本部

【いつか】数十年後の自分達

紅玉

形態
イベントショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2019/04/15 20:00

掲示板

オープニング

●懐かしい話
 魔王を倒し、誰もが安堵のため息を吐いた事か。
 そして、それを見守り、願っていた人々は歓声して脅威から怯えなくて済む世界になった事を喜んだ。
「皆様、お疲れ様でした! まだ、世界中に従魔や愚神は居ますが倒してしまいましょう」
 ティリア・マーティス(az0053)がエージェント達を出迎えると、笑顔で言いながら依頼書を眼前に突き付けた。
『ダメよ。今は、子供たちの戦いの傷を癒すのが先決なのよ?』
 アラル・ファタ・モルガナ(az0053hero002)がティリアを宥める様に言うと、エージェント達に向かって笑みを向けた。
『わが子達、まだやるべき事はありますが、その体を癒す為に休んでね』
 母の様に優しく言うと、エージェント達に自宅へ帰るように指示を出した。

 あれから――数十年後

 ヴィランは弱体化しても、暴れても、エージェント達の活躍により衰退していった。
 それでも、愚神や従魔が現れたりもするが、それもエージェントの仕事だ。

 とある英雄は、元の世界に返ったり、この世界に居続ける事を決めた。

 とある能力者は、日常に戻り、失った何かを埋めるかのようにやりたい事を始めた。

 とある英雄は、能力者と結婚して子供を授かった。

 とある能力者は、世界中を旅する為に静かに去った。

 アナタの未来は、どんな未来?

解説

【目標】
10年後、20年後……の未来

【お願い】
1PCの10年後、20年後、30年後と決めて下さい。
ただし、複数ではなくて一つの年代に決めて下さい。
十年後なら十年後のPCと。

【NPC】
冥人組:H.O.P.E.のロンドン支部に所属。
しかし、風の様にヨーロッパ各地と日本をうろついている様で、滅多に連絡も顔も見せません。
ティリア組:相変わらずオペレーターをしている。
もしかしたら結婚しているかも?(そういうPC様が居なければしていないかもしれません)

