本部

爆発オチと能力者

睦月江介

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~6人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/05 23:30

掲示板

オープニング

 フランス郊外のとある村にある古びた洋館。かつては貴族が別荘として使っていたという趣のある建物は、夜の帳が下りるとその静寂ゆえにある種の不気味さを感じさせる。なまじ広いので住民は子供達が遊びで忍び込まないよう、中への立ち入りを禁じていたその屋敷から、突如轟音と共に白い光の柱が伸びた。

「ふぅむ、やはりこの手の魔法薬は分量の調整が難しいな。まさかここまでの大爆発が起こるとは」
「のんきに言っている場合か! 一刻も早く荷物をまとめるぞ!」
「何?」
「こんな爆発事故が起こってHOPEが捜査に乗り出さないわけが無いだろうが! もしシャーロットを押収されでもしたら私は……」
「素直に話して協力を仰いだ方が早いと私は思うのだがね」
「何をバカな事を言っているこのスットコドッコイ! 禁忌に属する研究であることは分かっているだろう! それに未完成とはいえシャーロットは私の持てる技術の全てを注ぎ込んだ、精巧かつ精密な魔法技術の結晶! 半端者が触って壊れたらどうする!?」
「なるほど、一理ある。では博士、研究成果を一刻も早くまとめて逃げる準備をするといい」
「……貴様はどうするつもりだ?」
「幸い、この洋館は万一に備えた隠し部屋、隠し通路が多数ある。急ごしらえではあるが、時間稼ぎの罠を仕掛けておく。それと、ついでに茶飲み話でもしてこよう。もし彼らが強行手段に出てきた場合は、倒してしまっても構わんのだろう?」
 何か余計なフラグが立った気がしたが、博士はあえてそれをスルーする。男の言動が自信たっぷりなのがかえって不安をかきたてる中、博士は指示通り逃亡の準備を進め始めた……。

 数刻の後。HOPE支部にて博士が予想したとおり、英雄たちが集められた。
「フランス郊外のとある洋館で、大規模な爆発が起きた。君達には現場に赴き、その原因を調査して貰いたい。なお、詳しいところは調査してみなければ分からないが、爆発直後のに極めて強力な魔力とライヴスの反応があったため、そこには能力者が存在する可能性が高い。重要な参考人であることが考えられるため、可能であれば事情の聴取、場合によっては確保も視野に入れてもらいたい。HOPE所属していないことは明らかだが、積極的に敵対して来ない限りは穏便に済ませて欲しい。私達とて、むやみに敵を作りたくはないからね」
 あくまで最優先項目は事故原因の調査である事を念押しした上で、研究員は能力者たちを送り出したのだった。

解説

 フランス郊外で起きた謎の爆発事故の調査です。重要参考人として能力者がいる可能性が高い旨は伝えてありますが、あくまで目的は確保ではなく、原因調査と今後危険がないように安全措置を行うことである事は留意してください。なお、中世から残っている洋館であり万一の逃走経路や、重要な物品の保管場所として各所に隠し通路、隠し部屋があるのでそれらを探すのが解決の糸口になるでしょう。
 建物は2階建て、ほかに地下室があります。左右対称の構造であり、1Fはロビー、厨房、書斎、地下室入り口、食堂、客間 2Fは応接間、執務室、2つの個室があります。
 中央ロビーの上には立派なシャンデリア、各部屋には趣味のいいカーペットなどがあり、時間稼ぎ用のトラップも多少設置されていますのでその点はご注意ください。

