本部

【いつか】そして六年後

雪虫

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
15人 / 4~15人
英雄
15人 / 0~15人
報酬
無し
相談期間
4日
完成日
2019/03/22 21:38

掲示板

オープニング

※注意
このシナリオは、リンクブレイブ世界の未来を扱うシナリオです。
シナリオにおける展開は実際にこの世界の未来に存在する出来事として扱われます。
参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。

※子孫の登場
このシナリオでは、PCの子孫(実子または養子、孫など)を一人だけ追加で登場させることができます。
追加で登場するキャラクターは、PCとして登録されていないキャラクターに限定されます。
子孫の設定は、必ずプレイング内で完結する形で記載してください。



「いいか、問題は絶対に起こすなよ。門限は一分一秒も破るなよ。もしトラブルに巻き込まれたり門限に間に合いそうになかったりしたらきちんと連絡を入れること」
 という職員の注意をしっかりと受けさせられた後、逆萩真人はようやく外へ出ることを許された。外と言っても外出であり、H.O.P.E.での奉仕活動が終わるまであと四年程はかかるが、外に遊びにいける自由が得られたことには変わりない。真人はひとつ伸びをして、手を脇にだらんと下ろした。行先は特に決めていないが。
「さーて、どこに行こうかな」


「暇であります」
 マニー・マミーは地べたに座り、ぼんやり空を見上げていた。リオ・ベルデの復興支援の目途が立ち、大分動けるようになったからと頼み込んでイザベラの付き人にしてもらった。以降マニーはイザベラが収監されている邸宅の前にいる。
 そこまでは良いのだが、毎日毎日毎日毎日暇で暇でしょうがない。イザベラが出てきた時のためにトレーニングは必要だが、それでもまだ時間が余る。以前渡された音楽プレイヤーを聞きながら、マニーはもう一度呟いた。
「暇であります」


「う、うわああああああ!」
 戸丸音弥の悲鳴の直後、音弥の抱えていた書類がドザザザザと雪崩を起こした。セプス・ベルベッドは腕を組み、転んだ音弥を静かに見下ろす。
『お前はいつになったら足下をきちんと見るようになるんだ?』
「ハッハッハ、まあ頑張りたまえ!」
 M・Aは豪快に笑い、エルエルはその後ろでくすくすと笑みを漏らした。こちらギアナ支部。本日もアマゾンの大自然に異常なし。


「セイバイ! カンネンするでござるよ!」
 向けられた二挺拳銃から弾丸が叩き出され、頭を撃ち抜かれたサソリの群れは砂の上に転がった。共鳴したままデランジェ・シンドラーが、ガイル・アードレッドに声を掛ける。
『おつかれさまガイルちゃん。また強くなったんじゃないの?』
「トウゼンでござる! 日々タンレンでござるので! しかしか……」
 ガイルは砂の上を眺めた。その向こうは砂だった。その向こうもその向こうも、ひたすら砂、砂、砂、砂。
「ここはイッタイどこでござるかーーー!!!」


「永平、ちょっと休暇でも取ったらどうだ」
 という劉士文の言葉に、李永平は訝しげな顔をした。イントルージョナーの襲撃も今は落ち着いているし、永平一人休暇を取っても大した問題はないだろうが。
「俺より先に兄貴が取れよ。上司を差し置いて部下が休みを取れるわけがないだろう」
「逆だ。部下を働かせっぱなしで俺が休みを取るわけにはいかんだろう」
「その理屈だと黒兵のヤツラを真っ先に休ませるべきだと思うが?」
「あいつらはお前が休まないなら休まないと言うだろう。ああそうだ、お前の部下を休ませるためにもまずはお前が休むべきだ。というわけで今日から休暇だ。存分に羽根を伸ばしてこい」
 言って士文は判を押した。色々納得いかないが、永平は自分の頭が良くないことは自覚している。
『ま、いいじゃんせっかくの休暇だぜ。思いっきり休もうじゃねえか』
「お前は幻想蝶でほぼうだうだしてるだけだろうが」
 と花陣に悪態をつきつつ永平は考えた。確かにせっかくの休暇である。この機会に行ってみようか。


「ふんふんふーん」
 キャシーは鼻唄を歌いつつ開店準備を進めていた。あれから六年の月日が経ったがかぐやひめんは変わらない。キャシーのはちきれんばかりのワガママバディも変わらない。
「さて」

 『王』が倒れて六年が経った。
 あれから六年の月日が経った。
 
 
 あなたは六年後の今日を、どんな風に過ごしていますか。


●六年後のNPC
 ガイル・アードレッド&デランジェ・シンドラー
 世界最強のNINJYAになるためムシャシュギョウの真っ最中。強くなった……とは思う。今いるのは……どこかの砂漠。

 戸丸音弥&セプス・ベルベッド
 今現在もギアナ支部の研究員で衛生兵。汗だくになりながらアマゾンで頑張っている。

 李永平&花陣
 古龍幇の部隊「黒兵」の大隊長に戻りました。花陣が女性であることを永平はまだ知りません。

 M・A&エルエル
 今現在もギアナ支部兼インカ支部の支部長です。ベニコンゴウインコマスクにブーメランパンツに蔓一本。

 キャシー
 今現在もオネェバー「かぐやひめん」の店長です。どうぞいつでも遠慮なく遊びに来てちょうだいね~ん。

 逆萩真人
 H.O.P.E.で事務員として奉仕活動の真っ最中。今日の門限は十時まで。奉仕活動が終わるのは四年程後。

 マニー・マミー
 イザベラの収監されている邸宅の前で付き人生活。他の元GLAIVE兵達は義肢の支援をリオ・ベルデから受け、それぞれ頑張って働いています。

解説

●やること
 『王』が倒れて六年後の今日を過ごす。場所は自由(自宅でのんびり過ごすもよし、依頼で戦っているもよし、その他もよし)

●その他
・「対象のNPCと交友関係を結んでいるorシナリオ内で面識がある」という条件下で、六年の間対象のNPCと連絡を取っていたor面会の機会があったということにしても構いません
・オネェバー「かぐやひめん」はNPC、英雄含め十人以上で貸し切り可能です
・NPC全員連絡を取ろうと思えば取れます&かぐやひめんに呼ぼうと思えば呼べます(ガイルは迷子ですがデランジェは迷子ではありません)
・NPCの設定は「とりあえずこういうことやってます」的な感じで書いたので、無理に構わなくても大丈夫です
・PC同士でご一緒する場合は打ち合わせして頂けるとありがたいです(相互の描写に矛盾などがあった場合はマスタリング対象です)
・プレイングの出し忘れ/英雄の変更忘れにご注意ください
・相談期間四日です。出発日にご注意ください
・能力者と英雄の台詞は「」『』などで区別して頂けるとありがたいです

