本部

プーホー業界マルハダカ第二回

昇竜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/04 13:59

掲示板

オープニング

「さあやって参りました、天宮すみよしのプーホー業界マルハダカのお時間でございます!」

 金曜夜のとあるチャンネルでは、ライヴスリンカー番組『プーホー業界マルハダカ』が放送されていた。この番組はまだまだ怪人的・超能力者的な偏見の残る『ライヴスリンカー』という存在を身近に感じてもらうことを目的として制作されたバラエティ番組だ。MCを務める天宮はシャイニーズ事務所所属のライヴスリンカーアイドルである。観覧席に集まったのは主に天宮ファンの女性たちだ。

「ここんとこ大きな事件続きで、みんな明るい話題が欲しかったんじゃない? 今日はパーッとやっちゃってくださいね! それで前回がちょっと編集大変だったみたいなので、今回は企画を1つに絞ってお送りしたいと思います!」

 巻き気味で喋る天宮の背後にシールボードが運び出されてきた。『本日の企画』と大きな見出しが付けられている。天宮はめくり口に指を掛けると、それを勢いよく剥がした。

「本日の企画はこちら、じゃじゃん! ビールプリーズ~! ……ってナニコレ。この番組の企画名は必ずダジャレにしなきゃいけないの?」

 説明しよう! 『ビールプリーズ』とは、ずばりバトルメディックのスキルとは何の関係もない。酒を飲みまくって一番アルコールに強いエージェントを決めようという座談会形式の企画である。この日のために番組が激選した酒各種とうまい肴が取り揃えられている。ゲストのエージェント達にはこれらを好きなだけ飲み食いしてもらい、最後に自己紹介をして一番まともなことが言えた奴が優勝である。

「大丈夫だいじょぶ、俺らっていざとなったら共鳴しちゃえばアルコール酩酊も無効化できるから! だから、共鳴して自己紹介中した奴は失格とします! あとはそうだな……ただ酔っぱらうだけじゃテレビ的に心配だから、希望者で賭けをしようか? 自分が何番目に潰れるか予想して、ギャラの1割を賭ける。見事的中すれば賭け金2倍! 前後賞は出戻り、外れた人の分は俺のポケットに入る!」

 観覧席は『え~?!』と言っているが、女性たちの表情は楽しみだ、といった感じだ。天宮はゲストコールを促すカンペを確認し。入場口を振り返る。

「それでは本日のゲストこちらの方々ですどうぞ!」

解説

概要
TV番組『プーホー業界マルハダカ』に出演し、番組を盛り上げてください。

番組内容
酒を飲んで酔っぱらったあと、適当な自己紹介をしてください。(未成年にはジュースが出ます)
収録は夕方です。自己紹介までの間は、つまみや酒の話題になります。
余興:自分が何番目に潰れるか予想してもいいです。的中すると報酬が少し増え、外れると減ります。


・ビール ・ワイン ・焼酎 ・ウイスキー ・日本酒 ・カクテル
……などなど。

つまみ
・枝豆、ポテサラ、冷やしトマトなどの居酒屋系
・オリーブ、チーズ、生ハムなどのお洒落系
・鍋、ラーメン、お粥などの〆系
……などなど。

リプレイ

●それでは本日のゲストこちらの方々ですどうぞ!

「ハーイ! キャス・ライジングサンネー!」
「うーす暁でーす」

 先頭切って登場したのは鴉守 暁(aa0306)を抱えたキャス・ライジングサン(aa0306hero001)である。どことは言わないが、キャスを一目見て皆こう思った……でけぇ、と。ここまでインパクトある入場をかましておきながら、手を振る鴉守は無表情だ。あっこいつらマイペースか……わずか数秒で誰もがそれを理解した。
 雨流 明霞(aa1611)はテレビ出演できるうえ、酒が飲めると聞いて得した気分だ。が、いざカメラを目の前にすると本業である会社員の同僚がオンエアを見る可能性が脳裏をかすめ、ちょっと恥ずかしいと思わなくもない。だが、彼女らは次の給料日まで節約中の身。飯食うついでにエージェントとして有名になれたら一石二鳥というものだ。含み笑いの召喚者に火神 征士郎(aa1611hero001)は苦笑いする。

