本部

ホワイトアウトデー!

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2019/03/27 08:42

掲示板

オープニング

●天才美少女について
 仁科恭佳は天才である。今やそれを疑うことは誰にも出来ない。森蝕事件以降、彼女は技術班として戦場に貢献し続けていたのだから。
 だがしかし、稀代のトラブルメーカーである事を疑う者もいないだろう。
 何しろこの娘、思いついたらついやっちゃうのだ。

●仁科恭佳の計画
「さてさて。こいつを手に取るのも久しぶりかな」
 H.O.P.E.東京支部、恭佳の研究室。留学に備えて荷物を引き払っていた彼女は、段ボールの奥底で埃を被っていたとあるAGWを手に取るその名はラブテストカノン。一昨年のクリスマス、この武器を用いて支部を訪れていた人々を恋愛脳に変えるという大変な事件を引き起こしていたのである。
『懐かしいものを引っ張り出してきましたね……今となっては大分良いように扱われていたような気もしますが……それでもいい思い出ですね』
 ヴィヴィアンも銃を覗き込む。その頃は世間の常識もあまり分かっていなかった彼女は、恭佳に言われるがまま色んな悪戯に手を染めていたのである。世間の常識もよくわかった彼女は、恭佳の共犯者と化して今でも色んな悪戯に手を染めているのであるが。
「ビビアンよ。戦いが終わり、このエージェント界隈にはたくさんのカップルが生まれたと聞く」
「青藍さんもついにお付き合いを始められたようですね」
 手帳を開いてヴィヴィアンが頷く。
「そうなのさ。いやあ、遂にお姉ちゃんにも春が来たわけで……まーまた結婚までには時間かかりそうだけど」
 こくこくと恭佳は何度も頷く。一頻り頷くと、彼女はポンと銃を叩いた。
「は、ともかくだ。今日はホワイトデー。久々にこいつを使うにはぴったりの頃合いだと思わないかね?」
「なるほど……これを新しく出来たカップルに撃ち込んでやるわけですね」
 ヴィヴィアンの言葉に、恭佳は満面の笑みを浮かべた。何度も手を叩き、彼女は高らかに笑う。
「そうだ! あわよくばお姉ちゃんにもぶち当てて、恋人の出来たお姉ちゃんがどうデレデレするのか見てやるのだ……良し! そうと決まったら早速行くぞ、ヴィヴィアン!」

●バカを捕まえろ!
 そんなわけで、再びH.O.P.E.の東京支部で騒ぎが巻き起こった。至る所で銃声が響き渡り、光の銃弾を受けたカップル達は人目を憚る余裕も無くなる。とにかく愛を語らい合いたくて仕方が無くなってしまうのだ。
 ハグしあったり、キスし合ったり、もうとんでもない空間だ。ちょうどやってきた青藍はうんざりした顔をして、ウォルターと共に辺りを見渡す。
「何だコレ! また恭佳か!」
『だろうね……』
 歯軋りして眺めていた青藍だったが、はっとして彼女はウォルターの手を取り共鳴する。刹那、影から飛んできた銃弾がぶち当たった。
「ちっ」
「ちっじゃねえ! まてやコラぁ!」
 青藍は恭佳の背中を追って走り始める。ウォルターは思わず苦笑した。
『はは……危ないところだったね?』
「冗談じゃない! くそう、これはマズいぞ!」

 恋は盲目。今日も一波乱ありそうである。

解説

メイン 恭佳をしばけ
サブ いちゃいちゃしても良いのよ?