リプレイ


「男親の地位が低いとは聞いていたが、家を追い出されるとは……」
『ユウ、貴方はキョウのような大人になっては駄目ですよ』
 御神 恭也(aa0127)が項垂れながら呟いたすぐその横で、不破 雫(aa0127hero002)はユウ……御神 勇吾(二~三歳児)にしかと言い聞かせていた。
 話は十分前に遡る。「家の大掃除を行うから勇吾を連れて出ていって」と言い渡され、恭也は愛息子ともどもぺいっと外に放り出された。
 お目付け役として雫が同行、時間を潰すために近所の公園で遊ばせることにし、途中出くわした友人と立ち話をしたりなんだりして今に至るの巻である。
「掃除をするなら俺が居たとしても問題は無いと思わんか?」
『はぁ……この前、何処から掃除を開始するかで夫婦喧嘩をしたのを忘れたのですか?』
「あれはあいつが悪い。風上の部屋から始めなければ、綺麗にし終えた部屋に他の部屋の埃が吹き込んでくるだろう」
『潔癖症では無いんですから、気にし過ぎです。大体、あの喧嘩でユウが大泣きして宥めるのに苦労したんですよ』
「むっ……それについては悪かったと反省しているが」
『結婚当初は即離婚かと考えてましたが、彼女との相性が良く人間味が出てきてのは良いですけどね。同時に弊害も出てきて……』
「昔の俺はそれほど人間味が無かったか?」
『あったら、昔の知り合いから別人扱いされません』
「それは相手の見る目が無いからじゃないのか? 勇吾をお前との子だと勘違いする程なんだからな」
『それだけユウが私に懐いているんですよ』
 なんだか、切ない。雫の言う通り非常に人間味にあふれた会話だと思うのに、聞いているといたたまれなさを感じるのは何故だろう。反論ができなくなった恭也は沈黙して再び項垂れ、勇吾は雫に視線を向け一生懸命小さな手を振る。
【しずくねえ~】
『はいはい、今行きますよユウ』
 雫はベンチから立ち上がり、勇吾のもとへと赴いて共にボールで遊び始めた。人見知りせずに誰にでも愛嬌を振り撒く勇吾は、今も雫を相手にしてとびきりの笑顔を咲かせている。
「こんな日常とは懸け離れた生活を送ると思っていたが……未来は解らんものだな」
 ベンチに座り、勇吾と雫が遊んでいるのを眺めながら恭也は微笑みを浮かべて呟く。ありふれた幸せは同時にかけがえのない幸せで、そのあたたかさ、愛おしさを噛み締めずにはいられない。
「願わくば、勇吾の行き先がこんな幸せに有り触れたもので有らんことを」
 てんてん、と恭也の足下にボールが転がってきた。顔を上げれば勇吾が恭也に手を振っている。妻に追い出されたとは言っても、せっかくの息子との時間。ベンチでひとりたそがれて無為に過ごすのはもったいない。
 恭也は立ち上がってボールを取り、勇吾と雫のもとへと歩いた。向けられる息子の笑顔に、恭也も優しい笑みで返す。


【やあっ! ていっ! うわっ!】
 という悲鳴と共に、夜城 海愛は盛大に砂の上に転がった。【もー、こんな所じゃ勝てないに決まってるのにっ】と抗議する海愛の前にしゃがみ、夜城 黒塚(aa4625)は海愛の……娘の髪をくしゃりと撫でる。
「敵がいつも此方の有利な場所で襲って来る訳ねぇだろ。自分の得手不得手を知れ。不得手な状況で勝ちを得る方法を学ぶんだよ」
【ぶーー】
『ういちゃんはもっと強くなるよ! 僕が保証する!』
【ほんと? エクトル兄が言うならがんばるねっ】
「……借りてきた猫かよ……」
【何か言った? 黒塚君】
 海愛は黒塚をじーと見つめ、黒塚は「いや、別に」と言った。現在海愛は足場の悪い砂浜で、エクトル(aa4625hero001)と共鳴した黒塚に立ち回りを指導されており、がむしゃらに動き回って疲労したところをあっさり一本取られたのだ。海愛はアメイジングとして覚醒しており敏捷性を得手とするが、砂浜や海辺では足を取られて思うように動けない。戦闘経験もまだ少なく、黒塚や英雄達に並び立つためにも、こうして日々修行に明け暮れているのだ。
【海愛はね、大きくなったらエクトル兄と結婚するんだ♪】
 娘の爆弾発言に、黒塚は口の中のパフェを危うく吹きかけた。特訓の後三人はオーシャンビューのカフェに入り、フルーツと生クリームたっぷりのパンケーキやパフェを頼んだ。全員甘味好きなので修行の疲れをのんびり癒そうとしたのだが、海愛のこの発言に黒塚の心はダメージを負った。
「おい……そこはまずお父さんを挙げるとこじゃねーのか」
【だって黒塚君はママのだし。パパはパパだもん】
『(……クロのこんな悲しそーな顔初めて見た……)』
 エクトルは心の中で思い、頭上に雨雲を召喚した黒塚を痛ましそうに見やった。海愛は六歳になったばかりで、黒塚の第二英雄でもある母親似で可愛いの化身(父親談)。ぬいぐるみを愛でる女の子らしい趣味の一方で、仁義を重んじ筋の通らないことを嫌う、真っ直ぐで男前な性分。第一子ということを差し引いても、目に入れても痛くないほど可愛い可愛い娘である。
 だがその娘は兄代わりのエクトルを慕っている。ぬいぐるみを愛でるのもエクトルの影響が大きい。
 黒塚はエクトルを見た。エクトルはぎくりとした。逃げるエクトル。追う黒塚。水平線には大きな夕陽が。

 賑やかで、戦いは続けども平穏で、大切な人との日々は永遠だと信じていた。
 エクトルが、次元の狭間に姿を消す、その日までは。


「M・A支部長ー! やっと会えたー!」
 雨宮 葵(aa4783)はM・Aの姿を認めると、「とうっ!」と大きく床を蹴ってM・A(の胸毛)に抱き付いた。
 仕事でこっちにくる度に支部には顔を出してたんだけど、支部長にはなかなか会えなくて! 忙しいのはわかるけど寂しい!
「お久しぶり! 胸毛の調子はどう?」
「絶好調だ! 存分に堪能してくれたまえ!」
 ではお言葉に甘えてと、葵は胸毛をもふもふした。ヤバみしか感じぬ字面だが、M・Aはベニコンゴウインコのワイルドブラッドで、ワイルドブラッド成分は胸毛に集約されている。つまりM・Aの胸毛はベニコンゴウインコの胸毛なのだ!
「今日も素晴らしいもふもふ! そして素晴らしい筋肉! 流石支部長衰えないなぁ!」
 目をきらきらさせながらいつも通り胸毛をもふもふもふもふ。インコのワイルドブラッド同士、英雄もブラックボックス同士ということでやたらと支部長になついている。
 それと優しく接してくれる支部長に「(こういう人がお父さんに欲しかったなぁ)」と密かに思っていたり。
「私も負けないように頑張らないとね!
 王を倒しても脅威がなくなったわけじゃないんだし、もっともっと強くなって皆が自由に幸せに生きれる世界を目指すんだ!」
「素晴らしい目標だな! トレーニングならいつでも協力させてもらうぞ!」
 M・Aはそう言うと葵の脇に手を入れて、宙へと高く持ち上げた。たかいたかいの年齢はとっくに卒業しているが、その視界の高さに、たかいたかいをしてくれるM・Aに、葵は心の底から楽しそうな笑みを見せる。

『エルエルちゃん!』
 一方、彩(aa4783hero002)はエルエルに飛び付きぎゅーっとしていた。M・Aとは系統が違うがエルエルもまたもふもふである。目をきらきらさせながら彩もエルエルをもふもふもふもふ。
『エルエルちゃんは強くなったかしら? 良かったらあおいちゃんでスキルの試し撃ちしてみない?』
「ねぇ今何で私やられそうになったの!?」
『だって暇だったのだもの。』
「頬膨らませて可愛い顔してもオッケーしないからね!? 暇で相棒をやろうとしないで!?」
 頬をぷくーさせた彩を、葵はばたばたと追いかけ回した。「彩は私をもっと大事にすべきじゃないかなぁ!!」とひととおり賑やかした後で、葵は打って変わって全開の笑顔をM・Aとエルエルへと向ける。
「ねぇ支部長! 時間があったらお茶でもしない? 休憩も必要でしょ?」
『お土産も買ってきてあるのよ!』
「これはおいしそうなお饅頭だ! それではギアナ支部特製のお茶は私が用意しよう!」
 かくしてアマゾンを眺めながらのお茶会が始まった。お茶でも飲みながらお菓子を食べて、近況を語り合って、そんな何気ないことが楽しいって思えるのが友達ってやつだね!


