本部

【いつか】喫茶店『Sigh』の日誌

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~15人
英雄
7人 / 0~15人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2019/05/06 19:29

掲示板

オープニング

※注意
 このシナリオは、リンクブレイブ世界の未来を扱うシナリオです。
 シナリオにおける展開は実際にこの世界の未来に存在する出来事として扱われます。
 参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。

●親子喧嘩?
「一香! 今日の訓練は何?! 私はゆっくり力を確かめろっつったでしょ!?」
 頼んだハーブティーに手を着けず、レティ(az0081hero001)は対面の碓氷 一香に怒鳴りつけた。
「お母さん、声大きい。行きつけのお店を出禁にされたくないから静かにして」
 対する一香は涼しい顔でレティをたしなめ、カフェラテの甘い味わいにホッと一息。
 見た目はH.O.P.E.職員と高校の制服を着た同年代の少女2人だが、話す内容から親子であるらしい。
「結局は心配してた暴走もなかったじゃない。というか、私はまだまだ余裕あったよ?」
「そういう問題じゃない! 私の力は危険だって、静香たちからも聞いてたでしょうが!」
「だから手を抜けって? いつもは『何事も本気で取り組め』ってお母さん言ってなかった?」
「慎重にやれっつってんの!」
「お母さんのそれは臆病っていうんだよ」
 赤いツインテールを逆立てる勢いでヒートアップするレティへ、間髪入れず一香が無表情で反論する。
 まるで碓氷 静香(az0081)の顔をした佐藤 信一(az0082)を相手にしているようで、レティは歯噛みした。
「エージェントになったからって、自分の力を過信するな! 痛い目を見るのはあんたなんだからね!」
「逆に訓練の内から痛い目を見て、限界を知れるならラッキーでしょ。実戦で慌てるよりずっとマシだよ」
「一香っ!!」
「――パパとママのこと、まだ気にしてるの?」
 なおも言い募ろうとしたところで、レティは一香の一言で冷や水を浴びせられたように口を閉じる。
「職員さんや先輩たちからも話は聞いたよ。当時の報告書も読んだ。あれは事故。お母さんのせいじゃない」
「…………」
「それに、パパもママも『お母さんのせいで死んだ』なんて思ってないよ。最期は2人とも、笑ってたから」
「……でも、やっぱり、私の力が、一香の体も壊すんじゃ、って」
「そのトラウマを解消するためにも、【笑顔になれる力になる】って誓約にしたんじゃなかった?」
 うつむき黙り込むレティを見守り、一香は空になったティーカップをソーサーに置いた。
「過保護になるのもわかるけど、私はいつまでも弱くないよ――パパとママと、お母さんの子どもだから」
 凪のような表情と、力強い意思を瞳に宿した言葉。
 葛藤に拳を握り、やがてレティは背もたれに体を預けた。
「……ほんっとに。その強気な性格、いったい誰に似たんだか」
「お母さんじゃない? うちはしつけが厳しかったしね~」
 屈託のない笑みを向けられ、レティは緊張した体から力を抜いて冷めたハーブティーを口にする。
「……美味しい」
 リラックスする香りが鼻を通り、ようやく微笑を浮かべる余裕が生まれた。



●『Sigh』20年の軌跡
「昼間の女の子たち、喧嘩にならなくてよかったですね」
「あの子たちは古い常連さんですから、乱暴なことはしないと思ってましたよ」
『Close』の札がかかった店内で、『Sigh』のバイトとマスターが後かたづけをしていた。
 店内清掃を終え、明日の開店準備をしているところでバイトが業務日誌を書き終える。
「……そういえば、お店の日誌ってかなりたまってますよね?」
「開店した日から残してますからね。ですが、そろそろ整理した方がいいでしょうか?」
 すでに紙とペンの筆記用具が骨董品扱いになって久しい時代で、『Sigh』の日誌は紙製で手書き。
 文字の乱れは心の乱れ、と研修時にしごk――教えられる伝統のようなものだ。
「確か、20年以上前に一度お店が吹き飛んだんですよね? それ以前の日誌、よく無事でしたね」
「相手の攻撃能力を分析して軌道を誘導すれば、被害を抑えるのはさほど難しくありませんよ」
「……サヨウデスカ」
 深くつっこむのを諦め、バイトはマスターと古い日誌を抜き出し移動させる。
「――おや、懐かしいですね」
「どうしました?」
 ふと、日誌の中身を改めていたマスターがページを止め、バイトがのぞき込む。
「ここはH.O.P.E.支部とご近所なのでエージェントの方もよく来店されて、印象深い出来事も多いのですよ」
「へぇ。ちょっと面白そうですね」
「整理ももうすぐ終わりますし、ちょっと読んでみますか? ああ、もちろん内容は口外禁止ですからね?」
「――承知しております!」
 一瞬、好奇心で殺されかけた猫の気分を味わった後、バイトはパラパラと20年前の日誌に目を通した。