リプレイ

●洋館の英雄紳士
「能力者には変わり者が多いけれど、古い屋敷で謎の爆発を起こすなんて典型的過ぎて頭痛がしてきます」
 エステル バルヴィノヴァ(aa1165)がそんな愚痴をこぼす中、件の洋館の入り口にまでやってきた能力者一行。
 事前に入手しておいた屋敷の公式情報と実際の建物を見比べる。少なくとも、外観上での変化は1箇所だけだ。すなわち、2回の屋根に開いている大穴。外からだけでは、やはり状況の詳細は分かりそうも無い。
 人気がなく、警察の姿も見えないのにこれでもかと巻かれた立ち入り禁止のテープを無視して、入り口に立つ。一応、念のために谷崎 祐二(aa1192)を中心に洋館をぐるりと見回すと、裏手に乗用車が1台あった。。くよくタイヤ跡を見ると他にもありそうだが、目立つものはこれだけだ。容疑者に逃げられては困るので、速やかに破壊しておいてから、改めて正面玄関の扉をノックするカグヤ・アトラクア(aa0535)。
「消防署の方から来たものじゃー、爆発があったようじゃが無事かの? 無事ならばちょっと顔を見せてくれぬか?」
 平然と詐欺紛いの方法で接触を試みる。後ろめたいことがあるのなら、普通は警戒するはずだがその声かけに対して、やけにあっさりとドアが開き、一人の男が応じた。
「そんな大声で呼ばずとも聞こえるよ、フロイライン。爆発に関しては私の落ち度だがご覧のとおり怪我は無い」
 赤い髪と瞳が特徴的な、魔術師然とした長身の男だが、この洋館の状況を考えると、少々違和感がぬぐえなかった。フランスなのにドイツ語。更に怪我はない、と言っているが顔の左半分は道化師のような仮面に隠されている。
「なかなかに素敵な御仁じゃが、少々言葉に説得力が足りませぬな。その仮面は?」
「ああ、これは私のこだわり、とでも言うべきものだ。それに、説得力が無いのはそちらも同じではないかね? こんなフランスの片田舎に、能力者がぞろぞろと来ておいて消防署は無いだろう」
 男の言葉に緊張が走る。だが本人はいたって穏やかに、言葉を紡ぐ。
「私も諸君らの相棒も同じ英雄同士、気がつかないとでも思ったのかね?」
 ぐ、と言葉を呑む英雄達。
「ああ、だからと言って争うつもりは無い。さあ奥へ……安物で悪いが茶でも淹れてこよう」
 警戒していたところにこの対応で、拍子抜けしてしまうがそこは能力者。ロビーへと足を踏み入れた直後に、谷崎が罠師のスキルで罠の存在に気付く。起動のスイッチは、階段の手すりに仕込まれているようだった。
「何か罠があるようだが、普段からこんなものが仕込まれているのか? だとすれば、他にも罠を仕込んでたりするのか?」
「……お見事。他にも罠を仕掛けたのは事実だが、一応理由はある。私は別に話してもかまわないのだが、相棒が秘密主義の上に臆病でね、本来は君達の足止めを任されている。申し遅れたが、私はフランケンシュタイン。ドクトル・フランケンシュタインだ」
「やけに饒舌に話しますね。おおかた、仕掛けがあるのはシャンデリアでは?」
 事前に祖父の『探偵ハンドブック』を読み込んできた都呂々 俊介(aa1364)はびしり、と指摘する。何だか普段とキャラが変わっているが、気にしてはいけないことだろう。
「ほう? 何故そう思うね?」
「じいちゃんのハンドブックに依ればシャンデリラを落とさない犯人はモグリです。そして、人はなぜカーペットを敷くか? それは何か隠したいものがあるからです。床の汚れから死体まで、何でも隠すのです」
「うんうん、実に素晴らしい。実は私も最初はシャンデリアを落としてやろうかと考えていたんだ、だがそれではありきたりだろう? それに、カーペットの下に落とし穴、というのもなまじカーペットが上質なのでね、不発にならないとも限らない……そこで、だ」
手すりから伸びていた細い鋼線をフランケンシュタインがいつの間にか手にしていたナイフで切るとカーペットの四隅が浮き上がり、数人がすっぽり納まるような巾着袋が出来上がる。
「な!?」
「落とすのではなく、吊り上げてみることした。まあこんな具合で仕掛けは随所にあるが、君らをどうこうしようというつもりは無い」
「それは、邪魔をしなければ、ということですか?」
「察しがよくて助かるよ、少年。その通りだ。アレには悪いが、私は『シャーロット』にさえ手出ししなければ研究内容を明かしても、この状況の説明をしても良いと思っている。無論捕縛する、というのであれば全力で抵抗させてもらうがね」
 呆れるほど、協力的な姿勢を見せるフランケンシュタイン。だがそれ故に、彼らは気付いていた。この男は、時間を稼ごうとしていると。話に出た『シャーロット』とやらの安全さえ確保できれば、ほかのものはくれてやる。それに殺傷力はないが妨害の罠は揃っている、大人しく茶でも飲んで待っていろ、とこういうことだと。だが、それで大人しく待ってやる事もない、と判断し彼らは屋敷の調査に乗り出した。