「個人依頼とか受けられるようになれば懐も……くふふ♪」
「それはいいけど、お酒はほどほどにね。皆さんにもご迷惑だから」
「ん~他のエージェントさんとも、ここでお知り合いになれたら更に三鳥だね!」

 さて、MCは残る4人に大変ご執心である。顔は嬉しそうなのだが、口を開けば飛び出すのは嫌味ばかりだ。

「まず聞きたいんだけどさあ……そのへんは何なの、レギュラーとか狙ってるの? 特にあなた……今日もやる気なさそうなカッコしてんね。あっサヤちゃん今日はパーカー? 似合っててかわいいよ!」

 ツラナミ(aa1426)の顔色を窺いながら、天宮は彼の黒いタートルネックの襟をちょっと引っ張った。38(aa1426hero001)は紅い瞳に睫毛の影を落とし、上着の両腕を軽く抱く。

「最近少し寒い、から」
「そうだねー、最近めっきり……」

 天宮はゲストに着席を勧めつつ、スンと鼻を鳴らして高価な染髪料の匂いを嗅ぎ取る。やはりツラナミは今日も黒染めだ。見たところメガネも伊達だし、彼は本気で素性を隠したいようだ。今後は気を使わねばと、天宮は一人反省する。ツラナミは気だるげにローテーブルの端の方に座り、サヤに小声で語りかけた。が、ピンマイクはその会話を聞き漏らしはしない。

「また此処かよ……サヤ。今度此処の職員リスト持って来い。俺に書類送りつけてる奴のだ」
「分かった、とってくる……それで、どうするの?」
「どうにも。……仕事にならない間は」
「ちょっとツラさん、怖いコト言わないでってこないだも言ったでしょ。やめてもうザワついてるからっ」

 そういう天宮は声だけで全くテレビに映っていない。なぜならシュノギ(aa0854hero001)がカメラの前で笑顔を振りまいているからである。愛らしい姿に観覧席も感嘆一色、喚く天宮に浦見 真葛(aa0854)がにこやかに応答する。

「おい4カメ! 俺を撮れよ!」
「瞬間最高視聴率を稼いだ我が居ないと始まらぬじゃろ? ん?」
「浦見クンこの子化けの皮剥がれてんだけど! あなたまた掻き回しに来たの?!」
「そんなことないよー、ちょっと天狗になってる子もいるけど気にしないでー。タダ酒飲めて天宮ちゃんで……あっごめん間違った♪ 天宮ちゃんと遊べるって聞いてまた来ましたー♪」

 聞き捨てならぬ言い違えに釈然としない天宮だが、彼の友人の姿が見えないのでちょっと寂しく思ったことはここだけの話。とはいえ浦見のかわいそう(笑)といった顔つきには憎しみを禁じ得ない。

「にしても天宮ちゃんアイドルなのに身体張る仕事ばっかだねー」
「は、何のこと? 司会者が飲むわけないでしょ?」
「えー勿論参加するんでしょー? お酒弱いからとかチキったりはしないよねー?」

 天宮はこめかみに青筋をたてたが、この場は浦見を睨むのみに留める。その傍で枦川 七生(aa0994)は余興である酒豪番付について考えていた。天宮と目が合い、キリエ(aa0994hero001)は困ったように会釈する。

「ふむ……単純にアルコールに強い、となると体重の重い方が有利である、はずだが。しかしここで皆に体重を聞く訳にもいかんだろうし、尚且つ計算式は存在するが個人差の所が大きすぎる」
「……このセンセ、ひょっとしてプーホー気に入ってくれたの?」
「となれば単純に慣れている順に強い、と考えるのが妥当……なのだろうか、ふむ。年齢順、いや然し、加齢により分解機能が低下することも考慮すべきだろうな」
「先生、この番組気に入ったんですか、先生」

