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広告塔の少女~晴れやかな空に~
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最終発言2019/04/13 00:28:20
オープニング
● 終りの季節、始まりの季節。
桜が南から、冬を掃討するようにのぼってくる。
暖かい風が髪をかきあげて、埃っぽいなと遙華はせき込んだ。
グロリア社へ向かう並木も今は満開の桜である。
今年は少し春が来るのがはやいが、逆にその事実が遙華の背中を押してくれる。
「桜並木って、なんだかとても明るく見える気がしない?」
遙華はなれないリクルートスーツ姿だった。
今日はグロリア社の新入社員が入社する日で、お偉方の列に並んでちょこんと二時間座っていたのだが。
「硬い式は疲れるわ」
そう式が終わるなり立ち上がり一番最初に出てきてしまった。
そして桜の木に背を預けてPCのキーを打っているロクトを見つける。
ロクトは駆け寄る遙華の気配を察すると立ち上がりそして少女の頭をなでる。
「頑張ったわね」
「ええ、何もしない時間が一番苦痛」
二人は一緒に桜の木が並んだ通りを歩きはじめる。
「にしてもグロリア社の日本支部での最後の仕事がこれなんて、複雑だわ」
「あなたはいろいろ手を付け過ぎだから、これがいいのかもしれないわよ? 広告事業、アイドルプロデュース。武器の開発、作戦立案指揮。戦場にも立って」
「ほんと。忙しかったわ」
そうため息をつく遙華。
「でもしばらく休みももらえるし、その後アメリカに入ったらまた同じような忙しさに身を任せることになるだろうし」
「寂しくなるわね」
遙華は今月末には日本を立つことになっていた。
「まさかあなたの独り立ちがこんなに早いなんて」
ロクトはそう、育てすぎたかしらと悪戯っぽく笑った。
「そんなことない、私はまだまだよ、だから今までみれなかった物を観にいくの。他のグロリア社を拠点にいろんな事業に手を出してみるわ」
そう、遙華は日本だけではなく、各地のグロリア社を回って事業計画や開発に参加。科学者としての未来に専念することにしたのだ。
「広告業やアイドルプロデュースを止めるわけじゃないけど、現場の指揮は全部あなたにまかせることになるわね。ロクト」
「任せて、あなたを教育するって名目がなくなった今、全力をだせる」
「そう? それは楽しみね」
風が強く吹いた。あまりの突風に桜の花びらが一斉に舞う。
その花びらを髪に纏いながら遙華はロクトより前に駈けだして、振り返る。
「私の一番手前の目標は霊力以外のクリーンエネルギーの開発。ロクト。あなたは?」
そう手を差し出す遙華にロクトは微笑みかけてこう告げる。
「私は、嘘も本当の事も言わず。ただただみんなに寄り添って生きるわ。ドタバタも楽しかったけど、少なくとも三年は大人しくしたいわね」
二人の道は分かたれた。
けれど、サヨウナラではない。
世界は繋がっている。もしかしたら次元の向こうまで。
だから、悲しむことなんて必要ない。
「私たちはどこにいても繋がってる、それを確かめるためにも今はさようならをするのよ」
● 遙華の未来
その後二人はグロリア社を出て適当なファミレスへ。
今日は何も食べていなかったのでお腹がペコペコなのだ。
「世界各地のグロリア社を見て回るなんて、ずいぶん面倒な武者修行を考えた者ね」
ロクトが呆れた調子でハンバーグを切る。それを口に放り込む前にロクトは遙華にこう告げた。
「でも私は、ここに残るわよ。もう少し日本でいろいろやってみるつもり。それに放っておけない子たちもいることだしね」
「挨拶はもちろんするし。完全なオフなんて二年ぶりくらいだから。沢山遊ぶつもり」
遙華はそう告げるとスマートフォンに明かりをともした。
そこには友達の名前と大量のメッセージ。
「あなたが日本を離れる話は?」
ロクトの言葉に俯く遙華。
「話せた人と、話せなかった人と……」
「まぁ、時間は四月いっぱいあるのだから、ゆっくりやっていくことね」
告げるとロクトもスマートフォンをとりだす。
「わたしもあいたい人がいるし。新生活を始める前にあいさつに行くわ。BARカンタレラの二号店も決まってるし、そのスタッフ発掘もね」
解説
目標 それぞれの始まりの決意表明をする。
今回は日常回です。
遙華がアメリカに行ってしまう前に沢山遊びましょう。
。
● これからの未来
今回は皆さんの元を遙華が訪れる形になります。
皆さんにお願いしたいの『シチュエーションの設置』『これからどうするつもりか』『将来の夢』です。
『シチュエーションの設置』
遙華とどんなシチュエーションであうのかです。
遊園地、喫茶店、本屋さん。
二泊三日で温泉などなんでもOK
『これからどうするつもりか』
能力者、英雄ともどもこれからの御時世で如何していくか、将来の顛末を遙華は気にしているようです。
皆さんがどうするつもりか聞かせてあげると遙華は安心してアメリカに行くことが出来るでしょう。
『将来の夢』
上記と少しかぶりますが、これはもっと先の未来です。
自分の目標。何をして生きていたいか、幸福の形。
夢や希望、そんな未来を遙華はあなたと語り合いたいようです。
● 遙華の話題
二人に会うにあたって上記トピック以外に話したいことがいろいろあるようです。
『アメリカって何があるんだろう、食文化とか大丈夫かしら』『いきたい国とかあれば招待するけど、どうする?』『一番つらかった戦いは?』『遙華の最終的なPCの印象』『次はいつ会える?』
また遙華がアメリカに行くことは、知っていても知らなくてもいいです。
知っている場合は、ロクトから聞いた。本人から直接聞いたなども自由です。
● ロクトの話題
今回のシナリオはロクトのみ、ロクトと遙華一緒になどロクトの登場も細かく選ぶことが出来ます。
ロクトが話したい話題は下記。
『ところで次の金曜日の夜空いてない?』『カンタレラ二号店の店員になるつもりはない?』『遙華がいなくなって本当は寂しい』『ここ二~三年で(皆さんの)PCが成長した点』『最近美味しいお酒あった?』
リプレイ
● 空に挑む
暗い雲の切れ間から、光が覗いている。
それはまるで剣か光線のように地面を舐めながら伸びて。やがて窓ガラス越しに遙華へと降りた。
窓ガラスには水滴。
暗い雲は消えさり、晴れ渡る青一色に染まった。
ーー飛行機は飛ぶみたい。
そう手にした端末に文字を打ち込んで。
「遙華ちゃん」
振り返る遙華。
そこには小柄な友人が控えていて、遙華は思わず目を見開く。
「久しぶり。元気にしてた?」
「アル、あなたも元気そうで何より」
戦いが終わって、あれから幾月もの時間が流れた。
戦いの日々は過酷で、まるで一瞬のように思えた反動。
戦わなくてよくなったこの世界の時間はゆっくり進んでいて。
だから、たった一週間、二週間前にあったはずの友人とも何年も何年もあってないような気がして。
「あっ遙華ちゃん、時間はある? よかったらこのカフェ入らない?」
そう切り出したのは『アル(aa1730)』
その口はいつだって希望を紡ぐ。
彼女の明るさに世界は、自分は。
何度救われたことだろう。
「今の空港って飛行機乗らなくても楽しめる施設が沢山あるのよね」
『雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)』がそうパンフレットを片手に、キャリーケースをもう片手に持ち現れた。
そのパンフレットに書かれている文字は何語か遙華にはわからなかったけど。
きっと彼女たちがこれから行く先を示しているのだろう。
「え、今までどこにいたのかって?」
遙華が問いかけるとアルは目をまん丸にしてそう聞き返してきた。
「あれ? 言ってなかったかな?」
「あの砂漠の町」
雅が答えた。
「……ルネさんの死から始まった、ガデンツァによる歌の脅威。ことが解決した今でも、彼女の歌の残骸は残り続けてるでしょう?」