解説

※子孫の登場
 このシナリオでは、PCの子孫(実子または養子、孫など)を一人だけ追加で登場させることができます。
 追加で登場するキャラクターは、PCとして登録されていないキャラクターに限定されます。
 子孫の設定は、必ずプレイング内で完結する形で記載してください。

●場所
 H.O.P.E.東京海上支部の近くにある、老舗風で味がある喫茶店『Sigh(サイ)』
 内装はアンティーク小物などが多く、控えめに落ち着いたBGMが流れた癒し空間を演出
 コーヒー・紅茶・緑茶・中国茶・ソフトドリングなど飲み物系は評判が高いが、軽食メニューに難あり

●登場
・マスター
 常連客でも年齢・経歴不詳のナイスミドル
 かなり高齢のはずだが、所作は20年前と変わらず異様に若々しい
 コーヒーや紅茶などを淹れる技術は超一流だが、軽食は10年前から『臨死体験』を可能とする域に

・バイト店員
『Sigh』で働く10~20代の若者(ほぼ9割が前科持ち)
 マスターの研修で年齢不相応に丁寧な接客を見せる反面、研修内容を思い出すと発作で倒れるらしい

・碓氷 一香
 15歳の女子高生エージェント(登録名:佐藤 一香)
 信一・静香の死を周囲の助けで立ち直り、生前に聞いたエージェントに憧れレティと誓約
 新米ながらレティの力を完全に制御する天才肌

・レティ
 一香の英雄
 10年前に前誓約者の静香と信一が死去後、佐藤家と協力して一香を育てる
 中学3年生の一香から強い希望を受けて再誓約【笑顔になれる力になる】

●利用法(プレ指定項目・注意点など)
 リプレイ描写は基本的に店内の言動のみ(噂などの形でNPCに後日談を語らせるのは可)
 他PC・NPCとの絡みは名指しで行い、PC同士は事前相談を推奨→偶発的遭遇はなし

 PCの来店年数・具体的エピソードは記述推奨
(例…2年後・プロポーズ作戦会議、10年後・友人と近況報告、20年後・子どもたちと交流お茶会など)