 迫間 央(aa1445)とマイヤ 迫間 サーア(aa1445hero001)が籍を入れて夫婦となり、六年の月日が経過した。
 央は相も変わらず役所とエージェントの二足の草鞋。
 そして結婚後も央とマイヤの間には、当事者達が抱いていた疑念のとおり、子供はできていなかった。
 マイヤは自分の身体に子供を生む機能がないことをよく知っていた。
 もし、子供が生まれていたら、今までのように常時、央について回るような体勢は組めなくなる。
 そのことも十分わかっていたので、一側面としては子供のできないことを安堵している部分もあった。

 それでもやっぱり、一緒に過ごす大切な時間を重ねるほどに、自分と央がこの世界に生きた証を残せない。
 次の時代に受け継ぐものが残せない、マイヤはそんな自分が不甲斐なかった。

 しかし、その日は突然訪れた。依頼を終え、共鳴を解いたマイヤは身体に違和を感じ倒れ込んだ。
 英雄になってから、一度もこんなことはなかった。
 いつだって戦いの痛みは央が全部受け止めてくれていたから。
 
 救急車で運び込まれた病院に、一晩入院して行われた一通りの精密検査。
 翌日、マイヤと央は、第一子を授かったことを医者から告げられた。

 記憶が無いなりに前の世界での自分の出自を考えれば、身体が『綺麗』なままであるはずがない。
 だが、この世界での、央の英雄としてのマイヤの身体は純潔を保っていた。
 結果だけ見てしまえば簡単なことで、子供を生む機能がないと思っていたのは、英雄としての自分の体が、まだ未熟だったが故のようだ。英雄としてこの世界に来て凡そ十年、マイヤの外見にやっと体の機能が追いついたというだけのことだった。

 それからは大変だった。
 今まで央にぴったりと寄り添っていた仕事の体勢を変えないといけない。
 でも、私が離れている間に央がリンカーとして戦わなければいけない時が来るかもしれない。
 そもそも身重で共鳴できるのか? 生まれた子供は私と一緒に幻想蝶に入れるのか?
 央のお義母様と相談して、央の職場に近い病院に通い、央が仕事の間はお義母様と一緒に過ごすように……。

 マイヤは膨らみはじめたお腹を撫でた。自分には叶わないと思っていた命の重み。あと少しで帰ってくる央の足音を待ちわびながら、マイヤは自分と央の生きた証に、これから物語を紡いでいく新たな命に手を添える。

「ただいま、マイヤ」
『おかえり、央』

 あぁ、これからまだ、私達の時間は続いていく。


『なんだあんた、今日休みか』
 沙治 栗花落(aa5521hero001)はひとり出掛けようとした途中、街中でばったりと偶然真人に出くわした。『ああ、道理で五十鈴が最近浮ついてるわけだ』とひとり得心し、警戒も遠慮もなく出くわしたばかりの真人に告げる。
『丁度良かった。暇なら五十鈴を迎えにいってくれるか』
「え?」
『俺はこれから行くとこあるから。それじゃあよろしく、逆萩』
 栗花落はそう言って手を振ると、さっさと歩いていってしまった。栗花落が真人をそう呼ぶのは、多分これが初めてだろう。
「いや突然、迎えに行けって……」
 真人はものすごくうろたえたが、実は真人は頼まれたら断れない性分である。もちろん無理難題なら即断るが、できない頼みではない。温羅 五十鈴(aa5521)からは度々連絡をもらっていたし……。
 まあ暇だし仕方ない、と結論付け、国際系の大学院生になった五十鈴のもとへと足を運んだ。一方、五十鈴は真人が迎えに来ると聞き、早くからそわそわしていた。もっともそわそわしていたのは、真人の休みが近いと聞いてからずっとだが(栗花落談)。
「真人さん!」
 真人の姿を捉えた直後、五十鈴は破顔しながら真人へと駆け寄った。二十三歳になった五十鈴はすっかり声を取り戻し、白銀色の髪は腰まで伸びたらしい。毎日遅くまで研究の日々で、今も、昔も、変わらず真人に好意的だ。
「アンタの英雄に押し付けられて、迎えに来ただけだから……」
 真人の減らず口は変わらずだが、五十鈴は慣れ親しんだように、にこにこと笑みだけ返した。未だ少し寒いので、途中で二人分の温かい珈琲を買って。苦いのはダメだからと、自分の分は甘いカフェラテ。
 それでも目に映る景色には春を感じる。今年もまた、春が来ましたねと呟いて、五十鈴は真人をすぐ横から覗き込む。
「今日はどんな一日でしたか?」
 今日は楽しかっただろうか。
 今日も、楽しかっただろうか。
 瞳の奥をじいと見て、にこりと笑って。真人は気恥ずかしそうに顔を背けて、それでも五十鈴の質問には素直に答えてくれる。
「普通の一日だったよ。アンタを迎えに行けって押し付けられたのはイレギュラーだったけど。あんま記憶ないんだけど、アンタの英雄あんな強引なヤツだったか?」
 その言葉に、五十鈴はおかしそうに笑みを零した。栗花落は現在二十五歳相当で、 変わらず五十鈴の英雄としてH.O.P.E.に在籍しているが、最近は何やら忙しくしている。理由は五十鈴も知らないのだそう。そう言えば六年前、栗花落に『お前は時折強引だよな』と言われたことがあったけど、真人の言葉を伝えてあげたらどんな反応をするのだろう。
 あと四年。
 四年経てば、真人はひとつの区切りがつく。
 それでも先は続いていく。
 だから、
「四年経ったら、真人さんに伝えたい言葉があります。聞いてくれますか?」
 自分の声でそう言って、いつかのように小指を立てて、真人からの返答を待つ。逆萩真人さんに、親愛と感謝を込めて。
 真人はあの時のように躊躇いがちに手を出した。その小指に指を絡ませ。
 