王の脅威が去った今でも霊力は残留している。ガデンツァの残した歌はいわば記憶だ。
彼女がこの世界にいたという存在証明であり、本人よろしくなかなか消えてはくれなかった。
「今はその影響が濃く残った国を巡ってライブをしてるんだ」
「なるほど、発展途上国で活動されたら私の耳にも入ってこないわね。あなたがいなくて大変だったのよ」
「王との決戦すら放り出してね」
遙華の言葉を代わりに口にしたアルはいたずらっぽい笑みを浮かべ、感情を隠すためにストローに口をつけた。
「あなたにとって戦いはそういうものだものね、責めはしないわ」
王と刃を交えるよりやらなければならないことがある。
その想いに嘘も、偽りも。行動に対する後悔もない。
「そりゃ『歌はなんだかこわい』なんて言われちゃったらねぇ……居ても立ってもいられなくて」
「あなたは、私たちより一足早く自分の戦いを始めていたということね。私はあなたらしくて素敵だと思うわ」
「うん、これが僕の戦い……とはちょっと違うけど。でもずっとやっていきたいことではあるよ」
アルは一瞬瞳を伏せると次いでまっすぐ遙華の目を見つめて。
そして、告げた。
「みんなも、やりたいことが決まったみたいでよかった」
遙華は窓の外に視線を向ける。日本に置いてきてしまったものを思う。
● 今と未来。
遙華が空港に降り立つより一週間前。
その段階ではまだ部屋も決まっていなかった。
部屋でPCを使って引越しの準備を整える日々。
そんな中一本の電話がかかってきて遙華は自室を出ることになる。
「車を出してちょうだい」
そうロクトに告げる遙華。
「場所は?」
東京都内某所 赤城波濤流道場。
支部ではあるが『赤城 龍哉(aa0090)』が鍛錬および生活拠点として借り受けた場所だ。
龍哉は日々の鍛錬を行なっていたが車の接近する音で気が付いた。
「よう、お二人さん一緒での来訪とは珍しいな」
「いらっしゃい、遥華さん、ロクトさん。どうぞ中へ。今お茶を淹れますわ」
そう『ヴァルトラウテ(aa0090hero001)』が告げると板張りの道場へ足を踏み入れる。
「ヴァルトラウテの私服姿を私は初めて見た気がするわ」
「そうですか?」
「すごく可愛いと思うわ」
通された客間は畳で立派な部屋だった、道着のままあぐらをかいて座った龍哉であるが、話を切り出したのは遙華である。
「さて、私は関わったリンカーの皆さんに、今後どうするかって話を聞いて回っているのだけど、龍哉」
「俺は、王を倒しても何かと慌ただしいというか、物騒だったりもするんでな。エージェントを続けるぜ」
「今後落ち着くとは思うけど、エースが健在というだけで指揮は上がると思うわ」
「誓約を違えぬ限り、私は龍哉と共にありますわ。もちろん偶には羽を伸ばすつもりですけれど」
ヴァルトラウテが静かに告げた。
「恐らく色々と試して違う方向性を見出すことも出来るんだろうけどな。結局俺は自分で望み選んだこの道を行きたいと思ってる」
うなづく遙華。
「ま、武の頂に手を届かせるってのはそう簡単なことじゃねぇが、難儀なのは今更な話だしな」
「あなたにとっては、戦いもリンカーも自分を高める手段だったというわけね」
「そうでもないぜ」
「というのは?」
「戦いばっかでもないってことさ」
と言ってもと龍哉は今までの戦いを振り返る。
「王は言うまでもないが、マガツヒの比良坂清十郎、宇宙に巣食ったヨグソトースあたりは中々のキツさだった」
「多きものから曲者まで、よく戦って来れたわね。間違いなく撃墜王だと思うわ」
「そうか? 話を戻そうか、例えば異世界ってのがどんな場所かを色々と巡ってみたい」
「異世界?」
「以前、オーパーツ絡みで脚を踏み入れた事はあるが、その時は任務やら何やらでゆっくりするどころじゃなかったしな」
「この世界にも面白いところはいっぱいよ?」
「ああ、宇宙に海底か? 宇宙は何だかんだで結構行ったからな。大気圏突入もしたし、もういいだろ」
そう苦笑いを浮かべる龍哉である。
「後はそうだな。これまで関わったお嬢の開発品の完成を見届けたい」
「あら、それはありがたいわ」
「お嬢は見ていて面白いからな。悪い意味でなく」
龍哉の言葉をヴァルトラウテが注ぐ。
「色んな事に興味を持って取り組み、失敗してもそれを糧に次へ生かせるところが、とても素晴らしいと」
「ただ、偶に悩みを抱え込んで爆発しかけるあたりは要改善ってとこか」
うっと言葉につまる遙華。実際今も溜め込んでいたりする。
「けどお話しした通り私は」
「行くんだろアメリカ?」
龍哉も心配していたのだろう。あらかじめ調べていた色々を教えてくれた。
「アメリカは一人で行っちゃいけない場所と時間、水に注意だぞ」
「煮沸しないと飲めないと聞いたことがあります」
「食べ物は好みに合うものを楽しんで探すと良い」
「うーん、あちらの大味にはついていけなさそうだけど」
「この国は美味しいものであふれていますものね」
そうヴァルトラウテがニコニコの笑顔で言った。
「この地球に居る限りは、望めば会えるさ。ただ、異世界とかに行ってたらその時は判らん」
その言葉に少女は期待していると言葉を返し、お茶を一口含んだ。
●春は別れの季節。
今年はできなかった花見をできる人たちだけでやろうという話になって『月鏡 由利菜(aa0873)』の検査も終わり午後から少女たちは外に出る。
「人がいないと途端に広く感じるよね」
告げる『餅 望月(aa0843)』は普段よりはしゃいでいるのだろうか、バスケット片手に先頭を歩いて奥へ奥へ。
「由利菜、大丈夫?」
遙華は『ウィリディス(aa0873hero002)』と共に由利菜を振り返って彼女が追いつくのを待っていた。
「それほど心配されるものではないんですよ」
遙華はそれを後遺症のようなものだと認識していた。
厳しい戦い、愚神の王の来訪と撃破、第二世界蝕が由利菜達三人の誓約に大きな変化を与えた。
由利菜とラシルの強すぎる絆と愛により二人の意識が溶け合う事象が確認されている。
それだけ聞くと由利菜の体が心配で、遙華は検査を提案した。
結果大きな異常はみられなかったがそれは現代の科学では解析できない何かが侵攻している可能性でもある。
遙華の気は貼れなかった。
多難な前途に遙華は眉をひそめるが並んで歩くウィリディスに悲壮感はない。
「追いついちゃった」
そう告げる『百薬(aa0843hero001)』に背中を押されて皆はシートを広げ待っていた望月の元へ。
望月がバスケットをひらくといっぱいのサンドイッチが目に入り、由利菜は頬に手を当てて喜ぶ。
「スタッフも宴会芸もないお花見って久しぶり」
そう望月はあたりを見渡す、小鳥の囀りと川の音が遠くに聞こえてとてもしずかだ。
「花を眺めながらのんびりさせてもらおう」
「お花とお餅を堪能するよ」
そう百薬が飲み物を配って行く。
「それはいつもじゃないの」
そう望月が突っ込むとみんなが笑った。
「私は……第一英雄と恋人になりました」
場が落ち着くと由利菜はことの経緯をそう話し出した。
「やっと胸を撫で下ろせるよー」
「ウィリディスはそれでいいの? 大丈夫なの?」
遙華が問いかけた。
「大丈夫ではないけど、この展開は親友の恋は応援したいから」
遙華が肝心な部分に切り出しにくく困っているのを見かねると由利菜が代わりに思いをすくい取る。
「……このままではウィリディスとは契約不能になる可能性があります」
「そんな、それじゃ」
ウィリディスは消えてしまうのか。その問いを含んだ視線を望月やウィリディスに向けても、誰も答えを返すことはできなかった。
「だったら別の契約者を探さないと」
「ですが……ウィリディスと他の能力者の同調拒否問題が生じて……」
由利菜は重たくそう答える。
「あたしを構成する魂の中に、元愚神と疑われるのがね~」
あっけらかんと言い放つウィリディス。
「……遙華さん。グロリア社に、英雄単独で存在維持できる技術の開発を要請できますか?」