リプレイ

●1年後――

 ――カランカラン

「信一さん、静香さん、レティさん! お久しぶりです、由利菜です」
「カリメラー! ウィリディスだよ! フルーツパフェとアイスティー二人分、お願い♪」
 入店した月鏡 由利菜(aa0873)とウィリディス(aa0873hero002)は、信一たちのテーブル席に座った。
 近況や過去の依頼を思い出話に花を咲かせ、ウィリディスがパフェの『辛さ』にむせつつ会話が続く。
「実は……リディスとの一時的な強制契約解除が、度々起こるようになりました」
 しかし、由利菜とウィリディスがふと空気を変えた。
「引き金は愚神の『王』の顕現と撃破で、以降は制御不可能な状況が続いています」
「ユリナと恋人になった先生の誓約術が、あたしの誓約術を排除しようとしているのが原因らしいんだ」
「H.O.P.E.に相談は?」
 深刻な悩みと受け止めた信一の質問に、2人は嘆息する。
「いずれ私と第一英雄は共鳴解除が不可能になり、完全に融合する可能性が高い……そう、診断されました」
「……ユリナと先生の絆と愛は強くなりすぎて、二人の融合化は今の技術じゃ止められないみたい……」
 由利菜は信一たちが入院した事件の当時と現状を織り交ぜつつ、未来に思いを馳せる。
「私も彼女も、この運命を後悔はしていません。愛する人と、永遠に――永遠に、一緒にいられるのですから……でも、それはリディスが存在を維持し続けられることが前提です」
『再誓約を頼める人は?』
「複数の魂から生まれたリディスと同調できる能力者は、私だけでした……」
「英雄との相性は、完全に個人差ですからね……」
「あたしとユリナは、永遠に親友だよ。シズカさん達も……ずっと、三人で仲良く一緒にいて欲しいな」
 レティや信一との応答から由利菜は肩を落とし、ウィリディスの笑顔もどこか陰る。
「英雄と同様、異世界に『もう1人の月鏡さん』が存在すれば解決できそうですが……」
『無茶言わないでよ、静香……』
 静香の荒唐無稽な案にレティは呆れるが、由利菜の反応は違った。
「私と同じ同調パターンの能力者プログラムを、高純度のライヴス結晶に組み込めれば……? たとえば、英雄単独での疑似契約を可能にする『契約石』……試す価値はあるかもしれません」
「グロリア社の上役に掛け合ってみましょうか?」
「お願いします。もし開発が決定すれば私のデータも提供する、とお伝えください。私は……リディスが完全な自己を確立できる可能性に賭けたい」
「絶対上手くいくよ! あたし、ユリナやシズカさん達のこと、信じてるし!」
 大まかな理論を頭の中で組み立てた由利菜は、信一の申し出に頷き安堵と決意で拳を握る。
 ウィリディスも自然と声音が明るくなり、善は急げと席を立った。
「それでは……信一さん達もどうかお元気で」
「いつか四人になってたらいいな~、なんてね♪」
『っ!?』
「――機会があったら、また来ます」
 ウィリディスのからかいで赤面した3人を残し、由利菜たちは店を出た。
 運命を受け入れ、未来の為に抗うと決めて。



●十数年後――

 ――カランカラン

「マスターさん、こんにちはー!」
「お久しぶりです」
 明るい春月(aa4200)に続きレイオン(aa4200hero001)が入店し、注文を手早くすませた。
「だいたいの場所は回れたねー」
「意外とあっという間だったかな」
 さっぱりと笑う春月は30代前半、レイオンの外見は30代前半~半ば程度に見える。
 現在、春月はエージェント業をやっていない。
 知人のダンススクールを手伝いつつ知名度もそこそこ上げ、ダンサーで生計を立てている。
 今回はレイオンに誘われたエージェント時代に行った場所巡りの一環で、『Sigh』を訪れていた。
「そういえば、最初に誓約解除の話をしたら、平手打ちしてきたよね」
「レイオンが突然変なこと言うからだよっ!」
 春月の自立と保護者役の終わりが理由ではないが、きっかけではあったのだろう。
 話を聞いた時、気づくと春月はレイオンを殴っていた。
 それ以降も時に殴り、時に語らい、やっぱり殴ったりと話し合いを重ね、今は双方納得している。
「実際さ、元の世界への戻り方って考えてるの?」
「当てはあるから、心配しないで」
「……まあ、レイオンが言うなら戻れるんだろうけどさ」
 疑問を微笑みで躱すレイオンに不満げな春月は、一度飲み物で唇を湿らせる。
「そもそも出会った時はちっちゃかったのに、誓約したら大人になるし、レイオンずるくない?」
「そうかな……?」
「確か、娘さんが3人いるんでしょ? 上の子が何歳か、思い出した?」
「だから、それは誤解だって」
「え~、そろそろいくつか教えてよ! うちの聞き方が悪いの? もっと別の角度から追求すべき……?」
 謎が深まる実年齢に悩む春月を前に、レイオンは紅茶で苦笑を飲み下した。
 それから、いつも通りの会話を楽しみ時間が過ぎる。
 春月はダンスの仕事や新しく考えている振り付け、作った料理、読んだ本について。
 レイオンは戻ると決めてからはっきりしだした記憶から、色々な場所へ行く仕事をしていたことなど……。
「そうだ! レイオンは食べたことなかったよね? ここはうちが奢るから、食べて食べてっ」
 ふと、春月は頼んだサンドイッチをレイオンに勧め、にまぁっ! と笑った。
「うちは気合入れたいときに来て食べているよ。クセになるんだよねっ」
 疑惑の目を向けられつつ、レイオンと同時に『それ』を口にし――意識が暗転。
「……さすが、マスターさん、だね」
 先に目覚めたのは春月は、動かないレイオンの蘇生(?)を待つ。
「……うっ」
「おかえり、レイオン。この世界の思い出に、『臨死体験』のプレゼントはどうだった?」
「……記憶が、また少し、戻った、よ……」
「――えっ!?」
 数十分後、レイオンからの思わぬ報告で逆に春月が驚かされる結果になった。
「……いつかまた、春月に会いに来るよ」
「その前にうちが遊びに行くかもっ! ちゃんと向こうの住所、教えてよね!」
 体調が戻った後、レイオンと春月は扉をくぐって店を出る。
 さよならじゃなくて、再会の約束を交わして――