敵NPC
☆仁科恭佳&ヴィヴィアン
 悪戯大好きのやべーやつ。才能はあるから手に負えない。
●ステータス
 命中ジャ(50/40)
●スキル
 特に付けてない
●武器
・ラブテストカノンver2
 かつてのクリスマスに猛威を振るった悪戯用AGW。今回はカップル達にターゲットを絞ってチューニングしている。
[非共鳴中のリンカー、一般人にのみ効果あり。BS[ラブラブ]を付与する。]

フィールド
☆H.O.P.E.東京支部
→ロビー、食堂など広いスペースではカップルがいちゃいちゃしている。
→恭佳は廊下などの物陰に隠れている事が多い。
→たまに天井裏などに隠れていたりする。

TIPS
・(大学は恭佳のこれを織り込み済みで推薦出してるので問題は)ないです。
・青藍は対策しなれてるので無事です。
・恭佳を完全スルーでもそのうち青藍がしばく。

・BS[ラブラブ]
 とにかくいちゃつきたくて仕方が無くなる。
 キスやハグはもう当たりまえ。周りの目とか知らない。
 あ、でもそれ以上は何故か進めない。倫理の壁ってすごいなあ。

リプレイ

●H.O.P.E.恋物語
 東京海上支部、食堂。何でか知らないが、空気が桃色に染まって見える。そんな空間の中で、麻生 遊夜(aa0452)は壁際に倒れ込んでいた。
「……あー、なるほどな。道理で」
『……やーん、やーん』
 その上に覆い被さり、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は甘ったれた飼い犬のように頬を擦りつけていた。しかし、年頃を迎えたばかりのケモっ娘が胸を押し付け腰をくねらせているその有様は、やたら煽情的だ。
『……ユーヤぁ、ん……大好き、愛してる』
 リーヤが深く覆い被さると、耳が引っ掛かって眼鏡が外れる。空いた右手で何とかキャッチ、遊夜は苦笑しながらその艶やかな黒髪を撫でた。
 銃声が轟き、何が起きたかと警戒していたつもりだった。リーヤも耳をしっかりそばだてていた。しかし、実際に銃口を向けられたらむしろ当たりに行ったのがこの幼妻である。遊夜は尻尾を振りまくるリーヤの肩を掴み、何とか起き上がった。
「ま、俺を盾にしたり当てさせようとしなかっただけ成長したかね?」
 何とか立って歩き出そうとするが、リーヤはその背中に飛びつき、首筋を甘噛みしたりし始める。おねだりのサインだ。これ以上はマズい。
「あー、あー。わかったわかった」
 遊夜は翻ると、リーヤを抱きしめ口付けを交わす。何とか宥めてやるしかなかった。そこへ通りかかった青藍が、真っ赤な顔して口元を歪める。
「うわぁー……」
「引くなよ澪河さん。俺だって歳不相応だって分かってる」
 遊夜は肩を落とすしかない。若い時分ならともかく、おっさんと言われてももう否定できない年頃になっては、人目の前でべたべたするのは少々キツイ。
「(今は大丈夫だが……)」
 自分まで撃たれてしまったら、もうどうなるかわからない。ラブコメどころか薄い本展開待ったなしだ。色んな意味で危機である。
「どうすればいい。元凶も対策も知ってるだろう? 手伝うぞ?」
「とりあえず共鳴してください。耐性が上がれば収まりますから」
「あ、ああ。分かった」
 遊夜はすぐさま頷き、幻想蝶を手に取ってリーヤの手を握りしめた。二人の身体が文字通り融け合い、一つとなる。刹那、リーヤの乱れに乱れた精神状態が整序されてしまう。すっかり元通りだ。
『むぅー……』
「……やれやれ。こういうのは人目につかない所でやるから良いと思うんだがね……」
 あからさまに不機嫌となったリーヤの態度に溜め息を吐き、遊夜はアサルトライフルを手に取った。