「それはもちろん……。でも具体的にいつ完成するかは……」
「長年のエージェント業や取引で、財産も潤沢です。開発費用は幾らでも出します」
「私の方でも研究員はフル投入する。任せて。人だけはたくさん雇ったから」
「グロリア社って新入社員いるんだね」
望月はこくりとハムサンドを飲み下すとそう言った。
「望月も雇ってもらう?」
百薬がいたずらっぽく問いかける。
「私としては大歓迎だけど」
遙華の言葉に望月は首をふる。
「まともな理系の知識と技術力は難しいかな。会計とかもできるわけじゃないし」
「そう? 入社してからおぼえたら?」
「ん〜。それもわるいかなぁ。リンカーならではの実技で実業団のスポーツ選手みたいな特級扱いならいいかもだけど」
でもそれはそれで面倒そうだと思う望月である。
「百薬だってH.O.P.E.エージェントのお気楽さがいいでしょ」
問いかけると百薬はクピリと手元のグラスをからにしてゆっくり口を開いた。
「ワタシの愛と癒しとフットワークの軽さをH.O.P.E.が求めてるからね」
「初めて聞いたよ、そんなこと」
「二人には私たちもH.O.P.E.もすごくお世話になったから、でも私たちはあなたたちをカゴの鳥にすることは望まない。それはもちろんウィリディスや由利菜も」
うなづく由利菜。
「今まで遙華さんやロクトさんは、私達に様々な体験をさせてくれました」
「だから……あたし達は二人やグロリア社の可能性に、大きな信頼を寄せてるよ」
「ありがとう」
そう告げたのはロクトだ。
「ハルカさん……あたし、ユリナと先生が決めた道を止める気はないんだ」
ウィリディスがそうまっすぐ遙華を見据える。
「私は……愛する人と融合する運命。それを受け入れてくれたウィリディスは……私と愛する人の、大切な親友です」
由利菜はまっすぐ、宣言するように言った。
「ユリナと先生が融合しても、暫く違う道を進んでも……あたしは二人の親友だよ!」
風がふいてウィリディスの髪が舞う。その新緑を思わせる髪の毛に桜の花びらが舞い降りて飾った。
由利菜はその花びらを手に取るように伸ばすと、次の瞬間には少女を抱きとめている。
不安と幸福の混じった思いを親友と共有するかのように二人は抱きしめあって春の匂いを感じていた。
「ま、そんなわけで、まだまだ世界中でリンカー向け依頼に行くつもりだよ」
そう話を改めて切り出したのは望月。
「遙華ちゃんはどうするの?」
「私は各地のグロリア社を回って社の方針の全体的な見直しを」
「現地で会ったら穴場のスイーツを教えてね」
百薬は寝転がると上目遣いに遙華を見る。
「特にアメリカはグルメの噂が少ないから、それはあたしもうれしいよ」
「確かに油っこいものばかりのイメージがあるわね。ドーナッツは好き?」
「すき〜」
「すき〜」
二人はうなづく。
「あとは澄香が霊力を食料にって計画を進めているみたいだから、霊力食料の試食員とか?」
「それ、私たち実験体なんじゃ」
百薬が顔をしかめると、遙華は小さく笑った。
「二人はどうするの? これから」
「ワタシたちは世界のグルメ旅行を続けるんだよ」
百薬が告げる。
「続けるって、これまで旅行してたみたいじゃない、一応依頼で激戦区に赴いてたんだよ」
依頼されれば世界のどこまでも行った。
世界の裏側、砂漠の真ん中。アマゾンや極寒のロシア。
「現地の名物を押さえてから帰ってきてたのは否定しないけど」
さすがは二人だ。ちゃっかりしている。そう遙華は笑みを浮かべる。
「由利菜ちゃんや鶏鳴机のみんなはどうするのかな」
望月は由利菜をみる。
「変わらない人や異世界に挑戦したりもするのかな。少しの時間かもしれないし、どこかでまた会うのかもね」
「望月さんや百薬さんとは、長い付き合いでして……頼りになる友人です」
「同じ日本にいるわけだし、これからもよろしくね」
告げる由利菜とウィリディス。
「さて、私たちの今後でしたね」
由利菜は言葉を整理しながら報告を。
「まずはウィリディスと一緒に学園を卒業しないと……。バイトは近く辞めます」
「あら、勿体無い」
遙華は思い出す、由利菜の制服姿やバイト風景。
「私は境界学者となり、異世界との交流を図りながら……第一英雄の世界を探し、復興を手伝いたい」
「あたしは風の聖女としてこの世界を巡って、荒廃した地域の復興に尽力したいな」
由利菜とウィリディスが宣言し終わったことで遙華はやっと安心できた。
みんな自分の道を見つけられたのだ。
「ウィリディスが自分の道を進むことは、彼女の意思です。遙華さんとロクトさんのように」
由利菜は二人を交互にみて頭を下げる。
「遙華さん……いつかまた、お会いしましょう!」
「きっとこれからもお世話になるから、よろしくね」
「よろしくお願いします」
望月が告げると遙華は涙を目尻から払ってそしていう。
「かならずまた会いましょう、きっとその時はみんなすごく成長しているのでしょうね」
告げると遙華は由利菜の肩にかかる桜の花びらをとる。
またここで桜を見よう、そう誓って皆同じ時を過ごす。
● やすらぎ
その夜遙華は以前プロデュースした温泉地を目指す。
『麻生 遊夜(aa0452)』とそこで合流する手はずになっていた。
遙華はロクトとその場に降り立つと、わざわざ玄関で出迎えてくれた『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』の胸に飛び込んだ。
「ん…………まってた」
「お父さん」
そう荷物を大量に抱えたエリザもともに。
「ま、死別するわけでもなし」
「……ん、頻度が減るのは……寂しいけど、ね」
そう切り出したのは遊夜のほうからだった。
「そうね、でももともとあなたたちは任務で世界を飛び回っているわけだし、グロリア社関連の仕事も任せるつもりだから、またすぐに会うと思うわ」
頷く遊夜にエリザが抱き着いた、食べる行為を必要とせず暇を持て余していたのだ。
「私は残るよ」
「あっちに行くって言ってなかったか?」
問いかける遊夜。
「信頼できるリンカーがいる地域に残ったほうがいいんじゃないかって。あとは遙華の日本でやってた仕事を少しもらおうかなって」
その言葉を聞くと 遊夜は少し安心したのか、そうかそうかと頭をなでる。
「呼んでくれりゃ遙華らの為に火の中、水の中ってな」
そう甘えるエリザから視線を移すと 遊夜はニヤッと笑った。
「……ん、呼ばれなくても……行くけど、ね」
「遙華わらず頼りになるわね。遠慮なく困ったときは呼ばせてもらうわ」
遊夜は思う。こうして手放しで人に甘えられるようになったのは進歩だなと。
「遠出するときは愛車じゃないと酔うけどな!」
そう遊夜はグラスの中身を飲み干してつげる。
まぁ、中身はウーロン茶であるが。
「まぁこっちの事は任せておきな、心配はいらんさ」
エリザのことも含めて。そう 遊夜が告げる。
「……ん、何時も通り……正義の味方、ここにあり……だよ」
食事がすめば普通に雑談になる。
かつてのミッションの話、私生活。
アメリカでは同生活するのかなどなど。
その間遊夜は背中にへばり付くユフォアリーヤを宥めて髪を梳いて。
ユフォアリーヤはエリザの髪を編み込んでいた。
「遙華もどうだ?」
頷く遙華を前に座らせて流れるような髪を整える。
「私、海外で働いている両親のところに行くの」
「そういえば、両親の話を聞いたことがなかったな」
「それは話せるようなことがなかっただけ」
「それは、寂しいことだな」
自分ならそんな思いはさせないのに、そう孤児院の子供やエリザ、そして遙華のことを思う。
「けど、その分遊夜とユフォアリーヤの思い出を詰め込めたわ。ありがとう」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。俺らは俺らとして、そういう寂しい気持ちになる子供を減らしていきたい」
「それがあなたの夢?」