●15年後――春

 ――カランカラン

「こんにちはマスター。久しぶりね」
(次は一旦距離を取って……ああでも母さん、間合い詰めるのすごく速いからな。それなら……)
 ドアベルを鳴らしたのは、33歳となったフィアナ(aa4210)。
 後ろには、フィアナとの鍛錬終わりでずたぼろになった息子のエリムが、思考にふけりつつ続く。
「私はコーヒーで」
 15年前は途切れがちであった口調も今や昔。
 かつて飲めなかったブラックコーヒーも克服し、フィアナはすっかり大人びた女性となっていた。
「俺は、ミルクティーをお願いします」
 対面に座るエリムは、昔のフィアナに似てふわふわしている……事もなく。
 厳しくも優しい母の教えにより、むしろ8歳児にしてはとてもしっかりしている。
「鍛錬の後からずっと、何を考えていたの?」
「次の鍛錬で母さんに勝つ方法を」
 届いた飲み物を口にしつつ、フィアナは息子の気概に微笑する。
 アメイジングスのエリムは、つい先日イントルージョナーとの初陣を済ませたばかり。
 フィアナから見ればまだまだ未熟で、少し懐かしくも思う。
「私もね、幼い頃はよく英雄にずたぼろにやられてたのよ」
「――母さんの英雄はもう、元いた世界に帰還したんだよね?」
「ええ。エリムはまだ幼かったから、覚えてないでしょう?」
「母さんが話してくれた範囲でなら知ってるよ」
 痛みでこわばる体を、平気そうな表情で隠すエリムの様子をフィアナは見逃さない。
 年齢の割には厳しい鍛錬に対して、弱音ひとつこぼさない息子に目を細める。
「任せるわよ、エリム。『希望と光を導く者』の子」
「“エリム”の名に懸けて。任せてよ、母さん」
 フィアナの物語は終息へ向かい、物語群は新しいサイクルへ移る。
 かつて雛鳥だった少女は、新たな雛鳥の羽ばたきを見守り微笑んだ。



●15年後――冬

 ――カランカラン

「先日連絡したテジュ・シングレット(aa3681)だ」
「店長さーん! 今日はありがとうね。こちらどうぞ」
 40代前半となったテジュは、新聞記者の肩書きを添えた名刺をマスターに渡す。
 続くルー・マクシー(aa3681hero001)も、カウンター越しに何かを差し出した。
『Sigh様へ』と添えられた、ジェフ 立川(aa3694hero001)の直筆サイン色紙だ。
「ここで話した内容、3年間はご内密に願いますね?」
「笑みが悪いぞ、ルー。すまない、マスター。暫し賑やかにさせて貰う」
 見た目が30代後半になったジェフの注意を聞き流し、ルーはおもむろに眼鏡を取り出した。
「……ルーに必要か? 視力いいだろう」
「見てわかんないかなぁ――ミニスカスーツに眼鏡、これぞ敏腕マネの鏡でしょ!」
「……見た目が関係あるのか?」
 キリッ! とドヤ顔決めポーズのルーにテジュは首を傾げ、ジェフは肩をすくめて笑う。