 さあ、未来をひとつ編もうか。


「さて、この辺だと聞いたが……」
『……む、むむむ……おかーさんレーダーに、反応あり』
 額に手を当て辺りを見回す麻生 遊夜(aa0452)のその横で、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)のおかーさんレーダー(アホ毛)がくるんくるんした。一年に一回、ガイルが出て行ってから恒例となった【NINJYAの足取りを追う会】が今年も発足! 周囲に聞き込みして活躍や成長を確認し、観光もしながら追跡・確保するのが目的である!
『……ごー! ざー! るー!!』
「おお、いたいた……相変わらずの精度だな」
 ユフォアリーヤがロケットのごとく発射され、そのままガイルの胴体にロケットのごとくダイブした。何年経っても変わらずガイルを逃がさないようにがっしりしがみ付いてスリスリしてるユフォアリーヤ、を眺めつつ、遊夜はデランジェに近付いて近況を報告し合う。
「こんにちは、今年はどうだい」
『こんにちは、サソリぐらいなら仕留められるようになったかしらん』
「ふむ、それがこれ……と」
 遊夜はサソリを一瞥し、ユフォアリーヤは『……ん、ふふ……強くなった?』とガイルをなでなで。ガイルは今回も真っ赤になってあたふたとしていたが、ようやくそこで小柄な影がひとつあることに気が付いた。
「そうそう、今回は夜々も連れてきたんだ。夜々、ほらご挨拶」
 遊夜が背を押し前に出すと、夜々はガイルとデランジェに向けて小さな頭をぺこりと下げた。
 夜々はユフォアリーヤの産んだ双子男女の片割れであり、ユフォアリーヤから人見知りをマイナスしてそのまま縮ませたような姿に、黒い戦闘服の無口・無表情なクールビューティ女児である!
 そしてユフォアリーヤに好みも似ている。行動することを戸惑わない、言葉より行動で示す娘なのでスキンシップ過多ですぞ!
 ……つまりガイルさんは標的認定されるであろう、お気に入り的な意味で。
 と遊夜は心の中で実況したが、当のガイル本人には一ミリも届いていなかった。「ヨロシクでござる!」と夜々の手を握ってぶんぶんするガイルの姿に、意味深な笑みを浮かべつつ遊夜はふと思いつく。
「ついでにどれだけ強くなったかの模擬戦でもしてみるか。お誂え向きに砂漠のど真ん中だし邪魔も入るまい」
『……ん、さぁござる……ボクに貴方の、成長を見せて?』
 遊夜もユフォアリーヤも狼群として子供達を率いて戦っている生涯現役。常在戦場の我らも子供らもまだまだ成長中なのだ。
 特に夜々は成長著しい子供達から選ばれた最精鋭である、お互いの成長の糧とならんことを!
「もちろん俺達とも戦ってもらうぞ。最高峰に世界一を狙っているのはガイルさんだけじゃないからな」
「リョウカイでござる。このガイル・アードレッド、全力でバトルするでござる!」
 それからしばらく銃声が砂漠に響き続けた。遊夜も夜々もガイルも扱う得物は銃である。もっとも、ジャックポットとシャドウルーカーの戦闘スタイルはかなり違うが。
「さぁ、どんどん行くぞ」
『……ん、ふふ……最強のNINJYAなら、避けてみせて』
 ユフォアリーヤのわくわくと共に遊夜が銃弾を撃ち放ち、ガイルは影渡で回避して遊夜に銃口を向けようとした。が、その横から夜々が狙い。
「だいぶいい動きになったんじゃねえか?」
「さすがにテゴワイでござる。しかしか、ミーも負けないでござるよ!」
 そして小一時間後。全員仰向けになって砂の上に寝そべっていた。やることは存分にやったので遊夜は次の用事を告げる。
「『かぐやひめん』に皆が集まるらしい。今回は参加者も多いらしいぞ?」
『……ん、懐かしい……顔触れ揃い、だね』
 クスクスとユフォアリーヤが笑みを漏らし、遊夜も悪戯っぽく口元を吊り上げた。当然一緒に行くことに。
 ガイルも砂から身を起こすと、大きな袋を背負って麻生家族の後を追った。背負ったその袋には「遭難者救助セット」の文字が。
「ところで、落ちていたこのフクロはいったいドナタのでござろう……?」


「お帰りー!」
 と突然現れた琥烏堂 晴久(aa5425)に真人はびくりと足を止めた。あの後五十鈴と別れ、現在の住まいであるH.O.P.E.の事務員寮に帰ってきたのだ。そして「迎えに来る」と言っていた晴久が現れた。なお晴久は可愛く美人に成長し、見た目は完全に女性である。現在は大学に行きつつエージェントもこなしており、度々真人との面会に訪れている。
『体調は……うん、悪くなさそうだ。少し背が伸びたか?』
 琥烏堂 為久(aa5425hero001)は真人の健康状態が良好なのを確認し、それから真人の荷物を持とうと手を差し出した。為久の方も六年分外見が成長し、学ランも卒業している。誓約が<兄になること>だからか、晴久が兄の、為久の歳を追い越すことはなかった。
「兄様は相変わらず真人さんに甘いよね」
「いやいいよ、大した荷物じゃないし」
 晴久は伸ばされた為久の手を眺めて呟き、真人は気恥ずかしそうな顔でぶっきらぼうに断った。そんな真人を正面からじっと見つめ、晴久はにこりと笑みを浮かべる。
「それじゃあ行こうか。行先は真人さんがこれから行く所なんだよ!」


「俺ちゃんの愛しの息子の千代ちゃんなんだぜ! 可愛いだろ~」
【虎噛千代なんだぞ! よろしくなんだぞ!】
 かぐやひめんを訪れた永平と花陣を真っ先に出迎えたのは、虎噛 千颯(aa0123)とその息子、虎噛 千代(十歳)だった。千代は千颯と同じ緑髪で、顔は母親似で可愛らしい男の子。身長は少し低め、話始めに【おー?】という癖があり、語尾には千颯の「だぜ」の代わりに【だぞ!】がつく。激甘で育ったので若干「あ」の字が付きかける。
「李永平だ、よろしく」
『こいつの英雄、花陣だ、よろしくな!』
 永平はきちんとしゃがんで千代の柔らかい髪を撫で、花陣も同じくしゃがんだ後、千代の手を握ってぶんぶんした。そこに髪を伸ばした女性が……二十一歳となった木陰 黎夜(aa0061)が歩み寄る。
「久しぶり。元気にしてた……?」
「驚いた。大きくなったな」
 破顔する永平に、黎夜も口元を緩めながら頷いた。黎夜は高校を卒業して社会人となり、エージェント業は継続中。もうお酒もたしなめる一人前のレディである。
『花陣チャーン!』
 と、シルミルテ(aa0340hero001)が気配を察し、花陣の胴に飛び込んだ。『んっフッフッフ♪』と怪しい笑みを漏らしながら花陣の胴を全力でぎゅうー。
『うさ耳、久しぶりだな』
『わーン、会いタかッター』
「ようやくみんな揃ったみたいね~ん。それじゃあ始めましょうか」
 シルミルテが花陣の胴に頭をぐりぐりしていると、かぐやひめんの店主、キャシーが変わらぬワガママバディで現れた。そして六年ぶりの、かぐやひめんでの同窓会が幕を開ける。


『飲み会があるって聞いて駆け付けた! やだーみんな元気にしてた?』
 Lady-X(aa4199hero002)はカクテルグラスを片手に持ち、かぐやひめんに集まった一同に声をかけて回った。なお参加はLady-Xのみで、能力者であるバルタサール・デル・レイ(aa4199)の姿はない。そのことは一先ずさておいて、Lady-Xはこの宴を楽しむことを優先させる。

 日暮仙寿(aa4519)は愛娘、日暮さくらと共に立ち、この店の女王であるキャシーと対峙していた。
 さくらは仙寿と不知火あけび(aa4519hero001)の子供であり、先天性アメイジングス。母方の祖母譲りの薄紫のロングに父譲りの金の瞳、舞い散る桜の様な儚げな雰囲気と暮れる日の様な強い意志の瞳を持つ、あけびに瓜二つの美人である。
「さくら、おにい……お姉さんにこんにちはだ」
 仙寿が今さくらと共にキャシーと対峙しているのは、さくらにキャシーへの挨拶をさせるためである。最近歩けるようになったばかりで、もちろん「こんにちは」はまだ言えないが、習慣として身に着けさせている最中。一瞬「おにい」と言いかけた件についてはすぐ言い直したのでセーフ。
 仙寿は先にお辞儀して見せ、さくらは仙寿の袖を引きつつ父と一緒にお辞儀した。幼いが礼儀正しい様に、キャシーがにこりと笑みを浮かべる。
「こんにちは、キャシーオネェさんよ~ん。きちんと挨拶できてえらいわね~ん。おいくつ?」
「四月一日で一歳に」
「そうなの~。仙寿ちゃんはますます立派になったわね~ん。仙寿ちゃんもさくらちゃんも楽しんでいってちょうだいね~ん」
 仙寿は「ありがとう」と言うに留め、「キャシーは見た目全然変わらないな……」の方は言わないことにした。一応女性(?)なのだから言ったら喜ぶかもしれないが、なんか……うん。
「さくら、他の人達にも挨拶に行こうか」
 第一関門は突破したので、そのまま友人達にも娘を紹介。ひととおり挨拶が終わったところで『私が預かるよ』とあけびがやってきた。大学を卒業後、仙寿とあけびは共にH.O.P.E.法務部に所属し、仙寿はいずれ法務部長にと目されている。
 あけびはさくらを抱えながら、妊娠中のまほらま(aa2289hero001)のもとへ行き、仙寿は晴久や為久、GーYA(aa2289)と乾杯することにした。それぞれにグラスを掲げ、「「「『乾杯』」」」とぶつけ合う。そして近況を聞きながら久しぶりの店の雰囲気を楽しむ。