NPCに関しては、プレイングで結婚したいとか記載があれば対応可能です。
複数居た場合は、告白文とかプロポーズ内容で決めさせていただきます。

リプレイ

●踊る事は止めない
 10年後――
『ついにここまで来たね』
 百薬(aa0843hero001)がとある運命で出会った少女と餅 望月(aa0843)の2人と共に、自宅でティータイムをしていると突然言い出した。
「本当にね。サンドリオンも居て、色々と順調だよね。それに、いろんなところ回ったね」
 望月が感慨深そうに思い出を語り出した。
『スイスとモンゴルは美味しかったよ』
「あたしは北海道のが一番かな」
 と、話しているのはもちろん『プリン』の事である。
「そういえば、世界巡りしながらも移動手段が確保されればいつでも依頼に参加してたけど、圓くん達には会わなかったね」
 全てが終わり、サンドリオンという名の少女を英雄として迎えた頃に挨拶回りに来たのを最後に、それなりに仲良くしてくれていた圓 冥人(az0039)の姿や話をH.O.P.E.ロンドン支部で耳にする事は無かった。
『連絡がないなら無事にやってるってことだよ、彼は愛と癒しを理解している人物だよ』
 ぱくり、とサンドイッチを頬張りながら百薬は楽観的な事を話す。
「謎の人物評だけどあたしもそんな気がするね」
 望月は小さく笑みを浮かべると、こくりと頷くと焼きたてのスコーンにジャムを塗って頬張る。
『明日はどこに遊びに行くの?』
 指に付いたドレッシングをペロリと舐めると、百薬はふと思い出したかの様に聞いた。
「いや、お仕事だよ、ヴィラン組織は何故かなくならないのよね。イントルージョナーと友達になって向こうの世界へ旅行に出る方法を知りたいのに、やっぱりメインのお仕事は悪いリンカーの退治になるね」
 嘆息すると望月は、『同じ世界へ旅行に行きたい』と思いながら“未来”へのプランを彼女なりに考えているようだ。
『野良になった英雄が新しいリンカーを見つけたりしてるみたいね』
 不思議そうな表情で首を傾げながら百薬は、黒曜石の様な黒い瞳を窓の外へ向けた。
「みんなが百薬くらいならいいのにね」
 紅茶を啜りながら望月は口元を緩めながら言う。
『ワタシは英雄の鑑だから、それは難しいよ』
「いや、そこまでじゃないでしょ。明日もその先も、プリン代を稼ぐネタには困りそうにないね」
 百薬の言葉を即否定し、望月は端末を手に取るとH.O.P.E.本部からのエージェントへの依頼がずらりと並んでいた。
(そういえば、鶏鳴机のみんなとも、H.O.P.E.を引退してる皆はどうしているのだろうね?)
 ティリア・マーティス(az0053)はよく依頼で顔を合わせているし、久々に連絡を取って食事会とかしたいと思っているとスマホから陽気な着信音が鳴り響いた。
「ん? これは……! 百薬、急いで準備して! 出かけるよ!」
 スマホに送られてきたメールを読んだ望月は、勢いよく椅子から立ち上がると出かける準備を始めた。
『緊急な依頼か何か?』
「ううん! 明るい話だよ! ほらほら、間に合わなくなるから行こう!」
 百薬は望月の嬉しそうな笑顔を見て、察するとテーブルの上を片づけると自宅から飛び出した。
『あ、サンドリオンも呼ぼうよ』
「勿論! 10年ぶりの再会だよ。楽しみだね!」
 望月は集合場所を記載したメールを送信し終えると、目的地であるイギリスへと向かった。
「百薬は、消えていなくなる日は想像つかないな」
『ワタシの方が長生きするよ』
 移動している最中に望月が呟くと、年齢という概念がない天使である百薬は少し寂しそうな声色で答えた。
「それは確かに、そんな気がする」
 小さく笑い声を出しながら望月は、同意するかの様に言うと目的地へ着いた。
『あ! 祝いの品……スイスのプリンで良いかな?』
「ダメだよ。やっぱりここは、花束が妥当じゃない?」
 百薬が幻想蝶からプリンを取り出すと、望月はそれを制止して近くにあった花屋に駆け込んだ。
「さ、久しぶりに会って、話して、祝福しよう!」
『レッツゴー!』
 望月が言い終えた瞬間、百薬は遠慮なく教会のドアを開けた。

 きっと、二人と大切な彼女と共にこれからも生きて行くであろう。

 笑って、泣いて、怒って、そして――

 幸せに最期を迎えるその時まで。

●繋がっていたアナタとの想い
 もう10年、あれから日本にある東京海上支部からロンドン支部へ移籍して、母国であるイギリスへ帰った花邑 咲(aa2346)は教会の孤児院に勤めながらエージェントとして生活している。

 一つの想いを胸の中に仕舞って――

 子供達からは姉の様に慕われており、不満なんてなく逆に楽しくて何時も笑顔になる程だ。
「ちいママーあそんでー」
 年少組の子供達が咲を見つけると駆け寄って、無邪気な笑みを向けながら小さな手で腕を掴む。
「ごめんね。今は忙しいから、後で良いでしょうか?」
「うん、ちいママ。あとでね」
 咲は目線を合わせて言うと、子供達は素直に頷くと約束だけして庭へと駈け出した。
 “ちいママ”つまり“小さい母”や“若い母”という意味合いで子供達はそう呼び、年長組からは“咲ねぇ”と姉として慕う呼び方に変わる。
 全てを見届けたサルヴァドール・ルナフィリア(aa2346hero002)は、全て第一英雄に任せて元の世界へ帰った。
 周りから『結婚』という言葉が出される度に咲は、冥人の顔が脳裏を過ぎっても笑顔で首を横に振って誤魔化す。
「シスター、こちらの仕事は終わりましたからそちらをお手伝いしますねー」
 懺悔室の掃除を終えた咲は、キッチンで作業をしているシスターの隣に立つと笑顔で言って手伝い始めた。
 ふと、10年前に元の世界に返ったサルヴァドールののんびりとした笑顔を思い出すが、咲は彼が『幸せに過ごしていいると良いな』と思いながら手伝う。
『咲、お腹、空いた』
 ひょっこりとキッチンに成長した弩 静華(az0039hero001)が顔を出すや否や、胃から虫の音を響かせながら言う。
「お帰りなさい。静華さん、あら冥人さんは?」
『礼拝堂で、呼んでる』
 咲の言葉に静華は表情を変えずに答えた。
「もう終わるから行ってらっしゃい」
「では……」
 シスターの言葉に甘えて咲はキッチンから出て行くと、礼拝堂へ早足で向かった。
『素直じゃない……もう、彼は居ない、だから譲る』
「分かるの?」
 シスターが優しい笑みを浮かべながら問うと、静華は『咲より子供じゃないから』と言って笑った。