「家のガキ共みたいな境遇の奴らがいなくさせる、まだまだ遠いが、それでも」
前よりずいぶん成果が出ている。
「……ん、それまで……もしくは、死が2人を分かつまで……生涯現役、常在戦場」
そうくすくすと笑うユフォアリーヤに遊夜は半分笑みを半分苦笑いを返した。
「それにしても。食文化は……色々と覚悟した方がいいかもしれんなぁ」
気候・風土に文化の違いは大きい。それに温泉も少ないし色々違うと遊夜は言った。
「……ん、伝え聞くだけでも……色々大きかったり、多かったり……色がものすごいって」
そうコクリと首を振ったユフォアリーヤ。
「次に会った時、果たして今の体型を維持できているかどうか……」
そういたずらっぽく告げる遊夜を振り返って遙華は、やめてよ~と抗議の声を上げた。
「いや……意外とハマってボンキュッボンになるかもしれん」
「……あー、呪いの装備の……時みたいな感じ?」
「男には気を付けるんだぞ! いいようにあそびた……あそばれないようにな!」
「それは、大丈夫じゃないかしら」
そういっている女子に限ってコロッと行ってしまうものだと力説する遊夜。
「……ん、いるならちゃんと言うように……確認するから、ね?」
そうユフォアリーヤも心配してくれる、複雑な心境を遊夜にかみつくことでごまかしながら。
「じゃあ、恋愛相談頑張るわ。私も、エリザもね」
「え? 私?」
唐突に話を振られたエリザにゆっくりと視線を向ける遊夜とユフォアリーヤ。
「ん…………誰かいい人、いる?」
詰め寄る麻生夫妻に逃げ出すエリザ。
しばらく追いかけっこのち、衝撃的な話を聞くことになるが。
それはまた、別のお話。
● お別れ会
暗がりの閉所はひどく酒の香りがする。そんな空間の二階席ではごそごそと物音が聞こえたまに少女たちが笑い合う声も混じる。
カンタレラに備え付けられているモニターではちょうど都内大型ドームから人が出てくる様子が映し出されており。
老若男女混成された人並みは一見するとなんの集まりだかわからないのだが、手に持ったサイリウムやTシャツ、エコバックとからこのライブが『蔵李 澄香(aa0010)』と『小詩 いのり(aa1420)』のライブであることがわかる。
「なんでこいつら、こんなに泣いてるんだ?」
そう日本酒を口にしながら『柳生 鉄治(aa5176)』がそうロクトに声をかけた。
ロクトはシェーカーを振ると自分の目の前のグラスに注ぐ。
「感動でか?」
「寂しさかしらね」
「あー。引退ライブ?」
鉄治が告げるとロクトは静かにうなづく。
「だから本来今日は貸切なのだけど」
「すまん!」
「どうしても飲みたいなら、まぁ私が相手するわ。ちょっと騒がしくなるけど許してね」
「まぁ、大丈夫だろ、新たな門出ってやつか?」
今やっているライブの後処理が終わったならいのりも澄香もカンタレラにくる手筈になっていた。
ライブの打ち上げというやつだ。
ただ、今日はそれだけでもない。
遙華のお別れ会を兼ねている。
「ったく、メガネの奴も水臭えよな。何も言わずにアメリカ行っちまうなんてよ」
「あら、あなたがあの子の心配なんて珍しい」
「心配ってわけじゃない、けどな、世話にはなったからな」
そう鉄治は遙華とのエピソードを思いかえそうとしてみた。
あまりなかった。
「どれくらいの間、あっちにいるんだろうな」
そうグラスを傾ける鉄治。
「まぁ、遙華さんだし」
そんな鉄治の隣にちょこんと腰掛ける少女達がいた。
「きっとにぎやかなんだろうね」
「トラブルを引き寄せるのか、トラブルに引き寄せられるのかは知らないが」
『イリス・レイバルド(aa0124)』と『アイリス(aa0124hero001)』が同じ椅子の上に身を寄せて座っており牛乳とアップルジュースを所望していた。
「ロクトさん、お二人は今ドームから出発したそうですよ」
次いで『卸 蘿蔔(aa0405)』が下におりてきていった。
「ありがとう、料理も間に合いそうよ。レオンくんのおかげでね」
そう微笑むロクトをみて、蘿蔔も笑った。
「微力ながらお力添えできて嬉しいです」
「蘿蔔が微力って言っちゃうと意味が変わってくるからね。他の人には言っちゃダメだぞ」
告げる『レオンハルト(aa0405hero001)』
「そうだ! ロクトさんも、二号店出すと聞きました。おめでとうなのです。レオでよかったらいつでも使ってください」
「ありがとう遠慮なく使わせてもらうわ」
「俺も仕事あるからね? でも、お客さんと話すのは楽しいから…………たまにならありかな」
その時である。
ドアベルがカランカランと鳴って湿った空気が室内に入り込む。
春の空気を運んできたのは遙華と、そして『ブリタニア(aa5176hero001)』
「おそくなったわ、ごめんなさい、もう始まってる?」
その言葉に蘿蔔が首をふった。
「主役の三分の二がまだですよ」
「今日はお招きに預かり光栄です。と言っても私は部外者。大人しくお酒でもたのしんで…………」
固まるブリタニア、および声を聞いて身を縮めた鉄治。
ただ、その背中に痛いほど視線を感じると鉄治はしぶしぶ振り返って言葉をかける。
「よう、ブリタニア。こんなところで奇遇だ…………」
思わず息を飲む鉄治、もはや見るからにブリタニアの機嫌は悪かった。
「べ、別に二人が逢瀬を重ねていたからと言ってわたしには関係ありません」
しかし自分こそ世界で最も美しく優しい女性と心の底から信じているブリタニアは自分になびかない男がいることが許せない。
鉄治がロクトに鼻の下を伸ばしてるのは由々しき事態なのだ。
「伸びきった鼻の下を見るのも……もう飽きましたし」
「伸ばしてねぇ、というか……なんだお前ここにいるんだよ」
「ここに足繁く通ってるらしいと遥華に聞きましたので」
「メガネ!」
なんてことを言ってくれたの意である。
「ええ、それも私に内緒で」
「おいメガネ〜」
大変なことをしてくれたなぁの意である。
「それにしても三年前ですか…………」
そんな修羅場の雰囲気も意に介さず蘿蔔は平常運転、遥華に言葉をかける。
「遙華と初めて会ったのは、確か――あ」
「何か思い出した?」
遙華が首をひねるとレオンハルトがため息をつく。
「あの時の事はもういいよ。怒ってない。お前にはもっとひどい事されたから、あれくらいじゃもう何とも思わないよ」
「え? え?」
レオンハルトと蘿蔔のやり取りに首をひねる遙華。
「あー……それにしても遙華は変わりましたね? いや、性格は変わってないけど…………大人になった感じがするというか。……本当、色々ありましたね」
「ええ、本当に。最初は番組撮影の以来で、試しにと初めてみたらいセンサーの仕事で蘿蔔と一緒になったりして」
「アイドルになったり、がデンツァに捕まったり、かなちゃんのことも」
「楽しかったことばかりではないわね」
うなづく蘿蔔。
「今でもたまに、夢にみます。救えなかった子供達のこと」
「救えた子供達からは、いまだに感謝のメールや経過報告がくるわよ」
「それは嬉しいことですが、だからと言って、それはなかったことにはならないのです」
かける言葉を迷う遙華。それを察してか蘿蔔は振り返り遙華に笑顔を返してみせる。
「彩名ちゃん元気かなー? 今度挨拶行かないと」
「そうね、その時には私も一緒にいくわ」
「アメリカから帰ってくるです?」
「適当な用事でもでっち上げてくるわ。私に永遠と仕事をふるロクトももういないし。私の天下よ。アメリカ息が楽しみだわ」
そう告げて階段を登り切るとそこには絶句した『斉加 理夢琉(aa0783)』が立っていた。
「え? 遙華さん、日本からいなくなっちゃうんですか!?」
「え? 遙華言ってなかったのですか」
呆然とした理夢琉に間に挟まれた蘿蔔は二人を交互に見る。
「理夢琉久しぶり」
「わ。わたし今日は聞いてもらいたいことがあって」
理夢琉はソファーから立ち上がって遙華に迫った。
「アイドルも続けようと思ってて、アニメやゲームの主題歌を歌ってみたいし演劇にも興味があって。それに洋服のデザインも遥華さんにも手伝ってもらえたらって…………」