 思考で忙しい枦川に応答の余裕はないようだ。さて、と天宮は鵠沼 龍之介(aa1522)とその英雄三鷹 オサム(aa1522hero001)に向き直る。この強者をどう料理しようかとリキむ天宮だったが、三鷹が手にしているブロマイドうちわを一目見てはた、と動きを止めた。

「あれ? それ公式の、」
「そうだよ~♪ 天ちゃんの写真うちわ!」
「ああ、前回出演を切っ掛けにファンクラブに入ったらしくてな。……おい、あまりカメラに映るな恥ずかしい」

 天宮は思いがけず好意を示され、鵠沼の足元などを見て小さくお礼を言ったが誰にも聞こえなかっただろう。

●酒に酔う能力者をご覧ください

 ローテーブルを囲んだそばから、鴉守はビール瓶を取り上げてキャスと天宮のグラスに注いだ。きめ細やかな泡を浮かべ、キンキンに冷えたグラスが黄金色で満たされる。浦見はキャスにビールを注いでもらいつつ、完全に合コンのノリでアイスセットを引き寄せた。

「ホントに好きなだけ飲んでいいんデスカー? キャッホー!」
「あーあ、番組の予算大丈夫かなーこれー。おらー天宮ものめー」
「ち、ちょっとだけだからね」
「暁ちゃん何飲む? 作る作るー」
「あ、じゃカシオレください」

 その後ろで三鷹は景気付けにとシャンパンクーラーから一番高いシャンパンを見繕い、勝手にスパーンと開けた。観客席が『エー?!』と声をあげ、これに気付いた天宮は慌てて三鷹に詰め寄るがもう遅い。

「あなたって人は……それ飾りだよ! 一本いくらすると思ってるの!」
「まーまー天ちゃん、ホラ折角だしみんなものもーよ♪」
「では、僕も一杯頂いていいですか。先生も同じものはいかがです」
「ああ、任せるよ」

 枦川とキリエのグラスに淡いピンク色が注がれると、美しい泡が立ち上った。
 雨流は二十歳になったばかりだが、懐的に中々お酒を飲む機会が少なかったこともあり気合い十分といった様子でビールに手を伸ばす。英雄は酒に飲まれやすい彼女が心配だ。

「よーし今日は飲んじゃうぞ! 征士郎はお酒どうする?」
「ん、僕かい? 僕はジュースを貰うよ。飲めないことはないけど、テレビだしね」
「そゆこと。はい、火神サン。烏龍茶でよかった?」

 そこへ天宮がお茶を手に現れる。微笑みを絶やさぬ大人びた印象の火神だが、実は未成年である。火神にグラスを渡した天宮はもう一つをシュノギのところへ持っていく。彼が本当は何歳なのか知らないが、見た目からしてテレビ的に飲酒はNGだ。

「悪いけど今日はコレで」
「シュノは火神ちゃんに仲良くしてもらいなねー」
「ぐぬぬ……酒が飲めぬならば甘いものじゃ、甘い飲み物を所望する!」
「えー……分かったよ、オレンジジュースでいい?」

 天宮はぼやきつつもジュースを作り始めた。ジトーっとした金の瞳と目が合えば、それは口ほどにものを言う。ついでに後で大吟醸を貢ぐならば、うとうとする幼子の絵もくれてやる……と。天宮はこ、この天狗……と唇を噛むも、数字のためやむなく了承した。
 鵠沼はウイスキーを選び、ツラナミは酒燗機を引き寄せる。サヤが徳利を取り、ツラナミのぐい呑みを満たした。ツラナミも彼女に返杯する。彼は自分からは日本酒しか飲まないのだ。さて、飲み物が行き渡った。天宮の合図で、キャスが乾杯の音頭を取る。観覧席も声を合わせた。

「じゃあ早速!」
「カンパーイ!」

 グラスが高く掲げられ、酒盛りが始まる。誰もがぐいと酒を煽る中、枦川だけ手にしたグラスをそのままテーブルに置いたので、天宮は片眉を吊り上げた。キリエも同様に思ったらしい。