「あ、冥人さん、お久しぶりです! 子供達も待ってたみたいですよー」
 礼拝堂の椅子に座り、太陽の光がステンドグラス越しに差す中で相変わらずの冥人が視界に入ると、咲は思わず胸を撫で下ろした。
「今回はどの辺りを回られたんですか?」
 隣に座り、見上げると咲は小さく首を傾げた。
 嬉しい感情が溢れる。
 それは、冥人がH.O.P.E.の依頼でさえ中々会えない事が多くなってから、咲は自身の気持ちに気付いた。
 だけども、困らせたくないから、今の関係を崩したくないから、と自分に言い訳をして、告白する様な事はしない。
「そうか……」
 元から距離は近い、それは咲の元々そういう行動が多かったが、吐息が感じる程に冥人が顔を近付けた。
「ふふ、近いですよ?」
 思わず胸元で手を握り締めると咲は、小さく笑い声を洩らしながら見詰めた。
「選択を……咲が望む方を選んでね」
「選ぶ……?」
 冥人の言葉に咲は首を傾げた。
「ずっと会えないか、ずっと一緒に居るか」
「……っ!」
 壊れるんじゃないか、と思っていた。
 困らせるんじゃないか、と感じていた。
 自分の一方的な想いだと、思いこんでいた。
「いて、下さい」
 胸が苦しくて咲は、上手く言葉を発せれなかった。

 過去の自分が、悪夢の中の自分が、『もう、失わないで!』と叫んでいたから――

 目の前の温もりに甘える様に抱き締めた。
(素直じゃないねぇ)
(うんうん、素晴らしい愛だね!)
 その二人を教会のドアの隙間から望月と百薬は見ていた。
 静華から送られてきたメールを読んで、勢いだけで来た二人は思う。
 後で盛大に祝おう、と。

 それから、サルヴァドールの方は――

 本来ならば咲の最期まで見届ける予定だったのだが、『翡翠の翁! 帰ってきてくださいぃぃぃ』と元の世界から声がしたので渋々ながらも帰った。
 それから早30年。
『お嬢はどうしているだろうか』
 サルヴァドールは30年間、第一英雄と咲を思わない日は無かった。
 “いつまでも健やかであれ”と願いながらも、一つ思う事があった。
(出来るならお嬢の晴れ姿を見たかったが……いや、そもそもお嬢はあの思い人に思いを伝えられたんじゃろうか?)
 本来ならば友人である静華と共に手を貸したかったが、今は出来ない立場であるサルヴァドール。
(まあ、何にせよお嬢が幸せであれば良い……お嬢の話はアイツが帰ってきた時に聞くとするかなぁ)
 自分とは違い、思う誰かが居ない第一英雄は元の世界へ帰る時にサルヴァドールと約束した。
 “帰ってきたら、サキの話を全部しましょう”と。
『アイツはお嬢の最期まで共に過ごすと言っておったからの。あぁ……楽しみじゃなぁ……』
 まだまだ先の事ながらもサルヴァドールは、自然が広がり海の様に何所までも広がる青い空を見詰めながら笑みを溢した。