「手伝う! 手伝うから!」
その矢先だ。お待ちかねの主役の登場である。呼び鈴がなって二人の声がBARに響く。
「澄香といのりね」
そう走って階段をおりていく遙華と少女たち。
仲間の姿を見つけるといのりは高く手をあげて挨拶した。
「はろろーん。みんな元気?」
ライブあとだというのにいのりは元気である。
「お疲れ様、二人とも」
遙華の声を合図に理夢琉と蘿蔔、イリスやアイリスもその手のクラッカーを打ち鳴らす。
舞う紙吹雪に包まれながら澄香はありがとうと照れ笑いを浮かべた。
「これまでありがとね、みんな。せっかく結んだえにしだし、これからもどうかよろしくね」
そういのりがうやうやしく挨拶する。
「ガデンツァとの決着が付いたら引退するつもりではあったんだ。でも少し名残惜しくはあるよ。……いつも力になってくれて、ありがと、遙華」
少女たちにグラスがいきわたり乾杯の音頭をとるとBARは賑わいを取り戻す、遙華は再び理夢琉のもとに走り寄り、そして言葉をかけた。
「ごめんなさい、内緒にしていたつもりではないの。すごく切り出し辛くて」
「寂しくなっちゃうけど、大丈夫です」
「あなたはすごく強くなったわね」
「え?」
「英雄との契約が変わって、ルネが砕け散って、自分の過去をみて。悪意を知って。でもあなたはそれらから逃げなかった。自分が変わっていかなきゃって努力して。今あなたはたくさんのものを掴み取ってる」
「そんなすごいことみたいに言われるほどではないんです。必死でしたから。全部に対して」
「必死に慣れることが、あなたの強さ、それが元からあったか、培われてきたかはわからないけど。でも、それには私も支えられた」
「そうなんですか?」
目尻の涙を救うと理夢琉は深呼吸。心に平穏を取り戻す。
「旅立つ日までいっぱい遊びましょう! スケジュール調整してもらいます」
「もう会えない訳ではないけど。人生でもうあるかないかの長い休みだから。ぜひ遊びに行きましょうね」
「いつか私は、異世界に行けるようになったらたくさんの絆を結ぶ為に歌を届けたい、それが夢です」
「みんなはこれからどうするの? 夢とかある?」
そう遙華は澄香に問いかけた。
「くらり屋の借金を無事返済したから、これで自由の身だね。経営を取り戻し立て直しも完了。でも女将を続けていくつもりはないんだ」
利権は『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』に譲渡したらしい。
「女将をすることも考えたんだけどね。それはもっともっと先、隠居するときかな」
「じゃあ、クラリスはどうするの? クラリスが女将?」
それにはクラリスが首をふった。
「モノプロはちゃんと持続しておりますよ。最も、澄香ちゃんといのりの抜けた穴は大きいので」
大きいのでどうするのか。それは遙華もロクトも気になるところである。
「わたくしが一時的にアイドルデビューします」
「「ええ!」」
BAR内に驚愕の声がこだまする。
「春香にペアを組むようにお願いしていますね」
「あの子もいつのまに…………」
「イリスちゃんや斉加ちゃんにシロ、アルちゃんに負けないよう、新人の子らを引っ張っていきますね」
そうにんまり笑うクラリス。
「ロクトさん、色々と手伝ってね?」
その言葉に目を見開くロクトだが、すぐにいつもの微笑を取り戻して言葉を返す。
「もちろん。私もあなたと仕事がしたいわ。だってあなたとの仕事は刺激的だから」
「それにじいやさんもいるので」
告げると車を止めて入ってきた『セバス=チャン(aa1420hero001)』にクラリスは視線を向けた。
「じいやも引き続きモノプロの責任者として活動してくんだよ」
いのりがいうとセバスは頭を下げた。
「これからもいっそうよろしくお願いいたします」
「クラリスのデビューもあるし、忙しくなりそうだって嬉しそうにぼやいてた」
そういのりがいうとセバスははにかむ。
「これで僕たちも本分に戻れるよ」
「本分って?」
「やだなぁ、僕たちは学生だよ? だから本分といえは学業だよ」
やがて二人は今後の目標を語る。
「えっと、澄香は」
「澄香はね、霊力学を専攻してて、テーマは『霊力食料の運用』だよ」
「いのりは?」
「本来は大学は芸能学部だったんだけど、思うところがあってね、今年から家政学部に転学部するよ」
「180度違うジャンルじゃない」
遙華はうなづいて先を促す。
「ミカンキャノンの技術を腐らせるのは惜しいからね。愚神被害で難民さんとかもいるし、食糧難への救済措置機能としての運用を考えてるんだ」
世界は荒れ果てている。愚神による被害がなくなったとはいえ、戦いに傷ついた世界には休息が必要だ。その一助と慣れる可能性が霊力による食料供給である。
「これ、周辺霊力を使う小型食料プラントAGW論文ね」
そう澄香が遙華に手渡すと、遙華はふむふむと読み進める。
「自前の霊力を使わないって構想?」
「だって、リンカーがいないと動かないなら世界隅々まで行き渡らせるのは難しいし」
いのりが言葉を注ぐ。
「戦はもうない、少なくともこれまでみたいなペースではないでしょ? だから新しい使い道が必要なんじゃないかなって、霊力の」
「ありがたい話だわ。これは持ち帰らせてもらいます。ってことはあなたが学部を変える理由は」
「澄香が研究を始めた霊力食料について、ボクも考えてみたい」
力強くうなづくいのり、そして澄香。
「澄香が基礎研究をするみたいだから、ボクはその実践かな。
具体的には、まだ味に問題がある霊力食料を美味しく食べる方法について。美味しさを追求するって、贅沢とかじゃなくて必要なことだと思うんだよね」
「戦場も美味しい料理で指揮が上がって何倍も成果を出す、みたいな話を聞いたことがあるわね」
「そのためにまず、新しく有限会社を設立するよ」
澄香が言った。
「僕は澄香が設立する会社のお手伝いもするよ」
「そのための法律ね?」
いのりはうなづく。
「元アイドルの知名度を活かして幅広く活動するつもり。
澄香の活動の一番の理解者であれるように、大学在学中もその後も一生懸命研究するよ。
霊力食料研究の第一人者として、澄香と肩を並べられたらいいな」
「遙華、将来的には君の傘下へ入りたいね」
澄香が言葉を継いだ。
「まずは、ミカンキャノンを引っ提げ、海外留学を名目に各国でボランティアをやるつもり」
「それならアルを頼るといいわ。彼女が一足先にそれっぽい活動を始めてるから」
うなづく澄香。
「でね、そこで霊力食料の有用性の実証を行うつもり」
「そして最終的にはグロリア社に?」
「どちらかというと遙華の会社かな」
「僕たち結構お仕事の相性よかったと思うんだよね」
そういのりと澄香は言った。
「澄香と一緒に海外を飛び回ることになると思う」
「そうね」
「澄香のことだから紛争地域とかにも食料支援しに行くと思う」
「危ないことがあったら止めるのはあなたの役目よ」
「うん、任せてよ! でもクラリスとじいやはモノプロで忙しいから、クラリッサとメロディをボディガードに連れて行くつもり」
「随分と詳細に固まっているのね、具体的なのは良いことよ」
「だからね、君には出世してもらわないとね?」
そう澄香は遙華と肩を組んでいたずらっぽく笑った。グラスをかちんっとぶつける。
「会社名はさ、カナタにしようと思ってるんだ。ミカンの色はあの子の色だからね」
そうちらりといのりと澄香が蘿蔔を見た。
「みんなそれぞれの道を歩み出す。次はいつ会えるかしらね」
「どうせすぐ会えるさ」
そう声をかけたのはアイリス。うなづく澄香にいのり。
「旅歩きは得意だしトラブルがあれば飛んでいく」
「遊びたいときは誘ってください。森に叫べばいつかは遊びに行きます」
イリスがいうと遙華はうなづく。
「二人にはついに頼りっぱなしだったわ。あっちにきたら教えてね、それまでに美味しいアップルパイのお店とか探しておくわ、でもあなたたちの口に合うかしらね」