 世界最高峰のリンカースナイパーさえ骨抜きにされたのだから、世界最強の公務員もまた形無しである。依頼の結果報告に来ていた迫間 央(aa1445)は、呆気に取られたような顔でロビーを見渡していた。
「……さっきから、一体何の騒ぎだ……?」
『麻生さんも、何だか大変な事になってたわね』
 報告前に軽食でもと思ったが、“喰われ”かけていた戦友の姿を目の当たりにし、二人はそそくさと廊下に引っ込んでしまったのである。
「誰が何をやったのか……」
『危ない!』
 いきなりマイヤが央に飛びつく。刹那、銃声が響いた。咄嗟の事でバランスを崩し、央は床に倒れ込んだ。床に強か打ち付けた肩をさすりながら、央は覆い被さるように倒れているマイヤを抱き起した。
「ありがとう。マイヤは怪我してない?」
『うん……』
 起き上がったマイヤは、眼を潤ませてじっと央を見つめる。何だか様子がおかしい。
『大丈夫よ。央の事は私が守る。私は……央が、好きなんだから』
 不意にマイヤは央にしなだれかかってきた。慣れた手つきで受け止めるものの、央は思わず目を白黒させてしまった。彼女は胸元に身を預け、じっと上目遣いに央を見上げている。
「あれ、マイヤさん、なんかキャラがいつもと違わない……?」
『わたし、わたしは……』
 頬をうっすら染めて口ごもる。その表情に、央はどこかで憶えがあった。年下に囲まれることも多く、いつもレディとして振る舞うマイヤ。しかし、ただ一つのシチュエーションでのみ、彼女は密かな願望を露わにするのだ。
「(ペンギンドライヴを着込んでる時と同じか……)」
 マイヤは自他ともに認める艶やかな女。けれども、“かわいい女の子”として見られたい気持ちはあるのだ。央が好きなペンギンの着ぐるみを着込んだ時にだけ、マイヤはそれを自分に許していたのだが。
「(恭佳さんが原因かな……)」
 今日はその我慢すら出来なくなってしまったようだ。立ち上がって手を引くと、普段は腕を絡ませてくるマイヤが、初恋の少女のように、指先だけを握りしめてくる。されどもその思いは普段の倍くらい伝わってくる。
 央はふっと頬を和らげると、事態の解決を求めて支部の中を歩き始めた。

 王が倒れても、まほらま(aa2289hero001)はここにいる。俺の生きる意味は確かに存在し続けていた。
 だから、俺はこの先の未来を考える事にした。イントルージョナーなんて新しい脅威も現れるようになって、何処かの世界を攻めていたはずの愚神も、世界の狭間を伝ってこっちに現れるようになって。まだまだ戦いは終わらない。
 俺は、これからも戦い続ける事にした。力を求め続ける事にした。いつか異世界の人達と絆を結んで、また王のような存在が現れてしまった時、戦えるように。
 だけど心配事が一つある。王が倒れて世界のライヴスのバランスが変わったのか、時々人工心臓がトラブルを起こすようになった。いわゆる不整脈だ。共鳴するとマシになるけど、そのままだと歩くのも気怠い時がある。
 開発元の話だと、元々試作品だったことや長い間戦って心臓を酷使してきたこともあって、人工心臓そのものの部品も幾つか劣化しつつあるらしい。曰く、そろそろ新調を考えた方が良いらしい。
 それなら、信頼のおける人に相談したい。人格的に問題はあるというけれど、色んな戦いで“彼女”が開発に携わったAGWは活躍したらしい。だから。

 GーYA(aa2289)は、まほらまと共に東京支部を歩いていた。新進気鋭の学生エンジニア、仁科恭佳に新型人工心臓について相談を持ち掛ける為である。とはいえ、何やら今日は騒がし過ぎる。右から左から黄色い声が良く飛んでくるのだ。
「……何か大変な事になってる? もしかして……」
『そうかしら? いつもこんなものだったように思うけれどねぇ』
「いや、さすがにそんな事は無いと思うんだけど……」
 まほらまは悠々としたものだ。廊下の端に並んだゴミ箱の方を見遣り、彼女はそっと人差し指を向ける。
『あら? 恭佳さんじゃないかしらぁ』
「ちょうどよかっ……いや、何でゴミ箱から……!」
 突っ込む間もない。スナイパーライフルを構えた恭佳は、何処かに向かって引き金を引いた。甲高い音と共に、一条の光線が放たれる。そのまま恭佳は、するするとゴミ箱の中へと消えてしまった。
 光線の飛んだ先を目指して駆け出すと、そこには藤咲 仁菜(aa3237)とリオン クロフォード(aa3237hero001)の姿が。普段から仲良さそうな二人だが、今日は雰囲気が変だ。リオンがやたらと仁菜にべったりしている。わんこみたいだ。暫し茫然と眺めていたが、ジーヤは不意にはっとなる。
「……あ、もしかして、これが例の悪戯……前も、恋愛脳がどうとかで大変な騒ぎになったって言ってたっけ……」
『カップルが狙われているようね。止めましょう!』
 二人は手を取り合い、共鳴する。どこかへと消えた恭佳の姿を追い求め、ジーヤは走り始めた。