●目指し求めたモノ
 長年の目標であった医師となった桐ケ谷 参瑚(aa1516)は、実績や学会発表を重ね、医療界で注目され評価されるようになって多忙な日々を送っていた。
 その傍らで海外の慈善活動も行い、貧困の中で傷病に苦しむ人を救い、或いは無念に涙した事もあった。
 救いたいと願っていた植物状態の双子の兄は、遂に目覚める事はなく若くして生涯を閉じてしまった命。
 切望しても救えなかったからこそ、自分と同じ苦しみや辛さを持つ人をいつか救える為の手段を確立しようと、日夜様々な技術を意欲的に学び、臨床経験を重ねていた。
『一旦休憩しな。根詰め過ぎだ』
 20年経った今でさえ契約当時から見た目は変わって無い巳勾(aa1516hero001)は、甘くしてミルクを入れた珈琲が入ったカップを参瑚に手渡した。
「んー……あんがと……あー、もうこんな時間」
 甘いミルク入りの珈琲を口にしながら参瑚は、ふと腕時計に視線を向けると少し疲れた様子で息を吐いた。
『休む時にちゃあんと休んどきな。医者の不養生たぁよく言ったもんだが、いざって時に手前がくたばってちゃあ救える命も救えねぇわな』
 参瑚の最期まで付き合うと決めた巳勾は、大きな手で小さな頭を包み込むように優しく、そして励ますかの様に強く撫でた。
「子供扱い止めてよね。もう巳勾とそんな歳変わらないんだよ、俺」
 38歳、人すれば大人である参瑚は、エメラルドの様な緑色の瞳を巳勾に向けながら不服そうに言った。
『粋がるんじゃねぇよ。俺っちにとっちゃあまだまだガキと変わるもんか』
 蛇神である巳勾は、参瑚よりも遥かに長い月日を生きているのだから、たった人の38年は指先で測れる程に短い。
「そうだね、まだまだ学ぶべき事は沢山ある。先人に比べれば、俺なんてまだひよっこだ」
 今の医学があるのは昔の人々が努力し、解決しようと勉めた結果だ。
 その1人にもなりたくあり、自分の手で諦めていた人々の顔を笑顔に変える為に参瑚は小さな手を握り締めた。
『人生は果てのない旅みたいなもんさ。自分がここで終わりと決めりゃあそれで仕舞い、だが休んだって目的地は遠ざかる訳じゃあねぇ。焦らねぇこった。俺っちも見てみたいのさ。人間が何処まで、不可能を可能にできるかをな』
 英雄として現れる前は、所謂赤ひげのような存在であり、定住せず傷病に苦しむ様々な人々を救い歩いた医師だった。
 その経験と知識を以って参瑚を支援し、共にこの世界での医術の発展に寄与する身としては可能性を見届けたい。
「……うん。ちゃんとついて来いよな巳勾。ぼやぼやしてると置いてくよ」
『合点承知よ』
 あの頃より成長した参瑚を見て、巳勾は口元を釣り上げて笑みを浮かべながら力強く答えた。
 参瑚が目指している道は、険しく、困難かもしれない。
 だけども、彼には医師としても家族としても最も支えてくれる英雄の巳勾が傍らに居る。
「あと少しだけ進めてから休むよ」
 再びキーボードに手を添えながら参瑚は言うと、軽快にキーを押す音が響き始めた。
『時間になったら無理矢理にでもベッドに寝かせるからな』
 と、言って巳勾は、飲み終えたカップを手にして部屋から出た。

 彼らは走り始めてからまだ序盤だ――

●更にその先へ
 赤城波濤流の免許皆伝を受けて20年弱、赤城 龍哉(aa0090)は鍛えた肉体と磨き上げた技、そして王を退けたエージェント達の一人として頂点の一角をとして籍を置いている。