「どうでしょう」
イリスはフムと考え込むしぐさをする。
「アメリカ、どういうところかあまりわかってないのよね」
そう遙華が首をひねるとアイリスはいつものように笑う。
「はははっ 私たちが知るわけないだろう」
「つくづく戦いだけでしか世界回ってなかったよね」
「でもそのおかげで二人がいるときは安心できた。絶対なんとかなるんだって。最初のうちは小さいうちから戦わされてかわいそうだと思ったものだけど」
「あ〜、そんな風に思ってたんだ」
じとっとした視線を向けるイリスである。
「でも今はただただ、頼もしいわ。いつもありがとう、私の妖精さんたち」
「ははは、イリスはどちらかというと天使かな」
アイリスの言葉にうなづくと今度は遙華がイリスをすくい上げた。
賑わいを見せるカンタレラの二階。
その音を聴きながら鉄治とブリタニアは氷を転がす。
「青春って感じだな」
そうおかわりのマティーニを口に含んだ瞬間。
「ところで鉄治さん。次の金曜日空いてる?」
「…………んなっ!?」
戸惑いの声をあげる鉄治とグラスをそのままにジトーッとした視線を向けるブリタニア。
「そ、そうだな、何にも予定はないかな」
その言葉にニヤリと口元を釣り上げるロクト。
ちらりとブリタニアに視線を送る鉄治。
「…………ふんだ」
肩身は狭くなる一方である。
「それにしても若い子達は続々と進路を決めているみたいだけど、あなたはどうするかしら」
鉄治はそう考え込む仕草をする。
「そうだなぁ。そろそろ、別の店でも修行してみるかなぁ」
「あら、ならいい就職先があるわよ」
「お? どこだ」
「カンタレラ二号店」
「…………んなっ!?」
「なんですって!?」
今回ばかりはブリタニアは驚きを隠せない。
「……い、いや、それは……も、もう少し考えさせてくれ。」
そのやりとりを無言で眺めるブリタニア。なにせ鉄治の顔が蕩けきっている。
おおかた、一生のパートナーにとか、一緒にいるための口実なのではとか、色々考えているに違いない、男って単純。
そんな風に考えていた。
「マジか…………。マジか…………。」
大分揺れている模様の鉄治。当然だろう複雑な思いを向ける憧れのお姉さんからのお誘いなのだから。
ただ、ここまでデレデレされると納得行かないのがブリタニアである。
ブリタニアは鉄治の耳をつまむとトイレまで引っ張って行って。二人で個室に入った。
「ど・う・し・て!! ロクトにばっかり鼻の下を伸ばすんです、鉄治は!!」
「えっ!?」
「ええ、ロクトは可愛いですよ。しかし、世界で最も優しく気高く美しい私がいるのに、どうしていつもそうなのですか!!」
「そ、それは」
「愚神が片付いて、せっかく戦い抜いた鉄治のそばにいてあげても、とこの私が思っているのに」
「えっ……!?」
「ありゃー、トイレ埋まってるね」
降りてきたいのりは困った顔をしてロクトに話をふる。
「グラスいっぱい飲み干すくらいの時間はかかるかも。成人したのだっけ? 何か飲む?」
「ううん、ソフトドリンクで大丈夫」
告げるといのりはにやりと笑ってロクトに話をふった。
「そういえばロクトさんはその辺りどうなのさ?」
「私は。何もないかしら。遙華じゃないけど、こちらにやってきてから仕事一筋だったし。夜の駆け引きもしなくなったし」
「なら、安心した」
そう階段を降りながら『アリューテュス(aa0783hero001)』が言葉をかける。
背後では様子を伺っている少女たちの気配がする。理夢琉の頑張れという声が小さく聞こえた。
「そう? 不安にさせていたのかしら、ごめんなさい」
「ロクト、もっと君を知りたい」
そのアリューテュスの言葉で場のムードが変わる。
「俺と二人の時間を作ってくれないか?」
いのりは振り返りロクトを見た。
すると大変珍しいものを見ることになる。
ロクトが頬に手を当てて顔を真っ赤にしているのだ。
「え…………。え〜」
「いやか? ロクト」
「嫌じゃないわ、嫌じゃないけど。その質問はちょっとずるい!」
厨房に逃げるロクト。追いかけるアリューテュス…………を止める理夢琉と遙華である。
「悪い反応じゃないから安心しなさい。それより追い詰められると何をするかわからないわよ」
遙華が告げるとアリューテュスが、そうなのか? と首を傾げた。
「乙女はそういうものだよね」
そういのりが同意する。
● 希望の月
翌日朝から遙華は公園に赴いた。
そこには忍び装束ではなくワンピース姿の『希月(aa5670)』とパンクな服装で身を固めた『ザラディア・エルドガッシュ(aa5670hero001)』がベンチに座って空を眺めていた。
「人生相談にきたわよ」
告げると希月は遙華の気配に気がつき。おおげさなと言って笑った。
「私、みんなに聞いて回ってるの。これからどうするか。愚神の時代を牽引したグロリア社の令嬢としてライセンサーの今後を保証する義務があると思って」
「そこまで背負われる必要もないと思います」
「これから色々背負いこもうとしている人に言われてもね」
そう遙華は希月に向き直る。
「忍びの村、その長の娘である私が忍びの使命に全う出来る様になったのは、ザラディア様と契約し能力者になれたから。まだ能力者である以上、もう少しH.O.P.Eの一員として活動しようと思っています」
「里に帰る気はないの?」
その言葉にはザラディアが答える。
「希月様はまだまだ引退する気はねぇ、俺もとことん付き合うつもりだぜ」
うなづく希月。
「これまで、私は色々な事を学ばせていただきました、歌が人を救う力があると言う事も皆さんのおかげで知る事が出来ました」
「そうね、歌にも色々あったけど、最終的にはその力を示してくれた。」
「もっと私は知りたいのです。だから、私は世界を回って活動しようと思います」
「嬢ちゃんとも会う事があるかもしれねぇな」
ザラディアの言葉に遙華はうなづいた。
「そん時ぁよろしく頼むぜ」
「もちろんじゃない、でもあなたも彼女と同じようなことをいうのね」
「彼女?」
遙華は思い出す。数日前話したこと。
ーー私は全てを捨てて闇に生きる事を誓った人間。この命尽きるまで人々を守る為に戦う事になるだろう。
彼女も誇り高い戦士としての生と死を望んだ。
ーー闇の世界で誰にも看取られる事も無く、ね。でも、それがボク達の望んだ道なんだ。
『無月(aa1531)』と『ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)』はそう言った。
ーー誰かがやらねばならぬのだ。その誰か、が私達だった。唯それだけだ。
「もちろん、最終的には里に戻り、長の一族として生きていく事になると思います。でも、時々は皆様とお会いしたいですね」
その言葉に我に帰る遙華。
「俺ぁどうするかねぇ。そん時になったら又旅にでも出ようかね」
ザラディアの言葉に希月は憂いを瞳に浮かべた。
「そうなったら寂しくなりますね。でも、私はそれを受け入れようと思っています」
「つらい戦いを経験してもなお。戦うって言えるのはすごいことだわ」
「つらいと言っても、本当に心にくる依頼は少なかったと思います。ただロクト様を探していて囚われてしまった時は本当にダメかと思いました」
けれど、そう希月は言葉を続ける。
「いつでも頼れる仲間達が共にいてくれたから辛いと思った事はあまりありませんでした 」
その言葉も無月と重なる。
「あなたは彼女を追いかけてきたのでしょう?」
「え?」
希月が遙華をみた。
「確かに彼女たちは強かった。心がね。どんなに苦しい戦場でも逃げなかった。子供たちを助けるためって印象が強かったけど、本質は人を助けるためでしょう。だからたくさん傷ついたこともあるはず。それでも人の希望ってものを信じきれたのは。あなたみたいな人がいたからじゃないかと思うの」
「私ですか」
「あなたたち二人ね。闇に生きながら輝きを忘れないあなたたちがいてくれたからこそ、救われた人たちは多いと思うわ」