 ジーヤが動き始めた数分前、仁菜とリオンはピンクフィールドに踏み込んでただ茫然としていた。人目を憚らずにいちゃつくカップル達を見渡して、仁菜は頬を引きつらせる。
「銃声が聞こえたから何かあったんだと思ったけど……」
『これってどういう状況……?』
 どちらからともなく、互いに手を強く握ってしまう。温もりを感じて、二人は咄嗟にその手を引っ込めてしまった。心臓が跳ねる。頬が火照る。お互いの顔さえまともに見られない。
「(て、手なんて、いつも繋いでもらってたはずなのに……)」
 お互いの気持ちを確かめ合って、恋人なんだと思うようになってから、何だか手を繋ぐのが気恥ずかしい。仁菜は引っ込めた手を握りしめ、耳まで熱くなるのを感じていた。
『ニーナ!』
 だが、リオンが慌てて腕を引く。一発の光線が、リオンの背中にぶち当たった。彼は膝から崩れ、その場にへたり込む。
「リオン!」
 仁菜はすとんと腰を落とした。ぼうっとしていた自分のせいだ。慌てて仁菜はリオンの顔を覗き込む。
「大丈夫? 怪我は――」
 思わず仁菜は黙り込む。リオンの表情はへなっとしていた。だらけ切った口元を見て、仁菜は眼を瞬かせた。
「リオン?」
『ニーナ、大好きー……』
 リオンはのったりと仁菜の背中に手を回し、ゆっくりと彼女を抱きしめた。彼の奇襲に、思わず仁菜は耳の毛を膨らませた。
「えぇええ!?」
 好きなのはもう知っている。仁菜もリオンの事は大好きだ。しかしここは公衆の面前。耳元で心臓の跳ねる音を聞きながら、仁菜はリオンを引き剥がしにかかる。だが、リオンはそんな仁菜の手を取り、うつむきがちに仁菜をじっと見つめた。
『ニーナ、俺のこと嫌い?』
 仁菜は思わず目を擦る。リオンの耳元に、へなっと垂れた犬耳が見えた気がした。それにしても垂れ下がった眉を見ていると仁菜まで悲しくなってくる。仁菜は咄嗟に叫んだ。
「す、好きだよ! 嫌いになるはずないじゃない!」
『よかったー!』
 リオンはぱっと眼を輝かせ、そのままその頬にキスまで始めた。
「ふえええ……!」
 恥ずかし過ぎて口が震える。沸騰する思考回路をどうにか巡らせ、仁菜はようやく一つの答えに行きついた。あの人のせいだ。共鳴して、ライヴスの活性度を上げれば解けるに違いない。そこまでは辿り着いたのだが。
「(あ、あれ? いつも共鳴ってどうやって……)」
 仁菜は幻想蝶を手に取る。そうだ。幻想蝶を手に取って、そっと手を繋げば共鳴が出来るはず。弾む息を整え、何とか仁菜は手を伸ばす。
「リオン、共鳴を――」
 しかし、リオンはその腕をさっと手に取り、その手の甲へそっと口付けする。まるで王子様がお姫様へそうするように。
「はうう……」
 もうどうにもならない。穴があったら入りたかった。