 二十四歳になったGーYAは、H.O.P.E.異世界関係部署に所属し戦闘調査員として働いていた。まほらまが現在双子を身籠り、大事をとって休職していることもあり、後輩の指導、調査研究班で情報収集など共鳴しなくてもできる仕事をこなしている。
 今日かぐやひめんへ来たのはまほらまの息抜きも兼ねて。あとは真人を連れ出したかった、という理由もある。
『外出許可がでたらしいじゃない?』
「席を設けてある、祝いだ。付き合えよ」
 と真っ先に声をかけたのはこの二人です。
 とは言え真人が落ち着けるかという懸念はあったが、貸し切りにしてもらったし、色々な人に構われているようなので心配しなくて大丈夫だろう。(かぐやひめんを見た時にはすごい形相をしていたが)。
「今日は昔撮った色々を持ってきたんだ。これを肴に呑むとするか」
 言ってGーYAは過去の映像記録や写真やらを机に並べ始めた。日暮夫婦とは懇意にしているし、関わった皆とも連絡を取り合っているが、やはりこういう機会でもないとやれないことは結構多い。
「いいね! 一体どんなのがあるかなー」
 晴久がノリノリでいの一番に手を出した。仙寿と為久も微笑を漏らし、思い出の束に視線を向ける。


「キャシーちゃん! お願いだから払わせて!」
「エデンちゃんにだけからお金を貰うわけにはいかないわ~ん」
 プリンセス☆エデン(aa4913)とキャシーは押し問答を繰り広げていた。内容はこうである。エデンも他の皆と同じく同窓会に乗り気であり、マニーや元GLAIVE兵達や音弥にも声をかけた。そしてキャシーに「前はキャシーちゃん達のオゴリだったけど、今回は呼んだゲストの分はあたしが払うよ!」と申し出たのだ。しかしそれでは不公平になる、とキャシーが抗っているのである。
「お嬢様ですし! 人気アイドルですし! お願いだから払わせて!!!」
 エデンは英雄二人と組み、ライブアイドル(地下アイドル)として活動していたところ、運良く売れてメジャーデビューした。
 当初は楽器などはエアバンドで、作詞作曲は外注だったものの、英雄二人とも楽器を練習して演奏できるようになり、エデンも実体験を元にした曲作り(作詞のみ)をするようになった。
「ね、ね、お願い、あたしの顔を立てると思って!」
 キャシーはかなり真剣に悩んだ。今日もまたお代は取らず、キャシーがおごるつもりだったが、ここまで言われて無下にするのはエデンに対して失礼だ。しかしエデンだけから取るというのは……。
「わかったわん。それじゃあ半分、エデンちゃんのご好意に甘えることにしましょう。でも全額はいただけないわん。そこはオネェさんの顔を立てるということで」
 エデンは渋い顔をしたが、最終的には頷いた。そしてパッと気持ちを切り替え、さっそくマニーと元GLAIVE兵達と音弥のもとに走っていく。
「よっしそれじゃ飲もう! とりあえずみんな久しぶりー! 元気にしてたー? いまどうしてるのー? 老けたよね!」
「それよりエデン君! 今お金の話が聞こえたが!? そんな迷惑をかけるわけには……」
「あたしが好きでやるんだからいいの! もし申し訳ないとか思うなら、あたし達の曲を聞いてよ! ニューシングル絶賛発売中!」
 慌てる音弥をねじ伏せて、エデンは音弥のスマホを取り上げ、自分の曲を勝手にダウンロード。もちろんマニーと元GLAIVE兵達のスマホにも勝手にダウンロード。
 エデンはマニー、元GLAIVE兵達、真人、永平、キャシー、音弥等、関わりのあった者達とは頻繁に連絡を取ったり、会ったりしていたが、よく会ってる者もいれば六年ぶりの者もいる。なにより同窓会は今回がはじめてだ。
「細かいことはもういいの。それよりあたしもお酒が飲める年になったわけだし、今日は楽しむよ。かんぱーい!」


『すいません、うちのお嬢様が』
「Ezraちゃんに謝られるようなことなんてひとつもないわ~ん。お手伝いしてくれてどうもありがとね~ん」
 キャシーの返事にEzra(aa4913hero001)は控え目な笑みを返した。エデンには多少強気になったがそれ以外は何も変わらず、今日も今日とてかつてと変わらずなエデンの保護者(兄)であり、今はキャシーのお手伝いにとキッチンに入っている。
『あ、お嬢様、ちょっとテンションを抑え気味に!』
 と、ハイテンションのエデンを察し、『すいませんちょっと離脱します』とEzraは主のもとへと向かった。具体的には彼女とか結婚についてとかコイバナ質問責めが始まっている。
「お姉さん、ちょっといい……かな?」
 そこに黎夜が顔を出し、こっそりとキャシーに呼び掛けた。黎夜もEzraと同じく手伝うことがないか尋ねに来たのだが、もうひとつ用件があった。
「キャシーお姉さん。あのね……この前、アーテルからプロポーズされたの。
 それで、アーテルと結婚することになったんだ。婚姻届は、もう少し先だけど……」
 実は黎夜は三年程前から、英雄であるアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)とお付き合いをしていた。アーテルは現在三十歳で、喫茶店従業員の傍らで黎夜とエージェントを継続している。やや女性的な顔は変わらずだが短髪になっており、仕草も中身も口調も完全に男性のそれである。
 そんなアーテルと黎夜が交際できているのは、黎夜が男性恐怖症をほぼほぼ乗り越えることができたから。アーテルのプロポーズの言葉は『つぅと一緒に歳を重ねたい。つぅとの結婚指輪を買いに行きたいんだが、いいか?』。包み隠さず全てを報告した黎夜に、キャシーは微笑みながら太い右腕を差し出した。
「黎夜ちゃん、お姉さんと握手してくれるかしら?」
 黎夜とキャシーは友達だ。この六年間交流もずっと続いていた。しかしキャシーは一度たりとも、黎夜に触れようとはしなかった。「男」である自分が、男性恐怖症の黎夜に触れて大丈夫かわからなかったから。
 けれど今なら。黎夜はためらいなく手を差し出し、キャシーはそれを握り締める。力強く、けれど優しく。
「おめでとう、黎夜ちゃん」
「ありがとう、お姉さん」


「可愛いー! 初めましてー。ハルちゃんだよ」
 晴久は子供達を前にしてキラキラした瞳を向けた。為久も子供達に近付こうとしたのだが。
「兄様、面付けたまま顔近付けないで! 怖がるでしょ!」
 為久から珍しく『がーん』という音がした。面を外すか否か葛藤するが、外すわけにいかずちょっと凹みながら羨ましそうに見守ることに。
〔こんこん〕
 そこに天使……もとい為久を〔こんこん〕と呼んで微笑むさくらが現れた。あまりの天使っぷりに仙寿の手の中でスマホとカメラが作動する。だって天使がいるんだもん。何をかなぐり捨てても撮影に走るのは至極当然のことである。