 だが、やはり歳を取った人間――

 龍哉自身、全盛期から劣って来たのを感じた。
 彼自身は既に結婚もしており、子供達も立派に成長したものの素質は無いが父親に憧れたのかは分からないがH.O.P.E.東京海上支部の職員として仕事を選んだ。
 ならば、と決意をした龍哉に対し、妻は夫の気持ちを表情から察したのだろう。
 「貴方が決めたこと、子供達ももう大人ですから……」と、言って他の世界に行って帰れないかもしれないのに家を出る時は、何時もと変わらぬ笑顔で見送ってくれた。
「自分が満足できる動きが出来なくなるってのはもどかしいもんだぜ」
『ではここまでにしますか?』
 別の世界へ行く前に手合わせをしていた龍哉は肩で息をしていると、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)は契約した頃と変わらぬ姿でじっと見つめた。
「冗談抜かせ。まだ終わってたまるかよ。それを言うなら、これから行く世界。お前が居た場所だろ」
 額から頬を通り顎から滴る汗を拭いながら龍哉は、視線だけ向けながら言った。
『戻った記憶が確かなら、そうなりますわね。ですが、私は自分から誓約を破棄することはありませんわ』
 涼しそうな表情のままヴァルトラウテは答えると静かに首を横に振った。
「そうか。ならまだまだ付き合って貰うぜ」
 と、笑顔で言いながら龍哉は手を差し出すと、ヴァルトラウテは小さく笑みを浮かべながらその手を取った。
 もう、第二英雄として契約したのは何人だったのだろう?
 弟子に第二英雄を与え、ヴァルトラウテが記憶を取り戻して元の世界の話を聞いてからこの時を待っていた。
『元の世界につながっている場所は、H.O.P.E.のゾーンブレイカー達が閉じているそうですわ』
「だから、閉じる前に行くって話だろう?」
 荷物は幻想蝶に入れて貰っているのでほぼ手荷物はない、着替え終えた龍哉はヴァルトラウテと共に他の世界に繋がっている裂け目の所へ向かう前に、戦友達に最後かもしれない挨拶をしに駆け出した。
「え、帰ってこれないかもしれないの!? でも、元気でね」
『愛は世界を超えても、だね!』
 望月が驚きの声を上げている一方で、百薬は奥さんが送り出した事に関して相変らずの反応をした。
「そうか、俺自身はそろそろ退き際かも知れんな……と思っててな」
 少し残念そうに言う御神 恭也(aa0127)は、衰えつつあるからこその決断をいていた。
『まだ、現役で居られると思うんだけどな~』
 残念そうに伊邪那美(aa0127hero001)が言う。
「もしかしたら戻らねぇかもしれんが、また会った時は酒でも飲もう。またな」
 と、友に言うと龍哉は、若い頃と変わらぬ不敵な笑みを向けると別れた。
「さて、それじゃ行きますか」
『ええ参りましょう。戦乙女ヴァルトラウテの見込んだ戦士がどれほどのものか、我が主神にもお披露目ですわ』
 寂しくもあり、新たな世界に胸を躍らせながら龍哉は、ヴァルトラウテと共に彼女の世界へと旅立った。

 ありがとう、そして――

●次へと継ぐ
 前に聞いていた、けれどそれは実際に言われるのはやはり驚く。

 友を見送ってから約一ヶ月が過ぎた――

『引退?』
 恭也の唐突な言葉に伊邪那美は目を丸くした。
「ああ、戦えない程までは衰えていないがそれも時間の問題だ」
 あまり見た目は変わらない恭也ではあったが、若い時に負った傷のおかげで依頼がこなせないからであった。
『まだ五十になったばかりでしょ? 少し早いと思うんだけど……』
 と、伊邪那美自身はそれに気が付いてない。
 それよりか、まだ若いと感じる程だ。
「四十後半だ。それに加齢による衰えよりも過去の戦傷から来る物の方が酷くてな……」
『そっか……引退した後はどうするの?』
 残念そうに伊邪那美は息を吐くと、恭也がエージェントの引退した後の事を問う。
「先ずは自身の身辺整理だな。伊邪那美は既に息子に契約を譲っているから良いとして、今まで使っていた武具とあいつとの契約をどうするか」
 と、先に話題が出たのは第二英雄の事だ。
『武器とかはボク達が引き継いでも良いけど、契約はね……他の子で継ぐ意思があるのは?』
 恭也の息子が既にエージェントとしてH.O.P.E.に籍を置いているのは、伊邪那美と契約しているからだ。
「残念ながら皆無だ。前ほど物騒な世の中じゃないからな」
 愚神も従魔も王を倒した以降、弱っていく一方でヴィランも活動していた組織は減ってチンピラと呼ぶレベルの者がたまにいる位だ。
『なら、無理に後継者を探すのは止めない? 長年一緒にいて家族って言っても良い間柄なんだしさ』
 伊邪那美は、第二英雄の性格を良く知っている一人として提案をする。
「そうだな……一応は探してあいつの目に留まる相手が居ない時は、このまま契約を継続するか」
 同意するかの様に頷きながら恭也は、完全に引退するまでは探して無理ならば――……と考えが決まった。
『それで、その後はどうするの? 悠々自適な毎日? 流石にボケる気がするけど』
 隠居生活するにはまだ若いであろうと、考えた伊邪那美は引退後にどうするのかを問う。
「いや、この歳で子供に養って貰う無職になるには早すぎるからな。一応、後進の育成の為に教導員になるつもりだ」
『えっと……ボク等はもう育成される側じゃないよね?』
 恭也の言葉を聞いた伊邪那美は、おずおずとしつつも聞き返した。
「心配するな。お前達にはまだまだ伝えたい事があるからなみっちりと教導してやる」
 気付いていないからか、それとも伊邪那美の思考を知っているからか恭也は即答した。
『もう終わりだよ……ボク等の平穏な日々が、地獄の日々に』
 伊邪那美は小さく悲鳴を上げ、能力者である恭也の息子とまたしごかれると思うと顔から血の気が引いた。
「少し早いと言ったのはそっちだろう?」
『いや、あれはエージェントを引退する事で……』
「現場からは身を引く意味で、だからな」
 覚悟しろ、と言わんばかりに恭也は伊邪那美と息子に視線を向けた。