 ラブコメハプニングに巻き込まれた仁菜とリオンを、影からじっくりと見守っていたのが日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)であった。二人はH.O.P.E.でも有数のラブラブカップルだが、流石にこの事態には呆気となる。
「何だ……? みんなホワイトデーの空気にみんなやられてるのか……?」
 仙寿はホワイトデーを何だと思っているのか。その天然ぶりの垣間見える呟きを聞き流しつつ、あけびは仙寿の顔を見上げた。
『違うと思うよ。……多分、これが恭佳の悪戯なんじゃない?』
「ああ、これが噂の……」
 恭佳が悪戯好きでなんだのかんだのと友人から聞かされてきた二人だったが、直に出くわすのはこれが初めてだった。どんな強敵にも揺るがぬ盾ががったがたになっているザマを見ては、二人も心中穏やかではいられない。
「何処だ! 何処行った!」
 見れば、大時代な軍服に身を包んだ青藍が、ハンドガン片手に廊下を走り回っている。
『……後で青藍に対策聞きに行こうか』
「青藍も恋人と予定があるかもしれないのに、大変だな」
 刹那、天井裏から微かな音が響いた。二人は一斉に振り向き、その手を取った。一瞬のうちに共鳴した二人は、小烏丸を抜きつつ周囲を見渡す。
『天井裏や物陰に隠れてる……不意打ちで撃たれるのは防がないと!』
《……どうして平然と天井裏を移動できる? 問題視した奴はいないのか?》
 鷹揚な共鳴状態仙寿ですら、思わずツッコミを入れてしまう。しかしあけびは慣れたもの。
『久遠ヶ原学園なら良くある事!』
《ここはH.O.P.E.の東京海上支部なんだが……》
 溜め息を吐くと、仙寿は廊下を歩き始めた。

●想い共鳴して
 しかしどうした事だろうか。十分後には共鳴を解いた仙寿が、あけびを廊下の壁へと押し付けていた。いわゆる壁ドンとかいうヤツだ。
「……どうした、あけび?」
『え、その、えっと……』
 抜け道を熟知しまくっている恭佳の尻尾は中々捕まらず、仕方ないから手分けでもしようと共鳴を解いたところをバッチリと狙われた。男らしく仙寿があけびを庇ったところ、ばっちり理性をくすぐられてこんな事になってしまったのである。
 あけびが逡巡している間に、仙寿は顎クイのコンボを決める。色男の相をこれでもかと見せつけられて、あけびはやっぱり赤くなる。二人だけの空間に夢中になれればまだ良かったが、生憎あけびは素面。忍としての鋭い感覚が、遠くの視線を感じ取る。
『その……見られてるし』
「俺は別に構わないが?」
 目を細め、鼻と鼻が触れ合うほどに仙寿は顔を寄せる。互いの吐息が交じり合うのを感じて、あけびは思わずぞくりとする。
『ひぇ……』
「何だよ、怖気付いてるのか?」
 Sっ気を隠そうとすらしていない。あけびが何にも言えないうちに、仙寿はあけびの唇を奪いにかかった。うっかり力が抜けたところを、舌まで這わせてくる。あけびはもう為すがままだ。
『(仙寿ならきっと、大丈夫だよね? でも、でも。仙寿もやっぱりオトコノコだし……)』
 二人で決めた約束はある。鋼の意志で仙寿はそれを守っている。しかし、このまま流れに任せていては、今宵にも大紫を着込んで三つ指突く事になってしまうのではなかろうか。心臓がときめいて、それでも良いか、なんて気分になりかけて。
『まだ! まだちょっと早いから!』
 あけびは仙寿の身体を剥がして叫び、彼の幻想蝶を手に取りそのまま共鳴した。その瞬間、恋の呪いは解けてしまう。
《すまない。何だかやりすぎたような気がするな……》
『(……内なるドS、ちょっとは自覚し、て……?)』
 ないです。