 ――カランカラン

『こんにちは!』
「海花、海斗、大きくなったな」
 さらに、7歳の女の子・海花(ミカ)と5歳の男の子・海斗(カイト)の入店にテジュは微笑。
「早いな、テジュ」
「3人とも、久しぶり」
「アタシもいるヨー!」
 見た目が30代半ば程で雰囲気が落ち着いた麻端 和頼(aa3646)と、33歳になった五十嵐 七海(aa3694)、そして20代くらいの容姿になった華留 希(aa3646hero001)とも挨拶を交わした。

 ――カランカラン

「わー! 前から格好良いと思ってけどオーラが違うよね! もっと沢山お話しておけば良かったー!」
 しばらくして芽生(メイ)がピンクの髪を揺らして入店し、生のジェフに目を輝かせる。
「芽生……あからさま」
「TVに出るようになってから、態度が変わってないか?」
「当然でしょっ!」
 また、微笑するレミア・フォン・W(aa1049hero002)と苦笑する荒木 拓海(aa1049)が続いた。
 今や拓海は40代前半で、レミアも見た目が芽生と同じ22歳。
 身長が171cmで可愛い系の芽生と、165cmで綺麗系のレミアが並ぶ姿はまるで姉妹だ。
「一緒に写真良いですかー?」
「もちろん。サインはいるか?」
「こらー! 安請け合い禁止! ――あ、写真はOKだよ! でもSNSは控えてね?」
 芸能入り以降すれ違いが続いたジェフへ、芽生はここぞとばかりに可愛い笑みを作った。
 ジェフは気さくに応じるが即座にルーから注意され、芽生との撮影後も小言をもらっている。
「芽衣殿の活躍も聞いているぞ。何(いず)れ取材させてくれ――ああ、拓海殿との座談形式もいいな」
「わ、私が!?」
 続けてテジュの提案に、エージェント歴5年になる芽生は驚き恐縮する。
 一方、仕事の相談などで定期的に芽生と会っていた拓海は、七海たちへ歩み寄った。
「ここで会うのは初めてか」
「いいお店だよね。教えてくれた叔父さんに感謝だよ」
 拓海と七海は親戚だ――任務一色のエージェント時代は、他人として接していたが。
 理由は、独立心の強かった七海が、すでに有名だった拓海を引き合いに色眼鏡で見られるのを嫌ったため。
 ただ、七海が祖母(拓海の母)に海花と海斗を預けだしてからは、付き合いも増えている。
 拓海への取材協力も七海からの依頼で、芽生は事情を知って同行してきた形だ。
「海花と海斗は、アタシとパフェでも食べテヨっか?」
『パフェ!』
「希、食事は別のお店だからダメだよ?」
『えーっ!』
 その時、カウンターにいた希と子ども2人の声を聞いた七海がストップをかける。
「海花、我慢だぞ」
「……はーい」
「海斗も不貞腐れるな。男だろ?」
「うぅ~、っ!」
 さらに和頼が注意すると海花はしぶしぶ頷き、海斗は七海の膝の上に乗って泣いてしまう。
「よしよし……和頼は強面だから、ちょっと叱っただけで海斗が泣いちゃうのは仕方ないけど、また悪い癖が出てたよ? 片方だけ甘やかしたり厳しくしたり、性別で偏った育児は止めて」
「う……悪い」
 海斗をあやす七海は、わずかな嫉妬を息子に向けていた和頼を一喝した。
 そも、今なお七海ラブな和頼である。
 母似でおしゃまな海花には、近付く男へ大人げなく睨みを利かせるほど猫可愛がりする一方。
 父似の海斗には厳しく、『男は女性や弱いものは守るように』とスポーツなどでたくましく躾けた。
 元々特撮と暴れるのが好きで、度々いじめっ子に怪我をさせ親の呼び出しという形で成果も出た――が。
「むーっ! パパのお嫁さんは私なのー!」
 今度は海花がむくれだし、和頼の膝に上って駄々をこねる――『パパは海斗ばかり気にする』と嫉妬して。
 七海の指摘で2人平等に運動を教え、心身を鍛えだした和頼だが感情までは制御できない。
 こうして、嫉妬と叱責が回るある意味とてもバランスの良い家族関係が完成した。
「ゴメンネー。ホラ、飲み物で一回落ち着こ?」