「ちょっとセンセ、少しでも口付けてから戻しなさいよ」
「そうですよ先生、それがベターです」
「うん? ああ、私も飲むのかね。そうだな、そう言えば私も対象なのだったか。私は飲酒行為はあまりしないのでね」

 枦川がマイペースにシャンパンで唇を湿らせる様子を見て、天宮が想像つかないといった表情でキリエに尋ねる。

「ねえこの人、お酒飲むとどうなんの?」
「酔った先生ですか? 本人も仰ってるとおり、あまり普段飲まない方なので。でもまあ、強くはないですね、弱……いや、人並み……かな。まあ害のある酔い方はしない方なので。さっさと潰れて寝て貰えるのが、僕は楽ができて良いんですけど……何ですか先生、つまみくらい自分で取って下さいよ」

 枦川がキリエに取り分けさせているピクルスだけでなく、テーブルには多彩な料理が並んでいる。雨流はチジミやソーセージなどお腹にたまりそうなものからパクパク食べ、お酒をぐびぐび。今夜はお腹いっぱいだ。それに対し隣の鴉守の手にはプリン。雨流は頬袋をパンパンにしながらも驚きを隠せない。

「夕飯代浮いちゃったね、にひひ♪ ……あれ、暁ちゃんはいきなりデザートですか? 唐揚げとかカナッペもありますよ?」
「いいじゃんかたいこと言わないー。私はこれ食ってからにするよー。でも海藻サラダとカキフライは食べるたべるー」

 鴉守はにへら、と笑って大皿を引き寄せた。実はこれ、酔わないための理想的な飲み方である。乳製品がアルコール吸収を遅らせるといった有名所のみならず、海藻はヘルシーなだけでなく肝機能を保護し二日酔いを防止する効果を持つ、牡蠣がアルコール分解を早めてくれるなど、様々な知識を言外に視聴者へ披露していたのだ。番組編集部によって、オンエア時これらの情報は『暁姉の豆知識』と銘打ってテロップに掲示されることとなる。こんな対策を練らずとも鴉守は十分酒に強いのだが、それ以上にキャスの肝臓は鉄であった。鴉守が彼女にカキフライを勧めた頃、彼女の周囲には既に空瓶が散乱していた。スゴい奴が来たとざわつく観覧席にも彼女はおかまいなしだ。

「ほらーキャスも食べなーおいしいよー」
「サンキュー! ビールもおかわりネー!」
「あ、グラスもーすぐ空だねー」

 合コン感覚の浦見はすぐに気が付き、ビールをキャスのグラスに注ぐ。鴉守が英雄のとんでもないハイペースに合わせてグラスに口を付けるので、誰もが彼女もかなり飲んでいるものと思い込んだ。しかしこれも技の一つ……実際に飲んでいるのは2、3回に1回で、残りは舐める程度である。そうでなければ酒といえばスピリッツ類が主流だという世界から来たキャスに合わせていられない。これは余談だが、浦見がチェイサーとして確保しているのは烏龍ハイと詐称したただのお茶である。これは『合コン豆知識』としてオンエア上で確認できるだろう。
 この間も三鷹はドンドン高級ボトルの栓を開けていく。誰彼構わぬ絡み酒で、ちゃんぽんがたたって既に茹で蛸状態だ。激しく飲み食いする雨流の顔色もそれに近い。4カメに見守られながらシュノギと戯れる火神は、予想通り高揚している召喚者に不穏な予感を抱いた。そしてそれは的中する。盛り上がった三鷹と雨流が酒豪番付の話題に及んだのだ。

「まぁ、オジさんの一番は決まってるよね♪ オジさんの魅力で全員メロメロに酔わせちゃうんだもん♪」
「え、賭け事? やるやる! これで当たったらさらに報酬倍増……にひひ♪ あ、ちなみに酔いつぶれは私が一番で~す!」
「って明霞、ダメだよ! 給金前で厳しいのにもし外れでもしたら……って、聞いてないよ彼女……」