 そんなわけで日暮カップルが難(?)を逃れた一方、ジーヤとまほらまはダメだった。廊下の真ん中に膝をついたジーヤが、そっとまほらまを抱き寄せている。
「まほらま、俺が守る。だから……俺の隣にいてくれ」
『ジーヤ……あたしはここにいるわ。消えたりしない。ずっと、あなたと共に……』
 恋人のような、また別の何かのような。そんな関係を貫き通してきた二人は、共に暮らしながらこうして絆を確かめ合った事もあった。しかし二人の歯車は、今まさに噛み合ってぐるぐると回り始めていたのである。
「愛してる。まほらま」
『その言葉をずっと待っていたのよ。愛してるわ、ジーヤ』
 甘く囁き合って、ジーヤはまほらまの頬を優しく撫でる。お互いの存在を噛みしめるように、唇を重ね合う。能力者と、英雄。リンカーとして互いに引いていた一線を、二人は一斉に踏み越えてしまった。こうなってはもう止まらない。人工心臓の事とか、そのキーパーソンである恭佳を止める事とか。そんな事はもう意志の埒外だ。
『ここだと、ちょっとムードに欠けるわね……』
「……続きは帰ってから、だな」
『うん……うふふっ』
 まほらまは艶っぽく微笑む。立ち上がった二人は、手を取り合ってそそくさと支部を後にしてしまった。

 ジーヤのハートはその後しばらく好調だった。恭佳の見立てによれば、何だか知らないが、ライヴスのバランスが二人の間で変わった事が功を奏したらしい。何だか知らないが。

 そんなわけで若い二人は楽園へ行ってしまったが、三十路半ばの中年男は何とか理性を維持していた。若奥様のご機嫌を犠牲にして。
『むー……』
「帰ったら、な。うん」
 何を致すというのだろう。ともあれ、遊夜は耳をそばだてつつ、青藍と共に銃を構えて廊下を練り歩いていた。しかし中々彼女は見つからない。
「あいつめ、いつの間にこんな改造を……」
「命懸けてるんだな……悪戯に……」
 遊夜は思わず呆れてしまう。面白き事も無き世を、の精神は理解出来なくもないが、スケールが少し規格外だ。そうこうしている間に、再び恭佳が姿を現す。
『ん……チャンス……!』
 真っ先に見つけたリーヤは一瞬にして共鳴を解き、再び恭佳の前にその身を晒した。恭佳もリーヤの出現にぎょっとして、半ば反射的に引き金を引く。結果、直撃する光弾。
『……ユーヤぁっ』
 そんなわけで、翻ったリーヤは眼を丸々と見開き遊夜へと突撃をかますのだった。
「リーヤ、頼むから、後にしよう。な……?」
 近頃とみに磨きがかかったボディを、惜しげもなく遊夜へ押し付ける。男として嬉しくないわけが無かったが、傍に立つ青藍の視線がとにかく痛い。
「あーらら」
「待ってくれ。そんな目で見るのはよしてくれよ。不可抗力だろう?」
「ええ、まあ……」
 H.O.P.E.ではその名を知らぬ者は無い程のスナイパーも、こうなってはもう形無しだ。じゃれつくリーヤに耳を甘噛みされたりして、完全になすがままである。

 そんな彼らの姿を、遠目に見つめていたのが央だった。共鳴すれば何とかなる。その情報を手繰り寄せた央は、マイヤをじっと見つめる。
「マイヤさん、共鳴してもいいかな? この騒ぎをそろそろ収めないと……」
『うん……』
 肩を落として露骨に落ち込んだ。罪悪感が募る。ついでに後ろ髪も引かれる。だが、いつまでもこのままではいられないのだ。
「このままじゃ、二人になれないだろ? 早く片付けて、あとは二人きりでまったりしよう」
 ぱっと顔が輝いた。緩む口元を何とか結んで、マイヤは何度も頷いている。言葉もないまま央に飛びついて、ご機嫌そうに両足をパタパタ振った。子犬のような仕草に、思わず央は心がくすぐられる。
「マイヤは可愛いなぁ」
 ぽつりと呟き頭を撫でる。そのまま、二人はその身を融け合わせた。金の瞳を輝かせ、央は足音も立てず駆け出した。