 新たなエージェントとして、これからのH.O.P.E.を担う為に――

●来世でも誓う
 長い、長い、人としての旅路。
 気付けば、60を超えて……共に戦ってきた仲間は別の世界へ旅立ったり、引退して次の世代を担う者の育成をしたり、と様々な“次へ”を見届けた。
「……思えば遠くに来たもんだ、ってか」
 ぽつり、と麻生 遊夜(aa0452)が呟いた。
『……ん? どうしたの?』
 共鳴中のユフォアリーヤ(aa0452hero001)は小さく笑い声を出しながら問うた。
「いや、時間が経つのは早いな、と」
 愛銃担いで戦場を見渡しながら遊夜は、独り言の様に呟いた。
『……ん、最近の口癖だねぇ……もうそろそろ、引退?』
 王を倒した後も戦う事も止めず、むしろ成長した子供達でエージェントとなった子達を率いて続けている。
 孤児院の子供達も大人になって旅立ち、よく帰ってきてくれている。
「いやいや、まだまだ若い奴らに負けるわけにはいかんからな」
『……ん、肉体改造……上手く行った、やっぱり……継続は力なり、だね』
 H.O.P.E.内では狙撃手として右に出るものは居ない、と言われている遊夜はその座を譲るワケにはいかない。
 健康診断での誤報を機に今まで以上に健康に気を使い、体を鍛えてきた結果だ。
「うむ、ガキ共の動きも良い。やはり体力こそが基礎だな」
 遊夜が未だに暴れるヴィランを狙撃して、子供達に指示をして報告を聞きながら行動をスコープ越に見ていた。
『……ん、息切れしたら……コンディションを、維持できないから……ね』
 同意するかの様にユフォアリーヤも共有している視界で子供達を見つめていた。
『……体が動けば、逃げる時間が増え……他の手を打つ、余裕も増えて……その分だけ、救助の手が届く……だっけ?』
「うむ、一分一秒の差が致命的だったことなんてざらだからな」
 ユフォアリーヤの言葉に遊夜はこくりと頷くと答えた。
『……ん、体力は大事……だね、うん……とても』
 と、既に三つ子を身籠っているユフォアリーヤは、出産の度に体力が必要な事を思い出して同意するかの様に頷いた。
 彼女は狼の半獣であるからか、多産である為に基本は三つ子であった。
 なので、二人の実子は世界記録と同じ69人と大家族であるのにも関わらず、孤児院の子供も実子と変わらぬ愛情を注いでいるの実際はもっと多い。
「……俺はそろそろ自分自身が怖いんだが」
 努力で得た健康体で遊夜は、64歳になってもエージェントとして活躍しているその事に少し恐怖を感じた。
『……ん、大丈夫大丈夫……何の異常もない、健康体の……人間、だよ』
 共鳴して感覚が共有しているユフォアリーヤは、クスクスと笑いながら安心させる返事をした。
 でも、もし二人を死というモノで分かたれても、繋がりは消して消したくない。

 来世でも、またその来世でも、君を愛してると誓う。

 この出会いは、必然なのだから――

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 助けるための“手”を
    桐ケ谷 参瑚aa1516
    機械|18才|男性|防御
  • 支える為の“手”を
    巳勾aa1516hero001
    英雄|43才|男性|バト
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346
    人間|20才|女性|命中
  • 想いは世界を超えても
    サルヴァドール・ルナフィリアaa2346hero002
    英雄|13才|?|ソフィ
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