 酔って冷静な判断がなせぬ雨流に、火神は天を仰ぐ。ただ意外とこういうのに限って撃沈までが長かったりする。声高に優勝を宣言した三鷹に対し、浦見と枦川は現実的である。

「僕は潰れないで残ってる人第3位かなー。僕がトリになっても面白くないしねー」
「この場合、恐らくより効率的な予想方法は、誰に勝てるか、ではなく、誰に勝てないか、ではないだろうか。浦見君、鵠沼君は若く、飲酒の経験も豊富そうだから恐らく勝てないだろう、ということから恐らく…三番、いや、四番だろうか……キリエ、言いたい事があるなら言いなさい」

 キリエは何か言いたげな顔をしたが口に出すことはなく、自称強い順に三鷹、2番がなくて浦見、枦川、5番がなくて最弱は雨流という予想結果となった。浦見がベットの出戻りを期待して天宮に尋ねると、彼はチキったなこいつという腹立たしい顔で応答する。

「外れたら賭け金は天宮ちゃんにいくんだっけ?」
「そうだよ。せいぜい頑張ってよね、第3位の浦見クン」
「……天宮ちゃんクラスのアイドルならさー、お金そのまま着服なんてしないよねー? とーぜん、みんなに還元してくれるよねー?」
「あはっ! 甘いよあなた、世の中は厳しいんだよ?」
「いやいやまーまー飲んで飲んで♪」
「あっちょ、やめて、僕そんなには」

 浦見は穏やかな笑顔で天宮のグラスに並々ビールを注いだ。彼は基本お酒を飲むより飲ませる方が好きなのだ。元々天宮ちゃんと酔ったら面白そーな人は全力で飲ませよー♪ と思っていた浦見の魂胆にはより拍車が掛かったようだ……。そんな中話題はつまみの方へ移り変わっていく。

「普段のつまみ? 家飲みだったら自分で作るよー簡単なのだけど。クリームチーズと鰹節合えたのをタクアンでサンドして七味かけると超うまいよー日本酒にも合う♪」
「それおいしそう。でも日本酒ってなんか……オッサン臭くない?」
「えーもしかして天宮ちゃん日本酒苦手ー? レモン絞ると飲みやすいよー良いやつだと勿体無いけどねー」
「ふーん、あなたお酒好きなんだね」
「んーお酒ってゆーか飲みの雰囲気が超好きー♪ 鴉守ちゃん次なあに?」
「あ、コーヒーリキュールミルク割りで」

 喋りつつも合コン猛者として酒量コントロールに命を懸ける浦見はグラスが空くのを見逃さない。鴉守の手はスモークチキンとチーズの皿と口を行ったり来たりしている。

「甘い酒は飲みやすいからペース早くなって酔いやすいんだよースクリュードライバーとか出されたら女性の方はきをつけてねー。それにしてもこの乾き盛りいいねーこれも手作り?」

 ここでも暁姉の豆知識炸裂、鶏肉や乳製品を摂取すると消化に時間がかかりアルコール吸収が遅れるのだ。そこへエージェント同士の親睦を深めるべく、鵠沼が一人ロックグラスをからりと鳴らしてやってきた。彼は自衛隊仕込みの体育会系飲みに慣れているためアルコール自体にはかなり強いが、男酒は酒の種類が焼酎等に限られる。キャスや浦見に悪ノリした鴉守に勧められ不慣れなカクテルなどを口にした鵠沼は普段より随分饒舌になったようで、彼の主婦じみた一面を見た天宮は思わず吹き出す。

「えっ料理得意なの?」
「フライドポテトに飽きたとき、チーズとベーコンで即席ポテトグラタンとかなら作るぞ……ワインの染み抜きもできる。自衛隊は装備の管理に厳しいからな」
「龍ちゃんほんとお母さんみたい」
「なんだそれは」

 天宮がこの鵠沼には愛称が相応しいと感じる程度には鵠沼は酔っている。もう少し酔っぱらうとダウナー系のスイッチが入ったりするのだが、それはまた次のお話。一方三鷹の方は雨流とひたすら盛り上がって二人でツラナミとサヤの憩いの場に突撃していた。彼らはもう脱落と判定していいかもしれない、げんなりするツラナミに無理矢理グラスを持たせ乾杯を要求するレベルで泥酔だ。