「いやーベランダでキメ顔で『これからも、こっちには来ると思うからその時に、また飲もうぜ(キリッ)』とかしておいて、六年間音沙汰なしっていったいどういうことなのかな~? 流石の俺ちゃんもびっくりですよ?」
 その頃千颯は永平を捕まえここぞとばかりに絡んでいた。永平は「キリッはしてない」と思いつつ、若干バツが悪そうな顔で千颯に視線を向ける。
「……拗ねてるのか?」
「拗ねてないですけど? 永平ちゃん自惚れ~?」
 全力で否定しているが、当然若干拗ねている。 自分からは連絡しないくせして永平から連絡が来なかったことには若干拗ねている。
 千代は千颯と話す永平をしばらくの間眺めていたが、
【おー、お前が永平ちゃんなのかー?】
 と言った。そしてこう続けた。
【コマメに連絡しないとダメなんだぞ! パパいっつもさびしー言ってたんだぞ!】
「ちょっ!? 千代ちゃん!? パパそんなこと言ってないよ?」
【おー? 永平ちゃん会えなくてさびしー言ってたの嘘なのか? パパ嘘ついたのか?】
「うぐぅ……まさかの伏兵がここに……」
 千颯は項垂れた。だがそれは一瞬だった。次の瞬間には「あー!」と叫び、六年の恨みを叩きつける
「もう! そうだよ! 寂しかったよ。連絡の一つも寄越さないから拗ねてましたよ! 三十にもなって何言ってんだって笑いたければ笑えよ。俺からは……連絡ができないんだからよ……」
 息子の純真かつ真逆の発言と瞑らな瞳にはさすがに観念せざるを得ない。ようやく本音を吐露した千颯の頭に、永平は手を置いてポンポンした。
「笑わねえよ。約束したのに悪かったな。代わりに今日はとことん飲もうぜ」
 千颯は「永平ちゃーん」と永平の胸に飛び込んだ。永平はそのまま千颯の好きにさせてやろうと思った。が。
「だから、胸を揉むなっつってんだろうが!」

『真人殿、今日の門限は何時でござるか? 帰りは送るでござるよ』
「いや、今日は晴久と為久が送ってくれるそうだから」
 真人からの返事に白虎丸(aa0123hero001)は、『そうでござるか』と柔らかく返した。そこに千代もやってきて元気いっぱい両手を上げる。
【おー! 真人なんだぞ! 今度俺ともぶんつーしてなんだぞー!】
「まって? 何で千代ちゃんが真人ちゃんを知ってるの?」
 千代の口から出た真人の名前に千颯が瞬時に現れた。千代はまたもや瞑らな瞳で発言した。
【おー? がおーちゃんと一緒に会いに行ったんだぞ!】
 白虎丸は六年前の真人との面会の後、頻繁に真人に会いに行ったり文通をしたりしていた。千代も白虎丸に連れられて会いに行ってるので多少面識有り。
 だが千颯はその事実は知らない。
『今度は季節の葉書を送るでござるよ』
「だからさっき千代ちゃんを紹介した時、真人ちゃん『ああ』って反応そっけなかったのか! って白虎貴様ァァァッ!」
 千颯は白虎丸を追いかけ回し、白虎丸は華麗に回避した。真人は千代相手に呟く。
「お前の父ちゃんマジ騒がしいな」
【だぞー!】


『シルミルテちゃん、本当に久しぶりねん』
『元気そうでなによりだ』
『んっフッフッフ♪』
 かぐやひめんのわいわいさわぎに華麗に便乗したシルミルテは、デランジェと花陣を侍らせて両手に華を再度していた。
 もちろん他の人が話しかけたい気配を出したら自然にフェードアウトするが、少しでもスキができようものならうさ耳高らかに(以下省略)。
『アアーデランジェちゃんト花陣チャンのオヒザ~』
 若い女の子に絡むオジサンのような発言だが、大好きな桃色瞳同盟(勝手に命名)のお膝の前、もとい上では仕方がない。
 あぁしあわせ。うさ耳もとろける。二人のお膝をごろごろと堪能し、とってもごきげんなシルミルテであった。

「……なんだよ」
 真人は困ったような顔をして、自分をじーっと見つめているさくらへと視線を下ろした。たどたどしく近付いていくさくらを後ろから抱き上げて、あけびが笑顔で持ちかける。
『抱っこしてみる?』
「え?」
 そして次の瞬間には、あけびは強引に真人の腕にさくらを乗せていた。赤ちゃんは生後一年で七~十一kg程になる。突然のしかかった重みに真人の腕がずんと沈んだ。
「突然乗せるな……落としたらヤバいだろう……」
『ごめんごめん。でも落とさないよう頑張ってくれたんだね』
 あけびが嬉しそうに言うと「べ、別にそういうわけじゃ」と真人は言葉を濁した。さくらは手を伸ばして真人の頬をぺたぺた触る。
『真っ黒なおめめだねー。私ともパパとも違う目だから気になっているのかな?』
「アンタらの目の方がよっぽど珍しいと思うけど? カラフルな目が普通なんて、贅沢なお嬢様でちゅねー」
 減らず口は変わらずだが、真人の表情も口調も柔らかかった。そこにグラスと瓶を持って仙寿が歩み寄る。
「俺とあけびの気持ちは変わっていない。お前を見捨てる気は全くない」
『剣術道場の門下生も募集中だから! さくらも遊びたいみたいだし、何時でも来てよ』
「……ま、暇があったらな」
「成人祝いだ。酒を奢ろう」
 仙寿は瓶を持ち上げた。お代はいらないと言われたが、この酒の分だけはちゃんとキャシーに払うつもりだ。真人はさくらをあけびに返し、生意気な笑顔を仙寿に向ける。
「奢りだったら貰うとするか。それなりのものだろうな」
「ああ、もちろん」


『なんで今日はひとりかって? 実はバルちゃんと紫苑ちゃんねー、行方不明なのよー』
 Lady-Xは軽い調子で爆弾発言を投下した。説明しよう。王を倒した後もエージェントを続けていき、イントルージョナーや残った愚神を退治し続けたバルタサールと紫苑。
 そしてその報酬で旅と続けたLady-X。
 ある日、Lady-Xが長期旅行を終えて『ただいまー』と家に帰ると、そこには誰もいなかった。
 依頼で出掛けてるのかな? と思ったが、何日経っても、何ヵ月経っても、二人は帰ってこなかった。
『調べてみたらさー、なんかバルちゃんがずっと探してた愚神っぽいのが見つかったらしいんだよねー。
 依頼じゃなくて、バルちゃんと紫苑ちゃんが個人的に二人だけで、愚神のとこに行ったみたい。
 それから帰ってこないんだよねぇ……。

 ただ、あたし、消えないで存在が維持できてるからさ。どっかで二人とも生きてるのかなって。

 なんか一言、書き置きでも残してくれればいいのにね、冷たーい。連絡もないしさ。異世界でも行っちゃったのかな?