●シャーロット
 フランケンシュタインは、本当に本命以外はどうでもいいと思っているのか、能力者たちの探索をそのまま放置した。だが、重要な参考人であることに加えて手分けして手薄になったところを逃げられては叶わないので、谷崎がピッタリと張り付く。
「やれやれ、どうせ見張りについて貰うなら見目麗しい女性が良かったね。こんな厄介ごとはさっさと片付けてドイツに戻って素朴でうまい食事が食べたい……」
「そりゃお互いさまだ。悪いが執務室を見せてもらえるか? できればついてきてくれるとありがたい」
 構わない、とすんなり了承し、谷崎は執務室の資料に目を通し始めた。
 一方で、1階の書斎を調べてた都呂々は、本棚の本の並びに違和感を覚えた。1つの本棚だけがやけに整っている。
「えてしてこのような古い屋敷には隠された空間があります。そこが! 犯罪の温床となるのです。恐ろしい事です」
 自信たっぷりにそう話しながら、本の並びを変えるとかちり、と音がした。そのまま横にスライドして隠し通路か、と思い1冊の本を押し込むと、視界が回転した。
「うわっ!? か、回転扉になっていたのですか……そして、これは……」
 隠し部屋の中には更なる本がぎっしりと並んでいた、その中身を見ると……。
「表は洋書ばかりであったのに、ここは世界中の資料があるようですね……エジプトに、日本に、中国……それに、この内容は……」

 一方、建物の外では包帯でぐるぐる巻きになった骸 麟(aa1166)が愚痴をもらしていた。
「うーん、エステルの奴人使いが荒すぎるぜ……」
 自分を連れてきたエステル バルヴィノヴァに文句を言いながら、周囲を警戒する。怪我をしている事を考えて、中に入るべきでないと判断したわけだが、おかげで彼女が真っ先に事件の原因らしい男の姿を見ることが出来た。大量の本屋実験器具を抱えて走ってくる男の姿を見て、すかさず身を隠す。
「なっ、く、車が!? こうなったらやむを得ん、少々シャーロットを載せるには狭いが、地下の予備車両を使うしかあるまい」
 40代ほどで、片眼鏡をかけた白髪交じりの茶髪の男。白衣が目立ついかにも博士然とした姿だ。やはり表の車両を破壊しておいて正解だった。そして、フランケンシュタインの時間稼ぎもこの場合に限ってはアダとなり、ほかに車両が脱出で来そうな場所は1箇所だけだった。裏口に、地下室の一部を改造したと見られる車庫があったのだ。さすがに最初見た時に車庫ごと破壊するわけにはいかなかったが、逃げ場がわかっているのだから埋めてしまうのは容易い。加えて博士は大荷物を抱えているのだから、運び出しの時間が徒労となることは、ほぼ決定事項になってしまったのだった。

 エステル バルヴィノヴァとカグヤは、地下室への扉を見つけて足を踏み入れていた。薬品の匂いに、空から差す日の光。ここが現場で、間違いはないようだ。だが、そこには不思議な違和感があった……空気が、そのままでは流れない構造になっていたのだ。危険な薬品類というのは、扱う上で換気が重要になる。にもかかわらず、穴の空いた上空以外密閉されている、というのは少々不自然だ。
 そこでカグヤは自分ならばどうするか? どこに空気の逃げ道を作るか? と考えて、部屋を見渡す。目に付いたのは、少々いびつな紋章が書かれた古い壁。
「……なるほどの、ここじゃ。恐らくカラクリ細工になっておる。古い洋館じゃと、物資保管と隠し通路作り放題じゃから、趣味人が色々やっておるからのう」
「ちょっと、見せてください。これなら、多分こことここが外れて、こうはめなおして……これで90度回転させるのではないでしょうか?」
 エステル バルヴィノヴァが仕掛けをとくと、扉が開き空気が流れ込んでくる。そして、その先には駐車場へ通じる道と、洋館に似つかわしくない重厚な扉があった。どう考えても正解はこちらだ、とカグヤが扉に手をかけると、その先に博士と『シャーロット』の姿があった。