「ツラちゃんイエーッ! 今日もイケメンだネ、オジさんと杯とかいろんなもんを交わさない~?」
「しょおですよ~交わしちゃいましょうよツラちゃん~」
「ったく仕方ねぇな」

 ツラナミは一息で高級シャンパンを飲み干し、残念がる二人にしっしっして席に戻った。サヤが空のぐい呑みを慮って徳利を差し伸べる。ぬる燗で飲む日本酒は口当たりまろやかで、やはり一番美味しい。つまみは寄せ鍋と刺し身で純和風の趣深い。鍋をつつき、刺し身を一口、それらを酒で流し込む……まさに至福のひと時だ。

「あー……うめえ」
「うん、このつくね、美味しい……あ、ツラ、切れそう」
「ん、ああ。……これもいけるぞ」

 次々杯を空にするツラナミに、サヤがお酌をする。ツラナミがお礼のように鍋から白身魚と椎茸をサヤの取り皿に取り分けてやると、サヤはふわと微笑んで「……ありがと」と返すのだ。

「じ、邪魔できねぇ……!」

 天宮は離れた席で仕事帰りの飲み屋気分な二人に歯ぎしりしたが、注意する雰囲気でもなかった。ツラナミはザルかつ酒の飲み方をよく知っているので酔っぱらうほうが難しいのだが、サヤは酒の強さも人並みなら飲酒経験も豊富ではない。彼女が平気なのはツラナミがペースを見てやっているからだ。こんな仲睦まじいところへ三鷹は再三お邪魔していた。何度も勧められ、仕方なくシャンパンなどを飲んでいたサヤはある時点を境にあっという間に酔いが回ってしまう。驚いたことに酔ったサヤは普段より感情豊かになり、誰かれ構わず淡々と絡んで大変厄介だ。

「おいサヤ……その辺にしとけ。完全にダメな酔っぱらいになってんぞ」
「よってないもん。だいじょうぶだもん。だいじょうぶだからおさけのむ。ごはんたべたい。くえおら」
「あーはい。食べますはい。食べますから押し付けんな」

 収録が終わりに近づく頃にはサヤは制止に入られるほど観覧席やカメラマンにまで絡んでいた。このギャップは大いに微笑ましいクライマックスをスタジオにもたらす。ちなみにその頃三鷹はすっかり潰れ、天宮にしつこく膝枕をねだったようだがもうひと押しというところで力尽きたという。

●宴も酣ではございますが、自己紹介の時間です

「めんどいことは誰かに任せたいリンカーでーす。薀蓄だけはたくさんあるよーよろしゅー。あんまり酔ってない? いやー酔ってるよー?」
「ニャハハー! キャス・ライジングサンネー! 見ての通り牛追いとかやってるヨー! アナタのハートもね・ら・い・う・ち♪」
「キャスもかなり酔ってるなー、ミルクいるー? あっ胃薬とかウコンとかは食べる前に飲むんだよー食べた後じゃ効果薄いからねー」

 鴉守はにへら、とわずかに上気した頬を歪めた。さしものキャスも酔っぱらっているようだ。しかし、本日最後の豆知識まで余裕を持って披露してくれた。それがないのは浦見である。シュノギは内心情けないのうと思いながらも大吟醸のため、ほぼシュノギ専用状態の4カメに向かって眠たいふりをしていた。

「ちょっと浦見クンしっかりして! もう名前だけでいいから」
「んー僕の名前で二次会予約とるのー? えーとこの人数ならあの店なら個室あるし飲みほ付きだからー……」
「違うよ! どんだけ合コン脳だよ!」
「え、じゃあカラオケ? 違うの? んー、名前? 店の名前? えー……」
「浦見クン! ……って寝てるし。もー次いこ、センセお願いします」
「以前も言ったと思うが……枦川だ、他に何か、聞きたいことがあるのかね」