「最近落ち着きが出てきたな……安月給でも良いと、言ってくれるだろうか」
 すると、麻端家をなだめる希を横目で追い、テジュはため息一つ。
「――え!? 何?! 何の話!」
「な、何でもないっ!」
 即座に食いついたルーから逃れ、一転してテジュは仕事の顔になる。
「気を取り直して……まずは取材に応じてくれて感謝だ。普段の顔を書けたら嬉しいよジェフ」
「お手柔らかに頼む」
「俳優業のきっかけは?」
「七海の結婚とエージェント休業を機に別居し、参加した地元劇団からだ。それからスカウトで移籍し、主役を貰った5年前から名が売れ出したな」
「演技の存在感やキレの有るダンスが、大手劇団に認められたと聞いた。画面の中で自然と演じる役者として、監督からとても重用されているとも」
「マネージャーが優秀なんだ。積極的に仕事を取ってきてくれる」
「出演も幅広く、地方局の深夜ドラマで準主役、ゴールデンでも味のある3枚目など、知り合いの俺から見ても自然な演技だと思う。心がけてる事や私生活との共通点はあるのか?」
「誠実で健康である事、かな。自分が歪むと演技にも自然と漏れてしまうものだ」
 取材中、ジェフに褒められたルーは鼻高々と眼鏡を押し上げた。
 次に、テジュは七海を呼んだ。
「七海、パートナーとしてジェフの演技はどう思う? 普段との差異があれば教えてほしい」
「まるで別人なのに芯はそのままで、全然違う顔になるんだ。そこが良いんだね」
「劇団入りを知ったのは?」
「結婚してすぐだよ。大学の院生で25歳の時だから――8年前かな?」
「七海にフラレるのがコワくて、32歳だった和頼が強引に押し切ったんだヨネ~?」
「悪いか!?」
 七海に割り込んだ希が茶化し、すかさず和頼(40歳)にドヤされる。
「26歳で海花を、28歳で海斗を生んでからは忙しくて。実家も保育園も学童保育もフル活用して、休学と復学を繰り返しながら博士号修得したのが昨年。今年からは、叔父さんの英雄と同じ研究部署で働いてるよ」
「確か、『英雄の消滅を阻止する研究』だったか?」
 七海はテジュに頷き、研究の宣伝もかねて研究の概要を説明していく。
 そこで、海斗を構う芽生が小声でマスターに尋ねた。
「一香ちゃんの近況、知ってますか? 何かしてないと心が落ち着かない時期じゃ……?」
「ご両親の葬儀から5年が経ち、今は立ち直っているご様子でしたよ」
 現在は実の親と暮らす芽生は、かつて5年間を拓海に育てられた経験が一香と重なる。
「遊びに誘っても……大丈夫かな?」
「きっと喜ばれます」
 和頼から海花を預かったレミアへの答えにホッとした芽生は、近いうちに一香への連絡を決めた。
 さらに、テジュの取材は続く。
「和頼、ワイルドブラッドとして和頼の活動に興味がある。別の号になるが活動を紹介させて欲しい」
「私設組織のBGを中心に、色々こなしてる。主にワイルドブラッドの存在普及や、孤児を減らす為だな」
「寄付による金銭援助もしているとか?」
「家計に負担のない程度には」
「他にも、七海の仕事にも手を貸しているらしいな」
「本業の敵が弱いから、希も『共鳴の必要ない』って現場に来ないからな。今じゃ立派なプーだよ」
「和頼! 一言多いヨ!!」
 意趣返しの成功に肩をすくめ、和頼は続けた。
「本当は七海の研究を手伝いたいが、俺は頭が悪いからな。直接は無理だと諦めて、影から支えてる」
「具体的には?」
「『英雄撲滅運動家』とかの過激な思想を持つ組織を探って、違法性があれば摘発してる。後は……共働きだし研究の重要性はわかるから、家事や育児をなるべくやるくらいだ」
「相変わらず愛妻家だな。何か告知できる事があれば、発信させてくれ」
「3人がずっと此処にいられる為、出来る事は手伝いてえ……ただ、無理だけはするな! 七海は夢中になると体調気にしねえからな。何かあったら言えよ? お前に何かあったらオレは……」