 同じ頃、リオンと共鳴した仁菜は憤然と盾を構えていた。その中では、リオンがとにかく申し訳なさそうにしていた。
『ニーナ、お、俺さ……』
「いいよ。リオンが悪いんじゃないもん。全部……」
 真っ赤になった仁菜は、廊下の彼方に向かって昂然と突き進み始める。その視線の先には、縦横無尽に駆け巡る央に追い詰められる恭佳の姿があった。
「恭佳さんが悪いんだもん!」
「うわっ、またあの子が来た……」
 咄嗟に銃を構えて、恭佳は仁菜に引き金を引く。だが、最早虚仮威しにもならない。ドレスの裾を振り乱しながら突撃し、盾で直接恭佳をぶん殴った。恭佳は軽々と吹っ飛び、十字路の中心に投げ出される。
「ちょっと、強すぎない? もう少し手加減……」
「しません! しばきます! 私今日で一生分の恥ずかしいを味わいましたからね!」
 もう一発、盾の表面を恭佳の脳天に叩き込む。
「うわぁん、痛い!」
「ダメです! 今日こそ懲りて貰いますからね!」
 ダメ押しの一撃を叩き込んだ。恭佳はふらつきひっくり返る。
「降参、降参ですから……」
 眼を回してぼそぼそ呟く恭佳。別の道からやってきた仙寿は、刀の切っ先を銃に叩きつけた。AGWが砕け、破片が飛び散る。それを見た恭佳はがっくりとうなだれる。
「あー、あー……やられた……」
「もう大人しくしろよ。もうすぐ留学するんだから」
 駆けつけた青藍も、小さな拳で拳骨を叩き込む。そんな二人のやり取りを見つめながら、仙寿は腕組みしてみせた。
《全く、お転婆も大概にしておくのだな》
『恭佳が変わってなくてある意味安心したよ……』
 その姿を見届けた央は、そっと共鳴を解く。
「とりあえず、これで一件落着かな、マイヤ……」
 返事はない。両手で顔を覆い、壁際でうなだれていた。自分のしでかした事はしっかり記憶に焼き付いているようだ。央は頬を緩めると、そっと歩み寄って彼女の名前を呼んでやる。するとマイヤは顔を上げた。
 その一瞬の隙を突いて、央はマイヤにそっとキスをする。
「じゃ、後は二人でゆっくりしような」
『うん……そうね』
 頬を赤らめたままこくりと頷く。央も頷き返すと、彼女を横抱きにして歩き出す。後輩達に、背中でその想いの強さを語りながら。
『熱いよな。央さんとマイヤさんって』
 リオンはまるで他人事のように呟く。仙寿はうっすら笑みを浮かべ、彼の肩をそっと叩く。
「リオン達だって、負けてないと思うけどな」
 その囁きをバッチリ聞きつけた仁菜は、またしても赤くなって叫ぶ。
「見てたんですか!?」
「……何のことだか。それより、あけび。……折角ホワイトデーだしな。これをあけびに贈ろうと思っていたんだ」
 仁菜の言葉を受け流しつつ、仙寿は幻想蝶から小箱と花束を取り出す。片や手作りのクッキー、片や9本の赤いバラ。
 “いつも貴方を想っています”。改めて言われると少し気恥ずかしい。再び頬を染めて、あけびは仙寿から花束を受け取る。
「ありがとう。……最後まで、ずっと一緒だからね」

 二人のやり取りをじっと見ていた仁菜とリオンも、傍らで見つめ合う。今日も今日とて、エージェント達の恋煩いは続くのだった。



 恋は盲目の日 END

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
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