告げて立ち上がる遙華。
「あなたたちの力が必要になったら、またお願いしてもいいかしら」
「もちろんです。ところでお願いがあって。無月お姉様と合うなら」
「それだけど、もう呼んであるのよ」
振り返ればロクトの後ろで、照れ臭そうにそっぽを向いている無月がいた。
そんな無月の頬をつついているジュネッサ。
それを見た瞬間、思わず希月は立ち上がって駆け寄った。
「無月姉様、お会いしたかった」
そう無月と並び立った希月。最後に別れた時より背丈が伸びている気がする。
「立派になったな。そうか、君は希望を照らす月となったのか」
そう言葉を噛み締めながら告げる無月。
「やはり里には戻らないのですね」
「すまない、だが、これは私が選んだ道なんだ」
告げる無月は視線を伏せる。
「私が里を出た理由を隠し通す事、大変だと思う。それでも私は苦しむ人達を守りたいのだ」
「解っています、姉様はいつだって自分を犠牲にしても他者を守ろうとしていましたから」
「でも、これだけは知って下さい。私は最後まで姉様の事は忘れません。そう言う人間が一人いる事実は忘れないで欲しいのです、どうか……」
「ああ……ありがとう」
「無月も行き先は決まっているみたいね」
うなづく無月。そしてジュネッサ。
「君達が幸せに生きる姿を見ていたい、それだけが私達の望みだ。それまで命があれば、だがな」
「はは、ボク達も無意味に命を捨てるなんて事はしないよ。だから、そんな顔をしないで」
「寂しくなるわね」
告げるとジュネッサは遙華の頭をクシャリとかき回す。
「気持ちはよく分かる。でも、貴女達の絆は結ばれたままだ。絆の糸が繋がっている限り、又共にいられる未来は消えはしない」
●午後のテラスで
その日は雨が降っていた。
喫茶店の中のBGMでは消しきれないほどの雨音が店内に響いている。
ここはとある学校に隣接されたカフェテリア。
HOPEが経営していてリンカー多数在籍している、リンカー達の中では御用達ののカフェテリアである。
そこは『藤咲 仁菜(aa3237)』と『リオン クロフォード(aa3237hero001)』
の通う学校のすぐそばでもあった。
「あ、二人ともこっち!」
そうカフェの中で立ち上がって手を振るのは仁菜。
傘をたたむ遥華はさらに二人少女をつれていた。
それが『柳生 楓(aa3403)』と『氷室 詩乃(aa3403hero001)』
だ。
「二人もカフェに行くつもりだっていうから、誘っちゃった。大丈夫かしら」
「うん、大丈夫」
六人席で集まると一人一人が飲み物を頼む。
お茶が運ばれてくるまでの間にとまず仁菜が切り出した。
「この場所にしたのは今まで戦場でばかり会っていた私達が、戦って取り戻した日常を遥華さんとロクトさんに見てもらいたかったからなんだ」
「確かに……私たちって任務ばっかりだったわね。楓ともそう」
「仕方なかったですよ、忙しかったですから」
この数年間、矢のように駆け抜けた。
その思いは全員に共通するところだろう。
「仁菜、私ね、アメリカに行くことになったの」
「うん」
その言葉に仁菜はうなづくだけだ。
「みんなの進路見届けられなくて残念だわ」
「私は、しばらくエージェントを続けながら大学生活を送るつもりです。まだ色々とやるべきことはありますから」
楓が言った。
「ボクはこれまでと変わらないかなー。いつも通り楓を支えていく。あっ、彼氏とイチャついたりもするかな?」
その彼氏という単語を受けてリオンと仁菜に同様の空気が走り、それをロクトは見逃さない。
「もしかして?」
慌てるリオンを静止して仁菜が宣言する。
「えっと、実は最近リオンと……こ、恋人同士になりまして……!」
顔がますます赤くなる。
「だからこれからもきっと2人で一緒にいるんだと思います」
「そう、それはよかったわね」
遥華が告げるとロクトまでまとめて頬を赤らめる。
「学業も頑張るって決めたので、以前ほど戦いには出ないけど」
「あんなペースで危険に飛び込まれたら困るよ」
リオンが苦笑いを浮かべる。
「うう、ごめんなさい、でももうしない……かも」
「まぁ、こっちとしてはハラハラしっぱなしだけど、それでいいと思うよ」
そうリオンが告げると仁菜の顔がますますあかくなった。
「リオンのことが大好きだから。戦うためじゃなく、一緒にいたいからいるんです」
「俺もニーナが大好きだから。これからも一緒に歩んでいきたいなって思ってるよ」
「そうね、二人はしばらく穏やかに過ごした方がいいかも、楓はどうするの? やっぱり戦いから退く?」
「そうですね、やりたいこともできたので」
楓は答える。
「やりたいこと?」
「将来の夢…………そうですね。物語を書くつもりです。私が体験した戦いを。今までの軌跡を。辛かったことも嬉しかったことも全て」
「それは……」
遥華にはわかっていた。楓の指し示す辛いこと。
「色々とありましたが、私はあれを鮮明に覚えてます。手にかけた子供たちのことを。忘れることなんて出来ません。それらを背負って生きていくって決めてますから。それが私に出来る贖罪です」
かつて楓は従魔となった子供達を手にかけた。
元人間、昨日まで笑いあっていた少年少女。
彼女らと殺しあって、見上げた月の色は今でも忘れられない。
「あれは許されたじゃない、罪はない、事件性もない、それでも痛み続けるの?」
その言葉には詩乃が言葉を返す。
「それだけではありません。シベリアから始まった二年半にも及ぶ一連の戦い。何度も挫折しかけました。もしかしたら折れていた時もあったかもしれない。でもその度に仲間に支えられてきた。そして望む結末を手に入れることが出来た、と私は思うんです」
そら全てを残したいと楓は言った。
「全て私の中に残して置きたいんです。風化させたくない、忘れたくない、それがどれだけ辛かったことでも、誰かに許されても」
「忘れなんてしないよ。関わってきたもの全ての物語を、語り継ぐことがボクの使命なんだから」
二人はうなづき合う、思いは変わらないらしい。これはもう決めたことだ。
「詩乃はじゃあ楓と同じ道を?」
「特に決まってないよ。時間はあるんだしゆっくりと決めていくつもり」
「それがいいわ、もうあなた達はなんでもできる。だってこんなに強くなったんだから」
頷く仁菜。
「私思うのが、一番変わったと思うのは一番は自分だけで頑張らなくなった事……かなぁって」
リオンがその言葉にうなづいた。
「リンカーになったばかりの頃は何を信じていいか分からなくて。
頼れるのはリオンだけで。
2人だけで何とかしなくちゃって、また失わないように必死で歯を食いしばっていたけれど」
顔をあげた仁菜の瞳は輝いている。同時にリオンが語り出した。
「【暁】の存在はやっぱり大きかったよな。きっと【暁】がなかったら俺達は今でも2人だけで戦ってた」
仁菜は皆の背中を思い出す。
どんな厳しい戦場でも共に前に立ってくれる”盾”がいた。
どんな戦況も一発の銃弾で巻き返す”参謀”がいた。
最後に必ず勝利をもぎ取ってくれる”隊長”がいた。
もちろん他にもたくさんの仲間がいて、好きになって。
それが心強くて、暖かくて。
「いつのまにか頼れる存在になって、自分に出来ない事だけを悔いるのはやめたんだ」
「みんなにも不安や迷惑をかけるから」
「仲間と互いに出来る事をやりきればいいんだって気づいたの」
「仲間、そうね。私にも苦しい時支えてくれた人たちがいる」
遥華も楓も同じようにうなづいた。
それぞれ違う戦場で。
それぞれ違う思いを抱いて。でも生きて帰ってこれたのは支えられてきたから。
「今は王を倒して、皆それぞれの道を歩んでいるけれど。仲間との思いは繋がってるから寂しくないよ」
仁菜の言葉にすこし遥華の表情が陰る。
「ロクトさんも遥華さんと別の道を行くことになって、寂しいかもしれないけど大丈夫!」
リオンが言った。
「一度離れたって繋がれた絆なんだから、ちょっとやそっとじゃびくともしないよ。