 ――じ~っ。

「も、勿論、海花と海斗も、な!」
「パパはママを愛し過ぎだヨネー?」
『ねー?』
 気づけば妻へ熱弁していた和頼は、途中で希の笑みと子どもの視線に気づいて慌てる。
「仕事中は率先して動いてくれるから、目立ってやり過ぎに見られることもあるけど……沢山考えてくれてるよね。真っ直ぐな背を見て育つ和頼の子達はとても幸せだよ。
 これからもこのままでいてね……今の和頼が、大好きよ」
「七海……」
 だが、七海の台詞で和頼はもう2人の世界へ。
 嘆息したテジュは、気後れする拓海に取材対象を移した。
「出会った頃のジェフは、口数が少なくて表だっての付き合いはしなかったが……目は引いてたな」
「なるほど……拓海殿の事業はどうだ?」
「あれから15年、英雄達がこの世界で自分を取り戻し、新たに生きるのに充分な時間だと思う。もちろん英雄に限らず、全ての人が生き直せるのだと自分を含め感じるよ」
 拓海がそらした視線の先には、海花と海斗を世話する芽生とレミアが。
「オレも七海も、みんな相棒に恵まれた。愚神として呼び寄せられた者達の分も、英雄との縁がこの先も長く続くよう、また彼ららしく生きれるように、オレは『Second pledge』を続けたい」
 テジュもまた、ジェフと笑顔で話すルーに微笑をこぼした。

「こことここ――あ、こっちも未公開だから記事はNGね、テジュ」
「ここもか?! ……こう書けばOKか?」
「うーん、まぁいいかな」
 取材後、ルーとテジュが情報の取捨選択をする途中で海花と海斗がぐずりだし、希の一声で手を止めた。
「――希」
「エ?」
 すると、希はいつの間にか近づいたテジュの照れた顔を見上げる。
「今度、季節のトレンドで、俺と組んでコラム書かないか?」
「……エ?! ナ!! ……しょ、しょーがないナ。テジュの頼みダシ? イーヨ、手伝ってあげるヨ!」
「本当か! ありがとう」
 驚き顔を真っ赤にした希は、ついツンデレを発揮し視線をテジュから逃がし奮起する。
(――いつか、惚れさせるんだカラ!)
 密かに想っていたテジュの視線と満面の笑顔に、気づかないフリをして。
「独り身、少なくなったなぁ……」
 そんな2人をNoRuNで撮影するルーのため息を拾い、ジェフが隣に並ぶ。
「寂しいか?」
「……僕は仕事が恋人だもん」
 ちらっと刺さるルーの視線。
(そろそろ俺も、腹を据えるか……)
 内心でテジュと希に自分を重ねたジェフは、さらに密着。
「ルー。そんなに心配なら、24時間体制で合法的に見張れる席が空いてるが、どうだ?」
「24じかん……っ!」
 徐々に意味を理解したルーは、ポン、と肩に手をおかれ体が硬直する。
「返事は――日を改めて聞かせてくれ」
「~~ジェフッ!!」
 とどめに低音ウィスパーボイスが耳をくすぐり、一気に赤面。
 店を出た友人に続く広い背中を、ルーは潤んだ瞳で追いかけた。