 枦川はゆっくりだが常に飲んでいた。口調はいつも通りながら、あまり視線が定まっていない。天宮も酔った勢いがあるので、茶化すように言う。

「えーセンセが答えてくれるの? なんでも?」
「私に答えられることならば答えるが……そう、そうだな、ならば私も同じだけの質問をしよう。何でも良いから、君の事を教えてくれ。私の知らないことを、私に教えてくれ。この、酩酊感というものは何度経験しても慣れないものだ、嫌いではないが、不安定だな。上手く知識を得ることができないというのは、なんとももどかしい感触だ。ああ、それで……それで、なんだったか、そう、君の事を教えてほしいという、話だな」
「アッ……ちょっとかわいい」
「眠ってしまいましたね……多分起きませんけど、寝かせてあげてください」

 天宮は瞼と戦う枦川をそれ以上からかうこともできず、キリエの言う通りそのまま収録終了までそっとしておいた。ツラナミの一言は例にもよって大変簡潔である。

「あー……そういやそんなんあったな。辛ナミです。以上」
「ダジャレかよ! でも面白いから許す!」
「うー……んだとこら、ツラぁ」

 腰巾着になったサヤをぶら下げ、ツラナミは動くのも辛そうだ。鵠沼の自己紹介は、床に倒れている英雄のおかげで必要以上の説得力があった。

「鵠沼龍之介、元自衛隊員の現H.O.P.E.エージェントだ。あー……賢明な諸君には次の言葉を贈る。お酒は飲んでも飲まれるな。いいな? 以上だ」

 というありがたい訓示のそばから酒に飲まれている雨流の自己紹介はひどくハイテンションだが、宣伝するのは忘れない。よっぽど切迫しているのだろう……。

「やぁやぁ、元気してますぅ皆さん~? わたし、エージェントの雨流明霞、こっちは相棒の火神征士郎ですよぉ。雨流古流剣術の使い手の私に任せればぁ、どんな問題も解決ぅ! なので、お仕事ください! どうか下さい! 精一杯働きますので!」
「み、みっともないから止めなよ明霞!」

 乞食のようにカメラを拝む雨流を火神は抱き起こそうと必至だ。観覧席は笑いが絶えず、大変面白かったと満足げだ。天宮もふわふわする頭で楽しかったなーと考えている。では酒豪番付の結果を発表しよう。雨流が真っ先に理性を失い、次に三鷹が気絶。それに浦見、枦川と続き、ツラナミと鴉守は最後まで正気を保っていた。

「んー的中は雨流サンと浦見クンとセンセだから、結果的には龍ちゃんの一人負けなんだけど……潰れたのはオジさんだからね。しょーがないから、賭け金は返してあげるよ。俺って優しいでしょ?」

 ……この放送は一般から大きな反響を呼び、サヤがツラナミの口に白菜と箸を捻じ込んだ瞬間の視聴率などは19パーセントの大台に乗った。また胃薬等を扱う製薬会社は次期CM出演を鴉守に打診しているらしい。なお、浦見家には番組から純米大吟醸酒が送付されていると思うので賞味されたし。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ようへいだもの
    鴉守 暁aa0306
    人間|14才|女性|命中
  • 無音の撹乱者
    キャス・ライジングサンaa0306hero001
    英雄|20才|女性|ジャ
  • モブ顔の王者
    浦見 真葛aa0854
    人間|23才|男性|攻撃
  • エージェント
    シュノギaa0854hero001
    英雄|11才|?|ソフィ
  • 学ぶべきことは必ずある
    枦川 七生aa0994
    人間|46才|男性|生命
  • 堕落せし者
    キリエaa0994hero001
    英雄|26才|男性|ソフィ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 家庭派エージェント
    鵠沼 龍之介aa1522
    人間|27才|男性|攻撃
  • カレーな防衛アルコール系
    三鷹 オサムaa1522hero001
    英雄|35才|男性|ジャ
  • 酒豪
    雨流 明霞aa1611
    人間|20才|女性|回避
  • エージェント
    火神 征士郎aa1611hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
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