 情報が少なくて、場所がどこなのかわかんないから、お迎えにも行けないんだよねえ。

 いつ帰ってきてもいいように、あんまり遠方には旅行してなくてさ、けっこーヒマしてるんだよね。

 オネェバーって、オネェサンしか働けないの? 裏方とかで雇ってもらえないかな? バルちゃんに、老後まで面倒みてあげるって約束した手前、遊んでばっかじゃなくて、少しは生活力つけとかないとなー』
 ということを、キール・ロワイヤルを飲みながらLady-Xは軽い調子で言った。調子は軽いが言っていることは極めて重い。カクテルをまた一口喉に流し込んだ後、Lady-Xはキャシーから今度は真人に瞳を向けた。
『H.O.P.E.で事務員かー、あたしにジムとか無理だなあ~、H.O.P.E.に他になんかお仕事ないかな、センパイ!』
 社会でちゃんと働いて人の役に立ってる真人パイセン! という意味で頼ってみたが、「いや俺、仕事斡旋できるような立場じゃねえから」とあっけなく断られた。
「Lady-Xちゃんさえ良ければだけど、衣装とメイク係としてうちで働いてみる? お化粧も綺麗だし、服の選び方も上手だし、向いてると思うんだけど、どうかしらん?」
 キャシーはそう持ちかけて、Lady-Xは目を見開いた。そして二つ返事で頷いた。
『うんうん、それでいい!』
「それじゃあ詳しいことは後でお話しましょ。言っておくけどうちは厳しいわよ~ん。バルタサールちゃんが帰ってくるまで、簡単に辞めさせてはあげないからね~ん」
 それは「バルタサールが帰ってくるまで面倒は見る」という意味だ。Lady-Xはキャシーに思いっきり抱き付いた。
『ありがとう! これからよろしくね!』


『少し話しましょうか。二十歳の誕生日のこと覚えてる?』
 まほらまは真人をベランダに呼び、髪を掻き上げながらそう聞いた。真人の二十歳の誕生日、GーYAは面会に赴いた。真人は頷き、まほらまは続ける。
『真人には自分の感情を取り戻して欲しかったそうよ。嬉しい、楽しい、感謝、怒る、困る。そんな当たり前の感情がわからなくなるものなんだって。だから真人の心が死んだまま殺して欲しいなら、実行して次元の先へ行くつもりだった……馬鹿でしょ? でもそれがジーヤなのよ。そしてあなたは生きている。でなきゃお腹の赤ちゃんはここにいなかったかも。ほら、触ってみて』
 まほらまは膨らみ始めたお腹を真人に向けた。真人はためらったが、まほらまは真人の手を掴み、『ほら』とお腹を触らせた。あたたかく、とくんとくんと命の動きが伝わってくる。
『さ、戻りましょうか。あたし達の子が生まれたら、その時は一緒に遊んでくれると嬉しいわぁ』
 まほらまは笑顔で告げ、そして店内へ戻っていった。妊娠中は当然お酒はご法度なので、ジュースを飲んで子供達と遊ぶ。
『まほらま、さくらと遊んでくれるなら積み木遊びに付き合って貰ってもいいかな』
 言って手を合わせたあけびに、まほらまは『いいわよ』と笑顔で返した。積み木ではしゃぐ子供達を眺めながら、あけびは楽しそうに告げる。
『子供達は幼馴染になりそうだね』
『そうねぇ。これからもっと楽しくなりそうねぇ』
 まほらまも未来を想像し、楽しそうに応えるのだった。

「央達も来れれば良かったけどな」
 仙寿は今日来れなかった者達を想って言った。もっとも元気でやっているのは知っている。マイヤは現在休職中だが、相変わらず央と仲の良い様子はこの前見たし、「妻が美人だと気が気じゃないよな、お互い」と言うと央は深く頷いていた。
 GーYAは妻のまほらまを見る。GーYAも年齢よりは若く見えるが、まほらまの外見は十八歳のままである。つまり変わらず綺麗で可愛い。
 六年前に描いた未来をまほらまと二人で歩いている。これからも歩いていくだろう。もう少ししたら、今度は四人で。


『ちょっとよろしいですか』
 アーテルは永平とガイルが共にいるのを見計らって声をかけに行った。自分の近況報告をして、同時に相手の近況も聞く。
『今は黎夜の仕事の状況に合わせてエージェントの活動を続けていますが、そちらはどうですか? 士文さんもお元気でしょうか?』
「ああ、古龍幇も兄貴も変わらずだよ」
『俺達もほぼ変わりなく。変わったことといえば、今度結婚すると決定したこと、ですね』
 その言葉に、永平とガイルはまったく同時に目を見開いた。「「誰と!?」」という質問に、アーテルはにっこり答える。
『黎夜と』
「それは、オメデトウでござる!」
「そうか、まあ飲め」
 ガイルは拳を握って告げ、永平は瓶を持ち上げた。アーテルはグラスを差し出す。
『それじゃあ、いただきます』

 佐倉 樹(aa0340)はわいわいさわぎの隅っこで、さり気なくキャシーを手伝ったりしていたが、場が多少落ち着き、永平と花陣が空いたタイミングを見計らって二人に近付いた。
「やぁ、今ちょっと良い? 少しききたいことがあって」
 そして紙の束を取り出す。それは香港のアパートメントの資料だった。
「だいたいここまでは絞ったんだけど、この中だとどれがおすすめとか、逆に注意点とかある? コレ以外にもおすすめがあったら教えて欲しいのだけど」
「いや、香港のアパートって……こっち来るのか?」
 三、四つある資料から永平は顔を上げた。樹は「言ってなかったっけ?」みたいな表情でこう言った。
「あぁ、もうすぐそっちにちょっと行くからそれでだよ」
 たぶんまずはお試しで二~三年くらいで、シルミルテの希望と競合しないように。四年後は改めてお話し合いの予定である。
 というのは、永平に伝える必要はないので言わなかったが。
「花陣、物件の近くにおすすめのお店とかないかな? 古龍幇管理の良い物件を融通してもらえるならそっちにするけど。おすすめのカフェかなんかあったらそこで今度お茶しよう」
「ま、待て待て。お前そんな勝手に」
 永平は口を開いたが、樹は永平そっちのけで花陣と話を進めていく。そっちのけのくせに永平も一緒を大前提にして花陣と約束したりしている。
「言ったでしょう? 追いかけるって」
 樹は唐突に永平を向き、残っている左目を細め朗らかな笑顔でそう言った。そして花陣との話に戻り聞いたことを書き留めていく。永平はしばし絶句した後、盛大に肩を落とした。

『砂漠で迷った!?』
「よく無事に帰ってこれたな」
『遊夜ちゃんとユフォアリーヤちゃんが迎えに来てくれたのよん』
 仙寿とあけびはデランジェから迷子の話を聞いて驚き、ガイルはその件についてちょっとばかしへこんでいた。と、そこにシルミルテが現れ、うさ耳でガイルの頭をなでくり。
『ガんバッテるネ~。ガイルちゃんハ、きっトマダマだ大きクナレるネ!』
 今度は真人の方へ行き、六年前にも渡した資料(の更新版)を手渡した。毎年度毎に渡しているもので、福利厚生の内容は毎年上方修正されている。
『イツでも~お待ち~シテまスノデ~。マー、今日はともカクゆっくリシよーネ』
 そしてうさ耳で肩ぽんぽん。器用すぎるうさ耳だがツッコミを入れる余地がない。ユフォアリーヤはそれらを今まで黙って見ていたが、ついに我慢の限界の向こう側を越えたらしい。
『……ごー! ざー! るー!!』
 本日二度目のロケットダイブにガイルはあえなく押し潰された。遊夜はなじみ深くも久しぶりの光景にうんうんと頷いた。


 無月(aa1531)とジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)はとあるビルの屋上に立っていた。視線を下ろすとネオンで輝く「かぐやひめん」の看板が見える。
 二人は現在も人々を守るため、忍びとして戦い続けている。
 何度も絶体絶命の危機に陥ってきたが、何とか切り抜け、生きながらえている。
 