●20年後――

 ――カランカラン

 入店した日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)は、奥まった席で娘と相対する。
「ありがとうございます」
 15歳の少女――日暮さくらが飲み物を受け取り、店員は席を離れた。
 あけびの母(=祖母)譲りの薄紫をしたロングヘアーが印象的な、母親と瓜二つの美人。
 ぴんと伸びた背筋と、白い軍服風ワンピースの着こなしから礼儀正しい性格が透けて見える。
 舞い散る桜の様に儚げな雰囲気を帯び、さくらは父親譲りの金の瞳に対面の両親を閉じこめた。
「さくら。話とは――」
「私が十歳の時に願い出ました、守護刀「小烏丸」の継承についてです」
「いきなり本題っ!?」
 仙寿の出鼻を刀のようにぶった切り、前置きを銃弾がごとくすっ飛ばしたさくらにあけびが驚愕する。
「……茶でも飲んで落ち着け」
 素直にカップを傾ける娘に、仙寿は知らず眉間をもむ。
 三つ下に弟が、四つ下に妹がいるさくらは、真面目だが少々天然だった。
「まず、さくらの意志を聞こう」
「「小烏丸」と私たちの宿縁を、無理に継ぐ必要はないんだよ?」
 現在、仙寿もあけびもH.O.P.E.法務部に勤務し、特に仙寿はいずれ法務部長にと目されている。
 家業では日暮の暗殺業を終わらせ、名家剣術指南役と剣術道場を継いだ父を、さくらは真っ直ぐ見返す。
「父上とほぼ同じ名前、同じ姿であり、守護刀「小烏丸」を使う剣客の天使……父上と母上はその次元を渡る力を有する天使と三度、刃を交えたと聞きました」
 最初の手合わせで、新米エージェントだった仙寿は未熟を揶揄され“蕾”と呼ばれた。
 その後『王』との決戦を経て、三度目の手合わせでも2人は負ける。
 だが、天使は去り際に仙寿を“八重”と――“染井吉野”より遅咲きの桜の名で呼んだ。
「最後は咲いたと、父上を認めた言葉だったとしても、私は……」
 天使以外にも、おそらくこの世界にも、両親より強い存在はいる。
 それでもさくらは、両親の敗北が悔しかった。
「私が一人前になる頃には異世界旅行が可能になると、幼少よりエージェントとして資金を貯め続けました」
 先天性のアメイジングスであるさくらは、両親の姿に天使を見据えリベンジを誓っていた。
「友人の科学者――恭佳さんの結実を信じ……先日、技術安定の報がありました」
 もし天使に子供がいるのなら、その子にも負けたくないと。
「まだ稀な交通手段です。私がワープゲートを使えるのは数年先でしょうけど、必ず天使に会いに行きます」
“桜”は両親の、そして天使との『縁の徴』。
 2人にとって掛け替えのない花を名付けられたからこそ、“さくら”は告げる。
「――私にとっても、天使は宿縁の存在なのですから」
 暮れる日の様な強い意志を宿す瞳を前に、仙寿とあけびの表情はどこか嬉しそう。
「お前は頑固だからな。全く、誰に似たんだか……」
「それまでにもっと鍛えないとね! お師匠様を驚かせよう!」
「……はい!」
 かくして、さくらは仙寿から旅立つ日に「小烏丸」を託すと約束を結んだ。



●――現在
「ちなみに、あれが取材の記事とサイン色紙ですよ」
「え!? あんな無造作に?!」
 5年前の日誌を閉じた時、マスターの示した棚にバイトは二重の意味で驚愕する。
 後にテジュから進呈されたその記事は、地方紙ながらネット等で反響を呼んだ。
 希とのコラムも、逆に突っ込んだ質問をする対談が好評で、現在も連載が続く人気コーナーである。
「ジェフさんとの写真を待ち受けにされていた芽生さんも、ご友人に羨ましがられていましたね」
 そうマスターが笑い、『Sigh』の1日は過ぎていった――


結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 願い叶えて
    レミア・フォン・Waa1049hero002
    英雄|13才|女性|ブラ
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 絆を胸に
    テジュ・シングレットaa3681
    獣人|27才|男性|回避
  • 絆を胸に
    ルー・マクシーaa3681hero001
    英雄|17才|女性|シャド
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中



  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
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