫だろうか!? 部員どもも、そうならそうと連絡くらい寄越せってんだ!」
「クロスワードなら解けているぞ。腕も何ともない。部員方は、何度も連絡したそうだが?」
「あっいけね、そういえば夏季休暇入ってから一度も携帯充電してないな」
「でも本当に、楽しい時間を譲って頂きありがとうございました。……みなさんも、」

 エインが部長と参加者たちに、感謝の気持ちを述べる。照れくさい雰囲気の中、部長だけはきょとんとしていたが、参加者たちがこの二日間を楽しく過ごしてくれたのなら、と嬉しく思った。
 部長がパチンと指を鳴らすと、参加者たちのリストバンドははらりと切れて、溶けるように消えていった。

「では気を付けて帰ってくれたまえ」

 部長の言葉で自由解散となり、一人また一人とスイートルームを後にしていく。去り際、麻生が部長にこう尋ねた。

「部長氏。英雄さんは無事に見つけられたかね?」
「鋭意、捜索中だ」
「……家出先は副部長の元のようだが」

 麻生が呆れたようにクロスワードを示してそう言うと、部長は解答用紙をまじまじと見て、それから血相を変えてエレベーターホールへ駈け込んだ。

「身内の家とは盲点だった……! あの野郎……! 私は用事ができたので失礼する!」

 部長はエレベーターの前でしばらく足踏みしていたが、なかなか上がってこないので非常扉を開けて階段で下って行った。能力者といえど、49階から階段で降りるのはさぞ骨であろう。
 麻生とリーヤは笑い合い、その後すぐに来たエレベーターで地上へ降りて行くのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • エージェント
    カレンaa0680
    人間|18才|女性|命中
  • エージェント
    アーノルド・V・ブラックボーンaa0680hero001
    英雄|45才|男性|ジャ
  • エージェント
    エイン・ヴァルフレッドaa0902
    人間|16才|?|防御
  • エージェント
    オルヴィス・バーナードaa0902hero001
    英雄|27才|男性|バト
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
    人間|32才|男性|回避
  • ドラ食え
    プロセルピナ ゲイシャaa1192hero001
    英雄|6才|女性|シャド
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