寂しかったら週一くらいで会いに行っちゃってもいいし?」
リオンが告げると遥華は笑みを浮かべる。
「そうね、どうしても耐えきれなくなった時、アメリカにきてもらっちゃおうかしら」
そこから思い出話に花が咲く、あの作戦の裏では? がデンツァってなんだったの? 他のリンカーの今後。
気がつけば夕暮れ。
三人は上がった雨の下。濡れた道の上を行く。
「それじゃ遙華さん、また会う日まで。またね」
「みんなも、またね」
楓が手を振り詩乃が笑顔を向ける。
遥華はしばらく手を降って、そして踵を返した。
●終わりと始まり
飛行機の中で。
遙華は思い出している。
楽しい記憶。これまでのこと。
イリスの声が蘇った。
それはメリーゴーランドに一緒に乗って、そして言ってくれた言葉。
変わっていくことが怖い。いつか本当に会えなくなってしまうんじゃないか。
そう吐露した時。
少女と妖精は言ってくれた。
「んー、ボクたちは」
「そうそう変わらないだろうね」
10年後でも、20年後でも悪意を振りまく理不尽を叩き潰すために走り回る未来を語って聞かせてくれた。
「それより未来に楽しみを見出しましょう」
例えば10年後のイリスは、人見知りもだいぶ改善してアイドル活動にも向き合うようになっているかもしれない。
「良くも悪くも仕事には困らない世の中になったからね」
アイリスはいう。英雄という超常戦力もそのままに力を持っていても必要とされる理由はなくならなかった。
「きっと無かったことにならなかったかわりに、別の可能性が広がっていくんだろうね」
「新しい世界のつながり、新しいカタチ……誰かが回さなかったらこわれてしまうかも」
「歯車というか、その潤滑油というか。放置が悲劇につながるなら……今までと変わらないだろうね。それがイリスの望みだろうから」
「うん、何が変わったって理不尽は叩いて壊すよ」
「私たちが再び会えないかもって理不尽も?」
「はい、僕たちが壊してきっとまた会いに行きます。だから泣かないでください」
そうイリスは遙華の馬に飛び乗って涙を拭ってくれた。
「ありがとう」
「安心したまえ。アイドル活動も続けるからさ」
アイリスの羽が金色に広がる。歌が遊園地中に広がっていく。
「変わることで変化することも、変わらないことを認めるために変化することもあるさ」
「きっとボクたちは変わらないけど……そういう不器用が生きていてもいい世界に変わっていくかもね」
ロクトすら傍にいない空港は人に満ち溢れていたのにも関わらずひどく伽藍堂な気がした。
ただ、その空港でアルに出会えたから、今にもくずれそうな心をなでおろすことができる。
少女はアルに感謝した。泣き出しそうな自分を最後に支えてくれたのだから。
「そういえばアルは進路とかどうするの? まさかずっと世界を飛び回ってるつもり?」
「これから一旦日本に帰るよ」
そう言って見せてくれたのが学生書だ。
「高校生になりました」
小夜霧音大附属高校の生徒手帳。様々な依頼をこなす中で作詞作曲の楽しさに目覚め勉強中である。
「最近は白江ちゃんと共鳴してることが多いかな」
そうアルは腕の数珠を見ながら言った。
「そういえば雅は」
「いつもの通りかな、写真を撮り続ける毎日。あと語学力を生かして外国語を教えてもらってる、他の人にも教えてる」
「じゃあ、忙しい日々が続きそうね」
アルはいろんなことを話してくれた。
ギターの腕が上がったこと。学業に力を入れつつも、年の三分の一は海外を拠点に活動する予定であること。
ガデンツァの歌の澱の影響が残る地域を中心に巡りライブを続けること。
「僕は、歌い続けることをやめないよ、僕は歌が好きだから」
どの曲にも共通する『存在することへの強い肯定感』
それを強く大切にしていくのだとアルは語る。
「ボクの人生は、声を失い音の世界から閉め出されたことから始まったんだから」
一度失った全ての音に、恩返しし続けるよ。ずっとずっと――歌い続ける!」
告げるとアルは時計をみて慌てて立ち上がる。
「あっもう時間だ、行かなくちゃ」
「え! そんな急に」
「そんなに不安がらないで、みんな遙華ちゃんのそばにいるよ、例えば彼女とか。
そうカフェの入り口をアルは示す、そこには帽子を被っておとなしげな。
でも実際は全然大人しくなくてつかみどころのない。
遙華の最高の親友が待っている。
「それじゃまたね、遙華ちゃん」
アルがすれ違うと蘿蔔は歩み出し遙華に手を差し伸べる。
「それでは、遙華…………行きますか」
ぽろりと、遙華の頬を涙が伝う。
「どこにって? アメリカですとも。私も同行しましょう」
その言葉に緊張の意図がきれた遙華はうわーんと声をあげて泣き始める。
実は友達ができるのが初めてで、ということは別れるのも初めてで。
その痛みは鋭く胸に突き刺さっていたのだけど、なかなか泣くことなんてできなくて。
もう会えないかもと思っている中、会えたことが嬉しくて。
「というのは冗談で。ちょうど留学しないかとの話がありまして。アメリカにいる間だけですが、そう遠くない場所にいれますよ」
思わず抱きつく遙華。その遙華をよしよしとなだめる蘿蔔。
「なので、ボディガードが必要な時や日本食が恋しい時等々、困ったことがあれば力になります。
ハンバーガー食べきる自信もないですし。
いつでもと言えればよかったのですが、私も一杯学ぶことが多くて…………それにサボると遙華の隣でドヤ顔出来ないですが。
でも緊急だったら絶対行きますから遠慮ダメ絶対!」
「今来てくれただけで、もう一生頑張れる気がするわ」
遙華は思う、今蘿蔔が示してくれた未来をきっと自分も愛せるだろう。
「お互い頑張りましょう。予定がない日も誘ってね。私も誘います」
「辛くなったら、いつでも帰ってきなさい」
「あれ? レオ…………いたんですか?」
「追いかけて来たんだよ! なんで教えてくれないんだ! 今日行くって」
「あ〜、知ってましたよ、私知ってました。レオに言い忘れてたこと」
「わすれてたんだろ! 最後までひどいやつだ」
そんな二人のやり取りをみて微笑む遙華。
ただ、その飛行機を見送ろうと追いかけて来たのが二人いる。
蘿蔔の姿を空港で見つけ。じゃあいいやと引き返したのだが。
やっぱり気になって遙華が乗った飛行機を飛行場のフェンスの外から見送っている。
「いっちゃった、本当に見送らなくてよかったの?」
そういのりが問いかけると澄香はうなづく。
「私たちまでまた会えるか不安に思ってるって言っちゃうことになりそうだしね」
澄香がいのりを振り返る。
風に髪がなびいていのりはとても美しい。
いのりはとても綺麗になった、凛と自分を軸にすえた一人の人として成長した。
だから。
「いい加減自覚してるんだ。私はいのりを恋人と思ってる」
そう唐突に口走った澄香にいのりは瞳を潤ませた。
「本当に?」
「いずれ海外で国籍取って、正式にいのりをお嫁さんにするつもりだよ」
すみかの胸の中に飛び込むいのり。澄香はその頭を撫でながら空を見上げる。
「歌えばいつでも皆に会えるよ」
歌うように呟いた声は水色の空に吸い込まれて消えて行く。
繋がった絆は消えない。
そう信じさせてくれるものはすでにもらっているのだから。
だから不安でも皆、前に進んでいける。
●エピローグ
遙華は飛行機の中で、蘿蔔から手渡されたメッセージカードと白いアネモネを。
遠く離れた場所でロクトはピンクのバラを花瓶にさした。
メッセージはこうだ。
「今まで本当に本当にありがとうございました。辛いことも多かったけど、楽しいこともいっぱいで…………だから、私。今、すごく幸せだなって思うんです By蘿蔔」
「助けられたことも多かったしね…………感謝してもしきれないよ、本当に Byレオンハルト」
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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