●禁じられた研究
 美しい、少女だった。その肌は白磁のように白く、更に目を引くのが、夜の空を落とし込んだかのような美しい黒髪……だが、その瞳が開かれることはなく、その体は……存在しなかった。本来体があるべき場所には、銀色の光沢を放つ金属の骨組みと、幾多のチューブがあるのみ……シャーロットは、限りなく人間に近くある事を求められた、機械仕掛けの『人形』だった。
「なっ……!? フランケンは何をやっていたのだ!」
「もちろん、時間を稼いでいたとも。茶飲み話を交えつつ、な……アムリタ、お前は少々被害妄想が過ぎる」
「やかましい! とにかくシャーロットを連れて……」
「もう手遅れだ。車が2台とも潰されている、私が力を貸したとて、そう遠くまで逃げ切れるものではない」
「くっ……わかった、全て話そう。だが、シャーロットだけは……このままにしてくれ」

 ドクトル・フランケンシュタインの契約者……アムリタ博士は希代の錬金術師として、名を馳せたほどの技術者だった。彼は美しい助手と婚約関係にあったが、彼女は病であっけなくこの世を去ってしまった。
 理屈では倫理に反していることは分かっている……だが、愛する彼女を何としても取り戻したい。その一心で、アムリタは世界中の死者を蘇生させる秘術……特に、古代ヨーロッパ、古代エジプトのミイラ技術に目を付け、婚約者の魂を呼び戻すべく研究を続けた。10余年の月日をかけて完成した、その魂の『器』がシャーロット。つまり、彼にとっては愛する人そのものに等しい。
「なるほど、それを研究材料として押収されたのでは、たまったものではないな」
「じゃが、先の爆発でHOPEに疑いを持たれておる。安全措置は必須じゃな」
「今回は実は私の落ち度だがね……私はアムリタの姿勢と、その研究に興味があったから協力しているわけだが……今研究しているのはシャーロットの臓器に当たる『中身』だ。がらんどうの人形では動く事もままならない……だからこそ、駆動のエネルギーに使えそうな魔法薬の試作品を作ってみたのだが……」
「薬品の分量なり制御なりを誤ってこの騒ぎってワケかい。それならせめて、もう少し頑丈な建物で実験するべきだったね」
 カグヤはアムリタ博士の技術に感心しつつも安全措置を行うよう呼びかけ、事件の顛末に麟が呆れた声を出す。
 ただ、愛のためだけに禁忌に手を出す科学者。このあり方は、どこまで受け入れられるかわからない。だが、フランケンシュタインの裏はあれど紳士的な態度といい、アムリタの信念といい、彼らは単なる悪人ではない、ということだけは確かだ。

 今後の対応については上の対応を待つほかないが、ここまでの情報はすべてまとめた上で、能力者達は報告書を提出した。少なくとも、現状の『シャーロット』は無害な未完成の人形に過ぎない。それに、ただ純粋な愛情に対して、HOPEは非情な判断をしないと、信じたかった。
 自分達HOPE以外にも、ヴィラン以外にも、こうしたあり方を持つ能力者がいる……これは、これから先の自分達のあり方を問う上で、鍵になってくるかもしれないと、そんな思いが去来する中とうの博士達はまた争いを始めていた……今回はこのどこか憎めないコンビとの出会いが、最大の報酬かもしれない……。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192

重体一覧

参加者

  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 捕獲せし者
    骸 麟aa1166
    人間|19才|女性|回避
  • Foe
    谷崎 祐二aa1192
    人間|32才|男性|回避
  • 真仮のリンカー
    都呂々 俊介aa1364
    人間|16才|男性|攻撃
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