 任務が一段落したある日、修行に勤しむガイルを発見、こっそり見守ることにした。だが迷子になりそうになったので、こっそりと近くに「遭難者救助セット」と書かれた袋を置くことにした。ガイルが遊夜やユフォアリーヤと再会した時背負っていたのはこれである。なお中身はチョコレートや方位磁石、GPS付きスマホ、ライヴス通信機。ちなみに通信機に出た場合、ジェネッサが優しく楽しくナビをする手はずになっていた。
 デランジェがいれば大丈夫なのは解っているが、たまにはガイルが自力で困難を解決しなければ修行にならない、と無月達は思っている。デランジェは誰の仕業か気づいているかもしれないが、まあ修行になると思うし黙ってくれる(はず)とも思った。
『一応聞くけど、やっぱりみんなには会わないつもり?』
 ジェネッサの問い掛けに無月は静かに頷いた。マニー達とは、あの子達が戦いとは無縁の道を歩み始めてから会ってはいない。今や戦いに生きる無月達は彼らにとって交わってはいけない存在だと思っているため。無論、彼らの身に何か危険が迫れば駆けつけるだろう。……命があれば。
 真人についてはH.O.P.E.で会うことがあれば、声をかけ、話をし、相談事があれば聞く。ただし、会う回数は減らしている。理由はマニー達と同じ。彼が奉仕活動を終え、平穏な生活に戻った時、無月達の彼に対する役目は終わることになるのだろう。
 会えなくなるのは無論寂しい。だけど、それは彼らの生きる場所と道が出来たと言うことでもあり、祝福せずにはいられない。それは、無月達にとってもとても嬉しいことだから。
 永平に関しては。仲間や尊敬する人と元気そうにやっているようで何よりだ。願わくば、彼らの生活もいつまでも平穏でいられるように。
 ただ会うつもりはないが、その様子を少し見守りたくて、こうしてビルの屋上に立ち、二人でかぐやひめんを眺めている。

 今を懸命に、しかし優しさを忘れずに生きる彼らこそ、この世界の宝だ。
 私達と共に生きてくれたことに、限りない感謝の気持ちを。

「そろそろ行くか」
『うん、そうだね』
 無月とジェネッサは音もなく闇の中に溶けていった。命ある限り二人の在り方は変わらない。人々を守るため、今日も闇の中を渡る。


「これ美味しいね、お姉さん」
 黎夜はカル―アミルクを飲みほわほわとした笑顔を見せた。甘めのお酒が好きな黎夜のために、かつ然程強くないものをとキャシーが用意したのだ。黎夜はお酒は強めだがザルほどではなく、お酒の種類はまだあまりよくわからない。
「それは良かったわ~ん。でも美味しいからって飲み過ぎたらダメよん。成人して来てくれた時にも言ったけど、お酒とのお付き合いは慎重にね~ん。
 でも、楽しんでくれるなら嬉しいわん。今日はゆっくりしていって。ね?」
「……うん。いっぱい楽しむよ」

「李くん、香港旅行の打ち合わせしよ! 真人くん、H.O.P.E.のお仕事どう? 楽しい? やりがいある? 好きな子とかできた?」
『お、お嬢様、だからもう少しテンションを落として』
 エデンは永平と真人にハイテンションで突撃し、Ezraは例のごとくエデンの宥めに走っていた。「打ち合わせ」とか言っているが、香港&永平の所には一方的に押しかけるつもりだ。
「だって真人くんは門限あるんだよ? 間に合わせないといけないから聞けるうちに聞いとかないと! あ、キャシーちゃんコイバナしようコイバナ! 実はエズラがね」
『あー!!! お嬢様! その話はお待ちください!』
 エデンもEzraももう一人の英雄も各々恋人ができているが、そのまま能力者・英雄の関係を続け、エージェント&アイドル活動を続行して今に至る。
 エデンは恋多き乙女で、イケメン男子を取っ替え引っ替え。Ezraは恋人に主導権を握られている模様で、恋人に結婚を押しきられそうらしい。
「なんでよー別にいいじゃないー」
『お嬢様、報告なら自分でいたしますので……』
「絶対だよ。そうだファッションのお話も! そんで真人くん好きな子は? お話聞きたい! 教えて教えて!」
 質問攻めの標的にされ真人は「勘弁してくれ」と言った。Ezraは心の中で両手を合わせた。止めに入りたいところだが、我が身を思えば悩ましいところでもある。

『ところで、永平はそろそろ花陣が女の子だって気付いてあげてもいいわよねぇ』
 まほらまの言葉に周囲は一様に苦笑を漏らした。まほらまは当然飲んでいないが、皆それなりに酒は進んでいる。仙寿は酒に弱かったが、少しは飲めるようになった。
〔パパ、ママ〕
 と、さくらが抱っこをせがんできたので、仙寿は娘を抱き上げた。そこにあけびがそっと寄り添う。
『仙寿』
 もうどこにいても当たり前に、あけびは仙寿を名前だけで呼ぶ。この子が健やかであるようにと願いながら、今あるこの幸せを、妻と共に噛み締める。


「ああー楽しかった!」
 真人を寮に送りながら晴久は大きく伸びをした。晴久は酒に強いのでかなりの量を飲んでおり、為久は少し弱いのでそこそこの量に留めた。
「ねえ真人さんは楽しかった?」
「寄るな、酒臭い」
「そんなこと言わないでー」
 などと晴久は絡んでいたが、急に真面目な顔になった。そして肩を組んだまま真人の顔を覗き込む。
「ねえ、家族にならない?」
 真人が一人暮らしを望んでも、他の人と暮らすことになるのでも、何でも構わない。
 身元引き受け人に他の人を選ぶのも構わない。
 ただ友人よりも身近な存在にと望む。それゆえの問い掛けだった。
『遠慮なく頼って良いということだ』
「家族になると、なんと兄様の素顔も見れるんだよ!」
『まぁ、身内に隠す理由はないからな。弟が一人増えるくらい、どうってことないさ』
 為久も異論はなく、むしろ乗り気のようである。
「ちなみに家族になったら真人さんはボクの弟! なんか手のかかる弟って感じなんだよねー真人さん」
 その言葉に、真人は顔をくしゃりと歪ませた。笑顔のような、困ったような、泣きそうな、そんな顔だ。
「悪いけどイエスは言えねえぞ。こう見えて俺、結構モテるんだから」
「考えてくれるだけでいいよ。もちろんイエスを貰えたら嬉しいけどね」
『次はうちに来ると良い。案内するよ』
 晴久は笑顔で返し、為久は真人の頭をポンと軽く撫でた。 真人との面会にはまたすぐ来るつもりだ。
「またね!」
 別れ際、晴久は元気に手を振って、真人も不器用に振り返した。
 徐々に遠くなっていく影。しかし寂しくなることはない。またすぐに逢える。そのことを知っているから。


 あなたは六年後の今日を、どんな風に過ごしていますか。
 あなたはこれからの日々を、どんな風に生きていますか。
 別れは多くあるでしょう。
 けれどそれと同じように、新たな出逢いもあるでしょう。

 あなた達の物語が、これからも末永く続いていくことを、願っています。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • エターナル・ニクヤキマス
    Lady-Xaa4199hero002
    英雄|24才|女性|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • LinkBrave
    夜城 黒塚aa4625
    人間|26才|男性|攻撃
  • 感謝と笑顔を
    エクトルaa4625hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 桜色の鬼姫
    aa4783hero002
    英雄|21才|女性|ブラ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
  • 奪還屋
    琥烏堂 晴久aa5425
    人間|15才|?|命中
  • 思いは一つ
    琥烏堂 為久aa5425hero001
    英雄|18才|男性|ソフィ
  • 命の守り人
    温羅 五十鈴aa5521
    人間|15才|女性|生命
  • 絶望の檻を壊す者
    沙治 栗花落aa5521hero001
    英雄|17才|男性|ジャ
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